*1 名城大学大学院 理工学研究科 社会基盤デザイン工学専攻 (〒468-8502 名古屋市天白区塩釜口 1-501) *2 名城大学大学院 理工学研究科 社会環境デザイン工学専攻 (〒468-8502 名古屋市天白区塩釜口 1-501) *3 同済大学(名城大学 総合研究所 共同研究員) (〒468-8502 名古屋市天白区塩釜口 1-501) *4 第 2 種正会員 博士(工学) 名城大学 理工学部 社会基盤デザイン工学科 教授 (〒468-8502 名古屋市天白区塩釜口 1-501)
繰り返し曲げを受ける鋼部材の
延性破壊メカニズムに関する実験的研究
EXPERIMENTAL STUDY ON DUCTILE FRACTURE MECHANISM OF STEEL MEMBERS UNDER CYCLIC BENDING
吉田 聡一郎*1 藤江 渉*2 賈 良玖*3 葛 漢彬*4 Soichiro YOSHIDA *1 Wataru FUJIE *2 Liang-Jiu JIA *3 Hanbin GE *4 1. 緒言 1995 年 1 月に発生した兵庫県南部地震で,冷間成 形鋼管柱と通しダイヤフラムの溶接部が破断すると いう被害が見られた.そればかりでなく,ラーメン 骨組みの梁端部の外部鉄骨柱部材,鉄道高架橋を支 持する柱部材にも明瞭な脆性的な破壊が発生したこ とが分かった.これらは,いずれも熱間圧延又は鋳 造の厚肉鋼材であり,溶接部のみならず母材で破断 するケースも見られた[1].写真 1 は神戸高速鉄道の 三宮駅付近の高架橋の鋳鉄製の橋脚における脆性的 な破壊の事例である[1].すなわち,脆性的な破壊は 冷間加工材や溶接部のみの問題ではなく,局部座屈 が生じにくい厚肉鋼材に潜在する一般的な問題であ る事が実証された.既往の研究[2]から,延性き裂を 起点としてき裂が進展し,限界まで達すると脆性的 な破壊が生じることが分かっている.そのため,鋼 材の延性き裂発生条件についての研究[3,4]や,延性 き裂から脆性的な破壊へと至る破壊メカニズムにつ いて検討した研究[5]等が行われている. 延性き裂発生や低サイクル疲労寿命に関する研究 は近年多くみられる一方,き裂進展に伴う断面欠損 と耐力等の耐震性能との関係を検討する研究は多く ない.現行の土木学会の鋼・合成構造標準示方書で は,鋼製橋脚はレベル 2 地震動に対して塑性変形を 許容するエネルギー吸収部材として設計されるが, 低サイクル疲労に対しては,き裂発生を許容しない ABSTRACT This study is aimed to investigate cracking mechanism of steel members under
cyclic bending. The process of crack initiation and propagation in the seven specimens are studied. The effects of notch shape and cyclic loading pattern on ductile fracture of the specimens are discussed. A large radius notch can delay crack initiation and propagation. Also, differences in loading pattern affect crack initiation and propagation. Therefore, the strength, cumulative ductility ratio and energy absorption of the specimens show different results depending on the notch shape and loading pattern.
Keywords: 延性破壊,繰り返し載荷,U ノッチ,V ノッチ,き裂進展率
ductile fracture, cyclic loading, U-notch, V-notch, crack propagation rate
写真 1 神戸高速鉄道の三宮駅付近の
号試験片)の単調引張試験(Coupon 試験)により得 られた. 実構造物ではひずみ集中部(溶接止端部やきず等 の欠陥)から延性き裂が発生し脆性的な破壊に至る ことが懸念されている[5].そこで,本研究では簡易 的にひずみ集中部を再現するため,切り欠きを設け た実験試験体を製作した.実験試験体の切り欠き形 状は U 形と V 形であり,切り欠き深さは全て 2mm とし,ノッチ半径 R は V 形の場合 0.25mm,U 形の 場合 1.0mm と 4.0mm の 2 種類で計 3 種類である.こ こで,U ノッチは溶接止端部を想定したものであり, ノッチ半径 R は文献[7]を参考に R=1.0mm,4.0mm と した.ノッチ半径は,溶接止端半径の計測事例も参 考に設定しているが,これについては後述する.ま た,きず等のより厳しいひずみ集中部を想定し,既 往の研究[7,12]を参考に最も鋭い切り欠きとして, R=0.25mmの V ノッチも検討した.なお,実験試験 体名は例として,R1.0-U-I の場合,R の後の 1.0 がノ ッチ半径,U がノッチ形状,I が載荷パターンを表し ている. 2.2 三点曲げ実験方法 実験には荷重±500kN,ストローク±75mm まで制 御可能な MTS 試験機を用いる.また実験装置の両端 と試験体中央にはローラーを用いた治具を設置し, 繰り返し三点曲げ載荷実験を行っている.支持条件 はピン支持とし,支間長は 540mm となっている.試 験装置概要を図 2 に示す. 変位計は実験試験体の中央の変位,治具の上部お よび下部の変位を測定するように設置している.変 位計および治具の設置位置を図 3 に示す.載荷パタ ーンは図 4 に示しているように漸増載荷,一定振幅 載荷,ランダム載荷である.本実験で試験体中央に 外側治具 試験体 中央治具 (a) MTS 試験機正面図 (b) MTS 試験機等角図 図 2 試験体設置概要 図 3 変位計および治具の設置位置 ローラー 支間長 540mm 変位計 0 10 20 -15 -10 -5 0 5 10 15 Half cycle δ / δ y 0 10 20 -15 -10 -5 0 5 10 15 Half cycle δ / δ y 0 10 20 -15 -10 -5 0 5 10 15 Half cycle δ / δ y 0 10 20 -15 -10 -5 0 5 10 15 Half cycle δ / δ y 0 10 20 30 -5 0 5 10 15 Half cycle δ / δ y (a) 漸増載荷(I) (b) ±14δy一定振幅載荷(CL) (c) ±10δy一定振幅載荷(CM) (d) ±6δy一定振幅載荷(CS) (e) ランダム載荷(R) 図 4 載荷パターン 試験体 こととされている[6].一方,近年の地震災害の経験 から,レベル 2 地震動を超えるような外力が入力さ れ,構造物が崩壊に至っても,被害を最小限に抑え ることが重要であるという認識が広まりつつある[6]. 鋼製橋脚の崩壊過程では,局部座屈とともにき裂が 大きく進展すると考えられ,き裂進展による断面欠 損と部材のエネルギー吸収量との関係について考察 することは,今後の鋼製橋脚をはじめとする土木鋼 構造物の耐震性能を議論していく上で有用であろう. そこで,著者らは既往の研究[7]において,鋼製ラ ーメン橋脚の隅角部等が地震動によって繰り返し曲 げを受けた時を想定し,レ型開先溶接された T 型溶 接継手に対して繰り返し三点曲げ載荷実験を行い, 延性き裂の発生・進展および破断までの挙動を調べ, き裂進展と耐力,累積塑性率およびエネルギー吸収 量との関係について検討した.また,文献[7]の実験 結果を基に,3 段階 2 パラメータ延性破壊モデル[8] を適用したき裂進展解析を行い,き裂進展と耐力等 を統一的に評価可能な解析手法を提案した[9-11].し かしながら,繰り返し荷重下のき裂進展と耐震設計 上の指標(耐力,累積塑性率およびエネルギー吸収 量)との関係を評価する研究は,実験的,解析的研 究ともに未だ十分とは言えない. 本研究ではより基礎的な知見を得るため,溶接継 手ではなく母材を対象に繰り返し三点曲げ載荷実験 を行い,延性き裂発生・進展および破断までの挙動 を調べる.そして,き裂進展と耐震設計上の指標と の関係について検討する.さらに,本研究では漸増 載荷のみならず,文献[7]とは異なる変位振幅の一定 振幅載荷と地震時を想定したランダム載荷での実験 も実施し,き裂進展挙動の比較を行う. 2. 実験概要 2.1 試験体概要 試験体は SM490YB 材を用いた母材で 7 本あり, 全てに人工的な切り欠きを設けている.試験体概要, 試験体概要一覧(ノッチ形状や実験での載荷パター ン)および SM490YB 鋼材の機械的性質をそれぞれ 図 1,表 1 および表 2 に示す.機械的性質は本試験 体と同鋼板から作製した材料試験片(JIS 規格で 14B (a) 試験体全体図 (c) U ノッチ詳細(R=1.0) (b) V ノッチ詳細(R=0.25) 図 1 試験体概要 (d) U ノッチ詳細(R=4.0) 275 275 275 275 2 0 5 40 5 No. 試験体名 ノッチ半径(mm) 載荷パターン 1 R0.25-V-I 0.25 2δyずつ漸増載荷 2 R1.0-U-I 1.0 3 R4.0-U-I 4.0 4 R1.0-U-CL 1.0 一定振幅載荷(±14δy) 5 R1.0-U-CM 1.0 一定振幅載荷(±10δy) 6 R1.0-U-CS 1.0 一定振幅載荷(±6δy) 7 R1.0-U-R 1.0 ランダム載荷 表 1 試験体概要一覧 鋼材 SM490YB ヤング率 E (GPa) 210 ポアソン比 ν 0.273 降伏応力 σy (MPa) 363 引張強度 σu (MPa) 510 硬化ひずみ εst (%) 1.59 破断伸び(%) 31.1 表 2 機械的性質 (単位:mm) ※板幅 40mm
