盲ろう者のコミュニケーション方法に関する研究(1) : 障害の分類とコミュニケーション方法 利用統計を見る
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(2) Ⅱ.盲ろう障害の分類. 視覚障害と聴覚障害のそれぞれの状態によって,みえ方・きこえ方に様々なパターンが 存在する。また,視覚または聴覚に障害を受けた時期によっても,その障害の状態に違い が現われる。そこでこの節では ,「視覚障害と聴覚障害の状態」と「障害を受けた時期」 の2つの視点から盲ろう障害を分類する。. 1.視覚障害と聴覚障害の状態による分類 盲ろう障害の状態をさらに細かくみると,視覚障害においては,全く見えない「全盲」 と少し見える「弱視」とがあり,聴覚障害においては,全く聞こえない「全ろう」と少し 聞こえる「難聴」とがある。これらを組み合わせたものを整理すると,「盲ろう」には大 きくわけて,次の4つのパターンがあることが分かる。この視覚障害と聴覚障害の組み合 わせのパターンを示したものが以下の表1である。 (1)全盲ろう(全く見えず全く聞こえない) (2)全盲難聴(全く見えず少し聞こえる) (3)弱視ろう(少し見えて全く聞こえない) (4)弱視難聴(少し見えて少し聞こえる). 表1.視覚障害と聴覚障害の状態による分類 全. 盲. (全く見えない). 弱. 視. (少し見える). ろう (全く聞こえない). 全盲ろう (全く見えず全く聞こえない). 弱視ろう (少し見えて全く聞こえない). 難聴 (少し聞こえる). 全盲難聴 (全く見えず少し聞こえる). 弱視難聴 (少し見えて少し聞こえる). 2.障害を受けた時期による分類 まず大きな区分けとして先天性と後天性の2つにわけられる。 (1)先天性の盲ろう 生まれた時からまたは生まれて間もなく,あるいは幼少期(就学前くらいまで)に視覚と 聴覚に障害を受けた人をさす。子どもはもちろん,先天性盲ろうで生まれて成人になった 者も含まれる。 先天性の盲ろう児の場合,その障害を受けた年齢,受けた障害の程度,視覚障害と聴覚 障害の程度,生育環境,言語をある程度獲得する前かした後か等によって様々なパターン が考えられるが,ここではすべてをまとめて先天性の盲ろうとする。 (2)後天性の盲ろう 後天性盲ろうには,次の2つの場合が考えられる。 - 144 -.
(3) ①ある時に病気や事故によって視覚と聴覚を同時に失う場合 これは,その病気や事故にあうまでは,目がみえ耳も聞こえていた人が,突然盲ろう状 態になる場合をさす。これを便宜上,「後天性盲ろう」と呼ぶことにする。 ②先天的に視覚障害または聴覚障害をもっていて,後から聴覚障害または視覚障害を受け た場合 これは,盲ろうになる以前にすでに視覚障害または聴覚障害をもっていて,重い病気や 事故などで同時期に視力や聴力を失う場合と,進行性の病気や老人性の病気等によって徐 々に視力や聴力が低下する場合が考えられる。 さらに視覚と聴覚のどちらの障害がベースとなって盲ろうになったかによって次の2つ にわけられる。いわゆる ,「盲ベースの盲ろう」または「ろうベースの盲ろう」と呼ばれ ているものである。 1)盲ベースの盲ろう 先天的に視覚障害をもっていて,後から聴覚障害を受けた者。 2)ろうベースの盲ろう 先天的に聴覚障害をもっていて,後から視覚障害を受けた者。 盲ろう関係者(当事者,教育・福祉関係者)の中には,先天性または弱視+後天性ろうま たは難聴である「盲ベースの盲ろう」を「盲ろう」とし,先天性ろうまたは難聴+後天性 盲または弱視である「ろうベースの盲ろう」を「ろう盲」と,あえて区別して呼ぶべきで あると主張する人たちも存在している。この主張は,障害を受けた順序を示すことで盲ろ う者またはろう盲者とのコミュニケーションや情報提供に役立てようとするところに意図 があると考えられる。 以上から,障害を受けた時期による分類には,次の4パターンがある。. 表2.障害を受け時期による分類 ①先天性盲ろう ②後天性盲ろう(視覚と聴覚を同時に失う) ③盲ベースの盲ろう(視覚障害があり後から聴覚を失う) ④ろうベースの盲ろう(聴覚障害があり後から視覚を失う). ②の後天性盲ろうには,学童期や青年期(6~18歳までの学齢期)に視覚と聴覚を同時期 に失った子どもも含まれる。 ③の盲ベースの盲ろうとろうベースの盲ろうは,ほとんどが成人になってから進行性の 病気により次第に視力や聴力が衰えていく,進行性の盲ろうが占める割合は高い。また高 齢による難聴や眼の病気などによって盲ろうになるケースも多い。. - 145 -.
