教育実習前後における技術専攻学生の授業観
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(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第67巻 第1号 Journal of Hokkaido University of Education(Education)Vol. 67, No.1. 平 成 28 年 8 月 August, 2016. 教育実習前後における技術専攻学生の授業観 小 泉 匡 弘 北海道教育大学旭川校 技術教育研究室. The perspective of technical education major students toward technology classes before and after teaching practicum KOIZUMI Tadahiro Department of Technology Education, Asahikawa campus, Hokkaido University of Education. 概 要 本研究は,技術専攻の教育実習生2名を対象に,彼らの教育実習前後の授業観について PAC(個人別態度構造)分析を用いて探ることから,大学の技術科教育に関する科目の学修 改善を検討したものである。その結果,教育実習前の教育実習生は主に教師の授業実践中のス キルに関する形式的・抽象的な概念を保持していたが,教育実習後にはこれらを実践的・具体 的な概念として転換していた。また,綿密な準備による安全確保,生徒個々の能力に応ずる授 業デザイン,時数及び時間のマネジメントなどに新たな価値を見出していた。これらから,今 後の技術科教育に関する科目では,実習室の環境整備,題材計画の立案及び教育課程の編成な どに関する学修が必要であると判断された。. 的なものだけではなく,教師観や授業観などと. 1.はじめに. いったいわゆる暗黙的なものまでもが学生の成長 1). 2015年7月に公示された中央教育審議会答申. に影響することが明らかになっている。例えば,. では, 「学び続ける教員像」の実現について述べ. 三島2)は教育実習生の教育実習前後の授業・教. られている。また,大学の教員養成に関する課題. 師・子どもイメージがどのように変容するかにつ. として,科目の精選,創設,内容改善を図ること. いて質問紙調査し,イメージの変容が子どもへの. が必要であるとしている。こういった教員養成の. 受容的態度などの教師としての力量形成へ寄与す. 学修改善に向けて,学生にとってどのような学修. ることを明らかにしている。また,山崎3)は,教. が必要であるか,また,学生自身がどのような内. 育実習生の理科授業観を比喩生成課題によって調. 容を期待しているかを検討することも必要だと考. 査し,教育実習生の教育実習後の授業構想と実践. える。. に関する視点の拡がりなどの教育的効果を確認し. 教員養成の研究では,指導案の作成などの明示. ている。. 277.
(3) 小 泉 匡 弘. 一方,教師の成長や授業実践においても,無意 識の思考や信念が大きく関連していることが指摘 4,5). されている. 6). 。山崎 は暗黙的なものとして授. 業観に着眼し,現職の理科教師のライフステージ に応じた授業観の変容と実践的指導力の形成との 関連を行動観察とインタビューから調査し知見を 得ている。他教科においても,教師の授業観と成 長の関係について研究が行われている。木原ら7) は,小学校教師のライフヒストリーにおける体育 授業観の変容と体育授業の力量形成について調査 し,授業観と力量形成の契機となる研修及び校内 8). 研究を明らかにしている。また,波多野 は,英 語科実習生及び英語教員の授業観を構成種主義的 な立場から捉え,先行研究から英語授業に影響す る要因を11の生物学的要因として整理している。 これらのように,科目別のイメージや授業観か ら学生および教師の成長を検討する必要もあると 考えられている9)が,これまで中学校技術・家庭 科技術分野(以下,技術科)の研究は進んでいな い。そこで本研究は,その一端として,技術専攻 学生の教育実習前後の授業観について着目し,学. 表1 PAC分析の実施手順 1)刺激文を与える _は教育実習前,( )は教育実習後 あなたはマイクロティーチングや模擬授業(技術科の授業) を行って,どのようなことを感じたり考えたりしましたか?教 育実習では(今後教師として),どのような技術科の授業を行い たいですか?また授業を行う際,どのようなことを心がけたり 工夫したりしますか? 頭に浮かんできたイメージや言葉を思い浮かんだ順にカード に1枚に1項目ずつ記入してください。 2) 刺激文に対して,連想した言葉を1語ずつ1枚のカードに 書かせる 連想した順に,カード1枚に1項目ずつ書かせる。 3)カードを重要な順に並べ替えさせる 連想順になっている2)のカードを重要順に並べ替えさせる。 4)各カードのイメージの近さを7段階で評定させる 連想された各カードのペアについて,「1.