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オーストラリアの長距離通勤論争において解明の必要な課題は何か 国内主要紙における新聞記事表象の定量的・定性的分析

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オーストラリアの超長距離通勤論争において 

解明の必要な課題はなにか

―  国内主要紙における新聞記事表象の定量的・定性的分析  ―

小野塚 和人

*1 

小野塚  亮

*2 *1 神田外語大学外国語学部    *2 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 

1 .問題の所在

オーストラリア(以下、豪州とする)の鉱山開発 における超長距離通勤(FIFO: Fly-in Fly-out)に 関して、何が問題視され、どのようなテーマが議 論されてきたのか。FIFO とは、豪州の非都市部 での開発事業(主に鉱山開発)において採用されて いる航空機による長距離通勤の一形態である(1) この就労形態において、労働者(FIFO workers) は、開発現場において鉱山会社の設営した簡易住 宅キャンプに 1 週間から 3 週間ほど滞在し、1 日 12 時間以上もの長時間に及ぶ労働に休日なしに 従事する。集中的に勤務した後は、1 週間以上の 休暇が与えられ、再び航空機を用いて主要都市近 郊の自宅に戻る。この労働形態は長期間自宅を不 在にするものの、多額の報酬が支払われることも あり、豪州国内で広範な議論を呼び起こした。こ の論争と並行して、さまざまな学術成果も公刊さ れてきた。現在、豪州の鉱山開発ブームは成熟を 迎えている。本稿では、豪州国内における新聞記 事の報道内容を対象に、超長距離通勤(FIFO)を めぐる論争において、何が問題として議論され、 何が看過されてきたのかを解明する。そして、鉱 山開発で採用されるFIFOに関する研究について、 解明すべき課題の提示を目的とする。 豪州の近代社会としての歴史の中で、鉱山開発 ブームは複数の時代区分に分類できる(Lee 2016)。 最初の「第一ラッシュ(first rush)」は 19 世紀の 半ばから生起した金鉱開発ブームである。これと 並行して豪州の全土(特にクインズランド州北部 や北部準州)への開拓が進展した。このことは豪 州の鉱山開発が自治体の建設や国土開発と並行し てなされてきたという史実をもたらすことになっ た。すなわち、この頃から鉱山開発は開発の途上 での自治体の建設と(少なくとも閉山までの期間 における)人の定住を前提としてきた。この傾向 は第二次大戦後の「第二ラッシュ(second rush)」 の第 1 期(1960 年から 1982 年)における日本の需 要が主導した開発が進展する頃まで続いた(Lee  2016)。この「第二ラッシュ」のときに建設され た自治体が、西オーストラリア州(以下、WA 州 とする)のダンピア(Dampier)やトム・プライス (Tom Price)であり、最後に新設されたのは南オ ーストラリア州のロクスビー・ダウンズ(Roxby  Downs. 1987 年)である(Clifford 2009:31, Hogan  and Berry 2000)。鉱山開発は、「豪州全土の均等 な発展と開発(decentralisation)」、すなわち、非 都市部の開発事業を通じて自治体を新設し、人を 分散させて住まわせるという連邦政府の方針とあ いまって進展してきた(Gleeson 2006, Gleeson and  Low 2000)。 近年までの鉱山開発ブームは「第二ラッシュ」 における第 2 期(2002 年から 2012 年)として捉え られる(Lee 2016)。これまでの最大取引先であ った日本に代わって、この鉱山ブームは中国によ る需要が支えている。この時期の鉱山開発はかつ てないほどの収益を鉱山会社にもたらし、各州政 府も多額の税収を得ることが出来た。中国主導の 鉱山開発ブームは豪州史上にみられる鉱山開発の 好況期の規模を上回っているとする指摘も存在す る(Measham et al. 2013)。 ピルバラ地域を含めた WA 州の主力産品のひ とつである鉄鉱石の中国への輸出は、これまでの

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日韓台の需要を大きく超えて、驚異的な成長を見 せるに至った(図1を参照)。1990年代、日韓台の 需要はそれぞれ1億トンを越えることはなかった。 WA 州から中国への輸出は 2002 年頃から急成長 を始め、2017年には7億トン近くにまで拡大する に至った。確かに、鉱山開発ブームは成熟・軟化 した(softened)とはいわれるものの、依然として 高い需要を維持している。 この鉱山開発ブームの中で採用されたのが、 FIFO による労働力の供給である。1980 年代まで のように鉱山周辺に自治体を新設することと比較 して、FIFO の形態に拠る開発方式は鉱山会社と 州政府の側に複数のメリットをもたらしている。 第一に、技術労働者を鉱山周辺の自治体に定住さ せなくても良く、技術労働者を確保しやすい。 FIFO によって、技術労働者は主要都市近郊を拠 点にすることが可能となり、鉱山近郊に移住する よりも非都市部での労働への参入は容易になる。 第二に、開発全体の費用を低く抑えられる。新た に自治体を新設する場合、インフラ整備や環境ア セスメントに多大な時間と費用が発生する。また、 鉱山開発から撤退する上でも、自治体を閉鎖する 場合と比較して、簡易住宅キャンプを撤収する方 が低費用で済む。この背景には、鉱山の操業年数 が短縮傾向にあること、そして、鉱山会社にとっ ては、鉱物の需要や価格の変動に対して供給体制 を柔軟に調整できることが望ましいことが挙げら れる。第三に、労働者が絶えず入れ替わることか ら、労働争議が発生しにくい。第四に、自治体建 設よりも FIFO の形態の方が現 地の先住民から反発が起きに くい(Haslam-McKenzie 2011:  368)。こうした理由から、鉱山 開発において、FIFO が広範に 採用されるようになった。 鉱山開発は豪州の国土開発 を 牽 引 し て き た と い わ れ る (Blainey 1993, Lee 2016)。 こ の 説 を 支 持 す る の で あ れ ば、 FIFO に拠る鉱山開発は、豪州 全体の自治体管理や国土開発 の在り方を大きく変えること を意味する。当初の目標である 「豪州全土の均等な発展と開発」というよりも、 開発主体の利益最大化を追求する傾向が強まった。 開発推進側が、労働者の供給に関する地理的・空 間的制約を航空機によっていわば無理矢理に克服 し、UFO キャッチャー(クレーンゲーム)のよう に開発ターゲットを定め、集中豪雨のように投資 して、採掘して立ち去るさまは、Hage(2003)の いう「超越的資本主義(transcendental capitalism)」 であり、Harvey(1990)のいう「時間・空間の圧縮 (time-space compression)」に支えられた「フレキ シブルな蓄積(flexible accumulation)」そのもので ある(2) また、開発形態だけでなく、FIFO はいわゆる 教科書的な男性労働者の在り方に改変を迫ること になり、議論の対象となった。ここでの教科書的 な男性労働者の在り方というのは、i) 早朝に出 勤し、夕方には帰宅し、家族と時間を過ごすこと、 さらに、ii) 週末には子どもの行事に出席し、地 域コミュニティのイベントにも参加すること、そ して、iii) こうした家庭と地域社会における人間 関 係 が 労 働 者 の 肉 体 的・ 精 神 的 な 健 康(well-being)を支えるという姿である。このような男性 労働者と家庭の在り方はFIFOによる労働者とそ の家族への影響を考察する先行研究でも頻繁に言 及される。働き手(breadwinner)が長期間にわた って家庭を不在にすることが離婚率の上昇をもた らす、家庭内暴力・DV を誘発しやすくする、子 どもの発達に影響を及ぼしかねない、といった懸 念をもたらすことになり、次節で考察する先行研 図1 WA州における鉄鉱石の東アジアへの輸出量(国別) 出典:DJTSI 2018

