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教育・学習支援業における過労死等の労災認定事案の特徴

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Academic year: 2021

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1 はじめに 近年,「業務における過重な負荷による脳血管疾患・心 臓疾患を原因とする死亡や業務における強い心理的負荷 による精神障害を原因とする自殺による死亡,死亡には 至らないが,これらによる脳血管疾患・心臓疾患と精神 障害(以降「過労死等」と記す)」が,社会的に大きく注 目されている1-4).この過労死等に関して,平成2611 月に「過労死等防止対策推進法」が施行され,平成27年 7月には「過労死等の防止のための対策に関する大綱(以 降「大綱」と記す)5)」が閣議決定されている(平成30 7月には大綱の変更6)が閣議決定されている).この大綱 では,過労死等に関する調査研究を行うことを国の責務 として位置づけており,過労死等に関する調査研究が必 要とされている. 日本国内における過労死等の実態を検討した先行研究 として,Yamauchiら7)は業務上疾病として認められた過 労死等の労災認定事案を対象とした事案分析を行ってい る.具体的には,全国の労働局及び労働基準監督署より 平成22年1月から平成27年3月までの約5年間の業務上 の労災申請事案の調査復命書を収集し,脳・心臓疾患事 案(以降,「脳心事案」と記す)1,564件,精神障害・自 殺事案(以降,「精神事案」と記す)2,000件についての 性別,年齢,疾患名,業種・職種などの情報をまとめた 電子データベース(以降,「過労死DB」と記す)を構築 し,それらの基礎情報を集計している7).過労死DBの具 体的な特徴として,吉川ら4)は,脳心事案では,男性の 事案が95.6%,疾患名は脳疾患が6割で心疾患が4割,労 災認定理由の93%が「長期間の過重業務」であったこと などを示している.また,精神事案では,男性の事案が 68.7%,疾患名は男性の60%がF3領域(気分(感情)障 害)で女性の73%がF4領域(神経症性障害,ストレス関 連障害及び身体表現性障害),認定事由としての出来事と しては長時間労働関連が46.1%,事故・災害関連が30.1 %,対人関係の出来事が21.4%であったことなどが示さ れている.さらに,先行研究では,過労死等の認定事由 としての出来事の該当状況を性別・業種別に集計した解 析8)や,雇用者100万人当たりの過労死等の発生率を業 種別に検討した解析9),公務上と判断された公務災害認 定事案を対象とした地方公務員の過労死等についての解 析10)などを行っている. このような背景の中,本研究は業種・職種の一つとし て教職員,特に学校教員の過労死等に着目する.教職員 は,大綱で過労死等の多発が指摘されている七つの業種 ・職種(自動車運転従事者,教職員,IT産業,外食産業, 医療等,建設業,メディア業界)のうちの一つとして挙 げられており6),社会的にもその長時間労働が注目され ている.「OECD国際教員指導環境調査(TALIS)2018 報告書11)」によれば,日本の教員の一週間当たりの勤務 時間は小学校が54.4時間,中学校が56.0時間であり,参 加国の中で最長であったことが示されている.また,文 部科学省によって実施された「教員勤務実態調査(平成 28年度)12)」によれば,平成28年度における一週間当た

