57 仙台医療センター医学雑誌 Vol. 9, 2019 喉頭結核の1症例 1. はじめに 咽頭・喉頭結核は結核全体の0.1-0.2%を占め、 2016 年の罹患者は全国で 44 例であり稀な症例と なった1)2)。しかし喉頭結核の60-80%が肺結核を 合併し、排菌して空気感染を引き起こす可能性があ り早期の診断が重要である2)3)4)5)6)。嗄声は日常 診療において耳鼻咽喉科医がよく遭遇する症状の一 つである。その原因となる喉頭の形態異常を来す疾 患として声帯ポリープ、真菌感染、喉頭腫瘍、梅毒、 サルコイドーシス、アミロイドーシスなどが挙げら れるが、喉頭結核も常に念頭に入れて鑑別しなけれ ばならない。今回我々は、嗄声を主訴とし喉頭結核 と診断された1症例を経験したので報告する。 2. 症例 患 者:42 歳、男性 主 訴:嗄声 既往歴:33 歳 自然気胸で手術、38 歳 大腸ポリー プ 現病歴:当院受診20 日前から嗄声を自覚した。近 医を受診し喉頭に白色病変を認めたため抗菌薬の投 与を受けるも、改善に乏しいため当院耳鼻咽喉科を 紹介された。 嗜好歴:喫煙 1 日 20 ~ 30 本× 20 ~ 40 歳まで、 飲酒 1 日焼酎 2 ~ 3 合 家族歴:10 年前と 30 年前に父が肺結核(15 年程 前まで同居していた) 初診時所見:左優位に両側の声帯前方に白苔を伴う 表面平滑な隆起性病変を認めた(図1)。頸部リン
症例
喉頭結核の1症例
小柴康利、舘田勝、廣﨑真柚、大島英敏、橋本省 国立病院機構仙台医療センター 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 抄録 嗄声を主訴に当科を受診し、腫瘍とは様相の異なる白苔を認めたため喉頭結核を疑い、受診後早期に喉頭 結核、肺結核と診断された1症例を経験したので報告する。症例は42 歳男性で 20 日前から嗄声を自覚し当 科を受診。両側声帯に白苔を伴う隆起性病変を認め、乾酪壊死を想起させた。また家族歴から結核の可能性 も考慮し、喀痰検査を行ったところPCR 検査で結核菌が陽性であった。肺 CT を施行したところ肺病変を認 め肺結核の診断となり、8 か月間抗結核薬の治療を行い治癒した。 キーワード:喉頭、結核、診断、抗酸菌図
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図1 喉頭局所所見 両側の声帯前方に白苔を伴う表面平滑な隆起性病変を認 めた。58 仙台医療センター医学雑誌 Vol. 9, 2019 パ節腫脹は認めなかった。 検査所見:WBC 5300 /μl、CRP < 0.1 mg/dl、赤 沈 正常範囲 臨床経過:初診時、両側声帯の所見から結核の乾酪 壊死を想起し、直ちに喀痰抗酸菌の検査を施行し た。 家 族 歴 で 結 核 あ り 喀 痰 抗 酸 菌 塗 抹、 培 養、 PCR 検査を提出した。喀痰抗酸菌塗抹は陰性であっ たが、PCR 検査で結核菌が陽性のため呼吸器内科 に紹介した。胸部X 線写真では異常所見を認めな かったが、胸部CT にて右肺野に tree in bud の形 状の陰影を認め(図2A)、培養から結核菌が検出さ れ肺結核の診断となった。 初診後9 日目から 4 剤{イソニアジド(INH)/ リファンピシン(RFP)/ エタンブトール(EB)/ ピラジナミド(PZA)}による治療を開始した。治 療開始1 か月後に肝機能障害が出現したため全薬 を中止し、2 か月後から RFP を開始し肝機能障害 の再燃の有無を確認しながらその1ヶ月後にINH を開始した。その後、培養結果からEB 耐性が判明 しストレプトマイシン(SM)を考慮したが、SM は筋注での投与であり外来通院が困難なためレボフ ロ キ サ シ ン(LVFX)を含めた 3 剤(LVFX/INH/ RFP)投与とした。治療開始後 8 か月で抗結核薬 を終了し胸部所見、喉頭所見ともに改善し治療終了 した(図2B、図 3)。 3. 考察 日本では昭和26 年の結核予防法の策定により結 核は減少の一途を辿っているが、平成28 年で結核 罹患率は10 万人当たり 12.6 といまだ中蔓延国で ある1)。耳鼻咽喉科領域における結核は頸部リンパ 節結核、鼻副鼻腔結核、咽頭結核、喉頭結核、中耳 結核、唾液腺結核などがあげられる。厚生労働省に よる結核登録患者のうち、当科領域に分類されるも のは“その他のリンパ節結核”、“咽頭・喉頭結核”、 “耳の結核”であり、最も頻度の高い頸部リンパ節 結核はその他のリンパ節結核に含まれ2016 年では 835 例(男 262 例、女 573 例)で女性に多い傾向 にある1)7)。