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生活保護における窓口問題の法的分析 行政手続の視点から

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1 はじめに (1)「窓口問題」について 本稿は、生活保護の窓口問題を行政手続という視点から分析 し、その発生を抑止するための方法を考察しようとするもので ある。ここで生活保護の窓口問題とは、本来、生活保護制度に よる支援の必要な者が、生活保護の担当窓口を訪れたにも関わ らず申請にまで至らず、結果として生活保護の受給ができない 事案が発生する問題をいう。この問題は、一般的には「水際作戦」 と呼ばれている。水際作戦という用語は、「地方公共団体が生 活保護のための財政負担を軽減する目的で、生活保護申請をさ せないように指導、助言を行うこと1)」といった意味で用いら れており、「作戦」という言葉が示すように、地方公共団体が、 これらの問題を半ば意図的に発生させているという意味を含む ものとなっている。しかし、本稿は、地方公共団体の意図的な「作 戦」であるという捉え方は、この問題を一面的にしか捉えてお らず、問題の本質的な解決にはつながらないと考える。そのた め、本稿では、「水際作戦」という用語を用いることを避け、「窓 口問題」という用語を用いるものである。 (2)問題認識について 法令に根拠のある申請について、当該法令により保障されて いる申請権が行使できないような事態があるとすれば、一般的 には行政手続の問題として整理することができる。平成6年に 行政手続法が施行され、各地方公共団体においても行政手続条 例が制定されて以降、そのような事態は起こりえないはずでは ないか。それにも関わらず、なぜ、生活保護の窓口については、 申請ができない(させてもらえない)という事態がたびたび問 題とされるのか、という疑問が本稿の出発点である2) 後述するように、生活保護の実務においては、申請の前に「相 談」が行われるのが一般的である。そして、窓口問題は、この 申請前の「相談」についての問題であるということができる。 例えば、2012 年1月に札幌市白石区で姉妹が孤立死した事案 は、姉が福祉事務所を3回訪れているが、「相談」の段階でと どまり「申請」までは至らなかったものである3)。又、2006 年5月に北九州市門司区の市営住宅で男性が孤立死した事案で は、福祉事務所を2回訪れていたものの、いずれも「相談」と して扱われ申請書は交付されなかったものである4)。それゆえ、 申請前に「相談」という段階が設けられていることが、「行政 側の違法な行為を生む温床になって」おり、その抜本的な改善 策は「端的に『相談』段階をなくすことである」とする指摘も ある5)。確かに、「相談」段階には、窓口問題につながる危険 性があるものの、一方で、後述するとおり、申請前の「相談」 は申請者にとっても必要なものである。そのため、その存在自 体を否定的に捉えるのではなく、行政手続に係る法的統制の対 象とすることが、窓口問題発生の抑止に繋がると考える。 本稿では、まず、問題の背景として、生活保護における地方 公共団体の役割と財政負担について概略を確認する。次に、生 活保護の実務において、申請前に「相談」という段階が一般的 に行われていること、このような取り扱いには必要性が認めら れることを確認する。そのうえで、申請前の相談を行政手続の なかに位置づけ、適正手続の保障を確保することで、窓口問題 の発生を抑止することが期待できる点を指摘する。 2 問題の背景について (1)生活保護における地方公共団体の役割 生活保護は、都道府県知事、市長及び福祉事務所を管理する 町村長が実施することとされている(生活保護法(以下「法」 という。)19 条)。 生活保護に係る事務は、保護の開始及び変更、給付に関する 事務等そのほとんどが第一号法定受託事務となっている(地方 自治法別表第2)。すなわち、生活保護に係る事務は、地方公 共団体が処理すべき事務ではあるが、「国が本来果たすべき役 割に係るものであつて、国においてその適正な処理を特に確保 する必要がある」とされている(同法2条9項)。 