教育・学習支援業における過労死等の労災認定事案の特徴

髙 田 琢 弘

*

1, 2

,吉 川   徹

*

1

,佐々木   毅

*

1

山 内 貴 史

*

1, 3

,高 橋 正 也

*

1

,梅 崎 重 夫

*

1 本研究は,過労死等の多発が指摘されている業種・職種のうち,教育・学習支援業(教職員)に着目し,そ れらの過労死等の実態と背景要因を検討することを目的とした.具体的には,労働安全衛生総合研究所過労死等 防止調査研究センターが構築した電子データベース(脳・心臓疾患事案1,564件,精神障害・自殺事案2,000件, 平成22年1月~平成27年3月の5年間)を用い,教育・学習支援業の事案(脳・心臓疾患事案25件,精神障害 ・自殺事案57件)を抽出し,性別,発症時年齢,生死,職種,疾患名,労災認定理由および労働時間以外の負 荷要因,認定事由としての出来事,時間外労働時間数等の情報に関する集計を行った.結果から,教育・学習支 援業の事案の特徴として,脳・心臓疾患事案では全業種と比較して長時間労働の割合が大きい一方,精神障害・ 自殺事案では上司とのトラブルなどの対人関係の出来事の割合が大きかったことが示された.また,教員の中で 多かった職種は,脳・心臓疾患事案,精神障害・自殺事案ともに大学教員と高等学校教員であった.さらに,職 種特有の負荷業務として大学教員では委員会・会議や出張が多く,高等学校教員では部活動顧問や担任が多いな ど,学校種ごとに異なった負荷業務があることが示された.ここから,教育・学習支援業の過労死等を予防する ためには,長時間労働対策のみだけでなく,それぞれの職種特有の負担を軽減するような支援が必要であると考 えられる. キーワード:教職員,過労死等,脳疾患,心臓疾患,精神障害,過重負荷

原稿受付 2020年10月14日(Received date: October 14, 2020) 原稿受理 2021年1月12日(Accepted date: January 12, 2021)

J-STAGE Advance published date: February 11, 2021 *1労働安全衛生総合研究所過労死等防止調査研究センター *2東海学園大学心理学部 *3東京慈恵会医科大学 環境保健医学講座 連絡先:〒468-8514 愛知県名古屋市天白区中平2-901 東海学園大学名古屋キャンパス心理学部 髙田琢弘 E-mail: [email protected] doi: 10.2486/josh.JOSH-2020-0022-GE 原著論文

