ラマン分光法を用いた多層型有機 EL 素子中の 有機層の構造解析と温度測定
Raman Studies on Structures and
Temperature Measurements of Organic Layers in Multi-Layer Organic Electroluminescent Devices
2008 年 2 月
早稲田大学大学院理工学研究科 化学専攻 分光化学研究
椙山 卓郎
目次
第1章 序論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3
引用文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10
第2章 多層型有機ELのラマン散乱における定在波の効果・・・・・・・・16 2.1 序・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 16 2.2 実験・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18 2.2.1 Glass/ITO/CuPc/NPD/Alq3/LiF-Al構造のラマン測定・・・・・・・ 18 2.2.2 Glass/ITO/CuPc/NPD/Alq3/BCP/LiF-Al構造のラマン測定・・・・・ 19 2.2.3 NPD/CuPc/Al/Glassの入射角度を変えたラマン測定・・・・・・・19
2.3 定在波の電場計算・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 20 2.3.1 P偏光入射時・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20 2.3.2 S偏光入射時・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25 2.4 結果と考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 28 2.4.1 Glass/ITO/CuPc/NPD/Alq3/LiF-Al構造のラマンスペクトル・・・・ 28 2.4.2 Glass/ITO/CuPc/NPD/Alq3/BCP/LiF-Al構造のラマンスペクトル・・31 2.4.3 NPD/CuPc/Al/Glassの入射角度を変えたラマンスペクトル・・・・32 2.5 結論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 34 2.6 引用文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 34 第3章 ホール輸送材料NPD,TPD,m-MTDATAの結晶/アモルファス状態の ラマンマーカーおよび有機EL素子中のNPD層の加熱・駆動による変化・・ 65
3.1 序・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 65 3.2 実験・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 66 3.2.1 NPDのラマン測定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 66 3.2.2 TPDのラマン測定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 67 3.2.3 m-MTDATAのラマン測定・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 68 3.2.4 NPDを用いた有機EL素子の加熱・・・・・・・・・・・・・・ 68 3.2.5 NPDを用いた有機EL素子の駆動・・・・・・・・・・・・・・ 68 3.3 結果と考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 69 3.3.1 NPDのラマンスペクトル・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 69 3.3.2 TPDのラマンスペクトル・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 71 3.3.3 m-MTDATAのラマンスペクトル・・・・・・・・・・・・・・・ 72 3.3.4 NPDを用いた有機ELの加熱による変化・・・・・・・・・・・ 73 3.3.5 NPDを用いた有機ELの駆動による変化・・・・・・・・・・・ 73 3.4 結論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 74 3.5 引用文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 74
第4章 電子輸送材料Alq3のmeridional/facial異性と固体状態の振動スペクトル による研究・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 93
4.1 序・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 93 4.2 実験および計算・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 94
4.2.1 α体,δ体,アモルファス状態のラマン測定・・・・・・・・・・ 94
4.2.2 α体,δ体,アモルファス状態のIR測定・・・・・・・・・・・・ 94 4.2.3 meridional体とfacial体の基準振動計算・・・・・・・・・・・・ 94 4.3 結果と考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 95
4.3.1 α体,δ体,アモルファス状態の実測ラマンスペクトルと
mer-Alq3,fac-Alq3の計算ラマンスペクトル・・・・・・・・・・・ 95 4.3.2 α体,δ体,アモルファス状態の実測IRスペクトルと
mer-Alq3,fac-Alq3の計算IRスペクトル・・・・・・・・・・・・ 97 4.4 結論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 98 4.5 引用文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 99 第5章 ストークス・アンチストークス散乱強度比を利用した
有機ELの温度測定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 115 5.1 序・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 115 5.2 実験・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 117 5.3 結果と考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 118 5.4 結論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 120 5.5 引用文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 120 第6章 ラマンシフトの温度依存性を利用した有機ELの温度測定・・・・・ 128 6.1 序・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 128 6.2 実験・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 129 6.2.1 Glass/ITO/CuPc/NPD/BCP/Alq3/LiF-Al素子・・・・・・・・・・・ 129 6.2.2 Glass/ITO/PEDOT-PSS/PF8:F8BT/LiF-Al素子・・・・・・・・・・ 131 6.3 結果と考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 132 6.3.1 Glass/ITO/CuPc/NPD/BCP/Alq3/LiF-Al素子の温度測定・・・・・・ 132 6.3.2 Glass/ITO/PEDOT-PSS/PF8:F8BT/LiF-Al素子の温度測定・・・・・ 133 6.4 結論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 134 6.5 引用文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 135 第7章 総括・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 145
第1章 序論
近年,急速に発展してきた有機半導体の化学は,Si をはじめとする無機半導 体によって作られてきた電子デバイスの材料を,有機物に置き換えることを可 能としている.有機ELや有機トランジスタ,有機太陽電池に代表される有機物 を用いた電子デバイスは,柔軟性や軽量性,低コスト性,作製プロセスにおけ る小さな環境負荷などの無機物を用いたデバイスには無い特長を有しており,
盛んに研究が行われ,一部が実用化に至っている.一方で,有機半導体の物理 および化学的性質は基礎科学的な研究が十分とは言えず,無機半導体の理論や 分析手法を有機半導体に適用しているのが現状である.有機物の電子構造や固 体構造は無機物とは異なっており,発光特性やキャリア輸送特性などの物性の 理論的解析や,有用な分子のデザインのためには,有機半導体に特徴的な基礎 科学の構築が不可欠である.本論文では,有機半導体の基礎科学構築への寄与 を目的として,分光化学を用いた有機電子デバイスの解析について研究した.
