対話促進のメカニズム
―情報処理と談話語用論の視点から―
﨑 田 智 子
1. はじめに
対話 (dialogue) は我々の多くが自然に習得し日常的にかわしており、一般 に 比 較 的 容 易 で あ る。 特 に、 公 衆 の 面 前 で ス ピ ー チ を 行 う 等 の 独 話
(monologue) と比較すると、会話ないしは複数の話者が向かい合ってかわす
対話はずっと容易である。1 しかし、情報処理的な視点から見れば対話の容 易さには逆説的な側面もある。独話に比べて対話の保持に要する情報量と範 囲ははるかに大きく、同時に聞きながら話すという作業を行う等、より高度 な情報処理労力を必要とすると仮定されるからである。にもかかわらずやは り一般に会話は比較的容易であると感じられるのはなぜであろうか。2 Garrod and Pickering (2004) はこの理由を、情報処理的アプローチにより、対 話の機械的情報処理のメカニズムに焦点を当てて説明している。対話の処理 には双方向的に作用する「相互作用的提携」(interactive alignment) という処 理メカニズムが働き、この処理メカニズムが参与者間の言語表象の提携を産 み出すからであると主張している。しかも、この相互作用的提携は「自動提 携方式」(automatic alignment channels) で生じるものであり、社会的相互作用 に関して提起されている知覚と行動を結ぶ自動的リンク (perception-behavior expressway) (Dijksterhuis and Bargh 2001) に類似した機能を有している。対話 を支えるこの相互作用的提携が自動的に働くメカニズムに基づいて、人間は もともと独話よりむしろ対話に適した情報処理システムを生まれもっている と仮定される。この問題に関してはこれまで対話情報処理の視点から実験的 アプローチによる研究が数多くなされてきた。本論文では、この問題を情報
『言語文化』12-4:619−663ページ 2010.
同志社大学言語文化学会 ©﨑田智子
処理的な視点に加えて談話語用論な視点から再検討する。従来、情報処理系 のアプローチと談話語用論的アプローチはともに「対話」という同様のテー マを扱いながらも異なった手法をとり、その一つとして前者の実験データ主 義と後者の会話実例主義が挙げられる。本論文では、その両者の知見をとり いれることで対話への理解と新たなアプローチの可能性を提起する。特に、
情報処理的視点から対話の性質と処理のメカニズムに焦点を当て、さらに談 話語用論的視点から自然な言語運用の側面に焦点を当てることにより対話が 人間にとっていかに根源的で自然な行為であるかを示す。
まず、次の2節で対話処理に関して予測される複雑性について概観する。
3節では情報処理的視点から対話の性質を考察し、会話の参与者達が共同活 動として相互作用的提携を行うことによって、状況モデルに加えてあらゆる 言語レベルで提携を促進するメカニズムについて論じる。4節では、対話の 事実上の容易さを説明するため、2節で想定した4つの問題をそれぞれ情報 処理的アプローチと談話語用論的アプローチの両方の視点から検証し、対話 処理を促進する要素について論じる。(1)対話の断片的省略的性質、(2)プラ ンニングの問題、(3)内容と形式の適切性の問題、(4)インターフェースの問 題について、それぞれまず人間の情報処理のメカニズムを考え、さらに自然 な文脈における対話の特徴を考えることで論じていく。
2. 対話処理の複雑性
対話の処理に関して想定される理論上の難点として、以下の4点が挙げら れる (Garrod and Pickering 2004: 8)。
1) 会話に含まれる発話は省略に満ち (elliptical) 断片的 (fragmentary) な傾 向がある。
2) 日和見的プランニングに依存する。会話の展開は予測困難な面があ るため十分に発話を計画することができず即興で行わざるを得ない。
3) 状況に応じて聞き手にとって適切な発話内容と形式を選択する必要 がある。
4) 会話には様々なインターフェースの問題が付随する。例えば作業交
替 (task-switching) や複数作業 (multi-tasking) を効率的に行う必要があ る。
まず第一の点に関して、伝統的言語学では基本的言語構造のプロトタイプ は文であると考えられてきた。しかし、実際の日常の会話を観察してみると 完全な文として発せられるものはむしろ少なく、ほとんどは省略に満ち断片 的なフレーズの集まりであることが最近の談話研究の中で明らかにされてい る (Hopper 2001)。聞き手は発話を話し手の意図にそって的確に解釈するた めに相手の発話内の省略を補い、また、断片的に提示された情報をつなぎあ わせて相手の意図を推測するという余計な認知処理労力を払う必要が生じ る。
第二の点であるが、会話はリアルタイムシステムであり、実時間内に迅速 な応答を蓄積していくため、その展開に関して多くは予測困難であり前もっ てプランニングが行えない。聞き手が予期せぬ質問をし急にそれに答える必 要性が生じることも多々あり、多くの場合は即応する必要があるため推論や 計算に時間をかけた熟考型プランニングが成り立たない。このようなことか ら、動的な会話を十分にプランニングすることは不可能であり、日和見的な プランニングに頼らざるを得ない。
第三の点であるが、独話の場合は、相手、場所、その他の環境に応じて予 め適切な発話内容と形式を予測し決定しておくことが可能であるが、対話の 場合、発話の内容と形式は文脈に応じてその場その時点で聞き手にとって適 切なものを選ぶ必要がある。特にその時その時の発話時点で聞き手と共有す る情報の質・量に応じて事物の言及形式を決定し状況に応じ変化させる必要 があり、複雑な処理を要する。例えば、適切な指示形式の選択に関して my professor Jane というか Jane Zuengler というか単に Jane というか代名詞で she/her というかは、話者が聞き手とどの程度の情報を共有しているかによっ て変えなければならない。相手が Jane が誰だか知っているか、相手が Jane という名の人物を複数知っているか、指示対象となる人物が聞き手に一人だ け特定できるか、等の状況に応じて指示形式の適切性が変わってくる。
第四の点として、様々な会話のインターフェースの問題が挙げられる。例
えば、適切な話者交替 (turn-taking) を行う必要があり、話者達は相手の発話 のどの時点で話をきりだせば良いかという発話のタイミングの問題に終始直 面している。3 参与者一人一人の内部では常時、聞くことと話すことの作業 交替が行われている。また、相手の発話を聞きながら同時に自分が次に何を 話すかの即興のプランニングを行い、さらに、3人以上の参与者を含む多人 数会話の場合には発話を誰に向けるかの選択を行い、その上、相手の話を聞 いているという信号を送り相手への支持や理解を示すために適切なタイミン グで音声によるあいづちや非言語行動のうなずきをしなければならない、と いうように、話す、聞く、計画する、非言語行動を行う、等の複数の作業を 同時進行で効率よく進めなければならない。
このように見てくると、日常会話を構成する対話は複雑な言語活動であっ て、多くの人が難しいと感じる独話と比較しても実はずっと難易度の高い作 業であり、その遂行には高度な情報処理能力が必要とされるであろうことが 予測される。
3. 共同活動としての対話:情報処理的視点から
会話が独話と異なる最も重要な特徴は、会話は「共同活動」(joint activity) であるということであり (Schegloff and Sacks 1973; Clark 1996)、会話の参与 者達は会話内容に関する共同理解を成立させているということである。共同 活動は話者間の協力により成り立っており、そこには話者間の「提携」
(alignment) が生じる。例(1)の電話の会話を見てみよう。二人の話者が交互
に発話を行う発話の連鎖の中で発話の生産と理解のプロセスが連結された基 本パターンが見て取れる。4
(1)
1 JILL: How are you, 2 .. honey?
3 JEFF: I’m doing [good].
4 JILL: [(TSK) (H)=] I miss you.
5 JEFF: (H) I miss you too.
6 JILL: (H)= ... [Hm=].
7 JEFF: [How’s my fa]vorite girl.
8 JILL: @@@@@@
9 .. [I’m] good.