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究もこのような問題関心から行われてきた。 本稿では豪州に多数存在する鉱山開発地域の中 でも、WA州ピルバラ地域を対象とする。その理 由は第一に、FIFO に関する新聞報道や学術研究 の大半がピルバラとパースの関係を題材としてい るからである。第二に、ピルバラ地域は鉱業と第 一次産業が地域の主産業となっていることに加え て、周辺に大規模な自治体が存在しないことから、 内外から考慮すべき変数が比較的少ないためであ る。第三に、ピルバラ地域の第二次大戦後の鉱山 開発は、日本と中国の経済発展による鉄鉱石の需 要拡大に支えられており、アジアの存在が大きく 影響しているからである。 特に、ピルバラ地域では、2018年から「指定地域 移民協定(Designated Area Migration Agreements:  DAMA)」が開始され、国内にすでに在住する難 民認定者や技術移民を誘致し、さらにフィリピン を中心に各国から移民労働力を招へいしている (PRC 2019)。2018 年時点で、総人口 59554 人の うち、フィリピン出身者人口は1369人(2011年は 738 人、2006 年は 293 人)、インド出身者人口は 571人(2011年は409人、2006年は185人)である。 アフリカ出身の労働者数も増加傾向にある。この 他、2018 年にピルバラ地域で豪州国籍を有して い な い 人 は 全 体 の 15.6 % を 占 め る(ABS 2012,  2007; DPIRD 2019)。ピルバラ地域では外国人労 働者の存在が増大している。しかし、次節でも考 察するように、外国人労働者やアジアの存在とい った非西洋的な主体は先行研究や新聞記事でも検 討がなされていない。 この関心をもとに、本稿では以下の構成をとる。 第 2 節では、豪州の FIFO に関する先行研究のレ ビューを通じて、何が主題として考察されてきた のかを解明する。その上で、本稿で実施する FIFO に関する新聞記事を対象とした定量的・定 性的な分析の意義を明らかにする。第 3 節では、 本研究で採用する研究手法であるプログラミング 言語Pythonによる計量テキスト分析(テキストマ イニング)と定性的手法である全文読解の意義と 必要性を考察する。そして、豪州国内の主要紙で あるThe Sydney Morning HeraldとThe Australian、 さらに、WA 州地方紙の The West Australian を 分析の対象とすることの妥当性を論じる。第4節 では、記事分析の結果を論述する。第 5 節では、 分析結果をもとにした考察を行う。その上で、第 6節にて結論を述べる。

2 .FIFO に関する先行研究の状況と本稿の

意義

1)豪州の FIFO に関する先行研究 豪州では1990年代からFIFOに関する研究の第 1 期が始まる。FIFO は元来、1950 年代において メキシコの鉱山開発で採用された(Storey 2010:1162,  2001:135)。豪州では 1980 年代から採用が始まっ た(Lee 2016:311)。この第 1 期の研究は、FIFO という通勤・労働形態のもつ特徴と当時の運用実 態を題材とし、現場での労働環境や住環境の劣悪 さ、さらに、離職率の高さについて記述し、改善 策を指摘する成果が中心であった(Beach et al.  2003,  Beach  and  Cliff  2003,  Houghton  1993,  Storey 2001)。 FIFO に関する研究の第 2 期は、中国の需要が 主導した鉱山開発ブームにおいて訪れる。第2期 の研究主題は以下のように大別される。第一は、 FIFO という通勤・労働形態が労働者とその家族 にいかなる影響を及ぼすかを考察した成果である。 FIFO によって 1 週間以上にわたって自宅を不在 にすることが、配偶者や労働者本人にとって孤独 をもたらすこと、さらに、帰宅時に労働者と配偶 者を含めた家族全員に大きな心理的負担が生じる こと、再び仕事現場へと出発するときにも家族間 にトラブルが発生しやすいことなどが指摘されて いる(Clifford 2009, Haslam-McKenzie 2016,  Kaczmarek and Sibbel 2008, Meredith et al. 2014,  Taylor 2009, Vojnovic et al. 2014)。FIFOがもた らす家庭への影響(特に、離婚率の上昇、子ども や配偶者のメンタルヘルスへの影響)については、 分析結果に差異はある。Haslam-McKenzie(2011) とHenry et al.(2013)は、FIFOをしている家庭は、 そうでない世帯と比較して、離婚率が高いとして いる。一方で、その他の成果は、FIFO は離婚率 や子どもの発達、家族構成員のメンタルヘルスに 否定的な影響は与えないとしており、FIFO にと って肯定的な結論になっている。 他方で、FIFO に肯定的な研究成果に疑問を呈