特に,有機電子デバイスの代表である多層型有機ELを対象とし,ラマン分光法 による有機層の構造解析および温度測定の手法を確立した.本章では,まず有 機ELについて概要と課題について述べ,次に有機半導体の研究におけるラマン 分光法の意義について述べる.最後に本論文の概要について解説する.
有機ELは,有機物の超薄膜を電極となる金属で挟んだ構造を持っており,全 体でおよそ 100~200 nmの厚みから蛍光灯並みの高輝度の光を取り出すことを 可能としている.自発光デバイスであり,有機層と電極だけの単純な構造から なるため,薄さや電力効率,作製の簡便さ,低コスト性などにおいて現在の薄 型ディスプレイの主流である液晶よりも本質的に優れており非常に期待されて いる[1].図1.1に一般的な有機ELの模式図を示す.現在,最も広く用いられて いる多層型素子構造は,1987年,Tangらによって最初に報告された[2].陽極の indium-tin-oxide(ITO) と 陰 極 の MgAg 合 金 に よ っ て , 芳 香 族 ア ミ ン 4,4’-cyclohexylidenebis[N,N-bis(4-methylphenyl)-benzenamine](TAPC)とアルミキ ノリノール錯体tris(8-quinolinolato)aluminum (III)(Alq3)の二層を挟んだ構造で
ある.この構造では芳香族アミンがホール輸送層として働き,アルミキノリノ ール錯体が電子輸送層を兼ねた発光層として働く.有機ELに外部電圧を印加す ると,陽極からホールがホール輸送層に注入され,陰極から電子が電子輸送層 に注入される.ホールと電子は,有機分子上をホッピング伝導しながらそれぞ れ反対の電極に向かって動き,発光層で一部が出会い再結合する.このとき発 光層の分子が励起状態となり,それが基底状態に戻るときにエネルギーが光と なって放出される.これが有機ELの発光原理である.キャリア輸送材料と発光 材料は数多く研究され報告されている.
代表的な低分子系材料について図1.2と図1.3に示す.ホール輸送材料として は,芳香族アミンが広く用いられている.トリフェニルアミン構造が優れたホ ール輸送性を有することが知られており[3],トリフェニルアミン骨格を持つ分 子が多い.最も広く用いられている物質はトリフェニルアミン二量体の骨格を 持つ,N,N’-bis(3-methylphenyl)-N,N’-diphenyl-[1,1’-biphenyl]-4,4’-diamine(TPD,
図1.2a)と N,N’-di-1-naphthaleyl-N,N’-diphenyl-1,1’-biphenyl-4,4’-diamine(NPD,
図1.2b)である[4].有機EL中の有機層には,安定な駆動のために一様性が求め
られる.したがって結晶状態よりもアモルファス状態が望ましく,アモルファ ス状態において熱的に安定な,ガラス転移温度(Tg)が高い物質が適していると されている.TPDのTgは60 ℃でNPDのTgは96 ℃であるためNPDを用いた 素子の方が,熱的安定性が高い[5].これまでトリフェニルアミン骨格の多量化 とかさ高い置換基の導入によって Tgを上昇させる研究が広く行われてきており,
Shirota ら に よ る ス タ ー バ ー ス ト 型 分 子 の 研 究 が 代 表 的 で あ る[6]. N-(3-methylphenyl)-N,N-bis[4-[(3-methylphenyl)phenylamino]phenyl]-N-phenyl-1,4- benzenediamine(m-MTDATA,図1.2c)(Tg=75 ℃),N-2-naphthalenyl-N,N-bis[4- (2-naphthalenylphenylamino)phenyl]-N-phenyl-1,4-benzenediamine(2-TNATA, 図
1.2d)(Tg=110 ℃)などがホール輸送材料,ホール注入材料として報告されて
いる.また,ホール注入材料としてcopper phthalocyanine(CuPc,図1.2e)も用
はLUMOが3.0 eV程度であり,Al等から効率的に電子が注入されることが報告 されている[8].また bathocuproine(BCP,図 1.2g)も電子輸送・注入材料とし て用いられており,特にCsをドープした層を用いることで電子注入障壁を著し く下げることが可能である[9].発光材料としては緑発光の Alq3,青発光の 4,4’-bis(2,2-diphenylethenyl)-1,1’-biphenyl(DPVBi,図1.3a)[10],赤発光の 2-[2- [2-[4-(dimethylamino)phenyl]ethenyl]-6-methyl-4H-pyran-4-ylidene]-propanedinitrile
(DCM,図1.3b)[11]などが一重項発光を利用した材料として広く用いられてい る.三重項発光を利用した材料としては,ホストを4,4’-N,N’-dicarbazolylbiphenyl
(CBP,図1.3c)としてゲストに緑tris(2-phenylpyridine)iridium(Ir(ppy)3,図1.3d), 青(2-carboxypyridyl)bis(3,5-difluoro-2-(2-pyridyl)phenyl)iridium(FIrpic,図 1.3e), 赤bis(2-(2’-benzothienyl)pyridinato-N,C3’)iridium(acetylacetonate)(Btp2Ir(acac),図 1.3f)などのIr錯体を用いた素子が高効率を達成している[12].