非常に近い」から 「7.非常に遠い」までの7段階で類似度を評定させる。 5)非類似度距離行列をクラスター分析する 対象者が休憩している間に,調査者は4)で作成された非類 似度距離行列からクラスター分析を行い,デンドログラムを析 出する。 6)デンドログラムに基づいてインタビューを実施する デンドログラムを見ながらインタビューを行う。調査者が質 問をしながら,対象者に各クラスターがまとまりだと思う理由, クラスターのイメージ,クラスター間の関連,デンドログラム 全体の構造について説明させる。 7)各連想項目のイメージを評価させる 各連想項目のイメージを直感的にプラス(+),マイナス(-) , どちらともいえない(0)のいずれかに評価させる。 8)調査者が総合的解釈を行う. 表2 教育実習前における学生Aの連想項目 重要度. 項 目. 連想順 イメージ. 生の成長にとって必要であろう学修内容を実習前. ①. やりがいがある. 2. +. ②. 6. +. 後の授業観の変容から検討する。これが今後の技. 技術の授業が一番好きと言ってくれる 授業. ③. 楽しい. 4. +. 術科教育に関する科目の学修改善への示唆を与え. ④. 11. 0. るものと考える。なお,本研究では,授業観を山. 指導要領の大切さ,指導要領あっての 授業. ⑤. 生きる力を育てるため多くの経験をさ せてあげる. 10. +. ⑥. 説明で 「なるほど」 と生徒に思わせる工夫. 8. +. ⑦. 内容がしっかりと筋道が通っている. 5. +. ⑧. 座学でも技術的な体験を必ず入れる. 9. +. ⑨. 座学だけではなく体験的に動きのある 授業. 7. +. ⑩. 難しい. 1. -. ⑪. 不安. 2. -. 崎6)の定義の1つである「どのような授業を価値 ある授業だと考えどのような授業の構想と実践を 目指しているか」に依拠し検討を進める。. 2.調査方法 調査対象者は,技術科を専攻する3年次の学生 AとBの2名である。 調査方法は,PAC(Personal. 表3 教育実習前における学生Aの非類似度評定 重要度. ①. ②. ③. ④. ⑤. ⑥. ⑦. ⑧. ⑨. Attitude Construct: 個 人 別 態 度 構 造 ) 分 析 に. ②. 1. よって行った。PAC分析は,対象者の経験した. ③. 2. 1. ④. 4. 4. 4. ⑤. 3. 2. 2. 3. ⑥. 2. 3. 3. 4. 4. ⑦. 4. 3. 3. 1. 4. 1. ⑧. 3. 3. 1. 3. 2. 3. 3. ⑨. 3. 3. 1. 3. 2. 3. 3. 1. ⑩. 4. 5. 7. 4. 4. 6. 6. 7. 6. ⑪. 4. 6. 7. 4. 5. 7. 7. 7. 7. エピソードから連想するイメージを共感的に理解 しながら対象者自身の意識していない事象を引き 出すことができる。そのため,対象者の自己解釈 のサポートになると考え,本研究の方法として PAC分析を採用した。調査方法の手順を表1に. 278. ⑩. ①. 3. ⑪.
(4) 教育実習前後における技術専攻学生の授業観. 示す。手順の1つに含まれるクラスター分析は,. と思う 」と答えた。学生Aは,クラスター2を教. MULCEL(エクセルアドインソフト)を用いて,. 師の生徒とのコミュニケーションに関する能力と. Ward法によって行った。調査は,教育実習前と. して考えている。よって,クラスター2を〈コミュ. 教育実習後の2回行い,各時期に学生が抱いてい. ニケーション能力〉と命名する。クラスター3に. る授業観を明らかにした上,教育実習前後の結果. 関して,「マイクロティーチングで座学中心の内. を提示しながら教育実習経験や教育実習前後の学. 容を行ったとき,自分は実験や実物を用意した。. 修に関してインタビューした。なお,調査にあたっ. それは,技術科は何か体験できるのがいい所だし,. ては,北海道教育大学研究倫理委員会による承認. これが楽しさにつながると思うし。技術は経験の. を受け,調査対象者に研究の目的と趣旨について. 中から学んでほしいという思いがある 」と述べた。. 文書で説明し承諾を得た。. 学生Aは,知識理解に関する授業において,教材 の工夫による体験的な学びを重視している。よっ. 3.結果及び考察. て,クラスター3を〈教材による体験的な学び〉 とする。クラスター4に関して,学生Aはクラス. 3-1 学生Aの授業観. ター3と近いけれどもあえて分けたと述べた上. 3-1-1 教育実習前. で,「楽しさだけじゃなくて自分で工夫すること. 教育実習前における学生Aの教育実習前におけ. が大事。生徒が自分で工夫しながら学習して,将. る連想項目(表2),非類似度評定(表3)及び. 来何か課題があった時に工夫しながら解決しなけ. デンドログラム(図1)を示す。これらを学生A. ればならないから,そのための力につなげたいと. に提示し,デンドログラムを基にした調査者の思. 思う 」と回答した。学生Aは,クラスター3にあ. 案的なクラスター構造の解釈を学生に伝え,これ. る楽しいだけではなく,生徒の問題解決能力を重. が学生のイメージと異なる場合は学生のイメージ. 