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移動動詞に見られる意味的展開

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Academic year: 2021

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ドイツ語移動動詞の意味的展開

--「生成メカニズム研究」の中間報告-- 在間 進 2000/5 東京外国語大学論集59 所収 p1-12

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ドイツ語移動動詞の意味的展開

--「生成メカニズム研究」の中間報告-- 在間 進 1.はじめに 現実界の事象は一定の「認知パターン」に基づいて捉えられ,それぞれの言語の「生成 メカニズム(すなわち音声的形態的統語的語用論的規則体系)」に従って言語化される と考えられる(注1)。本稿の目的は,現在,基本的な動詞1300 語のうちの単一動詞 約700語から「移動」の意味用法を持つ動詞30語を対象にし(注2),「生成メカ ニズム」という観点から分析している結果を--意味的展開という側面にしぼり--報 告することにある。本稿では,まず始めに,動詞bewegen の意味用法を概観しながら, 私が「認知パターン」としてどのようなものを考えているのかを説明し,次に,(イ) 「移動」という事象に,ドイツ語の語彙形成という観点から眺めた場合,どのようなタ イプが認められるか,(ロ)人が「移動」という事象とドイツ語の語彙を通してどのよ うな関わり方をしているのか,について述べる。なお,この研究は,構文と語彙項目を それぞれ独立したものとしては扱わず,構文も意味を担うとする Goldberg(1995)の 「構文文法」の流れに位置づけられるものである。 2.「認知パターン」 2.1.動詞 bewegen の主な意味用法には,まず,例文(1)のような,人,ものに 関する,「移動」の意識を伴わない単なる「動き」を表すものがある。

(1) a. Er konnte sich vor Schmerzen nicht bewegen. 彼は痛みの余り動くことが出来なかった。 b. Die Fahnen bewegen sich im Wind. 旗は風に吹かれてゆれ動いている。 この意味構造は,(2)のように表記する。大雑把な定義であるが,BEWEGsi は当該 の意味構造の構造的構成素,すなわち「動く」を,X は当該の意味構造の項を充填する 構成素,すなわち「動く」主体を表す。項の持つカテゴリー的特性は[ ]に入れた意 味特徴によって示す。また,SS は統語構造(syntaktische Struktur)を表す。 (2) BEWEGsi(X): X = [+/-行為性] SS = NP1, sich4

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2.2.次に,(3)のような,「動き」に方向性が伴った「移動」を表すものがある。 (3) a. Die Fahrzeugkolonne bewegt sich langsam zum Flughafen.

車の列がゆっくりと空港に向かって動いて行く。 b. Der Zug bewegt sich zum Festhalle.

行列は祝典会場へと動いて行く。 これは(4)のように表記する。 FORTBEsi は,当該の意味構造の構造的構成素,す なわち「移動する」を,Y は当該の意味構造の第2項,すなわち移動の「方向」を表す。 (4) FORTBEsi(X, Y) : X = [+行為性] Y = [+方向] SS = NP1, PP なお,PP は方向規定の前置詞句あるいはそれに準じる語句を表す。 例文(1)の単なる「動き」と例文(3)の「移動」との相違は,2つの異なった時点 において位置的変化が生じているか否かによって規定する。 2.3.第3番目に,(5)のような,「動く」という意味構造を内在的に含む使役の 意味用法がある。

(5) a. Sie konnte den linken Arm nicht bewegen. 彼女は左腕を動かすことができなかった。 b. Der Wind bewegte die Fahnen.

風は旗を揺らしていた。 これは(6)のように表記する。BEWIRKEN は,当該の意味構造の構造的構成素,す なわち「引き起こす」を,Y は使役の「対象」であるとともに「動く」主体である第2 項を表す。 (6) BEWIRKEN(X, BEWEGsi(Y)): X = [+行為性] Y = [+**] SS = NP1, NP2 なお,[+**]は,ここに挿入される意味特徴が未定であることを示す(注3)。 2.4.第4番目に,(7)のような,「移動する」を内在的に含む使役の意味用法が ある。

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力を合せてやっと彼らはタンスをその場から動かすことができた。 b. Er konnte den Tisch nicht allein bewegen.