号試験片)の単調引張試験(Coupon 試験)により得 られた. 実構造物ではひずみ集中部(溶接止端部やきず等 の欠陥)から延性き裂が発生し脆性的な破壊に至る ことが懸念されている[5].そこで,本研究では簡易 的にひずみ集中部を再現するため,切り欠きを設け た実験試験体を製作した.実験試験体の切り欠き形 状は U 形と V 形であり,切り欠き深さは全て 2mm とし,ノッチ半径 R は V 形の場合 0.25mm,U 形の 場合 1.0mm と 4.0mm の 2 種類で計 3 種類である.こ こで,U ノッチは溶接止端部を想定したものであり, ノッチ半径 R は文献[7]を参考に R=1.0mm,4.0mm と した.ノッチ半径は,溶接止端半径の計測事例も参 考に設定しているが,これについては後述する.ま た,きず等のより厳しいひずみ集中部を想定し,既 往の研究[7,12]を参考に最も鋭い切り欠きとして, R=0.25mmの V ノッチも検討した.なお,実験試験 体名は例として,R1.0-U-I の場合,R の後の 1.0 がノ ッチ半径,U がノッチ形状,I が載荷パターンを表し ている. 2.2 三点曲げ実験方法 実験には荷重±500kN,ストローク±75mm まで制 御可能な MTS 試験機を用いる.また実験装置の両端 と試験体中央にはローラーを用いた治具を設置し, 繰り返し三点曲げ載荷実験を行っている.支持条件 はピン支持とし,支間長は 540mm となっている.試 験装置概要を図 2 に示す. 変位計は実験試験体の中央の変位,治具の上部お よび下部の変位を測定するように設置している.変 位計および治具の設置位置を図 3 に示す.載荷パタ ーンは図 4 に示しているように漸増載荷,一定振幅 載荷,ランダム載荷である.本実験で試験体中央に 外側治具 試験体 中央治具 (a) MTS 試験機正面図 (b) MTS 試験機等角図 図 2 試験体設置概要 図 3 変位計および治具の設置位置 ローラー 支間長 540mm 変位計 0 10 20 -15 -10 -5 0 5 10 15 Half cycle δ / δ y 0 10 20 -15 -10 -5 0 5 10 15 Half cycle δ / δ y 0 10 20 -15 -10 -5 0 5 10 15 Half cycle δ / δ y 0 10 20 -15 -10 -5 0 5 10 15 Half cycle δ / δ y 0 10 20 30 -5 0 5 10 15 Half cycle δ / δ y (a) 漸増載荷(I) (b) ±14δy一定振幅載荷(CL) (c) ±10δy一定振幅載荷(CM) (d) ±6δy一定振幅載荷(CS) (e) ランダム載荷(R) 図 4 載荷パターン 試験体 こととされている[6].一方,近年の地震災害の経験 から,レベル 2 地震動を超えるような外力が入力さ れ,構造物が崩壊に至っても,被害を最小限に抑え ることが重要であるという認識が広まりつつある[6]. 鋼製橋脚の崩壊過程では,局部座屈とともにき裂が 大きく進展すると考えられ,き裂進展による断面欠 損と部材のエネルギー吸収量との関係について考察 することは,今後の鋼製橋脚をはじめとする土木鋼 構造物の耐震性能を議論していく上で有用であろう. そこで,著者らは既往の研究[7]において,鋼製ラ ーメン橋脚の隅角部等が地震動によって繰り返し曲 げを受けた時を想定し,レ型開先溶接された T 型溶 接継手に対して繰り返し三点曲げ載荷実験を行い, 延性き裂の発生・進展および破断までの挙動を調べ, き裂進展と耐力,累積塑性率およびエネルギー吸収 量との関係について検討した.また,文献[7]の実験 結果を基に,3 段階 2 パラメータ延性破壊モデル[8] を適用したき裂進展解析を行い,き裂進展と耐力等 を統一的に評価可能な解析手法を提案した[9-11].し かしながら,繰り返し荷重下のき裂進展と耐震設計 上の指標(耐力,累積塑性率およびエネルギー吸収 量)との関係を評価する研究は,実験的,解析的研 究ともに未だ十分とは言えない. 本研究ではより基礎的な知見を得るため,溶接継 手ではなく母材を対象に繰り返し三点曲げ載荷実験 を行い,延性き裂発生・進展および破断までの挙動 を調べる.そして,き裂進展と耐震設計上の指標と の関係について検討する.さらに,本研究では漸増 載荷のみならず,文献[7]とは異なる変位振幅の一定 振幅載荷と地震時を想定したランダム載荷での実験 も実施し,き裂進展挙動の比較を行う. 2. 実験概要 2.1 試験体概要 試験体は SM490YB 材を用いた母材で 7 本あり, 全てに人工的な切り欠きを設けている.試験体概要, 試験体概要一覧(ノッチ形状や実験での載荷パター ン)および SM490YB 鋼材の機械的性質をそれぞれ 図 1,表 1 および表 2 に示す.機械的性質は本試験 体と同鋼板から作製した材料試験片(JIS 規格で 14B (a) 試験体全体図 (c) U ノッチ詳細(R=1.0) (b) V ノッチ詳細(R=0.25) 図 1 試験体概要 (d) U ノッチ詳細(R=4.0) 275 275 275 275 2 0 5 40 5 No. 試験体名 ノッチ半径(mm) 載荷パターン 1 R0.25-V-I 0.25 2δyずつ漸増載荷 2 R1.0-U-I 1.0 3 R4.0-U-I 4.0 4 R1.0-U-CL 1.0 一定振幅載荷(±14δy) 5 R1.0-U-CM 1.0 一定振幅載荷(±10δy) 6 R1.0-U-CS 1.0 一定振幅載荷(±6δy) 7 R1.0-U-R 1.0 ランダム載荷 表 1 試験体概要一覧 鋼材 SM490YB ヤング率 E (GPa) 210 ポアソン比 ν 0.273 降伏応力 σy (MPa) 363 引張強度 σu (MPa) 510 硬化ひずみ εst (%) 1.59 破断伸び(%) 31.1 表 2 機械的性質 (単位:mm) ※板幅 40mm
把握するのが望ましいが,その手法の検討を含め今 後の課題としたい. 既往の研究[7,8]では,破断が瞬間的であるため, 引張最大荷重に対して荷重が 50%低下した時点を破 断時と定義していたが,今回はその現象がほとんど 見られなかったため,破断時は破断した Half cycle 時の急激な荷重低下が確認された点のものとし,そ の Half cycle と変位および荷重の比較を行った.なお, 以降においてランダム載荷の場合の振幅については, 極小値と極大値の差としている. 3.1 破壊状況 例として No.1 R0.25-V-I のき裂発生,進展および 破断までの実験状況の写真を写真 3 に示し,各試験 体の破断面の様子を写真 4 に示す.写真 3(a)から分 かるように V ノッチ底部がひずみ集中部となり,ノ ッチ底部からき裂が発生した.その後,き裂は徐々 に進展し,15Half cycle 時に写真 3(b)に示す状況であ る.14Half cycle で下側の R 部でき裂が発生し,写真 3(c)に示すように 16Half cycle で大きくき裂が進展し, そして 18Half cycle で上下のき裂がつながり破断に 至った.破断ルートは写真 3(d)より,上側のき裂は 板厚方向に対して垂直下向きに進展し,下側のき裂 は右下から左上方向に進展していることが分かる. 最終的に,側面から見ればくの字型になっている. また,破断面におけるき裂深さは上側のき裂の方が 深いことが確認できた.これは上側だけにノッチが 設けられているため,ひずみが下側の R 部よりも集 中したからである.以上の見解は写真 4(a)の破断面
(a) No.1 R0.25-V-I (b) No.2 R1.0-U-I (c) No.3 R4.0-U-I
(d) No.4 R1.0-U-CL (e) No.5 R1.0-U-CM (f) No.6 R1.0-U-CS
(g) No.7 R1.0-U-R 写真 4 各試験体破断面
※矢印:き裂進展方向
写真 5 破断面中央部の拡大写真(ディンプルと考えられる穴ぼこの様子)
(a) No.1 R0.25-V-I (b) No.2 R1.0-U-I
設置する治具の関係で,試験機のストローク限界が ±70mmであるため,図 4(a)に示すように,漸増振幅 繰り返し載荷は増加量を±2δyとし,設定した上限に 達した後は一定振幅載荷へ変更し載荷実験を継続し た.また,図4(e)に示すように,ランダム載荷は30Half cycleを 1 周とする Krawinkler らによって提案された もの[13]を用いている.ここで,30Half cycle に達し て破断に至らなかった場合,2 周目として 1Half cycle から再度,載荷実験を継続した. 既往の研究[14,15]において,ひずみ集中部である 溶接止端半径の計測が行われている.判治ら[14]は実 験試験体の溶接止端半径の平均値が 1.83mm であっ たと報告している.また,木下ら[15]の溶接止端半径 の計測結果の下限値は概ね 0.7~2mm 程度である.こ れらの計測事例も示すように,溶接止端半径として は 1.0mm 程度が一般的と思われる.以上のことも参 考にし,本研究ではノッチ半径が R=1.0mm の試験体 を基準と捉え,予備解析結果より算出した降伏変位 δ y =4.5mmを用いて載荷パターンを定めた. 3. 実験結果 本実験では,Half cycle ごとに載荷を一時中断し, 定規をき裂の上から当てて,マクロレンズ付きのカ メラにより撮影を行いき裂の測定を行っている.ま た,既往の研究[7,8]と同様に,き裂幅は試験体長さ 方向に測定し,き裂進展状況については側面観察で 行っている(き裂発生後,試験体板厚方向にき裂が 進展するため).き裂発生とき裂深さの測定状況を写 真 2 に示す.き裂発生時のき裂幅やき裂進展時のき 裂長さは,定規を当てた写真をコンピュータに取り 込み,画像データ上で定規の目盛とき裂を比較して 手作業にて計測した.き裂進展長さは文献[11]と同様 に以下の式(1)で定義する(写真 2(c)). 本研究のように試験体に大変形を与える場合,あ る程度き裂進展すると脆性的に破断する可能性があ り,実験実施者の安全も考慮して,き裂進展に関し ては試験体側面からの観察および計測とした.本研 究では,き裂の発生から破断までの過程における, 耐力,累積塑性率,エネルギー吸収量といった試験 体のマクロな指標について考察を行っており,側面 からのき裂長さを用いても有用な知見は得られるも のと考えている.ただし,後述するように試験体中 央部と側面ではき裂進展性状が異なることが考えら れるため,試験体中央部のき裂進展性状も実験的に b c t c c L L L = , + , (1) (a) き裂発生測定 (b) き裂進展測定 写真 2 き裂発生と進展の測定方法 (a) き裂発生 (b) き裂進展 (c) 下側き裂進展 (d) 破断