「国においてその適正な処理を特に確保する」ため、法定受 託事務に関しては、国は、地方公共団体が当該事務を処理する にあたり「よるべき基準」を定めることができ、生活保護に関 しては、多くの処理基準が厚生労働省の事務次官通知等によっ て定められている。 生活保護は、生活扶助、教育扶助等の8種類に分けられるが (法 11 条)、それぞれの具体的な保護費の額は、厚生労働大臣 の定める基準(法8条1項)によって、所在地域の区分ごとに 具体的に示されている。生活保護の支給に当たっては、その種 類ごとにそれぞれの要件に該当すれは、定められた基準額を支 給するため、実施機関に効果裁量はない。一方、申請等が要件 に該当するか否かを判断する際の要件裁量については、法律に よる規律密度が粗く、広範に認められる。もっとも、この部分 については、厚生労働省が多くの基準を示しており、生活保護 の実務においては、この処理基準が重要な役割を果たしている 6) (2)生活保護における地方公共団体の財政負担 平成 31 年版社会保障統計年報によると、2016 年の保護費 の総額は、3.7 兆円超となっており、この5年で 1,100 億円以 上増加している7) 生活保護に係る費用は、国が4分の3を負担するため(法

生活保護における窓口問題の法的分析

~行政手続の視点から~

がわ

 健

けん(四日市市役所)

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研究論文 生活保護における窓口問題の法的分析 75 条)、保護を実施する地方公共団体の負担となるのは4分の 1である。また、地方負担の4分の1は、基準財政需要額に算 定され、地方交付税により財源が補填される。そのため、生活 保護に係る実質的な費用負担の割合は、地方公共団体によって 異なるものの、その負担は決して小さくはない8) (3)「水際作戦」について 窓口問題事案を「水際作戦」として捉える考え方からは、こ れらの背景との関係を次のように説明することができる。 地方公共団体にとって生活保護の実施に係る財源負担は重 く、これを削減したいという強い動機がある。一方で、地方公 共団体は、生活保護の実施に関し、効果裁量を持たないことか ら、要件に該当すれば、必ず決められた額の支出が発生する。 すなわち、要件を満たす申請がなされれば、財政的負担が必ず 発生することから、申請がなされること自体を防ごうとし、こ れが、窓口における違法な対応に繋がっている。この典型的な 例とされるのが、北九州市の 300 億円ルールである9) このような捉え方は、確かに一部の事案についての説明には なると思われるが、問題の一面にすぎないと考える。もし、窓 口問題の要因が、地方公共団体の財政問題を理由とした組織的 な指示、対応にのみあるとすれば、その解決はそれほど難しく ない。原因は地方公共団体の誤った方針、指示にあることは明 白であるから、それを改めさせればよい。 しかし、窓口問題は、必ずしも実施機関あるいは担当者が、 生活保護の申請をできるだけ防ごうとする意思を有していなく ても生じうる問題である。例えば、面接担当者が、聴き取った 相談者の状況から保護の要件に該当しないとの印象を持った場 合、そのことを相談者に伝えず、淡々と保護の受給申請を受理 することは不適切である場合が多い。生活保護の要件を満たさ ないのであれば、他の福祉制度等の利用を検討し案内すべきだ からである。したがって、面接担当者は、生活保護の要件に該 当しないと思われる旨を伝え、他の利用可能な制度等があれば それらを案内することになるが、これを形式的にみれば、事前 審査を行ったのとほとんど変わらない結果となる。そのため、 伝え方等によっては、相談者が申請を拒否されたと感じる可能 性もある。また、このとき面接担当者が抱く保護の要否に係る 印象が、常に正しいとは限らない点に留意する必要がある。