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(1)

問題と目的

 東京都教育委員会(₂₀₁₅)は,近年校長・副校長・教 頭の大量退職が進む一方,教育管理職選考受験者数の 低迷の状況が続いており,学校管理職である校長・副 校長・教頭の人材確保が難しいことを述べている。東 京都に限らず,学校管理職選考の受験倍率の低下等の 現象を踏まえ,学校管理職候補者の育成・確保が,大 都市を中心に全国的な課題であることが指摘されてい る(中央教育審議会初等中等教育分科会チームとしての学校・教 職員の在り方に関する作業部会, ₂₀₁₅; 大杉他, ₂₀₁₄)。このよう な現状を踏まえ,東京都教育委員会(₂₀₁₅)では,管理 職としての育成の対象を,教員採用時にまで広げ,早 期の段階から各教員にキャリアアップを意識させるこ とが重要であると指摘している。また,採用後間もな いうちから,「管理職にならせたい人材」を見出し,将 来の管理職として育成すること,その際,教員に対し て,学校マネジメント能力を育成するためのアプロー チや,管理職を含め指導者がよきロールモデルとなる ことが重要であるという人材育成方針を打ち出してい る。

 学校管理職への任用制度について,文部科学省初等 中等教育局初等中等教育企画課(₂₀₁₁)は,₄₇ 都道府

* 千葉商科大学商経学部

  〒 ₂₇₂-₈₅₁₂ 千葉県市川市国府台 ₁-₃-₁ R₆₀₇ 研究室   chiki-kw@cuc.ac.jp

** 筑波大学

教員の管理職志向への規定要因

――ロールモデルとマネジメント経験に焦点をあてて――

川 崎 知 已 *   飯 田 順 子 **

 本研究の目的は,一般教員が学校管理職を志向する規定要因を探索的に検討することであった。まず,

予備調査Ⅰで管理職候補者 ₅ 名を対象にインタビュー調査を行い,過去の職務上での経験,教員として 現在持っている効力感や職業観,認知,将来展望としての学校管理職志向に関連する要因が収集された。

次に,予備調査Ⅱで,校長候補者 ₆₈ 名に自由記述調査を行い,ロールモデルとなる管理職の人物像,公 立学校教員職業観に関するより詳細な内容を収集した。それを踏まえ,本調査では,全国公立小・中学 校の一般教員 ₃₁₀ 名を対象にweb調査を実施し,学校管理職に影響を与える要因について,重回帰分析 を用いて検討した。その結果,学校マネジメント経験から得た「職務達成感」と,「専門的識見・改革型 リーダー機能」を有するロールモデルとの出会いが,「組織貢献効力感」「校長職に対する肯定的認知」

の ₂ 変数を介して,学校管理職志向に間接的に影響を与えることが明らかになった。

キーワード:学校管理職,管理職志向,ロールモデル,学校マネジメント経験,教師教育

県教育委員会及び ₁₉ 指定都市教育委員会(合計 ₆₆ 自治 体教育委員会)のうち,₆₅ の教育委員会が,小論文や作 文による筆記試験(₆₂ 自治体),個人面接(₆₁ 自治体)等 による管理職選考試験を実施していることを明らかに した。そのうち,管理職選考試験の出願に必要な条件 として,校長等の推薦を必要とする道府県,政令指定 都市は,₅₉(複数回答あり)あるものの,₄₇(複数回答あ り)都道府県,政令指定都市では,受験希望者が校長 や教育委員会等の推薦なしに出願が可能であることを 明らかにした。つまり,管理職等の推薦があったとし ても,本人の意思で管理職選考を受ける制度となって いる都道府県,政令指定都市が ₇ 割を占め,学校管理 職の育成・確保の過程には,教員自らが管理職を希望 するという側面があるため,学校管理職候補者の育 成・確保を考える上で,教員の管理職志向性に影響を 与える要因の検討が必要になる。

 教員の管理職志向性については,次のような研究が ある。ベネッセ教育総合研究所(₂₀₁₀)は,全国的に見 たときに,将来的に管理職を志向する者は,小学校,

中学校とも ₁ 割から ₁.₅ 割程度であり,大半の一般教 員は,管理職を志向していない可能性があることを示 している。また,東京都公立学校教員を対象として実 施した調査では,管理職選考を受験しない一般教員の 意識として,児童・生徒と関わる時間の減少,自己の

教育管理職とは,学校管理職である校長,副校長,教頭に加 えて,校長や教員から任用された教育委員会事務局や教育セン ター等における管理職を含めた総称である。

(2)

教育理念や力量の不足,精神的ストレスの多さ等が挙 げられている(高瀬, ₂₀₁₅)

 また,これら教員の管理職志向性の回避理由・阻害 要因に関する研究に加えて,教員の管理職志向性の促 進要因についての研究も,複数見られる。まず,高野 他(₂₀₁₃)は,男女校長及び校長経験者からのインタ ビューによる分析から,教育管理職等から何らかの仕 事や役割を与えられ,その過程で力量を形成,発揮す ることが管理職志向性に影響を与えることを明らかに した。また,塚田(₁₉₉₇)は,高校教師のライフヒスト リーの聞き取り調査に基づく分析から,学校経営の手 腕と興味,「有力」校長との出会いが,管理職志向性に 影響を与えていたことを示している。塚田(₁₉₉₇)で紹 介されている「有力」校長は,県教育委員会に働きか け,学校組織のあり方を学ばせる目的で,聞き取り調 査協力者である教員を県の短期海外派遣に送るなど,

実行力・影響力が高い人として描かれている。同様に,

川村(₂₀₁₂)は,小学校校長のライフヒストリーに基づ く分析から,学校全体を見渡す必要のある校務分掌経 験(学校マネジメント経験)と重要な他者との出会いや重 要な他者からの働きかけ,教育実践家としての成熟,

加齢等が,一般教諭を管理職へと導くことを明らかに している。

 教員の管理職志向性の促進要因について,これまで の研究の多くがライフヒストリー研究であり,定量的 に検討されているものはほとんど見られない。また,

これらの研究では,調査方法として,校長職経験者の 回顧法による面接が用いられており,一般教員の管理 職志向性を明らかにするという点では,研究対象者に 偏りがあると言える。一般教員を対象として意識を調 査したものは,教員の管理職志向性の阻害要因につい ては,前述のベネッセ教育総合研究所(₂₀₁₀),高瀬