彼はテーブルを一人で動かすことができなかった。 これは(8)のように表記する。Z は当該の意味構造の第3項,すなわち移動の「方向」 を表す。なお,(PP)は,方向規定の前置詞句あるいはそれに準じる語句が任意的であ ることを示す。 (8) BEWIRKEN(X, FORTBEsi(Y, Z)) : X = [+行為性] Y = [+**] Z = [+方向] SS = NP1, NP2, (PP) 2.5.なお,第3番目と第4番目の使役的意味用法にはそれぞれ次のような,独立し た語義と認めることも可能なような比喩的バリエ-ションがある。第3番目の意味用法 の比喩的バリエ-ションでは,(9)のように,「動かされる」ものが物体ではなく, 人の感情に,第4番目の意味用法の比喩的バリエ-ションでは,(10)のように,「移 動の方向」が具体的な場所ではなく,一定の行為になっている。

(9) Seine Worte haben uns tief bewegt. 彼の言葉は私たちに深い感動を与えた。 (10) a. Was hat ihn wohl zur Abreise bewogen ? 何が彼を一体旅立つ気にさせたのだろう。 b. Sie bewog ihn, das Haus zu kaufen. 彼女は彼に家を買う気持ちにさせた。 (9)の意味構造は(11)のように,(10)の意味構造は(12)のようにそれぞれ表記 する。 (11)(9)→ BEWIRKEN(X, BEWEGsi(Y)): X = [+**](物事,人) Y = [+人] Z = /心理的に/ SS = NP1, NP2 (12)(10)→ BEWIRKEN(X, BEWEGsi(Y, Z)): X = [+**](物事,人) Y = [+人] Z = [+行為]

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SS = NP1, NP2, PP<zu> 2.6.以上,動詞 bewegen の主な意味用法として4つの,比喩的バリエ-ションも 含めれば6つのものを挙げ,それらの持つ「意味構造」を(2)(4)(6)(8)(11) (12)にそれぞれ図示した。これらの「意味構造」は,動詞 bewegen にのみ認められ るものではなく,他の動詞の意味用法にも認められるもので,したがって,これらは, 現実界の事象を人間が認知し,言語によって表現しようとする際に用いられる構造的な 「型」と考えられる。 このような「型」を私は「認知パターン」と呼ぶ。ここで述べる「意味構造」あるいは 「認知パターン」は,現実界の事象を支配する原理のようなものではなく,あくまで人 間が現実界の事象を,言語を通して分析理解する際の「型」であると考える(注4)。 3.「移動」事象の分類 次に,「移動」という事象にどのようなタイプが認められるかについて述べる。 3.1.「移動」の第1のタイプは,(13)に見られるような,物体の重力による「移 動」である。

(13) a. Er ist vom Fahrrad gefallen. 彼は自転車から転げ落ちた。 b. Das Faß rollt in den Keller. タルは地下室へと転がって行った。 c. Der Schweiß floß ihm von der Stirn. 汗が額から流れ落ちた。 参照: Der Rauch steigt aus einem Schornstein.

煙が煙突から立ち昇る。 物体の重力による「移動」を表す動詞として,ここでは3つの動詞を挙げたが,a文の 動詞 fallen とb文の動詞 rollen は「移動」の「様態」において対立している。「様態」 の 特 性 は 意 味 構 造 外 の 修 飾 要 素 で あ る と 考 え , 意 味 構 造 の 表 記 に 際 し ,M ( = Modifikator)によって表記する(注5)。fallen を用いた(13)のa文は(14)に, rollen を用いたb文は(15)に当該の意味構造を挙げる(注6)。なお,/…/ は語 句的な説明を表す。

(14)(fallen) → FORTBEsi(X, Y)/M: X = [-行為性] Y = [+方向] M = /上から下へ/ SS = NP1, PP (15)(rollen) → FORTBEsi(X, Y)/M: X = [-行為性] Y = [+方向] M = /回転しながら/

