Title
南西諸島石灰岩地域砂浜における地下水による陸域起源
物質の海域への流出
Author(s)
田代, 豊; 吉田, 衣理; 栗原, 章; 仲宗根, 直司
Citation
名桜大学紀要 = THE MEIO UNIVERSITY BULLETIN(12):
21-26
Issue Date
2006
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12001/8045
南西諸島石灰岩地域砂浜における地下水による
陸域起源物質の海域への流出
田代
皇 ・吉田 衣理 ・栗原
章 ・仲宗根直司
要 旨 沖縄 島石灰 岩地域の砂 浜で、干潮時 に波打 ち際5
地点の疹出水 を採取 し分析 した。 その結 果、 1地点の水 か ら2mgLー1の硝酸 イオ ンが検 出 され、 この水 はCODも他 の地点の水 よ り高 かった。 この地点の周辺 には基盤の石灰岩が露 出 してお り、 この地点か ら後浜部 にかけての 砂浜の中に も石灰岩 と見 られる岩盤が続 いていることが観察 された。 この地点 を含 む波打 ち 際の4地点で底 質のCODを測定 した ところ0.8-1.4mgOL1であ り、特筆すべ き汚染 は見 ら れなかった。南西諸島海岸 において砂 浜内 に石灰岩基盤構造 に起 因す る地下水流路が形成 さ れてお り、そ こを通 った陸域起源汚濁物質の局所 的 な海域への流 出が存在す る場合があるこ とが示唆 された。Di
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ABSTRACTWatersamplesseeplngthroughthesandat5Sitesontheshorelineofabeachin OkinawaIslandwereanalyzed.Thewatersampleatonesitecontained2mgL1 0fnitrate
andshowedhigherCOD thanothersamples.LimestonebedrockwasobseⅣednotonlyon thesurfaceofthebeacharoundthissitebutalSoundergroundbetweenthissiteandthe backshore.COD ofthesedimentsamples丘.om 4Sitesontheshorelineofthisbeachwas alsomeasured,andthevalueswereintherangeof0.8-1.4mgOL∴ showingnoapparent pollution.Itissuggestedthatpollutantscanemittotheoceanthrough thegroundwater channelswhichhavebeenfom edunderthebeachesbythestructureoflimestonebedrock inJapaneseSouthwestIslands.
田 代 豊 ほか
1.はじめに
海底地下水湧出 (submarinegroundwaterdischarge:SGD)は、陸域起源の物質が海域 に 供給 される河川 とは別の重要な過程 として、近年わが国において も研究が進め られつつある。 南西諸 島の隆起石灰岩か らなる島々では土壌への浸透水量が多 く、SGDが陸水の海域への 重要 な流出過程 であると考 えられる。 一方、これら隆起石灰岩からなる島々の多 くでは、地下水の硝酸性窒素汚染が問題になって 久 しい。南西諸島では一般 に平地部における耕地率が高 く、さらに、肉牛飼育や養豚などの畜 産 も多い。 このため、これらに起 因する窒素発生量が多 く、南西諸島の多 くの島々で人為的影 響 を受けたと考えられる地下水硝酸性窒素濃度が観測 されている (田代 ・渡久山 2004)0 こうした窒素分 に富 む地下水 は最終的 にはSGDな どの形で沿岸海域 に流 出 し、沿岸海域 海水への窒素の重要 な供給源 となる Uohannes1980)が、国外 ではサ ンゴ礁生態系 に対す る人為的な栄養塩の影響 も報告 されている (McCook1999;Smithetal.2001)。南西諸島 において も沿岸海水中の窒素成分の分布 について、ある程度詳細 な研究がなされている地域 もある (中西 ら2005;西銘 ら2003;Crossland1982;Umezawaetal.2002)。それ らによ ると、地下水 を通 じて沿岸海域へ窒素が流出 してお り、南西諸島の貴重 なイノー (横地)の 生態系 にも影響 を与 えている可能性がある。 しか しなが ら、海域 に対する陸域起源窒素の負 荷量 を評価するとともに汚染の発生源 を推定する上で必要 となる、砂浜内での地下水流動状 況 について具体的に調査 されている海岸は南西諸島にはほとん どない0 本研究は、隆起サ ンゴ樵 か らなる南西諸島の砂浜における汚染地下水の流動状況 について の知見 を得 ることを目的に、沖縄 島中南部西海岸の砂浜 において、干潮時に溶出する地下水 の水質 を分析す るとともに、砂浜内の地下水流動 に関係すると考 えられる石灰岩の基盤構造 について調査 した。2.