(₂₀₁₅)があるが,管理職志向性の促進要因も含め,管 理職志向性に影響を与える要因を定量的に検討してい る研究はほとんど見られない。

 教員のキャリア発達に関する先行研究として,古屋

(₂₀₀₉),岩根・長島・小野・古屋(₂₀₁₀),徳舛(₂₀₀₇)

などがある。それらの研究の結果から,若手教員は,

先輩格の熟達した教員,同僚の教員,保護者,児童生 徒,経験,地域性等の育成資源に接する可能性や機会 が増加し,それらと相互に作用しあうダイナミックな 社会的相互交渉の過程を経て,教員のキャリア発達が 達成されていくことが明らかになっている。しかしな がら,教員のリーダーの育成・開発と職業観の発達に ついての研究や,管理職までを視野に入れた研究は,

ほとんど見られない。

 一方,教員以外の職業に着目したとき,一般企業に おける管理職志向の促進要因について定量的に検討し ている研究がいくつか見られる。三輪(₂₀₁₁)は,管理 職志向をもつ者は,対人的な交流を通して,キャリア 発達が促されることを,質的,量的研究の両面から明 らかにしている。高橋(₂₀₁₂)は,自己効力感が管理職 志向性に影響を与えることを示している。また,杉崎

(₂₀₀₉)は,上司による熱心な育成経験,新人や後輩の 育成経験,マネージャーとしての役割の遂行(マネジメ ント経験)が,管理職志向性に影響を与える要因である ことを量的研究で明らかにしている。さらに,一般企 業等におけるリーダーの育成・開発と職業観の発達に おいては,ロールモデル・成功モデル,キャリアモデ ルの存在が,職業観の発達,職業意識の高さ,キャリ ア・パースペクティブ,自己効力感,自己実現意欲,

自立意識に影響を与えることが明らかになっている

(Bandura, ₁₉₇₁ 原 野・福 島 共 訳 ₁₉₈₅; 金 井・三 後, ₂₀₀₄; 松 本,

₂₀₀₈; McCall, ₁₉₉₈ 金井監訳 ₂₀₀₀)

 しかし,入社当初から,人材育成の観点が強く,段 階を踏んで昇進していくシステムが根づいている一般 企業の調査結果は,教員の管理職志向性に当てはまら ない可能性も大きい。そこで,教員の昇任システムと 類似した状況があると考えられる公務員の昇任に関す る研究に,深田(₂₀₁₅)がある。深田(₂₀₁₅)は,自治 体職員の昇任意識への影響要因を検討し,「責任・権限 のもてる仕事ができる」,「能力や創意性の発揮できる 仕事につける」,「自分の裁量で仕事ができる」,「権限 の大きな仕事ができる」,「マネジメントに直接的に参 加できる」など,自分は仕事ができると思えることと,

仕事を積極的にやりたいという価値志向をもっている ことが,促進要因となることを明らかにした。

 これまで挙げてきた先行研究から,以下の点が明ら かになった。教員の管理職志向性についての研究は,

ライフヒストリー研究からのアプローチはあるが,量 的研究を行っているものはほとんどない。質的研究で 明らかになった重要な要因である「有力校長」や「重 要な他者」との出会い,「学校全体を見渡す必要のある 校務分掌経験(学校マネジメント経験)」についても,ライ フヒストリーの中でいくつかの例は挙げられているも のの,「有力校長」や「重要な他者」のタイプや,学校 マネジメント経験の内容に関する検討はほとんど行わ れていない。また,教育管理職志向性への阻害要因を 明らかにするアンケート調査は数件見られるが,教育 管理職志向性について促進要因も含めた影響要因を検

(3)

討している量的研究は,ほとんど見られない。さらに,

一般企業等における研究で,管理職志向性に影響を与 えることが明らかになっている仕事を通じた自己効力 感との関係や自己効力感の具体的な内容,ロールモデ ル・成功モデル,キャリアモデルの存在と職業観の発 達,職業意識の高さとの関係についても,教員を対象 とした研究は,見られない。

 本研究は,上記の課題を踏まえ,一般教員が教育管 理職を志向する規定要因に着目し,次の ₂ 点を明らか にすることを目的とする。第 ₁ に,一般教員が教育管 理職を志向する規定要因を探索的に明らかにする。第

₂ に,第 ₁ で探索的に明らかにした要因が,教育管理 職志向に与える影響について量的に明らかにする。特 に,東京都教育委員会(₂₀₁₅)が,採用時の段階から管 理職候補者の発掘・育成に重要であると述べている,

学校マネジメント能力の育成や管理職のロールモデル の有無やその特性について焦点を当てて検討する。

予備調査 1 目的

 教員の管理職志向に影響を及ぼす要因を広く収集す ることを目的として,面接調査を行った。

方法

 調査対象者 東京都公立小学校,中学校の副校長,

学校管理職候補の主幹教諭,主幹養護教諭 ₅ 名(男性 ₄ 名,女性 ₁ 名;₄₀ 代 ₂ 名,₅₀ 代 ₃ 名)であった。

 調査方法 面接に際しては,面接依頼書により,事 前に本研究の趣旨と所要時間,個人情報やプライバ シー保護,及び結果の取り扱いに関する説明を提示し た。面接実施前に,再度面接依頼書の内容の説明をし た上で,研究協力と実施内容について承諾を得て実施 した。了承を得てICレコーダーと筆記による記録を 行った。

 実施時期 ₂₀₁₅ 年 ₄ 月 ₂₀ 日から ₂₀₁₅ 年 ₆ 月 ₃₀ 日 に実施した。

 調査内容 教員経験年数,教員採用時における学校 管理職志向,学校管理職を志向するようになった経緯,

学校管理職を志向する者と志向しない者の相違,学校 管理職のイメージを尋ねた。

結果と考察

 面接終了後,ICレコーダーの録音と筆記記録から,

個人が同定される危険性のある情報を削除または修正 した上で,逐語記録を起こして文字データ化した。そ こからキーワードを抽出し,第 ₁ 著者と学校心理学を 専門とする大学教員 ₁ 名(第 ₂ 著者),カウンセリング