11 Half cycle 15 Half cycle 16 Half cycle 18 Half cycle
写真 3 き裂発生,進展および破断の様子(例:No.1 R0.25-V-I) L c,t L c,b t (c) き裂進展長さの定義 き裂進展長さ:Lc=Lc,t+Lc,b
把握するのが望ましいが,その手法の検討を含め今 後の課題としたい. 既往の研究[7,8]では,破断が瞬間的であるため, 引張最大荷重に対して荷重が 50%低下した時点を破 断時と定義していたが,今回はその現象がほとんど 見られなかったため,破断時は破断した Half cycle 時の急激な荷重低下が確認された点のものとし,そ の Half cycle と変位および荷重の比較を行った.なお, 以降においてランダム載荷の場合の振幅については, 極小値と極大値の差としている. 3.1 破壊状況 例として No.1 R0.25-V-I のき裂発生,進展および 破断までの実験状況の写真を写真 3 に示し,各試験 体の破断面の様子を写真 4 に示す.写真 3(a)から分 かるように V ノッチ底部がひずみ集中部となり,ノ ッチ底部からき裂が発生した.その後,き裂は徐々 に進展し,15Half cycle 時に写真 3(b)に示す状況であ る.14Half cycle で下側の R 部でき裂が発生し,写真 3(c)に示すように 16Half cycle で大きくき裂が進展し, そして 18Half cycle で上下のき裂がつながり破断に 至った.破断ルートは写真 3(d)より,上側のき裂は 板厚方向に対して垂直下向きに進展し,下側のき裂 は右下から左上方向に進展していることが分かる. 最終的に,側面から見ればくの字型になっている. また,破断面におけるき裂深さは上側のき裂の方が 深いことが確認できた.これは上側だけにノッチが 設けられているため,ひずみが下側の R 部よりも集 中したからである.以上の見解は写真 4(a)の破断面
(a) No.1 R0.25-V-I (b) No.2 R1.0-U-I (c) No.3 R4.0-U-I
(d) No.4 R1.0-U-CL (e) No.5 R1.0-U-CM (f) No.6 R1.0-U-CS
(g) No.7 R1.0-U-R 写真 4 各試験体破断面
※矢印:き裂進展方向
写真 5 破断面中央部の拡大写真(ディンプルと考えられる穴ぼこの様子)
(a) No.1 R0.25-V-I (b) No.2 R1.0-U-I
設置する治具の関係で,試験機のストローク限界が ±70mmであるため,図 4(a)に示すように,漸増振幅 繰り返し載荷は増加量を±2δyとし,設定した上限に 達した後は一定振幅載荷へ変更し載荷実験を継続し た.また,図4(e)に示すように,ランダム載荷は30Half cycleを 1 周とする Krawinkler らによって提案された もの[13]を用いている.ここで,30Half cycle に達し て破断に至らなかった場合,2 周目として 1Half cycle から再度,載荷実験を継続した. 既往の研究[14,15]において,ひずみ集中部である 溶接止端半径の計測が行われている.判治ら[14]は実 験試験体の溶接止端半径の平均値が 1.83mm であっ たと報告している.また,木下ら[15]の溶接止端半径 の計測結果の下限値は概ね 0.7~2mm 程度である.こ れらの計測事例も示すように,溶接止端半径として は 1.0mm 程度が一般的と思われる.以上のことも参 考にし,本研究ではノッチ半径が R=1.0mm の試験体 を基準と捉え,予備解析結果より算出した降伏変位 δ y =4.5mmを用いて載荷パターンを定めた. 3. 実験結果 本実験では,Half cycle ごとに載荷を一時中断し, 定規をき裂の上から当てて,マクロレンズ付きのカ メラにより撮影を行いき裂の測定を行っている.ま た,既往の研究[7,8]と同様に,き裂幅は試験体長さ 方向に測定し,き裂進展状況については側面観察で 行っている(き裂発生後,試験体板厚方向にき裂が 進展するため).き裂発生とき裂深さの測定状況を写 真 2 に示す.き裂発生時のき裂幅やき裂進展時のき 裂長さは,定規を当てた写真をコンピュータに取り 込み,画像データ上で定規の目盛とき裂を比較して 手作業にて計測した.き裂進展長さは文献[11]と同様 に以下の式(1)で定義する(写真 2(c)). 本研究のように試験体に大変形を与える場合,あ る程度き裂進展すると脆性的に破断する可能性があ り,実験実施者の安全も考慮して,き裂進展に関し ては試験体側面からの観察および計測とした.本研 究では,き裂の発生から破断までの過程における, 耐力,累積塑性率,エネルギー吸収量といった試験 体のマクロな指標について考察を行っており,側面 からのき裂長さを用いても有用な知見は得られるも のと考えている.ただし,後述するように試験体中 央部と側面ではき裂進展性状が異なることが考えら れるため,試験体中央部のき裂進展性状も実験的に b c t c c L L L = , + , (1) (a) き裂発生測定 (b) き裂進展測定 写真 2 き裂発生と進展の測定方法 (a) き裂発生 (b) き裂進展 (c) 下側き裂進展 (d) 破断
11 Half cycle 15 Half cycle 16 Half cycle 18 Half cycle
写真 3 き裂発生,進展および破断の様子(例:No.1 R0.25-V-I) L c,t L c,b t (c) き裂進展長さの定義 き裂進展長さ:Lc=Lc,t+Lc,b
Half cycle数は 11Half cycle と同じタイミングであっ たが,き裂発生時の荷重に着目すると No.2 R1.0-U-I の方が 6.4kN 大きい.また,最大荷重時においても, Half cycle数は 13Half cycle と同じタイミングであっ たが,最大荷重は No.2 R1.0-U-I の方が 7.9kN 大きく なった.最大荷重到達前にき裂発生が確認された試 験体は No.1 R0.25-V-I と No.2 R1.0-U-I のみであり, 両試験体ともに最大荷重後の荷重低下が急激である. これら 2 つの試験体は,ノッチ半径が R=0.25,1.0mm と小さく,ノッチ底部にひずみが過度に集中し最大 振幅(13Half cycle 時)に達する以前にき裂が発生し たために,最大荷重到達前にき裂が発生したと考え られる. 次に,図 6(b),(c)を比較して,漸増載荷における ノッチ半径の異なりによる影響を調べる.No.2 R1.0-U-I については前述の通りであるが,No.3 R4.0-U-I は最大荷重到達後にき裂が発生している. No.3 R4.0-U-Iはノッチ半径が R=4.0mm と大きく,ノ ッチ底部のひずみ集中が緩和し,き裂発生が遅れた と考えられる.なお,予備解析による解析結果では, 11Half cycle時において,No.2 R1.0-U-I におけるノッ チ底部のひずみは 2.65 程度,No.3 R4.0-U-I における ノッチ底部のひずみは 1.95 程度であった.この予備 解析は汎用解析プログラム ABAQUS(ver6.13)を用い ており,既往の研究[9,11]における非破壊解析と同様 の要素,境界条件,構成則を与えて実施した.メッ シュ分割は,試験体幅方向が 5 分割,ノッチ底部の 試験体側面のメッシュ分割は概ね0.5mm 角となるよ うにした.載荷パターンは実験と同様である. さらに,図 6(d)~(f)のノッチ形状が同一で載荷パ ターンが一定振幅載荷の試験体で比較を行う.一定 振幅載荷の試験体は漸増載荷のNo.2 R1.0-U-Iの場合 と異なり,最大荷重後にき裂が発生した.表 3 より No.4 R1.0-U-CLのみ最大荷重は 1Half cycle であった のに対して,他の一定載荷は No.5 R1.0-U-CM が 3 Half cycle,No.6 R1.0-U-CS が 7Half cycle の時であっ た.また,き裂発生から破断までの Half cycle 数の差 に関しては,No.4 R1.0-U-CL が 4Half cycle,No.5
0 10 20 30 40 50 0 10 20 30 40 引張側 圧縮側 引張側最大荷重 き裂発生 破断 Half cycle 荷 重 (kN ) 0 10 20 30 40 50 0 10 20 30 40 荷 重 (kN ) Half cycle 引張側 圧縮側 引張側最大荷重 き裂発生 破断 0 10 20 30 40 50 0 10 20 30 40 Half cycle 荷 重 (kN ) 引張側 圧縮側 引張側最大荷重 き裂発生 破断
(a) No.1 R0.25-V-I (b) No.2 R1.0-U-I (c) No.3 R4.0-U-I
(d) No.4 R1.0-U-CL (e) No.5 R1.0-U-CM (f) No.6 R1.0-U-CS