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りの学内勤務時間が小学校教員で平均約57時間,中学校 教員で平均約63時間であり,勤務時間が10年前よりも 増加していたことが示されている.さらに,高原13)は公 立学校教員(小学校教員,中学校教員,高等学校教員, 特別支援学校教員)を対象とした調査を実施し,分析対 象1,076名のうち,1カ月当たりの時間外労働時間が80時 間以上の教員が16.4%であったことを示している. 勤務時間の問題に加え,教職員のメンタルヘルスの問 題に関しても,対策が必要とされている.文部科学省の 「平成30年度公立学校教職員の人事行政状況調査14)」に よれば,精神疾患によって病気休職中である教育職員は, 小学校で2,421人,中学校で1,361人,高等学校で756人 など,全体で5,212人(全教育職員の約0.6%)であり, 平成 19 年度以降5,000人前後で推移していることが示さ れている.また,久利15)は,現在の大学が多くの複雑か つ多面的な課題を有しており,大学教員が多様かつ重篤 なストレスから逃れることができない環境で就労してい ると指摘している.これらのことから,教員における慢 性的で深刻な長時間労働やストレスのかかる労働環境が 考えられる. ここで,教職員とは教員とその他の教育関係の仕事に 従事する職員(以降,「その他の教育の職業」と記す)を 意味する.本研究の主たる目的は,学校教員の過労死等 の実態と背景要因を検討することであるが,そもそも学 校教員を含めた,日本の教育・学習支援業(教職員)の 過労死等について,職種ごとに詳細な検討を行った研究 は皆無であるというのが現状である.大綱6)は,教職員 の過労死等の多発を指摘しており,学校教育現場には教 員に加えて教員以外の職種も存在している.さらに,学 校以外の教育現場においても,学校教員と類似した業務 を行っている職種がある.このように,職場や業務内容 において学校教員と共通点を持つ学校教員以外の職種も 含めた教育・学習支援業全体の特徴を提示することによ って,学校教員の負荷についての独自性と業種・職種全 体との共通性がより明確になると考えられる.そのため, まずは学校教員以外も含めた教育・学習支援業全体の過 労死等の実態の全体像を明らかにし,それを踏まえ職種 ごとの特徴を解明する必要があると考えられる.ただし, 教職員には義務教育課程に公務員として従事する場合 と,私立の小中学校や高校,大学等の非公務員として勤 務する場合がある.前者における過労死等は主に地方公 務員災害補償法による公務災害として,後者は労働者災 害補償保険法にもとづく労働災害として取り扱われる. 今回利用する「過労死DB」には公務災害として認定さ れた過労死等は含まれていないため,小中学校の大多数 の教員の実態は含まれていない.しかし,公務員として の過労死等の実態については解析できないが,労働災害 としての学校教員の過労死等における特徴は鮮明にでき ると考える. 以上のことを踏まえ,本研究では教職員の事案が含ま れる教育・学習支援業の民間労働者の労働災害としての 過労死等を分析対象とし,過労死DBを用いてその特徴 を抽出し,実態と背景要因を検討することを目的とした. さらに,学校教員に職種を限定し,公務員を除く学校教 員に特有の負荷業務を集計し,その特徴をより詳細に把 握することも目的とした. 2 方法 1)分析対象 過労死DBにおける,教育・学習支援業の事案を分析 対象とした.上述の通り,過労死DBは平成22年1月か ら平成27年3月までの5年間の労災認定事案(脳心事案 1,564件,精神事案2,000件)が含まれている電子データ ベースである.抽出された教育・学習支援業の事案数は, 脳心事案25件,精神事案57件であった.分析対象とし た教育・学習支援業の事案抽出方法のフロー図を図1に 示した. 2)分析方法 過労死DBの内容に基づき,対象の事案について,性 別,発症時年齢,生死(労災認定(申請)時点で被災労 働者が生存していたか,死亡していたか),職種,疾患 名,脳心事案における労災認定理由および負荷要因とし て評価された労働時間以外の負荷要因,精神事案におけ る認定事由としての出来事,時間外労働時間数等の情報 に関する集計を行った. 職種については,日本標準職業分類の項目を踏まえ, 調査復命書の記載内容をもとに第一著者が細分類まで集 計した.なお,「令和2年度学校基本調査(速報値)16)」お よび「文部科学統計要覧(令和2年版)17)」によれば,国 ・公・私立を全て含めた学校種ごとの教員数は,大学で 189,498名,高等学校で229,244名,中学校で246,788名, 小学校で422,543名,幼稚園で91,789名,高等専門学校 で4,114名,専門学校で37,172名であり,私立学校の教 員数(本務者)は,大学で109,685名,高等学校で62,305 名,中学校で15,352名,小学校で5,263名,幼稚園で 75,362名,高等専門学校で161名である. また,学校教員に職種を限定した分析として,負荷業 務を職種(細分類)ごとに集計した.ここでの負荷業務 とは,学校教員の業務のうち,授業などを除いた中で, 教員にとって負担となっていた典型的な業務を意味す る.この負荷業務は,「学校現場における業務改善のため のガイドライン18)」を参考に,該当事案の調査復命書に 図1 分析対象とした教育・学習支援業の事案抽出方法