を専攻する大学院生 ₂ 名,計 ₄ 名で,KJ法(川喜田,

₁₉₆₇)を援用して分類し,カテゴリを生成した。結果を Table ₁ に示す。

 まず,「(教務主任として)プロジェクトリーダーやっ ているようなもんなんですね。そこはおもしろいなっ て,自分が貢献できているかな」など,学校マネジメ ント経験を通して職務達成感を得ることや,自己成長 感を得るといった発言内容を基に,『学校マネジメント 経験成就感』カテゴリを生成した。次に,「(教育への)

情熱があって,(学校経営をする際は)常にああしよう,

こうしようということを考えていた。企画して実行し たりとか,仕事を流していないんだと思いますね。(学 校教育や学校運営の在り方などを)どんどん変えていこうと する」といった,これまでに出会った印象に残る学校 管理職について語る発言内容を基に,『ロールモデルと なる学校管理職との出会い』カテゴリを生成した。こ の ₂ つのカテゴリは,過去に体験したマネジメント経 験や過去に出会ったロールモデルからの影響に関する 言及であった。

 次に,「自分の学級経営のスタイルってだいたいき まってくるじゃないですか。それをしていれば,子供 をまとめられるみたいな」などの発言内容が得られ,

それらはいずれも教員経験を積むことによって形成さ れる多様な場面における効力感に関する発言内容で あったため,『教師効力感』カテゴリを生成した。ま た,「管理職の先生が,よくしてくれたっていうことは 何かっていうと,私のことをとりあえず認めてくれた,

認めてくれるっていうのがいったい何かというと,そ の裏にはMの好きなようにやってみていいよって言っ てくれた人がいるんですよ」といった発言内容を基に,

『学校管理職からの被承認認知』カテゴリを生成した。

「自分が教えることが好きで,子供とがっぷりよつ,学 級担任から離れられないという感じはあったんですけ れど,その気持ちはどこかで消えた」といった発言内 容を基に,『脱学級最優先・全体的視野意識』カテゴリ を生成した。「ある年齢,ある経験を積んだのだった ら,自分の主張より,組織のためになろうって言う考 えや姿勢をもつかどうかの違いだと思います」といっ た発言内容を基に,『公立学校教員職業観』カテゴリを 生成した。「学校全体とか,舵取りひとつで,教員にい ろいろな協力的な人がいなけりゃだめでしょうけれど も,監督,学校をよくする根っこ,中心,それは校長 先生だからできるんじゃないかと思います」といった

( )は,筆者が発言意図を,前段の会話から推測の上補足し た。

(4)

Table 1 予備調査 ₁ で得られた学校管理職志向の関連要因

カテゴリ 主な発言例

学校マネジメント 経験成就

「(教務主任として)プロジェクトリーダーやっているようなもんなんですね。そこはおもしろいなって,自分が貢献できて いるかな。」【職務達成感】《 ₆ 》

「生活指導主任として全体をうごかしていくことは広さがちがいますよね。広い視野っていうか,学年越えてみなけりゃい けなかったんで,逆に学校全体の生徒を変えられる,変えてきたっていう感じです。」【職務達成感】《 ₈ 》

「結局,国や教育委員会がやろうとしていることや,校長先生の経営方針って,それをやる必要性が必ず背景にあると思う んです。だから,自分としては,まずは推し進めていかないとならないし,その積み重ねが,やっていく自信になってい くっていうんですかね。」【自己成長感】《 ₇ 》

「校長先生がよくいう支店っていうことですよね。今,自分がやっていることは,区が進めていこうとしていることをすす めているんだ,それが,生徒のためになるんだって思っていました。仕事をする自分の視野が広がったと思います。」【自己 成長感】《 ₈ 》

ロールモデルとな る学校管理職との 出会い

「(教育への)情熱があって,(学校経営をする際は)常にああしよう,こうしようということを考えていた。企画して実行 したりとか,仕事を流していないんだと思いますね。(学校教育や学校運営の在り方などを)どんどん変えていこうとする。」

《 ₁ 》

「子供たちに本物を見せたい,本物にふれさせたいって言う思いがあって,いろいろなところに金策に走ってくださったり,

自分でだめじゃないかと思っていると「この校庭を馬が走る姿を想像して見ろ」 とか応援してくださって。」《 ₁ 》

「今の文部科学省や中央教育審議会などの答申ですか,そういう国の動向については,文章の行間の部分まで教えてもらい ました。だから,国がやろうとする趣旨や方向性が見れて,すごくためになりましたね。」《 ₁ 》

「厳しいことは厳しいんですよね。人によってはあたりが強くてっていう人もいたと思うんですよね。」《 ₁ 》

教師効力

「自分の学級経営のスタイルってだいたいきまってくるじゃないですか。それをしていれば,子供をまとめられるみたいな。」

【学級管理・運営効力感】《 ₇ 》

「教えることが好きなんで,どうやったら子供がのってくるか,それを頭に描いていくのがやりがいで。」【教授・指導効力 感】《 ₆ 》

「だいたいどういう子供にはこういうふうにやってみよう,こういう子にはこれがいいかなっていうことが見えているじゃ ないですか。」【子ども理解・関係形成効力感】《 ₈ 》

「保護者とも,こちらがどういうふうに臨めば,どういう関係ができるかもつかめてきますよね。もちろん例外もけっこう ありますけれど。」【保護者との関係形成効力感】《 ₇ 》

学校管理職からの 被承認認

「管理職の先生が,よくしてくれたっていうことは何かっていうと,私のことをとりあえず認めてくれた,認めてくれるって いうのはいったい何かというと,その裏にはMの好きなようにやってみていいよって言ってくれた人がいるんですよ。」《 ₆ 》

「好きなようにやってごらんっていうには,自分が信じられている,自分が認められているっていうのがあるから,それは 意に感じて頑張る。」《 ₈ 》

「自己申告のときに,何か心配なクラスない?とか,全体に関わること,僕に聞いてくれるんですよ。」《 ₅ 》

脱学級最優先・ 体的視野意識

「自分が教えることが好きで,子供とがっぷりよつ,学級担任から離れられないという感じはあったんですけれど,その気 持ちはどこかで消えた。……消えたっていうよりか,そういう思いは,ゆくゆく子供にとってあまりいいことじゃないなっ て,学級王国っていうことが,もう今の時代そぐわないんだって。」《 ₈ 》

「学年を動かすようになって,逆にうちの学年だけいいって言うと他の学年の子がかわいそうとか,あの ₆ 年はすごくいい けれど,自分たちのときはどうなっちゃうのっていうのがあるので,……ちょっとずつだと思います。気持ちが変わって いったのは。」《 ₆ 》

