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関西外国語大学留学生別科 日本語教育論集 18 号 2008
「慰め・励まし」の様相 -シナリオを例として-
塩見 式子
米澤 昌子
要旨
本稿では、場面や関係によって様々な表現が見られると考えられる「慰め・励まし」
における言語行動・非言語行動の様相を、25 作品のシナリオを資料とし、考察を行っ
た。その様相は、非言語行動、言語行動、非言語行動と言語行動の併用に分けられる。
さらに、言語行動は、話し手の心的態度から 5 類型に整理した。用例数は「肯定・安
心型」が一番多く、「関心示し型」、「促し型」、「行為提供型」、「そらし型」の順となっ
た。これらは単独使用又は併用される。「そらし型」には先行研究に指摘がなかった「飲
食をすすめる」という言語行動が見られた。また、性別による行動の差違について、
女性は「肯定・安心型」が最も多く、非言語・言語行動の併用を好む傾向があり、男
性は「促し型」「肯定・安心型」が用いられやすいことが分かった。
【キーワード】話し手の心的態度、非言語行動、言語行動の 5 類型、性別による差異
1. はじめに
日本語学習歴の長短を問わず、日本人の友達が出来ない、日本人と親しい関係にな
れないという声をよく聞く。勿論、異文化間の習慣、考え方の相違が大きな要因とな
っているとは思われるが、然るべき事態に、然るべき表現を用いることができず、必
要なコミュニケーションが取れていないことも要因にあげられるのではないだろうか。
人間関係において、相手を楽しませる、褒めるといったことは勿論大切である。しか
し、本当に友人として受け入れられ得るには、他者が精神的或は肉体的なトラブルや
問題に陥った際に支えることができてこそであろう。相手がそのような状態である時
に、用いるべき適切な表現を知らないということが、日本人と友人関係を築くのは難
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しい、日本人との距離を感じるといった状況を招いているのではないだろうか。
日本語学習の教科書において、「慰め・励まし」は、「アドバイス」「紹介」「褒める」
「断る」などの表現に比べ、重きを置かれていないようである。(次章参照)「慰め・
励まし」表現として、「頑張って(ください)」が頻用されるのは周知の事実であり、
日本語教育でも初級の早い段階で導入される。しかし、この表現は決まり文句の挨拶
のようになってしまっている感がある。そのため、相手が精神的・肉体的に追い込ま
れている際に、これらの表現しか用いることができなければ、おざなりな慰め・励ま
しとなり、親しい人間関係の構築には至らないと思われる。
では、実際、日本語母語話者は、精神的・肉体的に問題を抱えていると思われる相
手に対してどのような行動をもって慰め、励ますのであろうか。その行動には話し手
のどのような心的態度が見られるのであろうか。
そこで、本稿では、会話における「慰め・励まし」の様相を調査し、話し手の心的
態度をもとに整理することを目的とする。また、性別による差異などについても考察
を試みたい。この考察が、日本語学習者の「慰め・励まし」表現の広がりに繋がるの
ではないかと考える。
2. 先行研究と定義
2.1 日本語教科書における「励まし・慰め」
「励まし・慰め」の表現は総合テキストで扱われることはほとんどなく、会話のテ
キストでも項目にあげられているものや、まとまった形で扱われているものはあまり
見られない。以下、主だったもの 3 冊での扱われ方をあげておく。
まず、『現代日本語コース中級Ⅱ』には、「慰め」については、第 14 課に「なぐさめ
る」が学習項目としてあげられている。その際によく使われる表現が課の最初に以下
のようにあげられている。
・このくらい気にすることはないよ。
・俺なんか 10 万円もする OHP こわしちゃったことがあるんだよ。
・きょうはもうやめといたら。
・だめな時は何回もやってもだめなもんはだめなもんだよ。
・そういう時もあるさ。
・そんなこと言うなよ。
