新生児低酸素性・虚血性脳症モデルラットの成長に
伴う神経伝達物質の変化
著者
小山 栄子
発行年
1995-03-23
氏 名・(本籍)
学位の種類
学位記番号
学位授与の要件 学位授与年月日 学位論文題目 小 山 栄 子(京都府) 博士(医学) 博士第180号 学位規則第4粂第1項該当 平成7年3月23日 新生児低酸素性・虚血性脳症モデルラットの成長に伴う神経伝達物質の変化 審 査 委 員 主査 教授 木 村 宏 副査 教授 半 田 譲 二 副査 教授 島 田 司 巳論 文 内 容 要 旨
[目 的] 周産期医療の進歩にも関わらず、中枢神経系の後障害の発生は少なくない。これらの障害の発生機序 や障害脳の可塑的修復機序の解明は、後障害の予防や治療にとって重要な研究課題である。本研究では、 神経伝達物質に着目し、新生児低酸素性・虚血性脳症(以下HE)のモデルラットの脳において、障害 後の発育の過程で神経伝達物質がどのような変化を示すかについて検索した。また、神経活動の生化学 的指標のひとつとされる神経伝達物質の代謝回転を測定し、機能面の検討も行った。 [方 法] 1.モデルラットの作製:生後7日目のラットの左側頚動脈を結染・切除し、8%酸素・92%窒素混合 ガスを充活した、内部温度34℃のチャンバー内にて低酸素負荷を3時間行った。その後、これらを母 ラットに哺育させた。処置後、1、2、3、および4過日で脳を揃出した。部位別に検討するため、 脳を大脳皮質、海馬、脳幹および延髄に分けた。これらを、頚動脈結集後、低酸素負荷を受けた左側 (Hypoxia+Ischemia;HI側)と、非結紫で低酸素負荷のみを受けた右側(Hypoxia;H側)に分け た。正常コントロールは、無処置群の同腹のラット脳を各週毎に摘出して用いた。 2.神経伝達物質の測定:各部位の重量を測定した後、100〝M EDTA含有の0.2Mの過塩素酸を加え、 さらに内部棲準としてイソプロテレノールを加えたのち超音波破砕を行った。これを遠心して上清を 採り、1M酢酸ナトリウムでpH3付近に調整した。この試料をフィルターで濾過後、高速液体クロ マトグラフィーに直接注入して分離し、電気化学検出器にて測定を行った。測定した神経伝達物質は、 ノルエビネフリン(NE)とその代謝産物のノルメタネフリン(NM)、ドーノ1ミン(DA)とその代 謝産物のジヒドロキシフェニール酢酸(DOPAC)およびホモパニリン酸(HVA)である。統計学的 検討には一元配置分散分析法、またはt一検定を用いた。 [結 果] 1.DA、N苫とその代謝産物の謝定結果 1)大脳皮質 DA量はHI側、H側およびコントロールの3群に有意差はなかった。DOPAC量は、1過日で、HI 側がH側より有意に高値となり、これは4週目まで観察された。HVA量は1および2週目でH王側 がコントロールより有意に低値であったが、H側との間には有意差はなかった。NE量は4週目に −72− 貫 首 漂 号 ⋮ 葺 / こ と と 童 登 儲 遥HI側が他の2群より2倍近い高値で、NM量も4週目においてHI側がコントロールよりも高値であっ た。
2)海 馬
HI側のDA量はH側やコントロールに比し低値であった。DOPACとHVA量は、3群全てで検出 感度以下となり、NEについても同様であった。NM量は2、3および4週目でHI側がH側より有 意に高かった。 3)脳 幹 DA量は3群間に有意差を認めず、DOPAC量は、2週目にHI側がコントロールより低値となっ たが、他に有意差はなかった。NE量は4週目にH側がコントロールより高値を示したが、NM量に は3群間に有意差はなかった。 4)延 髄 DA量は1週日にHI側が検出感度以下であったが、3群間に有意差を認めなかった。DOPACと HVA量は3群全てで検出感度以下であった。NE量には3群間に有意差はなかった。