代表的な高分子材料について図1.4に示す.1990年,Burroughesらによって共 役高分子であるpoly(p-phenylenevinylene)(PPV)をITOとCa電極で挟んだ素子 が報告された[13].これが現在の高分子系有機 EL研究の基本となった.高分子 材料はスピンコート法やドロップキャスト法のようなウェットプロセスを適用 できるため,作製が簡便で大面積素子を作りやすいという利点を持つ.しかし,
積層が困難であるため一材料に多くの機能を持たせる必要がある点が低分子系 と異なる.poly(2-methoxy-5(2-ethylhexoxy)-1,4-phenylenevinylene(MEH-PPV,図 1.4a)などのPPV系[14],poly(9,9-dioctylfluorene)(PF8,図1.4b)などのフルオ レン系[15],poly(3-hexylthiophene)(P3HT,図 1.4c)などのチオフェン系[16]が 代表的である.また,ポリチオフェンの誘導体にポリエーテルスルフォン酸を ドープした導電性高分子であるpoly(3,4-ethylenedioxythiophene)-poly(4-styrene sulfonate)(PEDOT-PSS,図 1.4d)は水溶性であり,有機溶媒を用いた発光層と の積層が可能であるため,ホール注入層として広く用いられている[17].
低分子系素子と高分子系素子のどちらも最も大きな課題は素子の寿命である.
有機 EL は連続駆動時において輝度と発光効率が徐々に落ちていくことが知ら れており,駆動に伴う有機層の変化が「劣化」と呼ばれ主な原因として考えら
れている.有機層の変化としては,電気化学的酸化還元[18]や多結晶化[19],凝 集,相互拡散による層構造の変化などが挙げられている.Alq3単体については,
ホールが流れ込む影響による消光剤の生成が予測されており,蛍光分光による 研究が行われている[20].TPDやNPD単体については熱的安定性についてAFM やX線回折を使って研究されており[21],加熱や空気中への放置によってアモル ファス状態であった膜質が変化し,多結晶状態となると報告されている.これ らの有機物劣化の研究は主に単体に対して適用されてきているが,有機EL素子 の多層構造中における有機層には,他の物質の影響や積層による結晶化の抑制 などの効果が考えられ,単体とは異なる挙動を示す可能性がある.また,金属
/有機や有機/有機界面の構造が素子の電気的性質に大きな影響を与えること が,光電子分光や変位電流測定法によって明らかにされており[22],素子構造中 での有機層を解析することは重要であると言える.有機EL中の有機層は,一般
に100 nm程度で質量は数十ナノグラムオーダーという極微量の成分であり,通
常の有機分析法での検出は困難である.また,有機層はガラスとAlなどの金属 に挟まれているため,素子構造を維持したまま分析をするには非接触で有機層 の情報を得る手法が必要となる.これらは有機トランジスタや有機太陽電池な ど他の有機電子デバイスにとっても同様に重要な課題であり,有機半導体の基 礎科学を構築する上で,有用な分析手法を開発することが鍵となると言える.
以上の観点から,有機半導体の基礎科学の構築と有機ELの寿命改善という基 礎と応用の両面に対して,分光化学による有機ELの解析が大きな貢献をすると 考えた.本論文ではラマン分光法を用いて多層構造を持つ有機ELの構造解析を することを目的として,金属上の多層膜のラマンスペクトルの定量的説明およ び有機ELのラマンスペクトルから分子構造や固体構造,温度に関する情報を得 る手法の確立を行った.ラマン分光法は,光と分子の相互作用を利用して分子 の振動状態を解析する手法であり,有機EL中の有機層のような極微量の成分か らも,物理的・化学的情報が得られる.非接触・非破壊測定であるため,素子
分光による有機ELの研究例としては,KimらによるPEDOT-PSSを用いた高分 子有機 EL の分析[23]があり,駆動に伴うPEDOT 層の変化を検出し,劣化メカ ニズムの解明に大きく寄与した.本論文では様々な材料を用いた多層型有機EL についてラマンスペクトルから得られる知見について検討した.また,有機EL のような多層型薄膜のラマン散乱は,バルクのラマン散乱と異なる光学的効果 を考慮しなければ完全に説明できない.本論文ではラマン分光法による多層薄 膜の構造解析の基礎となる,多層薄膜のラマンスペクトルの定量的説明を行っ た.
以下に本論文の概要を示す.
第2章では,多層型有機ELのラマン散乱において入射光と反射光の干渉によ って生じる定在波の効果について述べた.有機ELは金属上の多層膜構造を持っ
ており,ラマン測定の際の励起光は金属による反射光と干渉し定在波を作る.
本章では,多層型有機ELのラマン散乱はこの定在波の影響を考慮して始めて定 量的説明が可能となることを示した.モデルとして用いた有機ELの素子構造は,
ITOを陽極とし,CuPcをホール注入層,NPDをホール輸送層,Alq3を電子輸送・
発光層,LiF-Alを陰極としており,低分子を用いた有機ELの典型的な構造であ
る.多層膜のラマン散乱においてはそれぞれの層に由来するラマンスペクトル が得られるが,各層のラマン散乱相対強度は,相対散乱断面積,膜厚,定在波 強度という三つの要因によって説明できる.CuPc,NPD,Alq3 について,それ ぞれの寄与を定量的に評価し,実測相対強度の説明を行なった.定在波強度に ついては,W. N. Hansenのトランスファー行列法を用いて計算によって有機層内 の分布を導出した.実測相対強度と計算による予測は良く一致し,トランスフ ァー行列法による計算が有効であることを示した.また,NPD/CuPc/Al という 金属上の二層膜について,励起光の入射角度を変えたラマン測定を行った.入 射角度を変化させると,金属上に生じる定在波の強度分布が変化し,NPDとCuPc の相対強度が変化した.この系についても,トランスファー行列法による定在 波の強度分布の計算をし,実測相対強度をよく説明できることを確認した.本 章の結果は,金属上の多層膜のラマンスペクトルの定量的説明における基礎と
なる.