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記載されている内容から,第一著者が事案ごとに該当す るものを集計した. 3) 倫理面での配慮 本研究は,独立行政法人労働者健康安全機構労働安全 衛生総合研究所の研究倫理審査委員会により,承認を得 て実施した(通知番号:H2708).本研究で用いたデータ ベースには,個人の氏名,住所,電話番号等,個人を特 定できる情報は一切含まれていない. 3 結果 分析対象の事案の性別,発症時年齢,生死,職種に関 する基礎統計を表1に示した.これらの特徴として,性 別に関しては,脳心事案では男性が9割以上を占め,精 神事案では男女ほぼ半数ずつであった.生死については, 脳心事案の約3割,精神事案の約1割が死亡事案であっ た.また,職種については,脳心事案では大学教員と高 等学校教員の割合が大きかった.その一方,精神事案で はその他の教育の職業の割合が約6割と最も多く,教員 の中では大学教員と高等学校教員の割合が大きかった. なお,その他の教員としては学習塾の教員や自動車教習 所の指導員などが,その他の教育の職業としては学校や 学習塾の事務職員,スクールカウンセラー,社会教育施 設や職業訓練施設の職員などが具体例として挙げられ る. 次に,脳心事案における時間外労働時間数を算出した ところ,発症前1カ月間(n = 24)が月平均94.6時間(標 準偏差:31.9),発症前2カ月間(n = 19)が月平均85.1 時間(標準偏差:31.0),発症前3カ月間(n = 19)が月 平均85.6時間(標準偏差:32.1),発症前4カ月間(n = 19)が月平均84.8時間(標準偏差:31.6),発症前5カ月 間(n = 19)が月平均82.4時間(標準偏差:32.8),発症 前6カ月間(n = 19)が月平均80.5時間(標準偏差:31.7) であった. 脳心事案における疾患名を表2-1に,精神事案におけ る疾患名を表2-2に示した.脳心事案では全体の約7割が 脳疾患であり,脳内出血(脳出血),脳梗塞,心筋梗塞の 順に多かった.精神事案ではF3(気分(感情)障害)と 表1 教育・学習支援業の事案(脳・心臓疾患25件,精神障害・自殺57件)における基礎統計 脳・心臓疾患 精神障害 合計 n (%*1 n (%*1 n (%*1 性別 男性 23 (92.0) 32 (56.1) 55 (67.1) 女性 2 (8.0) 25 (43.9) 27 (32.9) 生死 生存 18 (72.0) 50 (87.7) 68 (82.9) 死亡 7 (28.0) 7 (12.3) 14 (17.1) 発症時年齢*2 47.5±8.7 40.5±10.3 42.6±10.3 職種 脳・心臓疾患 精神障害 合計 中分類 細分類 n (%) n (%) n (%) 教員 大学教員 7 (28.0) 7 (12.3) 14 (17.1) 高等学校教員 6 (24.0) 7 (12.3) 13 (15.9) 中学校教員 0 (0.0) 2 (3.5) 2 (2.4) 小学校教員 1 (4.0) 1 (1.8) 2 (2.4) 幼稚園教諭 2 (8.0) 0 (0.0) 2 (2.4) 高等専門学校教員 2 (8.0) 0 (0.0) 2 (2.4) 専門学校教員 0 (0.0) 1 (1.8) 1 (1.2) その他の教員 3 (12.0) 4 (7.0) 7 (8.5) 教員小計 21 (84.0) 22 (38.6) 43 (52.4) 非教員 その他の教育の職業 4 (16.0) 35 (61.4) 39 (47.6) 合計 25 (100.0) 57 (100.0) 82 (100.0) *1それぞれの労災認定事案数を100として割合を算出した. *2平均値±標準偏差. 表2-1 疾患名(脳・心臓疾患) n (%* 脳疾患 脳内出血(脳出血) 10 (40.0) くも膜下出血 2 (8.0) 脳梗塞 5 (20.0) 高血圧性脳症 1 (4.0) 脳疾患事案合計 18 (72.0) 心臓疾患 心筋梗塞 4 (16.0) 狭心症 0 (0.0) 心停止(心臓性突然死を含む) 3 (12.0) 解離性大動脈瘤 0 (0.0) 心臓疾患事案合計 7 (28.0) 脳心事案合計 25 (100.0) *事案数(n = 25)を100として割合を算出した. Vol. 14, No. 1, pp. 29 37, (2021)