視していると考えられる。よって,クラスター4. に沿ってクラスターを変更し,各クラスターとク. を〈問題解決能力の育成〉と命名する。クラスター. ラスターのつながりに関するインタビューを通し. 5に関して,「ただ授業をどうやってやるかは自. て総合的に解釈した。. 分なりに考えればそれなりになるけど,それだけ. 学生Aは,クラスター1に関して,「自分が一. だと内容が薄い。大もとのことをしっかりと理解. 番先生になりたいっていう理由かな。マイクロ. しないで授業を考えても授業内容が薄くなってし. ティーチングをしたとき,はじめは難しいな・不. まう。逆に大元を理解しても具体的にどうやって. 安だなって思ったけど,何度かやっていくうちに. 授業するかを考えないと生徒にとってはあやふや. 生徒役の人が納得してくれるときがあって,こう. な授業になる。両方をしっかりと考えて授業をす. いうことができるとすごくやりがいを感じると. ることで,自分の財産になると思う 」と述べた。. 思った。将来先生になった時に,生徒に技術が一. 学生Aは,学習指導要領等の教科内容と授業展開. 番楽しいって言われると,教師として一番うれし. 等の授業方法の両方について熟慮することが豊か. いと思う。そのために,自分自身もずっと学び続. な学びのある授業になると考えている。よって,. けようと思える 」と述べた。学生Aは,技術科が. クラスター5を〈内容と方法の有機的な関連〉と. 生徒にとって楽しいものであり,生徒が納得しな. する。クラスター6に関して,「授業をすること. がら学べる授業を展開したいと考えている。よっ. に対して難しいとか不安とかを感じることって悪. て,クラスター1を〈楽しさと学びの実感〉と命. いことではないかなって。でもそれを生徒に感じ. 名する。クラスター2に関して,「クラスター1. させてはいけないから,それをなくす為に教科に. と近いかもしれないけど,クラスター2は先生の. 対する自分の関心を高めて勉強することと,授業. コミュニケーション能力とか技量に関わることか. をした時のやりがいは関係がある 」と述べた。学 279.
(5) 小 泉 匡 弘 14 <. 12 <. < <. <. <. 10 8 6 >. >. クラスター2. クラスター3. クラスター4. >. >. クラスター1. >. >. 4. クラスター6. クラスター5. 2 0 1. 2. 6. 3. 8. や り が い が あ る. れ技 る術 の 時 間 が 一 番 好 き と 言 っ て く. 説 明 で. 楽 し い. 座 学 で も 技 術 的 な 体 験 を 必 ず 入 れ る. な る ほ ど と 思 わ せ る. 9. 5. あ座 る学 だ け で は な く 体 験 的 に 動 き の. を生 さ き せる る力 を 育 て る た め 多 く の 経 験. 4 の 授 業 0. 指 導 要 領 の 大 切 さ 指 導 要 領 あ っ て. 7. 10. 11. 内 容 が し っ か り と 筋 道 が 通 っ て い る. 難 し い. 不 安. 図1 教育実習前における学生Aのデンドログラム. 生Aは,授業への責任から授業への不安や難しさ. 「実習中感じたのは,技術を生徒がとても楽しみ. を感じたが,これが原動力となって生徒が安心し. にしている。僕たちが中学生の時よりも社会的に. て学ぶことができる授業準備につながると考えて. 技術が進歩しているので特に今の技術ってすごく. いる。よって,クラスター6を〈安心して学べる. 楽しいのかなって。木材加工や生物育成,エネル. 環境〉と命名する。. ギー変換など,どの内容も生徒が楽しそうだし,. 学生Aは,これらのクラスター構造を〈コミュ. プログラムによる制御も難しそうだけど一生懸命. ニケーション〉が起因し〈楽しさと学びの実感〉. に学習していた。技術は生活に直結するなって改. を達成することができるとし, 〈教材による体験. めて思った。指導教員からは,生徒の失敗を大事. 的な学び〉及び〈問題解決学習〉の両方を実現す. にして授業を考えなさいってとにかく言われてそ. ることによって生徒の生きる力が育成されると考. のほうができた時わかった時に達成感を味わえ. えている。そして,これらの実践には〈内容と方. る。あと,学習内容の説明は教科書を読んでもつ. 法の有機的な関連〉が欠かせないとし,こういっ. まらないので,先生自身の経験談を伝えると生徒. た授業成立の土台として〈安心して学べる環境〉. が納得するなって。教育実習で技術は生活に役に. が必要だと考えている。. 立つからは楽しいし,生徒はとても学びたがって いることを実感した 」と述べた。学生Aは,教育. 3-1-2 教育実習後. 実習を通して技術科の内容が現代の中学生の生活. 教育実習後における学生Aのデンドログラムを. に密接に関わっており,生徒の技術科の授業への. 図2に示す。学生Aは,クラスター1に関して,. 期待が大きいことを実感した。その期待に応える. 280.