「クラス楽しいし,学年楽しいんですけれど,管理職の人たちがいてくれて,校長先生,副校長先生がいてくださるから学 校が回るっていうことが,主幹になってだいぶわかってきて。」《 ₉ 》

公立学校教員職業

「国から総合が出てきて,みんなはエーって言っていたけど,僕は凄くうれしくて,これでやりたいことができるじゃない かって。」《 ₁ 》

「(校長から)言われたものはやらせていただいて,そういうふうに僕はやってきたんです。」《 ₁ 》

「ある年齢,ある経験を積んだのだったら,自分の主張より,組織のためになろうって言う考えは姿勢をもつかどうかの違 いだと思います。」《 ₁ 》

校長職肯定的認知

「校長先生って親分じゃないですか。トップじゃないですか。うまくいえないんですけれども,若手に声をかけるとかそう いう意味では同じなんですけれども……やはり,方針を立てるとか,これでやっていくんだと決めるのは校長先生じゃない ですか。決めた強さってあると思います。」《 ₈ 》

「校長先生は,立場として,教員を育成できる,励ます,勇気付ける,育てる,とかできる。」《 ₇ 》

「学校全体とか,舵取りひとつで,教員にいろいろな協力的な人がいなけりゃだめでしょうけれども,監督,学校をよくす る根っこ,中心,それは校長先生だからできるんじゃないかと思います。」《 ₅ 》

「僕とか主幹が言っても聞かない教員が,校長が言うことは聞きますよね。そういうもんかと思いました。権威もそうだし」

《 ₇ 》

(5)

発言内容を基に,『校長職肯定的認知』カテゴリを生成 した。これらのカテゴリは,回答者が現在もっている 教師としての効力感や職業観,学校管理職からの被承 認感や校長職に対する認知と考えられた。

 最後に,「生徒と相対してだけじゃない,また違う方 法で,教員の方々を動かしたりすることができるんで

……あと,もうひとつ,教員養成もやりたいなってい うのもあるのかもしれません」といった発言内容を基 に,『学校管理職志向』カテゴリを生成した。これは,

将来的に管理職をやってみたいという,将来への展望 と考えられた。

 ここで得られたカテゴリと先行研究を比較すると,

学校マネジメント経験成就感は,高野他(₂₀₁₃),川村

(₂₀₁₂)が述べている教育管理職等から何らかの仕事や 役割を与えられ,その過程で力量を形成,発揮するこ とが管理職志向性に影響を与えるという結果と一致し ていた。ロールモデルとなる学校管理職との出会いは,

塚田(₁₉₉₇),川村(₂₀₁₂)が述べている「有力」校長や 重要な他者と類似した回答が得られた。教師効力感に ついては,高橋(₂₀₁₂)が一般企業を対象とした調査で 自己効力感が管理職志向性に影響を与えると述べてい ることや,川村(₂₀₁₂)が「教育実践家としての成熟」

が一般教諭を管理職へと導くと述べていることと関連 していた。学校管理職からの被承認は,川村(₂₀₁₂)が 述べている重要な他者からの働きかけと関連していた。

脱学級最優先・全体的視野意識は,川村(₂₀₁₂)が述べ ている教育実践家としての成熟と関連するものと考え られるが,本研究で新たに得られたカテゴリとも言え る。公立学校教員職業観は,本研究で新たに得られた 内容と言える。校長職肯定的認知は,塚田(₁₉₉₇)の学 校経営の手腕と興味と一致する内容であった。また,

学校管理職志向を構成する内容は,深田(₂₀₁₅)が,自 治体職員の昇任意識への影響要因に着目して作成した,

「係長ポストへの昇任意識」尺度の下位尺度である「昇 任意欲」の ₁₁ の質問項目と内容と類似した回答が得ら

れた。

 一方で,今回ロールモデルとなる学校管理職として 挙がった人物像は,強いリーダーシップを発揮するタ イプの管理職であった。学校管理職の中には,教職員 や各組織間の調整や気配りなどをよく行う管理職など,

異なるタイプの管理職もいることが考えられる。ロー ルモデルとなりえる多様な管理職の記述は,今回の ₅ 名を対象とする予備調査 ₁ では得られなかった。 また,

公立学校教員職業観は,先行研究にはない内容であり,

予備調査 ₁ で得られた回答以外にも,どのようなもの があるか検討する必要があると考えられた。そのため,

予備調査 ₂ を行い,ロールモデルとなる管理職の人物 像,公立学校教員職業観についてさらに検討すること とした。

予備調査 2 目的

 ロールモデルとなる学校管理職の人物像と,公立学 校教員職業観に関する内容をさらに収集するため,自 由記述調査を実施することとした。

方法

 調査対象者 東京都公立小学校,中学校の副校長で 校長候補者選考受験者(副校長経験 ₃ 年目以上が全員対象)

及び前年度までに校長選考に合格している者 ₆₈ 名(男 性 ₄₆ 名,女性 ₂₂ 名),教育管理職候補者選考受験予定者 及び前年度までに教育管理職選考に合格している者 ₂₇ 名(男性 ₁₉ 名,女性 ₈ 名),合計 ₉₅ 名(男性 ₆₅ 名,女性 ₃₀ 名)であった。

 実施時期 ₂₀₁₅ 年 ₅ 月 ₂₀ 日から ₂₀₁₅ 年 ₆ 月 ₃ 日で あった。

 実施方法 アンケートは,第 ₁ 著者が校長候補者選 考及び教育管理職候補者選考受験者のための受験対策 に関する研修講座の講師に招聘された際に,研修講座 会場で実施した。なお,アンケート協力者には,本ア ンケートへの協力は任意であることを事前に伝え,本 学校管理職志向

「生徒と相対してだけじゃない,また違う方法で,教員の方々を動かしたりすることができるんで……あと,もうひとつ,教 員養成もやりたいなっていうのもあるのかもしれませんね。」《 ₅ 》

「ちょっと学校を運営する立場になってみたい,経営する立場になってみたいっていう。」《 ₆ 》

「もっともっと(という気持ちで教員のモチベーションとして)本当にできるのか(疑問がでてきて)だったら……学校全 体とか,先生方とか違う次元に行ってっていうのを考えたのかな」《 ₅ 》

