はじめに 重症心不全に対して左心補助人工心臓(left ventricular assist device;LVAD)での治療が,現在徐々に普及して きている。しかし LVAD 植え込み術実施可能施設は国内 ではいまだ少なく,実施困難な施設では適応患者を実施可 能な施設に搬送する必要がある。搬送にあたり LVAD 適 応患者の多くは循環動態が不安定であり,カテコラミンを 含む多種の血管作動薬や体外式膜型人工肺(veno-arterial extracorporeal membrane oxygenation;VA-ECMO)や 大動脈内バルーンポンピング(intra-aortic balloon pump-ing;IABP)などによる補助循環機器を装着した状態での 搬送を要する頻度が高い1,2)。補助循環機器を装着した患者 搬送には,大型機器を多数搭載する必要があるため,大型 の専用搬送車両や特殊救急車が使用されることが多いが, 今回われわれは通常救急車を使用した補助循環機器装着患 者の転院搬送を経験し,通常救急車での搬送における問題 点が抽出されたので対応策とともに報告する。 症 例 56歳,男性。既往歴はなし。屋外で突然の胸背部痛を自 覚し,自身で救急要請し当院に搬送された。病院到着時は GCS11(E3V4M4),呼吸数 21 /分,脈拍数 122 /分,血圧 60/47 mmHg,経皮的動脈血酸素飽和度 98 %(リザーバー 付き酸素マスク10 L/分投与下),体温 36.0 ℃で循環動態 が不安定であった。直ちに末梢静脈路を確保のうえ,細胞 外液を全開で投与を開始し,12誘導心電図検査を実施した。 心電図上,下壁誘導で ST 上昇を認めたため,循環不全を 伴う急性心筋梗塞と診断し,緊急冠動脈カテーテル検査に 移動した。緊急冠動脈造影検査中に pulseless VT に移行 し,体外循環式心肺蘇生 Extracorporeal cardiopulmonary resuscitation を開始した。右大腿動静脈よりシースを挿入 し VA-ECMO を導入,左大腿動脈より IABP を挿入し循 環補助を開始した。経皮的冠動脈形成術終了後,ICU 入 室としたが,その後も循環動態は不安定であり,VA-EC-MO と IABP の継続を要した。 集中治療医,循環器内科医,心臓血管外科医で協議した 結果,LVAD 適応と判断したが自施設での導入は困難で あり,近隣(約25 km)の大学病院へ転院させる方針となっ た。平日かつ日中の方針決定であったが,特殊救急車の手 配ができず,消防局の一般仕様の救急車で搬送することと なった。その時点の循環動態では VA-ECMO や IABP の 補助率を下げると容易に血圧が低下してしまう状態であっ たため,移動前に離脱することは困難と判断し,循環補助 も継続したままの搬送を余儀なくされた。 主治医からの転院搬送の救急要請後に救急科に転院搬送 についての応援依頼があった。救急車が到着する前に,搬 送人員や,機器の配置,搬送時のトラブルシューティング に関して話し合うことができずに ICU から患者と補助循 環機器を移動させ,救急車に収容することとなった。救急 車までの患者搬送と収容には約10人の人員と約20 分間の 時間を要した。 救急車運転席に救急隊員 3 名,患者収容部には当該患者 補助循環を使用した重症患者の搬送には専用搬送車両や特殊救急車が多く使用される。重症患者の安全で迅速な搬送には, 重症患者搬送に特化したチームの育成が理想であるが,搬送チームが存在しない状況では救急医に搬送を求められる場合が ある。そのため救急医は常に対応できるように準備する必要がある。搬送に際し最小限かつ過不足なく,また急変も想定し た物品を準備する必要があり,そのためにはトラブルも見据えた物品やマニュアルなども記載されたチェックリストを作成 しておくことが有効である。 また地域として重症患者の集約化を図り,地域全体で重症患者搬送を支持するシステム構築も求められる。 *横浜市立市民病院救命救急センター **横浜市立大学医学部救急医学教室
57 日救急医会関東誌 42(2),2021年 のほか,循環器内科医 1 名,臨床工学技士 2 名が同乗し, 搭載機器は搬送用人工呼吸器,IABP,VA-ECMO, 7 台 のシリンジポンプを搭載した。救急車には酸素ボンベが 2 本備え付けられており,搬送用人工呼吸器と VA-ECMO をそれぞれ接続した。患者収容部後方にある座席とスト レ ッ チ ャ ー の 間 の ス ペ ー ス に, 搬 送 用 人 工 呼 吸 器 と VA-ECMO,IABP の設置を試みたが,IABP 機器の容積 が大きくスペースの大半を占めてしまった。そのため,後 方の座席には VA-ECMO の遠心ポンプとブレンダー, ECMO モニターのみを設置し,搬送用人工呼吸器と固定 できなかったシリンジポンプ 3 台は同乗した医師と臨床工 学技士 1 名がそれぞれ手で所持したまま搬送することと なった。 また IABP を安定して椅子に固定することができず,移 動中は座席とストレッチャーの間で臨床工学技士が立った まま手で機器を支持した状態であった。搭載した機器はい ずれも内部バッテリーのみで搬送した。搬送時の配置図(図 1 )と実際の写真(図 2 ),使用した救急車と搭載載機器 の仕様を表 1 , 2 に示す。搬送距離は約25 km,予想搬送 時間は高速道路を使用して20 分であった。搬送中の患者 容態変化はなく,搬送先医療機関には約25 分で到着する ことができた。 考 察 ECMO や IABP といった大型機器を搭載する必要性の ある病院間搬送には,大型の専用搬送車両や特殊救急車が 使用されることが多く,ELSO ガイドラインでもその使用 を推奨している3)。