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する意見も存在している。Cleary(2012)とHamilton  and Downie(2007)は、大学での研究実践と成果 発信の背後には鉱山会社や資源エネルギー関係業 界の圧力が存在するとしている。大学の運営にも、 鉱山会社が開設講座のスポンサーとなっていて、 鉱山開発に関連した研究において批判的な意見の 表明が困難になっていると指摘している。 第二に、FIFO 労働者の行動や文化を扱った研 究成果がある。まず、Pini et al.(2012)は、ブル ーカラー層である鉱山労働者が、作業着(high-vis  shirt)を着用したままカンタス航空のラウンジに 現れるなど、多額の収入を手にしたことによる、 中間層文化(middle class culture)の侵食を扱って いる。そして、労働者の現地での行動文化を扱っ た Carrington  et  al.(2010)、Carrington  et  al.(2012)、Tomsen(2005)は、暴力的な威嚇・挑 発に対しては同様に暴力的に応酬することが望ま しいとしている。挑発を相手にせず、無視して立 ち去るというのは、「弱い奴」というレッテルを 貼られることにつながり、好ましい対応とは見な されないとする。次に、鉱山開発の現場が男性中 心の職場であることに対して、少数派である女性 労 働 者 を 扱 っ た 成 果 に Pirotta(2009)や Sibbel (2008)がある。女性労働者も、男性の品のない 冗談に付き合わなくてはならないこと、男性的に 自らを主張(push)していく必要があることが指 摘される。そして、女性労働者は、仕事外で母親 的な役割を請け負う場合もあり、男性労働者が悩 み事を打ち明けたり、不満や怒りをぶつける (unload)ということも紹介されている。 第三に、FIFO のもたらす現地の地域社会に対 する影響の分析がある。インタビュー調査をもと にした研究成果は、ピルバラ地域の複数の首長や 地方議会議員、警察官、住民への聞き取りを通じ て、i) 労働者の間でアルコールの消費量が多く、 パブなどで乱闘騒ぎが起きること、そして、ii)  すべての生活がキャンプ地で完結するため、必ず しも現地社会に正の経済効果ばかりがもたらされ るわけではないこと、さらに、iii) 現地の医療機 関や水資源を圧迫していることなどを論点として いる(Carrington  et  al.  2012;  Cleary  2011; Haslam-McKenzie  2016,  2011;  Sincovich  et  al.  2018; Tonts et al. 2012; Watts 2004)(3)。次に、鉱

山に近接する各自治体における税収、雇用状況、 現地労働者の収入、住宅価格の変動に関するデー タを題材として、FIFO のもたらす現地社会への インパクトを分析した成果がある(Chapman et  al.  2017,  Garnett  2012,  Lawrie  et  al.  2011,  Plummer and Tonts 2013)。一方で、鉱山開発に 起因する環境問題に関する考察は限定されており、 Brueckner et al.(2013)が WA 州への自然環境や 先住民の生活への影響の可能性を一般論の水準で 指摘している。鉱山開発に起因する環境問題の考 察 は、 他 州 の 事 例 を 用 い た 成 果 を 含 め て も、 Cleary(2012, 2011)とBenns(2011)に限定されて いる。 第四に、ピルバラ地域を含めた WA 州の地方 自治体における開発事業の進展を社会学的な手法 から分析した成果に、Haslam-McKenzie(2013) におけるオンスロー(Onslow)の天然ガス開発事 業の考察、Brueckner and Ross(2010)における ヤループ(Yarloop)のボーキサイト鉱山開発の研 究 が あ る。 ま た、Haslam-McKenzie and Tonts (2005)は WA 州の地域開発に関連した政策の深 化 を 考 察 し て い る。Langton(2010)と Pick et  al.(2008)は「資源の呪い」命題との関係で資源 採掘ブームのもたらしうる帰結を考察している。 2)本稿の意義 以上の先行研究のなかで、マスメディア上で FIFO がいかに論じられてきたのかについて分析 した成果は存在しない。本稿では、新聞において FIFO がどのように論じられてきたのかを考察す る。FIFO に関する問題群は学術研究の成果に加 えて、新聞やテレビ、ラジオなどのマスメディア でも多く報じられてきた。テレビやラジオに関し ては、全ての内容の録画・録音は残されていない。 インターネット記事も消去されることがある。こ れに対して、新聞記事は全ての内容がマイクロフ ィルムやデータベースに保存される。新聞記事は 論争に関する記事サンプルを時系列に全数抽出で きるため、本稿では新聞を考察対象として選択し た。 FIFO に関する論題を複数のメディアが繰り返 し発信することにより、FIFO に関する社会的現 実が構成されていく(4)。人々が報道内容に接し、

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議論したりするなかで、FIFO は人々の間に共通 認識として広がっていく。特に多くの豪州市民は 鉱山と地理的に隔絶した主要都市部に居住してい る。従って、FIFO に関する人々の認識を形成す るにあたり、メディアは一定の役割を果たしたと 考えられる。しかし、FIFO の問題群がマスメデ ィアでどのように扱われてきたのか、どのような 議論が展開されてきたのかに関する考察は存在し ていない。本稿の作業によって、これまで FIFO に関する論争において集中してきた論点が判明す ると同時に、看過されてきた問題も解明される。 特に、ピルバラ地域の鉱山開発は、アジアから の需要があって存続してきた。しかし、先行研究 ではアジアとの関係や外国人労働者の雇用と活動 が言及されることは少ない。アジアとの関係につ いては、第二次大戦後の鉱山開発において、日本 からの需要がピルバラ地域をはじめとした国内各 地の鉱山開発地をいかに発展させてきたかを扱っ たLee(2016)や、中国からの鉱業分野への投資に 関 す る マ ク ロ 経 済 分 析 を 行 っ た Huang and  Austin(2011)に限定される。そして、外国人労 働者のことも実質的な議論の題材になっていない。 確かに、Barrett et al.(2014)やBahn et al.(2012)、 Bahn(2013)は、中小の鉱山会社でサブクラス457 ビザ(当時)を用いて移民労働者を雇用しているこ とや、鉱山開発において豪州人よりも外国人労働 者の方が労働生産性が高いといったことを紹介し ている。また、Bahn(2015)は、移民労働者のイ ンタビュー調査を行っているものの、職場環境が 主題となっていて、労働者の出身国などの情報、 豪州での経験や社会生活に関する記述はない。そ の他の各研究の労働者への聞き取り調査の結果を 見ても、移民労働者の存在は主題に据えられては いない。総じて、鉱山開発の研究は西洋中心主義 的、白人中心主義的になっている。本稿では、新 聞報道の定量的 ・ 定性的な検討を通じて、FIFO の論争に関する問題点を析出し、豪州の鉱業に従 事する人々の研究をより深化させ、FIFO を含め た鉱業の全容を解明させるための問題提起を行う。