NM量は2過日 でHI側がコントロールより低値となったが、3群問に有意差はなかった。 2.(DOPAC+HVA)/DAの比率とNM/NEの比率 (DOPAC+HVA)/DAの比率は大脳皮質と脳幹で検討できた。皮質では、3群の間に有意差は なかった。脳幹では、1週目にH側とH側がコントロールより低い比率を示した。NM/NEの比率 は海馬以外で検討できた。脳幹と延髄では有意差はなかったが、大脳皮質では、3週目にHI側でH側 やコントロールと比べ明らかな上昇を示した。 [考 察] 我々は、HIEモデルラットを用いて、障害を受けた脳においてその後の発達に伴う神経伝達物質の変 化について検討を行ってきた。今回の実験結果から、虚血・低酸素負荷後に、NEとDAの含有量の変化 を観察すると、それぞれ異なった変化を示すことが明らかになった。また、脳の部位については、皮質 と海馬に変化が見られることも明らかになった。これは、虚血・低酸素負荷後の脳障害の発生機序や回 復過程を考える上で、重要な意味を持つと考えられる。 皮質でのDA量の変化は、HI側とH側で差がなかったが、DOPACの量がHI側で処置後1および2過 日で増加していた。HI側でのDAからDOPACへの代謝元進はDA神経系の機能元進を示唆している。さ らにこの変化が処置後4過日でも観察されることを考えると、機能変化もまた長期に継続することが推 測される。この持続的なDOPACへの代謝増加が運動機能異常に代表される脳機能障害の発生機序の一 つになっていると考える。 NEについては、処置後3週目のHI側の皮質において、NEからNMへの代謝に明らかな元進が認めら れた。この元進が処置後すぐにではなく、遅れて認められた変化であることから、低酸素と虚血による 直接的な障害と考えるより、その後の二次的な変化と捉えるのが妥当と考える。さらに、HI側にはぼ特 異的なこの変化は、障害を受けた神経細胞に対して、成長因子などを介する何らかの作用を持っている 可能性を示唆している。学位論文審査の結果の要旨
新生児の低酸素性・虚血性脳症(以下HIEと略す)は、神経学的後障害を引き起こす大きな要因の一 つである。本研究は、その障害機序とアミン神経の関係を調べる目的で、HIEの動物モデルにおける神 −73−率 経伝達物質の変化を解析したものである。 左総頸動脈を結繋した生後7日目のラットを低酸素に3時間暴露し、1、2、3、および4過後に脳 内カテコラミンとその代謝産物の含有量をHPLC−ECD法で測定した。正常およびモデル動物の大脳皮 質、海馬、脳幹および延髄について分析した結果、 1)ドーパミン含有量は、いずれの脳領域でも総頚動脈結紫側と非結集側との間で顕著な差がなかった。 しかし、大脳皮質のドーパミン代謝産物は、結繋側で処置後の早期から高値を示し後期まで持続した。 2)ノルアドレナリンは、結集側の皮質で処置後4週目に増加がみられ、さらに代謝産物も大幅に増加 した。 ドーパミン代謝産物が大脳皮質において持続的な高値を示すという事実から、皮質ドーパミン神経系 の機能異常が示唆され、知能など高次脳機能の障害に関与するものと考えられた。大脳皮質ノルアドレ ナリン系における遅延性の変動は、脳侵聾による即時的応答ではなく、皮質機能の後退性障害を反映し たノルアドレナリン神経系の変化であるとみなされる。以上の変化に対してさまざまな解釈が可能であ るが、術側の脳半球に特異的である点からみて、障害神経細胞の回復に伴う可塑性が示唆された。 本研究はHIEモデル動物の大脳皮質においてドーノヾミン神経系とノルアドレナリン神経系が、経時的 変動の面でも代謝回転動態の面でも全く異なったパターンを示すことを明らかにしたものである。この 知見は、ヒトHEの発生機序や回復過程を解明する上で重要な基礎的情報であり、博士(医学)を授与 するに値すると認められる。 ′ 1 一 芸 芸 藁 感 暴 慢 盛 登 遥