10 JEFF: [Is she] -- 11 Is she okay?
12 JILL: (H) Unhu=nh.
13 JEFF: Are you guys having fun?
14 JILL: Yes. (Hey Cutie-Pie)5
前半2度 Jill が先行して Jeff が返答し、Jill が次のターン(6行目)であいづ ちを送ることで一呼吸おくと今度は3度 Jeff が質問し Jill が答える、という ような連続した「隣接ペア」(adjacency pair) (Schegloff and Sacks 1973) によっ て全体が構成されている。一人が隣接ペアの開始部分で質問ないしは言葉掛 けをして相手の返答がしかるべき形式で行われるよう予期し、相手は予期さ れたような形式で返答している。また、伝達される内容に関わる意味は辞書 的意味ではなく話者同士の共通理解に基づく意味であり交渉可能なものであ る (Brennan and Clark 1996)。例えば Jeff の最初の質問中の my favorite girl(7 行目)は Jill の最初の質問中のhoney(2行目)に対応しており my favorite girl の指示対象は容易に同定され Jill がI’m good.と答えている。Jeff の続く Is
she okay?(10-11行目)内の3人称代名詞sheは辞書的用法ではなくその先行
する my favorite girl を受けた指示形式であるが、実際には2人称である Jill を指している。この代名詞 she の解釈はこの文脈での話者同士の共通理解に 基づいてのみ可能になるものであり、次に Jeff は you guys(13行目)と一般 的2人称指示形式に変化させている。
認知科学における情報処理の視点から言えば、共同理解を成立させるため には参与者達はそれぞれの抱く「状況モデル」(situational model) を提携させ る必要がある (Johnson-Laird 1983; Zwaan and Radvansky 1998)。状況モデルは 発話によって構築される状況、すなわち空間、時間、因果関係、意図、人物 と対象に関連する情報を含む多面的領域からなるメンタルモデルであるが、
会話の成立は、参与者達が、各人が構築する状況モデルに内包されるこれら の要素を共有しできるだけ類似した状況モデルを作り上げることによって達 成される。ごく単純な例を挙げれば、通行人 A が B に道を尋ねたとする。
話し手 B が心内に状況モデルを構築しその中で順に目印をたどって目的地 への道筋を説明し、聞き手Aがそれを聞きながら心内に同様の状況モデルを 構築しその中で目的地への道筋を思い描き理解する。両者の状況モデルがで きるだけ一致していれば B の説明は成功するが一致していなければ失敗す る可能性が高まる。また、上記(1)の例で言えば、Jeff の How’s my favorite girl. そして続く Is she okay? という発話を聞いて Jill が Jeff には自分以外に 好きな女性がいると想定した状況モデルを構築していったならば二人の話者 の状況モデルには食い違いが生じ会話はスムーズには進んではいないであろ うが、二人の状況モデルが共有されているために二人の間ではこのような表 現は修辞表現とも冗談とも愛情表現とも受け取られるのである。そもそも対 話は、ある場面に社会的に位置づけられた複数の話者達の「統合的認知活動」
(distributed cognition) の産物であり (Hutchins and Klausen 1997)、この統合的 認知活動を強固なものにし参与者それぞれが抱く状況モデルを提携させるこ とによって話者間の提携が促されるのである(﨑田・岡本 forthcoming: 3章 参照)。
このような状況モデルを提携させる鍵となるのが「相互作用的提携」
(interactive alignment) の処理メカニズムである (Pickering and Garrod 2004)。
相互作用的提携によって状況モデルの提携がなされ、さらに状況モデルレベ ルでの提携は他のレベルでの提携を促すため、言語の異なるレベルで語彙上 の提携、意味上の提携、統語上の提携、音韻上の提携が生じる。その結果、
会話の参与者間で語彙、意味、文法形式、音声、等のそれぞれの側面が共有 されることになる。提携がより多くのレベルでより強固に成立にすればする 程、会話の成功が得られる。
相互作用的提携が生じる主な要因としては、話すという行為と聞くという 行為(発話の生産と理解)とにおいて同じ内的表象が用いられること (Prinz 1990; Liberman and Whalen 2000)、そして話し手と聞き手との間でプライミン グ効果により内的表象が影響を与え合うこと (Branigan 2000) が挙げられる。
内的表象が共有されることによって参与者間で模倣 (imitation) が生じ、これ が内的表象の提携につながる。まず話者 A が話者 B に向けて発話を行うと、
その発話は B の言語表象を活性化させる。話すという行為と聞くという行 為には同じ表象が用いられるので、続いて B が発話を行う際にもその表象 が用いられる。A の発話が B の発話に影響を与え、両者の内的表象が提携 される。提携は状況モデルを含む全ての言語レベルにおいて生じる。語彙的 な提携はいくつもの実験によって実証されてきており、対話は語彙上の反復 に満ちている (Tannen 1989; Garrod and Clark 1993; Brennan and Clark 1996;
McLean et al. 2004)。統語的な提携も顕著に見られ、対話では話者がしばし ば相手の用いた統語構造を反復する (Levelt and Kelter 1982; Branigan et al.