3 .研究方法

本稿が分析対象とするのは全国紙The Australian、 The Sydney Morning Herald、さらに、ピルバラ の位置するWA州で最大の発行部数を有するThe West Australian である(5)。特に全国紙 2 紙はデ ジタル版を含めても、国内最大の流通量を有して いる(Roy Morgan 2019)。本研究では、新聞記事 データベースfactivaを用いて、FIFOという検索 ワードで豪州主要紙の検索を行い、記事を抽出し た。考察の対象とする期間は 2008 年 1 月 1 日から 2018 年 12 月 31 日 ま で と し た。 図 2 よ り、The West Australianは、FIFOに関して突出した記事 数(468 件 )を 有 し て い る。 そ れ に 続 い て The Australianは240件、The Sydney Morning Herald では49件となっている。 この時期を検索と考察の対象とした理由につい て、第一に、2008年以前はFIFOを扱った記事が 各紙にほとんど存在しない(6)。2008 年以前の記 事では、FIFOはFly-in Fly-outの略語としては用 いられておらず、各紙では、「こちらの流儀に合 わせろ、嫌なら辞めろ(Fit in or F--- off)」や「先 入れ先出し(First in First out)」の略語となって いる。第二に、FIFO に関する新聞記事にて特定 の地域が登場する場合は、ピルバラが主であり、 他の地域が登場する場合でも、ピルバラと対比さ れていることが大半である。また、地域を限定す ると対象記事が減少するため、検索は FIFO とい 図2 FIFOに関する記事数の 年ごとの変遷(新聞媒体別) 0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 200 2008

The Australian The Sydney Morning Herald The West Australian

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うワードとした。第三に、執筆時点で直 近の年(2018 年)の終わりまでを「現在」 と指定した。執筆時点は 2019 年の中間 であり、2019 年を含めると記事の年ご との比較に差が出てしまうためである。 また、分析対象とした時期は、Lee(2016) のいう、「第二ブーム」の第 2 期とそれ 以後の成熟・衰退期に該当する。 本研究では第一に、定性的分析として、 全記事 757 件の全文読解を実施した。そ の理由は、本稿の分析が恣意的なものと ならないよう、全記事(全サンプル)の読 解により、客観性を確保するためである。 また、全文読解をしない場合、報道内容 の転換点となるような事件や発言を見逃 してしまう可能性があるためである。従 って、記事をサンプリングして読解対象 を減らす手法は採用しなかった。 第二に、定量的な分析として、プログ ラミング言語 Python を用いた計量テキ スト分析(テキストマイニング)を行った。 計量テキスト分析では、コンピュータを 用いて、記事を分類することで大量の文 章を要約する。計量テキスト分析を行う 過程で、i)factiva から入手した記事に おける日付、記事コードなどの分析と関 わらない部分を削除した。そして、前置 詞、関係詞、間投詞、冠詞・定冠詞、代 名詞など、分析に不要な要素を除いた。 ii)各記事の見出しと本文を単語に分割 し、記事×単語行列を作成した。iii)先 行研究のレビューと記事読解の過程から、 代表的な問題系を整理し、キーワードを もとにコーディングカテゴリを作成した (表 1 を参照)。コーディングカテゴリと は、分析に必要な分類基準のことである。 iv)このコーディングカテゴリが重複な く、 客 観 的 に 分 類 さ れ て い る か を、 Jaccard 係数の計算によって確認してい る。この計算結果に基づき、重複してい るカテゴリについて、単語と表現の調整 を行っている。ある新聞記事において、 カテゴリ内に属するキーワードが含まれ 表1 計量テキスト分析におけるコーディングカテゴリのリスト

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る場合、その記事は当該カテゴリに分類される。 1 つの記事が複数のカテゴリに属することもある。 v)次に、記事×単語行列に対して、カテゴリに 含まれる単語リストを照合することで、カテゴリ ×記事行列を作り、この行列に基づいてカテゴリ 間の共起関係を分析した。 次に、vi)Python で作成したプログラムを用 いて、カテゴリ間の類似度に基づく共起図を描写 した。類似度の計算には、カテゴリ×記事行列か らコサイン類似度を計算した。コサイン類似度と は、2 つのベクトルがなす角の小ささ、すなわち、 コサインの値の大きさを類似度とする指標である。 例えば、2 つのカテゴリが同じ記事内で出現した 場合、それらのカテゴリは類似性を有することに なる。そこで、コサイン類似度が正のとき、その カテゴリは類似性を有すると判断した。この数値 が1に近づくと、このカテゴリはより強い類似性 を有することになる。共起図では、それぞれの円 が記事のカテゴリを示している。そして、この円 が大きいほど、そのカテゴ リに属している記事が多 い。コサイン係数が正であ れば、辺(円を結ぶ線)が出 現する。集中する論点ほど 図の中心に描かれ、論じら れない話題ほど周縁に描 かれる。 共起図の描写を軸とし たテキストマイニングと 実際の記事読解は相互補 完的な関係にある。テキス トマイニングは、対象とす る記事を単語単位に全て ばらばらにする。そして、 全体の言説がどのような 特質を持っているかを数 量的・視覚的に表現する(7) 確かに、この手法を用いる ことで全体の言説の布置 は認識できる。しかし、共 起図から読み取れる情報 は限定的である。共起図か ら判断するだけでは、議論 の展開や内容の詳細を見誤る可能性がある。全体 をより正確に理解するには、対象記事の読解が欠 かせない。従って、本論文では共起図の分析と、 定性的な全文読解を並行して行う。本稿で実施す る定性的分析は全サンプルを対象としており、恣 意性を排除し、客観性を確保している。