咽頭・喉頭結核は2007 年から結核の 統計1)に収載されており2)、2016 年は 44 人であっ た。2007 年から 2016 年までの検討では年間平均 42.4(31 ~ 57)例で特に減少傾向にあるわけでは な い1)8)。 男 女 比 は 1:1.05(206:218)で一見 性差はないが、実際には喉頭結核は男性に2)、咽頭 結核は女性に多いとされている9)。統計ではこれら を同時に集計しているため性差が不明になっている ものと考えられる。2016 年の肺結核は男性 8,678 例、女性5,336 例で男性に多く1)、このため喉頭結 核が男性に多いのも必然であるが、女性の報告10) も少なくない。喉頭結核は肺結核の合併が多く 60-80%とされている2)3)4)5)6)ため、喉頭結核の症例 には感染予防の点から肺の評価は必須である2)。 喉頭結核の病型はManasse の分類により肉芽腫 型、軟骨炎型、潰瘍型、浸潤型に分類され、以前に 大多数を占めた浸潤型や潰瘍型は減少し、近年では 症状の軽い肉芽腫型が最多で82.8%と報告されて いる11)。喉頭結核の症状も以前は咽頭痛、嚥下時 痛、咳嗽が多数を占めていたが、抗結核薬の普及に 喉頭結核の1症例
図
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A
B
図2 CT 画像 A: 治療前、右下葉を中心に多数の小結節影・粒状影を認 めた。tree in bud の形状の陰影を認めた。 B:治療後 肺野の陰影は消失している図
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図3 治療8か月後の喉頭所見 右声帯の隆起性病変は消失した59 仙台医療センター医学雑誌 Vol. 9, 2019 より減少傾向となり12)、近年では嗄声が83.0%と 最多で咽頭痛・嚥下時痛25.9%、咳嗽 8.1%と報告 されている11)。今回の症例はその白苔の性状、結 核の家族歴から初診時に喀痰の抗酸菌の検査を行 い、PCR 検査にて結核の診断となったため生検は 行わなかった。今回経験した症例は肉芽腫型であっ たが、症状が出現後比較的早期に診断された。喉頭 所見の白苔から乾酪壊死を想起し、喀痰抗酸菌検査 を提出したため早期に診断できたと考えられる。結 核症の白苔は悪性腫瘍の白苔とは異なり表面平滑で 一塊となった隆起性の白苔となる2)。咳嗽等では容 易に除去できずチーズ様に見えることもある。鑑別 診断への想起、PCR 検査等も含めた抗酸菌培養の 提出が早期診断につながる。本症例では声帯所見で 上記の様な白苔を伴う表面平滑な隆起性病変を認め たため結核を疑い、まずは侵襲の少ない抗酸菌培養 など行い生検は行わなかった。 結核の治療目標としては患者体内にある結核菌の 撲滅としており、感染した結核菌に感受性のある薬 剤投与が必要である。菌数の多い初期に原則4剤も しくはそれ以上併用し、最短でも6ヶ月継続して投 与することが不可欠である。本症例では治療開始時 には初回標準治療と同様INH/RFP/EB/PZA を投与 したが、肝機能障害が出現したため全剤を中止し た。もともと薬剤起因性肝炎のSignh らの研究で はPZN を INH と RFP に追加することにより肝機 能障害の頻度が増すと報告されており13)、抗結核 薬を投与中の肝機能障害時には全剤の中止が推奨さ れている。その後、1剤ずつ開始したが抗酸菌培養 の感受性結果によりEB 耐性が判明した。その場合 First-rine drugs(b) である SM が優先される薬剤で あるが、投与方法が注射液であり頻回な通院を必要 とするため、Second-line drugs である LVFX を投 与とした14)。 LVFX は 2015 年に厚生労働省が定める「結核治 療の基準」で収載されたが、本邦では呼吸器感染や 尿路感染以外にも乱用されている。薬剤耐性菌の出 現の問題は以前より懸念されており、2013 年には 主要8 カ国首脳会議 (G8) 各国の学会会議、G サイ エンス学術会議が薬剤耐性の驚異に関する共同声明 を発表した。2015 年の世界保健総会では「薬剤耐 性(AMR) に関するグローバル・アクション・プラン」 が採択され、その結果を踏まえ本邦でも2016 年に 薬剤耐性(AMR) 対策アクションプランが策定され た。その中で他国に比べ抗生剤自体は比較的使用量 が少ないが、広域抗生剤である第3 世代セファロ スポリン系、フルオロキノロン系及びマクロライド 系の使用頻度が高いと指摘されており、抗生剤の適 正使用を図る必要がある15)。