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 本論文では、対話の性質と処理のメカニズムについて探求した。会話の省 略的・断片的性質、プランニングの難しさ、内容と形式の選択の問題、様々 なインターフェースの問題、という情報処理上想定されるつの難点を挙げ、

しかし実際には我々はこれらの問題をほとんど意識することなく自然に日常 会話に従事しているのはなぜかという疑問に答えることを目的とした。対話 の言語活動の特徴を考慮し、上記点のそれぞれについて情報処理的視点と 談話語用論的視点との両アプローチから考察を行った。このような研究の意 義は、特に単視眼的になりがちな研究動向に対し新たな方向性を示唆するこ とであり、これまで情報処理的アプローチにより実験を中心にして捉えられ て来た問題を、談話語用論の分野で蓄積されて来た知見を併せて論じた。

 まず第一に、会話の省略・断片化という問題に関して、情報処理の側面か らは、相互作用的提携に基づいて状況モデルや言語レベルの提携がなされる ため、省略や断片化が聞き手の認知的処理労力に負荷をかけることはなく、

むしろ、参与者間で情報処理の負担が分担され処理労力が軽減されることを 指摘した。一方、談話語用論的には、まず、日常会話は断片的で不完全なも のに見えるが、実はそれこそが自然な言語の姿であることを指摘した。我々 の意識は認知的制限に応じて情報を断片的に区切って処理するようなメカニ ズムを有しており、それが最も自然で情報処理時の負担が少ないのである。

また、対話には響鳴を通して反復が多く生じる一方で言語形式の提携の結果 として省略と断片化が多いが、参与者間でのダイアグラフの共有と発話間の

明確な写像関係のために省略の回復可能性が高く処理労力の負担が解消され ることを指摘した。第二に、プランニングの難しさを解決しているのは、情 報処理の観点からすれば、共同活動においてプランニングが共有され発話形 式と種類が予測可能になりプランニング労力が軽減されること、しかも最低 限の日和見的プランニングでも重要な役割を果たすことを挙げた。一方、談 話語用論的には、対話には後続発話を遅らせてプランニングの時間を確保す るための様々なストラテジーがあることを指摘した。第三に内容と形式の選 択の問題が想定されたが、情報処理的には、グラウンドと心的表象を共有す ることで聞き手の心的状況を推測し適切なものを選択する労力が抑えられる 上、記憶と推論のシステムにより一貫性ある応答が可能であることが解決に 役立っている。一方、談話語用論的な立場からはこの問題を情報の新旧と共 有度の視点で捉えた。参与者間の密接な関係を基盤にして、話者は聞き手の 意識内での情報の活性化状態を推測し、情報の新旧や共有度の判断に基づい て無理なく聞き手にとって適切な発話内容と形式を選択することができるこ とを述べた。第四の会話のインターフェースの問題に対しては、情報処理の 視点からは、対話における相互作用的提携に基づくルーティン化が発話の生 産と理解の計算処理プロセスを単純かつ一体化し発話理解を促すことを挙げ た。談話語用論の視点からは、自然の会話には、話者交替、作業交替、複数 同時作業、発話促進などに関わるインターフェースの問題を解消するための 様々なストラテジーがあり、これらが話者の心的負担を軽減し情報処理を支 え会話をスムーズに進めるのを助けていることを挙げた。以上のように、対 話の情報処理を取り巻く問題を情報処理と談話語用論の両アプローチから一 つ一つ検証してみると、あらゆる側面で対話を支えるメカニズムが機能して いることが明らかになった。

 我々人間は二足歩行を当たり前のように自然に行っているが、生物構造学 的な見地からすると、直立二足歩行には生体上、骨格上、筋肉上、エネルギー 効率上、他の様々な厳しい条件をクリアする必要がある。それでもなぜ人間 には二足歩行が容易なのか、と考えると、それは我々が進化の中で四足歩行 より二足歩行に向くように形作られてきたからである。対話も同様に、我々 は当たり前に自然に行っているものの、情報処理的な見地からすれば対話に

は複雑高度な処理能力が必要とされる。それなのになぜ我々には対話が比較 的容易なのであろうか?それは我々人間が独話より対話に向くように作られ ているということであろう。そしてまた一方で、言語が我々の相互作用のシ ステムに合うように作られているということでもあろう。全ての言語は対話 の相互作用の中にこそ存在する双方向的でダイナミックな産物であるとした 言語の対話性 (Voloshinov [1929]1986; Bakhtin [1952-53]1986) の見地からして も、我々の言語は本来、対話として機能するものであり、対話は我々にとっ て最も重要かつ自然な言語活動なのである。人間が最初にことばを学ぶのは 対話を通じてであることから考えてももっともなことである。

1 会話は一般的に、日常生活において意思疎通を図ったり用を足したりする話の やりとりである。通常、対話 (dialogue) は会話と同義で用いられることが多いが、

特に、複数の話者が向かい合って話すことまたはその話を指す。これに対して独 話 (monologue) は他者を不動態化し (passivate) 沈黙化させる側面が大きい (Bråten 1988)。厳密に言えば会話には一人が長く話し続けるという独話的な部分が含ま れることもあることから、特に二人以上の参与者が発話を交わしあう部分が対話 であるとも言える。また、より社会的相互行為に焦点をおく場合の呼称として「会 話」、より言語学的な面に焦点をおく場合の呼称として「対話」が用いられる傾 向がある。一般的な呼称として「会話」を用い、「独話」と相対するものとして 特に「対話」を用いることも多い。なお、Bakhtin ([1952-53]1986) によれば独話 も聞き手を想定しているわけであるので、対話から派生したものである。