4 .分析の結果

1)3 つの新聞媒体の共起図にみられる特徴 共起図は図 3~5 に示した。各共起図に共通す る点として、まず、「日本・中国関連」、「外国人 労働者」、「先住民」が周縁に位置している。これ らの話題は、新聞報道で論じられていないことを 意味する。そして、一般的な「技術関連」や「大 学・政府の研究」が中央に位置しており、中心的 な話題はこれらと関連させて論じられる傾向があ る。「現場での操業」、「労働者の文化」、「労働組 合関係」、「環境関連」など職場の環境に関連する

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話題も外縁部において、中 央を取り囲む形で存在して いる。「環境関連」について は、ビジネス環境(business  environment)や 職 場 環 境 (workplace environment)と いう文脈で出現している。 各紙の特徴については記事 読解による定性的分析と並 行させることで、意味を理 解できる。 共起図のそれぞれの特徴 に関して、第一に、図 3 の The West Australianでは、 「宿泊施設・住宅関連」や「住 宅の宣伝」といった、住宅 関連の話題が中央の近くに 位置している。そして、図 の右側にて、「メンタルヘ ルス関係」、「労働者の依存 行動」「家族の話題」とい った労働者の話題がひとつ の集合を成していて、肯定 的ではないキーワードが記 事中に主に使用されている 傾向が見て取れる。政府に 関連した「連邦政府」、「地 方自治体」は中央に位置す る諸カテゴリとつながる形 で中央の外縁に存在してい る。 第二に、図4のThe Sydney Morning Heraldでは記事数 が少ないため、円も小さく なっている。同紙では労働 者と家族に関した話題が主 である。労働者の間での問 題となりうる話題である 「労働者の依存行動」が中 心に来ており、肯定的な側 面は周縁に位置している。 政府に関する「連邦政府」 や「地方自治体」が他紙と 図4 The Sydney Morning Heraldの記事における各カテゴリの共起図

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異なり、周辺部に位置している。 第三に、図5のThe Australianでは、 一見して話題のつながりの特徴を見い だすことが困難である。これは、定性 的分析の結果で後述するように、The Australianの記事は、FIFOと関連する さまざまな政治経済的な動向と関連さ せながら論じられる傾向があるため、 多様なカテゴリがヒットしやすいから である。労働者に関して、特に「メン タルヘルス関係」、「労働者の依存行 動」、「暴力」が右側に位置していて、「家 族の話題(肯定的側面)」が反対側に位 置している。政府に関連した話題である「連邦政 府」、「地方自治体」、「税制・財政」はそれぞれが 離れている。以下、3紙の報道内容の特質を、共 起図にみられる特徴と全文読解と併せて検討する。 2)The West Australian

The West Australian で は、 第 一 に、FIFO に 関する問題系は 2010 年から 2012 年末までの間に 最も活発に議論がなされた。FIFOは2005年から 鉱業の動向紹介の一環として徐々に登場を始める。 図 3 にも見られるように、2010 年から 2012 年末 までの間に、家族に関する問題(「家族の話題」)が とりわけ多く扱われ、「大学 ・ 政府の研究」との 関連で論じられている。家庭内暴力・DV(「暴力」) や「メンタルヘルス関係」もこの時期に多く登場 する。The West Australian における記事では、 FIFO は家族に困難(strain)をもたらし、配偶者 とともに時間を過ごせないことから生じる孤独感 は、労働者のパートナーと子どもたちにとって困 難をもたらしうることが複数の記事で論じられて いる。離ればなれになること(separation)はアル コールの過剰な摂取につながり、そのことが家庭 内暴力・DV や虐待に帰結しうると指摘されてい る(2012/10/26, 2012/9/12, 2011/4/13 な ど )。 し かし、家庭内暴力・DV を扱った記事の中で、ど のような人物がいかなる暴力をふるい、その家庭 はどうなったか、いかなる問題が配偶者の間で話 し合われているか、どのような支援機関がいかな る支援をしているかなどの具体的な詳細は The West Australianでは登場しない。 第二に、2013年以後、記事においてFIFOが主 題となることは少なくなり、FIFO という語が鉱 業とは関連のない話題で登場するようになる。図 6 は各紙の 1 つの記事が属するカテゴリの平均数 の変遷を表したものである。The West Australian の記事1件における所属カテゴリ数は減少を続け ている。つまり、各記事でコーディングカテゴリ に存在するキーワードに該当する言葉が使用され ておらず、カテゴリにヒットする割合が減少して いることを意味する。このことは、FIFO という 語がコーディングカテゴリにみられるような鉱業 や政治経済の動向などと関係のない文脈で出現し ていることを意味する。図3と関連させると、例 えば、多くの場合、The West Australian におけ る FIFO という語は「住宅の宣伝」(主にマンシ ョン)で、FIFO に従事する人にも適した物件と い う 形 で 使 用 さ れ て い た り す る(2015/11/28,  2014/11/1, 2014/3/18, 2013/6/1, 2013/2/2など)。 また、「家族の話題」で、FIFO で通勤・労働を している家族の成員の紹介であったり、あるいは、 「報道関連」で、TV 番組 Married at First Sight

やThe Bachelor Australiaの登場キャラクターで FIFO をしている人物がいるという形で取り上げ られている(2018/1/29, 2017/2/24 など)。これら の点は、「宿泊施設・住宅関連」や「家族の話題」 に関連したカテゴリが図3の中心部に位置してい て、「住宅の宣伝」や「報道関連」と結びついて いることにも示されている。 2013 年以後、FIFO が登場する記事の性質が変 化し、一般的な話題の記事に FIFO という表現が 図6 各記事の属するカテゴリ数の経年変化(新聞媒体別) 0 1 2 3 4 5 6 7

