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野 文
子
AyakoOno
子 どもの成長と音楽
聴くことから歌うことへ
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(2006年3月
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子 ども,成長,音楽,聴 く,歌 う 音楽の原点は,言葉を話すの と同じように自分の思いを音にのせ,人 と人が繋がることであろ う。 人は 「聴 く」 ことか ら音楽体験を始め,聴いた曲を 「歌 う」ことを試みる。 「歌 う」ことは音楽活動の基本である。は じ め に
子 どもたちのさまざまな能力や資質は独立的に発達す るのではなく,相互に影響 し,関連 し合いなが ら発達す る。音楽が音 を素材 としている以上,「聴 く」 とい うこ とを切 り離 して考 えることはできないだろ う。 しか し 「音楽を聴 く」 ことは純粋に感覚的な行為であるか とい うと,必ず しもそ うではない。最終的には聴力の問題以 上に,より精神的な,あるいは知的な意味を持つもので ある。 したがって,「いかに聴 くか」 とい うことは重要 なテーマ となる。そ して,表現 としての音楽 とい う面か ら見た場合,最 も基本的な ところに,「歌 う」 とい う行 為があるといえるだろ う。音楽教育の基盤には,まず,「聴 く」こと,次に 「歌 う」 ことがおかれることになる。Ⅰ.聴
く こ と
「聞 く」 とい う能力は,すでに胎児の頃か ら,かな り のレベルで働いている。人は,それ と意識する以前か ら, あらゆる音を聴 きなが ら育つ。今,私達の耳に聞こえる 「音の世界」は,必ず しも良い方向-進んでいるとは思 えない。街での騒音,機械音など,いたず らに耳を刺激 する音は溢れている。それに引き替え,鳥や虫の声,木々 を揺 らす風の音な ど,子 どもたちの感受性にささやきか ける音は,今では耳にす る機会 もかな り少な くなった。 このような環境は子 どもたちの成長に何 らかの影響を及 ぼ しているであろ う。少なくとも音楽を 「聴 く」ことの 意味は,ますます大きくなっていると感 じる。 1)聴 く力を養 う この場合の 「聴 く力」 とは,音楽を聴 くときに,そこ か ら伝 え られ るものを感 じ取 り,受け入れ る力である。 物理的な聴力を指 しているのではな く,単に音の高 さや 和音を聞き分ける能力を意味す るものでもない。一般的 に,新生児が最初に聞き分けるのが母親 (養育者)の声 であるように,子 どもたちは必要を感 じる方向に耳を傾 け, 自分にとって大切な音には敏感 に反応する。その意 味で,たい-ん 自己中心的な耳を持つ と言 えるだろ う。 したがって音楽を 「聴 く」 とい う行為は,子 どもたちに とって,必ず しも自然に行 える事では無い。いわば 「聴 く耳を持たない」子 どもたちを,いかにして 「聴 く」 と い う姿勢に導 くか とい うところか ら考えてみる。 子 どもたちを 「聴 く姿勢」に導 くための最初のポイン トとして,まず 「環境 を整 えること」が挙げられる。例 えば,「音楽をリラックス して聴 ける雰囲気を作 ること」 「指導者 自身が音楽を好 きで,健康であ り,集 中してい ること」といったことである。また 「子 どもたちに 『聴 くのが楽 しい』,『聴いてみたい』 と思わせ るために,チどもの 目線に合わせた会話を交わ しなが ら, さまざまな 音楽活動や会話にリズムを作る」とい う考え方ができる。 「環境作 り」については,特に指導者の果たす役割は大 きい。 音楽か ら何を聴 くかとい うことになると,百人百様の 答えがある。最終的には各人の感性によって聴かれるも のである。 しか しなが ら,音楽 とい う様式が人々の共通 の喜び として確立 しているとい うことには,各人各様の 受け取 り方 とい う次元 とは別の,もっと本質的な意味が 隠 されているわけである。つま り,音楽は,情景や心情 を,時には思想までも伝えるコミュニケーションの手段 であ り,作曲者や演奏者が意図の有無に関わ らず,ある メッセージを発せずにはい られない とい う事である。 