(4) 3.盲ろう障害の多様性 (1)盲ろう障害の多様な状態と系統図 以上,盲ろう障害を視覚障害と聴覚障害の状態による分類と障害を受けた時期による分 類の2つにわけて記述してきた。盲ろう障害には,①全盲ろう,②全盲難聴,③弱視ろう, ④弱視難聴の4つの状態があり,さらに障害を受けた時期(先天性,後天性,盲ベース,ろ うベース)の4つの状態と交差させて分類すると,表3および図1に示すような16パターンの 盲ろう障害の状態が存在することになる。. 表3.盲ろう障害の多様な状態 先天性. 後天性. 同時期. 同時期. 盲ベース. ろうベース. 全盲ろう. 先天生全盲ろう. 後天性全盲ろう. 盲ベースの全盲ろう. ろうベースの全盲ろう. 全盲難聴. 先天性全盲難聴. 後天性全盲難聴. 盲ベースの全盲難聴. ろうベースの全盲難聴. 弱視ろう. 先天性弱視ろう. 後天性弱視ろう. 盲ベースの弱視ろう. ろうベースの弱視ろう. 弱視難聴. 先天性弱視難聴. 後天性弱視難聴. 盲ベースの弱視難聴. ろうベースの弱視難聴. 注)同時期:視覚と聴覚の障害を同じ時期に受けること. (作成・千明弘美2002). 図1.盲ろう障害の系統図. 次に,上記の表および図で示した,16パターンについて簡単に解説する。 ・先天性盲ろうには次の4つのパターンが存在する。 ①先天性全盲ろう:先天的に全盲でろうである。 - 146 -.
(5) ②先天性全盲難聴:先天的に全盲で難聴である。 ③先天性弱視ろう:先天的に弱視でろうである。 ④先天性弱視難聴:先天的に弱視で難聴である。 ・後天性盲ろうには次の4つのパターンが存在する。 ⑤後天性全盲ろう:同時期に全盲でろうになった。 ⑥後天性全盲難聴:同時期に全盲で難聴になった。 ⑦後天性弱視ろう:同時期に弱視でろうになった。 ⑧後天性弱視難聴:同時期に弱視で難聴になった。 ・盲ベースの盲ろうには次の4つのパターンが存在する。 ⑨盲ベースの全盲ろう:はじめ全盲であとからろうになった。 ⑩盲ベースの全盲難聴:はじめ全盲であとから難聴になった。 ⑪盲ベースの弱視ろう:はじめ弱視であとからろうになった。 ⑫盲ベースの弱視難聴:はじめ弱視であとから難聴になった。 ・ろうベースの盲ろうには次の4つのパターンが存在する。 ⑬ろうベースの全盲ろう:はじめろうであとから全盲になった。 ⑭ろうベースの全盲難聴:はじめ難聴であとから全盲になった。 ⑮ろうベースの弱視ろう:はじめろうであとから弱視になった。 ⑯ろうベースの弱視難聴:はじめ難聴であとから弱視になった。 表3および図1から,一口に盲ろう障害といっても実に多様な障害状態が存在しているこ とが明らかになった。. (2)視覚障害と聴覚障害以外の障害の重複 独立行政法人国立特殊教育総合研究所重複障害教育研究部による実態調査によると,盲 ろう児童・生徒の約85%が,視覚と聴覚の障害の他に何らかの障害を併せもっているとい う結果が示されている。その障害としては,知的障害と肢体不自由さらに他の障害も併わ さるという多重障害が占める割合が最も多く,続いて知的障害のみを併せもつ場合,肢体 不自由のみを併せもつ場合となっている。 この傾向は,盲ろう児に限らず,成人の盲ろう者にも考えられることである。しかし, 成人の盲ろう者の場合は高齢になって視力や聴力が低下する場合が多く,先天性の疾患に 起因するものではない。. (3)盲ろう障害の多様性 上記の表や図によって盲ろう障害を16パターンに分類した。しかしこれは障害の状態と 障害を受けた時期を組み合わせて機能的に分類したにすぎない。実際の盲ろう者の障害状 態は,上記の16パターン以外にも多数の状態が考えられる。また,それぞれのパターンに よって使用できる感覚や獲得しているコミュニケーション方法に差があるため,盲ろう者 - 147 -.
