3軸角速度センサによる動作分析の可能性 ―歩行時の下肢動作分析より―
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(2) 34. 埼玉理学療法 第 12 巻第 1 号. 図1. 計測機器. 図 2 センサ取付け場所およ. び実験風景 中継ボックスは市販のブラスチックケースを利用し, 配線およびコネクタとセンサへの電源供給のための乾 大腿外側,下腿外側,足背部に 電池ボックス(単 4 × 3)を収納した。中継ボックスと センサを装着し,トレッドミル上 NR-2000 の間は RS-232C ケーブルを加工した。NR-2000 で歩行。 とパソコンは市販の USB ケーブルで接続した。NR2000 は A/D 変換器として利用し,データ収集はパソコ ン上のソフト(WAVE SHOT! 2000)で操作した。 社製)を用いて行った。データ収集は,3 つの センサから同時に収集できるよう設定し,サン た。関節運動の速度が計測できると,そこから. プリング周波数は 50 Hz とした。収集後の計測. 移動距離(角度)や加速度の算出も可能である。. データは EXCEL 形式のファイルに出力し,解. 比較的安価で操作性がよく,運動を拘束しない. 析・グラフ作成等を行った。. 本システムは臨床での応用に適していると考え る。この 3 軸角速度センサを運動力学的な動作. 3.計測方法(図 2). 分析の方法の一手段とすることで理学療法の. ① センサを平坦で振動の起こらない台または. EBM に貢献できると考える。. 被験者および方法 1.被験者. 床の上に置き,40 秒間計測し,その平均 値をオフセット電圧とした。オフセット電 圧は被験者へのセンサ装着直前に計測した。 ② 被験者の左下肢の以下 3 カ所にセンサを装. 被験者は,整形外科的・内科的疾患を有さな. 着した。センサの裏面には両面テープを貼. い健康な本校男子学生とした。年齢は 24 歳,. り,センサの上から面ファスナーで更に固. 身長 177.0 cm,体重 70.0 kg であった。被験者. 定した。. には事前に実験目的・方法を説明し,了承を得. ・大腿部(膝関節外側裂隙より 10 cm 上部. た後計測を行なった。. で,矢状面上の位置)。 ・下腿部(外果中央より 10 cm 上部で,矢. 2.計測機器およびソフトウェア 3 軸角速度センサは MP-G3-01A(マイクロス. 状面上の位置)。 ・足 部(足部背側の比較的平坦な位置)。. トーン社製)を 3 セット用いた。3 軸角速度セ. ③ トレッドミル上で,4 km/h の速度で歩行中. ンサはケーブル配線と電源供給のための自作の. の各センサに発生する角速度を 40 秒間計. 中継ボックスを介してデータ収集システム. 測した。計測は歩行開始より 15 秒以上経. NR-2000(キーエンス社製)に接続した。さら. 過し歩容が安定したところより開始した。. に USB ケーブルにて NR-2000 とパソコンを接 続した(図 1) 。計測データの収集は付属のソ フトウェア「WAVE SHOT! 2000」(キーエンス. 結 果 歩行動作において,踵接地時に足関節が底屈.
(3) 3 軸角速度センサによる動作分析の可能性 35. 図3. 歩行中の足関節の動き(矢状面). 足背部に装着したセンサで計測した角速度データ。踵接地および足趾離 地のポイントを図中に示す。踵接地直後と立脚後期に速い底屈運動が計測 され,足趾離地直後より遊脚期には背屈運動が計測された。. 図4. 1 歩行周期中の下肢関節の動きに伴う角速度の変化. 大腿外側,下腿外側,足背部に装着したそれぞれのセンサで計測した角 速度。センサ内の直交する 3 本の測定軸が各関節の 3 つの運動軸の運動を 反映している。.