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SS = NP1, PP

また,c文は他の2つの事例と「移動」する物体の特性において異なる。このような相 違は「移動」に関与する項のカテゴリー的特性に関するもので,c文の「意味構造」は (16)のように表示する。

(16)(fließen) → FORTBEsi(X, Y)/M: X = [-行為性][+液体] Y = [+方向]

M = /上から下へ/ SS = NP1, PP

3.2.第2のタイプは,(17)に見られるように,「移動」する物体それ自身が「移 動する力」を持っている場合である。

(17) a. Die Schwalben fliegen nach Süden. つばめは南へと飛んで行く。

b. Fährt dieser Zug nach München ? この列車はミュンヒェンへ行きますか。

動詞fliegen のa文と動詞 fahren のb文は,「移動」の「手段」において異なっており, したがって,a文は(18)のように,b文は(19)のように表示する。

(18)(fliegen) → FORTBEsi(X, Y)/M : X = [+行為性] Y = [+方向] M = /空中を/ SS = NP1, PP (19)(fahren) → FORTBEsi(X, Y)/M: X = [+行為性] Y = [+方向] M = /地上を/ SS = NP1, PP 3.3.第3のタイプは,人の「移動」である。これには,「移動手段」を用いない場 合と「移動手段」を用いる場合の2つに分けられる。「移動手段」を用いない事例とし て,次のようなものがある。 (20) a. Wohin gehst du ? 君はどこに行くの。

b. Er ist ans andere Ufer geschwommen. 彼は向こう岸に泳いで行った。 《類例》laufen/kriechen/steigen/klettern/tauchen

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彼女はしばしば私たちのところに来る。

「移動手段」を用いない場合,それぞれの意味用法は,「移動」の「様態」において異 なり,意味構造を図示すると,それぞれ次のようになる。

(21)(gehen) → FORTBEsi(X, Y)/M: X = [+行為性] Y = [+方向]

M = /地上を;歩いて/ SS = NP1, PP

(22)(schwimmen) → FORTBEsi(X, Y)/M: X = [+行為性]

Y = [+方向]

M = /水中を;手足を動かして/ SS = NP1, PP

「移動手段」を用いる事例として,次のようなものがある。 (23) a. Zwei Männer reiten morgen früh zur Ranch. 二人の男性が早朝牧場へと馬に乗って行く。 b. Sie ist gestern über den See gerudert. 彼女は昨日湖をボートで渡って行った。 《類例》segeln/fahren/fliegen

「移動手段」を用いる場合,それぞれの意味用法は,「移動手段」において異なり,意 味構造を図示すると,それぞれ次のようになる。

(24)(reiten) → FORTBEsi(X, Y)/M: X = [+行為性] Y = [+方向] M = /馬に乗って/ SS = NP1, PP (25)(rudern) → FORTBEsi(X, Y)/M:X = [+行為性] Y = [+方向]

M = /ボートに乗って/ SS = NP1, PP

3.4.第4のタイプは,(26)に見られるように,抽象物の「移動」である。 (26) a. Die Temperatur fällt. 温度が下がる。

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b. Die Temperatur steigt. 温度が上昇する。 《類例》klettern/sinken/stürzen

意味構造は図示すると,それぞれ次のようになる。

(27)(fallen) → FORTBEsi(X, Y)/M: X = [+抽象物] Y = [+方向] M = /下方/ SS = NP1

(28)(steigen) → FORTBEsi(X, Y)/M:X = [+抽象物] Y = [+方向] M = /上方/ SS = NP1 4.移動に関連する認知パターン 以上,「移動」という事象にどのようなタイプが認められるかについて述べた。次に, 認知パターンという観点から,ドイツ語の語彙を通して,人間が「移動」という現実界 の事象とどのような関わりを持っているかについて述べる。 4.1.「移動」という現実界の事象との第1の関わりは当然のことながら,「着点」 および「起点」という方向規定を原則的に伴う「移動」の認知パターンに基づくもので ある。