(g) No.7 R1.0-U-R 0 10 20 30 40 50 0 10 20 30 40 Half cycle 荷 重 (kN ) 引張側 圧縮側 引張側最大荷重 き裂発生 破断 0 10 20 30 40 50 0 10 20 30 40 Half cycle 荷 重 (kN ) 引張側 圧縮側 引張側最大荷重 き裂発生 破断 0 10 20 30 40 50 0 10 20 30 40 Half cycle 荷 重 (kN ) 引張側 圧縮側 引張側最大荷重 き裂発生 破断 0 20 40 60 80 0 10 20 30 40 Half cycle 荷 重 (kN ) 引張側圧縮側 引張側最大荷重 き裂発生 破断 図 6 包絡線 からも確認することができる.また,上下のき裂が つながったと見られる部分や,き裂が一気に進展し たと見られる部分には延性破壊により金属の伸びた 形跡と,ディンプルと考えられる穴ぼこが破断面中 央に確認できた.例として,No.1 R0.25-V-I と No.2 R1.0-U-Iの破断面中央部の拡大写真を写真5 に示す. 全試験体に共通して確認できたのは,はじめにき 裂が発生するのは必ず試験体上側の切り欠き部から であり,下側き裂はき裂発生後でもしばらく側面に き裂が現れることなく,内部深くにき裂進展してい た.また下側き裂の発生箇所は共通して,R 部の止 端部であった. 写真 4(a)~(c)から漸増載荷における破断面は中央 部が延性破壊により金属の伸びた形跡とディンプル と考えられる穴ぼこが確認できた(写真 5).次に, 写真 4(d)~(f)から一定載荷における破断面は疲労破 面の特徴であるビーチマーク状の模様が確認でき, 破断面両端には延性破壊の特徴であるディンプルと 考えられる穴ぼこが確認できた.さらに,写真 4(g) からランダム載荷における破断面にもビーチマーク 状の模様が確認できたが,一定載荷の破断面とは異 なり模様の間隔が様々であった.本研究では,肉眼 で観測可能なき裂進展と耐力やエネルギー吸収量等 のマクロな指標との関係に着目していることから, 破断面に関しても肉眼で観察できるマクロレベルの 観察までとしたが,今後の課題として,走査型電子 顕微鏡(SEM)によるミクロレベルの破断面観察によ る検討も行っていく予定である. 3.2 Half cycle と荷重および変位 本実験で得られた各試験体の最大荷重時・き裂発 生時および破断時の Half cycle,変位および荷重を表 3 に示す.前述したように,破断時の荷重は破断し た Half cycle 時の急激な荷重低下が確認された点の ものとした.また本実験では,一定振幅載荷および ランダム載荷は荷重-変位履歴曲線では,最大荷重 時,き裂発生時また破断時における Half cycle 数の確 認が難しいため,各サイクルの最大荷重をつないだ 包絡線を用いて各試験体の比較を行う.例として No.2 R1.0-U-I,No.5 R1.0-U-CM および No.7 R1.0-U-R の荷重-変位履歴曲線を図 5 に示し,各試験体の引 張側と圧縮側の包絡線を図 6 に示す.また,図 6 に おいて最大荷重はき裂発生が全て引張側であること から,引張側最大荷重を示している. 図 6(a),(b)を比較して,V ノッチと U ノッチでの ノッチ形状の異なりによる影響を調べる.No.1 R0.25-V-Iと No.2 R1.0-U-I において,き裂発生時の
No. 試験体 最大荷重時 き裂発生時 破断時 Half cycle 変位 (mm) 荷重 (kN) Half cycle 変位 (mm) 荷重 (kN) Half cycle 変位 (mm) 荷重 (kN) 1 R0.25-V-I 13 63.2 31.3 11 53.9 27.1 18 -47.5 -2.7 2 R1.0-U-I 13 63.2 39.2 11 54.1 33.5 18 -40.1 -2.4 3 R4.0-U-I 13 63.5 33.3 17 63.0 27.5 25 31.0 6.7 4 R1.0-U-CL 1 63.1 39.7 5 63.1 34.3 9 60.5 16.2 5 R1.0-U-CM 3 45.0 25.2 9 45.1 23.2 16 -39.1 -11.9 6 R1.0-U-CS 7 27.1 16.7 27 27.1 15.5 50 -27.2 -2.3 7 R1.0-U-R 2 67.5 39.5 32 67.6 33.9 76 65.4 12.6 表 3 最大荷重時・き裂発生時・破断時の Half cycle,変位および荷重 -60 -40 -20 0 20 40 60 -40 -20 0 20 40 変位(mm) 荷 重 (kN ) 最大荷重 き裂発生 破断 -60 -40 -20 0 20 40 60 -40 -20 0 20 40 変位(mm) 荷 重 (kN ) 最大荷重 き裂発生 破断 -60 -40 -20 0 20 40 60 -40 -20 0 20 40 変位(mm) 荷 重 (kN ) 最大荷重 き裂発生 破断
(a) No.2 R1.0-U-I (b) No.5 R1.0-U-CM (c) No.7 R1.0-U-R
Half cycle数は 11Half cycle と同じタイミングであっ たが,き裂発生時の荷重に着目すると No.2 R1.0-U-I の方が 6.4kN 大きい.また,最大荷重時においても, Half cycle数は 13Half cycle と同じタイミングであっ たが,最大荷重は No.2 R1.0-U-I の方が 7.9kN 大きく なった.最大荷重到達前にき裂発生が確認された試 験体は No.1 R0.25-V-I と No.2 R1.0-U-I のみであり, 両試験体ともに最大荷重後の荷重低下が急激である. これら 2 つの試験体は,ノッチ半径が R=0.25,1.0mm と小さく,ノッチ底部にひずみが過度に集中し最大 振幅(13Half cycle 時)に達する以前にき裂が発生し たために,最大荷重到達前にき裂が発生したと考え られる. 次に,図 6(b),(c)を比較して,漸増載荷における ノッチ半径の異なりによる影響を調べる.No.2 R1.0-U-I については前述の通りであるが,No.3 R4.0-U-I は最大荷重到達後にき裂が発生している. No.3 R4.0-U-Iはノッチ半径が R=4.0mm と大きく,ノ ッチ底部のひずみ集中が緩和し,き裂発生が遅れた と考えられる.なお,予備解析による解析結果では, 11Half cycle時において,No.2 R1.0-U-I におけるノッ チ底部のひずみは 2.65 程度,No.3 R4.0-U-I における ノッチ底部のひずみは 1.95 程度であった.この予備 解析は汎用解析プログラム ABAQUS(ver6.13)を用い ており,既往の研究[9,11]における非破壊解析と同様 の要素,境界条件,構成則を与えて実施した.メッ シュ分割は,試験体幅方向が 5 分割,ノッチ底部の 試験体側面のメッシュ分割は概ね0.5mm 角となるよ うにした.載荷パターンは実験と同様である. さらに,図 6(d)~(f)のノッチ形状が同一で載荷パ ターンが一定振幅載荷の試験体で比較を行う.一定 振幅載荷の試験体は漸増載荷のNo.2 R1.0-U-Iの場合 と異なり,最大荷重後にき裂が発生した.表 3 より No.4 R1.0-U-CLのみ最大荷重は 1Half cycle であった のに対して,他の一定載荷は No.5 R1.0-U-CM が 3 Half cycle,No.6 R1.0-U-CS が 7Half cycle の時であっ た.また,き裂発生から破断までの Half cycle 数の差 に関しては,No.4 R1.0-U-CL が 4Half cycle,No.5
0 10 20 30 40 50 0 10 20 30 40 引張側 圧縮側 引張側最大荷重 き裂発生 破断 Half cycle 荷 重 (kN ) 0 10 20 30 40 50 0 10 20 30 40 荷 重 (kN ) Half cycle 引張側 圧縮側 引張側最大荷重 き裂発生 破断 0 10 20 30 40 50 0 10 20 30 40 Half cycle 荷 重 (kN ) 引張側 圧縮側 引張側最大荷重 き裂発生 破断
(a) No.1 R0.25-V-I (b) No.2 R1.0-U-I (c) No.3 R4.0-U-I
(d) No.4 R1.0-U-CL (e) No.5 R1.0-U-CM (f) No.6 R1.0-U-CS
(g) No.7 R1.0-U-R 0 10 20 30 40 50 0 10 20 30 40 Half cycle 荷 重 (kN ) 引張側 圧縮側 引張側最大荷重 き裂発生 破断 0 10 20 30 40 50 0 10 20 30 40 Half cycle 荷 重 (kN ) 引張側 圧縮側 引張側最大荷重 き裂発生 破断 0 10 20 30 40 50 0 10 20 30 40 Half cycle 荷 重 (kN ) 引張側 圧縮側 引張側最大荷重 き裂発生 破断 0 20 40 60 80 0 10 20 30 40 Half cycle 荷 重 (kN ) 引張側圧縮側 引張側最大荷重 き裂発生 破断 図 6 包絡線 からも確認することができる.また,上下のき裂が つながったと見られる部分や,き裂が一気に進展し たと見られる部分には延性破壊により金属の伸びた 形跡と,ディンプルと考えられる穴ぼこが破断面中 央に確認できた.例として,No.1 R0.25-V-I と No.2 R1.0-U-Iの破断面中央部の拡大写真を写真5 に示す. 全試験体に共通して確認できたのは,はじめにき 裂が発生するのは必ず試験体上側の切り欠き部から であり,下側き裂はき裂発生後でもしばらく側面に き裂が現れることなく,内部深くにき裂進展してい た.また下側き裂の発生箇所は共通して,R 部の止 端部であった. 写真 4(a)~(c)から漸増載荷における破断面は中央 部が延性破壊により金属の伸びた形跡とディンプル と考えられる穴ぼこが確認できた(写真 5).次に, 写真 4(d)~(f)から一定載荷における破断面は疲労破 面の特徴であるビーチマーク状の模様が確認でき, 破断面両端には延性破壊の特徴であるディンプルと 考えられる穴ぼこが確認できた.さらに,写真 4(g) からランダム載荷における破断面にもビーチマーク 状の模様が確認できたが,一定載荷の破断面とは異 なり模様の間隔が様々であった.本研究では,肉眼 で観測可能なき裂進展と耐力やエネルギー吸収量等 のマクロな指標との関係に着目していることから, 破断面に関しても肉眼で観察できるマクロレベルの 観察までとしたが,今後の課題として,走査型電子 顕微鏡(SEM)によるミクロレベルの破断面観察によ る検討も行っていく予定である. 3.2 Half cycle と荷重および変位 本実験で得られた各試験体の最大荷重時・き裂発 生時および破断時の Half cycle,変位および荷重を表 3 に示す.前述したように,破断時の荷重は破断し た Half cycle 時の急激な荷重低下が確認された点の ものとした.また本実験では,一定振幅載荷および ランダム載荷は荷重-変位履歴曲線では,最大荷重 時,き裂発生時また破断時における Half cycle 数の確 認が難しいため,各サイクルの最大荷重をつないだ 包絡線を用いて各試験体の比較を行う.例として No.2 R1.0-U-I,No.5 R1.0-U-CM および No.7 R1.0-U-R の荷重-変位履歴曲線を図 5 に示し,各試験体の引 張側と圧縮側の包絡線を図 6 に示す.また,図 6 に おいて最大荷重はき裂発生が全て引張側であること から,引張側最大荷重を示している. 図 6(a),(b)を比較して,V ノッチと U ノッチでの ノッチ形状の異なりによる影響を調べる.No.1 R0.25-V-Iと No.2 R1.0-U-I において,き裂発生時の