(4) 36. 埼玉理学療法 第 12 巻第 1 号. 表1. 1 歩行周期中の下肢各関節運動の平均角速度. 大腿部(股関節) (単位: deg/s) 伸展(+)/屈曲(−) 外転(+)/内転(−) 外旋(+)/内旋(−) 立脚前期. 14.1. − 12.9. − 5.3. 中期. 3.8. − 15.7. 13.2. 後期. − 74.2. 6.0. 40.9. 遊脚前期. − 165.9. − 28.4. − 3.8. 後期. − 64.2. − 23.5. − 72.2. 下腿部(膝関節) (単位: deg/s) 屈曲(+)/伸展(−) 外反(+)/内反(−) 外旋(+)/内旋(−) 立脚前期. 91.8. 26.8. 17.3. 中期. 94.4. 45.2. 23.6. 後期. 141.6. 71.2. 54.6. 遊脚前期. − 11.9. − 95.1. − 0.2. 後期. − 138.9. − 133.6. − 102.9. 足部(足関節) (単位: deg/s) 外転(+)/内転(−) 背屈(+)/底屈(−) 内反(+)/外反(−) 立脚前期. 42.6. − 73.5. − 25.5. 中期. 9.2. 1.1. − 25.8. 後期. 115.0. − 273.5. 4.6. 遊脚前期. − 126.2. 199.0. 91.9. 後期. − 233.5. 151.9. 42.1. 方向に運動を始めるタイミングから次の同タイ. 考 察. ミングまでを 1 歩行周期とした。また,1 歩行 周期の中で最大底屈位から背屈方向に運動が切 り替わる点を足指離地とした(図 3)。 1 歩行周期中の足指離地の点を境に立脚期と. 計測データをもとに一般的な文献に記載され ている内容と比較しながら今回の歩行を考察し てみる。. 遊脚期に分け,さらに立脚期を 3 相,遊脚期を. 丸山らによると,股関節の屈曲・伸展方向の. 2 相にそれぞれ経過時間をもとに等分に分割し. 動きは,踵接地の時点では約 20 °の屈曲位をと. た。大腿部のセンサが示す主に股関節周りの運. っている。ここから徐々に伸展運動をしていき,. 動,下腿部のセンサが示す主に膝関節周りの運. 立脚中期には中間位をとった後,立脚後期には. 動,および足部のセンサが示す主に足関節周り. 伸展位となり,踵離地時に最も伸展する。この. の運動は図 4 のようになった。. 後,屈曲方向の運動になり,足指離地時には約. 1 歩行周期に要した時間は 1.14 秒であり,立. 10 °伸展位で,遊脚期に中間位を越えて屈曲位. 脚期 0.72 秒(63.2 %),遊脚期 0.42 秒(36.8 %). となり,遊脚中期に約 22 °の最大屈曲位をとっ. であった。1 歩行周期の各相で各々のセンサの. 4) た後,次の踵接地へとつながるとされる 。今. 各々の軸に発生した角速度の平均は表 1 に示し. 回の角速度の変化を見ると,矢状面の立脚前期. たとおりとなった。. の運動は伸展方向に平均 14.1 deg/s,立脚中期 では伸展方向に 3.8 deg/s,立脚後期では屈曲方.