(6) 教育実習前後における技術専攻学生の授業観. <. 18. <. < <. 16. <. 14 12 10. >. 8. >. >. >. 4. クラスター1. クラスター2. >. 6. クラスター3. クラスター4. クラスター5. 2 0 1. 2. 6. 7. 4. 5. 8. 9. 3. 10. 11. 12. 図2 教育実習後における学生Aのデンドログラム. ため,生徒の失敗や教師の経験に基づいた内容構. けど,わかんないとどうしてできないんだ?って. 成が重要だと考えている。よって,クラスター1. 考えるんですよ。どうしてできないかを聞くと生. を〈生徒の生活に文脈づいた学習〉と命名する。. 徒から色々な意見がでて面白い。生活で困ったこ. クラスター2に関して, 「説明は技術特有のキー. と や で き な い こ と が あ っ た 時, ど う し て だ ろ. ワードと安全面についてしっかりと伝え,できる. う?って考えることが今後の人生に生かされるか. だけ簡単にする。指導教員からは生徒が実践しな. なって 」と述べた。学生Aは,生徒が問題を解決. きゃわからないから実践することを大事にしなさ. するために思考することが生徒の生活に生かされ. いって言われて。導入をシンプルにして活動を長. ると考えており,このためには学習における失敗. くすることが大事。説明が長くなってしまう内容. 経験が重要だとしている。よって,クラスター3. でも,実物を触らせたり比較実験したりすること. を〈失敗経験を基にした思考〉とする。クラスター. で生徒の食いつきが全然ちがう 」と述べた。学生. 4に関して,「安全第一は常に大事でそのために. Aは,導入段階での説明の仕方や教材によって生. 準備がとにかく大事。一日3時間違う内容の授業. 徒の関心を高め,活動時間を充実させることが重. があるとき,全部ちがう準備が必要になるのでと. 要だと考えている。よって,クラスター2を〈導. ても大変だった。どの教科もそうかもしれないけ. 入の工夫による関心の高まり〉とする。クラスター. ど,特に技術の授業は準備で決まるから,指導教. 3に関して, 「失敗させることが考えながら作業. 員からも時間が許す限り授業の準備に時間をかけ. することにつながるというか。最初から教えてし. なさいって言われた 」と述べた。学生Aは,技術. まうと言われた通りやればいいんでしょってなる. 科はまず安全の確保が重要であり,そのために可. 281.