No. 試験体 最大荷重時 き裂発生時 破断時 Half cycle 変位 (mm) 荷重 (kN) Half cycle 変位 (mm) 荷重 (kN) Half cycle 変位 (mm) 荷重 (kN) 1 R0.25-V-I 13 63.2 31.3 11 53.9 27.1 18 -47.5 -2.7 2 R1.0-U-I 13 63.2 39.2 11 54.1 33.5 18 -40.1 -2.4 3 R4.0-U-I 13 63.5 33.3 17 63.0 27.5 25 31.0 6.7 4 R1.0-U-CL 1 63.1 39.7 5 63.1 34.3 9 60.5 16.2 5 R1.0-U-CM 3 45.0 25.2 9 45.1 23.2 16 -39.1 -11.9 6 R1.0-U-CS 7 27.1 16.7 27 27.1 15.5 50 -27.2 -2.3 7 R1.0-U-R 2 67.5 39.5 32 67.6 33.9 76 65.4 12.6 表 3 最大荷重時・き裂発生時・破断時の Half cycle,変位および荷重 -60 -40 -20 0 20 40 60 -40 -20 0 20 40 変位(mm) 荷 重 (kN ) 最大荷重 き裂発生 破断 -60 -40 -20 0 20 40 60 -40 -20 0 20 40 変位(mm) 荷 重 (kN ) 最大荷重 き裂発生 破断 -60 -40 -20 0 20 40 60 -40 -20 0 20 40 変位(mm) 荷 重 (kN ) 最大荷重 き裂発生 破断
(a) No.2 R1.0-U-I (b) No.5 R1.0-U-CM (c) No.7 R1.0-U-R
パターンの異なる試験体同士を比較するとき,Half cycle 数や変位量による影響では比較が困難である と考えられるためである.図 7 にき裂進展率と Half cycle関係のグラフを示す.また,き裂進展率と累積 塑性率の関係を,ノッチ形状の違いと載荷パターン の違いによりまとめたものを図 8 に示す.
図 7(a),8(a)より破断直前の Half cycle のき裂進展 率において No.1 R0.25-V-I と No.2 R1.0-U-I を比較す ると,No.1 R0.25-V-I が 68%,No.2 R1.0-U-I が 53% である.さらに No.3 R4.0-U-I はき裂発生後において しばらくは側面でき裂を観測できず,破断直前の Half cycleのき裂進展率が 41%と No.1 R0.25-V-I およ び No.2 R1.0-U-I に比べ小さい.漸増載荷の場合はノ ッチ半径が大きい程,き裂は側面に現れづらく内部 において進展しやすいため,側面観測だけで破断の 前兆はわかりにくいと考えられる. 次に,図 8(b)より一定振幅載荷における振幅の違 いについて比較する.No.4 R1.0-U-CL は振幅が大き く,き裂が発生したら一気に進展し,破断直前の Half cycleが 40%に満たない値から破断に至った.対して 振幅の小さな No.6 R1.0-U-CS はき裂発生からほぼ一 定の間隔でき裂が進展し,破断直前の Half cycle が 73%に達した後破断に至った.以上の結果と No.5 R1.0-U-CMの結果から,一定振幅載荷において振幅 が大きなものほどき裂は一気に進展しやすく,急激 な破断に至ることが分かる. さらに,図 8(b)より載荷パターンの違いについて 比較する.No.2 R1.0-U-I と No.5 R1.0-U-CM が同程 度の累積塑性率でき裂が進展しているが,き裂進展 率 20%あたりまでに着目してみると,No.2 R1.0-U-I は引張側において急激に上昇するのに対し,No.5 R1.0-U-CMはグラフの段差が比較的小さいことから 引張側と圧縮側の両方で同じように進展しているこ とが分かる.また,No.6 R1.0-U-CS と No.7 R1.0-U-R
は,き裂が進展していき破断直前のき裂進展率も同 程度である.しかしながら,No.7 R1.0-U-R は No.6 R1.0-U-CS よりき裂発生から破断までの累積塑性率 が小さいことが分かる.No.6 R1.0-U-CS は累積塑性 率が 400 程度を超えてから,き裂進展率の段差が比 較的小さく,引張側と圧縮側の両方でき裂が進展し ていることが考えられる. 図 7(b),8(b)より,ランダム載荷に着目すると,き 裂進展は振幅の大きな Half cycle(振幅が 20δyとなる 32Half cycle時等)を主としていることが分かる.累 積塑性率が 300 程度と小さい場合において,振幅が 5δyの40Half cycle時では,き裂進展は確認できない. これに対して,累積塑性率が 570 程度と大きい場合 では,振幅が 5δyの 72Half cycle 時において 10%程度 のき裂進展が確認された. 3.4 エネルギー吸収量 ここでは,エネルギー吸収量については,試験体 がその Half cycle に至るまでに要したエネルギーを 表し,各載荷ループの荷重-変位関係の塑性変形成 分による面積を総和したものと定義している.表 4 に各試験体の最大荷重時・き裂発生時・破断時およ びき裂発生時から破断時のエネルギー吸収量の差を まとめて示す. まず,漸増載荷におけるノッチ形状の違いがエネ ルギー吸収量に与える影響について考察する.No.1 R0.25-V-Iと No.2 R1.0-U-I では,き裂発生・破断まで の Half cycle 数は同じであったが(表 3 参照),き裂 発生時から破断時までのエネルギー吸収量の差は No.1 R0.25-V-Iの方が 20%(1.7kJ)小さかった.また, No.2 R1.0-U-Iと No.3 R4.0-U-I では,き裂発生時から 破断時までのエネルギー吸収量の差は No.3 R4.0-U-I の方が 22%(2.4kJ)大きかった.一方,最大荷重時に おいてはノッチ半径の違いによるエネルギー吸収量 への影響は微小である.No.3 R4.0-U-I はき裂発生時, No. 試験体名 エネルギー吸収量(kJ) 最大荷重時 き裂発生時 破断時 き裂発生時から 破断時の差 1 R0.25-V-I 9.3 6.4 13.2 6.8 2 R1.0-U-I 9.7 6.5 15.0 8.5 3 R4.0-U-I 9.5 16.4 27.3 10.9 4 R1.0-U-CL 1.8 9.0 13.8 4.8 5 R1.0-U-CM 3.1 9.3 14.4 5.1 6 R1.0-U-CS 3.3 12.7 17.8 5.1 7 R1.0-U-R 1.7 10.0 15.3 5.3 表 4 各試験体のエネルギー吸収量
R1.0-U-CMが 7Half cycle,No.6 R1.0-U-CS が 23Half cycleとなり,振幅が小さくなるにつれ Half cycle 数 の差が大きくなった.荷重低下については,No.4 R1.0-U-CL は最大荷重後に急激な荷重低下をしてい るのに対して,No.5 R1.0-U-CM は最大荷重到達後 10Half cycle程度までは緩やかな荷重低下をして,そ れ以降は急激な荷重低下に移行している.加えて, 振幅が最も小さい No.6 R1.0-U-CS では破断時まで緩 やかな荷重低下をしており,急激な荷重低下が見ら れなかった. 最後に,ランダム載荷で行った No.7 R1.0-U-R に ついて考察を行う.最大荷重は載荷パターン(図 4(e))の中で最も振幅の大きくなる一周目の 2Half cycle(20δy)の時であった.そして,き裂発生は二周目 の32Half cycle(20δy)であった.一周目を見てみると, 2Half cycleの荷重が39.5kNで16Half cycleが35.2kN, 二周目の 32Half cycle では 33.9kN と荷重が低下して いた.また,小さな振幅では引張と圧縮の両方でほ とんど荷重低下が見られないが,破断が近づくにつ れ急激に荷重が低下する傾向が見られ,特に 64Half cycle(10δy)では明確に現れている(き裂進展率につい ては後述する).圧縮側に注目してみると一周目の 1Half cycleは 15.4kN であったのに対し 17Half cycle では 18.4kN,二周目の 31Half cycle では 17.1kN と圧 縮側最大荷重は 17Half cycle であった.これは圧縮側 に切り欠きの様なひずみ集中箇所がないことによる ものであり,繰り返し載荷によるひずみ硬化の影響 があったと考えられる.以上より,ランダム載荷で は,大きな振幅後は急激に荷重が低下するが,小さ な振幅では荷重の低下は小さく緩やかである.しか し,破断が近づくにつれ小さな振幅でも急激に荷重 が低下し,破断の前兆が現れる. 3.3 き裂進展率と累積塑性率 繰り返し載荷時の塑性変形能力の指標として,累 積塑性率[16]を用いた.累積塑性率 ueqは式(2)より算 出した.