各国またはわが国でも mobile ECMO と称される搬送に特化した小型の ECMO を使用したり, 大型機器搭載を可能にした特殊ストレッチャーを使用した りして搬送する例も数多く報告されている4~6)。これらは, 通常救急車で大型機器を搭載した状態の患者の病院間搬送 の際に生じる課題への打開策として検討,対処されてきた 結果である。本症例では,近隣の大型救急車所有病院に連 絡するも車両確保ができず,当科に転院搬送の応援依頼が あった際にはすでに救急車要請がなされた後であり,通常 の救急車両での転院搬送となった。メディカルコントロー ルにも精通した救急医として,近隣の病院のほか,自衛隊 車両や民間の大型救急車の使用も考慮すべきであった。そ こで大型救急車であればより容易に対応できたいくつかの 課題を認めた。 1 つ目の課題は搭載機器の数が多かった点である。救急 車での移動中は,救急車の振動やブレーキなどに伴う機器 の破損やトラブル発生の可能性があり,機器数が多ければ そのリスクも高くなる。そのため,搭載する機器は可能な 限り減らしておく必要があるが,今回の移動に際しては搬 送用人工呼吸器,VA-ECMO,IABP といった大型機器の ほかにシリンジポンプ 7 台と搭載機器の数が多かった。循 環動態の安定化のために VA-ECMO と IABP の搭載は不 可避であったが,シリンジポンプで投与していた薬剤に関 しては,できるだけ搭載数を減らす必要があった。薬剤は 循環動態安定化のカテコラミン類,抗血栓薬,安全性確保 のための鎮静薬があれば,移動に際しての安全性と状態安 定性は維持することはできたと考えられる。韓国では ECMO での呼吸循環動態の管理を行っている患者では, 人工呼吸器を使用せずに用手換気で安全に搬送できた例も 報告されている7)。 2つ目の課題は大型機器が安全に固定できていなかった 点などの安定性と安全面についてである。今回は 3 台のシ 図 2 救急車収容後の状況 表 1 横浜市消防局救急車仕様 室内長 4,110 mm(患者収容部2,750 mm) 室内幅 1,780 mm 室内高 1,850 mm 電源 AC100 V 出力コンセント(最大300 W) ガス配管 酸素ボンベ 2 本搭載 図 1 救急車内患者,接続機器配置図 , ,
リンジポンプを医師と臨床工学技士が手で所持し,IABP はもう一人の臨床工学技士が立ったまま支えた状態であっ た。患者の容態変化や機器のトラブルが生じた際は速やか に乗員が原因検索と対処をしなければならないが,機器の 保持のために乗員の手が塞がっていることにより,緊急時 対応ができない可能性が高かった。また緊急時対応として 侵襲的処置を行う必要性が生じた際に,十分な処置のス ペースも確保できていなかった。もし救急車が急なブレー キをかけた場合や何かしらの事故が生じた場合には,今回 の症例では乗員の両手が塞がっており,また一人は立位で あったことにより,乗員と患者の安全性を確保できていな かったと考えられる。それぞれの機器は救急車内の手すり や壁などにベルトやテープを用いてしっかりと固定するこ とで,スタッフも両手を空けておくことができたと考えら れる。 転院搬送には重症患者の搬送に特化したチームを前もっ て構成しておき,今回のような突然の相談の場合に直ちに 集結し,搬送に同乗する重症患者搬送チームの育成が有効 と考える。チームには医師だけでなく看護師や臨床工学技 士や呼吸療法士も重要な存在となる8,9)。日々の病棟間, 病棟検査室間といった患者搬送を繰り返すことで病院間搬 送の基礎を築き,そのうえで救急車や専用車両への患者収 容,機器搭載のシミュレーションや搬送中のトラブルや急 変を想定して訓練を実施することで病院間搬送もスムーズ に行えるようになる。 しかし重症患者搬送チームは,病院の規模や人員の数, 搬送を行う時間帯により迅速に機動できない問題が生じる 可能性がある。そのような場合には,重症患者管理や急変 対応,災害を含めた突然の事象への対応に慣れた救急医の 存在が求められる。救急医は,突然重症患者の転院搬送を 依頼された時に,かつ重症患者搬送チームが機動できない 場合でも迅速に対応しなければならない。当該患者の病態 と全身状態を速やかに把握し,搬送に際して必要な物品が 何か,現在接続された機器や設定が必要かどうか,その他 想定される急変とその対応方法を判断する必要がある。ま た移動手段となる車輌に積まれた物品を把握しておくこと も求められる。その判断の一助となるのが重症患者搬送に おけるチェックリストを用いた準備である(図 3 )。チェッ クリストには転院搬送に際しての患者の全身状態,つまり 気道,呼吸,循環,神経,その他の事項についての評価か ら,現在使用している治療薬剤と機器の内容,重症患者の 搬送に必要な最低限の物品,搬送中のモニタリング機器, 外部バッテリー,予備デバイス,緊急時対応マニュアルや 連絡先などを記載しておく。そうすることで,緊急時に必 要物品が手元にない状況を回避することが可能となる10,11)。 特に通常救急車の場合は,救急隊が現場活動に必要な物品 しか装備されていないため,急変時の対応に必要な物品の リストは必須となる。また大型機器の搭載を要する場合に は,それぞれの機器の固定器具とその固定方法に関しても 記載されていると機器の安全性および人員の安全性の確保 が期待できる。 おわりに 重症心不全患者の転院搬送に関して突然依頼され,通常 救急車で病院間搬送した症例を経験した。今回の経験によ り重症患者搬送時の問題点が抽出でき,当院でも重症患者 搬送チームの形成と訓練,そして患者搬送に際しての チェックリスト作成が不可欠であることが明らかとなった。 今後,LVAD の普及が進むにつれ,手術までの治療と全 身管理を目的とした VA-ECMO や IABP を要する患者数 はさらに増加し,その搬送もさらに普及していくことが予 想される。しかし医療機関ごとに搬送チーム育成や対応の 可否はそれぞれ異なるため,院内でのマニュアルの作成や, 地域全体で重症患者の移動を支えるシステム構築が必要で ある。ELSO でも定義された ECMO を要する患者の搬送 においては primary transport と secondary transport が あり,重症患者搬送チームが当該病院に出向き患者の評価 後に ECMO を導入し,中核病院に搬送する転院形態もあ る。ECMO の治療成績向上のためにも,導入を要する重 症心不全,呼吸不全患者を集約する重要性も叫ばれており, 地域の三次医療施設を中核とした各医療機関で連携し,ス ムーズに ECMO 導入や患者搬送を行えるようになること が望まれる。