誠 実な職員(生活保護法の趣旨を正しく理解しており、“ できる だけ申請を拒もう ” といった類の考えは一切持っていない職員 という意味である)であっても、誤った印象を抱くおそれは常 にあるのであって、そのような印象に基づくその後の指導は、 窓口問題へとつながる可能性があるのである10) これが、「水際作戦」という捉え方が、一面的であると考え る理由である。「水際作戦」として実施機関や窓口職員の “ 非 情さ ” を強調する論調は、一般的な職員にこの問題を他人事と 感じさせる可能性がある。 また、今日では、地方公共団体の直接的な財政問題よりも、 生活保護費の増大がメディア等で取り上げられ社会的な関心が 高まるなかで、財政の問題から生活保護費支給の適正化の問題 へと形を変えて、生活保護行政に影響を与えている点にも留意 すべきである11) 3 申請前の「相談」について (1)実務上の取り扱い 既述のとおり、生活保護の窓口においては、「申請」の前に 「相談」「面接」等と呼ばれる段階を置き、十分に相談者の生活 状況を聴き取り、生活保護の制度等の説明を行ってから、申請 に至ることが通例とされている12) 本稿の執筆にあたり、各政令市に対し、各市が独自に作成し た生活保護の申請事務に係るマニュアル、手引き等について、 行政情報開示請求を行ったところ、札幌市、仙台市、千葉市、 川崎市、相模原市、新潟市、堺市、熊本市の作成したマニュア ル、手引き等(以下「マニュアル等」という。)を入手するこ とができた。 このうち、例えば千葉市の作成した「ケースワークマニュア ル~生活保護の適正な実施に向けた羅針盤~平成 29 年 10 月」 では、相談から決定に至るまで、来所→面接相談→保護申請・ 受理→(以下(略))の順で事務処理の流れが示されており、 最初に面接相談を行った後、保護の申請・受理に進むこととなっ ている。このほか、入手したすべてのマニュアル等では、いず れもまず、面接を行い、その後、申請意思の確認や申請を受理 する手順となっており、全国的に、「相談」「面接」等を行って から申請を受理するという実務が行われているといえる。 (2)相談者からみた申請前の「相談」 申請前の「相談」に関しては、相談者の視点から非常に多く の言及がなされている。 「受付行って、『すいませーん、生活保護の申請書くださー い、』と言ったら、『はいはーい。ちょっと待ってねー』と出て くるだろうか? 出てこない。代わりに出てくるのは、『ちょっ とその前にお話しをうかがわせてもらっていいですかねー』と 言ってくる相談員だ。『いやいや、私が頼んだのは申請用紙で、 あんたじゃないよ』と言ってみてもダメ。『すいませんねぇ。 でも、先に私たちがお話をうかがうことになってるんですよ』 と来るだろう13) 「ここでまた『水際作戦』と呼ばれる、あれこれ理由をつけ ては生活保護に該当する要件なのに、なかなか申請書を渡して くれない…という対応を2度されます14) 最初の引用は生活保護の申請マニュアルとして、次の引用は 著者自身の体験として書かれたものであるが、いずれも窓口で の相談など全く望んでおらず、早く申請したい相談者と、様々 な理由をつけて申請を妨害する窓口職員という構図が記述され ている。 (3)申請前の「相談」の必要性 生活保護法は、申請主義をとっており、申請者が生活保護の 受給申請を行うところから手続がスタートする(法7条本文、 24 条1項)。申請前に実施機関に相談をするとか、実施機関の 面接を受けるといったことは、生活保護の申請には、本来必要 のないものである。 では、なぜ、各地方公共団体は、法的には必要のない申請前 の「相談」と呼ばれる段階をわざわざ設けているのか。 一つには、生活保護の窓口には、生活全般にわたる様々な相