ここで,δiは i Half cycle の変位,Piは i Half cycle の 荷重,Pyは降伏荷重,δyは降伏変位である.本実験 で,累積塑性率を指標として用いているのは,載荷 y i y y i i eq P P u δ δ δ
∑
− × = (2) 0 20 40 60 80 0 20 40 60 80 100 Half cycle き 裂 進 展 率 L c / t( %) 0 100 200 300 400 500 600 0 20 40 60 80 100 累積塑性率 u eq き 裂 進 展 率 L c / t (%) き裂発生 破断直前のHalf cycle 破断 No.1 R0.25-V-I No.2 R1.0-U-I No.3 R4.0-U-I き裂発生 破断直前のHalf cycle 破断 (a) 漸増載荷時の切り欠き形状とノッチ半径の影響 (b) 載荷パターンの影響(R=1.0 の場合) 図 7 き裂進展率-Half cycle 関係 0 10 20 30 0 20 40 60 80 100 Half cycle き 裂 進 展 率 L c / t(%) き裂発生 破断直前のHalf cycle 破断 No.1 R0.25-V-I No.2 R1.0-U-I No.3 R4.0-U-I き裂発生 破断直前のHalf cycle 破断 (a) 漸増載荷時の切り欠き形状とノッチ半径の影響 (b) 載荷パターンの影響(R=1.0 の場合) 図 8 き裂進展率-累積塑性率関係 0 100 200 300 400 500 600 0 20 40 60 80 100 累積塑性率 u eq き 裂 進 展 率 L c / t (% ) No.2 R1.0-U-I No.4 R1.0-U-CL No.5 R1.0-U-CM No.6 R1.0-U-CS No.7 R1.0-U-R No.2 R1.0-U-I No.4 R1.0-U-CL No.5 R1.0-U-CM No.6 R1.0-U-CS No.7 R1.0-U-Rパターンの異なる試験体同士を比較するとき,Half cycle 数や変位量による影響では比較が困難である と考えられるためである.図 7 にき裂進展率と Half cycle関係のグラフを示す.また,き裂進展率と累積 塑性率の関係を,ノッチ形状の違いと載荷パターン の違いによりまとめたものを図 8 に示す.
図 7(a),8(a)より破断直前の Half cycle のき裂進展 率において No.1 R0.25-V-I と No.2 R1.0-U-I を比較す ると,No.1 R0.25-V-I が 68%,No.2 R1.0-U-I が 53% である.さらに No.3 R4.0-U-I はき裂発生後において しばらくは側面でき裂を観測できず,破断直前の Half cycleのき裂進展率が 41%と No.1 R0.25-V-I およ び No.2 R1.0-U-I に比べ小さい.漸増載荷の場合はノ ッチ半径が大きい程,き裂は側面に現れづらく内部 において進展しやすいため,側面観測だけで破断の 前兆はわかりにくいと考えられる. 次に,図 8(b)より一定振幅載荷における振幅の違 いについて比較する.No.4 R1.0-U-CL は振幅が大き く,き裂が発生したら一気に進展し,破断直前の Half cycleが 40%に満たない値から破断に至った.対して 振幅の小さな No.6 R1.0-U-CS はき裂発生からほぼ一 定の間隔でき裂が進展し,破断直前の Half cycle が 73%に達した後破断に至った.以上の結果と No.5 R1.0-U-CMの結果から,一定振幅載荷において振幅 が大きなものほどき裂は一気に進展しやすく,急激 な破断に至ることが分かる. さらに,図 8(b)より載荷パターンの違いについて 比較する.No.2 R1.0-U-I と No.5 R1.0-U-CM が同程 度の累積塑性率でき裂が進展しているが,き裂進展 率 20%あたりまでに着目してみると,No.2 R1.0-U-I は引張側において急激に上昇するのに対し,No.5 R1.0-U-CMはグラフの段差が比較的小さいことから 引張側と圧縮側の両方で同じように進展しているこ とが分かる.また,No.6 R1.0-U-CS と No.7 R1.0-U-R
は,き裂が進展していき破断直前のき裂進展率も同 程度である.しかしながら,No.7 R1.0-U-R は No.6 R1.0-U-CS よりき裂発生から破断までの累積塑性率 が小さいことが分かる.No.6 R1.0-U-CS は累積塑性 率が 400 程度を超えてから,き裂進展率の段差が比 較的小さく,引張側と圧縮側の両方でき裂が進展し ていることが考えられる. 図 7(b),8(b)より,ランダム載荷に着目すると,き 裂進展は振幅の大きな Half cycle(振幅が 20δyとなる 32Half cycle時等)を主としていることが分かる.累 積塑性率が 300 程度と小さい場合において,振幅が 5δyの40Half cycle時では,き裂進展は確認できない. これに対して,累積塑性率が 570 程度と大きい場合 では,振幅が 5δyの 72Half cycle 時において 10%程度 のき裂進展が確認された. 3.4 エネルギー吸収量 ここでは,エネルギー吸収量については,試験体 がその Half cycle に至るまでに要したエネルギーを 表し,各載荷ループの荷重-変位関係の塑性変形成 分による面積を総和したものと定義している.表 4 に各試験体の最大荷重時・き裂発生時・破断時およ びき裂発生時から破断時のエネルギー吸収量の差を まとめて示す. まず,漸増載荷におけるノッチ形状の違いがエネ ルギー吸収量に与える影響について考察する.No.1 R0.25-V-Iと No.2 R1.0-U-I では,き裂発生・破断まで の Half cycle 数は同じであったが(表 3 参照),き裂 発生時から破断時までのエネルギー吸収量の差は No.1 R0.25-V-Iの方が 20%(1.7kJ)小さかった.また, No.2 R1.0-U-Iと No.3 R4.0-U-I では,き裂発生時から 破断時までのエネルギー吸収量の差は No.3 R4.0-U-I の方が 22%(2.4kJ)大きかった.一方,最大荷重時に おいてはノッチ半径の違いによるエネルギー吸収量 への影響は微小である.No.3 R4.0-U-I はき裂発生時, No. 試験体名 エネルギー吸収量(kJ) 最大荷重時 き裂発生時 破断時 き裂発生時から 破断時の差 1 R0.25-V-I 9.3 6.4 13.2 6.8 2 R1.0-U-I 9.7 6.5 15.0 8.5 3 R4.0-U-I 9.5 16.4 27.3 10.9 4 R1.0-U-CL 1.8 9.0 13.8 4.8 5 R1.0-U-CM 3.1 9.3 14.4 5.1 6 R1.0-U-CS 3.3 12.7 17.8 5.1 7 R1.0-U-R 1.7 10.0 15.3 5.3 表 4 各試験体のエネルギー吸収量
R1.0-U-CMが 7Half cycle,No.6 R1.0-U-CS が 23Half cycleとなり,振幅が小さくなるにつれ Half cycle 数 の差が大きくなった.荷重低下については,No.4 R1.0-U-CL は最大荷重後に急激な荷重低下をしてい るのに対して,No.5 R1.0-U-CM は最大荷重到達後 10Half cycle程度までは緩やかな荷重低下をして,そ れ以降は急激な荷重低下に移行している.加えて, 振幅が最も小さい No.6 R1.0-U-CS では破断時まで緩 やかな荷重低下をしており,急激な荷重低下が見ら れなかった. 最後に,ランダム載荷で行った No.7 R1.0-U-R に ついて考察を行う.最大荷重は載荷パターン(図 4(e))の中で最も振幅の大きくなる一周目の 2Half cycle(20δy)の時であった.そして,き裂発生は二周目 の32Half cycle(20δy)であった.一周目を見てみると, 2Half cycleの荷重が39.5kNで16Half cycleが35.2kN, 二周目の 32Half cycle では 33.9kN と荷重が低下して いた.また,小さな振幅では引張と圧縮の両方でほ とんど荷重低下が見られないが,破断が近づくにつ れ急激に荷重が低下する傾向が見られ,特に 64Half cycle(10δy)では明確に現れている(き裂進展率につい ては後述する).圧縮側に注目してみると一周目の 1Half cycleは 15.4kN であったのに対し 17Half cycle では 18.4kN,二周目の 31Half cycle では 17.1kN と圧 縮側最大荷重は 17Half cycle であった.これは圧縮側 に切り欠きの様なひずみ集中箇所がないことによる ものであり,繰り返し載荷によるひずみ硬化の影響 があったと考えられる.以上より,ランダム載荷で は,大きな振幅後は急激に荷重が低下するが,小さ な振幅では荷重の低下は小さく緩やかである.しか し,破断が近づくにつれ小さな振幅でも急激に荷重 が低下し,破断の前兆が現れる. 3.3 き裂進展率と累積塑性率 繰り返し載荷時の塑性変形能力の指標として,累 積塑性率[16]を用いた.累積塑性率 ueqは式(2)より算 出した.