「正直知っている方でなっている方いるんなら,なれそうかな,って思ったんです。あ,あの方がなっているんだったら,自 分も……っていう思いはありました。」《 ₃ 》

注)( )は筆者が発言意図を前段の会話から推測のうえ補足した。

  【 】は同じカテゴリ内で複数の内容が語られているとき,項目作成のキーワードとなるような表題をつけた。

  《 》は類似した発言数を表す。一人の調査協力者からの複数発言がある。

(6)

研究の趣旨と所要時間,個人情報やプライバシー保護,

及び結果の取り扱いに関する説明を提示した上で,ア ンケート協力に同意した者のみ提出を依頼した。

 調査内容 アンケート調査は,学校管理職を志向す ることに影響を与えた学校管理職の有無,その人物の 特徴,公立学校に勤務する教員としてもつべき職業観 を自由記述形式で尋ねた。

結果と考察

 「管理職志向に影響を与えた人物の特徴」「公立学校 教員のもつべき職業観」について,自由記述で得られ た回答からキーワードを抽出し,前述の ₄ 名で,KJ法

(川喜田, ₁₉₆₇)を援用して分類し,カテゴリを生成した。

その結果,管理職志向に影響を与えた人物が有する特 徴的な資質・能力,機能は,「判断力・決断力・行動 力」「教育への信念と学校経営力」「知識・見識・専門 性」「人脈と信頼」「外部折衝能力」「リーダーシップの 強さ」「改革志向」で生成される『職務遂行機能』と,

「指導力の高さ,人材育成力」「親切・面倒見のよさ」

「児童・生徒を大切にする」で生成される『集団維持機 能』に大別された。これは,三隅(₁₉₆₆)の提唱した リーダーシップ行動論のPM理論と一致する結果で あった。このことから,本調査におけるロールモデル となる学校管理職を尋ねる項目には,「職務遂行機能

(Performance)」の側面と「集団維持機能(Maintenance)」 の側面を測定する項目を含める必要があると判断され た。

 また,公立学校教員のもつべき職業観については,

「組織の一員としての職務意識」「公務員としての信頼 を得る職務姿勢」「プロ教員としての使命感」「保護 者・地域住民等を意識した職業姿勢」の ₄ つの観点が 得られた。本調査では,これらの ₄ つの観点を質問項 目として含めることとした。

本 調 査 目的

 先行研究及び予備調査により探索的に導きだされた 一般教員の学校管理職志向に関連があると抽出された 要因から,学校管理職志向を規定する要因を明らかに

する。具体的には,Figure ₁ の仮説モデルを,重回帰 分析により検討する。仮説モデルでは,属性である

「性別」「公立学校教員経験年数」,背景要因となる「勤 務先校種」「職層」,さらに予備調査 ₁ で過去の職務上 での経験に位置付けられた「学校マネジメント経験成 就感」「ロールモデルとなる学校管理職との出会い」を 第一水準におく。第二水準には,回答者が現在もって いる教員としての効力感や職業観,学校管理職からの 被承認感や校長職に対する認知として,「教師効力感」

「学校管理職からの被承認認知」「脱学級最優先・全体 的視野意識」「公立学校教員職業観」「校長職肯定的認 知」をおく。第三水準には,将来的に管理職をやって みたいという,将来への展望として「学校管理職志向」

をおく。

方法

 調査対象者 web調査会社に,公立小中学校の正規 の教員であることを調査対象者の条件として,調査を 依頼した。その際,web調査会社が,パネルとして登 録している調査対象者に,事前に調査趣旨の説明を提 示し,調査協力の意思の有無を尋ねるアンケートを実 施した上で,条件に該当し回答に同意したものを調査 対象者とした。その結果,₃₁₀ 名から回答を得た。

(      )

(      )

現在の効力感・職業観・

(      )

将来の展望・管理職志向性

意識 回答者属性・勤務状況・

これまでの経験等

第二水準

第一水準 第三水準

Figure 1 学校管理職志向に及ぼす影響についての仮説モデル

本調査では,web調査を実施したが,これにあたっては回答 者がインターネットを利用している一般教員に限られること,

得られた回答が,自発的にモニター登録をし,ポイントの交付 を望む一般教員からの回答に限られること,また,回答者にあ たっては職業を一般教員として自己申告をしているというバイ アスの存在にも留意すべきである。しかしながら,本調査協力 を一般教員にするにあたり,紙媒体により,学校単位で調査協 力依頼する場合は,校長等学校管理職を通しての配布,回収と なる場合が多くなることから,調査協力者の匿名性の保障につ いて不安や,学校管理職からの評価を受ける懸念が生じる可能 性があるため,そのような懸念の生じない方法としてweb調査 を実施した。このことにより回答者の匿名性の確保と,管理職 や同僚教員からの評価の懸念の払拭をした状態での調査を行う ことができたというメリットは指摘できよう。したがって,今 後の研究では,様々なバイアスとメリットを総合的に考慮し,

複数の調査方法を組み合わせ実施し,結果について相互に比較 し,学校管理職志向の規定要因について理解を深めることが重 要となると考える。

(7)

 調査時期 ₂₀₁₅ 年 ₁₀ 月 ₁₆ 日―₁₇ 日に実施した。

 調査内容 以下の ₁ )―₉ )を実施した。

1)フェイスシート 性別,年齢層(₂₀ 代,₃₀ 代,₄₀ 代,

₅₀ 代),教員経験年数( ₅ 年未満,₅ 年以上 ₁₀ 年未満,₁₀ 年 以上 ₁₅ 年未満,₁₅ 年以上 ₂₀ 年未満,₂₀ 年以上 ₂₅ 年未満,₂₅ 年 以上),校種(小学校,中学校),職層(主幹教諭,指導教諭,

主任教諭,教諭,主幹養護教諭,主任養護教諭,養護教諭),勤 務先都道府県の ₆ 項目について回答を求めた。

2)学校マネジメント経験の有無と学校マネジメント経 験成就感 学校マネジメント経験を「教務主任,生徒 指導主事等,年間を通して学校全体を動かす立場での 仕事経験」と定義し,この校務経験の有無について,

「経験した(現在している)」,「経験したことはない」の 単一回答法で回答を求めた。学校マネジメント経験成 就感については,「国(文部科学省)や教育委員会の方針 や方向性を踏まえて具体的にすすめることができた(す すめている)」,「校長の学校経営の方針や計画にそって 具体的にすすめることができた(すすめている)」,「自分 自身の教員としての仕事に対する視野が広がった(広 がっている)」,「児童・生徒全体に影響を与える仕事の 面白みを知ることができた(できている)」など,予備調 査 ₁ の結果を踏まえて,前述の ₄ 名で ₁₀ 項目を作成し た。それぞれ「あてはまる」「まああてはまる」「どち らともいえない」「あまりあてはまらない」「あてはま らない」の ₅ 件法で回答を求めた。