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F4(神経症性障害,ストレス関連障害及び身体表現性障 害)がほぼ半数ずつであり,うつ病エピソード,適応障 害,外傷後ストレス障害の順に多かった. 脳心事案における労災認定理由は,「長期間の過重業 務」が24件,「短期間の過重業務」が4件,「異常な出来 事への遭遇」は0件であった.また,脳心事案における 負荷要因として評価された労働時間以外の負荷要因を 表3-1に示した.労働時間以外の負荷要因としては,拘 束時間の長い勤務,精神的緊張を伴う業務,出張の多い 業務の順に多かった.精神的緊張を伴う業務の具体例と しては,学校の不祥事への対応や(医学系大学教員にお ける)手術などが挙げられる. 続いて,精神事案57件のうち,2011年に策定された 「心理的負荷が関係した精神障害の認定基準」に基づく 37件(教員16件,非教員21件)を対象として,認定事 由としての出来事に関する分析を行った.認定事由とし ての出来事のうち,特別な出来事の「心理的負荷が極度 のもの」は3件,「極度の長時間労働」は4件であり,「恒 常的長時間労働」は9件であった.また,精神事案にお ける認定事由としての具体的出来事を表3-2に示した.具 体的出来事は,「上司とのトラブルがあった」,「(ひどい) 嫌がらせ,いじめ,又は暴行を受けた」,「仕事内容・仕 事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」お よび「セクシュアルハラスメントを受けた」の順に多か った. 学校教員(脳心18件,精神18件)に職種を限定し,負 荷業務を集計したところ,負荷業務として,「役職」,「担 任等」,「学校行事」,「係・担当等」,「部活動顧問」,「委 員会・会議」,「出張」,「事務等」,「事故・災害等」,「そ の他」が挙げられた.これらを事案・職種ごとに集計し た結果を表4に示した.脳心事案の負荷業務として,大 学教員では,委員会・会議,出張,役職が多く,高等学 校教員では,役職,部活動顧問,出張が多かった.精神 事案の負荷業務として,大学教員では,委員会・会議, 事故・災害等が多く,高等学校教員では,担任等,部活 動顧問が多かった. 4 考察 本研究では,過去約5年間に業務上として認定された 教育・学習支援業の脳心事案,精神事案を分析対象とし, 過労死DBを用いてその特徴を抽出し,実態と背景要因 を検討した. 教育・学習支援業の過労死等に見られた主な特徴とし て,以下の点が挙げられる.まず,性別に関して,脳心 事案では男性が9割以上を占め,精神事案では男女ほぼ 半数ずつであった.生死に関しては,脳心事案の約3割, 精神事案の約1割が死亡事案であった.次に,職種に関 して,脳心事案では大学教員と高等学校教員の割合が大 きく,精神事案ではその他の教育の職業,大学教員およ び高等学校教員の割合が大きかった.疾患名は,脳心事 案では,脳内出血(脳出血)の割合が最も大きく,次い で,脳梗塞,心筋梗塞の順に多かった.精神事案では, うつ病エピソードの割合が最も大きく,次いで,適応障 害,外傷後ストレス障害の順に多かった.脳心事案の労 災認定要因は,長期間過重業務が最も多く,労働時間以 外の負荷要因は,拘束時間の長い勤務,精神的緊張を伴 う業務,出張の多い業務の順に多かった.精神事案にお ける認定事由としての出来事は,「恒常的長時間労働」が 最も多く,具体的出来事では「上司とのトラブルがあっ た」が最も多かった.さらに,学校教員に職種を限定し, 職種ごとに負荷業務を検討した結果,学校種に応じて異 なる負荷業務があることが示された. 先行研究4, 7)で示された全業種の結果と比較した際の 教育・学習支援業の主な特徴としては,脳心事案では脳 疾患の割合が相対的に大きく,精神事案では女性の割合 と疾患名における適応障害の割合が相対的に大きかった 点が挙げられる.また,脳心事案の労災認定要因として, 「長期間の過重業務」と「精神的緊張を伴う業務」の割合 が相対的に大きく,精神事案の認定事由としての出来事 表2-2 疾患名(精神障害) n (%* F3 気分(感情)障害  F32 うつ病エピソード 24 (42.1)  F33 反復性うつ病性障害 1 (1.8)  F34 持続性気分(感情)障害 1 (1.8)  F3のその他 1 (1.8) F3合計 27 (47.4) F4 神経症性障害,ストレス関連障害 及び身体表現性障害  F41 その他の不安障害 2 (3.5)  F43 重度ストレスへの反応及び適 応障害   F43.0 急性ストレス反応 2 (3.5)   F43.1 外傷後ストレス障害 8 (14.0)   F43.2 適応障害 13 (22.8)   F43のその他 3 (5.3)  F48 その他の神経症性障害 1 (1.8)  F4のその他 1 (1.8) F4合計 30 (52.6) F3,F4合計 57 (100.0) *事案数(n = 57)を100として割合を算出した. 表3-1 脳心事案における労働時間以外の負荷要因*1 n (%*2 不規則な勤務 2 (8.0) 拘束時間の長い勤務 8 (32.0) 出張の多い業務 4 (16.0) 交代勤務・深夜勤務 1 (4.0) 作業環境 2 (8.0) 精神的緊張を伴う業務 6 (24.0) その他 3 (12.0) *1労働時間以外の負荷要因が複数該当している事案もある. *2事案数(n = 25)を100として割合を算出した.