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働相談、離婚相談、パトロンとの関係整理、親子関係のもつれ などの相談」が日常的に寄せられている15)。生活保護の窓口 は、これらの相談を十分に聴いたうえで、必要に応じて他の最 適な窓口につなぐ役割を果たしているという側面があるのであ る16) このような説明に対しては、なぜ、窓口を訪れた時点で、生 活保護の申請意思を示した者に対してまで、「相談」・「面接」 を要求するのか、という反論が考えられる。 この点、行政手続法が想定している一般的な申請手続と、生 活保護の申請に係る手続とを比較すると、申請前に「相談」段 階を設けることには、現実的な必要性があることが分かる。 行政手続法においては、すくなくとも形式的に適正な申請を 行うのは申請者の責任であり、不備のある申請や必要な書類が 揃っていない場合には、形式審査のみで却下又は補正命令を出 すことになる(行政手続法7条参照)。 これに対し、生活保護法7条但書きは、「要保護者が急迫し た状況にあるときは、保護の申請がなくても、必要な保護を行 うことができる」と規定し、申請保護の原則の例外としていわ ゆる急迫保護の場合を定めている。すなわち、生活保護におい ては、行政手続法の想定する一般的な申請と異なり、たとえ申 請書等に不備があっても保護を開始すべき場合があるのである (法 25 条1項参照)。そのため、生活保護の申請に際しては、 申請書等の形式審査の前に急迫性の有無を確認することが必要 であり、このことが、申請を受け付ける前に「相談」段階が必 要となる大きな理由であるといえる。 例えば、相模原市の「ケースワーカーマニュアル(平成 29 年4月版)」では、申請前の面接相談の進め方のなかに、「・現 金や預金の保有状況、ライフラインの停止(滞納)状況、食事 の摂取の状況など、いわゆる急迫性を確認する」との記載があ り、急迫性(法 25 条1項)の確認が、面接の目的の一つとさ れていることが分かる。 一般的な申請手続との比較からは、さらに、別の理由を指摘 することができる。 生活保護法は、保護の開始を申請する者は、所定の事項(要 保護者・申請者の氏名・住所等、保護を受けようとする理由、 要保護者の資産および収入の状況、就労や求職活動の状況、扶 養義務者の扶養の状況等)を記載した申請書を実施機関に提出 しなければならないと規定している(法 24 条1項)。さらに、 申請書には、要保護者の保護の要否、種類、程度及び方法を決 定するために必要な書類として厚生労働省令で定める書類を添 付しなければならないとされている(同条2項)。もっとも、 法 24 条1項は、従来の裁判例で認められていた口頭での申請 を排除するものではないと解されており、また、添付すべき「厚 生労働省令で定める書類」は現時点で定められていないことか ら、法 24 条2項は事実上空文化している。すなわち、実務に おいては、口頭での申請が実施機関になされた時点で実施機関 に審査開始義務が生じ、申請者は、保護の要否等の決定までの 間に申請書や必要となる書類を提出すればよいとされているの である17) 提出という手続が、生活保護を受給する際のハードルとなるこ とがないよう、申請者の申請に係る責任や負担を大幅に軽減さ せる柔軟な解釈、運用が行われているといえる。 しかし、実施機関が要件審査を行うにあたって、口頭で申請 意思が表示され、又は不十分な記載のまま申請書が提出され、 かつ、審査に必要な書類もそろっていない状態で(すなわち、 要件審査に必要な情報がそろっていない状態で)、審査義務が 発生するという状況は、実施機関側の負担が非常に大きく、現 実的には対応できないと思われる18) これらのことから、申請時において、生活状況等の事情を十 分に聴き取ったうえで、申請書の記載方法を丁寧に説明し、必 要となる書類の提出を求めるなど、不備のない申請がなされる よう指導することは、現実的な要請としてどうしても必要であ ると考えられる。 例えば、堺市の作成した「生活保護 面接相談の手引き 平 成 28 年6月」では、申請を受ける際に、申請書類の点検を行 い記載漏れ等がある場合は記入を促す、扶養届・家賃証明等の 保護の要否判定に必要な書類を交付しその提出を促す、必要に 応じ検診命令を行う、などの内容が記載されている。これらと 同様の内容は、他市のマニュアル等にも多く記載されており、 申請を受け付ける際には、申請書の記載の指導や、提出が必要 となる書類の説明等を行うことで、その後の審査に速やかにつ なげていくことが、面接の目的の一つとなっていることが分か る。 