2018 年の本邦での販 売量は、5 年前の 2013 年と比較し抗生剤全体では 10.7%、経口セファロスポリン系で 18.4%、経口フ ルオロキノロン系で17.1%、経口マクロライド系で 18.0% 減少していたが16)、人口千人あたりの一日 の 抗 生 剤 販 売 量(Defined Daily Dose per 1000 inhabitants per day=DID) の削減目標である全体 の使用量の33% 減少にはまだ程遠く14)。今後も抗 生剤の適性使用を継続し努力する必要があり、また LVFX は結核の key drug である事を自覚し使用す る必要がある。 今回の症例では結核菌が陽性で責任病巣が喉頭病 変か肺病変かの判定はできなかったが、抗結核薬の 投与に反応して喉頭病変が消失した経過から喉頭結 核と判断した。本症例は治療に反応し病変が消失し たため生検を行わなかったが、進行した喉頭結核の 場合には腫瘍との鑑別困難のため生検を適宜行う必 要がある。 喉頭結核は稀な疾患となりつつあるが、嗄声を主 訴とする際の鑑別疾患の一つとして挙げる必要があ る。結核の診断には、特徴的な白苔の存在と難治性 の病変であることや、詳細な病歴聴取が診断の助け となることがあり、高齢者などのハイリスクグルー プには疑わしければ積極的に検査を行う必要があ る。また結核は輸入感染症の側面もあり、国内だけ ではなく結核蔓延国の国際的な動向にも注目し診療 する必要がある。 4. 結語 喉頭所見から結核を疑い、早期に喉頭結核および 肺結核を診断できた症例を経験した。日本は結核の 中蔓延国であり、喉頭結核は稀な疾患であるが喉頭 病変の鑑別診断の際には決して忘れてはならない。 喉頭結核の1症例
60 仙台医療センター医学雑誌 Vol. 9, 2019 喉頭結核の1症例 5. 文献 1) 新登録患者数 - 登録時結核病類、性、年齢階級 別:結核の統計2017、東京:公益財団法人結 核予防会 2017;56 2) 花澤豊行:用語解説 喉頭結核(解説)、日本 気管食道科学会会報 2017;68:3:255-257 3) 行武淑枝、戸塚元吉、山口宏也、他:喉頭結核 自験例 2 例と本邦報告例 64 例の統計的観察 -日本気管食道科学会会報 1981;32:1:6-11 4) 鈴木亮、大森孝一:【今また結核を見直す】 喉 頭結核(解説/ 特集)、耳鼻咽喉科・頭頸部外 科 2015;87:9:734-740 5) 沖田渉、國方竜太郎、吉田克也、他:喉頭結核 の3 症例(原著論文 / 症例報告) 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 1997;69:11:768-771 6) 放 生 雅 章 、 豊 田 恵 美 子 : 結 核 J O H N S 2000;16:1196-1198 7) 舘田勝、工藤貴之、長谷川純、他:頸部結核性 リンパ節炎の確定診断・治療とその問題点 日 耳鼻 2007;110:453-460 8) 阿 彦 忠 之: 結 核 の 疫 学 と 予 防 法 ENTONI 2011;130:1-5 9) 舘田勝、小田真琴、片桐克則、他:細菌学的診 断が困難であった上咽頭結核の1 例、口腔・咽 頭科 2009;22:137-142 10) 大石賢弥、岡本幸美、阪本浩一、他:喉頭結核 の 臨 床 的 検 討 当 科 で の 経 験 喉 頭 2017;29:2:81-84 11) 山下勝、辻子、坂本廣子、他:喉頭結核4例 耳鼻臨床 2002;3:275-279 12) 井上鉄造、平出文久、椿康喜代、他 : 喉頭結核 の6 症例、耳喉 1975;47:151-157
13) Signh J、Arora A、Thakur VS、 他: Antituberculosis treatment induced hepatotoxicity :role of predictive factors. Postgard Med J 1995;71:359-362
14) 日本結核病学会治療委員会:「結核医療の基準、 kekkaku Vol 93 2018;No.1:61-68
15) 厚生労働省 : 薬剤耐性 (AMR) アクションプラ ン、2016;5-66 16) 国立研究開発法人 国立国際研究センター AMR 臨床リファレンスセンター、全国抗菌薬 販 売 量 サ ー ベ イ ラ ン ス <http://amrcrc.ncgm. go.jp/surveillance/020/20181128172618.html> (参照2018;3-15)