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アジ研ワールド・トレンド No.181 (2010. 10)
現在、世界には約六〇〇〇
の言語が存在するが、言語学
者M・クラウス教授の予測に
よれば、そのおよそ九割が今
世紀中に消滅するかその危機
に
瀕
し
て
い
る。
一
九
九
二
年、
ケベックで開かれた国際言語
学
者
会
議
で
は、
﹁
危
機
言
語
﹂
が主要なテーマに取り上げら
れた。
宮岡伯人編﹁消滅の危
機に瀕した世界の言語
こと
ばと文化の多様性を守るため
に﹂
︵明石書店
二〇〇二年︶
は
危
機
言
語
の
現
状
を
検
証
し、
保護について模索する。
世界の主なことばと文字に
ついては、
下宮忠雄編著﹁世
界
の
言
語
と
国
の
ハ
ン
ド
ブ
ッ
ク﹂
︵大学書林
二〇〇〇年︶
が、一〇一二の言語と世界の
言語状況を、また、
世界の文
字研究会編﹁世界の文字の図
典
普
及
版
﹂︵
吉
川
弘
文
館
二〇〇九年︶
は諸文字の成立
から現状までを解説する。
ア
ジ
ア
地
域
は、
﹃
文
字
の
宝
庫﹄と言われるが、
東京外国
語大学アジア・アフリカ言語
文化研究所編﹁図説アジア文
字
入
門
﹂︵
河
出
書
房
新
社
二
〇〇五年︶
は、豊富な写真と
平易な解説で、文字の魅力を
伝えてくれる。さらに、
石井
米雄編﹁世界のことば・辞書
の
辞
典
ア
ジ
ア
編
﹂︵
三
省
堂
二〇〇八年︶
は、アイヌ語か
らサンスクリット語まで三〇
種類のことばについて、辞書
編纂の歴史と主要な辞書類を
解説し、ことばを学習する人
はもちろん、そうでない人に
とっても興味深い内容となっ
ている。また、アジアの言語
事
情
を
概
観
す
る
も
の
と
し
て、
砂岡和子・池田雅之編著﹁ア
ジア世界のことばと文化﹂
︵成
文堂
二〇〇六年︶
と、
小野
沢純編著﹁ASEANの言語
と
文
化
﹂︵
高
文
堂
出
版
社
一
九九七年︶
が参考になる。前
者は地域研究のあり方を言語
と文化の視点から問い直そう
と
す
る
も
の
で、
﹃
等
身
大
の
ア
ジ
ア
の
人
々
の
言
語
と
生
活
文
化﹄
も紹介している。後者は、
多言語社会である東南アジア
七カ国の、複雑な言語事情を
取
り
上
げ
解
説
す
る
も
の
で
あ
る
。
アジア地域で使用される主
な文字には、漢字、インド系
文字、アラビア文字があげら
れる。われわれになじみ深い
漢字は、その長い歴史の中で
簡
略
化
の
道
を
た
ど
っ
て
来
た
が、習得するには難しく、時
間がかかるため、長らく一部
の
人
々
だ
け
の
も
の
で
あ
っ
た。
本家中国においては、中華人
民共和国成立後、識字政策と
し
て
文
字
改
革
が
実
施
さ
れ
た。
藤井︵宮西︶久美子﹁近現代
中
国
に
お
け
る
言
語
政
策
﹂︵
三
元社
二〇〇三年︶
は、主に
清朝末期から現代までを対象
とし、言語に関する各種法令
に着目しながら、国民党と共
産党による主張を検討する。
漢字が一般の人々のものに
なる以前、湖南省江永県一帯
に、女性たちが作り出した文
字が存在する。
遠藤織枝﹁中
国の女文字
伝承する女性た
ち﹂
︵三一書房
一九九六年︶
は、女文字発見の経緯と女性
たちが自らの思いを綴った歌
を収め、
遠藤織枝・黄雪貞編
﹁
消
え
ゆ
く
文
字
中
国
女
文
字
の
世
界
﹂︵
三
元
社
二
〇
〇
九
年
︶
は、
女
文
字
と
ハ
ン
グ
ル、
カナ文字を比較した遠藤論文
ほか、女文字に関する論文を
収める。
漢字と並び、アジアに広く
伝播しているインド系文字に
ついて取り上げるのは、
町田
和彦編著﹁華麗なるインド系
文字﹂
︵白水社二〇〇一年︶
で
ある。紀元前三世紀に出現し
たブラーフミー文字を起源と
して、
インド系文字の仲間は、
驚くべき多様性と拡がりを見
せ、主に南アジアと東南アジ
ア
で
使
用
さ
れ
て
い
る。
ま
た、
ハングルやカナ文字創出の際
に影響を及ぼしたとも言われ
る。
そ
の
発
祥
の
地
イ
ン
ド
で
は、ことばがしばしば政治問
題の中心となる。植民地から
の独立後、連邦公用語として
ヒ
ン
デ
ィ
ー
語
が
選
ば
れ
た
が、
それは他の州にとっての多数
言語ではなく、州ごとにそれ
ぞれ独自の公用語が制定され
た。
鈴木義里
﹁あふれる言語、
あふれる文字
インドの言語
政
策
﹂︵
右
文
書
院
二
〇
〇
一
年︶
は、このような二種類の
公
用
語
の
相
互
の
関
係
を
検
討
し、国家や政治・行政といっ
た枠組みが言語とどのような
関係にあるのかを解明する。
一方、狭い国土に多民族が
暮らすシンガポールにおいて
も、ことばは重要な政治課題
であり、国家は様々な言語政
策を講じて民族の統合を図っ
て
き
た。
大
原
始
子﹁
改
訂
版
シ
ン
ガ
ポ
ー
ル
の
言
葉
と
社
会
多
言
語
社
会
に
お
け
る
言
語
政
策﹂
︵三元社
二〇〇二年︶
は、
シンガポールで使用されてい
ることばを、社会との関わり
の中で捉え分析する。
﹃
ラ
ー
オ
語
﹄
は、
植
民
地
支
配により、メコン川を境に言
語上の境界線が引かれたこと
ばである。
矢野順子﹁国民語
が﹃つくられる﹄とき
ラオ
スの言語ナショナリズムとタ
イ語﹂
︵風響社
二〇〇八年︶
は、フランス植民地時代から
一九七五年の社会主義革命ま
でを対象として、ラーオ語が
ラオスの国民語としてつくら
れてきた過程を、タイ語との
関係に注目しつつ考察したも
のである。ラーオ語の
﹃独立﹄
は、ラオスの国家としての独
立維持に不可欠なものであっ
たが、
いまやタイ語の影響は、
映
画
や
ラ
ジ
オ
な
ど
様
々
な
メ
ディアに乗ってメコン川を越
えている。
アジアのことばと文字に関
する資料は、この他にも多数
刊
行
さ
れ
て
い
る。
こ
と
ば
は
様々な運命をたどり、文字は
時に姿を変えてきたが、それ
らはアジアを知るための手掛
かりになるだろう。
︵
さ
さ
き
し
げ
こ
/
ア
ジ
ア
経
済
研究所図書館︶
ア
ジ
ア
の
こ
と
ば
と
文
字
佐々木茂子
R
EFERENCE
C
ORNER