このように、申請前の「相談」は、①緊急を要する要保護者 の救済に遺漏がないよう急迫性の有無を確認する、②審査期間 を長期化させることなく(法 24 条5項参照)、申請者の申請 に係る負担を軽減する、といった目的のために必要となるもの であり、一概に、行政側の都合によるものと解釈されるべきで はない。 4 「相談」の法的性格について (1)「相談」段階における適正手続の確保について 申請前の相談において、実施機関の故意又は過失により申請 権が侵害された場合(例えば、扶養義務者等の扶養・援助を求 めなければ生活保護は受けられない等の誤解を与える発言をし た結果、相談者が申請しなかった場合など)には、職務上の義 務違反として国家賠償法による損害賠償義務が認められる19) したがって、申請がなされるまでは実施機関は何ら義務を負わ ない、というわけでは決してない。 しかし、申請前の「相談」が手続上必要なものであるという 前提に立てば、このような事後的救済だけでは不十分であると 思われる。生活保護の性質上、事後的救済が必要とされる事態 を未然に防止することが、特に求められるからである。 そこで、申請前の相談・面接に対して行政手続としての統制 を及ぼすことができないだろうか。この点、申請前の「相談」 について否定的な見解においては、申請前の段階では、相談者 が手続的に保護されないとする理解が前提になっているように 思われる20)

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研究論文 生活保護における窓口問題の法的分析 しかし、次のとおり、申請前の相談は、行政手続法上の行政 指導に該当するものであり、その意味で申請者に対する手続的 な保護は及ぶと解することができる。 (2)「相談」の行政指導としての性格について 申請前の「相談」の法的性格を考察するにあたり、実務上よ くみられる場面として、初めて生活保護の担当窓口を訪れた者 が、「生活保護の受給申請をしたいので、申請書を渡してほしい」 と申し出たという事例(以下「事例」という。)について考え てみる21) 前述のとおり、生活保護の実務においては、申請の前に、相 談・面接が行われるのが通例であり、これは、最初から申請意 思が示された場合においても同様である。そのため、申請書を 窓口で求められた場合、多くの地方公共団体では、申請書を直 ちに交付するのではなく、「まず、あなたの生活状況について 詳しくお聞かせください。」、「制度について詳しくご説明をさ せていただきます」等と言って、相談へと誘導する扱いがなさ れている22) このような窓口での取扱いは、法的には行政指導として整理 することができる。 行政指導は、行政手続法23)において、「行政機関がその任務 又は所掌事務の範囲内において一定の行政目的を実現するため に特定の者に一定の作為又は不作為を求める指導、勧告、助言 その他の行為であって処分に該当しないもの」と定義されてい る(行政手続法2条6号)。 事例の「相談」は、①生活保護の実施機関の補助機関である 窓口職員が、②実施機関の所掌事務である生活保護に関する事 務の一環として、③3(3)で述べた目的のために行うもので あるから、①「行政機関」が、②「その任務又は所掌事務の範 囲内において」、③「一定の行政目的を実現するために」行う ものということができる。 また、相談は、広く市民に呼び掛けて実施するような性質の ものではなく、④窓口で保護の受給を希望した人に対し、⑤職 員との面接に応じるよう要請し、そのなかで必要な指導や助言 を行おうとするものであるため、④「特定の者に」、⑤「一定 の作為又は不作為を求める指導、勧告、助言その他の行為」に 該当する、ということができる。なお、事例とは異なり、自ら の意思で「相談」に訪れた者に対して行われる相談であっても、 そのなかで③の行政目的に沿った何らかの助言・指導が行われ るものであれば、行政指導と整理すべきであり24)、ほとんど すべての事前の相談は、行政指導に該当すると思われる。 (3)行政指導と位置付けることの意味 申請前の相談の法的性格を行政指導と整理することには、大 きく2つの意味がある。 