第3章では,芳香族アミン系ホール輸送材料の結晶/アモルファス状態のラ マンマーカーおよび有機EL 中のNPD層の加熱・駆動による変化について述べ た.NPD,TPD,m-MTDATAに代表される芳香族3級アミン系ホール輸送材料 は,そのアモルファス薄膜が有機EL中のホール輸送層として,広く用いられて いる.これらのアモルファス薄膜は,熱や大気の影響によって多結晶化するこ とが知られており,多結晶化は有機ELの劣化と関連があると考えられる.本章 では,NPD,TPD,m-MTDATAについて,粉末結晶とアモルファス薄膜のラマ ン測定を行い,結晶/アモルファス状態を反映するラマンマーカーを見出すこ とを目的とした.ラマンマーカーを利用することで,NPD,TPD,m-MTDATA 薄膜について,非接触での結晶/アモルファス判定が可能となった.NPD を用 いた有機 EL について,加熱前後および駆動前後のラマンスペクトルを比較し,
マーカーバンドを利用した結晶/アモルファス判定を行なった.作製直後の有 機EL 中のNPD層はアモルファス状態であるが,150 ℃以上に加熱した素子中 では NPD 層は多結晶化した.また,室温下での駆動では NPD 層の多結晶化は 見られなかった.
第4章では,電子輸送材料Alq3のmeridional/facial異性と固体状態に関する振 動スペクトルによる研究について述べた.Alq3分子には,meridional 体と facial 体という幾何異性体があり,固体においては結晶状態(αとβ,γ,δ相)とアモ ルファス状態があることが知られている.幾何異性と固体状態は,発光特性や 電子輸送特性などの Alq3の物性に大きな影響を与える.本章では,Alq3単体の 実測スペクトルおよび密度汎関数法による計算スペクトルから得られる,
mer/fac異性と固体状態に関する知見について検討した.キノリン環変形とAl-
O伸縮の混成モードに帰属される530 cm-1付近のラマンバンドが,mer体をとっ ているα形とアモルファス状態では約527 cm-1,fac体であるδ形では534 cm-1に 観測され,mer体とfac体の計算スペクトルとも一致した.これは,このバンド
第5章では,ストークス・アンチストークス散乱強度比を利用した有機EL中 の有機層の直接温度測定について述べた.有機EL駆動時の自己発熱は,素子の 劣化を促進する大きな原因のひとつである.放熱構造の開発のためには,素子 内部の温度分布の正確な評価が不可欠であるが,従来の熱電対や放射温度計を 利用した温度測定によっては,ガラス基板表面の温度のみしか測定できないこ とがわかっている.本章では,ストークスラマン散乱とアンチストークスラマ ン散乱の強度比を測定することで,有機EL中の有機層の直接温度測定を行うこ とを目的とした.ストークス散乱とアンチストークス散乱の強度比は,始状態 における基底状態と振動励起状態にある分子数の比に比例するため,ボルツマ ン分布則によって,強度比から温度を理論的に計算できる.PEDOT-PSSをホー ル注入層として用いた有機ELについて,駆動時のPEDOT層の温度を測定した.
駆動時の有機層の温度は,熱電対で測定したガラス基板表面の温度よりも高温 であった.
第6章では,ラマンシフトの温度依存性を利用した有機EL中の有機層の直接 温度測定について述べた.第5章で示したストークス・アンチストークス強度 比を用いた温度測定には,アンチストークスラマンバンドを測定することがで きない物質に対しては適用できない,という問題点がある.本章では,ラマン シフトの温度依存性を利用することで,ストークスラマンバンドのみの測定に よって,温度測定が可能であることを示した.有機層のラマンシフトは,温度 を上昇させるにしたがって,減少した.ラマンシフトの温度依存性を最小二乗 法によって直線で近似することにより,駆動時の有機層のラマンシフトから温 度を算出した.CuPcをホール注入層,NPDをホール輸送・発光層として用いた 有機ELについて,CuPc層とNPD層の温度を同時に求めた.また,第5章と同 じ素子についてPEDOT 層と PF8層の温度を同時に求めた.CuPc と PEDOTに ついて得られた温度は,ストークス・アンチストークス強度比で得られた温度 と良い一致を示した.
第7章は,総括であり,本研究から得られた結果をまとめた.
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図1.1 有機EL素子構造の模式図
図1.2 低分子系有機EL材料
(a)TPD,(b)NPD,(c)m-MTDATA,(d)2-TNATA,(e)CuPc,(f)Alq3,(g)BCP
図1.3 低分子系有機EL材料
図1.4 高分子系有機EL材料
(a)MEH-PPV,(b)PF8,(c)P3HT,(d)PEDOT-PSS
第2章 多層型有機ELのラマン散乱における定在波の効果
2.1 序
有機 EL は金属上に複数の有機薄膜が積層されその上に透明電極とガラスが あるという構造を持っている.有機ELのラマンスペクトルを測定するときには,
ガラス側から励起光を入射することにより,金属上で生じる散乱光を観測する ことになるが,その現象を説明するためには励起光を入射したときの光の電場 がどのようなものであるかを説明しなければならない.反射率の高い金属に対 して光を入射すると,入射光と位相の異なる反射光が生じる.入射光と反射光 は干渉し,定在波が金属の表面に生じる.最も単純な空気/金属の二層系に対 し,空気側から波長λの光を入射角度0oで入射した場合について考える.金属表 面に生じる定在波の強度分布は,古典光学の理論で容易に計算され,金属表面 が節となり強度0で金属表面からλ/4の距離が腹となり強度最大となる[1].空気
/媒質/金属の三層系になると,多重反射が起こるため計算は複雑となる.