利益相反:なし 文 献 1) 竹内一郎:心臓移植が必要な重症心不全患者を災害支援 車にて陸路搬送した一例.日救急医会誌 2012;23:856-860. 2) 小笠原順子:防災ヘリによる体外設置型補助人工心臓装 着患者の航空搬送.体外循環技術2019;46:8-11. 3) Dirnberger D, Fiser R, Harvey C, et al:Extracorporeal
Life Support Organization(ELSO)Guidelines for ECMO Transport. Available online at : https://www. elso.org/Portals/0/Files/ELSO%20GUIDELINES%20 FOR%20ECMO%20TRANSPORT_May2015.pdf, Ac-cessed June25, 2020.
4) Cabrera AG, Proden P, Cleves MA, et al:Interhospital Transport of Children Requiring Extracorporeal Mem-brane Oxygenation Support for Cardiac Dysfunction. Congenit Heart Dis. 2011; 6 :202-208.
5) 清水敬樹:ECMO 搬送と集約化.人工臓器. 2017;46: 212-218.
6) Lindén V, Palmér K, Reinhard J, et al:Inter-hospital transportation of patients with severe acute respiratory failure on extracorporeal membrane oxygenation
-na-tional and interna-na-tional experience. Intensive Care Med 2001;27:1643-1648.
7) Ju YH, Cho WH, Park JM, et al:Interhospital Transport System for Critically Ill Patients:Mobile Extracorporeal Membrane Oxygenation without a Ventilator. Korean J Thorac Cardiovasc Surg. 2017;50:8-13.
8) Ericsson A, Frenckner B, Broman LM:Adverse Events during Inter-Hospital Transports on Extracorporeal Membrane Oxygenation. Prehosp Emerg Care 2017; 21:448-455.
9) Ehrentraut SF, Schroll B, Lenkeit S, et al:Interprofes-sional two-man team approach for interhospital trans-port of ARDS-patients under extracorporeal membrane oxygenation:A 10 years retrospective observational co-hort study. BMC Anesthesiol 2019;19.
10) Wilcox SR, Ries M, Bouthiller TA, et al:The Impor-tance of Ground Critical Care Transport:A Case Series and Literature Review. Journal of Intensive Care Med 2017;32:163-169.
11) Williams P, Karuppiah S, Greentree K, et al:A checklist for interhospital transport of critically ill patients im-proves compliance with transportation safety guidelines. Aust Crit Care 2019;10.
transporting team. However, if the team cannot correspond, emergency physicians should manage. So, emergency physi-cians need to prepare and make the checklist of medical equipment and manual expecting troubleshooting. And EC-MO-assisted patients should be consolidated to the hospital serving as the center of community medicine in a region and be supported by community.