(5) 3 軸角速度センサによる動作分析の可能性 37. 向に 74.2 deg/s であった。遊脚期では遊脚前期. る。この後,伸展運動が起こり,踵離地の時点. で屈曲方向に 165.9 deg/s,遊脚後期で屈曲方向. ではほぼ完全伸展位となる。踵離地以降再び屈. に 64.2 deg/s であった。立脚前期は平均すると. 曲運動が起こり,最大屈曲位となる遊脚中期を. 伸展方向への運動であるが,ごく前半の 0.6 秒. 境に伸展運動が起こり,次の踵接地時には完全. 間には平均 24.3 deg/s の屈曲方向への運動が存. 4) 伸展位となるとされる 。角速度の変化を見る. 在した。同時期は膝関節が踵接地後 100.0 deg/s. と,立脚前期では平均角速度 91.8 deg/s,立脚. 以上の角速度で屈曲している時期であり,踵接. 中期では平均角速度 94.4 deg/s,立脚中期では. 地時の衝撃吸収を目的とした膝関節屈曲動作に. 平均角速度 141.6 deg/s の屈曲が起こり立脚期に. 連鎖した股関節の運動を表しているものと考え. は伸展方向への角速度は踵接地直後の 0.2 秒間. た。また,立脚中期は平均すると伸展方向への. に 61.8 deg/s の運動が計測されたのみであった。. 動きであるが,ごくわずかな屈曲方向への動き. 遊脚前期の後半より遊脚後期では早い伸展運動. もとらえることが出来た。これは重心線が膝関. が計測できた。踵接地後の衝撃吸収に寄与する. 節軸よりも前方に移ることで起こる屈曲方向へ. 膝関節屈曲は認められたものの,立脚中期での. の動きを反映しているものと考えた。. 完全伸展は認められず。角速度から見る限りで. 股関節の内・外転方向の動きは,踵接地時は ほぼ中間位で,足底接地まで約 4 °の内転運動. はいわゆる二重膝作用(Double knee action) は 捉えられなかった。. の後,外転運動に移る。立脚中期で中間位とな. 足関節は 1 歩行周期中に底屈運動と背屈運動. った後も外転運動を続け,踵離地で最大外転位. を 2 回行なう。踵接地時にはやや背屈位で入り,. 4) となり,再び内転運動に移るとされる 。角速. 底屈運動が始まる。足底接地時には底屈位とな. 度の変化を見ると,立脚前期の前半部に外転方. り,ここより背屈運動が開始される。踵離地の. 向の運動が認められるが平均では内転方向への. とき最大背屈位となり,この後,急激な底屈運. 動きとなっていた。立脚中期では常に内転方向. 動により,足指離地時には最大底屈位になる。. への運動であるが,立脚後期では外転方向へと. 遊脚期は背屈運動が起こり,遊脚中期以降,約. 運動方向が切り替わる。遊脚期では再び内転方. 5 °の背屈位を保ったまま,次の踵接地に移行. 向への運動が発生していた。つまり 1 歩行周期. 4) するとされる 。角速度の変化を見ると,立脚. の中で立脚初期の前半と立脚後期に外転方向へ. 前期では平均角速度 73.5 deg/s の底屈が起こり,. の運動がみとめられ,1 歩行周期に外転・内転. 最大底屈角速度は 290.7 deg/s と速い運動であっ. は 2 回ずつ繰り返されていることが分かった。. た。立脚中期では前半に底屈運動が残っている. 股関節の内・外旋方向の動きは,立脚相(足 底接地から踵離地まで)で約 4 °の内旋,遊脚. ものの後半は背屈方向への運動に切り替わり, 平均で 1.1 deg/s の緩やかな背屈運動が記録され. 相(足指離地から踵接地まで)で約 4 °の外旋. た。立脚後期では平均角速度 273.5 deg/s の速い. 4) が起こるとされる 。角速度の変化を見ると,. 底 屈 運 動 が 起 こ り ,最 大 底 屈 角 速 度 は. 立脚前期から立脚中期の前半にかけて細かな内. 639.1 deg/s を示した。遊脚期は再び背屈方向へ. 外旋のふらつきが 2 度認められた。それ以降の. と運動方向が切り替わり,遊脚前期では平均角. 立脚期から遊脚前期の前半にかけては外旋方向. 速 度 199.0 deg/s,立 脚 後 期 で は 平 均 角 速 度. への運動のみが計測された。遊脚前期の後半か. 151.9 deg/s の背屈が計測された。. ら踵接地までは内旋方向への運動のみ計測され. 足部の内・外反の動きは,踵接地時の内反位. た。この運動は丸山らの報告とは異なり,立脚. は,足底接地時にかけての急激な外反運動で約. 相では外旋運動を行ない,遊脚相では内旋運動. 3 °程度の外反位となる。踵離地後には内反運. を行っていること示した。. 動を開始し,足指離地時に最大内反位となった. 膝関節の屈曲・伸展方向の運きは,踵接地時. 後,外反運動が起こり,遊脚中期以降は再び内. には 0 °の完全伸展位であるが,ここから屈曲. 反運動を起こし,次の踵接地に移行するとされ. 運動が始まり足底接地時に約 15 °の屈曲位をと. 4) る 。角速度の変化を見ると,立脚前期では平.