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・あしたになったらいいアイデアがでるよ。
また、「コーヒー・メーカーを落とす」「論文のための実験に失敗する」といった問題
を抱えた場合のモデル会話の中で、「慰め」を意図した一連の言語行動が行われている。
その他、慰める際に用いる文法表現の導入、代入練習・用法練習も合わせて行える構
成になっており、「慰め」がまとまった形で扱われていると思われる。しかし、文法事
項の練習は多いものの、「なぐさめる」として設定された場面は上記の二つと尐ない。
また、「励まし」は課立てして扱われていない。ただし、「なぐさめる」の中に「励ま
し」ととれる発話が見られる。ここから「慰め」「励まし」の間のきっちりとした線引
きが難しいことがうかがえる。
次に、『ロールプレイで学ぶ会話(2)』では、第二部の【⑨待遇】(pp.85-89)として、
「ほめる」「励ます」「慰める」「同情する」の四つが扱われている。「励ます」では、
表現としては「がんばって/がんばってください」のみが四角囲みで冒頭にあげらて
おり、目上の人にはあまり使わないという説明がある。その後に、「病気入院が長くな
って不安になっている担任の先生に」「試験に落ちて気を落としている友達に」などの
四つの場面とそのモデル会話が載せられ、「がんばって」以外にも、「元気を出してく
ださい」「大丈夫ですよ。リーさんは実力があるんですから」など、様々な表現が紹介
されている。「慰める」でも、同様に、表現としては「がっかりしないで/ください」
「がっかりしないように」「気を落とさないで/ください」「気を落とさないように」
のみが四角囲みであげられている。その後に、「病気でしばらく大学を休まなければな
らなくなって気を落としている同級生に」「同じ大学の女子学生を映画に誘って断られ
たので、がっかりしているヘラトさんに」の二つの場面のモデル会話があり、その中
には「みんなで見舞いにいきますから。いい薬があるから、がっかりしないように」「こ
のところ忙しいって言ってましたよ。そんなにがっかりしないで。この間のコンパの
時、楽しそうに話していたじゃありませんか」などの表現が紹介されている。その他、
マラソン大会に出て苦しそうな友達を励ましたり、突然父親をなくしてとても悲しん
でいる友達を慰めるなどの練習問題がある。ただ、「はげます」「慰める」「同情する」
には、いずれも表現に決まった形はなく、それぞれの場面に応じて様々な表現を使う
と書かれており、これらの表現の習得が難しいことがうかがわれる。
最後に、『会話に挑戦!中級前期からの日本語ロールプレイ』では、「みんなと親し
くなろう」という章の中で、「慰め・励まし」が、自己PRや誘う、断るなどの機能と
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ともに扱われている。「話しかける」→「慰める・励ます」→「会話を終える」という
会話の流れを組み立てられる練習がある。慰め、励ます前に、「相手の気持ちを受け止
める」という会話の流れが設定されている。
<相手の気持ちを受け止める>
そうなんだ。/大変だったね。/わかるよ、~(さん)の気持ち。/ほんと。
<慰める・励ます>
気にすることないよ。/~ば分かってくれるよ。/だれ(に)だってあるよ。大したこ
とないよ。/わざと~たんじゃないんだから。/元気を出して。/わたし(僕)なんて、
何回~か分からないよ。
といった表現があげられている。最後に、「友達が、試験で悪い点数を取って、がっか
りしている」「友達がどろぼうに入られた。現金 5 万円とPCを盗まれて、元気がない」
などの場面設定があり、ロールプレイ練習が設けられている。表現のバリエーション
は多くはないが、本テキストでは、他者と親しくなるために、適切な「慰め・励まし」
ができることが必要だと考えられており、これは注目に値すると思われる。(1)
2.2 先行研究
先行研究を調査した結果、先ず、「慰め・励まし」自体をテーマとした研究論文は尐
ないことが分かった。関山(1998)は、社会変数(自分と相手との心的な距離と場面
の改まり・深刻さの度合い)と話者の性別が、「慰め・激励」の発話行為における politeness