The West Australian The Australian The Sydney Morning Herald

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登場することからも、2013年以後はFIFO自体が 人々にとっての新しい現実として受け入れられた と考えられる。また、調査レポート類の刊行、あ る特定の事件や発言によって、議論のパラダイム が変更されることはみられなかった。確かに、 HRSCRA(2013)『FIFO は非都市部の救世主か、 害悪か』といったレポートが刊行された際には、 内容の紹介と共に、FIFO を主題にした記事が登 場することが多いが、それまでの記事の論調や内 容と違いはみられない(2013/10/24 など)。また、 The West Australian では鉱山開発の成熟に伴う 雇用状況の変化、航空業界の収益の低下など、鉱 山ブームの終焉と衰退に関する記事はほとんど存 在していない(例外として 2017/11/20, 2017/4/15 がある。図3でも「鉱山ブームの終焉」は周縁に 位置している)。

3)The Sydney Morning Herald

第一に、2012 年から、FIFO 労働者に対する追 跡取材やインタビューが The Sydney Morning Heraldの記事内容の多くを占める。図4において、 労働者や家族に関連した話題が中央付近に分布し ていることからも見て取れる。急速に裕福になっ た鉱業労働者に実際に接近した例として、インド ネシア・バリを生活拠点とし、ピルバラの労働現 場と往復しながら生活する者を取材する記事もあ る(2012/9/8, 2012/3/3)。しかし、FIFOによって、 鉱山開発がもたらす利益が鉱山周辺の自治体に残 らず、その代わりに、現地の住宅価格が高騰し、 医療スタッフが不足していることが紹介されるな ど、FIFO に対する記述に肯定的な内容はなく、 批判的である。全体として、鉱山開発や鉱業全般 に対する肯定的な内容の記述はみられない。 第二に、2013 年からは、ブーム以後の鉱業に おける労働者や開発関係者のおかれた状況の悪化 をThe West AustralianやThe Australianよりも 具体的に扱っている。図4と関連させると、例えば、 i)「職業機会」や職場の「環境関連」について、 FIFO をしていた人が別の都市で住宅建設に従事 する事例(2017/3/25)、FIFOの労働シフト(roster) が厳格化し、人員整理も進むなかで、福利厚生も か つ て ほ ど の 内 容 で は な く な っ て い る こ と (2016/7/9, 2015/4/15, 2013/11/12)、ii)「 税 制 ・ 財政」や「連邦政府」とも関連して、税制の変更 で労働者への利益が減少すること(2015/5/13)、 雇用人数の減少と鉱物価格の下落から政府の税収 に影響が生じていること(2014/9/13)、iii)「鉱山 ブームの終焉」と「航空業界」に関連して、鉱山 開発のブームの終焉と航空利用者数の減少が、航 空会社の経営に影響を与えていること(2016/5/2,  2015/4/27, 2013/9/11)などを紹介している。一貫 してFIFOに関する記述は前向きとは言えないこ とを主観的意見を交えずに記述しており、間接的 に批判的である。 第三に、2009 年から 2011 年までに FIFO を扱 った記事は The Sydney Morning Herald には存 在しない。2009 年以前の記事において、FIFO と いう表現は、「こちらの流儀にあわせろ、嫌なら 辞めろ」(2008/7/15, 2006/5/5, 2006/4/29)、ある いは、「先入れ先出し」(2003/8/2)の略語として 用いられている。 4)The Australian The Australian で は、 全 体 的 な 傾 向 と し て、 FIFO のことだけで完結する記事は少なく、国内 の幅広い社会経済的な動向の紹介と併せて FIFO が取り上げられる。図5で一見して各カテゴリの つながりに特徴が見られないのはこの影響である。 定性的な分析から、The Australianは全体的に鉱 業に対して好意的であることがわかる。 第一に、2011 年から 2012 年は鉱山開発ブーム に関連して最も議論がなされており、さまざまな 事象が取り上げられている。この時期、鉱山開発 に関連した諸問題の一部は指摘される。図5と関 連させると、例えば、i) 「航空関連」や「技術関連」 について、航空会社と空港の利用客が増加したこ とによって、ピルバラの空港における航空管制シ ステムを改善する必要があること(2011/10/27)、 ii) 「職業機会」や「現場での操業」について、技 術者や地質学者、医療スタッフが不足していて、 人材確保が必要であること(2012/5/12, 2012/3/11)、 iii) 「宿泊施設・住宅関連」について、住宅や宿泊 施設が不足していて高騰していること、同時に、 水不足が発生していること(2011/7/23, 2011/5/31,  2011/3/12)が代表的である。 しかし、これらは鉱山開発ブームを批判するも