一つは、相談が、あくまでも任意のものであることが明確に なることである。行政指導と整理することで、相談のなかで行 われる助言・指導は、あくまでも行政の任意の要請に過ぎず、 相談者がその指導、助言に従うか否かは全く任意であることが 明確になる。また、事例のように、相談へと誘導された場合は、 それ自体を拒否することも自由である。 行政指導の任意性は、その定義から必然的に導かれるもので あるが、行政手続法は、「行政指導にあっては、~相手方の任 意の協力によってのみ実現されるものであることに留意しなけ ればならない」(行政手続法 32 条1項)と規定し、任意性の 原則についての確認的な規定を置いている25) 一方、申請前の相談を行政指導と位置付けることは、実施機 関にとっても意味がある。申請前の相談が行政指導ではないと すると26)、その位置づけは、相談者の求めに応じて行われる 情報提供等の行政サービスということになる。これでは、事例 のように、来所者から求められてもいないのに「相談」に誘導 することの説明がつかない。前述した程度の誘導あれば、問題 になることもないだろうが、それを拒否されれば、たとえ来所 者の利益になるものであっても、それ以上は何もできないこと になる。 行政指導という整理であれば、事例のように担当職員が面接 に応じるよう要請することや、面接のなかで必要に応じて指導、 助言することは、仮に、その内容が来所者の意に沿わないもの であったとしても、そのこと自体に問題はない。 ここで問題となるのは、行政指導の限界である。例えば、事 例において、窓口担当者からの面接要請を来所者が拒否した場 合、窓口担当者は、なお面接の要請を継続し、申請書の交付を 拒むことができるか、という問題である。 この点、最高裁昭和 60 年 7 月 16 日判決(民集 39 巻 5 号 989 頁)は、マンション建設計画の変更を求める行政指導に関 し、相手方から「行政指導にはもはや協力できないとの意思を 真摯かつ明確に表明」された時点を行政指導の継続の限界とし て示している。 この最高裁判決の示した基準によれば、窓口担当者は、相手 方から真摯かつ明確に拒否の意思を表明されない限り、面接の 要請を継続し、その間は申請書の交付を拒むことができる、と いうことになるが、この帰結は、単純にマンション建設業者に 対する行政指導に係る最高裁の判断を当てはめたものであり、 当然に生活保護の窓口における行政指導に妥当するものではな い。生活保護の申請前に行われる行政指導は、「相談者の状況 に応じた必要な助言を行う」「申請書の書き方や必要となる書 類等の説明を行い、申請とその後の審査手続の迅速化を図る」 等、主として申請者の利益のために行われる助成的行政指導で ある。そうであるならば、申請者がそれらを理解したうえでそ の利益を自ら放棄するのであれば、たとえ、それが「真摯かつ 明確な拒否」とまではいえないものであっても、それ以上、行 政指導を継続することは、正当性を失うと考えるべきだろう。 二つ目は、窓口担当者の行為は、行政手続法の規定に従って 行われるべきことが明確になる点である。行政手続法 35 条1 項は、「行政指導に携わる者は、その相手方に対して、当該行 政指導の趣旨及び内容並びに責任者を明確に示さなければなら ない」と規定している。この規定の趣旨は、行政指導の相手方 に対して、具体的にどのような作為又は不作為を行うことを求 めているのか、当該行政指導がどのレベルで判断されて行われ るものか等を明確に示し、相手方が行政指導を受けたことを明 確に認識し、行政指導に従うべきか否かを適切に判断できるよ うにするためのものである27)