(7) 小 泉 匡 弘. 能な限り授業への準備を万端にすることを心がけ. にとって面白さを感じることができない授業だっ. ている。よって,クラスター4を〈授業準備によ. たなって。授業のはじめから最後まで生徒が興味. る安全確保〉とする。クラスター5に関して, 「教. を持って授業を受けないと学習したことが後に残. 育実習では技術の時数を普段より多くしてくれた. らないと思う 」と述べた。教科教育に関する講義. けど,やっぱり時数が少ないなって改めて思った。. やゼミ活動の中で行った授業経験から,生徒の関. 生徒は楽しみにしているのでもっと時数があって. 心をひきつけ面白みのある授業を行うことの必要. いいな。技術は活動も多いので,授業時間も良く. 性を実感している。よって,クラスター1を〈生. 考えないといけない。時数や時間はしょうがない. 徒の関心意欲の喚起・維持〉と命名する。クラス. ことだけど 」と述べた。学生Aは,授業時数と1. ター2に関して,「自分は,声が低くて暗くてさ. 単位時間の授業時間の少なさを実感し,題材計画. らにどもることも多くて,それによって生徒を不. や時間配分の重要さに気づいている。よって,ク. 安にさせたり,つまらなそうにしたりしてしまっ. ラスター5を〈時数と時間のマネジメント〉とす. た。ゼミのときも,授業が暗いと後輩から指摘さ. る。. れた。話し方を普段から気をつけようと思う 」と. 学生Aは,クラスターのつながりを〈生徒の生. 述べた。クラスター2についてもこれまでの経験. 活に文脈づいた学習〉,〈導入の工夫による関心の. から,自分の話し方や伝え方が要因となって授業. 高まり〉及び〈失敗経験を基にした思考〉が生徒. の雰囲気を暗くしてしまったことを語っており,. の学ぶ楽しさと学びの転用にとって重要だとし,. 授業において教師の明るく端的な話し方が重要だ. 一方, 〈授業準備による安全確保〉及び〈時数と. と考えている。よって,クラスター2を〈教師の. 時間のマネジメント〉から,授業時数と時間に関. 明快な話し方〉とする。クラスター3に関して,. するリスクが存在する中で安全面に細心の注意を. 「模擬授業で教具として写真を用意したけど,結. 払いながら授業準備を進めることが技術科教師と. 局,写真と技術をうまく結びつけることができな. しての力量の大きな要因だと認識している。これ. かった。友達の模擬授業で手作りの電気回路セッ. らの達成による生徒が期待する楽しくて生活に役. トを機器の保守点検と結び付けていたとき,生徒. 立つ技術の授業を目指している。また,学生Aは. 役の学生も興味を持って取り組んでいて,生徒の. 教育実習前後のデンドログラムを見比べ, 「実習. 生活に即した手作りの教材を用意することが大事. 前のクラスター1とクラスター6は漠然としてい. だなって思った 」と述べた。学生Bは,自分と友. る。クラスター2は授業者として当たり前のこと。. 人の模擬授業の経験から,教材が生徒の生活に文. クラスター3と4は実践してみてやっぱり技術に. 脈づいていることの大切さを認識している。よっ. は大事だなと。クラスター5は当然のこと。今見. て,クラスター3を〈生活に文脈づいた教材〉と. るとクラスター2とクラスター5は特にだけど全. する。クラスター4に関して,「自分の中で定義. 体的に当たり前だろって思う。あと,教育実習を. があいまいな言葉,例えばマイクロティーチング. 経験してやっぱり授業は生徒のことを知らないと. で扱った“技術”についても“技術”の定義を伝. できないなって思った 」と述べた。. えるのって難しいなって。他にも例えば,“エネ ルギー”とか“情報”とかも。こういう言葉につ. 3-2 学生Bの授業観. いて生徒が理解するには,自分が10知っていて,. 3-2-1 教育実習前. やっと生徒に1伝わるのかな 」と述べた。技術科. 教育実習前における学生Bのデンドログラムを. の授業では,技術特有の言葉が多く出現するため,. 図3に示す。. 学生Bはこれらに関する教師自身の知識や定義づ. 学生Bは,クラスター1に関して,「マイクロ. けが,生徒の知識理解にとって重要だと考えてい. ティーチングや模擬授業での自分の授業は,生徒. る。よって,クラスター4を〈技術科特有言語の. 282.
(8) 教育実習前後における技術専攻学生の授業観. < <. 18. <. <. 16 <. <. 14 12 10. >. >. クラスター1. 6. クラスター3. クラスター5 クラスター6. クラスター4. クラスター2. 4. >. >. >. >. 8. 2 0 1. 2. 11. 12. 14. 15. 6. 7. 8. 3. 4. 17 1. 18. 10. 13. 16 1. 5. 9. 10. 図3 教育実習前における学生Bのデンドログラム. 明確化〉とする。クラスター5について,「最初. を促進または補うとし,一方,〈技術科特有言語. のマイクロティーチングでは時間に合った内容構. の明確化〉が達成されることにより〈生活に文脈. 成がわからなくて上手くいかなった。授業計画を. づいた教材〉を実現できると考えている。これら. 一度立ててから,授業が教師本位の押し付けの授. を活性化するのに〈生徒主体となる授業展開〉が. 業になっていないか何度も計画を見直さないと,. 重要であり,実践するには〈わかりやすい板書〉. 生徒にとってつまらない授業になってしまう危険. のような技能が必要になると考えている。そして,. 性のあることがわかった 」と述べた。学生Bは,. 技術科の授業に対して,楽しいことを前提として. 自身のマイクロティーチングから学習内容が多く. 生徒の生活に役立つ多くのことを身につけること. ても教師主導の展開だけでは生徒に定着しないこ. ができるというイメージを抱いていた。. とを経験しており,学習内容と教育方法について 何度も吟味することが大切だとしている。よって,. 3-2-2 教育実習後. クラスター5を〈生徒主体となる授業展開〉とす. 教育実習後における学生Bのデンドログラムを. る。クラスター6に関して,「これは本当に個人. 図4に示す。学生Bはクラスター1について, 「授. 的なことで,漢字も含めて板書が苦手だから,しっ. 業スキルや授業の運び方が重要だなって,その中. かりできるようにしたいと思う 」と述べた。よっ. に時間配分とか技能が関わってくる。教育実習で. て, クラスター6を〈わかりやすい板書〉とする。. はラジオ製作の時間に学習内容が早く終わってし. 学生Bは,クラスターのつながりを〈教師の明. まったり,木材加工で生徒の印象に残るような見. 快な話し方〉が〈生徒の関心意欲の喚起・維持〉. 本が示せなかったり。教師が発問したり実際に加 283.