2000)。さらにアクセントや速度、発音の明確さのような音韻面でも提携が 生じる (Bard et al. 2000)。その他にも意味・概念上の提携 (Markman and Makin 1998) や指示枠 (reference frame) の提携 (Watson et al. 2004) 等も見られ る。また、ある側面で提携が生じると他の面での提携を促すことが報告され ている (Garrod and Anderson 1987; Branigan et al. 2000; Cleland and Pickering 2003)。
独話の場合は単独での発話生産と理解によるシステムであり言語表現の出 現は一般的頻度に応じて生じるが、一方、対話は参与者間で結合された発話 生産と理解のシステムであり、言語表現の出現は一般的な頻度よりもその場 の提携に左右されるのである。
相互作用的提携はこのように対話の情報処理を促進する要因として重要な 機能を果たしているが、対話以外の他の社会的活動においても類似した提携 のメカニズムが機能しており、ルーティン化された社会的行動の多くは知覚 と行動を結ぶ自動的リンク (perception-behavior expressway) の作用を受けて いると考えられる (Dijksterhuis and Bargh 2001)。すなわち、あらゆる社会的 状況における様々な知覚と行動の間には直接的なリンクが形成されており、
そこに関わる情報処理は当人の意図や意識の外で行われ、6 他人の行動を知 覚することによって当人の社会的行動が自動的に促されるということにな る。このリンクが模倣行動につながり、会話において模倣は参与者達の間で 社会的表象を提携させる効果をもつ。話者間の相互作用的提携も意思とは関
係無しに同様の自動提携方式によって機能していると考えられる (Pickering
and Garrod 2004)。7 会話の参与者間で相互作用的提携が自動的に生じるため
には他者の発話に注意を払う必要があり、参与者間の協調的な関係が大きな 意味を持つ。また、提携には条件的な側面もあり、当座の目的と合わない場 合には抑制され目的と合う場合には促進される。知覚と行動を結ぶ自動的リ ンクが社会的相互行為全般を促進するのと同様に、自動提携方式は会話の言 語処理を促進しているのである。
4. 対話処理を促進する要素
共同活動である対話を成り立たせる重要な要因となるのが話者間の相互作 用的提携であることは述べてきた通りである。ここでは相互作用的提携の意 義を踏まえて、実際の対話の場面において2節で述べた対話処理に想定され る複雑さと問題点がどのようなメカニズムで克服され、その結果、会話がご く自然で簡単なものとして機能することになるのかを、情報処理的視点に加 えて談話語用論的視点から見ていく。
4.1. 第一の問題:会話の断片的・省略的性質
まず、会話内の発話は省略に満ち断片的なフレーズの集まりであり、従っ て聞き手は不足する情報を補い断片的な情報をつなぎあわせて話し手の意図 を推測する必要があるため認知的処理労力が大きいのではないか、という問 題について考えてみる。情報処理の側面から考えると、話者達は会話の特徴 とされる相互作用的提携の効果として心的表象を共有している。それぞれの 話者は一連の対話の文脈を反映した共通の心的表象に基づいて発話を行うわ けで、共有されている情報を省略しても問題はなく誤解の余地は少ないであ ろう。状況モデル、語彙、意味解釈、統語形式、とできるだけ多くのレベル にわたる心的表象が提携されていれば、聞き手にとっては省略された情報を 補うのは非常に容易なのである。このように考えれば、省略的で断片的であ るという会話の特徴が原因となって認知的処理労力に負荷がかかることには つながらない。むしろ、表象が提携されると、それぞれの話者が他の話者に よって計算処理された情報を再利用することが可能になり、参与者間の情報
処理の負担が分担された結果一人一人の話者の処理労力は軽減されることに なる。考えてみれば、我々が会話データを分析する時などのように会話内容 を状況から切り離して客観的に見ると情報をつなぎあわせる必要が生じるた め、第三者にとって会話データの分析はかなり困難な作業である。音声レベ ルで考えてみても、音声データの書き起こしの際には不明瞭な発音やスピー ドのために作業が困難を極めることは多いがそのような場合でも実際の会話 の参与者達は特に聞き返すこともなく問題なく会話が進行しているというこ とは多々ある。これは正にその場にいて相互作用的提携を成立させあらゆる レベルで表象を共有している間柄であるからであろう。また、会話の参与者 ではなく他人の会話の一部をたまたま漏れ聞いた場合やさらに電話の会話を 漏れ聞いている場合なども同じく、相互作用的提携に加わっておらず表象を 共有していない第三者にとっては会話内容の理解はやはり容易であるとは言 えない。
この問題について談話語用論的に自然な談話を分析する視点から見ると、
まず、本当に会話は不完全な形式の集まりであるか、という根源的なところ に立ち戻る必要がある。確かに日常の会話を観察すると断片的で省略が多い。
しかし我々の意識は本当に、文を完全なものとして最も処理しやすいものと して捉え、断片的なフレーズを不完全で処理労力のかかるものとして捉えて いるのであろうか。例えば擬似分裂文 (pseudo-cleft) について、(2)のような 正規の構文に対して、Collins (1994) は断片化したものは文脈または処理的な 理由から文の完結が妨げられた例外的ケースであり省略を含むものは文脈か ら推測可能という理由で省略した例外的ケースであると主張した。
(2) (a) What John did to his suit was to ruin it.
(b) What I’m doing is teaching him a lesson. (Hopper 2001: 110)
これに対してHopper (2001) は、(3)のイタリック部分に見られるように断片 化したものが擬似分裂文の本来の機能を十分に果たしていることから、擬似 分裂文はもともと断片的に生じるものであり断片化したものこそが本来の自 然な形であり、一方で、(2)のように完全な構文の形をなしているものの方
が高度に形式化された文化上の人工物であり断片を融合させ形式的で規範的 な慣習のために文法化された不自然なものであると主張している。
(3) the kind of newspapers that they want erm are are are really in a sense not er any longer er those down-market tabloids. And so it’s it’s b it’s a struggle for in what I suppose er [=a?] population of about ten million I’m not quite certain myself exactly what it is but it’s a huge population the two er main daily news er popular daily newspapers can barely sell
eight hundred. (Ibid.: 113)
自然な話し言葉に現れる断片は不完全で部分的なものにしか見えないが、む しろ、その逆が真であり、より完全で正統な構文は記述的かつ規範的な文法 のためのものでしかないというのである。正規の構文をプロトタイプとみなし、
談話における逸脱した断片的事例の源であるとみなすことは、本末転倒である。
このような話し言葉の断片化が如実に現れるもう一つの例として、主節と 従属節との関係を見てみよう。say, know, think, guess 等のコミュニケーショ ン動詞(特に発言動詞)や思考動詞を伴う節は、書き言葉ではたいてい従属 節を伴って(4)にみられるように「主節+(that)+従属節」のような複文の形 式で生じる。8
(4) (a) Stanley Watowich, a virus expert at the University of Texas Medical Branch in Galveston, says that two of Murthy’s structures were among 14 included in a virtual dengue drug-screening project run over the past year. (Nature News: Dec. 22, 2009) (b) Analysts said stocks are likely to drift as investors await comments
about the economy and interest rates from the Federal Reserve, which wraps up its last policy meeting of the year on Wednesday.
(The Seattle Times: Dec. 15, 2009) (c) Sports Fan Thinks He May Have Torn Rotator Cuff.
(The Onion Sports: Apr. 20, 2005)
話し言葉では、(5)に見られるように、公でのスピーチ(a)(b)や実験状況にお いて収録した独話データ(c)(d)等のような独話においては、この種のフレー ズはやはり主節として従属節を伴う形で頻用される。
(5) (a) Today, I say to you that the challenges we face are real.
(Obama: Inaugural address) (b) In reaffirming the greatness of our nation, we understand that
greatness is never a given. (Ibid.)
(c) Kevin said that he got the muffin because he thought it would make him feel better.
(d) The gentleman on the left did say coffee was ready.
一方、同じ話し言葉でも日常会話における対話では、同様の節がより独立性 を帯びた形で生じるケースが多く見られる。(6)では、Mom said、you know、
she goes と立て続けに主語+動詞のフレーズが続くが、文法的には最初の伝
達節 Mom said だけで十分であると見なされるところである。
(6)
LENORE: @ <@ Explains that @>.
[@@@@]
ALINA: [@@@ <@ Exactly @>.
(H) So], t- Mom said, you know,
% she goes, when can I see you.