方
法
1)調査地域 の概要 水お よび底質試料の採取 は、沖縄 島中南部西海岸 に位置する沖縄県読谷村涯具知 (とぐち) の木綿原 (もめんぼる)海岸で行 った.本地域の海岸線 は比較的直線的な砂浜が数キロメー トルにわたって続 き、各砂浜は数百メー トル程度あるが、それぞれが、幅数十 メー トル程露 出す る石灰岩の基盤岩 により区切 られる。木綿原海岸は、比較的平坦 な地形 をなす第四期石 灰岩地域 に含 まれ、米国陸軍施設 (トリイ ・ステーション)の南端 に隣接 した砂浜で、後背 地 には比高数 メー トルの明瞭 な海岸段丘上 に畑地 と住宅が混在 している。砂浜の北端 には、 基盤である石灰岩か ら成 る規模十数メー トルの小突端が露出 している02
)水試料 お よび底質試料 の採取 Fig.1のA∼Eに示 す5地点 において、2006年12月 6日午後1-2時 に、砂浜の波打 ち際の砂 か ら溶出する水約50mlを、ポ リプロピレン製 ビンを用いて直接採取 した。 また、- 2
2-Fig.1のB、 C、 E、 Fの4地点 において、波打 ち際表層 の底 質 をフタ付 きプラスチ ック 製容器 に採取 した。 なお、採取時 は晴天で大潮の干潮時であった。
Fig.1 LocationofsamplingSites(●)
3)水試料 お よび底 質試料 の分析 採取 した試料 は実験室 に持 ちかえ り、以下の項 目について測定 した0 (1)水試料 の硝酸 イオ ン :Merck社製 「RQfrex」 を用 いて測定 した。 この方法 は、発色試 薬 を含浸 させ たフェル トを貼 り付 けたス トラ ップを試料 に浸 し、硝酸 イオ ンとの反応 による 発色 を反射型光度計 によって測定す るもので、公定法 による測定結果 と比較的良好 な相関が 認め られている (高平 ら 1998)0 (2)水試料のCOD:共立理科学研究所製 「パ ックテス ト」 を用いて測定 した。
(3)水試料 の電気伝導度 :電気伝導度計 (Eutech lnstruments社製ECTestrll+) を用 いて 測定 した。 (4)底質試料 のCOD:アル カ リ性過マ ンガ ン酸 カ リウム法 (環境庁 1988)に よって測定 した。
4
)石灰岩基盤構造調査 地点B付近の砂 浜の後背部 には、数 メー トル規模 の基盤がパ ッチ状 に露 出 していたため、 高潮位付近の砂浜 をシャベ ルで掘 り、砂 中の基盤の高 さを確認 した。田 代 豊 ほか
3.