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のではなく、開発の進展の中で克服すべき課題と して前向きに取り上げられている。FIFO 労働者 の離職率が高いという記事でも、どうすれば離職 率を下げられるかという終わり方をしている (2012/5/5)。FIFO が家庭に及ぼす影響について も、離婚率と FIFO の関連を否定する研究者の知 見を伴って記述がされている(2012/5/12)。また、 FIFO によって労働者と家族がいかに新しい可能 性を見いだしたかが語られ、FIFO は家庭に諸問 題を引き起こす根拠とはならないとしている (2014/2/19 など)。FIFO についての否定的な意 見はなく、いずれの記事も、いわば開発推進側(連 邦政府や鉱山会社など)と同じ目線で執筆されて いる。この点は、図5にて家族関係の話題の中で、 「 メ ン タ ル ヘ ル ス 関 係 」 や「 暴 力 」 と い っ た FIFO に関して肯定的でない側面が、より周縁に 描かれていることからも判断できる。 第二に、全体として 2013 年以後の主題は鉱業 ブームの停滞・衰退になる。2012 年まで、鉱山 開発の諸課題は、開発が進行する中で、関係者の 集合的な努力によって克服されるものとして同紙 では楽観的に論じられてきた。しかし、2013 年 以後は、鉱業における諸問題が楽観的に論じられ る傾向はなくなっていく。FIFO 自体を特集する 記事は 2012 年 9 月以後、減少していく。確かに、 FIFO は政府高官の通勤形態であったり、オーケ ストラの運営形態を説明する上で用いられるなど、 幅広い使われ方をするようになる。しかし、The Australian の多くの記事において、FIFO という 語は、表1のコーディングカテゴリに見られるよ うな鉱業や政治経済の動向に関する表現と共に登 場する。従って、図6のThe Australianにみられ るカテゴリ数の変化はほぼ一定となっている。 The Australian では、The West Australian のよ うに、FIFO という表現が政治経済的な論点とは 関係のない話題の中で登場するわけではない。 The Australianでは鉱業の停滞・衰退がどのよ うな局面で出ているかが、各分野や各場所に注目 されながら記述される。産業分野では、「航空関連」 が中心的な話題となり、業績不振の記述の中で、 FIFO の 需 要 減 が 言 及 さ れ て い る(2015/11/5,  2014/7/26)。「地方自治体」については、各地の 鉱山開発は停滞傾向ではあるものの、住宅などは 入手しやすくなり、以前の平穏さを取り戻しつつ あ る 場 所 が 増 加 し て い る こ と が 指 摘 さ れ る (2015/2/28)。また、「職業機会」や失業率を含め た経済動向、主要都市部での人口集中を特集した 記事で FIFO が言及されたりもする(2017/1/26,  2016/1/25)。 労働者に関する記述も鉱業ブームの成熟・停滞 を反映したものとなっている。例えば、パース北 部のFIFO労働者が数多く居住する地域において、 労働シフトの強化や給与の削減から、生活様式の 変更を余儀なくされたエピソードが紹介されてい る( 例 え ば、 買 い す ぎ た 物 を 売 却 す る な ど。 2017/3/13, 2015/4/15)。その他、突如として失職 した人が特集されたり、失業後どのように転身し たかを紹介したりしている。さらに、鉱物の需要 が減少し、FIFO 労働者の簡易住宅キャンプの運 営自体も高コストになったことから、先住民を含 めた地元住民を雇用する計画の紹介もなされたり している(2014/7/26, 2013/1/19)。鉱業の衰退期 にこうした話題が登場するが総数は少なく、図 5 でも「鉱山ブームの終焉」や「先住民」といった カテゴリは周辺に描かれている。 第三に、2010 年以前の時期は、FIFO が記事の 対象となることは少ない。FIFO という通勤形態 が鉱山会社に採用され始めていること、今後の主 流になりそうなことを予見する記事が散見される 程度である(2008/4/4, 2007/10/6, 2007/2/9)。そ の他は、The Sydney Morning Herald と同様に、 FIFOは別の表現の略語として扱われている。

5 .考察

豪州の主要新聞 2 紙と WA 州現地紙 The West Australian における FIFO を扱った記事を対象と した、Python による定量的分析と、記事の全文 読解による定性的分析から以下の3つの考察点を 導出できる。 第一に、FIFOに関する議論は2010年頃から活 性化し、2012 年に最も活発に論じられている。 2013年以後はFIFOが主題となる記事は各紙でも 減少し、一般的な話題の記事に FIFO という表現 が登場するようになる。このことから、FIFO は 豪州の市民にとって新たに受け入れられた通勤・

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労働形態となったことがわかる。記事内容につい ては、週刊誌的・ゴシップ誌的なエピソード(労 働者の経験、私生活、意味世界など)は新聞記事 よりも学術論文の方がより幅と奥行きを持って論 じている。各紙における記事と学術論文はその論 調を共有している。 第二に、日本や中国といったアジアの存在、外 国人労働者、先住民といった非西洋的な主体は FIFO の新聞記事には登場することは少ない。こ のことは図 3~5 の「外国人労働者」、「日本・中 国関連」、「先住民」といったカテゴリが一貫して、 小さく、周縁に位置することからも明白である。 全体としてどの記事もユーロセントリックである。 とりわけ、労働者を特集し、追跡取材をした記事 でもアジア系の人物や先住民は登場しない。外国 人労働者についての扱われ方は限定的であり、 The Australian において 2011 年の鉱山ブームの 成長期にロイヒル(Roy Hill)開発事業での特定企 業移民協定(Enterprise Migration Agreement)の ことが触れられている程度であったり、地質学者 といった専門技術者を世界から雇用する動きの紹 介にとどまっている。外国人労働者とその家族の 支援、さらに雇用のプロセスなどは論題には上っ ていない。先住民については、企業の社会的責任 の一環として、一部の企業が一定数雇用している ことが紹介されている(The Australian 2012/4/12)。 これらの論点は先行研究でも分析が不完全であり、 考察の余地を残している。 第三に、総じて鉱山開発それ自体や鉱山会社を 批判する記事は見られなかった。このことは企業 批判がないだけでなく、環境問題の記事がほとん ど存在しないことにも現れている。確かに、各共 起図では「環境関連」がやや中心に近く存在して いるが、これは職場環境、ビジネス環境といった 語がヒットしたためである。FIFO は航空輸送に 依存し、温室効果ガス排出量も高く、環境への負 荷が大きい。FIFOという通勤・労働形態において、 航空機に依存することによる温室効果ガス排出や、 簡易住宅キャンプを設営して鉱山開発を運営する ことによる環境への影響などを扱った記事が見つ かることはなかった。 共起図をみると新聞媒体ごとに、話題の結びつ き方に違いがあることがわかる。このような特徴 はFIFOに関する記事内容の論調の違いを反映し ている。各紙の報じた内容の相違は、どの読者を 対象としているかに影響されていると考えられる。 The Australian はルパート ・ マードック(Rupert  Murdoch)が経営してきたニューズ・コーポレー ション(News Corporation)社が発行している。 McKnight(2010)によると、同社が所有・経営す る新聞媒体は、環境問題に関する科学的な見解を 否定的に論じてきており、この傾向は米国、英国、 豪州にて同社が発行する新聞にて同様にみられる としている。特に、The Australian は「保守的」 であるとし、気候変動に関してはその問題の存在 自体を積極的に認めようとしないとしている (McKnight 2010: 699-700)(8)。FIFO に関する環 境問題の記事がなく、鉱山開発に肯定的な論調が 目立つことは、McKnight(2010)の指摘する傾向 に支えられていると推定できる。 一方で、フェアファクス・メディア(Fairfax  Media)社が運営主体となっている The Sydney Morning Herald は、いわゆる「リベラル派」の 新聞メディアとされる(Tiffen 1987:338)。McKnight (2010)の指摘する環境問題が登場する頻度はThe