.. Or- --
So [Mo=m] said, LENORE: [(Hx)=]
ALINA: well my next free day’s like October fourth. (Cuz)
文法的に主語+動詞の主節の形式を持つフレーズがこのように単独のイント ネーション・ユニットごとに重複して生じるのは対話に良く見られる特徴で ある。ここでは、最初の伝達節 Mom said は被伝達者、発言動詞、時制を明 示し文脈設定を行う機能を有するが、厳密には後の被伝達節を直接導入して はいない。次の you know は談話標識であると考えられる。その後被伝達節 を直接導入する形で再度伝達節が生じているが、こちらは口語特有の伝達動 詞である go を伴っている。被伝達者、発話動作、時制のいずれの表示機能 も持たない2度目の伝達節は情報の流れを示す機能を持つと考えられるが (Sakita 2002)、伝達動詞 go は間接話法に生じたり接続詞 that を伴ったりする ことがなく、被伝達節との文法的結束が伝達動詞 say よりも弱い。しかし主 節の形式を持つ複数のフレーズが重ねて用いられるこのようなケースは、話 し言葉の断片的な性質を反映しながらもただ単にそれぞれが意味なく断片的 に生じているわけではなくそれぞれが固有の機能を有していることから、繰 り返しによる冗長さや断片化による不完全さが表れているわけではない。そ もそもコミュニケーション動詞や思考動詞は元来、他動性が弱く目的語とし ての従属節を支配する力が弱いという特徴を持ち、接続詞 that がしばしば省 略される。会話ではこのような動詞の性質が自然に、そして如実に現れてい ると考えられる。一方、書き言葉でしかもよりフォーマルなジャンルにおい ては、より規範化され文法化された形で主節と従属節が形式的に結びついて いると考えられる。話し言葉のこのような特徴を顕著に示すのが、(6)の you
know のように通常文法的に複文の主節と考えられてきたフレーズが断片的
に生じ談話標識として独立しているケースである。(7)(8)は同様の例である。
(7)
ALINA: .. (TSK) I don’t know.
LENORE: .. So -- .. %You- --
.. Y- it’s o=bvious now that this guy w- --
This= was the one who stole .. ~Hector’s, I mean,
.. nobody came out and told you, (Cuz)
(8)
ALINA: (H) .. Well,
.. she wants everything on her [terms].
LENORE: [(H)]
ALINA: [2You know2].
LENORE: [2Is she vicious or dense2].
ALINA: .. She’s a dope. (Ibid.)
文法的には文の主要部として目的語を導入する機能を果たすとされるものが 会話では単独で断片化された形で頻繁に生じる。書き言葉で頻用される主
節+(that)+従属節の複文形式がプロトタイプで会話ではその主節が談話標
識化したというより、I think, I guess, you know, I mean 等はそれぞれが単独で その瞬間瞬間に談話標識として対人関係的機能等の役割を果たしている。
その上、上記で見てきた(6)〜(8)の例では、対話の流れが文として明瞭に 区切られているのではなく、むしろ、連なった音の流れはイントネーション・
ユニット (intonation unit) に分節化されていることに気づく。Chafe (1994) は、
英語ではイントネーション・ユニットは形態上平均4語程度の長さに制限さ れる傾向が強く、これは心の中で一度にどれだけの情報が完全に活性化され うるかの認知的制限を示唆していることを明らかにしている。また、新情報 は一つのイントネーション・ユニットに一つしか現れないという制約が働き、
新しい情報を導入するたびに話者は発話を細かなイントネーション・ユニッ トに区切っている(ibid.)。すなわち我々の意識は本来断片的に区切って情報 処理をするようなメカニズムを有しているのである。従って、(9a)のような 文はありえないし、その理由は我々の意識には処理できないから、というこ となのである。むしろ(9a)の内容を伝えようとすれば実際には(9b)のように 断片的に区切りながら発話される。こちらの方が自然で情報処理時の負担が
少ないのである。9
(9) (a) The motorcycle that he bought uses diesel fuel.
(b) hey . . . ya know that guy John . . . down at the poolhall . . . he bought a Harley . . . if you can believe that. (Tomasello 2003: 4)
上記で見たコミュニケーション動詞を伴う伝達話法は、このような発話の文 節化の特徴をも良く表している。伝達話法のプロトタイプと呼ばれるものに は、(10)のような直接話法と間接話法とが挙げられる。
(10) (a) Michael said, “I saw your dog on the street.”
(b) Michael said that he had seen my dog on the street.
ところがこのように文全体がまとまってひとつのイントネーション・ユニッ トに現れることは実際の対話では非常に少ない。対話では(11)のように、伝 達節が後続する被伝達節とは別のイントネーション・ユニットに分けられた り、さらに単一の従属節さえも複数のイントネーション・ユニットに分けら れたりすることが多い。
(11)
PHIL: I said,
it was a matter of, (H) you know, m- ~Brad did, .. % and #Pat did, the organization, .. I said,
.. which was the best thing.
I th- I agree with that. (Letter of Concern)
これはまさに、発話の文節化が文法概念上のまとまりよりむしろ情報の区切 れすなわち認知上のまとまりを反映していることを示唆している。(11)では 例えば4行目と5行目に人名が含まれており、ここでは単一のイントネーショ ン・ユニットに一つの新情報しか生じないという情報処理上の制約が作用し ていると考えられる。伝達話法という文単位でも被伝達節という節単位でも なく、音の流れはそれぞれの情報の質に応じて様々に文節化されうる。10 さらに、対話の特徴とされる断片化と省略化の傾向は対話統語論 (Du Bois
2001; Sakita 2006, 2008) の観点からも説明される。相互作用的提携に触発さ
れるあらゆる言語レベルでの提携は対話統語論における「響鳴」(resonance) の関係に相通じるからである。対話統語論では後の発話は先行する発話との 関係性の中で存在しているとし、この関係性を(12)〜(14)のようにダイアグ ラフ上に表された写像 (mapping) 関係によって示す。11
(12) A: cause he wanted to ask Hector to move back to editorial L: why did he want to ask Hector to move back to editorial
(Cuz)
(13) K: Kevin just don’t open your mouth again M: don’t ever open your mouth again
(Appease the Monster)
(14) W: then I’ll feel bad
K: then I’ll be really mad (Ibid.)
先行発話によって素地が提供され、続く発話に類似性を活性化させることを 響鳴と呼ぶ。響鳴は、言語要素間に、構造、単語、形態素、音素、素性、意 味、指示物、発話の力、その他あらゆるレベルで存在し、繰り返し、変形、
代入、言い換え等によって実現される。12 (12)では構文レベルに加えて多く の部分で語彙形態素上の響鳴が生じている。(13)では副詞の種類と位置の変 化があるが、構文上の響鳴と語彙形態素上の響鳴が見られる。(14)ではプラ
イミング効果による音声上の響鳴が加わり bad と mad とが韻を踏む形で生 じている。会話の参与者達が相互作用的提携を結ぶことで発話間の言語形式 同士が結びつき響鳴が生じ、また逆に言語形式同士が結びつき響鳴が生じる ことで相互作用的提携は強化される。このような参与者間の提携と言語形式 間の提携の結果として、対話の特徴として反復の多さが生じる一方で省略も また多い。(15)の会話をダイアグラフにしたものが(16)である。13
(15)
RICKIE: (H) He went all the way to the, .. you know,
into the .. trai=n, REBECCA: All the way up h[ere]?
RICKIE: [M]hm[2=2].
REBECCA: [2O2]kay.
RICKIE: And the=n,
(H) uh (Hx) he went through the door, and then he ca=me back.
... again.
REBECCA: .. Okay.
RICKIE: He went through <X th[ere X>,
REBECCA: [He went through these doors]?
RICKIE: into it unhunh], into another car.
REBECCA: Oh[=].
RICKIE: [(H)] And then he came back again, (Tell the Jury That)
(16)
1 RIC: he went all the way to the ,
2 into the .. train , +1
3 REB: ______ all the way up here ?
4 RIC: and then +2
5 he went through the door ,
6 and then he came back .
7 again .