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具体的には、なぜ面接をお願いするのか、前述の目的を説明し、 協力を求めることになる。そして、申請前に面接を実施すると いう方針が、実施機関の方針であれば、その責任者を示す必要 がある。加えて、同規定の趣旨が、行政指導に従うか否かの判 断を適切に行えるようにするものであることからすると、要請 に従うか否かは、あくまでも任意であることをも併せて伝える べきである。 このように、相談・面接を行政指導として整理し、窓口担当 者が行政手続法 35 条1項の手続に従うことで、窓口担当者及 び相手方(相談者)の双方にとって、面接に応じるか否か、面 接・相談のなかで担当者が行った助言・指導に従うか否かはあ くまでも任意であることが明確化され、窓口問題の発生抑止に 相当程度の効果が期待できると考える。 また、実務においては、窓口担当者に “ 面接にあたって、申 請権を侵害しないように ” といった抽象的な指示を行うより、 “ 面接の際は、当該助言指導に従うか否かは完全に任意である ことを必ず伝えること ”、といったより具体的な内容を指示す る方が有効な場合が多い点も指摘しておきたい。 5 おわりに これまでみたとおり、生活保護の実務において申請前の相談・ 面接は、相談者及び実施機関の双方にとって必要性のあるもの であり、これをなくすことは現実的ではない。一方で、2(3) で示したとおり、相談・面接という段階があることで、面接担 当者が誤った印象・判断に基づき指導を行うといった過誤が生 じる可能性もある。このような過誤が生じるおそれは、対人折 衝を要する行政の現場においては常に存在するものの、生活保 護に関わる実務においては、次の2点に留意する必要がある。 一つは、生活保護の要件には、稼働能力の活用など、必ずし も基準が客観的に明確でないものがあるため、保護の要否に係 る担当者の判断・印象には過誤が生じやすい点、もう一つは、 2(3)の最後に触れた、生活保護の適正化に係る社会的な関 心の高まり(より具体的には、要件を満たさない “ 不正受給 ” はもとより、個人の主観的な基準に基づく “ ずるい受給 ” をも 許せない、とする社会、世論の風潮)が、面接担当者が相談者 に対して抱く保護の要否に係る判断・印象にも影響を与える点 である。 申請前の相談・面接を行政指導として整理し、行政手続法の 定める方式を履践することは、そのような過誤を防ぐための一 つの方法になると考える。 【注・参考文献】 1)宇賀克也『行政法概説Ⅰ行政法総論』【第6版】有斐閣(2017年)、429頁。 2)同様の問題認識として、大橋洋一『行政法Ⅰ第3版』有斐閣(2017年)、239頁。 3)吉永純『生活保護「改革」と生存権の保障 ~基準引き下げ、法改正、生活困窮者 自立支援法~』明石書店(2015年)、152頁。 4)北九州市生活保護行政検証委員会「最終報告書」(平成19年12月)、9頁。 5)前掲、吉永(2015)、124頁、152頁。 6)山口道昭『政策法務の最前線』第一法規(2015年)、158-159頁参照。 7)国立社会保障・人口問題研究所『平成31年版 社会保障統計年報』第231表、238頁。 8)不交付団体においては、生活保護に係る費用の4分の1は、その全額が当該団体の 負担となるほか、交付団体においても特に大都市において、生活保護費の基準財政需要 額と一般財源との乖離が指摘されている(星野菜穂子「生活保護費を対象とした地方交 のではない」(前掲、山口(2015)、282頁)のであって、申請権の侵害に実施機関が 気付かないことも考えられるのである。 11)前掲、山口(2015)、299-300頁は、生活保護受給者と国・自治体という二面関 係から、第三者住民をも巻き込んだ三面関係に移行しつつある、と指摘し、その例として、 小野市福祉給付制度適正化条例による取り組みを挙げている。 12)例えば、社会保障審議会-福祉部会「生活保護制度の在り方に関する専門委員 会」第7回(平成16年1月27日)の説明資料では、「実務においては、申請手続を行 う前に、まず、福祉事務所の窓口において、来所者と面接を行い、生活全般に関する 相談を受けることが通例。」との説明がなされている。(https://www.mhlw.go.jp/ shingi/2004/01/s0127-7a.html) 13)湯浅誠『あなたにもできる!本当に困った人のための生活保護申請マニュアル』同 文館出版(2005年)、139-140頁。 