2 もちろん中には会話が苦手だと感じている人も多いのは事実であるが、ここで は会話の上手さ下手さを問題にしているわけではなく、独話と比較して、幼児期 から誰もが自然に身につけそして無意識に自然に日常会話に従事しているという 側面に焦点を当てている。

3 Sellen (1995) によれば、話者は平均して前の話者が話し終わる0.5秒前に話し始 める。相手の発話終了後0.5秒後であればやや容易であろうが、実際はそうでは なく発話終了を予測してその0.5秒前に話し始めることが多いということである。

4 本論文中の会話例に用いられているトランスクリプション記号は以下の通りで ある。本文中の議論に直接関係しない詳細な部分(雑音や笑い声等)が省略また は簡素化されていることがある。

-- イントネーション・ユニットの途切れ

[ ] 複数の参与者による音声の重なり

. 音調の輪郭が下降調 , 音調の輪郭が平坦調

? 音調の輪郭が上昇調

= 分節の引き伸ばし

… 0.1秒以上の小休止

.. 0.1秒未満の小休止

(H) 吸気音

(Hx) 呼気音

(TSK) 吸着音(舌打ち音)

% 声門閉鎖音

@ 笑い声

X 聞き取り困難な音節

<X X> 聞き取り困難な部分

<L2 L2> 外国語

<@ @> 笑い声

<VOX VOX > 他人の声質

#Name 匿名記載

5 例 文 の う ち “American Democracy” “Appease the Monster” “Bank Products”

“Conceptual Pesticides” “Cuz” “Hey Cutie-Pie” “Letter of Concern” “Raging Bureaucracy” “Tell the Jury That” は Santa Barbara Corpus of Spoken American English (Du Bois et al. 2000; Du Bois et al. 2003)から採用した。

6 Bargh et al. (1996) の、自動化された (automatized) 情報処理は環境への有益な適 応であるという考えは、James (1890) の情報処理の習慣化 (habituation) の概念に 影響を受けている。

7 Garrod and Clark (1993) は、幼い子供にとって相互作用的提携は自動的で基礎的 なものとして生じ、提携の抑制こそが難しいことを示している。

8 もちろん書き言葉にもグレイディエンスがみられ、正式文書では形式張った複 文が多い一方で、親しい間柄での手紙や e-mail による私信ともなると接続詞 that の出現が極端に減りくだけた形式が増えるなどの特徴が見て取れる。

9 イントネーション・ユニットと認知的制限に関して、詳しくは﨑田・岡本

(forthcoming) の第章を参照。

10 伝達話法における伝達節と被伝達節との分離、被伝達節内部の細分化に関して は、情報の新旧以外にも、情報の流れ (Sakita 2002) 他様々な要因が作用している と考えられるが、本論文では文節化の事実に焦点を当てており、それ以外の要因 については今後の研究の課題である。

11 ダイアグラフは発話間の縦列の写像関係を明示するものであり、その書き方に は表形式や、品詞の詳細を明示したもの等いくつかの種類があるが、ここでは一 番単純な例を挙げる。

12 あらゆる言語レベルで生じる響鳴の具体例は、﨑田・岡本 (forthcoming) の第

章を参照。

13 ダイアグラフ中の+の記号に続く数字は、対話をダイアグラフに表示する際に 直前のイントネーション・ユニットとの間に省略されたイントネーション・ユニッ トの数を表している。また、ダイアグラフ(16)ではあいづちや間投詞等が省略さ れている。

14 﨑田・岡本(forthcoming 第章)では、幼児の発話など、話し手が聞き手の心

内での情報の活性化状態に注意を払わず対話を進めた結果、誤解が生じる例外的 ケースを紹介している。そのようなケースは参与者間のグラウンドの共有や状況 モデルの提携なしに発話が行われた場合である。

15 アクセント記号は筆者。

16 ルーティン化にはその会話の場での提携による活性化に基づく短期的なものも あれば、中には長期記憶に根付いていきその言語コミュニティーでの言語変化に 結びつくものもある。

17 Garrod (2005) は、London-Lund 会話コーパスで生じる単語の70%は繰り返し生じ るものの組み合わせによることを示している。

18 ただし、遮り行為にも相手の発話への熱心な関わりゆえのポジティブな面と、

話者間のパワー関係の差に由来するネガティブな面が指摘されている (e.g., Tannen 1994; Leman et al. 2005; 林2008)。

参考文献

Bakhtin, M.M. [1952-53]1986. “The problem of speech genres.” In C. Emerson and M.

Holquist (eds.), Speech Genres and Other Late Essays. Austin: University of Texas Press, 60-102.

Bard, E.G., Anderson, A.H., Sotillo, C., Aylett, M., Doherty-Sneddon, G., and Newlands, A.

2000. “Controlling the intelligibility of referring expressions in dialogue.” Journal of Memory and Language 42(1): 1-22.

Bargh, J.A., Chen, M., and Burrows, L. 1996. “Automaticity of social behavior: Direct effects of trait construct and stereotype priming on action.” Journal of Personality and Social Psychology 71: 230-244.

Birnbaum, Lawrence. 1985. “A short note on opportunistic planning and memory in

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