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として,「上司とのトラブルがあった」などの対人関係の 出来事の割合が相対的に大きかった. 次に,職種の特徴として,教員の中では大学教員と高 等学校教員の事案が多かったが,この理由の一つとして 日本の教育機関の設置状況が反映されていた可能性が考 えられる.「令和2年度学校基本調査(速報値)16)」およ び「文部科学統計要覧(令和2年版)17) 」によれば,私立 の学校数が全体の学校数に占める割合は,大学,高等学 校の方が中学校,小学校よりも相対的に大きい.そのた め,小学校教員や中学校教員の過労死等は,非常勤職員 として地方公務員災害補償法が適用されない過労死等事 案はあるものの,それ以上に公務災害として請求される ケースが相対的に多くなっていると推測できる.本研究 の分析対象は過労死DBに含まれる労災認定事案であっ たが,今後,教員の過労死等の実態と背景要因をより正 確に把握していくためには,公立の中学校教員や小学校 教員が含まれる公務災害事案についても,検討していく ことが求められる.さらに,先行研究9)のように,職種 や学校種ごとに雇用者100万人当たりの発生率を算出す るなどして,教員の過労死等の全体像の解明を進めてい 表3-2 精神事案における認定事由としての具体的出来事*1 出来事の類型 具体的出来事 n (%*2 ①事故や災害の体験 (重度の)病気やケガをした 1 (2.7) 悲惨な事故や災害の体験,目撃をした 4 (10.8) ② 仕事の失敗,過重な責任 等の発生 業務に関連し,重大な人身事故,重大事故を起こした 0 (0.0) 会社の経営に影響するなどの重大な仕事上のミスをした 3 (8.1) 会社で起きた事故,事件について,責任を問われた 0 (0.0) 自分の関係する仕事で多額の損失等が生じた 0 (0.0) 業務に関連し,違法行為を強要された 0 (0.0) 達成困難なノルマが課された 2 (5.4) ノルマが達成できなかった 2 (5.4) 新規事業の担当になった,会社の建て直しの担当になった 0 (0.0) 顧客や取引先から無理な注文を受けた 0 (0.0) 顧客や取引先からクレームを受けた 1 (2.7) 大きな説明会や公式の場での発表を強いられた 0 (0.0) 上司が不在になることにより,その代行を任された 0 (0.0) ③仕事の量・質 仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった 5 (13.5) 1ヶ月に80時間以上の時間外労働を行った 1 (2.7) 2週間にわたって連続勤務を行った 4 (10.8) 勤務形態に変化があった 0 (0.0) 仕事のペース,活動の変化があった 0 (0.0) ④役割・地位の変化等 退職を強要された 4 (10.8) 配置転換があった 1 (2.7) 転勤をした 0 (0.0) 複数名で担当していた業務を1人で担当するようになった 0 (0.0) 非正規社員であるとの理由等により,仕事上の差別,不利益取扱いを受けた 0 (0.0) 自分の昇格・昇進があった 0 (0.0) 部下が減った 1 (2.7) 早期退職制度の対象となった 0 (0.0) 非正規社員である自分の契約満了が迫った 0 (0.0) ⑤対人関係 (ひどい)嫌がらせ,いじめ,又は暴行を受けた 7 (18.9) 上司とのトラブルがあった 9 (24.3) 同僚とのトラブルがあった 2 (5.4) 部下とのトラブルがあった 0 (0.0) 理解してくれていた人の異動があった 0 (0.0) 上司が替わった 0 (0.0) 同僚等の昇進・昇格があり,昇進で先を越された 0 (0.0) ⑥ セクシュアルハラスメン トを受けた セクシュアルハラスメントを受けた 5 (13.5) *1具体的出来事が複数該当している事案もある. *2「心理的負荷が関係した精神障害の認定基準」に基づく事案数(n = 37)を100として割合を算出した. Vol. 14, No. 1, pp. 29 37, (2021)