(9) 小 泉 匡 弘. <. <. <. 16. <. <. <. <. 14 12 10 8. >. >. >. >. >. 6. >. クラスター3. クラスター5. >. クラスター1. 4. クラスター6. クラスター7. クラスター4. クラスター2. 2 0 1. 2. 8. 12. 3. 6. 5. 10. 4. 11. 9. 14. 16. 15. 7. 13. 図4 教育実習後における学生Bのデンドログラム. 工法を示したりしながら,その時々で時間を調整. 上手くできないことが多くて。生徒全員に対して. するには,教師自身の教科や授業に関するスキル. すげーっていうデモは示せなくて。上手いデモを. が大事だなって 」と述べた。学生Bは,教育実習. するにはもっと知識も大事だなって 」と述べた。. 中の失敗経験を振り返り,授業をしながら時間を. 学生Bは,生徒にあこがれを抱かせるような見本. 調整するための教師の教科と授業に関する高い技. を示すことも技術科教師としての力量の大きな要. 能が必要だと考えている。よって,クラスター1. 因の1つだと考えている。よって,クラスター3. を〈教師の技能による即時的時間調整〉と命名す. を〈生徒の意欲を喚起する実演〉とする。クラス. る。クラスター2に関して,「教育実習後に友人. ター4に関して,「グループ学習やペアワークを. が話していたことで,〈できた・わかった・参加. している時,一部の生徒だけがやっているという. した〉の3つが大事だって言っていて。その〈参. 状況はだめだとわかってはいたけど,実際には上. 加した〉が生徒の達成感に関わってくると。生徒. 手くいかないことが多くて。自分に余裕があれば,. の参加のさせ方も教師の技能に関係するなって思. クラス全体を見ながら個々へ声かけができたなっ. う 」と述べた。学生Bは,友人との談話から生徒. て。あと,全体への指示や発問も上手くできれば. の参加が学びの達成感にとって大事だと認識して. 全員が作業したり考えたりできたと思う 」と述べ. いる。よって, クラスター2を〈コミュニケーショ. た。学生Bは,グループやペアによる協同的な学. ンを通した達成感〉とする。クラスター3に関し. 習を試みたが,クラス全体と個々に対するつなが. て, 「技術の教師は,やっぱりデモンストレーショ. りを維持しながら授業を進めることができなかっ. ンが核になるなって思った。自分はそういう面で. た経験から,教師の発問と状況把握による全員の. 284.