(6) のコミュニケーション方法には数多くの種類が考えられる。例えば,同じ「ろうベースの 全盲ろう」であっても,聴覚障害が先天性か後天性か,後天性ならばいつ障害を受けたか, 視覚障害を受けた年齢やそれまでの生育状況,全盲になるまでに受けてきた教育,全盲に なってから受けた教育等の違いによって,コミュニケーション方法に違いが表れる。ろう 学校で教育を受けたとしても,口話法または手話法,キュードスピーチ等様々なコミュニ ケーション方法があり,そのうちのどれを選択してきたかによって,どのコミュニケーシ ョン方法が利用できるかが決定されるのである。 このような分類を試みたのには,この後で述べるコミュニケーション方法を選択すると きに必要な情報であること,さらに盲ろう障害が単に視覚障害と聴覚障害が併さった状態 ではなく,実に多様な状態があること,つまり盲ろう障害をひとまとめにして考えられな いようにするためといった理由がある。. Ⅲ.コミュニケーション方法の種類と特徴. 盲ろう児・者のコミュニケーション方法は,視覚障害を受けた時期と障害の程度,聴覚 障害を受けた時期と障害の程度,失感以前に獲得していたコミュニケーション方法等によ って規定される。先天性の盲ろう児の場合は,まず外界を受けとめ,外界に働きかけてい く様式を高めていくような教育的働きかけが必要である。一方,盲ろう障害を受ける以前 にすでになんらかのコミュニケーション方法を確立している場合には,盲ろうという状態 になることによって変化した外界をいかにして受けとめ,新しいコミュニケーション方法 をいかにして確保するかが課題となる。そのためには,失感以前にどのような方法を身に つけていたかをきちんと把握しなければならない。 以下,言語をある程度獲得している盲ろう児および成人盲ろう者のコミュニケーション 方法について述べることにする。盲ろう児と成人盲ろう者のコミュニケーション方法は, 本質的には異なるが,その種類や特徴には共通するところが多いため,まとめて述べるこ とにする。ただし,特に盲ろう児に特徴的な点は ,「盲ろう児の場合」などとつけ加えて ある。. 1.種類と特徴 言語を獲得している盲ろう児あるいは成人盲ろう者のコミュニケーション方法には,主 に(1)音声,(2)手書き(手のひら書き),(3)筆談,(4)指点字,(5)指文字,(6)手話,(7) キュード・スピーチ,(8)身振りサイン,(9)ダドマ法(振動法)の9つが考えられる。 次に,それぞれのコミュニケーション方法の特徴を述べる。 (1)音声 健聴者が用いる音声言語によって発信する。補聴器の活用などにより音声がコミュニケ ーションに使われることが多い。 - 148 -.
(7) ①発信:音声言語を確立したあとに盲ろうになった者が使用する。音声言語を習得する以 前に聴覚障害を受けた者でも,補聴器などによって聴覚を活用することができる場合には 習得可能である。 ②受信:一対一の会話の場合は,きこえ方によっては問題なく受信できることもあるが, 複数の場合や遠くの音声をききとる場合には,耳元や補聴器の近くで相手の聴力ときこえ 方に配慮した話し方をする。 ③長所:音声言語は聴覚障害をもたない人に理解されやすいため,交信圏の最も広い方法 といえる。 ④短所:声の音質,声の微妙な変化による感情の表現,音源(発信者)がどこなのか等の把 握が困難で,視覚障害があるために発信者の表情や位置がわからないことによってその困 難さが加算されるため,音声による発信が伝わらないことも多く,配慮が必要である。ま た騒音の多い場所や,同時に複数の人が話しをすると受信が困難になるため,音声以外の コミュニケーション方法を併用することが望ましい。 ⑤対象:難聴の盲ろう者(全盲難聴,弱視難聴). (2)手書き(手のひら書き) 手のひらに文字を書いてコミュニケーションを図る。 ①発信:受信者の手のひらに話し手の人差し指等で,ひらがな,カタカナなどを書いて言 葉を伝える。受信者の人差し指を持って,受信者のもう一方の手のひらや机の上に書く方 法もある。 ②受信:読みとる側によく知られた文字とはいえ,手のひらに書かれた文字をより速く正 確に読みとるには,一定の習熟が必要である。熟練した盲ろう者の中には,漢字を含めど のような文字を,どのような方向から書かれても理解できる者もいる。 ③長所:周囲の人がすでに獲得している方法を使うことができるので,交信範囲が広い。 墨字を知っている人となら誰とでも会話ができ,片手で話をすることができ,練習すれば 頬や背中など手のひら以外の部分でも読めるようになる。一対一でゆっくり話すときには 有効である。 ④短所:スピードが遅い。指をどれほど速く動かしても,一文字を書き終えるまでには時 間がかかるので,情報伝達のスピードが落ちる。また,読みとりにかなりの集中力が必要 になり,受信速度も落ちる。 音声言語を使って普通の速度で話している第三者のことばを伝えるのはきわめて困難で あり,要約が必要である。さらに,書き順や字形などは人によって違うため,癖を理解し なければならない。不安定な体勢や歩きながら話すときなどは,特に発信側が書きにくい。 ⑤盲ろう児の場合:視覚系の墨字を使うことができる盲ろう児に夜盲があり,薄暗いとこ ろで文字が読めないときなどに使う。進行性の視野障害で急速に視力を失った盲ろう児で 文字によるコミュニケーションが可能な場合,他のコミュニケーション方法を獲得するま - 149 -.
