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極限環境への挑戦:低温・高圧・強磁場

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Academic year: 2021

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極限環境への挑戦:低温・高圧・強磁場

人はなぜ極限環境に挑戦するのか? それは,誰も到達 していない未知の環境では,新しい物理現象が期待できる からである.たとえば極低温技術の進展は,3 mK 以下に おける3He(フェルミオン!)の超流動現象の発見へとつ ながり,物性研究に大きなインパクトを与えた.超高圧下 では多くの単体が超伝導になるほか,水素が金属になり室 温超伝導体になるという理論予測すらある.また,ごく最 近発見された超高圧(150 GPa≒150 万気圧)下の硫化水素 の超伝導は,現時点で最高の転移温度(203 K)をもつ.強 磁場下では,自由電子のサイクロトロン運動が量子化され, 新しい物理現象が現れる.たとえば2次元電子系では,ホー ル抵抗が量子化される整数量子ホール効果や,分数の値に 量子化される分数量子ホール効果が現れる. 自由電子のサイクロトロン半径がフェルミ波長程度にな ると,フェルミ面が破壊されて新しい量子状態が出現する と期待されるが,その観測には 1,000 T クラスの超強磁場が 必要である.地球など惑星の内部は超高圧であり,白色矮 星や中性子星(とくにマグネターとよばれる高速回転コン パクト星)では桁違いの超高圧・強磁場環境が実現されて いる.これも極限環境の物理を研究する動機の 1 つである. 現在どこまでの極限環境が実現されているか,まとめて みよう.極低温については,ヘリウム希釈冷凍機を用いて およそ 2 mK までの冷却が可能である.さらに核断熱消磁 冷却法を用いて,電子系で 1 μK 程度(核スピン系だけであ ればロジウムで 0.1 nK)を実現している.高圧については, ダイヤモンドアンビルセル(DAC)を用いると,200 GPa 程度までの超高圧を発生できる.最高記録は 2 段階 DAC 法による 770 GPa である(地球の中心部は 360 GPa).強磁 場については,ダイナマイト爆縮法(1,000 T 以上)やレー ザー爆縮法(4,000 T)などの発生法があるが,物性測定に 用いることは難しい.利用可能な方法としては,ライナー とよばれる金属筒を電磁誘導で圧縮し,磁束密度を高める 電磁濃縮法があり,現在 730 T までの磁場を発生させるこ とができる(ちなみに現時点で最強の永久磁石であるネオ ジム磁石の発生磁場は 1.6 T である). 人類が到達していない極限環境領域(極低温+強磁場な どの多重極限を含む)には,未発見の新現象が待っている かもしれない.科学者は新現象を探索して,今後も未踏の 領域に挑戦し続けるであろう. 会誌編集委員会,金道浩一(東大物性研) ©2016  日本物理学会

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