strategy に ど の よ う な 影響 を 及 ぼす か 、大 学 生を対 象 と した 完 成テ ス ト (Discourse
Completion Test)の実施により検証を試みている。結果、男性は、発話量・ストラテジー
の使用がともに尐なく、「突き放し型」「事実重視型」であり、女性は、発話量、スト
ラテジーともに多く、「寄り添い型」「対人重視型」であることが明らかにされている。
言語を社会との関係において捉えるべく、社会変数の影響に加え、男女の差異がとり
あげられている点、また、言語の機能的側面に焦点をあてたストラテジーの分類は非
常に興味深いと思われる。関山氏自身が論文の最後に今後の課題の一つとして、DCT
によるデータ収集が自然な発話の特質を必ずしも反映していないという批判があるこ
とをあげている。以下ストラテジーのⅠ~Ⅵタイプを引用しておく。
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番号 ストラテジー名 機能
I
共感する/認める 相手の困難や苦労に同情したり,相手を認める。
「大変だったんだねぇ」「一所懸命努力していたと私は思うよ」
II
周囲に目を向け,安心さ
せる
当事者以上に苦しんでいる者の例をあげることによ
って,当事者の苦しみを相対的に和らげる。
「私の時はもっとひどいこと言われたよ」 「2000 円だけでよかったじゃない。
私なんか定期やカードの入った財布を盗られたんだから」
III
忠告する 客観的なコメントや注意を与える。
「今度はもう尐し早く家を出た方がいいよ」「財布はカバンに入れておけば,
すられないよ」
IV
元気づける 相手の感情に訴える内容で,励ます。
「気持ちを入れかえて頑張ろうよ」「すぐ素敵な男性に出会えるよ」
V
手助けを申し出る 相手に協力する旨を表明する。
「もし私でよければ話聞くよ」「お家の方,大変だったら手伝うわよ」
VI
慰め以外の発話 (話題を変える,冗談にするなど)
「あんた授業中でも熟睡できるのに,犬の鳴き声ぐらいで寝られないの?」
関山(1998): ストラテジーの種類,機能(上段)と回答例(下段)
黒川(2001)は、関山(1998)を引用した上で、その課題をクリアすべく社会人を
対象に含んだアンケート調査とロールプレイ(RP)の両方を行っている。励ます方と、
励まされる方、両方に回答を求めている。関山(1998)同様女性の方が発話量やバリ
エーションも多かったとしている。しかし、発話内容では、アンケートでは、男性は
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自分の考えを述べる、女性は相手を褒めるという答えが多かったのだが、RP では、男
性があいづちのような返答が多く、女性が自分の考えを述べるという逆に近い結果に
なっており、「励まし」の行為は実際の場面に依存する度合いが高いと結論づけている。
男女とも、RP ではアンケートほど積極的に言葉をかけず、相手の話を聞くことに重点
をおき、沈黙が多かったという興味深い結果も出ている。しかし、黒川氏自身が問題
点としてあげているように、RP の対象者が4人では尐なすぎると思われる。また、RP
もやはりあくまでもシミュレーションであり、その場の寸劇とも言えるので、自然な
会話と捉えてよいかという問題が残るであろう。(2)
2.2.3 「慰め・励まし」の定義
関山(1998)には、「『慰め・激励』を『何らかの困難や苦労に直面している者に対
し,その困難や苦労を癒したり,克服する手助けをすることを目的とした発話行為』
と定義し,一括して論じる」とある。本稿でもこれに従い、一括して論じることにす
るが、「慰め・励まし」を「目的意識の強い発話行為」だけではなく、「相手が肉体的・
精神的に問題・困難を抱えていると認知した際の人がとる行動」と広く規定する。こ
れは、本稿の目的が会話において行われる「慰め・励まし」の様相を捉えることにあ
るためである。
3 調査の概要
3.1 調査資料・調査方法
本稿では、以上の先行研究を踏まえた上で、「慰め・励まし」の表現の収集対象とし
てシナリオの会話文を用いた。RP やアンケートとは異なり、日々の出来事の流れの中