(29) a. Er fliegt nach London. 彼はロンドンに(飛行機で)行く。 b. Er ist über den See gesegelt. 彼は湖をヨットで渡って行く。 c. Der Ball rollt auf die Straße. ボールを通りに転がって行く。 d. Das Kind fiel vom Fahrrad. 子供は自転車から転げ落ちる。

このバリエーションとして,(30)のように,「起点」および「着点」という方向性を 背景に押しやり,「経路」,すなわち移動過程に焦点が合わされる場合が考えられる。 これらの場合,方向規定が削除されるか「経路」の語句のみが表示される。

(30) a. Die Blätter fallen. 葉が落ちる。

b. Er kroch durch das Loch in der Mauer. 彼は壁の穴を這って通った。 なお,移動過程に焦点が合わされる場合ふつう,「移動」の「様態」あるいは「手段」 が前面に出てくることになる。

(31) a. Das Kind kann noch nicht laufen. 子供はまだ歩くことができない。

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b. Gehen wir zu Fuß, oder fahren wir ? 歩いて行きますか,乗り物で行きますか。 また,このことは,「移動」という事象を一つの「行為」あるいは「出来事」として認 知することに繋がっていくとも考えられる。したがって,この場合,共起する時間規定 は,(32)のa文のように,移動全体が生じた時間に関連し,また,完了形は,b文の ように,移動全体の終了を意味することになる。 (32) a. Wann schwimmt er ? いつ彼は泳ぎますか。

b. Er hat schon geschwommen. 彼はもう泳ぎました。

ただし,(33)のように,「移動」の「様態」よりも「移動」そのものを表す gehen お よび「移動手段」(たとえば自動車)を主語にする fahren などは(方向規定を削除す ることによって)「起点」からの「離脱」に焦点が置かれる。これらの事例の場合,そ れぞれの意味用法に「行為性」が感じられないという共通性が認められる。

(33) a. Wann geht er ? 彼はいつ行くのですか。 b. Der Zug ist schon gefahren.

列車はもう出てしまった。

Wann fährt die nächste Straßenbahn ? いつ次の路面電車は出発しますか。 4.2.第2の関わりは,「他動的行為」の認知パターンに基づくものである。「他動 的行為」の認知パターンとは,事象に関与するある一つの項を行為の「対象」として捉 えるものである。「移動」という現実界の事象に関与する様々な側面のうち,「他動的 行為」の認知パターンで対象化される主なものとしてたとえば,例文(34)の「経路」, 例文(35)の「距離」,例文(36)の「記録」などがある。

(34)【経路】 a. Sie hat heute einen anderen Weg geritten. 彼女はきょう別の道を馬に乗って行った。 b. Er ist den Weg in einer Stunde gegangen. 彼はその道を一時間で行った。

(35)【距離】 a. Zu seinem Büro muß er täglich 50 km fahren.

彼の事務所に行くのに毎日50キロ走らなければならない。 b. Ich habe zwei Kilometer geschwommen.

私は2キロ泳いだ。

(36)【記録】 a. Er hat einen neuen Weltrekord gelaufen. 彼は競争で世界新記録を出した。

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b. Er hat die beste Zeit gefahren. 彼はカーレースでベストタイムを出した。 4.3.第3の関わりは,「使役的移動」の認知パターンに基づくものである。「使役 的移動」の認知パターンとは,事象に関与するある一つの項を他からの力によって移動 させられる「対象」として捉えるものである。この場合,例文(37)のように,「移動 手段」そのものを「使役的移動」の対象とするものと,例文(38)のように,「動作主」 の「移動行為」を手段化し,「移動手段」以外のものを「使役的移動」の「対象」にす るものとがある。