₃)ロールモデルとなる学校管理職との出会いの有無と リーダーシップ機能 ロールモデルとなる学校管理職 との出会いの有無については単一回答法で回答を求め た。リーダーシップ機能を測定する項目については,

予備調査 ₁・₂ の結果を踏まえ,前述の ₄ 名で検討し た。予備調査 ₂ の結果から,職務遂行機能を測定する 項目として,「学習指導要領に精通しており,教科指導 等への専門性が極めて高い」「強力なリーダーシップを とって学校を大きく改革・変革する」など ₁₀ 項目を作 成した。同様に,集団維持機能を測定する項目として,

「部下や後輩教員への気遣いや思いやりがある」「寛容 で包容力がある」など ₁₁ 項目を作成した。これら ₂₁ 項目に対し,前述と同様の ₅ 件法で回答を求めた。

₄)教師効力感 教師効力感を測定する項目として,春 原(₂₀₀₇)が作成した『教師効力感尺度』を,今日的な 教育課題や背景を踏まえ,文章表現を一部修正して用 いた。この尺度は,教育学部生を対象に,教育実習中 に経験する職務内容に対する自信を測定するために作 成されており,『学級管理・運営効力感(₁₁ 項目)』,『教 授・指導効力感( ₉ 項目)』,『子ども理解・関係形成効 力感( ₆ 項目)』という ₃ つの下位尺度から構成されて いる。前述の ₄ 名で項目内容を検討した際,予備調査

₁ において,前述の ₃ つの下位尺度に該当しない保護 者との関係形成効力感が導き出されたことから,正規 教員として必要とされる職務を検討した結果,学校運 営に関する効力感,自治体の教育施策推進や校長の学 校経営方針を踏まえて組織の一員として職務を遂行す ることで得られる組織貢献効力感が挙げられ,これら の業務は管理職になると増えることが見込まれるため,

これらの職務に対する自信を測定する内容も含める必 要があると判断した。各尺度に含める具体的な項目に ついては第 ₁ 著者と第 ₂ 著者を中心に以下の通り作成 した。『保護者・地域住民等との関係形成効力感』とし て,「保護者に自分から積極的に関係をつくっていく働 きかけができる」「保護者の要求や苦情等に落ち着いて 丁寧に対応することができる」「地域住民に学校教育活 動への協力依頼をスムーズに行うことができる」など

₁₂ 項目を作成した。また,『学校運営に関する効力感』

として,「各教職員の仕事の進捗状況を把握することが できる」「職務を各教職員の得意,不得意に応じて適切 に割り振ることができる」など ₅ 項目を作成した。さ らに,『組織貢献効力感』として,「校長の学校経営の 方針や計画にそって,自己の教育活動等を推進するこ とができる」「国(文部科学省)や教育委員会の方針や方 向性を踏まえて,自己の教育活動等を推進することが できる」「校長の方針に基づいて,具体的な企画・立案 をすることができる」など ₅ 項目を作成した。これら 全 ₄₈ 項目について,前述と同様の ₅ 件法で回答を求め た。

₅)学校管理職からの被承認認知 「自分は,学校の中 で中心的な存在の教員だと思われている」「自分は,学 校経営に関わる仕事も任せておける教員だと思われて いる」「自分は,授業や研究,対応など認めてもらって いると思う」など,予備調査 ₁ の結果を踏まえ,₁₀ 項 目作成した。前述と同様の ₅ 件法。

職層について,主幹教諭(主幹養護教諭)は,校長・副校長 の補佐機能,調整機能,人材育成機能及び監督機能を果たすと ともに,経営層である校長・副校長と実践層である主任教諭等 との間で調整的役割を担い,自らの経験を生かして主任教諭等 をリードする指導・監督層の教員を指す。指導教諭は,高い専 門性と優れた教科指導力を持つ教員で,模範授業などを通じて,

教科等の指導技術を自校・他校の教員に普及させる職務を担う 教員を指す。また,主任教諭(主任養護教諭)とは,校務分掌 などにおける学校運営上の重要な役割,指導・監督層である主 幹教諭の補佐,同僚や若手教員への助言・支援などの指導的役 割を職務内容とする教員を指す。

(8)

₆)脱学級最優先・全体的視野意識 「学校や学年全体 の状況によっては,自分の学級経営だけでなく,全体 の仕事も引き受ける」「組織の一員であることを自覚し て,自分の希望しない職務も引き受ける」「年齢や経験 年数を考え,負担の多い仕事も厭わず引き受けていく」

など予備調査 ₁ の結果を踏まえ,₈ 項目作成した。前 述と同様の ₅ 件法。

₇)公立学校教員としての職業意識 「文部科学省や教 育委員会の方針,教育施策等を具体的に進めること」

「校長の学校経営方針(計画)を具体的に進めること」

「保護者,地域住民,都道府県民,市民からの信頼を得 るとともに,地域に貢献すること」「全体の奉仕者であ る自覚をもち,公平,誠実であること」など,予備調 査 ₂ の結果導き出された ₄ つの観点が含まれるよう,

全体で ₁₀ 項目作成した。前述と同様の ₅ 件法。

₈)校長職に対する肯定的認知 「校長は,自分の目指 す教育を実現できる」「校長は,教職員を,自己の目指 す教員に指導・育成できる」「校長は,保護者,地域に 大きな影響力がある」など予備調査 ₁ の結果を踏まえ,

₁₀ 項目作成した。前述と同様の ₅ 件法。

₉)学校管理職志向 学校管理職志向を尋ねるために,

前述の深田(₂₀₁₅)が作成した,「係長ポストへの昇任 意識」尺度の下位尺度「昇任意欲」の ₁₁ の質問項目と 予備調査 ₁ の結果を参考に,前述の ₄ 名で,公立学校 教員の学校管理職志向を尋ねる質問項目を作成した。

具体的には,「学校管理職として,学校マネジメントに 取り組んでみたい」「学校管理職として教職員の人材育 成に取り組んでみたい」「校長から何度も強く勧められ れば,学校管理職になることを考える」など,₁₁ 項目 作成した。前述と同様の ₅ 件法で回答を求めた。