(10) 教育実習前後における技術専攻学生の授業観. 学びを保障した協同的な学習を実現したいと考え. えている。そして,これらの達成が技術科教師と. ている。よって,クラスター4を〈協同学習にお. しての役割であると述べ,実現のためには授業づ. ける個々の学び保障〉とする。クラスター5に関. くりの段階で〈生徒個々の能力に応ずる授業デザ. して, 「カンナの授業の時にけがをさせてしまっ. イン〉を探究しようとする姿勢が土台になるとし. て。こばけずりの時に,材料を押さえている手の. た。最後に,教育実習前後のデンドログラムを比. 親指にカンナの刃があたって出血して,自分もあ. 較し,「教育実習前の話し方や板書は,教育実習. たふたしてしまった。安全面も含めた技能の定着. 後の項目1に全て含まれているから,授業におけ. をしっかりと把握しないとだめだなって 」と述べ. る一要素に過ぎないっていう感じ。教育実習後の. た。学生Bは失敗経験から,安全面への配慮も含. 方が授業に必要な色んなことがわかっている気が. めた工具の使用法に関して指導することの重要性. する。技術科は実習が多いから,導入の説明・発. に気づいている。よって,クラスター5を〈生徒. 問・デモがすごく大事で,実習前はそれの大事さ. の技能定着による安全確保〉とする。クラスター. がわかっていなかった。実習前に授業を想定した. 6に関して, 「教科書に載っていないような技術. 技能の復習とかができる直接技術科に関係する授. に関する話をもっとできたほうがいいなって。あ. 業がもっとあればいいなって。まあ,もっと自分. と,同じ話の内容でも面白い話し方ってあるから,. でやることも必要だと思うけど。あと,研究授業. もっと僕は面白い話の仕方ができるようになりた. などの用意された授業を参観するだけじゃなく. いと思った。ちょっとした体験的なことができる. て,普段の授業を見たり,できればTTみたいな. ことも大事だな。こういったことが生徒の関心を. 形で参加できたりする機会があればいいなって思. ひくと思う 」と述べた。学習内容に関連する話題,. う 」と述べた。. 教師の話し方及び体験的な学習が生徒の関心に影 響すると考えている。よって,クラスター6を〈生 徒の関心を高める話題・教材提供〉とする。クラ. 4.総合考察. スター7に関して, 「授業準備の大事さっていう. 学生Aの教育実習前のデンドログラム(図1). のが身にしみて感じて,準備の内容が深ければ深. は,クラスター1及び2で構成される多くのコ. いほど生徒にとってわかりやすく楽しい授業がで. ミュニケーションを通し生徒が学びのやりがいを. きるんだって。ワークシート1つでも生徒が考え. 実感するという,すなわち情意面に重きを置いて. そうなことどれだけ想定して作成するかによっ. いる。また,クラスター3の体験的な学習を通し. て,生徒の理解度がぜんぜん違う 」と述べた。生. た楽しさが加えられる。一方,クラスター4及び. 徒の能力に関するあらゆる想定を行った授業デザ. 5といった生徒の現在ひいては将来の生活の核と. インが生徒の理解に大きく影響すると実感してい. なる問題解決能力の育成に価値を見出している。. る。よって,クラスター7を〈生徒の能力に即し. そして,これら実現の前提としてクラスター6を. た授業デザイン〉とする。. 重視している。教育実習後のデンドログラム(図. 学生Bは,クラスターのつながりを〈コミュニ. 2)では,クラスター1に教育実習前の情意面と. ケーションを通した達成感〉を実現するために〈教. 問題解決能力が含まれ,これにクラスター2及び. 師の技能による即時的時間調整〉が必要とし,ま. 3といったクラスター1を実践するための具体的. た, 〈生徒の意欲を喚起する実演〉といった教師. な留意点を挙げている。一方,教育実習前のクラ. の経験知が〈協同学習における個々の学び保障〉. スター6に関することを教育実習後のクラスター. を達成すると考えている。一方,〈生徒の技能定. 4としてあげ,クラスターを構成する項目の重要. 着による安全確保〉が達成されることによって〈生. 度が高いことから,教育実習を通して授業におけ. 徒の関心を高める話題・教材提供〉が活きると考. る安全確保とその準備の重要性を改めて認識した. 285.