で「慰め・励まし」の場面が見出せると考えられるからである。また、場面、話者の
性別・年齢・職業・立場など多様な設定が可能であることも、RP の限界をカバーでき
ると思われる。2006 年 9 月から 2007 年 8 月までの『シナリオ』に掲載された映画シナ
リオ 25 作品を対象とした(3)
。作品を読み、相手が精神的・肉体的に問題・困難を抱
えている状況で話し手がそれに対し「慰め・励まし」と考えられる行動をとった場面
を抽出した。「慰め・励まし」と言えるかどうか判断が難しいものに関しては筆者二名
が判断したものだけ取り上げた。
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3.2 調査結果の全体像
24 作品から、173 例の「慰め・励まし」が採取できた。内訳は、何らかの発話をす
る言語行動 132 例、言語行動+非言語行動 27 例、非言語行動 14 例となった。全体の
1/5 強に非言語行動が見られるということは非常に興味深い結果ではないだろうか。
3.3 非言語行動の様相
(1) 【遺産を継ぐことをきっぱり断った恋人に】大路郎が入って来て、励ますよ
うに寿枝の肩に手を置く。 (「花田尐年史」)
(2) 【自分の非を悔いて泣く娘に対して】「もういいんだ・・・(手を取り)み
つこ、もういいんだ」 (「アルゼンチンババア」)
(3) 【地震で両親を亡くし余震に怯える尐女に】-慌ててやって来て美咲を抱き
しめる-「大丈夫。もう大丈夫だから…」 (「日本沈没」)
「慰め・励まし」の場面で、非言語行動は(1)のような単独での使用だけでなく、
(2)や(3)のような言語行動との併用が見られた。非言語行動とは、例えば、抱き
しめる、触れる、肩をたたく、近寄る、変な顔をする、涙を流す、微笑む、見る、黙
って聞くなどである。特に、抱きしめは、親密な関係や幼い子供相手に多く見られた
行為である。幼い子供には言葉ではなかなか伝わりにくいこともあり、抱きしめるこ
とで安心感をもたらすものと思われる。非言語行動が言語行動と同じ効果を相手にも
たらすと考える話し手(仕手)の心的態度がそこに見出せるであろう。先述の黒川
(2001)でも RP において沈黙が多かったことが指摘されていた。その沈黙のもつ意味
は、相手の気持ちを尊重し、同じ気持ちになって考えていることを伝達する役割であ
ると考えられるとしている。次の(4)の用例がそれにあたる。涙を流す、微笑む、見
るなどもそのような話し手の心的態度の表れと言えるかもしれない。しかし、沈黙に
は(5)のように、相手の抱える問題の大きさに対して「慰め・励まし」の発話ができ
ずに無言になっている例も見られる。
(4) 【相手の身の上話を聞く間】「……」 (「大奥」)
(5) 【友達が父親の病気が理由で飛び込みの選手を辞めると聞いて】「……」
-圭介、何と言っていいか分からず- (「ラフ」)
非言語行動には、相手に言語行動では伝わらないものを伝えようとする話し手の心
的態度が見られるものと、解決策が見出せず、適切な言語行動ができずに行われるも
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のとが考えられる。先述したように、「慰め・励まし」においては、発話という言語行
動だけでなく、用例に占める割合からみても、この非言語行動が有効的に用いられて
いることは注目に値する結果だと考えられる。沈黙以外の非言語行動については、公
的な場面で使われることは尐なく、使用できる場面には、場面、人間関係などの制約
がつきそうである。
3.4 言語行動の様相
「慰め・励まし」における言語行動の例を話し手の心的態度を考慮した上で、その
発話を整理し、以下の 5 つの類型に分類した。用例数は、「肯定・安心型」>「促し型」
>「関心示し型」>「行為提供型」>「そらし型」の順になる。また、これらの言語
行動は、単独で用いられる場合もあったが、2、3併用される場合もあることが結果
として得られた。
非言語行動 言語行動
そらし型 関心示し型 肯定・安心型 行為提供型 促し型
1.そらし型―相手が抱えている問題から気をそらせる―