ここで,δiは i Half cycle の変位,Piは i Half cycle の 荷重,Pyは降伏荷重,δyは降伏変位である.本実験 で,累積塑性率を指標として用いているのは,載荷 y i y y i i eq P P u δ δ δ
∑
− × = (2) 0 20 40 60 80 0 20 40 60 80 100 Half cycle き 裂 進 展 率 L c / t( %) 0 100 200 300 400 500 600 0 20 40 60 80 100 累積塑性率 u eq き 裂 進 展 率 L c / t (%) き裂発生 破断直前のHalf cycle 破断 No.1 R0.25-V-I No.2 R1.0-U-I No.3 R4.0-U-I き裂発生 破断直前のHalf cycle 破断 (a) 漸増載荷時の切り欠き形状とノッチ半径の影響 (b) 載荷パターンの影響(R=1.0 の場合) 図 7 き裂進展率-Half cycle 関係 0 10 20 30 0 20 40 60 80 100 Half cycle き 裂 進 展 率 L c / t(%) き裂発生 破断直前のHalf cycle 破断 No.1 R0.25-V-I No.2 R1.0-U-I No.3 R4.0-U-I き裂発生 破断直前のHalf cycle 破断 (a) 漸増載荷時の切り欠き形状とノッチ半径の影響 (b) 載荷パターンの影響(R=1.0 の場合) 図 8 き裂進展率-累積塑性率関係 0 100 200 300 400 500 600 0 20 40 60 80 100 累積塑性率 u eq き 裂 進 展 率 L c / t (% ) No.2 R1.0-U-I No.4 R1.0-U-CL No.5 R1.0-U-CM No.6 R1.0-U-CS No.7 R1.0-U-R No.2 R1.0-U-I No.4 R1.0-U-CL No.5 R1.0-U-CM No.6 R1.0-U-CS No.7 R1.0-U-R破断時ともに,最も大きなエネルギー吸収量となっ た.母材においてノッチを有する場合,ノッチ半径 4.0mm程度にするとエネルギー吸収量が向上する可 能性があると考えられる. 次に,一定振幅載荷における変位振幅の違いがエ ネルギー吸収量に与える影響について考察する.破 断時までの Half cycle 数は No.6 R1.0-U-CS が最も多 く(表 3 参照),き裂発生時・破断時のエネルギー吸 収量も最も大きかった.No.4 R1.0-U-CL と No.5 R1.0-U-CM のき裂発生時,破断時のエネルギー吸収 量を比較すると,き裂発生時が 0.3kJ,破断時が 0.6kJ 程度の違いは生じたが,概ね同等であると言える. き裂発生時から破断時までのエネルギー吸収量の差 に 着 目 す る と No.4 R1.0-U-CL が 4.8kJ , No.5 R1.0-U-CMと No.6 R1.0-U-CS が 5.1kJ となり,一定 載荷における振幅の違いによるき裂発生から破断ま でに要するエネルギー吸収量への影響は小さいこと が分かる. さらに,異なる載荷パターンがエネルギー吸収量 に与える影響について考察する.ランダム載荷に比 べ,漸増載荷の場合はき裂発生までに要するエネル ギー吸収量が小さいが,破断時までに要するエネル ギー吸収量は概ね同等である.言い換えれば,漸増 載荷はランダム載荷に比べ,き裂発生から破断まで に,より大きなエネルギーを要すると言える.一方, ランダム載荷のき裂発生から破断時までのエネルギ ー吸収量の差は,一定振幅載荷の 3 つの試験体と同 程度であった. 4. 結言 4.1 結論 本研究では鋼部材におけるき裂の発生から破断ま での現象について,き裂進展率と耐力,累積塑性率 およびエネルギー吸収量といった耐震設計上の指標 との関係を検討することを目的に,切り欠きを設け た母材試験体の繰り返し三点曲げ載荷試験を実施し た.得られた主な結果を以下に示す. 1) 破断面の観察により,全ての試験体において上 側と下側からき裂が進展している.さらに,ノ ッチが設けられている上側のき裂は下側のき 裂より,進展が深いことが確認された.また, ノッチ半径に関わらず,漸増載荷では上下のき 裂が繋がった部分において,ディンプルと考え られる穴ぼこが見られ,一定振幅載荷では疲労 破面の特徴であるビーチマーク状の模様が確 認された. 2) 漸増載荷でノッチ半径の異なる場合,ノッチ半 径が R=0.25,1.0mm の試験体は最大荷重到達前 にき裂が発生し,最大荷重到達後は著しく荷重 が低下し破断までのエネルギー吸収量も小さ い.一方,ノッチ半径が R=4.0mm の場合,最 大荷重到達後にき裂発生し,荷重低下も緩やか となり,累積塑性率が向上する.また,き裂発 生時および破断時のエネルギー吸収量は全試 験体の中で最も大きくなった. 3) 一定振幅載荷では,き裂発生から破断までの Half cycle数においては,振幅が大きな 14δy(CL) で 4Half cycle,振幅が小さな 6δy(CS)で 23Half cycleとなり,振幅が大きなものほどき裂は一気 に進展しやすく急激な破断に至る.また,き裂 発生時から破断時までのエネルギー吸収量に おいては,CL が 4.8kJ,CM と CS が 5.1kJ とな り,一定載荷における振幅の違いによる影響は 小さいことが確認された. 4) ランダム載荷においてき裂進展は振幅の大き な Half cycle(振幅が 20δyとなる 32Half cycle 時 等)を主としている.累積塑性率が 300 程度と 小さい場合,振幅が 5δyの 40Half cycle 時では, き裂進展は確認できない.一方,累積塑性率が 570程度と大きい場合,振幅が5δyの72Half cycle 時において 10%程度のき裂進展が確認された. 4.2 今後の課題 漸増載荷において,ノッチ半径 0.25mm の V ノッ チと 1mm の U ノッチの差が荷重の大小のみで,き 裂の発生や破断の Half cycle 数に影響がないという 結果になった.しかし,一般的には鋭い切り欠きは ひずみ集中が大きくき裂の発生,破断が早いと考え られるので,振幅の増加量を変更するなど,より詳 細なデータを得ることが望ましい.また,本研究で 得られた基礎的な実験データを用いて,き裂発生か ら進展を模擬するき裂進展解析を行い,3 段階 2 パ ラメータ延性破壊モデル[8-11]の妥当性,適用性を検 証していく必要がある. 参考文献 [1] 渡邊英一,前川義男,杉浦邦征,北根安雄:鋼 橋の被害と耐震性,土木学会誌,阪神・淡路大 震災特集-第 4 回-,p.57,1995. [2] 岡下勝彦,大南亮一,道場康二,山本晃久,富 松実,丹治康行,三木千尋:兵庫県南部地震に よる神戸港港湾幹線道路P75 橋脚隅角部におけ るき裂損傷の原因調査・検討,土木学会論文集, No.591/I-43,pp.243-261,1998. [3] 桑村仁,山本恵市:応力三軸状態における構造 用鋼材の延性き裂の発生条件,日本建築学会構 造系論文集,第 447 号,pp.129-135,1995. [4] 小野徹郎,佐藤篤司,横川貴之,相川直子:構 造用鋼材の延性き裂発生条件,日本建築学会構 造系論文集,第 565 号,pp.127-134,2003. [5] 佐々木栄一,荒川泰二,三木千壽,市川篤司: リブ溶接止端部に発生する低サイクル疲労き 裂とそれを起点とする脆性破壊の発生可能性, 構造工学論文集,Vol.48A,pp.1107-1112,2002. [6] 土木学会:2018 年制定 鋼・合成構造標準示方 書[耐震設計編],2018. [7] 加藤友哉,猪飼豊樹,山口雄涼,東良樹,賈良 玖,葛漢彬:T 型溶接継手の延性き裂発生メカ ニズムの解明に関する実験的研究,土木学会論 文集 A1,Vol.72,No.4,pp.634-645,2016. [8] 加藤友哉,康瀾,葛漢彬:溶接継手の破壊メカ ニズムの解明に関する基礎的研究,土木学会論 文集 A1,Vol.71,No.4,pp.363-375,2015. [9] 猪飼豊樹,葛漢彬:繰り返し荷重を受ける T 型 溶接継手の延性破壊シミュレーション手法の 構築に関する研究,構造工学論文集,Vol.64A, pp.194-207,2018. [10] 吉田聡一郎,葛漢彬,賈良玖:繰り返し軸力と 曲げを受ける鋼材の延性破壊挙動に関する基 礎的研究,土木学会論文集 A1,Vol.75,No.4, pp.345-356,2019. [11] 藤江渉,吉田聡一郎,猪飼豊樹,葛漢彬:繰り 返し荷重を受ける溶接継手の延性破壊解析に おける損傷進展エネルギーの簡易算出法,土木 学会論文集 A2,Vol.74,No.2,pp.591-602,2018. [12] 葛漢彬,川人麻紀夫,大橋正稔:鋼材の延性き 裂発生の限界ひずみに関する基礎研究,土木学 会地震工学論文集,Vol.28,論文番号 No.190, 2005.