音楽に何の先入観 も持たない子 どもたちは,いったい どのように音楽を聴 き始めるのだろ うか。そ して,音楽 を聴 く事か ら,何を発見するのだろ うか。 音楽の音には必ずニュアンスがあ り,聴 く人はそこか ら,あるイメージを受け取る。そのイメージには,常に 聴 く人の心が反映されているはずだ。 子 どもたちにとって,興味を持つ事は,すなわち 「好 きなこと」であるといえる。音楽においても,聴 く経験 を重ねるなかで,一つのメロディーにある効果音,重厚 なハーモニーな ど,特に気に入 り,「ここが好 きだ」 と い う部分ができる。 自分の好きなところを見つけられた子 どもたちは,「こ の曲はメロデ ィーが一回一回違 って出て くるのが面 白 い」「珍 しい楽器が出てきて素敵」「最初は元気な感 じな のに真ん中の ところで静かになるのが面 白い」な どと意 見を言 う。 これは子 どもが積極的に音楽を捉えられるようになっ たことの証だ と思 う。 このことは鑑賞曲に留まらず,他 人の弾 く音楽,仲間の音楽にまで及ぶようになる。 さら に,アーティキュレーション,ダイナ ミクス,フレージ ング,音色などにも影響を受けて自分でも表現 しようと す る。また, 自分の演奏 と目標 とす る音楽を近づけるた めに,両方の音をじっくり聴いて練習す るよ うになる。 このようなかたちで,子 どもたちの聴 く姿勢が 自然に 広 く深いものになるのは大変望ま しいことだ といえる。 しか し,子 どもたちはそれぞれの感受性に したがって 自然に成長 してい くだけでなく,時には指導者の力を借 りて,まだ気づいていなかった価値に目を向けることも 必要である。子犬を見てかわいい と思 う心,花を見て感 動する事 と同じように,音楽を聴いて感動する人生は豊 かであろう。同 じものを見ても何 も思わないで通 り過ぎ て しま う人 と,何かを感 じる人の人生は違 う。音楽でも 同 じ事が言える。子 どもたちが何 となく通 り過 ぎて しま いそ うな瞬間に 「ちょっと待って」と声をかけ注意を促 す。子 どもたちと共に感動を共有す るために,それを表 現する役割を担 う。 これは,感性についてであると言っ てよいだろ う。 感性 とは, さまざまな価値に気づき感 じ取る能力であ る。特に 「気づ く」 とい う点が大切で,受動的に感 じ取 るのではなく積極的に見出す姿勢に感性を磨 くことのポ イン トがあるといえる。 したがって,子 どもたちの感性 を刺激す るためには, 「気づ く」 ことの喜びを知 らせ る 事が肝要である。それまで意識 したことのなかった見方 や聴き方か ら,新 しい面 白さを発見 したとき,子 どもた ちの感性の領域は一歩広がるといえる。 子 どもたちが音感 (絶対音感)を身につけてい く過程 は,多 くの条件によって左右 され,習得の時期や度合い に個人差がある。集 中の苦手な子 どもは遅 く, 自主性を 持って意欲的に体験 している子 どもは早い時期か ら伸び る。幼児期において反応の少なかった子 どもが,児童期 に入ってか ら音感を発揮 し始める例 もある。そ ういった 子 どもたちの場合,表には現れていなくとも,素地は作 られていたのだ とい う事が分かる。 音感教育の成果は, 目に見える形で現れるものではな い。それは,「聴 く」 とい う姿勢のなかか ら育まれ るも のであ り,結果 として,より多 くのこと,より深いもの を 「聴き取る力」だといえるだろ う。音感 とは 「単に良 い音が分かるだけでなく,真の美 しさを見出す心の 目や 耳を持つ事」 とい うが,行き着 くところ 「感性」に関わ る問題ではないだろ うか。 2)聴く力と成長効果 人は得意なことや 自信のあることに関 しては,楽 しみ を見出すことも多 く,積極的に取 り組む姿勢を示す。そ の行動が, さらに力を伸ば し, 自信 を深めることにつな がる。また,良い耳を持っ とい うことは,外に開かれた 感覚を持つ とい うことであ り,あらゆる物事に向かって