(8) で利用することがある。 ⑥対象:ひらがな,カタカナなどの文字を習得している全ての盲ろう者(全盲ろう,弱視 ろう,全盲難聴,弱視難聴)。. (3)筆談 筆談には2種類あり,普通字と点字がある。また後者には点字版や通常のタイプライタ ーで点字用紙に書く場合と,ブリスタ(紙テープに点字が打ち出されるドイツ製の速記用 点字タイプライター)など,特別なタイプライターを用いる場合がある。 ①普通字 ひらがなやカタカナ,漢字などの文字をマジック,サインペンなどを適宜用いて,紙や ホワイトボード,ときにはコンピュータ・ディスプレイなどに書く方法である。 1)発信:ひらがな,カタカナ,漢字を習得している盲ろう者で,残存視力のある人であ れば,普通字を書いてコミュニケーションすることができる。 2)受信:理解しやすく効率のよい文字種(ひらがな,カタカナ,漢字)を選ぶ。盲ろう者 の視力や見え方に配慮しながら,文字の大きさや太さ,濃さ,色の好み,行間,字間 について確認することが必要である。軽い弱視の場合には普通の大きさの文字,弱視 が重くなるほど大きな字に変えていき,紙と文字のコントラストも考えて調節してい く。 3)利点:痕跡が残る視覚系の墨字は,瞬時に消えてしまう手書き文字に比べて,繰り返 し確かめることができるので,記憶の負担を軽減できる。 4)不利な点:視覚系は筆記用具などを持ち歩かなければならない。 5)盲ろう児の場合:墨字だけをコミュニケーション手段として使う盲ろう児は稀で,込 み入った内容や手話などの語彙では対応できない内容のときに用いる。墨字による発 信は,難易度の高い順に示すと次のようになる。 ⅰ.筆記用具(コンピュータを含む)を用いて自ら文を書く。 ⅱ.筆記用具を用いて一つあるいはいくつかの鍵となる単語を書く。 ⅲ.トーキングエイドなどのキーを押す,あるいはスタンプを選択して単語を構 成する。 ⅳ.単語のカードから必要なものを選ぶことによって発信する。 ⅴ.一文字を人の名前や事物の頭文字として使う。 ⅵ.絵や写真に貼付してある墨字のカードを選ぶことから徐々に絵や写真をはず したカードを選んでいく。 6)対象:弱視の盲ろう者(弱視ろう,弱視難聴)。特に成人になってから聴力を失い,視 力が徐々に低下している盲ろう者が多く使用している。 ②点字 縦に3点,横に2点,合わせて6つの点の組み合わせによって構成される表音記号(文 - 150 -.