8 he went through there , +1
9 REB: he went through these doors ?
10 RIC: ______ into it ,
11 ______ into another car .
12 and then he came back again , +1
(16)のダイアグラフ上で見ると、語彙、フレーズ、構文上の反復が多い一方で、
下線部(3、10、11行目)のように省略箇所が生じてもその写像関係が明確 であるがゆえに回復可能性が高まり処理労力に負担が生じないことが明らか である。省略に伴って断片化が生じ、all the way up here?(3行目)、into it,(10 行目)、into another car.(11行目)のような発話が産まれている。相互作用 的提携の関係にある参与者達はこのようなダイアグラフを共有して情報処理 を行っており、すなわち記号のシンタグマティックな関係の中に埋め込まれ たパラディグマティックな関係を共通認識として有しているため、写像関係 を通して省略箇所の回復は容易に行われると思われる。
4.2. 第二の問題:プランニングの難しさ
会話の予測困難さとプランニングの難しさに関しては、情報処理の観点か らすれば、会話が共同活動であり会話の参与者達が共通の目的を持っている という点が解決に役立っている (Garrod and Pickering 2004)。参与者達は発話 行為の意図に関して共通理解を有しているため、発話の連鎖の中でプランニ ングがある程度共有される。例えば、話者 A が質問をすると、その時点で A は続く話者 B の発話はそれに返答することであることを指定する。さら に、A の質問の形式は続く B の返答の形式もある程度指定する。例(17)では
A の発話がなされた時点で、その意図(質問)とその言語形式が、B の続く
発話が返答であるべきこと、しかもその形式は(b)のようなものではなく(a)
のような形式でなされるべきことを予め指示している。このため、B は続く 発話行為の種類と形式についてのプランニングをする必要はなく、その内容 のみに焦点を当てれば良いことになる。そしてこれは、後続してまた発話の ターンが回ってくる予定の A にとっては、B の発話行為の種類と形式があ る程度予測可能になるということでもある。
(17) A: What does Tricia enjoy most?
B: (a) Being called “your highness”
(b) * That she be called “your highness”
(Garrod and Pickering 2004: 9)
このような連鎖によってお互いのプランニングはより簡易なもので済み、そ の労力は随分軽減される。会話は先行話者の発話に対する反応として次々に 展開していくという側面から考えると、先行発話に用いられた音声的特徴、
語彙、文法構造などに強く影響及び制限を受けながら進むため、全く何もな い所に新たな発話をしているわけではない。話者はその場その場で新奇の内 容や表現を産み出していくわけではなく、相互作用的提携により聞き手とし て受容した先行発話内の言語構造を選択的に再利用することでも、プランニ ング不足により生じうる問題を抑えることが可能になる。
また、たとえ日和見的プランニングでも実際は重要な役割を果たしている (Birnbaum 1985)。会話の共通の目的を達成するために、参与者は会話におい て最低限可能な日和見的プランニングを駆使し、即応的にプランを立て発話 機会を認識してその機会を活用しようとする。これは会話だけに限らず全て の知的活動に共通する問題解決能力であり、プランニングと問題解決を効果 的に行うために最も重要なのは、複数考え得る目的の中からその時点で最も 適切な目的を見極めて発話機会を活用することである (Wilensky 1983)。
さらに、談話を観察すると、簡易なプランニングの時間を確保するための 様々なストラテジーが見られる。まず、先に挙げた擬似分裂文の機能の一つ として、続く発話を遅らせるという機能がある (Hopper 2001)。この典型例 として What I suppose is、what I suggest is、what happens is 等を含むものが挙
げられるが、その他にも文脈依存的なものとして(18)(19)のような例が考え られる。
(18)
FRED: [you know,
JIM: [Yeah.
.. What] -- FRED: the five] --
JIM: .. What actually happened to them, .. (H) was,
... she opened ... a franchise.
... A=nd it was,
... a franchise of doing packaging, sending m-,
uh, (Bank Products)
(19)
JIM: That- that’s such a surprise.
JOE: Yeah.
FRED: [@ .. (H) .. @= @@]
JIM: [And,
.. what- what- what we would do is],
.. they would take care of the account [2maintainance2].
FRED: [2(Hx)2]
JIM: (H) In a similar manner, (Ibid.)
(18)の What actually happened to them was や(19)の what we would do is の部分 ではともに、続く部分へ与えるフォーカスや強調の弱さに加えて、その前後 に見られる言い淀みや途切れがちな話し方から察してプランニング不足があ り、続く発話を遅らせる機能を備えていると考えられる。この他にも、対話
には文脈に合わせて what I like is、what you do is、what we would have to do is 等を含む様々な形で擬似分裂文が生じ、プランニングの間を確保する一助と なっている。
また、対話に特徴的に頻出するフィラー (filler) や談話標識にも発話を遅ら せる機能を持つものが多い。この例として、you know、um、I mean、sort of 等が挙げられる。特に、(20)(21)に見られるようにこれらのフィラーや談話 標識が重なって生じるケースではしばしばこの機能が見られる。
(20)
FRED: (H) They’ll fall back under the forty percent, But right now they’re over the forty,
because we st- can’t show any income from the daycare.
... (H) Um, ... but, ... you know, it it -- ... you know,
I feel comfortable that it’s there, (Ibid.)
(21)
SHARON: That’s very probable, you know,
but, ... um, ... I’ve -- No,
.. cause I’ve received notes back.
WARREN: Grapenuts. (Raging Bureaucracy)
(20)(21)に共通してみられるのは、続く発話がスムーズに出てこない様子、
その際に話者が続く意味ある発話を産み出すまでに談話標識やフィラーを重 ねて発言権を保持している様子、考えがまとまらない際にこれらを連用しそ の後意味ある発話がなされていること、である。(20)では、スムーズに流れ ていた発話の最中に途切れが生じ、まず Um と but、そして it it -- という発 話を続けようとする試みをはさんで you know の連用が見られ、そしてつい に I feel comfortable that it’s there, と再度発話が流れ始めている。(21)では Sharon は you know, but, um, と考えがまとまらない中で I’ve -- という発話を まとめようとする試みがなされ、その後に自分の中でいったんまとまりかけ たアイディアを No と否定しそして続く発話へと進んでいっている。両方の 例において、発話の流れがとまってしまい話者が続く発話をプランニングす る際に、その間を埋めるためにフィラーや談話標識が生じている。またその 合間に生じた it it -- や I’ve -- のようなイントネーション・ユニットの途切れ が、簡易なプランニングが進行する中でなされた発話の試みであることを良 く示している。
さらに、前節で触れた対話の反復性も同様に、発話を遅らせることでプラ ンニングの間を確保するのに役立つことが多い。例(22)で斜線部に注目して 見てみよう。
(22)
RICKIE: (H) well he got in another= .. door.
REBECCA: O[kay].
RICKIE: [An]d he came through here.
REBECCA: Okay.
.. Alright.
.. So he came through he[re,
RICKIE: [Mhm].
REBECCA: when he] came through here, .. (H) did he look at you at all?