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く必要があるだろう.なお,本研究では教育・学習支援 業全体が分析対象であり,職種や事業所ごとの詳細な労 働者数を算出することが困難である「その他の教育の職 業」も含まれていたため,職種ごとの発生率は算出でき なかった. その一方,精神事案において最も多かった職種がその 他の教育の職業であった点も注目に値する.具体的には, 学校事務職員や学習塾の事務職員などがこの職種に該当 する.教員の長時間労働や働き方改革が社会的に注目さ れている19)のに対し,学校事務職員の働き方などについ ては十分に明らかにされていない20).また,学習塾の職 員を対象とした研究も不十分である21).そのため,教員 のみでなく学校事務職員や学習塾の職員についても,今 後支援する環境を形成していく必要があると考えられ る. 過労死等の労災認定要因として,全業種・職種を対象 とした場合は長時間労働(長期間の過重業務や恒常的長 時間労働など)が最も多いことが示されている4)が,本 研究の結果から教育・学習支援業においても同様の傾向 であったことが示された.長時間労働は,脳・心臓疾患 や抑うつなどとの関連が指摘されており22-24),過労死等 の過重な業務負担による健康障害を防止するためには, その解消が必須である.しかしながら,「学校における働 き方改革に係る緊急提言25)」では,教員の勤務時間が必 ずしも正確に把握されていないことを指摘している.タ イムカード等の利用による労働時間の正確な把握と適切 な時間管理によって,過剰な時間外労働を削減していく ような取り組みが期待される. さらに,長時間労働以外の要因として,脳心事案で精 神的緊張を伴う業務が多く,精神事案で「上司とのトラ ブルがあった」などの対人関係の出来事が多かったこと も,教育・学習支援業における過労死等の特徴の一つで ある.「学校現場における業務改善のためのガイドライ ン18)」では,教職員は,学校現場を取り巻く複雑化・困 難化した環境を背景に,様々な教育課題への対応を求め られるのみならず,その役割が拡大・多様化しており, さらに保護者への対応等も求められていることを指摘し ている.そのため,日常の業務においても精神的緊張が 増加し,同僚や生徒,保護者との対人関係の問題による 心理的負担が拡大しやすくなってしまっている可能性が 考えられる.そのような心理的負担を軽減するためには, スクールソーシャルワーカーやスクールカウンセラーの 導入促進や相談窓口の設置などによって,教職員のメン タルヘルス対策を進めていくことも重要であると考えら れる.同様に,産業医・産業保健スタッフを活用した健 康確保やストレスチェック制度を活用したメンタルヘル ス不調の一次予防など,労働者自身によるセルフケアを 意識した対策についても促進していくことが求められ る. そして,学校教員に職種を限定し,職種ごとに負荷業 務を検討した結果,学校教員の業務が多岐にわたってお り,職種(学校種)に応じて異なる負荷があったことが 示された.学校・教師が担うべき業務範囲については, 学校現場や地域,保護者等の間で共有されておらず,曖 昧になっている部分があり,「学校における働き方改革に 係る緊急提言25)」や「学校における働き方改革に関する 緊急対策26)」では,初等中等教育機関における業務の明 確化を通じた役割分担と業務の適正化の必要性を指摘し ている.この業務範囲の曖昧性により,結果的に業務が 多岐にわたってしまっている可能性が考えられる.また, 本研究の結果,大学と高等学校を含む高等教育機関の一 部においても,多岐にわたる業務を行っている学校教員 表4 学校教員における職種ごとの負荷業務 役職 担任等 学校行事 係・担当等 部活動顧問 委員会 ・ 会議 出張 事務等 事故 ・ 災害等 その他 職種 n n n n n n n n n n 脳心事案(n = 18) 大学教員(n = 7) 3 0 0 0 1 5 5 0 0 6 高等学校教員(n = 6) 4 1 1 2 4 2 4 2 1 3 小学校教員(n = 1) 1 1 1 1 0 1 0 0 0 1 幼稚園教員(n = 2) 1 1 2 0 0 1 0 1 0 2 高等専門学校教員(n = 2) 0 1 2 2 1 1 0 1 0 2 合計 9 4 6 5 6 10 9 4 1 14 精神事案(n = 18) 大学教員(n = 7) 2 0 1 2 0 3 2 1 3 4 高等学校教員(n = 7) 0 6 2 3 6 3 1 1 1 3 中学校教員(n = 2) 1 0 0 0 0 0 0 1 0 1 小学校教員(n = 1) 0 1 0 0 0 0 0 0 0 1 専門学校教員(n = 1) 1 0 0 0 0 1 1 1 0 0 合計 4 7 3 5 6 7 4 4 4 9