(9) 字)である。この6つの点にはそれぞれ1から6の番号がつけられており,左の一番上の点 が1,その下が2,左下が3となり,右の一番上が4,その下が5,右下が6となる 1)発信:点字を書くことを通常 ,「打つ」というが,点字を打つ方法としては点筆(点 字を打つための特別の筆)を用いて一点一点打っていく方法と,点字タイプライター を用いて,一つの文字を一度に打つ方法とがある。タイプライターにはそのキー配列 が2種類あり,パーキンス型(凸面から見たキー配列)とライトブレーラー型(凹面か ら見たキー配列)がある。 2)受信:読むときには点が凸になっている面を指で触れて,左から右に読んでいく。点 筆で打たれた紙やタイプライターで打たれた紙を読んでいく。 3)盲ろう児の場合:点字をコミュニケーションに使っている盲ろう児は,盲学校にもろ う学校にもいる。言語を獲得してから,進行性の視覚障害により盲になった盲ろう児 の場合には,墨字に代わるものとして学習している。一方,言語の獲得を点字の習得 と同時にすすめている先天性の盲ろう児もいる。点字のわかる盲ろう児と成人盲ろう 者をつなぐ一つの方法となっている。 ③ブリスタ ブリスタはドイツ製の速記用点字タイプライターである。 1)発信:13mm程度の細い紙テープに点字が打ち出される仕組みになっており,キー配 列はパーキンス型と同じだが,大きさははるかに小さくて重さも軽い。しかもキーを 打つときの音が小さく,キーの反動も軽いので速く打つのに便利なタイプライターで ある。しかし,キーを叩いてから受信者の手元に届くまでに少し時間がかかるので即 時性にかける,次に説明する指点字と比べると打つ速度に限界が出てくるなどの短所 がある。 2)受信:ブリスタから打ち出されるテープを順に読んでいく。発信者と横に並んで座れ るため体勢が楽である。点字用紙に比べるとテープが薄くて細いため,やわらかくて 読みにくいが,片手で読める,一度読んだ部分を読み返すことができる,保存できる, 複数の盲ろう者に同時に通訳することができるなど一対一の会話だけでなく,会議や 大勢の人が集まるところでも便利である。 3)対象:点字,ブリスタとも盲ベースの盲ろう者。かなりの努力が必要ではあるが,ろ うベースの盲ろう者や後天性盲ろう者も点字をマスターすることで,点字の本などか ら情報を得る手段として利用できる。. (4)指点字 この方法は盲ろうの福島智(東京大学助教授)が学生の頃,彼の母親が偶然発見した会話 方法である。 ①発信:器具を使わずに「指で 」,「指に」打つ点字のこと。受信者の両手の人差し指か ら薬指までの計6本を点字タイプライターのキーに見立てて発信者の爪の付け根あたりを - 151 -.
(10) タッチする。点字タイプライターをすでに打ったことのある人ならば,特に練習をしなく ても指点字が打てるようになる。なぜなら,指点字には点字における「分かち書き」がな いためである。分かち書きとは,触読や意味の理解を助けるために,一定の規則に従って スペースをあけて表記することである。点字を打つにはこれがとても複雑で,身につける のに時間を要するが,指点字ではこれを使わなくても会話の内容が伝わるため,発信者は 点字の配列を覚え,正確に速く打てるようになればよいのである。 ②受信:点字を読む時には指の腹側で凸点を追っていくが,指点字では指の爪側で感じと らなければならない。普段点字を読んでいる人であれば指先に神経を集中させることにな れているため,わずかな練習でかなり速く読みとることができるようになる。 ③種類:タイプライターのキー配列の種類や受信者と話す人の位置関係により,点(指)の 配列と組み合わせはいくつかのパターンに分けられる。横に並んでパーキンス型で話す場 合(並列)には,受信者の左手の人差し指が1の点,中指が2の点,薬指が3の点となり, 右手の同じ指がそれぞれ4,5,6の点となり話す人もこれと同じ指使いになる。一方, 向かい合ってパーキンス型で話す場合(対面)には,発信者の左手の人差し指が1の点なら ば,受信者の右手の人差し指が1の点になる。つまり向かい合った場合には,どちらかの 人が左右逆のイメージを使わなければならない。これと同じように,ライトブレーラー型 にも対面と並列の2通りの方法があり,計4通りのパターンが存在する。 ④長所:伝達速度が速い,表現が正確かつ豊富で,略字などをつくるときにも便利である, 点字を構成する6本の指(人差し指・中指・薬指)以外の4本(人差し指・親指)を使って手 を固定することができるので,歩きながらなどの不安定な体勢でも比較的話しやすい,指 点字を知っている盲ろう者同士の会話に適しているなどがあげられる。 ⑤短所:誰もが指点字を知っているわけではないので,会話できる相手が限られる,指文 字のように音声言語の代わりとしての「発声手段」にはならない,両手を用いないとスピ ードが極端に落ちることなどがあげられる。盲ろう者が指点字で発信したものを読みとる には,相当の習熟を要求されるので,事実上,盲ろう者の受信手段として用いられる場合 がほとんどである。 ⑥対象:点字,ブリスタと同様,盲ベースの盲ろう者が使用することが多い。. (5)指文字 ①発信:5本の指をいろいろな角度に曲げたり,動かしたりして文字をつづる。発声が困 難な盲ろう者にとっては,読みとる側に指文字の習得や習熟が要求されるとはいえ,空中 にはっきりと呈示されるので,正確な発信の手段として発話の代わりになる。 ②受信:読みとりには次の2つの方法がある。 1)弱視指文字 弱視または視覚が活用できる場合は,受信者の眼前で空中に呈示する。また必要に 応じて触覚と視覚の両方を使って読みとる場合とがある。 - 152 -.