[13] Helmut Krawinkler,Akshay Gupta,Ricardo Medina and Nicolas Luco: Development of Loading Histories for Testing of Steel Beams-to-Column Assemblies , SAC Background Report SAC/BD-00/10,pp.3-5,2000. [14] 判治剛,舘石和雄,南邦明,鬼頭和也:局部的 なひずみを基準とした溶接継手の極低サイク ル疲労強度評価,土木学会論文集 A,Vol.62, No.1,pp.101-109,2006. [15] 木下幸治,上田清弘:十字溶接継手止端部の低 サイクル疲労強度に及ぼす板厚の影響,土木学 会論文集 A1,Vol.66,No.1,pp.179-187,2010. [16] 柴田明憲:最新耐震構造解析(最新建築学シリ ーズ 9),森北出版,第 3 版,p.49,2003.
破断時ともに,最も大きなエネルギー吸収量となっ た.母材においてノッチを有する場合,ノッチ半径 4.0mm程度にするとエネルギー吸収量が向上する可 能性があると考えられる. 次に,一定振幅載荷における変位振幅の違いがエ ネルギー吸収量に与える影響について考察する.破 断時までの Half cycle 数は No.6 R1.0-U-CS が最も多 く(表 3 参照),き裂発生時・破断時のエネルギー吸 収量も最も大きかった.No.4 R1.0-U-CL と No.5 R1.0-U-CM のき裂発生時,破断時のエネルギー吸収 量を比較すると,き裂発生時が 0.3kJ,破断時が 0.6kJ 程度の違いは生じたが,概ね同等であると言える. き裂発生時から破断時までのエネルギー吸収量の差 に 着 目 す る と No.4 R1.0-U-CL が 4.8kJ , No.5 R1.0-U-CMと No.6 R1.0-U-CS が 5.1kJ となり,一定 載荷における振幅の違いによるき裂発生から破断ま でに要するエネルギー吸収量への影響は小さいこと が分かる. さらに,異なる載荷パターンがエネルギー吸収量 に与える影響について考察する.ランダム載荷に比 べ,漸増載荷の場合はき裂発生までに要するエネル ギー吸収量が小さいが,破断時までに要するエネル ギー吸収量は概ね同等である.言い換えれば,漸増 載荷はランダム載荷に比べ,き裂発生から破断まで に,より大きなエネルギーを要すると言える.一方, ランダム載荷のき裂発生から破断時までのエネルギ ー吸収量の差は,一定振幅載荷の 3 つの試験体と同 程度であった. 4. 結言 4.1 結論 本研究では鋼部材におけるき裂の発生から破断ま での現象について,き裂進展率と耐力,累積塑性率 およびエネルギー吸収量といった耐震設計上の指標 との関係を検討することを目的に,切り欠きを設け た母材試験体の繰り返し三点曲げ載荷試験を実施し た.得られた主な結果を以下に示す. 1) 破断面の観察により,全ての試験体において上 側と下側からき裂が進展している.さらに,ノ ッチが設けられている上側のき裂は下側のき 裂より,進展が深いことが確認された.また, ノッチ半径に関わらず,漸増載荷では上下のき 裂が繋がった部分において,ディンプルと考え られる穴ぼこが見られ,一定振幅載荷では疲労 破面の特徴であるビーチマーク状の模様が確 認された. 2) 漸増載荷でノッチ半径の異なる場合,ノッチ半 径が R=0.25,1.0mm の試験体は最大荷重到達前 にき裂が発生し,最大荷重到達後は著しく荷重 が低下し破断までのエネルギー吸収量も小さ い.一方,ノッチ半径が R=4.0mm の場合,最 大荷重到達後にき裂発生し,荷重低下も緩やか となり,累積塑性率が向上する.また,き裂発 生時および破断時のエネルギー吸収量は全試 験体の中で最も大きくなった. 3) 一定振幅載荷では,き裂発生から破断までの Half cycle数においては,振幅が大きな 14δy(CL) で 4Half cycle,振幅が小さな 6δy(CS)で 23Half cycleとなり,振幅が大きなものほどき裂は一気 に進展しやすく急激な破断に至る.また,き裂 発生時から破断時までのエネルギー吸収量に おいては,CL が 4.8kJ,CM と CS が 5.1kJ とな り,一定載荷における振幅の違いによる影響は 小さいことが確認された. 4) ランダム載荷においてき裂進展は振幅の大き な Half cycle(振幅が 20δyとなる 32Half cycle 時 等)を主としている.累積塑性率が 300 程度と 小さい場合,振幅が 5δyの 40Half cycle 時では, き裂進展は確認できない.一方,累積塑性率が 570程度と大きい場合,振幅が5δyの72Half cycle 時において 10%程度のき裂進展が確認された. 4.2 今後の課題 漸増載荷において,ノッチ半径 0.25mm の V ノッ チと 1mm の U ノッチの差が荷重の大小のみで,き 裂の発生や破断の Half cycle 数に影響がないという 結果になった.しかし,一般的には鋭い切り欠きは ひずみ集中が大きくき裂の発生,破断が早いと考え られるので,振幅の増加量を変更するなど,より詳 細なデータを得ることが望ましい.また,本研究で 得られた基礎的な実験データを用いて,き裂発生か ら進展を模擬するき裂進展解析を行い,3 段階 2 パ ラメータ延性破壊モデル[8-11]の妥当性,適用性を検 証していく必要がある. 参考文献 [1] 渡邊英一,前川義男,杉浦邦征,北根安雄:鋼 橋の被害と耐震性,土木学会誌,阪神・淡路大 震災特集-第 4 回-,p.57,1995. [2] 岡下勝彦,大南亮一,道場康二,山本晃久,富 松実,丹治康行,三木千尋:兵庫県南部地震に よる神戸港港湾幹線道路P75 橋脚隅角部におけ るき裂損傷の原因調査・検討,土木学会論文集, No.591/I-43,pp.243-261,1998. [3] 桑村仁,山本恵市:応力三軸状態における構造 用鋼材の延性き裂の発生条件,日本建築学会構 造系論文集,第 447 号,pp.129-135,1995. [4] 小野徹郎,佐藤篤司,横川貴之,相川直子:構 造用鋼材の延性き裂発生条件,日本建築学会構 造系論文集,第 565 号,pp.127-134,2003. [5] 佐々木栄一,荒川泰二,三木千壽,市川篤司: リブ溶接止端部に発生する低サイクル疲労き 裂とそれを起点とする脆性破壊の発生可能性, 構造工学論文集,Vol.48A,pp.1107-1112,2002. [6] 土木学会:2018 年制定 鋼・合成構造標準示方 書[耐震設計編],2018. [7] 加藤友哉,猪飼豊樹,山口雄涼,東良樹,賈良 玖,葛漢彬:T 型溶接継手の延性き裂発生メカ ニズムの解明に関する実験的研究,土木学会論 文集 A1,Vol.72,No.4,pp.634-645,2016. [8] 加藤友哉,康瀾,葛漢彬:溶接継手の破壊メカ ニズムの解明に関する基礎的研究,土木学会論 文集 A1,Vol.71,No.4,pp.363-375,2015. [9] 猪飼豊樹,葛漢彬:繰り返し荷重を受ける T 型 溶接継手の延性破壊シミュレーション手法の 構築に関する研究,構造工学論文集,Vol.64A, pp.194-207,2018. [10] 吉田聡一郎,葛漢彬,賈良玖:繰り返し軸力と 曲げを受ける鋼材の延性破壊挙動に関する基 礎的研究,土木学会論文集 A1,Vol.75,No.4, pp.345-356,2019. [11] 藤江渉,吉田聡一郎,猪飼豊樹,葛漢彬:繰り 返し荷重を受ける溶接継手の延性破壊解析に おける損傷進展エネルギーの簡易算出法,土木 学会論文集 A2,Vol.74,No.2,pp.591-602,2018. [12] 葛漢彬,川人麻紀夫,大橋正稔:鋼材の延性き 裂発生の限界ひずみに関する基礎研究,土木学 会地震工学論文集,Vol.28,論文番号 No.190, 2005.
[13] Helmut Krawinkler,Akshay Gupta,Ricardo Medina and Nicolas Luco: Development of Loading Histories for Testing of Steel Beams-to-Column Assemblies , SAC Background Report SAC/BD-00/10,pp.3-5,2000. [14] 判治剛,舘石和雄,南邦明,鬼頭和也:局部的 なひずみを基準とした溶接継手の極低サイク ル疲労強度評価,土木学会論文集 A,Vol.62, No.1,pp.101-109,2006. [15] 木下幸治,上田清弘:十字溶接継手止端部の低 サイクル疲労強度に及ぼす板厚の影響,土木学 会論文集 A1,Vol.66,No.1,pp.179-187,2010. [16] 柴田明憲:最新耐震構造解析(最新建築学シリ ーズ 9),森北出版,第 3 版,p.49,2003. (2019 年 3 月 28 日原稿受理)