GreenlerらやSuëtakaらによって三層系の電場計算がなされた[2, 3].これらの計 算は,主に赤外反射吸収分光法(IRRAS)の結果を説明するために用いられて
きた.IRRASでは例えば波長4000 nmの赤外光を空気/媒質/金属に入射する
場合を想定する.入射角度0oでは媒質の影響を考慮しても定在波の腹が金属か ら800~1000 nm程度の距離の位置となるため,100 nm程度の膜厚の有機層を媒 質として考えた場合,有機層内に生じる定在波の強度はほとんど 0 であり,赤 外吸収が観測されない.したがって,金属表面が腹となるような高角度入射が 有効となる[4].一方,ラマン分光法の場合は励起光の波長は300~1000 nm程度 の紫外・可視・近赤外光である.λ/ 4は80~250 nmとなるため,入射角度0oで も定在波の腹が赤外光に比べてずっと金属に近い.100 nm程度の膜厚の有機層 内にもラマン散乱を観測するのに十分な定在波電場が生じる.それだけでなく,
さく無視できるが,ラマン分光においては媒質の膜厚と励起光の波長が近いた め影響が大きい.有機層内の定在波の強度分布が,観測されるラマンスペクト ルの相対強度に直接影響する.これは金属上の多層薄膜のラマン散乱に特有の 現象である.
本章では,ラマン分光を有機ELに代表される多層薄膜系に適用するための基 礎を構築するため,ラマン測定の際に生じる定在波の効果を電場計算によって 評価し実測スペクトルの相対強度を定量的に説明した.有機EL中の有機層は多 層であるため,ラマン励起光を入射したときに生じる定在波は各層での多重反 射の影響を受ける.定在波の強度分布を計算するためには,多層の複素屈折率 と多重反射を考慮した計算法が必要となる.本章では,W. N. Hansenのトランス ファー行列法を利用した[5].トランスファー行列法は,N層からなる媒質に光 を入射した時の電場・磁場の境界条件を行列によって表現した方法であり,多 層膜中に入射した光の電場分布を計算するのに非常に有効である.これまで,
多層誘電体の反射率・透過率の計算[6]や,全反射赤外吸収分光法(ATR)測定 の際の電場分布の計算[7-9]に用いられてきた.本章ではトランスファー行列法 によって計算した定在波の強度分布と各有機層の膜厚と相対散乱断面積を考慮 して相対ラマン散乱強度を計算し,実測相対強度と比較した.
モデルとして典型的な低分子有機 EL を用いた.第一に CuPc(図 2.1a)をホ ール注入層,NPD(図2.1b)をホール輸送層,Alq3(図2.1c)を電子輸送・発光 層として用いたGlass/ITO(100 nm)/CuPc(15 nm)/NPD(50 nm)/Alq3(50 nm)/LiF-Al 素子である.また,第二にAlq3層の次にBCP(図2.1d)を積んだGlass/ITO(100 nm)/CuPc(10 nm)/NPD(40 nm)/Alq3(50 nm)/BCP(40 nm)/LiF-Al素子である.BCPは ホールブロック層や電子注入層として用いられている.第一の素子では,Alq3
層が陰極すなわち定在波の節に近いため,Alq3 のラマン相対強度が小さくなっ た.そこで Alq3層の相対強度を増大させる素子構造を計算によって予測して設 計した素子が第二の素子である.第二の素子ではAlq3層の相対強度が増大した.
また,入射角度を変化させたときの定在波とラマン相対強度の関係について 調べるため,より単純な金属上の二層膜について,入射角度を変化させながら
ラマン測定を行い,計算結果と比較した.試料の構造は NPD(60 nm)/CuPc(15 nm)/Al/Glassである.CuPcはNPDに比べて相対散乱断面積が大きいため,NPD とCuPcの相対強度は金属近傍の定在波の強度分布の影響を鋭敏に受ける.入射 角度を増大させたラマン測定によって,金属に近いCuPc層の相対強度を増大さ せることができた.
2.2 実験
2.2.1 Glass/ITO/CuPc/NPD/Alq3/LiF-Al構造のラマン測定
図2.2aに素子構造を示す.ITOを100 nmスパッタで蒸着したガラス基板(ソ ーダガラス)上にCuPcを15 nm,NPDを50 nm,Alq3を50 nm,LiFを0.5 nm,
Alを150 nm,それぞれ真空蒸着によって製膜した.膜厚は水晶振動子膜厚計に
よって測定した.ITO ガラス基板は三容真空社より購入した.ガラスの厚さは
0.7 mmである.CuPcはα体粉末を東京化成社より購入し,一回昇華精製したも
のを使用した.NPDは新日鐵化学社より提供を受けた.Alq3はSigma-Aldrich社 より購入した.