(37) a. Er reitet das Pferd auf die Weide. 彼は牧場へと馬を走らす。

b. Er fährt den Wagen in die Garage. 彼は車をガレージに入れる。

(38) a. Er fährt den Verletzten mit dem Auto ins Krankenhaus. 彼は負傷者を来るまで病院に運ぶ。

b. Er rudert uns mit seinem Boot ans andere Ufer. 彼は私たちを彼のボートで向こう岸まで運ぶ。

なお,これらの事例のなかには,「使役的移動」の認知パターンの対象として捉えるべ きか,あるいはむしろ「他動的行為」の認知パターンの対象として捉えるべきかあいま いなものもある。

(39) a. Er hat noch nie ein Auto gefahren. 彼はいままで車を運転したことがない。 b. Er reitet am liebsten den Schimmel. 彼は白馬に乗るのが一番好きだ。 c. Ich laufe am liebsten Schlittschuh. 私はスケートをするのが一番好きだ。 4.4.第4の関わりは,「結果状態(あるいは生成)」の認知パターンに基づくもの である。このような事例は,行為性の伴う移動に限られるが,例文(40)のように,「移 動行為」によって生じる動作者自身の「結果状態」が表されるものと,例文(41)のよ うに,「移動行為」によって関連項の「結果状態(あるいは生成)」が表されるものが ある。

(40) a. Ich habe mich müde gelaufen. 私は走り疲れた。

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b. Ich habe mich wund geritten.

私は馬に乗って(身体の一部を)痛めてしまった。 (41) a. Er hat sich das Gesäß wund geritten.

私は馬に乗ってお尻を擦りむいてしまった。 b. Ich habe mir Blasen an den Füßen gelaufen. 私は走って足にまめをつくってしまった。

さらに,例文(42)のように,「使役的移動」によって生じる「移動手段」の「結果状 態」を取り上げることも可能である。

(42) a. Er hat den Wagen schrottreif gefahren.

彼は車をスクラップ同然になるまで乗り回した。 b. Er hat sein Pferd müde geritten.

彼は馬を乗り回し疲れさせた。

4.5.第5の関わりは「属性」の認知パターンに基づくものである。「属性」の認知 パターンとは,物事の「属性」を表すものであるが,この場合,例文(43)のように, 移動行為を行う際の「状況」が持つ「属性」を述べるものと,例文(44)のように,「移 動手段」が移動行為の遂行に関して持つ「属性」を表すものとが認められる(注6)。 (43) a. Es fährt sich gut auf der Autobahn. アウトバーンが走りやすい。 b. Bei diesem Wetter reitet es sich gut. この天気は乗馬向きだ。 (44) a. Der neue Wagen fährt sich gut. 新しい車は運転しやすい。 b. Die Maschine fliegt sich gut. この飛行機は操縦しやすい。 5.おわりに 以上,認知パターンという観点から,ドイツ語の語彙を通して,人間が「移動」という 現実界の事象とどのような関わりを持っているかについて述べた。しかし,ドイツ語の, 移動に関連する動詞すべてが上述のような認知パターンすべてにおいて用いられるわ けではない。たとえば,同じ様に落下を表すstürzen と fallen を比べても,一方には「使 役的移動」の意味用法があるが,他方にはそのような意味用法は存在しない。 (45) a. X stürzt. → BEWIRKEN(Y, (X stürzen)) : Y stürzt X. b. X fällt. → BEWIRKEN(Y, (X fallen)) : *Y fällt X. 「生成メカニズム」はこのように現実に使用されているドイツ語表現を記述するための ものというよりもむしろ潜在的に可能なドイツ語表現(形式と語彙による表現上の論理 的可能性)を記述するためのものと言える。この「生成メカニズム」によって形成され