14)和久井みちる『生活保護とわたし』あけび書房(2012年)、14頁。 15)石橋和彦「何を考えてケースワークをしているのか -反省も込めて-」(埋橋孝 文編著『生活保護』ミネルヴァ書房(2013年)、172頁。 16)例えば、前掲注11「生活保護制度の在り方に関する専門委員会」第7回の説明資料は、 申請前の面接について「福祉事務所への来所者の中には生活保護制度を十分に理解され ていないために保護の適用に至らない者や、他の福祉施策等を活用すること等によって 最低限度の生活が維持できることとなり保護の適用に至らない者も多いことから、単に 機械的に申請書のやりとりをするのではなく、まず窓口において、生活保護の仕組みの 説明や、迅速に他の福祉施策を紹介する等の配慮を行うことが適切であるため。」と説明 している。 17)笠木映里、嵩さやか、中野妙子、渡邊絹子『社会保障法』有斐閣(2018年)、484頁。 18)必要事項がすべて記載された申請書が提出されたとしても、生活保護法の定める法 定期限内に保護の要否の決定を行うことは困難な状況にある。例えば「生活保護に関す る実態調査結果報告書」(平成26年8月 総務省行政評価局)は、資産、収入の調査に ついて、「申請後直ちに照会を実施したとしても、必要な調査・指導を終えた上で法定 期限内に保護の要否等の決定を行うことが困難な現状となっている」と指摘している。 19)さいたま地裁平成25年2月20日判決(『判例時報』2196号、88頁)など。 20)前掲・吉永(2015)152項、吉永純『生活保護の争点』高菅出版(2011年)、72 頁以下参照。もっとも、「相談」段階の廃止、縮小を目指す立場からは、そもそも「相談」 段階の手続的保障を云々する実益がないともいえる。 21)この事例は、本稿のオリジナルな想定である。注13、注14のように書籍、インター ネット等において、申請者の立場から“申請に行ったのに申請書を渡してもらえなかった” といった趣旨の記述が非常に多くみられることから、このような実務上の取扱いについ て、法的な整理を試みることは意味があると考えた。 22)注21のとおり、マニュアル等のなかに、事例を想定した記載は見当たらなかった。 ただ、マニュアル等の多くは、面接のなかで申請意思が確認された段階で申請書を交付 するといった内容が記載されており、最初に申請書を求められた場合であっても、まずは、 面接を求めるような実務が広く行われていると推測される。例えば、千葉市の「ケースワー クマニュアル」では、「来所者の目的が、『生活保護の相談をしたい』『生活保護の申請を したい』等であった場合、面接相談室へ案内する。」とあり、最初に申請意思が示された 場合でも、直ちに申請書を交付するのではなく、まずは面接を実施していることが分かる。 23)行政手続法3条3項により、地方公共団体が行う行政指導はすべて行政手続法の適 用除外となっており、地方公共団体が行う行政指導は、それぞれの行政手続条例が適用 される。もっとも、ほとんどの地方公共団体は、行政手続法とほぼ同じ内容の規定を持っ た行政手続条例を制定していることから(北村喜宣『リーガルマインドが身につく自治 体法務入門』ぎょうせい(2018年)、49頁)、本稿においては、行政手続法の条文を参 照する。 24)政策目的実現の手段として行われる情報提供は、単に私人の活動の便宜のためにな される情報提供とは一応区別されるものであり、前者は助成的行政指導、後者は行政の サービス活動と整理される(塩野宏『行政法Ⅰ[第五版]行政法総論』有斐閣(2009年)、 202頁参照)。 25)IAM=行政管理研究センター編『逐条解説行政手続法改正行審法対応版』ぎょうせい (2016年)、242頁。 26)相談者から相談を持ちかけられ、それに応じて助言を行った場合等は、生活保護法 27条の2に規定する要保護者に対する助言と位置付けることも可能であろう。もっとも、 その法的性格はやはり行政指導と整理されるべきである。 27)前掲、IAM=行政管理研究センター(2016)、250頁。

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