(11) 小 泉 匡 弘. ことが伺える。また,クラスター5は,教育実習. 教育実習前の学生Bは自身や友人のマイクロ. 前にはなかった概念であり,学生Aは教育実習を. ティーチングを含めた模擬授業経験から,授業実. 通して技術科教師が抱える現実的な問題に気づ. 践中の教師のスキルに関することに重きを置いて. き,このような問題と向き合いながら授業計画・. いるが,学生Aと同様に概念が抽象的であり,こ. 実践・改善を図ることの必要性に気づいたと推察. れを授業という文脈の中でどのように実現するか. される。これらより,題材計画の立案さらには3. までは考えが及んでいないようである。しかし教. 年間を見通した教育課程の編成に関する学修が必. 育実習後,授業実践中のスキルはデンドログラム. 要であると考えられる。. の一部になるとともに具体化されている。また,. 学生Aは,教育実習前のマイクロティーチング. 教師自身の技術に関する経験及び生徒個々の能力. や模擬授業から,主に生徒の情意面や安全面に着. に応ずる授業デザインが重要であることを認識し. 眼していたが,これらは形式的かつ抽象的な概念. ている。そして,教育実習を通して,技術科の授. に留まっていた。教育実習後には,これらが授業. 業にとって導入段階の良し悪しが大きな意味を成. 実践に文脈づいた具体的なものとして認識され,. すことに気づくとともに,現代技術と中学生の関. 教育実習前には認識していなかった新たな概念の. わりについて認識を深める必要性を感じている。. 追加や価値づけが行われた。また,教育実習を通. これらから,技術に関する知識や技能の技術科授. して, 技術科に対する生徒の期待が大きいことと,. 業への文脈づけ,また,現代技術に対する社会的. 生徒理解が授業の大前提であるということを強く. 背景と生徒のかかわりの理解が求められることが. 実感したと推察される。以上の結果から,今後の. 示唆される。. 技術科教育に関する科目においては,実践的なア プローチによる授業研究及び現象学的なアプロー チによる生徒理解についての学修が必要であると. 5.おわりに. 考える。. 本研究は,技術専攻学生の教育実習前後の授業. 学生Bの教育実習前のデンドログラム(図3). 観から,今後の技術科教育に関する学修改善につ. では,学生Bはクラスター1といった生徒の関心. いて検討した。その結果,以下の知見を得た。. をひくことに重きを置いていることが伺える。そ. 1)学生は,教育実習によって,教育実習前に保. して,この実現のため,クラスター2,4,6と. 持していた形式的・抽象的な概念を実践的・具. いった教師の技能や知識,クラスター3及び5と. 体的なものに転換した。. いった教材や授業展開の工夫に着眼している。教. 2)教育実習後の学生は,綿密な準備による安全. 育実習後のデンドログラム(図4)では,教育実. 確保,時数及び時間のマネジメントなどの新た. 習前のクラスター1,2,3,4,6が,教育実. な価値を見出していた。. 習後のクラスター1,3,6としてまとめられて. 3)学生の授業観の変容から,技術科に関する科. いる。また,教育実習前のクラスター5の生徒主. 目において,題材計画の立案や教育課程の編成,. 体という抽象的な概念が教育実習後のクラスター. 実習室の環境整備に関する留意点,現代技術に. 2及び4といった生徒全員の学びの実感を保障す. 対する社会的背景などに関する学修の必要性が. る協同学習を行うための留意点として転換されて. 示唆された。. いる。 さらに, 教育実習前にはなかったクラスター. 今後は,教育実習中の経験を経営学の経験学習. 5の安全確保が追加され,これらを実現するため. プロセス10)などを参考にして対象化しながら,教. の授業準備に価値を見出している。これより,今. 育実習生のどのような経験が授業観の変容に影響. 後は実習室の環境整備に関して学ぶ必要があると. したか,または,その経験が教師としての成長と. 考えられる。. どのように関連したのかについて検討していきたい。. 286.
(12) 教育実習前後における技術専攻学生の授業観. 参考文献 1)文部科学省中央教育審議会教員養成部会(2016/3/29 最終アクセス) :これからの学校教育を担う教員の資質 能力の向上について,http://www.mext.go.jp/component/ b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2015/ 08/06/1360150_02_1.pdf 2)三島知剛(2007):教育実習生の実習前後の授業・教 師・子どもイメージの変容,日本教育工学会,31⑴, 107-114 3)山崎敬人(2004):教育実習生の理科授業観に関する 研究-教育実習期間における授業イメージの変化-, 理科教育学研究,44⑵,71-81 4)佐藤学・岩川直樹・秋田喜代美(1990):教師の実践 的思考様式に関する研究⑴,東京大学教育学部紀要, 30,177-198 5)佐藤学・秋田喜代美・岩川直樹・吉村敏之(1991) : 教師の実践的思考様式に関する研究⑵,東京大学教育 学部紀要,31,183-200 6)山崎敬人(2011):教師のライフステージに応じた理 科の実践的指導力の形成に関する研究,2007~2010科 学研究費補助金研究成果報告書,広島大学 7)木原成一郎・村上彰彦(2013):体育授業の力量形成 に関する一考察-小学校教諭Aのライフヒストリーに おける体育授業観を中心に-,広島大学院教育学研究 科附属教育実践総合センター学校教育実践学研究, 19,247-258 8)波多野五三(2010):英語教師のビリーフに関する考 察-成長指標としての構成主義的授業観-,英語英米 学研究,18,105-161 9)秋田喜代美(1996):教える経験に伴う授業イメージ の変容-比喩生成課題による検討-,教育心理学研究, 44⑵,176-186 10)松尾睦(2006):経験からの学習-プロフェッショナ ルへの成長プロセス-,同文館出版. (旭川校特任講師). 287.
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