周知のように、経団連をはじめとする経済団体や日本政府は、近年、一連の 働き方改革を提唱・推進し、これに歩調を合わせる形で労働基準法や労働契約 法の改正も準備されている。そこには、長時間労働の是正や非正規雇用の処遇 改善を実現するため、時間外労働の上限規制や高度プロフェッショナル制度導 入、同一労働同一賃金の「実現」、ワーク・ライフ・バランス推進、テレワーク、 AI・ロボット活用等々多様な政策課題とメニューが含まれる。かかる動向の 背景として意識されているのは、少子高齢化と人口減少、そしてこれに伴う高 齢者層と働く世代との人口比率の悪化である。絶対的、相対的に減少する生産 年齢人口を前にして、労働力の有効活用による問題の量的緩和と、生産性向上 による問題の質的解決が模索されている、といえよう。 労務理論を研究する本学会が以上のような問題を取り上げるに当たっては、 働き方改革の現状を分析・検証し、あるべき方向性を明確にする必要がある。 加えて、働き方改革が真に働き方を豊かで充実したものに改善するのか否かに ついて、デイーセントワークの視点から吟味することも重要な課題となろう。 これが「働き方改革と『働きがい』のある職場」をテーマとした第 1 の趣旨で ある。その際、考察の対象をいわゆる「働き方改革関連法(案)」が掲げるメニュー に限定するのではなく、この間企業の現場で導入が試みられて来た多様な人事 労務管理改革を広く射程に入れるべきかと考える。これによって、政治動向や 時論に流されることなく、「働き方改革」を歴史的脈絡に位置づけた、普遍的 な議論の展開が可能になるものと期待できる。 他方で、働き方改革の議論から抜け落ちている労務理論上の論点は、働く人々 労務理論学会第28回統一論題 「働き方改革と『働きがい』のある職場」 提案趣旨 労務理論学会第28回全国大会統一論題「働き方改革と『働きがい』のある職場」提案趣旨 3
のモチベーション問題である。過去20年ほどの期間に実施された国際比較調査 の結果は、おしなべて日本の会社員の働く意欲が国際比較上の最低水準に張り 付いていることを示している。それは、外見上は真面目に働く日本の会社員が、 本音のところでは日々の労働に「働きがい」を感じることができないという、 重要な問題を示している。働き方改革を「働きがい」の視点からみることは、 働く人々のモチベーション向上を通じて生産性向上と豊かな働き方の両立を追 究することでもある。振り返ってみると、アメリカの企業動向には、管理型マ ネジメントから支援型マネジメントへのマネジャー(リーダーシップ)観の変貌、 ホワイトカラー労働のチーム(プロジェクト・チーム)労働へのシフト、目標管理 型年次評価の廃止(ノーレイティング)など、モチベーションを高めることで生 産性向上と社員の成長を図る取り組みが認められる。同様に、従業員のエンゲー ジメントがアメリカの学界や実務界のホットイシューであることも、モチベー ションや働きがいの向上が人的資源管理上の重要な課題であり続けていること を裏づけている。こうした動向をフォローし、その二面性を分析することも、 働き方改革を論ずる際に検討すべき本質的な問題の 1 つだといえる。この点が、 「働き方改革と『働きがい』のある職場」をテーマとした第 2 の趣旨である。 今回の統一論題報告では、こうした意欲的なテーマに相応しい報告者とコメ ンテーターにご登壇いただくことができた。また、統一論題シンポジウムにお いては司会者の巧みな司会進行によって各報告者やコメンテーターの働き方改 革をめぐる見解・持論を明確にしつつ、フロアも交えた活発な議論が展開され た。本誌には、このように成功裏に終わった統一論題報告の報告要旨とコメン テーターによるコメントが掲載されている。本誌が、「働きがい」のある職場 の実現に資するような働き方改革とは何かをより広く議論するための契機とな ることを願ってやまない。 労務理論学会 第28回全国大会プログラム委員長 橋場 俊展 統 一 論 題 4