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るドイツ語表現のどれが実際的に使用されるかは現実界の有り様に関わってくる。言語 表現の容認性は,文法規則にかなっている限り,最終的には現実界の有り様,認知的モ ティヴェーションの有無によって決まるのである。 以上は,「生成メカニズム」という観点から行った移動動詞の分析結果の一部である(注 7)。 *本稿は,1996年日本独文学会秋季研究発表会(北海道大学)にて発表したものを修正加筆したも のである。 注 1)Zaima(1987),Zaima(1994),Zaima(1997)を参照。 2)基本的な動詞1300 語は,ドイツ語辞典に見出し語として取り上げられた頻度に基 づいて規定した。これらの動詞は,以下に挙げる13種のドイツ語辞典のうち,12以 上の辞典に共通して見出し語として取り上げられた動詞である。なお,この作業は独和 辞典作成のために三修社辞書部が行ったものであり,この場を借りて感謝の意を表する。 また,基本的な動詞の形態的分類(単一動詞か複合動詞か)などに関しては,在間進 (1995)を参照。

1.Bedeutungswörterbuch (Schülerduden Bd.2), Mannheim, 1976. 2.Das Bedeutungswörterbuch (Der Duden Bd.10), Mannheim, 1970. 3.Enzyklopödisches Wörterbuch Deutsch-Englisch, Berlin, 1974. 4.Fremdwörterbuch (Schülerduden Bd.4), Mannheim, 1975. 5.Friedrich: 10 000 Wörter, München, 1969.

6.Handwörterbuch Deutsch-Englisch, Berlin, 1965. 7.Kleines deutsches Wörterbuch, Mannheim, 1976. 8.Mackensen: Der tägliche Wortschatz, München, 1977. 9.Sprachbuch, Freiburg, 1960.

10.Ullstein: Lexikon der Deutschen Sprache, München, 1969. 11.Wahrig: dtv-Wörterbuch der deutschen Sprache, München, 1978. 12.Wohlgemuth/ Berglund: Wort für Wort, München, 1969.

13.Wörter und Wendungen, Leipzig, 1977.

3)意味構造の表記では,関連する意味特徴のみを示す。したがって,本来,すべての 意味特徴表示の後に[+**]があるものと考えていただきたい。

4)このような「型」は,「意味的文型」と呼ぶことも可能であろう。Schumacher(hrsg.) (1986)は,これらを一種の論理構造によって記述している。

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5)Modifikator という術語は Gerling/Orthen(1979)による。彼らは,意味特徴を valenz-relevante inhärente semantische Merkmale と valenzirrelevante inhärente semantische Merkmale に分け,前者を Funktor と,後者を Modifikator と呼ぶ。なお, 文意味構造を基にして動詞という語彙を形成する試みについてはZaima(1999)も参照。 6)藤縄(1986)を参照。 7)以上の分析に関する具体的事例は在間(1996)を参照。 引用文献 藤縄真由美(1986):「物・事」を主語とする再帰表現についての意味論的一考察,東京 外国語大学大学院ドイツ語学文学研究会編 Der Keim Nr.10 所収 在間進(1995):ドイツ語文の「生成メカニズム」について ― 言語研究における個別 言語性 ―,東京外国語大学論集第 51号所収 在間進(1996):移動単一動詞一覧:重要動詞 1300 語より選択されたもの,東京外 国語大学論集第52号所収

Gerling, M./Orthen, N.(1979):Deutsche Zustands- und Bewegungsverben, Tübingen

Goldberg, Adele E.(1995):Constructions, The University of Chicago Press Schumacher, Helmut(hrsg.)(1986):Verben in Feldern, Walter de Gruyter Zaima, Susumu(1987):“VERBBEDEUTUNG” UND SYNTAKTISCHE STRUKTUR, in:Deutsche Sprache, Heft 1, Mannheim

Zaima, Susumu(1994):Linguistische Untersuchungen und Deutschunterricht in: Deutsch als Fremdsprache Heft2 München/Berlin

Zaima, Susumu(1997):A Study on "Semantic Sentence Structures" in German in: The Locus of Meaning; Papers in Honor of Yoshihiko IKEGAMI, Kuroshio publishers

Zaima, Susumu(1999):Satzsemantik vs. Valenztheorie――Erforschung des Regel- systems der Satzbildung in : Kontrastive Studien zur Beschreibung des Japanischen und des Deutschen, indicium verlag München

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