結
果
1)水試料 の分析結果 水試料 の分析結果 をTablelに示 した。 B地点のみか ら硝酸 イオ ンが検 出 された。 また、 CODも、B地点が最 も高かった。電気伝導度はいずれ も高 く、採取 した試料 は、満潮時に砂 浜 に侵入 し干潮時 に浸出す る海水が大部分 を占めていると考 えられたoTable1 Resultsofwateranalyses
slte Nitrate (mgL ▲) coD (mgoL') EC (mscmーl) A ち C
D
E<
1 2 >20 2 4 >20<
1 1 >20<
1 1 >20<
1 2 >202
)底質試料 の分析結果 底 質試料 のCOD測定結果 をTable2に示 した。砂浜の南端寄 りのF地点 を含め、全 4地点 のCODは0.8-1.4mgOLlの範囲内にあった。Table2 CODofsediment site COD (mgoL 1) 8 0.8 C 0.8 E 13 F 1.4
3
)基盤石灰 岩調査結果 B地点周辺の波打 ち際付近 には砂 浜上 に岩が幅 3m程度の範囲に露出 しているが、B地頁 か ら汀線 と垂直に後浜部 に向か う直線上で距離 を変えて砂 を掘 ったところ、砂 の中か ら基盤 である石灰岩 と見 られる岩が現れた。その深 さは後浜部 に向か うにつれ深 くな り、最 も後浜 部 に近い地点 (B地点か ら15m)では地下50cmであった。 この ような分布か ら、B地点周 辺に露出 した岩 と砂 に埋 まった岩は全体が連続 した基盤であると推定 された。 さらに、この 浜の後端部は最 も新 しい海岸段丘 と思われる高 まりで区切 られ、数 メー トルの盛 り上が りを 見せ るが、それを被覆す るように植生が繁茂 している。B地点の後浜端部 は、基盤の石灰岩 が数 メー トル程度前浜 に尖出 しているため露出 した石灰岩 を確認す ることがで きたo また、調査時 に掘 った穴の うち最 も深い ものの中か らは、岩盤の上12cm付近に砂が緑色 を帯 びた厚 さ2cm程度の層があ り、この層の中か ら木片や金属製品が見つかった。 - 24-4.
考
察
本研究の結果、木綿原海岸の比較的狭い範囲の砂浜上の 5地点 における渉出水 の うち、B 地点の港出水 だけか ら硝酸 イオ ンが検 出 された。 この水 は陸域か らの地下水 を含 んでお り、 B地点付近 に地下水の流 出路が存在す る と考 え られる。B地点では他 の地点 よ りやや高い CODも検 出 されていることか ら、 この地下水 は表流水 の水 質の影響 を強 く受 けた比較 的浅 層の地下 を流れる地下水であると考 えられる。 一方、平成15年度 に沖縄県が実施 した公共用水域水質調査 (沖縄県 2004)の中で、比較 的人為的な汚染が小 さい と予想 される海域の底質CODは0.3-1.0程度であった。本研究で測 定 された木綿原海岸の底質CODをこれ らと比較す ると、B地点 を含めて同等か若干高い程度 であ り、砂浜 自体の特筆 されるような有機物汚染 はなかった といえる。 この ことか ら、B
地 点の彦出水 に検 出 されたCODは、砂浜表面付近 に含有 される懸濁態有機物 に起 因す る もの よりも、
洛存態 として陸域か ら地下水 に供給 された有機物が大 きく寄与 していたことが示唆 された。 本調査 を実施 した砂浜の北側の岬は本地域の基盤 を成す石灰岩の高 ま りによって形成 され てお り、そ こか ら南側 に向かって基盤が深 くなっていると考 えられる。B地点付近で観察 さ れた石灰岩の岩盤は、 この基盤石灰岩の小規模 な高 ま りが地表付近 に露出 した もので、 この 石灰岩の層理面 に平行 に走 るフィッシャーな どが地下水 の通 り道 となってB地点 に流 出 して いる可能性がある。そ して、B