ラマンスペクトルは顕微ラマン装置(Renishaw, inVia)を用い,後方散乱配置 で測定した.励起波長は532と633,830 nmで50倍対物レンズ(Leica, PLAN L)
の焦点距離は8.2 mm である.検知器はペルティエ冷却CCDである.波数校正 にはネオン発光線を用いた.波数精度は±1 cm-1である.図2.2aに示すように,
ガラス側から励起光を入射角度0oで入射した.入射光は P 偏光を使用した.ま た,Alq3の下にLiF-Alが無い部分を測定し,定在波の有無による影響を調べた.
相対散乱断面積を測定するため,CuPc,NPD,Alq3単体の50 nmの薄膜をガラ ス基板上に蒸着し,同条件で測定した.またCuPc15 nm,NPD 50 nm,Alq350 nm それぞれをガラス基板に蒸着して,紫外・可視・近赤外吸収分光光度計(日本
2.2.2 Glass/ITO/CuPc/NPD/Alq3/BCP/LiF-Al構造のラマン測定
図2.2bに素子構造を示す.ITOガラス基板上にCuPcを10 nm,NPDを40 nm,
Alq3を50 nm,BCPを40 nm,LiFを0.5 nm,Alを150 nm,それぞれ真空蒸着 によって製膜した.ITOガラス,CuPc,NPD,Alq3は2.2.1と同様のものを使用 した.BCPは同仁化学社より購入した.
ラマンスペクトルは顕微ラマン装置(Renishaw,inVia)を用い,後方散乱配 置で測定した.励起波長は532 nm,50倍対物レンズ(Leica,PLAN L)の焦点 距離は8.2 mmである.図2.2bに示すように,ガラス側から励起光を入射角度0o で入射した.入射光はP偏光を使用した.また,BCPの下にLiF-Alが無い部分 を測定し,定在波の有無による影響を調べた.また,相対散乱断面積を測定す
るため,BCP単体の50 nmの薄膜をガラス基板上に蒸着し,ラマンスペクトル
を測定した.
2.2.3 NPD/CuPc/Al/Glassの入射角度を変えたラマン測定
図2.3aにサンプル構造を示す.ガラス基板上に150 nmのAlを蒸着し,その 上にCuPcを15 nm,NPDを60 nm蒸着した.CuPcとNPDは2.2.1と同様のも のを使用した.
ラマン測定は顕微ラマン装置(Renishaw,inVia)のマクロサンプリングユニ ットを用いて行った.図 2.3bに測定図を示す.対物レンズの焦点距離( f )は
30 mm,励起波長は532 nmである.対物レンズを固定し,サンプルを回転させ
ることで,入射角度θを変化させた.NPD 側からθ =0~75oの範囲を15o毎に測 定した.入射光はP偏光を用いた.
2.3 定在波の電場計算
2.3.1 P偏光入射時
図 2.4 に示すようなN−1個の境界面を持つN層の積層媒質を考える.媒質は 等方的であり,境界面は一様であるとした.第 1 層と第N層の片側は無限遠で ある.第 j層の複素屈折率をnˆj,比誘電率をεˆj,比透磁率をµˆj(1≤ ≤j N),膜 厚をdj(2≤ ≤ −j N 1)とした.この媒質に波長λのP偏光が入射するとき,第 j層への入射角度をθjとすると,第 j層のトランスファー行列Mjを定義するこ とができる.
cos sin
sin cos
j j
j j
j j j
i q iq
β β
β β
⎛ − ⎞
⎜ ⎟
= ⎜ ⎟
⎜− ⎟
⎝ ⎠
M (2.1)
ここで,βj =
(
2 /π λ ξ)
jdj,ξj =nˆ cosj θj,qj =(
µ εj/ j)
1/ 2cosθjである.以下ではj 1
µ = とおいた.
境界面と紙面に平行な方向をx,紙面に垂直な方向をy,境界面に垂直な方向 をzとする.第j層と第
(
j+1)
層の境界面のz座標をz=zjとする.多重反射と干 渉によって生じる定在波について,z=zjでの電場振幅のx成分をEjx,z成分を Ejz,磁場振幅をHjyとすると,式(2.1)を使ってz=z1とz=zN−1での電磁場が 以下の式で関係付けられる.( )
( )
( )
( )
1 1
1
2 3 1
1 1
1
N y N y
y
N
N x N x
x
H H
H
E E
E
− −
−
− −
⎛ ⎞ ⎛ ⎞
⎛ ⎞
⎜ ⎟ ⎜ ⎟
= =
⎜ ⎟ ⎜ ⎟ ⎜ ⎟
⎝ ⎠ ⎝ ⎠ ⎝ ⎠
M M LM M (2.2)
1 1
2
sin ˆ
jz jy
j
E n H
n
= θ (2.3)
2 3 N−1
=
M M M LM (2.4)
まず,N 層から成る媒質に P 偏光が入射したときの反射率と透過率および位 相変化を導く.z=z1での入射光の電磁場振幅をE1tx,E1tz,H1ty,反射光の電磁 場振幅をE1rx,E1rz,H1ry,z=zN−1での透過光の電磁場振幅をE(tN−1)x,E(tN−1)z,H(tN−1)y とおくと以下の関係が成り立つ.
( )
1y 1ty 1ry 1 p 1ty
H =H +H = +r H (2.5) E1x =E1tx+E1rx = −q1
(
1−rp)
H1ty (2.6) H(N−1)y =H(tN−1)y =t HHp 1ty (2.7)E(N−1)x =E(tN−1)x = −q t HN Hp 1ty (2.8)
ここで,rpとtHpは電磁場の振幅反射係数と磁場の振幅透過係数である.