(11) 2)触読指文字 全盲または視覚障害が重度の場合は,発信者された指文字を片方の手のひらに一文 字ずつ指文字を触るようにして読みとる。 ③長所:手書き文字よりも伝わる速度が速い。連続的な動きの中で文字を作り出していく 手書き文字とは異なり,指文字は一つの形や一つの動きが一文字に対応しており,発話手 段としてより効果的である。 ④種類:日本の盲ろう者が使用している指文字の表現方法には,次の2種類ある。 1)ローマ字式指文字 これは,日本ではじめて行なわれた盲ろう児教育において梅津八三が考案した指文 字である。日本語として使用する場合には,アメリカの片手式の指文字アルファベッ ト26文字を,子音と母音にわけてローマ字式につづって50音を表現する。実際は使用 されない文字がいくつかあるため,20の指文字だけで日本語をすべて表現できる。例 えば,「は」を表すには「指文字H+指文字A」とつづる。 ローマ字式は動きが少なく,次に述べる日本語式よりも文字の種類が少ないので受 信・発信の両方が容易であり,数の少ないことやローマ字式指文字の構成要素に動き がないことなどから伝達速度も速い。しかし,つづる文字の数自体が多いので,煩雑 になってしまうことがある。 また,ローマ字式につづるので日本語の語音の成立ちを理解しやすい。つまり母音 と子音にわけて表すので,発声の練習をする盲ろう児にとっては効果的である。また 点字の構成(母音と子音を組み合せる)と対応関係にあるため,盲学校に在籍している 盲ろう児に使われていることが多い。これらの利点がありながら,ろう学校で利用さ れていないのは,ろう学校で50音式指文字が普及しているためであろう。 2)日本語式指文字(50音式指文字) 日本の聴覚障害者が用いている50音式の指文字を使用する。表現する字数が50種類 と多いだけに形も複雑である。また,長音や拗音などを表す場合には,指文字を上下 左右に動かすので,アメリカ式よりも動きが激しい。また,聴覚障害者は日本語式指 文字を習得している人が多いため,盲ろう者と聴覚障害者をつなぐ手段として利用で きる。 日本では日本語式指文字の方が一般に普及しており,コミュニケーションの可能性 を増大するという意味で,盲ろう者は両方の指文字を獲得していることが望ましい。 盲ろう児が使用する場合,一つの指文字がひらがな一文字に対応しているため,墨字 を使う盲ろう児に適しているが,全盲の盲ろう児でも習得している場合がある。指の 形の数が50をこえ,また「の」や長音,促音,濁音,半濁音の表現に動きが入るため, 触読には必ずしも適していないが,一度習得してしまうとローマ字式よりも少ないつ づりで単語を表現できるので,伝達速度は速い。ろう学校では50音式指文字を習得し ている人が多いため,コミュニケーションのとれる相手が多いという利点がある。 - 153 -.