RICKIE: Mhm. (Tell the Jury That)
ここでは Rickie の2番目の発話 (And he came through here.) を受けて、
Rebecca は So he came through here, そして再度 when he came through here, と 繰り返して次の質問に移っている。前節で触れた回復可能な情報を省略する という対話の特徴に相反して、このように冗長になりながらも先行部分を反 復することで発言権を保持しながら発話を遅らせるというのもまた、対話に 頻繁に見られる特徴である。同じ語句を反復しながら次の発話への即興のプ ランニングの間が確保される。
以上、対話の特徴として、簡易プランニングの間を確保する工夫が多くな されていることを示してきたが、最後に、プランニングの難しさを克服する さらにもう一つの重要な要因を指摘しておく。対話においては最小限のプラ ンニングで十分である、という点である。この基盤となるのが、前節で紹介 した対話統語論の響鳴の概念である。対話では、相互作用的提携に伴って状 況モデルの提携が生じ、そして語彙的な提携、統語的な提携、音韻面での提 携とあらゆる言語レベルで提携が生じるということは前に述べた。そしてこ のような提携と密接に関連しているのが響鳴である。それぞれの言語レベル での響鳴の例を吟味して行くと、話者達がスピーディーな即興の会話に従事 しながら、実は驚くべき程にパターンや構造の枠組みに沿って話していると いうことがわかる。単純な響鳴の例である(12)〜(14)を振り返ってみよう。
(23) A: cause he wanted to ask Hector to move back to editorial L: why did he want to ask Hector to move back to editorial (=12)
(24) K: Kevin just don’t open your mouth again
M: don’t ever open your mouth again (=13)
(25) W: then I’ll feel bad
K: then I’ll be really mad (=14)
例えば(23)では二番目の話者は最初の話者の統語構造をベースにして疑問文
化しており、語彙上、形態素上、同様のものを利用している。しかし、だか らといって全く同じ内容を伝達しているわけではない。最初の話者は理由を 述べる言語行為、次の話者は理由を尋ねる言語行為を行っており、後者は先 行話者の用いた言語事象を自身の新たな発話の中へと再文脈化して用いてい る。実際には後続の話者はその言語行為を行うにあたって、先行するものと 同じ語彙や統語構造を使う必要は全くなく、例えば want でなく hope、ask でなく request、move back でなく return というような別な語彙を用いる自由 を有する。また、want to や ask O to のような句を用いる必要もない。それに もかかわらず先行発話との間に響鳴を活性化させることを選択している。実 際には、発話内容自体も、後続の話者は先行話者の作った文脈に沿うのでは なく全く新しい発話を産み出す自由を持つが、それにもかかわらず(24)に見 られるように類似した命令文を発している。(25)のように意味のつながりの ない語彙間であってもプライミングにより音声上の響鳴が活性化されてお り、後続の話者は angry その他の語彙を用いても良いところだが結果的に響 鳴により mad を選択している。同様の点は、長めの対話のやりとりを表し た(16)のダイアグラフ上でも見られた。そこでは、言語事象が対話の流れの 中で繰り返し再文脈化されながら生じ、響鳴を活性化させていた。
以上のように、対話においては話者一人一人が独自に十分なプランニング を行わなくても、対話が展開していく中で自然な流れに沿って響鳴を活性化 させることで先行する話者の提供する統語スキーマに沿って発話を行えば良 いし、プライミングに素直に反応すれば良いし、類似した語彙や形態素や音 声を用いれば良いのである。対話には簡易なプランニングの間を確保する工 夫がなされている一方で、スピーディーな即興のやり取りの中でたとえプラ ンニングがなされなくても対話が進行するようなメカニズムもまた兼ね備 わっているのである。これはまさに対話が話者間の相互作用的提携を基盤に しているからである。
4.3. 第三の問題:内容と形式の選択の適切性
話者は発話内容と形式をその時その時の発話時点で聞き手にとって適切な ものにしなければならないという問題が想定された。これに関しては、会話
が進行する中で提携によって話者達は暗黙の了解事項として共通のグラウン ドを作り上げており、これを確固たるものとして共有していればお互いの心 的状況を推測しながら適切なものを選ぶのにかかる労力はそれ程まで大きく はないであろう。また、自然言語処理を支える中心的な核となるのは記憶と 推論であり、会話の内容や行動を説明するには記憶の内容と機能が大きな役 割を果たしている (Schank 1977)。会話の流れの中で的確な反応をして会話 の進行に貢献するには、相手の発話を正確に記憶しそれを理解するための推 論的処理が大きく影響を与えているといわれている (Birnbaum et al. 1980)。
我々の自然な記憶処理システムが、話者が矛盾のない一貫性のある応答をす ることを支えているのである。
この問題は談話語用論的な立場からは情報の新旧と共有度の視点で捉える ことができる。Chafe (1994) によれば、情報は、意識の中心にある完全な活 性 (active) 状態、意識の周辺にある半活性 (semi-active) 状態、全く意識外に ある不活性 (inactive) 状態の3つの認知状態にある。話者はこのようなその 時その時の発話時点での情報の活性化の度合いに応じて言語形式を変化させ る。すなわち、活性状態にある情報は旧 (given) 情報として言語化され、半 活性状態にある情報は入手可能 (accessible) 情報として言語化され、不活性 状態にある情報は新 (new) 情報として言語化される。ただし、これは聞き手 にとっての情報の活性化の状態であって、話し手は聞き手の意識の中で特定 の情報がどのような活性化状態にあるかを判断して情報を言語化するという ことである。聞き手の意識の中での情報の活性化状態の判断に関しては、す でに見てきた通り、対話という統合的認知活動においては参与者間でグラウ ンドの共有と相互作用的提携という密接な関係が築かれているため状況モデ ルの提携と心的表象の共有がなされており、一般的に難しいことではない。14 情報の言語化に関しては、例えば新情報はしばしばアクセントのある語彙 名詞句 (full noun phrase) として言語化され、旧情報はアクセントの弱い代名 詞や日本語の主語が省略されるようなゼロ形式 (zero form) として言語化さ れるというように、それぞれの情報の活性化状態に応じて適切な指示形式が 決定される。例えば(26)の B の発話に注目すると、最初に stickers は語彙名 詞句で表され第一アクセントを伴い新情報として言語化されているが、その
後は代名詞 it で表されアクセントはおかれず旧情報として言語化されてい る。聞き手の意識の中でその情報の活性化状態が変化したのに応じて言語化 の形式が変化している。また、(27)の日本語例では一人称主語は省略されて いる。
(26) A: Well did you give candy to the ones that got <L2 exelentes L2>?
B: No, I gàve them stíckers. They wànt it on their hánds.
(Raging Bureaucracy)15 (27) A: Ø 昨日 動物園に行ったんだよ。
B: わー、いいなぁ!
こ の よ う な 適 切 な 言 語 形 式 の 選 択 は、 情 報 の 共 有 度 に 基 づ く 定 性 (definiteness) ないしは同定可能性 (identifiability) の観点からも規定される (Chafe 1998: 107)。会話の参与者間で共有されている多くの指示物の中で聞 き手が指示対象を同定できるような指示物は、それとわかるような形で言語 化される。同定可能な指示物は代名詞で表されたり定冠詞が用いられたりと、
会話の進行の中で同定可能性が変化するのに応じて指示形式も変化する。
(28)の例では、単一の指示物に対して、語彙名詞句、代名詞、不定冠詞、定 冠詞の使用に変化が生じている。
(28)
REBECCA: and then when .. a man would walk by, he’d sit up,
RICKIE: [Yeah].