いく基本的な姿勢 として積極的であ りうるといえるかも しれない。 しか しなが ら,聴 く力を育むことがもた らす 本当の成長効果 とは,もう少 し違 うところにあるように 思われる。 ①集中力,注意力,洞察力が養われる。 ②善 し悪 しを判別す る能力が高ま り,良い方向-向か お うとする気持ちが強 くなる。 ③人格形成を促進す る。 これ らのことは,明 らかに 「聴 く」ことの基本姿勢が もた らす ものといえるだろ う。 人の話をよく聴 くとい うことは,人 として成長すべき あらゆる局面で,最 も心を配 るべきことともいえる。そ のことを基本的な姿勢 として身につける機会に恵まれな い子 どもたちにとっては,例 えば学校の授業時間は苦痛 以外の何物でもないだろ う。また聴 く力は,人 と人 との 関係 を大切にするとき,人の気持ちを洞察する力にもな る。それは,音楽を聴 くとい うことは,そこに表現 され た心を知ることであるか らである。
Ⅱ.歌
う こ と
子 どもたちの歌唱体験は,まず曲を聴 くことか ら始ま る。曲を聴 くことで情緒的感覚を呼び覚まされ,具体的 表現-の意欲をたかめる。また,曲をよく聴 くことには, 歌詞, リズム,メロディー,テンポ,ハーモニーを把握 し,イメージを明確にす る目的もある。 「聴 くこと」か ら 「歌 うこと」-の展開は,感 じ取っ たものを,表現す る事によって体感す るとい う作業で, 特に音楽体験の初期の段階に大きな意味を持つ。すなわ ち,音楽的感性 ・感覚,演奏表現力の素地を作る,ある いは磨きあげるとい うことである。 「歌 う」 とい う行為は, とりわけ身体的発達 との関連 性が強いため,子 どもの発達状況に対する配慮が必要に なる。発声器官の未発達な幼児期においては,言 うまで もなく,完壁な歌唱を求めるのではなく,音楽-の興味 を育みつつ感覚を養 うことに主眼が置かれる。児童期に おいては,時には際だった適正 と興味を示す子 どもが現 れることもある。 1)歌唱表現 言葉を発す る以前から,子 どもたちの心には,快,不快, 喜び,怒 りな どの基本的情緒だけでなく,嬉 しい,怖い といった感情が芽生えている。それ らを顔や発音で表現 することか らコミュニケーションが始ま り,間もなく言 葉によるコミュニケーシ ョン- と発展する。 「歌 う」ことは 「話す」 ことと同様,声による表現で ある。 「話す」ことにおいても,微妙な感情のあ りかた は表れ るわけだが, 「歌 う」ことにおいては,音楽的な 表現が加 わることによって,より鮮明な表現が可能にな るといえる。 また,「歌 う」 ことは,その歌に託 された心を体感す る経験であ り,時には共感か ら歌の心 と自身の心を一体 化 させる経験 ともなる。 したがって,特に幼児期において,
「悲 しい」
「寂 しい」 といった情緒ではなく,「嬉 しい」
「楽 しい」 といった肯 定的な情緒を表現 した歌を数多 く歌 うことは,子 どもた ちの情操 を育む うえで非常に有効である。 歌唱体験の初期においては,まず曲に興味を持つこと か らスター トし,「歌 う」意志 を表出す るところまで導 くことが重要なポイン トでなる。 したがって,子 どもの 意欲を喚起す るような曲を選ぶ ことと, リラックスして 歌えるよ うな環境を整えることが,まず必要である。子 どもたちは,基本的に,歌詞の リズムや語 呂の良さ,発 音か らくる面 白さに惹かれて,「歌 う」 ことに興味を持 ち始める 。そ して徐々に,曲の雰囲気に応 じて表現す る事を意識す るようになる。 ピッチや息継 ぎが暖味であ ることは,この時期では当然のことであるが,のびのび と活気に満ちた歌い方を促す ことができたなら,子 ども たちの感覚 と感受性は確実に磨かれる。 幼児期に,「感 じて歌 う」ことに重きを置いて歌唱体 験を積み重ねてきた子 どもたちは,児童期にさしかかる 頃か ら,声のコン トロールに正確 さが増 し,歌詞の捉 え 方が深まるの と相侯 って,一段 と向上 した表現力を示す ようになる。 さらに児童期後半では,例えば歌詞 を持た ない曲を音名で歌 うような場合でも,それぞれの音楽的 解釈に基づいて情感 を込めた表現やメ リハ リの効いた表 現を行 うことが可能 となる。 「歌」とは,すなわち音楽そのものであると考えられる。 た とえ声を用いずに器楽的な表現を行 う場合でも,心に「歌」がなければ,気持ちを伝えることはかなわない。 歌は言葉 と音楽が一体になった表現であ り,また,身 体全体を使 って行 う表現でもある。 