(6) 【親をなくした女の子に対して】「このおじちゃん、もんじゃ焼くのだけは
名人なんだ。床屋の腕は悪いから店はガラガラだけどね」 (「日本沈没」)
(7) 【父親が死んだ友達に向かって】「おやじは目玉だけだしさ」「目玉おやじは、
毎朝湯呑茶碗で風呂入ってんだせ」「冗談じゃないって。おれのおやじ、(指
で長さを示し)こんな小せえんだよ」 (「ゲゲゲの鬼太郎」)
(8) 【弟が危篤状態になっている孫に対して】「腹が減っては戦はできんぞ。明
日は横手二中との、再試合じゃろうが」 (「バッテリー」)
相手が抱える問題に積極的に関わろうとしない話し手の心的態度が見られる。他者
をけなして笑わせたり、冗談を言ったり、飲食を勧めたりする内容の発話を行う。話
し手が相手の気持ちを問題から積極的にそらせようとしたりすることを目的としてい
ると思われる。関山(1998)の「突き放し型」の説明に、敢えて話題をそらしたり、
冗談をしたりすることによって、その場の雰囲気を明るくし、相手の自然な回復を期
待するとある。「飲食をすすめる」は「慰め・励まし」の先行研究では指摘のなかった
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言語行動であるが、本調査において 14 例見られた。これは、飲食が肉体的にエネルギ
ーを補充する一番の方法でもあり、それによって精神的な回復も期待できるという話
し手の心的態度からの発話だと考えることも可能であろう。
一方で、この「そらし型」も、非言語行動に似ており、本調査においては、相手の
問題に関わろうにも、家族の死や病気など、相手が抱える問題に解決策がないような
場合によく見られ、「慰め・励まし」を目的とする適切な言語行動がないという話し手
の心的態度であるとも解釈できる。
場面としては、公的な場面での例は全くなかった。年齢から見ると、下の者から上
の者に対しての「慰め・励まし」の言語行動として用いられることはほとんどなかっ
た。先述の非言語行動同様、「そらし型」も「慰め・励まし」の有効な方法であるが、
使用場面、使用相手に制限があると考えられる。
2.「関心示し」型―相手へ質問する・相手への同情や理解を示す-
(9) 【電話で父親の死を知らせた後で】「もしもし、もしもし、大丈夫ですか?」
(「暗いところで待ち合わせ」)
(10) 【思わず涙を浮かべる相手に】「どうしたの?」 (「椿山課長の七日間」)
(11) 【相手の母親が亡くなったと聞き】「そうでしたか…お父さんもさぞ気落ちな
さったでしょう。」 (「長い散歩」)
(12) 【医師が患者に】「お気の毒ですが…運ばれてきた時には既に心拍停止状態
で…」 (「太陽の傷」)
(13) 【母親を亡くした相手に】ユリ、みつこを抱きしめる。(略)「辛かったね、
お母さんが死んで。あんたは本当に偉い子だった。辛かったね」
(「アルゼンチンババア」)
(14) 【息子が母に離れて暮らす父親が実は不治の病であることを告げ、母に病院
に会いに行くように言った後で】「次雄、わかったから。お母さん、次雄の
気持ち、ちゃんとわかったから。だから泣かんでええの、もう泣かんでええ
の」 (「酒井家のしあわせ」)
相手の状況に関心を示していることを示すことで、相手の問題に関わろうとしてい
る話し手の心的態度が見られる。質問や、同情、理解していることを示す表現が用い
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られる。これらは、積極的な関与というより、相手の話を聞く姿勢や、相手に理解を
示していることを伝えようとしていると考えられる。この型では、(13)や(14)のよ
うに他の型との併用が多かった。(13)では、抱きしめの非言語行動のあと、相手の気
持ちに理解を示し、そして相手を褒めている(後述の 3.「肯定・安心」型)。(14)で
は、理解を示したあと、相手に泣くことを止めるように促している(後述の 5.「促し」
型)。他の型との併用が多いことは、相手に関心を示すというあまり積極的でない態度
だけでは物足りないと話し手が考えているからとも解釈できるが、むしろ、まずは関
心を示し、相手を受け入れ、そこから、積極的に関与していこうとする話し手の心的