(6) 38. 埼玉理学療法 第 12 巻第 1 号. 均角速度 25.5 deg/s,立脚中期では平均角速度. 今回の実験で 3 軸角速度センサによる動作分. 25.8 deg/s の外反が起こった。その後,立脚後. 析の可能性とその有用性が一部示されたと考え. 期の後半に至るまでは外反運動を継続するが,. た。実用にはさらに,今回使用した 3 軸角速度. 立脚後期の後半より内反方向への運動に切り替. センサの信頼性を示す必要があり,また,従来. わ っ た 。続 い て ,遊 脚 前 期 で は 平 均 角 速 度. の動作分析で主流である 3 次元動作解析装置や. 91.9 deg/s,遊脚後期では平均角速度 42.1 deg/s. 床反力計での分析結果と比較検討する必要があ. の内反が起こった。. る。そのことにより,今回のシステムが理学療. 以上のように,3 軸角速度センサを用いて歩. 法分野での EBM に貢献できるものと考えた。. 行分析を行うと,運動の細部にわたる分析が可. おわりに. 能であった。大がかりな動作分析装置を使用せ ずとも,被験者の細かな歩行の特徴を分析でき. 本研究は,埼玉医療福祉専門学校の卒業研究. る非常に有益な機器であると考えた。いわゆる. として行ったものを再考し,まとめたものであ. モトスコピーでの動作分析では客観的データが. る。指導教員のもと熟考を重ねたものではある. 得られにくく,験者の技量にも左右される要素. が,理学療法士を目指す学生の身でありまだま. が多い。今回使用したような簡便な機器でもモ. だ考えの甘さが露呈していることと思われる。. トメトリー,モトグラフィー的な歩行分析が可. ご容赦頂きたい。. 能である。より客観的なデータを示すことが出 来たことより,3 軸角速度センサは理学療法分 野における運動力学的な動作分析において,十 分に 1 つの分析手段となりうると考えた。加え て,今回は下肢のみにセンサを設置したが,さ らに上肢や体幹に設置することで全身的な動作 分析も可能であると考えた。 今回は被験者 1 名のみの歩行分析結果を示し た。本被験者が教科書的な歩行をしているかど うかにはこだわらず,今回使用したシステムで どの程度詳しく動作を表すことができるかに重 きを置いた。今後,計測した角速度をどのよう に表現するか,データをどのように加工するか を研究していく必要があると考えた。また,多 くのデータを収集し,基準となるデータ作りや 疾患別の特徴を把握する作業が必要である。. 文 献 1) 木藤伸宏,島澤真一,弓削千文・他:加速度セ ンサを用いた変形性膝関節症の歩行時下肢運動 の解析.理学療法学,31(1): p86–94, 2004. 2) 菅川祥枝,木藤伸宏,島澤真一・他:内側型変 形性膝関節症における歩行時大腿・下腿回旋運 動の解析.理学療法学,31(7): p412–419, 2004. 3) 田中尚文,園田 茂,村岡慶裕・他:小型加速 度計による歩行分析の再現性および妥当性の検 討.リハビリテーション医学,33(8): p549–553, 1996. 4) 丸山仁司(編):ザ歩行 第 1 版,アイペック, 東京,2003, p23-29, p87–104. 5) 齋藤 宏,長崎 浩:臨床運動学第 3 版,中村 隆一,医歯薬出版,東京,2002, p36–38. 6) 中村隆一,齋藤 宏・他:基礎運動学第 5 版, 医歯薬出版,東京,2002, p333–350..
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