Australianと比較して多い。The Sydney Morning Herald におけるオセアニア地域の環境問題の取 り上げられ方を論じた考察に Farbotko(2005)が ある。この他に、同紙における核やエネルギーに 関する問題の報道内容の分析をした考察にLucas (1994)、同紙の畜産業と環境の問題に関する報道 内容を分析した成果に Mayes(2015)がある。本 稿の分析では、FIFO に関して、同紙にて環境問 題を正面から扱う記事は存在しなかったが、鉱業 自体には批判的な内容の記事が目立った。本稿で 扱った報道内容の傾向はこれらの先行研究の成果 を追認するものとなっている。

6 .結論

本稿では、WA州の地方紙The West Australian、 ならびに、豪州国内主要紙である The Sydney Morning Herald と The Australian を題材に、鉱 山開発で採用される通勤 ・ 労働形態である FIFO に関する新聞記事報道の定量的・定性的な分析を 行ってきた。この論争は 2012 年にピークを迎え、

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その後、FIFO は市民の間に新たな現実として受 け入れられたと考えられる。 しかし、FIFO に関して多数の課題が論じられ ないままとなっている。第一に、これまでの新聞 記事や学術研究の議論はヨーロッパ系の関係者が 主体であり、アジアの存在や外国人労働者、先住 民といった非西洋的な主体は議論の中心には存在 していない。特に、先住民コミュニティの経験や 反応、外国人労働者の雇用と彼らの労働経験・社 会経験といった論点は新聞記事に登場することは ない。第二に、新聞記事の中で労働者とその家族、 地域社会や現地産業の動向が論じられるとき、そ の問題の根源である鉱山会社の動向や対応への批 判は見られない。それは環境問題の扱われ方にも 現れている。FIFO が温室効果ガス排出など、環 境への負荷をかける操業形態であるにもかかわら ず、各紙ともこの問題に触れていない。一見、 FIFO や鉱山開発に批判的に見える記事も、雰囲 気を間接的に醸し出すだけで、問題の本質には入 り込んではいない。 FIFO を含めた鉱山開発をめぐる学術研究の課 題として、これまで論じられてこなかったアジア の存在、外国人労働者に関する諸問題、先住民コ ミュニティの経験や反応、環境問題にみられる企 業の開発に関わる活動といった諸課題について、 明示的に研究主題として取り込むことが必要であ る。これらの作業によって、FIFO を含めた鉱業 の全容解明が可能になると考えられる。

[註]

(1)自家用車による長距離通勤はDIDO(Drive-in Drive  out)、バスによるものは BIBO(Bus-in Bus-out)と 呼ばれる。 (2) FIFOという通勤・労働形態は経済地理学的にいく つもの興味深い理論的論点を有している。紙幅の 関係上、この論点の詳細は別稿にて論じることと する。 (3) ただし、複数の鉱山会社はこうした問題に取り組 んでいると共に、現地社会に対して寄付などの活 動(企業の社会的責任、フィランソロピー)を実施 していることは記しておくべきである(Cheshire  2010, Cheshire et al. 2011, Mayes et al. 2014)。 (4) マスメディアの情報が人々の共通認識を形成する 影 響 力 に つ い て は、Adoni and Sherrill(1984)や Boorstin(1962=1992)、成田(2015: 47, 49)を参照さ れたい。メディアの力によって場所や社会問題の 認識が形成されることを扱った研究には、矢口 (2011)、山口(2007)などがある。 (5) 当初、The Age も考察対象としていたが、定性的 分析の過程で The Sydney Morning Herald と記事 の重複が多数見られたため、分析から除外した。 なお、The Ageの記事数は38件であった。 (6) The West Australianで9件、The Sydney Morning

Heraldで4件、The Australianで8件である。 (7) 共起図とワードクラウドの相違は以下の通りであ る。ワードクラウドは、ある単語群に対して、そ れぞれの単語の出現頻度に比例させて文字サイズ を調整して図示する手法である。どの単語が頻出 するかを視覚的に認識できるため、頻度分析で用 いられる。共起図(共起ネットワーク)は単語と単 語の間のつながりを図示することに重点を置いて いる。

(8) The West Australianにおける新聞記事の全体的な 傾向については先行研究が存在していない。The West Australian の記事内容の傾向に関する分析は 今後の課題としたい。

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(17)

SUMMARY

What are the Issues to be Addressed in  

the Debate on FIFO in Australia? 

A Quantitative and Qualitative Analysis of the Newspaper Representation

Kazuhito Onozuka   [Kanda University of International Studies]   Ryo Onozuka  [Keio University] What has been argued in relation to FIFO (fly-in/ fly-out: a form of long-distance commuting in the  mining industry) since the recent mining boom in Australia? What has been overlooked in the discus-sion? The argument itself is in the secondary analysis stage following the proliferation of research and  discussion on FIFO. With a particular focus on FIFO operation to the Pilbara region (Western Australia),  this study contributes to the research on FIFO-related phenomena and the mining industry through  quantitative and qualitative analysis. The paper examines the preceding discussion in newspapers (The West Australian, The Australian, and The Sydney Morning Herald) by using Python. 

The findings of this paper are as follows. First, the discussion in the newspaper started active since  2010 and peaked in 2012, and FIFO itself became accepted realities for Australian residents afterwards.  Previous scholarly articles cover FIFO-related issues in more depth and width. The descriptions in the  newspapers share similar characteristics shown in the current streams of scholarly articles.  Second, it is possible to find some trends in the argument of FIFO in the newspaper. When the  problems in family and individual are discussed, the causes of such problems are overlooked. The news-paper articles on FIFO pay scant attentions to foreign workers, in spite that the mining activities are  supported by Asian influences. The previous discussion has been Eurocentric and has largely focused  on corporate behaviour, government policies, family issues, and workers’ behavioural characteristics. 

Third,  socio-economic  development  in  north  Australia,  including  Pilbara,  shows  that  Australia,  China, Japan and other Asian countries have mutually contributed to the development in this region  historically;  and  thus,  researchers  need  to  consider  such  transnational  connections  in  their  analysis.  Further analysis on FIFO-related phenomena and the mining industry requires considerations to the  presence of non-European influences, such as investment and migrant workers from Asia. There also  should be more focus on environmental issues as mining is not pollution free. Inclusion of the issues  on Asia and of non-European perspectives will enrich the upcoming discussion on FIFO and mining  industry.

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