態度の表れと考えるほうが適切であろう。
3.「肯定・安心」型―相手の現状や未来を肯定する・相手を安心させる―
(15) 【死んだ父に伝えたい思いがある相手に】「大丈夫。絶対に伝わってる。奇
跡はあるんだよ」 (「椿山課長の七日間」)
(16) 【娘に連絡がとれず安否を心配する相手に】「・・・あいつら、親が思う以
上に強いもんだ。毎日、自分の力でたたかってんだ・・・待つしかないんだ
よ」 (「神童」)
(17) 【恋人の心変わりを心配する相手に】「(優しく)越前守様のお心はあなた
様お一筋にございましょう。奥方さえお持ちにならず、あれほど足繁くこち
らへお通いなのですから」 (「大奥」)
(18) 【失明したが点字が上手く読めない相手に】「ミチルは昔からコツコツやる
方だったから。すぐスラスラ読めるようになるよ」
(「暗いところで待ち合わせ」)
(19) 【男に生まれたかったと思っている相手に】「僕を助けてくれた阿部さんは
男みたいに、っていうか、男より逞しくてカッコよかったです」
(「日本沈没」)
(20) 【自分の行動を悔いている相手に】「二人で死ぬよりはマシだったと、じい
ちゃんは思う」 (「花田尐年史」)
(21) 【自分の責任だと思い詰めている相手に】「何をいうんだ。お前のせいじゃな
い」 (「紀子の食卓」)
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理由を述べ、状況を肯定し、相手を安心させる例が多かった。その際、理由として
は、一般論、相手の現状の肯定的な解釈、経験談や実例などがあげられる。他には、
積極的に相手を褒めたり、褒めるまではしなくても、相手がしたことはごく当然であ
ることを伝えることで相手を肯定する。また、相手の考え-その多くは悲観的なもの
である-を否定することで相手を肯定する例も見られた。文法面からの特徴としては、
理由を述べる「~から…」を用いた文が多く見られた。相手を安心させるために、「き
っと」「必ず」「はずだ」「に決まっている」などの話し手の確信を表す表現も目立った。
4.「行為提供」型―話し手の行為提供の申し出-
(22) 【助かる見込みがない患者の家族への告知】「とにかく、手は尽くしますん
で・・・」 (「花田尐年史」)
(23) 【父が失踪中の相手に】「おばさんがなんとかするから。安心しな、みつこ。
明日連絡するから。いい知らせ待ってんだよ」 (「アルゼンチンババア」)
(24) 【遺していく息子に】「父ちゃんはずっと見てる。いつも健太達のそばにい
て、ずっと応援している。」 (「ゲゲゲの鬼太郎」)
(25) 【失明した友達に】「(歩くのを)練習すればいいよ。手伝ってあげる」
(「暗いところで待ち合わせ」)
(26) 【自分と同じく冤罪に苦しむ息子を持つ相手に】「手伝います。さっそく明日
からやりましょう」 (「それでも僕はやってない」)
行為提供の用例数は全体の約 1/5 と尐なく、単独で用いられるより他の型との併用で
の用例が多かった。特に、後述の 5.「促し」型との併用が多く、「一緒にする」とい
うものが目立った。
特に公的な場面で、(22)のような「手を尽くす」「遠慮しないで」「できるだけ」
など、決まり文句になっているような表現が見られた。
5.「促し」型―問題を抱える相手への行動などの促し―
(27) 【傷心から病気になった相手に】「お気を確かに。私がお側におりまする」
(「大奥」)
(28) 【迷いがあって飛び込めない友人に】「じゃあ…一緒に飛ぼう」 (「ラフ」)
(29) 【急な転勤が決まった相手に】(飲食をすすめながら)「ま、どうであれ、頑
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張れよな」 (「悶絶」)
(30) 【地震による避難を促す際】「あと十五キロで次の避難地に到着します。皆
さん、もう一息ですから、頑張って下さい」 (「日本沈没」)
(31) 【二度と恋愛できないと言う相手に】「決めなくてもいいんじゃないかな。楽
に考えたほうが楽しいよ」 (「ストロベリーショートケイクス」)
この型は、話し手ではなく、心理的、或は肉体的に何らかの問題を抱える相手自身