(12) ⑤盲ろう児と指文字 指文字の学習の初期において,単語を発信するようになる前に,指文字一つを人の名前 やものや活動の頭文字として使い,徐々に指文字の数が増え,楽に用いられるようになっ たら,単語を構成するすべての指文字を取りいれる方法をとることもある。 ⑥対象:先天性盲ろう者,ろうベースの盲ろう者に多い。. (6)手話 手話は腕の動き,手の動きや形や空間的な位置,顔の表情によって構成されるが,単語 に対応するものが一つの単体になっているという特徴がある(単体型信号)。多くの手話は 対応するものや活動等に類似していないが,いくつかの手話の単語は,対応するものや活 動に類似しており,象徴的信号の身ぶりサインと重なる部分があり,象徴的信号と連続的 なつながりがある。 日本手話と日本語対応手話のうち,盲ろう児が使用するのは後者である。視覚障害があ るため,こまかい顔の表情や体から離れた空間の位置の把握などが困難なため,工夫して 表現する必要がある。 手話を活用している盲ろう児には,いくつかの手話の単語を身ぶりサインやその他のコ ミュニケーション方法と併用している場合から,手話によってある程度の文章を表現する 場合まで幅広い。 手話の単語が単体性であるということから,発信・受信の瞬間性,感情表現等の容易さ から,いくつかの単語は指文字を使用する盲ろう児にも活用されている。 ①発信:聴覚障害者が用いる手話を利用し,部分的に盲ろう者に理解しやすい表現を工夫 する。また,手話は発声の困難な盲ろう者にとって発話の代わりになる。遠く離れていて も見ることができ,同時に複数の人に伝えることができる。 ②受信:読みとりは,次の2つの方法がある。 1)弱視手話 見る手話とも言われる。弱視の盲ろう児・者の場合には受信者の眼前で手話をする。 視野の狭い人に対しては,やや距離をおいて左右や上下の動きの狭い手話表現を工夫 して行う。網膜色素変性症のような進行性の視覚障害を伴っている場合は,徐々に「見 る手話」から「触る手話」へと移行する。手話を視覚的に読みとる場合でも,こまか い動きを確認するために一部分触読手話を使う盲ろう児もいる。 2)触読手話 触る手話または触手話とも言われる。残存視力がほとんどない場合には受信者が相 手の手話の動きを軽く手で触って読みとっていく。 手話は本来視覚的な言語であるため,触覚に頼らざるを得ない盲ろう者にとって必 ずしも適した会話法とはいえないし,盲ろう者になってから初めて手話を学ぶ人には, かなりの困難がつきまとってしまう。すでに手話を獲得している人は,手話を「触読 - 154 -.
(13) する技術」だけを練習すればいいので,比較的スムーズに触覚による手話の会話に移 行できる。 ③長所:手話の長所はスピードが速いこと。一つないしごくわずかな動きが,一つの意味 内容を構成するので,一つの動きが一つの文字に対応する指文字と比べると,伝達速度が 格段に速くなる。 ④短所:触読手話の場合,日常的な会話やあいさつ程度ならばほとんど問題ないが,込み 入った話になってきて,多くの種類の手話が用いられると,どこまですばやく触読できる かは明確でない。 ⑤対象:ろうベースの盲ろう者用。これは,成人してから盲ろうになったろうベースの盲 ろう者は,点字に対して違和感を抱く人が少なくないためである。. (7)キュード・スピーチ 母音を口形により決め,仮名の各行の子音を手の形と位置と動き (キュー)によって50音を 表す方法である。音声を視覚記号に変換し,読話を容易にするために考案された。触覚を 使わざるを得ないほどの視力や視野が狭い場合には,盲ろう児・者にとって負担が大きい。 ①発信:母音を口形で,子音を手の形と位置と動きによって発信する。通常のろう学校等 で利用されているキュード・スピーチを用いるが,視力の低下を考慮にいれ,見えやすく, 分かりやすい表現を工夫する。 ②受信:読話では口形はよく似た形をしていて識別が困難なため,手による補助記号(キ ュー)によって識別をする。視力が低かったり,視野が狭かったりする場合,視覚的に口 形を読みとり,子音を表す相手の手を触覚的に読みとるという方法をとる盲ろう児もいる。 ③対象:弱視のろうベースの盲ろう者。キュード・スピーチはろう学校以外で教育される ことがなく,現在はろう学校においてもキュード・スピーチを主なコミュニケーション方 法として選択させることが少ないため,盲ろう者にもあまり使用されていない。. (8)身振りサイン 例えば,口に触れると「食べる」「食べ物」「食事」といった意味を表すというように, ごく簡単な内容を表すのに使う。これは話せる意味内容(言葉)の種類がきわめて少なく, また1つの身振りが同時に多くの意味を含んでいるので,すばやく伝達でき,伝える内容 が単純なものなら便利である反面,不明確なコミュニケーション法でもある。幼少期にこ とばの獲得が十分になされず成人になってからも用いている場合がある。. (9)ダドマ法(振動法) 盲ろう者の交信方法の一つで,発語で相手に伝達し,触覚で読唇する。相手の唇に親指 で触れ,他の指は頬に軽く触れる。人差し指は鼻の近くに,小指をあごの方に持っていく。 こうして鼻音をとらえ,あごの動きをとらえ,親指は気息音と唇の動きに触れる。これは - 155 -.