REBECCA: [(H)] And, .. you know, do nothing,
and then once the man was through the doors,
then he’d go back X X doing it. (Tell the Jury That)
始めて言及される際の a man は同定不可能なため、不定冠詞の a を伴い語彙 名詞句が用いられている。これは続くイントネーション・ユニットでそのま ま旧情報として扱われている間は同定可能であるため代名詞の he で表され ている。が、しばらく言及されないと a man は半活性的な意識の方へ移行し、
入手可能な情報として待機することになる。その際に再度言及されると、語 彙名詞句ではあるが定冠詞の the を伴って the man の形で表現される。そし て直後のイントネーション・ユニットではそのまま旧情報として扱われまた 代名詞の he で表される。このように、情報が言語化される際には活性化状 態に密接に関わりながら同定可能性に応じて言語形式が決定される。このよ うな同定可能性の判断は、グラウンドの共有、相互作用的提携に基づく状況 モデルの提携と心的表象の共有といった関係によって固く支えられている。
ところが、会話の流れの中では時折、スムーズに言語形式の選択や指示対 象の同定がなされない場合もある。そのような場合には単にコミュニケー ションが失敗し誤解が生じるのであろうか。(29)は、代名詞に複数の指示対 象が想定される例である。
(29)
PHIL: we met with another person by the name of #Bill #Ashby.
BRAD: ... Hm=.
... [Yeah <X I know X>],
PHIL: [(H)] #Jack and I and #Jim .. met with him.
BRAD: .. Oh, you mean his,
.. #Jack’s [financial] friend that -- PHIL: [#Jack’s friend].
BRAD: .. is retired.
PHIL: Yeah.
.. [He’s a] banker,
BRAD: [Yeah]. (Letter of Concern)
Phil が最初に Bill Ashby という人物を新規に導入し Brad が Yeah I know, と いったん確認している。Phil が次に前の発話をパラフレーズし、we を Jack and I and Jim と詳細化、another person by the name of Bill Ashby を him と代名 詞化すると、Brad は新たに提示された情報に関連づけて Bill Ashby という人 物を定義確認しようとしている。その際、Oh, you mean his, でいったん躊躇 している。Phil の発話の中に his の指示対象となりうる三人称単数男性が2 人(厳密には3人)いるからである。Brad は即座に his を Jack’s . . . と言い 直している。その躊躇に反応して Phil も即、Jack’s . . . と明確化している。
そして最後に双方ともに Yeah. と確認終了している。ここで観察されるのは、
対象の同定がなされなかった場合でも、話者同士がそれに気づき協調関係の 中で相互に情報確認交渉がなされているということである。独話であれば話 し手と聞き手の間の相互交渉がないため、指示対象が同定されず話し手がそ れに気づかなければあいまいなまま話が進行してしまうところであろうが、
一方、対話の場合にはしばしば、このように話者間の相互作用的提携により 即座に問題が共有され解決される。
対話においては、人間特有の記憶と推論のシステムに加えて、相互作用的 提携を基盤にした情報の新旧や情報の共有度の判断に基づいて、話者は無理 なくその時その時の発話時点で聞き手にとって適切な発話内容と形式を選択 していく。その上、たとえいったん選択されたものが適切性を欠いた場合で も、自然に話者間の交渉により適切なものへと修正され確認されていくので ある。
4.4. 第四の問題:会話のインターフェース
会話における様々なインターフェースの問題に関して、まず作業交替の難 しさが指摘された。参与者達は共通のグラウンド(話し手、聞き手、発話の 時間と場所等、発話事態をとりまく状況)を基盤にして相互作用的提携を結 んでいるため、発話の生産と理解(話すことと聞くこと)は相互依存関係に ある。よって、参与者達は発話の際に異なる言語レベルで同一の計算処理を 多く用いる傾向がある。会話が進めば進む程全く同一のルーティン化 (routinization) された計算処理をすることになる。従って、その特定の会話の
中で固定化された形式と解釈を持つ固定表現が生まれそして次第に増え、ま るで決まり文句やイディオム同様に用いられる (Charniak 1993)。しかしこれ らは実際はその会話の中だけで用いられているのである。16 対話における 相互作用的提携に基づくこのようなルーティン化は発話の生産プロセスを大 いに単純化し (Kuiper 1996)、発話理解におけるあいまいさの問題を解決する のにも役立っている。実際、対話に用いられる言語は非常に反復的である (Garrod 2005)。17
また、会話にはインターフェースの問題を解消するための様々な行為や言 語表現からなるストラテジーがあり、これらがスムーズな情報処理の一助と なっている。その多くは、以前は単なる言い淀み、言い間違い、無意味語、
錯誤の類いとされ言語運用のマイナスの側面としてとらえられていたが、昨 今は談話分析や会話分析の研究が進み、これらには、会話の構造に関わる明 確な対人関係機能を有し会話の進行を助けるものが多いことが明らかにさ れ、会話のストラテジーとしてのそのプラスの側面が強調されてきている。
例えば、主な会話のストラテジーとして、あいづち (back channel)、フィラー (filler)、 言 い 淀 み (hesitation)、 談 話 標 識 (discourse marker)、 遮 り 行 為 (interruption)、発話の重複 (overlap)、スモールトーク (small talk) が挙げられ る(林 2008)。それぞれが複数の機能を併せ持つが、ここでは特に会話のイン ターフェースの問題に関わるものを実際の対話例の中で見てみよう。
あいづち (例: uh-huh, mhm) の対人関係機能には、(Ⅰ)会話の進行を促進さ せる機能、(Ⅱ)相手に対する理解や同意を示す機能、(Ⅲ)協調的な雰囲気を 作り出す機能が挙げられる。まず(Ⅰ)のあいづちが会話の進行を促進させる 用法として、(30)では、Ramon の話の途中で Montoyo のあいづち Mhm? が上 昇調イントネーションを伴って相手の話を促すのに用いられている。
(30)
RAMON: they don’t think they’re being represented, .. they don’t,
... um,
... see any like .. direct results for them,
... you know, coming out of like, MONTOYO: Mhm?
RAMON: the representation, .. the government,
.. and who’s in control. (American Democracy)
(Ⅱ)の例として、まず(31)ではあいづちで相手の発話に対する理解を示して いる。Montoyo の質問に対して Carolyn が Possibly, yeah, と返答し、これに 対する Montoyo の Mhm. は続く Okay. と共に、三部構成のやりとり(A:開始+
B:返答+A:フォローアップ)のフォローアップ (Sakita 2002) の部分になっ
ている。自分の質問に対する相手の返答に即反応して理解を示し、相手の返 答に対する承認 (Tsui 1994) と受け入れ (Davidson 1984) を示している。一方 (32)は、あいづちによる同意と語彙的同意とが連続して生じている例である。
Montoyo が Would you agree with that? と尋ねると同時に Ramon が自分の意見 を述べているが、Maria の Mhm. は Montoyo の同意するかという問いかけに 対するあいづちであり下降調イントネーションで単純な同意を表している。
続く Maria の Sure. は Ramon の意見に対する反応であり、同意をより明確に 示している。
(31)
MONTOYO: ... Was there a sense of betrayal?
CAROLYN: ... Possibly, yeah, MONTOYO: Mhm.
CAROLYN: X
MONTOYO: Okay. (American Democracy)
(32)
MONTOYO: ... That’s --
.. [Would you agree with that]?
RAMON: [A lot of people], MARIA: ... Mhm.
RAMON: .. they vote their [pocketbook].
MARIA: [Sure]. (Ibid.)