に行為などを行うことを促すものである。とらえ方によっては、問題を抱える相手に
さらなる負担をかけることになるとも考えられ、その点において他の型と性格を異に
すると思われる。典型的なのが、「頑張って」だと思われるが、本調査では、それほど
多くは出てこなかった。「頑張って」が使用される場合も、単独ではあまりなく、(29)
のように飲食を伴って使用されたり、(30)のように緊急事態に際して使用されたりし
ていた。他の型と併用されやすいのは、「頑張って・頑張ってください」だけでは、こ
れは相手だけの問題だと突き放した感じになるからではないだろうか。(30)では、「頑
張る」ことを促すという相手への負担を尐しでも緩和しようと、苦しさが長くは続か
ないことを付け加えている。この型で多かったのは、(27)のように「私がそばにいる」
と言って促すものや、(28)のように話し手と一緒に何かをすることを相手に促すもの
であった。相手に負担を強いることへの話し手の配慮が見られる。
3.5. 性別から見た特徴
この章では、本調査に見られた「慰め・励まし」の言語行動及び非言語行動につい
て、話し手の性別による差異の傾向を考察したい。「慰め・励まし」を男女という視点
から見ると以下のような様相が見られた。男性が話し手(仕手)で女性が受け手とい
う組み合わせが一番多く、女性が話し手(仕手)で男性が受け手という組み合わせが
一番尐なかった。つまり、「慰め・励まし」は、男性から女性に行われることが多く、
女性から男性に対して行われることは尐ないという結果が得られたわけである。
まず、非言語行動についてであるが、男女とも用例数は全体の 1/5 強であり、変わら
ない。しかし、男性は単独の用例数と言語行動との併用の用例数がほぼ同じで、非言
語行動の内容として、無言・見るなどが多かった。一方、女性は単独と言語行動との
併用の割合は 1:7 であった。つまり、女性は、「慰め・励まし」の際、非言語行動だ
けを行うことが尐ないと言える。
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次に言語行動について、5 つの型と男女の差異を全体の用例数から見た。それぞれの
用例の割合と特徴的であると思われることを以下にまとめておく。
言語行動型 男女の異なりの特徴
そらし型 用例数は男女とも 2 割弱で、割合として差異はあまりなかった。ただ、
「笑わせる」という行為は男性だけに見られた。
関心示し型 用例数は男性 3 割、女性 3 割弱で、男性は「大丈夫?」など質問する
発話が多く、女性は同情や理解が多かった。
肯定・安心型 用例数は男性 4 割強、女性 7 割弱と、他と違い女性の割合が男性の 1.5
倍程度であった。この型が女性の言語行動の 2/3 以上を占める。
行為提供型 用例数は男女とも 2 割程度で、この型は男女で差異があまり見られな
かった。
促し型 用例数は男女とも 5 割弱であった。男性に一番多い型であるが、「肯
定定・安心型」の割合とあまり変わらない。
関山(1998)に女性のストラテジーの多さがあげられていたが、本調査でも、女性
は男性より、これらの言語行動を併用して行うことが多いと分かった。つまり、女性
が話し手となった時、「肯定・安心型」の言語行動をとる傾向が多く、非言語行動も含
め、言語行動の型を幾つか組み合わせることを好むわけである。それに対し、男性が
話し手となった時は、「促し型」、ついで「肯定・安心型」の言語行動をとることが多
い。また、男性は、非言語行動・5 つの言語行動型を様々に組み合わせて「慰め・励ま
し」を行うことが女性より尐ないと言える。
4.まとめと課題
以上のように、本稿では、「慰め・励まし」の様相をシナリオから抽出し、整理した。
その結果、「慰め・励まし」には、言語行動のみならず、非言語行動も単独で、或は言
語行動と併用で行われることが分かった。その際の話し手(仕手)の心的態度から見
て、非言語行動は言語行動と同じ役割を担うと考える積極的なものと、相手にかける
べき言葉が見当たらない結果からのものに分かれると思われる。