1 1 r y
p t
y
r H
≡ H (2.9)
( 1)
1 t
N y
Hp t
y
H
t H
≡ − (2.10) よってMの行列要素をmijとすると,式(2.2)が以下のように書き換えられる.
( )
1121 12221
1 1
p Hp
p N Hp
r m m t
m m q t
q r
⎛ + ⎞ ⎛ ⎞⎛ ⎞
⎜ ⎟ =⎜ ⎟⎜⎜ ⎟⎟
⎜− − ⎟ ⎝ ⎠⎝− ⎠
⎝ ⎠
(2.11) したがって
( ) ( )
(
1111 1212)
11(
2121 2222)
N N
p
N N
m m q q m m q
r m m q q m m q
+ − +
= + + + (2.12)
(
11 12)
1 1(
21 22)
2
Hp
N N
t q
m m q q m m q
= + + + (2.13)
また,電場の振幅透過係数tEpは,
1
ˆ
Ep Hp
N
t n t
= n (2.14) である.よって反射率Rp,透過率Tp,反射時の位相変化δprおよび透過時の位相 変化δtpは以下の式で表される.
2
p p
R = r (2.15)
(
2)
22
1 1 1
ˆ ˆ
Re cos / cos /
N N N
p Hp
n n
T t
n n
θ
= θ (2.16) arg
r
p rp
δ = (2.17)
arg
t
p tEp
δ = (2.18)
次に,式(2.12)~(2.18)を使って第1層および第N層の任意の点zでの電 場を計算する.これは二層系の計算と同様にできる[4].入射光の電場をE1tとお き,第 j層中の位置zにおける電場Ej
( )
z のx成分とz成分をEjx( )
z とEjz( )
z と おくと第1層について,定在波電場は以下の式で表せる.( ) ( ) ( )
1x z = 1t cos expθ1 ⎡⎣i 1t⋅ −ωt ⎤⎦−rp 1t cos expθ1 ⎡⎣i 1r⋅ −ωt ⎤⎦
E E k r E k r (2.19)
( ) ( ) ( )
1z z = 1t sin expθ1 ⎡⎣i 1t⋅ −ωt ⎤⎦+rp 1t sin expθ1 ⎡⎣i 1r⋅ −ωt ⎤⎦
E E k r E k r (2.20)
ここで,k1tとk1rは入射光と反射光の波数ベクトル,rは位置ベクトル,ωは角 振動数,tは時間である.ベクトルEについて,実部の二乗平均を E2 と書く こととする.式(2.19)と(2.20)から第1層の電場について以下の式で表せる.
( )
2( )
1 2 1/ 2
1 1
2 1
cos 1 1 cos 4
2
x r
p p p
t
z z
R R
θ δ π ξ
λ
⎡ ⎛ ⎞⎤
= ⎢⎣ + − ⎜⎝ − ⎟⎠⎥⎦
E
E (2.21)
( )
2( )
1 2 1/ 2
1 1
2 1
sin 1 1 cos 4
2
z r
p p p
t
z z
R R
θ δ π ξ
λ
⎡ ⎛ ⎞⎤
= ⎢⎣ + + ⎜⎝ − ⎟⎠⎥⎦
E
E (2.22)
( )
2( )
2( )
21 1 1
2 2 2
1 1 1
x z
t t t
z z z
= +
E E E
E E E (2.23) また,第N 層の電場について以下の式で表せる.
( )
2 22 1
1 exp 4 Im
ˆ 2
Nx N
Ep N
t
N
z z h
n t
ξ π ξ
λ
⎡ − ⎤
= ⎢⎣− ⎥⎦
E
E (2.24)
( )
2 21 1
2 1
sin
1 exp 4 Im
2 ˆ
Nz
Ep N
t
N
z n z h
n t
θ π ξ
λ
⎡ − ⎤
= ⎢⎣− ⎥⎦
E
E (2.25)
ここで,hは第2層から第
(
N−1)
層までの膜厚の総和である.次に,式(2.2)を使って第 2 層から第
(
N−1)
層中の任意の点zにおける定在波電場を求める.行列Qjを以下のように定義する.
jy j
jx
H E
⎛ ⎞
= ⎜⎜ ⎟⎟
⎝ ⎠
Q (2.27)
式(2.27)を使って式(2.2)を書き換えると以下のようになる.
1
1 2 3 1 1 1
2 N
N N k N
k
−
− − −
=
= =
∏
Q M M LM Q M Q (2.28) 式(2.28)は第 j層中の任意の点zにおいても成り立つ.