(Ⅲ)の、あいづちが協調的な雰囲気をもたらす様子が観察される例として (33)を見てみよう。ここでは最初の Marilyn の発話内の伝達部分に同調して Roy が被伝達部を拡張する形で付け加え、Marilyn がさらにそれに同調して 発話が進行している。これは伝達に聞き手が参与する、複数話者による直接 話法の協調的構築の用法であるが (Sakita 2002)、もう一人の聞き手である
Pete は直接伝達に参加してはいないがそばで Right と Unhunh とあいづちを
打ち、引き続きこれらを交互に何度も繰り返している。こうすることで Pete は協調的な雰囲気を作り出しているのであり、同時に(I)で挙げた会話の進行 を促進させる役割も果たしている。
(33)
MARILYN: (H) (TSK) And says, .. (TSK) <VOX oh=.
.. The fish are running,
don’t you want to come up here, and blah blah [blah b- VOX> --
ROY: [And pay me zil][2lions2] of [3dollars3] [4to4], MARILYN: You know].
PETE: [2Right2].
MARILYN: [3Pay me3],
PETE: [3Unhunh3].
MARILYN: [4pay me4],
you know,
eighty dollars a day to run my [boat].
PETE: [Right].
MARILYN: ... Catch fabulous salmon.
... [And they have it] canned.
PETE: [Unhunh].
MARILYN: .. You know, they eat it,
... when they’re up there,
.. and [I guess they] have some frozen,
PETE: [Right].
MARILYN: but they have it canned and,
PETE: Unhunh. (Conceptual Pesticides)
また、以前は単なる言い淀みや無意味語として受け取られがちであった フィラー(例: um, er)にも、対話内での対人関係機能が観察される。これ らは生起のタイミングによって、(Ⅰ)ターン開始時に発話権を獲得する機能、
(Ⅱ)ターン途中に発話権を維持する機能、(Ⅲ)ターン終結時に発話権を譲渡 する機能に分けられる。まず、(34)では(Ⅰ)で挙げたようにターン開始時に 発話権を獲得するのにフィラーが用いられている。Pete が釣り場についての 質問をしているがその問いかけを聞き終わらないうちに Marilyn はターンを 開始し返答を始めようとしている。まず Pete と重複しながら Marilyn は Um=, と口をはさみ I think, と答えを述べようとしているが、Pete がさらに発 話を続けているため再度 Pete と重複しながら um, と口をはさみ、ようやく 自分の発話権を獲得し、まとまった返答をしている。
(34)
PETE: Where were they fishing.
.. Like in lakes, or,
MARILYN: .. [Um=, PETE: [rivers,
MARILYN: I think, PETE: or what].
MARILYN: um],
at the mouth of rivers,
.. on the coast of Oregon. (Ibid.)
(Ⅱ)の、フィラーがターン途中に発話権を維持する機能に関しては、対話の 中で自分の発話の途中で他の参与者が口をはさむのを遮ったり、または自分 が考えている最中にまだ自分のターンが継続することを表明し発話権を維持 したりするようなケースが多く見られる。例えば(35)では、Alina の発話の 途中で Lenore が笑い始めそれに一瞬さえぎられたものの、フィラー um をは さんで Alina は発話を続けている。
(35)
ALINA: But #Keith and #Sally, those two b=- .. drips,
(H) the one that told me I was shoveling my food, and I didn’t need a fork,
LENORE: @[@@@ @@@]
ALINA: [um,
@@@]
(H) They’re friends with this other friend of theirs,
and they’re trying to % -- (Cuz)
(Ⅲ)のターン終結時に発話権を譲渡するフィラーの機能としては(36)の例が 挙げられる。Pete が But no salmon in your stockings this year. という発話の後 に上昇調イントネーションで Hunh? と付け加えている。発話内容自体は疑 問文ではないが、続く Hunh? で疑問の意を表し他者の反応を促している。
このフィラーは Pete のターンの終結を明示し他者に発話権を譲渡する機能 を果たしている。実際 Pete はここで発話を止め、続いて Roy と Marilyn が
重複しながらターンを開始し発話権を折衝しており、その結果 Roy は発話 権を獲得できずそのターンは途中で途切れ (Spend their va- --)、Marilyn が発 話権を獲得している。
(36)
MARILYN: ... It’s ... nice for them.
They have some recreation with it.
PETE: ... But no salmon in your stockings this year.
Hunh?
ROY: Spend [their va-] -- MARILYN: [Well,
they] (Hx)= have already done it (Hx).
.. [2So2].
PETE: [2Oh2]. (Conceptual Pesticides)
また、その他フィラーに類似するものに言い淀みがある。ためらいの現象と 考えられてきた言い淀みには様々な意味合いがあるが、発話権に関わる機能 を併せ持つことがわかっている (Trillo 1994)。
このように、複数の参与者が介する対話においては常に発話権の交渉や話 者交替をスムーズに行うことが大変重要になる。対話において発話権交渉と 話者交替を行う上でしばしば生じるもう一つの特徴として、同時発話
(simultaneous talk) が挙げられる。同時発話には、(Ⅰ)発話権を無理に奪う遮
り行為と、18 (Ⅱ)話者交替を協調的に行おうとする際に生じる発話の重複が ある。これまでに見てきた対話例を振り返ってみると、多くの同時発話が含 まれていた。例えば(18)や(32)に生じている同時発話は(Ⅰ)の遮り行為であっ た。遮り行為とは、現在の話者の発話の最中に聞き手が重複を承知の上で自 分の発話を開始し、現在の話者の発話を中断させて自分が発話権を得て話し 続けることである。(18)にもう少し先行文脈を加えた(37)を見てみよう。
Fred が長めのターンを得て発話を継続していたところ、Joeはあいづちを打っ
ているだけであるが、Jim は Fred と重複して Yeah. .. What -- と自分のターン
を開始している。Fred の発話と重複したためいったん途切れたものの、Jim は What から言い直して再度 What actually happened to them, . . . と続けてい る。一方、Fred の発話は途切れたままである。結局 Jim がターンを奪ってそ の後話し続けている。このように対話ではしばしば、同時発話により、相手 の発話内容が完結しないまま中断させ発話権を無理に奪うという形での話者 交替が見られる。ただし、無理に奪うからと言っても話者間の協調的関係が 損なわれるわけではなく、(33)で見たような協調的雰囲気の中にもこのよう な話者交替は自然と生じており、スピーディーな会話の盛り上がりの中では 遮り行為はめずらしくない。
(37)
FRED: .. I assumed it would’ve been, like eighty --
uh ninety-two or [something],
JOE: [Mhm].
FRED: [2you know, JIM: [2Yeah.
.. What2] -- FRED: the five2] --
JIM: .. What actually happened to them, .. (H) was,
... she opened ... a franchise. (Bank Products)
上記の例では、相手の発話の途中であるのを知りながら別の話者が話し始め ているが、一方、ターン移行の適切な場 (TRP=transition relevant place) で話 し始めながら発話が重なる場合がある。この後者の場合が(Ⅱ)の話者交替を 協調的に行おうとする際に生じる発話の重複である。(34)で、フィラーには ターン開始時に発話権を獲得する機能があることを示した。(38)でこれを振 り返ってみると、最初の Pete の発話 Where were they fishing. は疑問文であり 相手にターンを譲渡する意図が統語的に明示されている。しかしこの疑問文