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言語行動は積極的に相手が抱える問題に関わるか否か、関与の度合い、また、相手
に行動を促すか否かなどの話し手の心的態度をもとに、5 つの型に整理した。5 つの型
は単独での使用以外に、複数の併用例も見られた。全体として「肯定・安心型」の用
例が一番多かった。この 5 つの型は日本語学習者の「慰め・励まし」表現習得に役立
てられるかもしれない。
話し手を男女別に見ると、男性は「促し型」が一番多く、ついで「肯定・安心型」
であった。女性は「肯定・安心型」が一番多く、全体の 2/3 以上を占めた。また、女性
は非言語行動・5 つの言語行動の型の併用を男性より好む傾向があることが分かった。
本稿では、「慰め・励まし」の全体像をとらえ、先行研究をもとに、男女別の様相の
差異を報告するにとどまったが、「慰め・励まし」の言語行動・非言語行動に場面や人
間関係が影響を及ぼしていることは明らかである。そのため、現在、公的か私的かな
どの場面性や、年齢の上下・親疎などの人間関係からくる差異についても考察を進め
ている。先述したように、公的な場面や上の者から下の者には「そらし型」は見られ
ない、同年齢間では「促し型」が多いなどの特徴的なことが出てきている。これらに
ついての報告は次稿に譲りたい。
注
(1)『コミュニケーションに強くなる日本語会話』(アルク)にも、章立てはされてないは、第 6
章:提案と申し出編に 「失恋した友人を慰める」などのモデル会話が載せられている。
(2)この他に、曲・林(2000)では、励まし表現の中の「頑張ってね/頑張ってください」「何
か困ったことがあったら遠慮なく言ってください」について、場面・人間関係を考慮しな
がら、年齢(30 歳以上以下で区別)による使用状況の差異がアンケートをもとに述べられ
ている。
(3)調査資料 『シナリオ』 シナリオ作家協会
「日本沈没」「花田尐年史」(06 年 9 月号)
「ラフ」「ストロベリーショートケイクス」「太陽の傷」(06 年 10 月号)
「フラガール」「紀子の食卓」(06 年 11 月号)
「暗いところで待ち合わせ」「椿山課長の七日間」「悶絶」(06 年 12 月号)
「長い散歩」「大奥」「酒井家のしあわせ」(07 年 1 月号)
「それでもボクはやってない」「魂萌え!」(07 年 2 月号)
「愛の流刑地」「となり町戦争」「刺青」(07 年 3 月号)
「神童」「アルゼンチンババア」(07 年 4 月号)
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「バッテリー」(07 年 5 月号)
「ゲゲゲの鬼太郎(第一稿)」(07 年 6 月号)
「転校生」「日本の青空」(07 年 7 月号)
「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」「陸に上がった軍艦」(07 年 8 月号)
参考文献
曲志強・林伸一(2000)「日本語における励まし表現に関する考察-『頑張ってくださ
い』と『何か困ったことがあったら,遠慮なく言ってください』-」『山口国文』23
pp.106-94.
黒川直美(2001)「日本語における「励まし」の特徴と問題点」『横浜 言語と人間研
究会』5 月例会研究報告(オンライン)<http://sekky.tripod.com/0105kurokawa.html>
(参照日 2008-06-01)
関山健治(1998)「日本語の『慰め・激励』表現に見られる Politeness Strategy-話者
の性別と社会変数による影響・大学生の場合-」『白馬夏季言語学会論文集』第 9
号 pp.11-17.(オンライン)<http://sekky.tripod.com/97hakupa.html>(参照日 2008-06-01)
中居順子・近藤扶美他(2005)『会話に挑戦!中級前期からの日本語ロールプレイ』
スリーエーネットワーク
名古屋大学日本語研究グループ(1992)『現代日本語中級Ⅱ』名古屋大学出版会
日本語教授法研究会編(1989)『ロールプレイで学ぶ会話(2)』凡人社
目黒真実・勝間祐美子他(2001)『コミュニケーションに強くなる日本語会話』
アルク