(7)

の事案が確認されたことから,それぞれの学校種ごとに 業務を適正化していくことが必要であると考えられる. 特に,大学教員では委員会・会議や出張が多く,高等学 校教員では部活動顧問や担任が多いなど,職種ごとに異 なった負荷業務があった点は,今後の対策を進めていく 上で特に留意すべき点であろう. 以上のように,本研究はこれまで明らかにされてこな かった教育・学習支援業の過労死等の実態について,職 種ごとの詳細な検討を行い,その一端を明らかにした. 本研究で使用した過労死DBは,日本国内の過労死等の 情報が網羅的に含まれた唯一のデータベースであるた め,他の研究手法からは得ることができない,実際に労 災認定された過労死等についての詳細な情報を提示する ことが可能であった.本研究で得られた知見は,特に学 校教員の過労死等の防止対策に応用することが可能であ り,このような基礎資料を提供したという点で,本研究 には大きな意義があると考えられる. 本研究の限界として,対象とした事案が過労死DBに 含まれている労災認定事案のみであった点が挙げられ る.そのため,労災請求がされていないケースなどは含 まれておらず,日本における教育・学習支援業の過労死 等の実態を,本研究が全て正確に反映できているという 訳ではない.また,過労死DBは労災申請事案の調査復 命書の内容をもとに作成されているが,調査復命書は業 務起因性の有無の判断に際して作成されている.そのた め,労働環境や業務負荷などの具体的な情報が必ずしも 含まれていない可能性も考えられる.今後は,学校現場 を対象としたコホート調査や現場介入調査などの疫学研 究を含め,より多角的な検討が求められる. 謝 辞 本研究は,労災疾病臨床研究事業費補助金(150903 -01)の研究助成を受けて実施された.      文

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pdf (2021年1月3日)

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(9)

Vol. 14, No. 1, pp. 29 37, (2021)

Characteristics of overwork-related disorders among teachers/workers in

education/school services

by

Takuhiro Takada*

1, 2

, Toru Yoshikawa*

1

, Takeshi Sasaki*

1

, Takashi Yamauchi*

1, 3

,

Masaya Takahashi*

1

and Shigeo Umezaki*

1

This study aimed to examine the actual situation and background factors associated with overwork-related dis-orders, such as cerebrovascular/cardiovascular disease (CCVD) and mental disdis-orders, among teachers/workers in education/school services. Eighty-two eligible cases involving compensation for CCVD and mental disorders of the teachers/workers in education/school services were included in the study from a database containing all relevant cases reported between January 2010 and March 2015 in Japan. “Long working hours” was a principal characteristic of CCVD. The cases of mental disorder were associated with “Long working hours” and “Interpersonal conflict”. Among teachers, the number of compensated cases by job type was highest among “University teachers” and “High school teachers” for both the CCVD and mental disorders. With respect to job-specific burdens, more cases were attributed to “committee/meeting” and “business trip” in “University teachers”, “club activity advisors”, and “classroom teachers” in “High school teachers”. These findings suggest that reducing job-specific burdens is needed, in addition to overtime legislation to prevent overwork-related CCVD and mental disorders of the teachers/workers in education/ school services.

Key Words: Teachers, Karoshi, Cardiovascular disease, Cerebrovascular diseases, Mental disorders, Overwork

*1 National Institute of Occupational Safety and Health, Japan. *2 Faculty of Psychology, Tokai-Gakuen University, Japan.

参照

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