 倫理的配慮 web調査の調査協力者には,スタート 画面に調査目的や倫理的配慮(無記名のため個人が特定さ れることはないこと,調査への協力は任意であること,途中で回 答を拒否できること,データは全体の傾向としてまとめられ個人 が特定されることはないこと)について説明した上で,回 答者が「同意ボタン」をクリックした場合に,研究参 加に同意したものとした。なお,本調査は,筑波大学 大学院人間系倫理委員会東京地区委員会の承認を得て 行われた。

結   果 調査協力者の基本属性

 全国の公立中学校,公立小学校の正規採用教員 ₃₁₀ 名(小・中学校教員各 ₁₅₅ 名,男性 ₂₀₅ 名,女性 ₁₀₅ 名,平均年 齢 ₄₅.₂ 歳で,有効回答者率 ₁₀₀%であった。回答者の年齢は,₂₀

代 ₁₇ 名(₅.₅%),₃₀ 代 ₇₂ 名(₂₃.₂%),₄₀ 代 ₉₀ 名

(₂₉.₀%),₅₀ 代 ₁₃₁ 名(₄₂.₃%)であった。回答者の公 立学校教員経験年数は,₅ 年未満 ₂₀ 名(₆.₅%),₅ 年以 上―₁₀ 年未満 ₃₆ 名(₁₁.₆%),₁₅ 年以上―₂₀ 年未満 ₃₆ 名(₁₁.₆%),₂₀ 年 以 上―₂₅ 年 未 満 ₅₀ 名(₄₂.₃%)で あった。回答者の職層は,主幹教諭 ₁₂ 名(₃.₉%),指 導教諭 ₃ 名(₁.₀%),主任教諭 ₅₆ 名(₁₈.₁%),教諭 ₂₃₇ 名(₇₆.₅%),養護教諭 ₂ 名(₀.₆%)であった。

尺度構成の検討

 学校マネジメント経験成就感 学校マネジメント経 験成就感を測定する ₁₀ 項目を用いて因子分析(最尤法・

プロマックス回転)を行った結果,固有値 ₁ 以上の因子が

₂ 因子抽出された。₁ 因子と ₂ 因子を指定して再度同様 の因子分析を行ったところ,固有値の落差や解釈可能 性から ₂ 因子が妥当と判断された。第 ₁ 因子は,「児 童・生徒全体に影響を与える仕事の面白みを知ること ができた」「自分自身の教員としての仕事に対する考え 方が深まった」等の項目で構成されたため,『自己成長 感』(α=.₉₃₀)と命名した。第 ₂ 因子は,「国(文部科学 省)や教育委員会の方針や方向性を踏まえて 具体的に すすめることができた」「校長の学校経営に貢献してい るという手ごたえを感じた」等の項目で構成されたた め,『職務達成感』(α=.₈₅₁)と命名した。₂ 因子間の相 関は,.₇₁ であった。

 ロールモデルとなる学校管理職のリーダーシップ機  ロールモデルとなる学校管理職のリーダーシップ 機能を測定する ₂₁ 項目を用いて因子分析(最尤法・プロ マックス回転)を行った結果,固有値 ₁ 以上の因子が ₂ 因子抽出された。₁ 因子と ₂ 因子を指定して再度同様 の因子分析を行ったところ,固有値の落差や解釈可能性 から ₂ 因子が妥当と判断された。第 ₁ 因子は,「部下や 後輩教員への気遣いや思いやりがある」「寛容で包容力が ある」等の項目で構成されたため,『人間関係重視型 リーダーシップ機能』(α=.₉₄₅)と命名した。第 ₂ 因子 は,「強力なリーダーシップをとって学校を大きく改 革・変革する」「学習指導要領に精通しており,教科指 導等への専門性が極めて高い」等の項目で構成されたた め,『専門的識見・改革型リーダーシップ機能』(α=

.₉₃₆)と命名した。₂ 因子間の相関は,.₆₉ であった。

 教師効力感 教師効力感を測定する ₄₈ 項目を用いて 因子分析(最尤法・プロマックス回転)を行った結果,固 有値 ₁ 以上の因子が ₆ 因子抽出された。₄ 因子―₆ 因子 を指定して再度同様の因子分析を行ったところ,固有 値の落差や解釈可能性から ₆ 因子が妥当と判断された。

なお,負荷量が.₄₀ 未満である項目と ₂ つ以上の因子

(9)

に高い負荷量(.₃₅ 以上)を示した ₁₀ 項目を除いた。第

₁ 因子は,「保護者に自分から積極的に関係をつくって いく働きかけができる」等の項目で構成されたため,

『保護者・地域関係形成効力感』(α=.₉₄₇)と命名した。

第 ₂ 因子は,「わかりやすい教え方ができる」等の項目 で構成されたため,『教授・指導効力感』(α=.₉₁₉)と 命名した。第 ₃ 因子は,「各教職員の仕事の進捗状況を 把握することができる」等の項目で構成されたため,

『学校運営効力感』(α=.₉₁₄)と命名した。第 ₄ 因子は,

「課題のある児童・生徒に,クラス全体が巻き込まれな いように指導できる」等の項目で構成されたため,『学 級管理・経営効力感』(α=.₉₁₇)と命名した。第 ₅ 因子 は,「校長の学校経営の方針や計画にそって,自己の教 育活動等を推進することができる」等の項目で構成さ れたため,『組織貢献効力感』(α=.₈₉₈)と命名した。

第 ₆ 因子は,「児童・生徒と短期間で関係をつくること できるか心配だ(逆転項目)」等の項目で構成されたた め,『児童生徒関係形成効力感』(α=.₈₄₄)と命名した。

₆ 因子の因子間相関は,.₂₃―.₇₈ であった。

 学校管理職からの被承認認知 学校管理職からの被 承認認知を測定する ₁₀ 項目を用いて因子分析(最尤法)

を行った。その結果,固有値 ₁ 以上の因子は ₁ 因子で あったため,₁ 因子を採用した。固有値は ₇.₅₂₆,寄与 率は ₇₅.₃%,すべての項目の負荷量は.₇₃₄ 以上,

α=.₉₆₃ であった。

 脱学級最優先・全体的視野意識 脱学級最優先・全

体的視野意識を測定する ₈ 項目を用いて因子分析(最 尤法)を行った。その結果,固有値 ₁ 以上の因子は ₁ 因 子であったため,₁ 因子を採用した。固有値は ₄.₉₆₄,