(14) 大変な訓練を必要とするが,その割には読みとるまで到達できないことが多い。幼少期か ら学習する場合に効果があり,点字や指文字を知らない人との会話に便利である。盲ろう 児のコミュニケーション手段の1つである。 これは,自分の正しい発声を保つのに有効である。盲ろう者が自分から音声を発するこ と(発信)と,他者が発する音声を触覚によって受けとること(受信)は大変困難である。先 天的盲ろう者で,音声言語の経験の全くない場合は特にである。発声の学習においては, 音声によるフィードバックがないので,発声行動を触運動,触振動の刺激を通して受けと めなければならない。 表4は,以上の方法の中から,音声,手書き,筆談,指点字,指文字,手話,キュード・スピ ーチについて,特徴,発信と受信の方法,長所,短所について一覧にしたものである。. 表4.言語を習得している盲ろう児および成人盲ろう者のコミュニケーション方法 特 徴. 発 信. 受 信. 声. 補聴器の活用により, 音声を受信したり,発 信したりする。. 健聴者が用いる音声言 語で話をする。. 遠くの音が聞こえない 場合は,補聴器または 耳元で伝えてもらう。. 交信範囲が広い。. 騒音の多い所や,同 時に複数の人が話すと 受信しにくい。. 手書き. 盲ろう者の手のひらに 文字(ひらがな,カタ カナ,漢字など)を書 いて伝える。. 通訳者が盲ろう者の指 を取って,もう一方の 手のひらや机などに書 く方法もある。. 手のひらや背中などに 書かれた文字を読みと る。. 交信範囲が広い。墨字 を知っている人となら 誰とでも話せる。. 伝達速度が遅い。読み とりにはかなりの集中 力が必要。. 墨字. 紙などに書いて盲ろう 者に伝える。. みやすい大きさ・太 さ・間隔の文字を書い て伝える。. 紙やホワイトボードに 書かれた文字を読みと る。. 記録が残せ,繰り返し よむことができる。. 筆記用具などを持ち歩 かなければならない。. ブリスタ, タイプライター. キーをたたくと点字用 紙や紙テープに点字が 打ち出される。. 点字版の場合は点筆 で,タイプライターの 場合はキーをたたいて 点字を打つ。. 紙に打たれた凸点を指 で触れて,右から左へ 読みんでいく。. 会議や講演会に通訳に 点字版や点字用紙,タ 適する。 記録が残せる。 イプライターを持ち歩 かなければならない。. 指点字. 器具を使わず, 「指」 で「指」に打つ点字。. 指を点字タイプライタ ーのキーに見立てて, 指の背をたたく。. 指の背の部分で,打た れた点字を読みとる。. 道具がいらない。迅速 に正確に伝えられる。. 会話できる相手が限ら れる。発信手段として 利用できない。. 日本語式(50 音式)指文字. ろう者の使う50音式の 指文字。. ローマ字式より動きが 激しい。覚えるのに時 間がかかる。. アメリカ式指文字をロ ーマ字表記にして日本 語を表す。. ①弱視指文字:視覚に よって目の前に提示さ れた指文字を読みと る。 ②触読指文字:手のひ らのなかに提示された 指文字を触って読みと る。. 一度獲得すると,伝達 速度は速い。ろう者と 話ができる。. ローマ字式指 文字. ①弱視指文字:盲ろう 者の目の前で指文字を 提示する。 ②触読指文字:盲ろう 者の手のひらの中で指 文字を表す。. 動きが小さく,21文 字で表現できるため, 伝達速度が速い。. つづる文字が多いため 煩雑になる。交信範囲 が狭い。. ろう者の使う日本手 話,または同時法的手 話が用いられる。. ①弱視手話:盲ろう者 の視力や視野の程度を 考慮して発信する。 ②触読手話:できるだ け動きを小さくして発 信する。. ①弱視手話:目の前ま たは少し離れて読みと る。 ②触読手話:発信者の 両手に触れて,手話の 形を読みとる。. ろう者と話ができる。 伝達速度が速い。. 込み入った内容になる と,要約する必要性が 生じる。触読に集中力 が必要になる。. 母音を口形で,子音を キューで表す。. 視力の低下を考慮に入 れ,見えやすく分かり やすい表現をする。. 視覚的に口形を読みと り,子音を表すキュー を触覚で読みとること もある。. 盲ろう児が発音を獲得 するために用いること ができる。. 利用者が少なく,交信 範囲が狭い。. 音. 筆 談. 指 文 字. 手. 話. キュード・スピーチ. - 156 -. 長 所. 短 所.
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