したがって,学ぶ要 素 としてそこに含まれ るテーマは多岐にわたる。同時に, 子 どもたちにとっては,感情をス トレー トに表現 しやす い方法なのでそこか ら吸収するものも多い と考える。 2)歌 うことがもたらす成長効果 子 どもたちは 「歌 う」 とい う体験を通 じて,多 くのこ とを学び,身 につける。その 日的,あるいは効果 には, もちろん 「上手に歌えるようになる」とい うこともある かもしれないが,それ以上に,音楽的感性,感覚,表現 力を養 うとい うことがある。また,それに付随 して人間 的成長 を遂げることも見逃せない。 ① 認識力の発達 言語機能の発達が子 どもの知的発達に大きく関係 して いる。特に幼児期においては,子 どもたちが言語 を獲得 す るスピー ドとェネル ギーには 目覚ま しいものがある。 そ ういった時期 に,「歌 う」ことを通 じて,イメージ豊 かに言葉を覚えてい くのは,たい-ん有意義なことと思 われ る。 歌の言葉である歌詞は,奥行きの深い言葉で書かれた 「詩」であ り,音楽を伴って表現 され ることにより, さ らに豊かな表現をかもし出す。 したがって,子 どもたち が質の高い歌を数多 く歌 う経験は,情操 と感受性を育む ことにつながる。特に児童期以降によく行われ ることだ が,歌詞 を 「詩」 として音読することにはさまざまな意 義がある。 日本語の持つ響き, リズム,抑揚,アクセン トを認識す ることは,「歌 う」 とい う音楽表現のために 素地 となるばか りでなく,言語感覚を養 う機会 ともなる。 また,メロディー との関連を意識 して 「詩」を読む事 は,言葉 と音楽の双方に込められた 「心」を感受す るきっ かけともなるだろ う。 さらに, 「歌 う」 とい う表現に向けて歌詞を読む際に は,一つ一つの言葉の意味をしっか り認識することも大 切だ。 もし自分の知 らない言葉があった場合,その意味 もわか らずに歌っていたのでは,表現は不充分 とな らざ るを得ないだろ う。 ② 精神面の発達 幼い子 どもが,聞こえてくる音楽につ られて,一人で 歌っているシーンはよく見受けられる。テ レビか ら流れ て くる歌などに,語尾の部分だけ声を重ねるとい う特徴 的な歌い方で,誰かに促 されるわけではなく, 自発的に 歌 う。子 どもの感 じている心地よさが 自然に伝わって く る風景であ り,そこはまさに 「歌 うこと」の原点がある ように思われ る。情緒や感情をス トレー トに表現するこ とは,幼い子 どもたちの本来的な行動 といえる。したがっ て,歌唱体験の初期の指導にあたっては,そ ういった表 出のエネルギーを損な うことなく,む しろ近い将来育む であろ う自発的な表現意欲の源 として,大切にされ るべ きである。 音楽には,喜ば しい感情をさらに引き立て,増幅す る 力がある。幼い子 どもたちは,ただ 「楽 しい」とい う気 持ちで歌 う。それは,すでに音楽 と共鳴 しているとい う ことである。初期の音楽体験で早 くも音楽の楽 しさを実 感できるのは幸福なことであ り,敢えてそこに 「正 しい 事」を持ち込んむ必要はない。 幼児期 においてはこのよ うな形で,感 じた事 をス ト レー トに歌 うことにより,自発的な表現力が養われ,精 神面にも歌-の前向きな影響を与える。 ③ 音楽表現力の発達 着実な歌唱経験を積み上げた子 どもたちは,声による ハーモニー表現,つま り合唱を体験す ることによって, さらにハイ レベルな歌唱表現を学ぶ ことになる。つま り, 正確などッチ,声の質を融合 させ ること,そ して全体の 響きを聴 く力が求められることになる。 音楽的に優れた歌をたくさん歌 う経験は,歌唱表現の枠 を超 えて,器楽演奏表現の向上にも影響を及ぼす。 「聴 くか ら歌 う」とい う流れは,最 も自然に,かつ効 果的に音楽体験を積み重ねる方法であると考えるが,そ のなかで 「歌 う」 ことが果たす役割には, さらに多様な 面がある。つま り,「歌 う」ことには,音楽の基本的な 事柄 を体感 しつつ学ぶ事,表現力を身につけること,創 造性 を養 うことなどの効果が期待できる。 これ らの要素 が音楽体験の中核にある事柄であるのは間違いなく, さ らに器楽演奏における段階では,基礎力 として活か され る。