地点か ら後浜部 にかけての地下 に埋 まっている岩盤 よ り上の 層か ら木片や金属製品が見つかったことか ら、本海浜の砂 は流動性が高 く台風等の暴浪等 に より容易 に移動するもので、以前 はこの岩盤の より多 くの部分が地表 に露出 していた もの と 推定 される。 さらに、この層の砂が変色 していたことか ら、 この層が地表 に露出 していた際 に表面 を水が被い微生物が繁殖 していた可能性がある。土地利用の変化 な どによ り地下水量 が減少 している地点が南西諸島の随所 に見 られるが (田代 2002)、 この地点 もかつては砂 浜上 に湧水が流出 して水路 を形成 していた ものが、現在 は地下水量が減 り砂 に埋没 した岩盤 に沿 って地下水が渉み出す程度になった もの と推定 される。 硝酸性及び亜硝酸性窒素濃度の地下水水 質環境基準 は10mgL1とされてお り、 これは硝 酸 イオン濃度で44mgL1に相当する。 これ と比較 して、今回B地点の彦出水 か ら検 出された 硝酸イオン濃度は低 い ものであった。 しか しこれは満潮時に砂浜内に浸入 した海水 による希 釈 を受けた ものであ り、農地が多い この地域の地下水の窒素濃度 は他の南西諸島石灰岩地域 と同様、ある程度高い ものであると予想 される。本研究 においてB地点で観測 された地下水 流出が この海岸 における物質収支全体の中で どの ような意味 を持つかについては、水量の把 握 も含めて今後の調査が待 たれる。 本研究の結果により、南西諸島海岸 において一見均一 に見 える砂浜 に石灰岩基盤構造 に起 因する地下水流路が形成 されてお り、そこを通 った陸域起源汚濁物質の局所的な流 出が存在 する場合があることが示唆 された。砂浜海岸 における窒素流出総量の推定 を目的 とした地下 水観測 においては、基盤岩形状の詳細 な観察等 によ り、 こうした地下水流路の有無 を確認す ることが重要であると考えられる。田 代 豊 ほか
5.
参考文献
沖 縄 県 r平成15年度水 質測定結果』、2004 環 境 庁 r改訂版 底質調査方法 とその解説』、1988 高平兼司 ・田代 豊 ・中西康博 「地下水硝酸 イオ ンの簡易測定法の検討 とス ク リーニ ング 調査例 について」、F第30回沖縄県公衆衛生学会抄録集1、1998、pp.15-16 田代 豊 「地下水 の量 に関す ることが ら」、Fサ ンゴ樵 の島の地下水保全 - 「水危機の世紀」 を迎 えて-』 (資料編)、宮古 島地下水水 質保全対策協議会、2002、pp.159-167 田代 豊 ・渡久 山章 「南西諸 島共通の環境 問題 と しての地下水窒素汚染」、『第65回分析化 学討論会講演要 旨集』、2004、pp.131 中西康博 ・高平兼 司 ・平 良栄彦 ・奥 田夏樹 「沖縄 島南部沿岸部環境 に及ぼす富栄養地下水 の影響 (予報)」、「日本サ ンゴ礁学会第8回大会講演要 旨集」、2005、pp.7 西銘史則 ・山城 篤 ・田代 豊 ・砂川智英 ・岩永洋志登 ・湧川直樹 ・仲宗根直司 ・馬場 章 ・ 当真 武 「イノー (礁 池) における基礎 生 産力 と地下湧 出水 に関す る研 究 ( 予報)-糸満市名城地先 の礁 池 にお ける地下湧 出水 の水 質 と海藻類 について (1)-」、F沖縄生 物学会 第40回大会講演要 旨集」、2003、pp.10Crossland,C.∫."Dissolved Nutrients in ReefWaters ofSesoko Island,Okinawa:a PreliminaryStudy,"Galaxea1,1982,pp.47154
Umezawa,YリMiyajima,T.,Kayanne,H.
&
Koike,Ⅰ."SignificanceofGroundwaterNitrogen DischargeintoCoralReefsatlshigakiIsland,SouthwestofJapan,"coralReefs21,2002, pp.346-356Johannes,R.E."TheEcologiCal SignificanceoftheSubmarineDischargeofGroundwater,
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McCook,L J. "Macroalgae,NutrientsandPhaseShiftsonCoralReefs:ScientificIssues and ManagementConsequencesforthe GreatBarrierReef,"coralRee/S 18,1999, pp.357-367
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