寄与率は ₆₂.₁%,すべての項目の負荷量は.₆₉₇ 以上,

α=.₉₁₂ であった。

 公立学校教員としての職業意識 公立学校教員とし ての職業意識を測定する ₁₀ 項目を用いて因子分析(最 尤法)を行った結果,固有値 ₁ 以上の因子は ₁ 因子で あったため,₁ 因子を採用した。固有値は ₄.₉₆₄,寄与 率は ₆₂.₁%,すべての項目の負荷量は.₅₄₅ 以上,

α=.₉₁₇ であった。

 校長職に対する肯定的認知 校長職に対する肯定的 認知を測定する ₁₀ 項目を用いて因子分析(最尤法)を 行った結果,固有値 ₁ 以上の因子は ₁ 因子であったた め,₁ 因子を採用した。固有値は ₅.₅₃₆,寄与率は

₆₂.₁%,すべての項目の負荷量は.₅₀₄ 以上,α=.₉₁₀ であった。

 学校管理職志向 学校管理職志向を測定する ₁₁ 項目 を用いて因子分析(最尤法)を行った結果,固有値 ₁ 以 上の因子は ₁ 因子であったため,₁ 因子を採用した。固 有値は ₈.₅₇₃,寄与率は ₇₇.₉%,すべての項目の負荷 量は.₇₂₇ 以上,α=.₉₇₁ であった。

 因子分析の結果を踏まえ,各尺度及び下位尺度の項 目の得点を合計し,合成得点を算出した。

各尺度間の関係

 重回帰分析を行うに先立ち,性別以外の属性(公立学

Table 2 属性と各尺度間の相関行列

₁₀ ₁₁ ₁₂ ₁₃ ₁₄

₁.経験年数 .₁₃*  .₁₇**.₁₂* .₂₆*** .₂₉*** .₂₆*** .₁₇** .₀₉ .₂₆*** .₁₀  .₀₁ -.₀₆  .₀₇

₂.校種 -.₀₅ .₀₈ .₁₂ .₀₈ .₀₃ .₀₃ .₀₆ .₀₈ .₀₂ -.₁₀ -.₀₅ -.₀₈

₃.職層 .₀₂ .₁₁ .₁₀ .₀₅ .₀₉ .₀₉ .₁₈** .₀₄  .₀₆ -.₀₇  .₀₀

₄.保護者・地域住民関係

形成効力感 .₇₂*** .₅₉*** .₇₃*** .₆₄*** .₄₅*** .₆₁*** .₆₄***  .₄₈*** .₃₀***  .₁₉**

₅.教授・指導効力感 .₆₆*** .₇₈*** .₆₃*** .₄₄*** .₆₄*** .₅₅***  .₄₃*** .₂₄***  .₂₅***

₆.学校運営効力感 .₅₉*** .₅₇*** .₄₉*** .₆₉*** .₆₁***  .₃₅*** .₁₁  .₂₁**

₇.学級管理・経営効力感 .₆₂*** .₂₂** .₆₄*** .₄₃***  .₂₆*** .₂₂***  .₃₄***

₈.組織貢献効力感 .₂₃** .₅₇*** .₅₃***  .₆₂*** .₃₈***  .₃₆***

₉.児童生徒関係形成効力

.₃₃*** .₂₈***  .₁₉*  .₀₁ -.₁₁

₁₀.学校管理職からの被承

認認知 .₅₇***  .₃₈*** .₂₆***  .₃₁***

₁₁.脱学級最優先・全体的

視野意識  .₆₀*** .₃₅***  .₁₉**

₁₂.公立学校教員としての

職業意識  .₅₀***  .₂₈***

₁₃.校長職に関する肯定的

認知  .₃₉***

₁₄.学校管理職志向

n=₃₁₀, ***p<.₀₀₁ **p<.₀₁ *p<.₀₅

(10)

校教員経験年数,勤務先公立学校校種,職層)と,教師効力 感,学校管理職からの被承認認知,脱学級最優先・全 体的視野意識,公立学校教員としての職業意識,校長 職に対する肯定的認知,学校管理職志向の相関分析を 実施した(Table ₂)。その結果,学校管理職志向との関 連では,自己効力感尺度では児童生徒関係形成効力感

を除く全ての変数(rs=.₁₉―.₃₆, ps<.₀₁),学校管理職か らの被承認(r=.₃₁, p<.₀₀₁),脱学級最優先・全体的視 野意識(r=.₁₉, p<.₀₁),公立学校教員としての職業意 識(r=.₂₈, p<.₀₀₁),校長職に関する肯定的認知(r=.₃₉,

p<.₀₀₁)の間に有意な正の相関がみられた。

0=男性性別 1=女性

(第一水準)

属性・勤務状況・これまでの経験等 (第二水準)

現在の効力感・職業観・意識 (第三水準)

将来の展望・管理職志向性

保護者・地域関係 形成効力感 R2=.343***

教授・指導効力感 R2=.279***

学校運営効力感 R2=.237***

学校管理・経営効力感 R2=.179***

組織貢献効力感 R2=.444***

R2=.373**

学校管理職等からの被承認認知 R2=.229***

脱学級最優先・全体的視野意識 R2=.437***

公立学校教員としての職業意識 R2=.412***

校長職に対する肯定的認知 R2=.305***

児童生徒関係形成効力感

勤務先校種 0=小学校 1=中学校 0=主任教諭,教諭職層 1=主幹教諭,指導

   教諭 公立学校教員

経験年数

(学校マネジメント 経験成就感)

自己成長感

(学校マネジメント 経験成就感)

職務達成感

(ロールモデルと なる学校管理職)

人間関係重視型 リーダーシップ

機能

(ロールモデルと なる学校管理職)

専門的識見・

改革型リーダー シップ機能

学校管理職志向

.237***

.276**

.476***

.390***

.435***

.316***

−.147*

−.173*

.237**

.427***

.250**

−.239*

.382*** .336**

.336**

.241**

.368***

.532***

.500***

.289**

.439***

.256***

Figure 2 学校管理職への志向を規定する要因(n=₁₂₄)

***p<.₀₀₁ **p<.₀₁ *p<.₀₅

注)実線は正の偏回帰係数,点線は負の偏回帰係数を示す。

参照

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