( ) ( )
1( ) ( )
1 2 3
2 j
j j k j j
k
z z z z
−
=
= =
∏
Q M M LM Q M M Q (2.29) ここで,Qj
( )
z ,Mj( )
z は以下の式で表される(図2.5).( ) ( )
( )
jy j
jx
H z
z E z
⎛ ⎞
= ⎜⎜ ⎟⎟
⎝ ⎠
Q (2.30)
( ) ( ) ( )
( ) ( )
1 1
1 1
2 2
cos sin
2 2
sin cos
j j j j
j j
j j j j j
z z i z z
z q
iq z z z z
πξ πξ
λ λ
πξ πξ
λ λ
− −
− −
⎛ ⎧⎨ − ⎫⎬ − ⎧⎨ − ⎫⎬⎞
⎜ ⎟
⎭ ⎭
⎩ ⎩
⎜ ⎟
= ⎜⎜⎜⎝− ⎧⎨⎩ − ⎫⎬⎭ ⎧⎨⎩ − ⎫⎬⎭ ⎟⎟⎟⎠
M (2.31)
MkとMj
( )
z の逆行列NkとNj( )
z を考えて,式(2.29)に左から( )
21
j k
k j
z
∏
= −N N を
掛けると
( ) ( )
2 11
j j k
k j
z z
= −
=
∏
Q N N Q (2.32) 式(2.32)に式(2.28)を代入すると
( ) ( )
1 1N
j j k N
k j
z z
−
−
=
=
∏
Q N M Q (2.33)
ここで
( )
1 1 1
1 1
1 1 1 1
1 1
t r
y y y p t
t r y
x x x p
H H H r
E E E q r H
⎛ + ⎞
⎛ + ⎞
⎛ ⎞
⎜ ⎟
=⎜⎝ ⎟ ⎜⎠ ⎝=⎜ + ⎟⎟ ⎜⎠ ⎝= − − ⎟⎠
Q (2.34)
( )
( )
( )
( )
1 1
1 1
1 1
t
N y N y Hp t
N t y
N x N x N Hp
H H t
E E q t H
− −
−
− −
⎛ ⎞
⎛ ⎞ ⎛ ⎞
⎜ ⎟
⎜ ⎟
=⎜⎝ ⎟ ⎜⎠ ⎝= ⎟⎠= ⎜⎜⎝− ⎟⎟⎠
Q (2.35)
( ) ( ) ( )
( ) ( )
( ) ( )
( ) ( )
1 1
1 1
11 12
21 22
2 2
cos sin
2 2
sin cos
j j j j
j j
j j j j j
j j
j j
z z i z z
z q
iq z z z z
z z
z z
πξ πξ
λ λ
πξ πξ
λ λ
− −
− −
⎛ ⎧⎨ − ⎫⎬ ⎧⎨ − ⎫⎬⎞
⎜ ⎟
⎭ ⎭
⎩ ⎩
⎜ ⎟
= ⎜⎜⎜⎝ ⎧⎨⎩ − ⎫⎬⎭ ⎧⎨⎩ − ⎫⎭⎬ ⎟⎟⎟⎠
⎛ ⎞
= ⎜⎜⎝ ⎟⎟⎠ N
N N
N N
(2.36)
1 1 1
t t
H y =n E (2.37) である.また
1 11 12
21 22
N
j j
k
j j
k j
−
=
⎛ ⎞
= ⎜ ⎟
⎝ ⎠
∏
M MM MM (2.38) とおくと,式(2.33)から第 j層中の任意の点zにおける電場の振幅が以下の式 で表せる.( ) { ( ) ( ) }
( ) ( ) }
{
11 21
21 22
1 1
12 22
21 22
jx
Hp j j j j
t
N Hp j j j j
E z
t z z
n E
q t z z
= +
− +
N M N M
N M N M
(2.39)
( ) { ( ) ( ) }
( ) ( ) }
{
11 21
11 12
1 1
12 22
11 12
jx
Hp j j j j
t
N Hp j j j j
H z
t z z
n E
q t z z
= +
− +
N M N M
N M N M
(2.40)
( )
1sinˆ 2 1( )
jz jy
j
E z n H z
n
= θ (2.41)
第 j層の任意の点zにおける定在波強度 Ej
( )
z 2 は以下の式で表される.式(2.39)~(2.42)より,P偏光入射時の第 j層中の定在波強度が計算できる.
2.3.2 S偏光入射時
2.3.1 と同様のN層の積層媒質に波長λの S 偏光が入射するときを考える(図
2.6).このときのトランスファー行列Mjを以下のようになる.
cos sin
sin cos
j j
j j
j j j
i p ip
β β
β β
⎛ − ⎞
⎜ ⎟
= ⎜ ⎟
⎜− ⎟
⎝ ⎠
M (2.43)
ここで,pj =
(
ε µj/ j)
1/ 2cosθjである.以下ではµj =1とおいた.多重反射と干渉によって生じる定在波について,z=zjでの電場振幅をEjy, 磁場振幅のx成分をHjx,z成分をHjzとすると,式(2.43)を使ってz=z1と
1
z=zN− での電磁場が以下の式で関係付けられる.
( )
( )
( )
( )
1 1
1
2 3 1
1 1
1
N y N y
y
N
N x N x
x
E E
E
H H
H
− −
−
− −
⎛ ⎞ ⎛ ⎞
⎛ ⎞
⎜ ⎟ ⎜ ⎟
= =
⎜ ⎟ ⎜ ⎟ ⎜ ⎟
⎝ ⎠ ⎝ ⎠ ⎝ ⎠
M M LM M (2.44)
2 3 N−1
=
M M M LM (2.45) N 層から成る媒質に S 偏光が入射したときの反射率と透過率および位相変化 を導く.z=z1での入射光の電磁場振幅をE1ty,H1tx,H1tz,反射光の電磁場振幅 をE1ry,H1rx,H1rz,z=zN−1での透過光の電磁場振幅をE(tN−1)y,H(tN−1)x,H(tN−1)zと おくと以下の関係が成り立つ.
( )
1y 1ty 1ry 1 s 1ty
E =E +E = +r E (2.46) H1x =H1tx+H1rx = −p1
(
1−r Es)
1ty (2.47) E(N−1)y =E(tN−1)y =t EEs 1ty (2.48)H(N−1)x=H(tN−1)x = p t EN Es 1ty (2.49)
ここで,rsとtEsは電磁場の振幅反射係数と電場の振幅透過係数である.
1 1 r y
s t
y
r E
≡ E (2.50)