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学位論文の要旨

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Academic year: 2021

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カトウ トシフミ 氏 名 加藤 敏文 学 位 の 種 類 博士(工学)

学 位 記 番 号 富理工博甲第

78

号 学位授与年月日 平成

27

3

24

日 専 攻 名 ナノ新機能物質科学専攻

学位授与の要件 富山大学学位規則第

3

条第

3

項該当

学 位 論 文 題 目

粒子状吸着剤含有焼結体ならびに繊維状吸着剤の開発 とそれらの固相抽出法への応用に関する研究

論 文 審 査 委 員

(主査) 佐伯 淳 上田 晃

倉 光 英 樹

加 賀 谷 重 浩

(2)

学位論 文の要旨

学 位 論 文 題 目

粒 子 状 吸 着 剤 含 有 焼 結 体 な ら び に 繊 維 状 吸 着 剤 の 開 発 とそれ ら の 固 相 抽 出 法 への応 用 に関 する研 究

Study on the development of particulate adsorbent-containing sintered material and fibrous adsorbent and their application to solid-phase extraction

申 請 者 名 加 藤 敏 文 印

世 話 専 攻 ナノ新 機 能 物 質 科 学

主 指 導 教 員 加 賀 谷 重 浩 印

要 旨

我 々 の 生 活 は 化 学 物 質 に 支 え ら れ て い る と い っ て も 過 言 で は な い 。 国 内 で 流 通 し て い る 化 学 物 質 は 5 万 種 類 と も い わ れ , こ れ ら の 多 く は 大 気 ・ 水 ・ 土 壌 な ど を 経 由 し て 人 の 健 康 や 生 態 系 に 有 害 な 影 響 を 及 ぼ す 可 能 性 を 秘 め て い る 。 化 学 物 質 の 中 で も カ ド ミ ウ ム ,鉛 な ど の 有 害 元 素 は 環 境 中 で 分 解 さ れ る こ と は な く , そ れ ら 元 素 の 動 態 を 把 握 す る こ と は 重 要 で あ る 。 ま た 食 品 に 含 ま れ る 有 害 性 を 示 す 微 量 元 素 の 定 量 も 重 要 視 さ れ て い る 。 国 際 食 品 規 格 委 員 会 は , 食 品 の 安 全 性 や 品 質 に 関 す る 国 際 的 な 基 準 を 定 め て お り , カ ド ミ ウ ム な ど い く つ か の 元 素 も 項 目 に 挙 げ ら れ て い る 。 こ れ ら の 環 境 試 料 , 食 品 試 料 に は 多 種 の 共 存 物 質 が 存 在 し , こ れ ら は し ば し ば 対 象 と な る 微 量 元 素 の 正 確 か つ 高 精 度 な 定 量 に 悪 影 響 を 及 ぼ す 。 そ の た め , こ れ ら 試 料 に 含 ま れ る 微 量 元 素 の 定 量 に は 適 正 な 前 処 理 が 不 可 欠 で あ り , 中 で も 定 量 を 目 的 と す る 微 量 元 素 の 分 離 ・ 濃 縮 は 特 に 重 要 で あ る 。

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イ オ ン 交 換 樹 脂 や キ レ ー ト 樹 脂 な ど の 吸 着 剤 を 固 相 抽 出 剤 と し て 用 い た 固 相 抽 出 法 は , 操 作 が 簡 便 で あ り , 定 量 を 目 的 と す る 元 素 に 対 す る 選 択 性 が 高 く , さ ら に は 安 定 し た 回 収 率 が 得 ら れ る な ど の 理 由 か ら 普 及 し て き て い る 。 し か し な が ら , こ れ ら 市 販 の 吸 着 剤 の 多 く は 数 十 µm 程 度 の 粒 子 状 で あ る た め , 一 般 に は カ ー ト リ ッ ジ 型 や ル ア ー 型 な ど の 容 器 へ 充 填 し , 流 れ 式 で 使 用 さ れ る 。 し か し , こ の 場 合 に お い て も , 試 料 溶 液 の 通 液 抵 抗 が 大 き く , 迅 速 な 通 液 は 困 難 で あ る 。 ま た 市 販 さ れ て い る 容 器 の 形 状 も 限 定 的 で あ る 。 微 量 元 素 の 濃 縮 に お い て は 濃 縮 率 を 高 め る た め に し ば し ば 大 量 の 試 料 を 通 液 す る 。 そ の た め 接 液 面 積 が 広 く 吸 着 剤 容 積 が 小 さ い 方 が 短 時 間 に 効 率 よ く 濃 縮 可 能 で あ る が , そ の よ う な 容 器 を 準 備 す る こ と は 困 難 で あ る 。

こ の よ う な 背 景 の も と , 本 研 究 で は 固 相 抽 出 剤 の 形 状 多 様 化 を 目 指 し , 新 規 な 繊 維 状 吸 着 剤 な ら び に 焼 結 型 吸 着 剤 を 調 製 し , こ れ ら を 用 い た 微 量 元 素 の 分 離 ・ 濃 縮 へ の 適 用 可 能 性 に つ い て 評 価 し た 。

は じ め に , 元 素 吸 着 の た め の 官 能 基 に つ い て 詳 細 に 検 討 し た 。 多 く の 元 素 を 同 時 に 吸 着 可 能 で あ る ア ミ ノ カ ル ボ ン 酸 基 に 注 目 し , ア ミ ノ カ ル ボ ン 酸 基 の 構 造 お よ び 基材樹 脂 の 種 類 が異な る 市 販 の ア ミ ノ カ ル ボ ン 酸 型 キ レ ー ト 樹 脂 に つ い て 基 本 特 性 や 元 素 吸 着 特 性 を 調べた と ころ, いずれ の キ レ ー ト 樹 脂 も カ ド ミ ウ ム ,コ バル ト ,銅,鉄,マンガン ,ニッケル , 鉛 ,チ タン ,亜鉛 な ど , 多 元 素 の 分 離 ・ 濃 縮 に 適 用 可 能 で あ っ た 。 ア ミ ノ カ ル ボ ン 酸 基 の鎖 長が長いほど 回 収 率 が 大 き く な る こ と や ,疎水 性 の 基材樹 脂 は 流 量 の増大 に伴い 回 収 率 の低 下 が顕 著で あ っ た こ と な ど か ら , こ れ ら 元 素 の 吸 着 に 対 し て は 官 能 基 の錯形成能 力な ら び に 基材樹 脂 が 影 響 す る こ と が わ か っ た 。 し か し な が ら鎖 長が長いほど マ グ ネ シウ ム や カ ルシウ ム な ど 目 的 元 素 の 定 量 を妨げ る 元 素 に 対 す る 回 収 率 も 増大 し た 。一 方 で カ ル ボ キシ メ チル 化ポリエ チレ ン イ ミ ン(CM-PEI)を 官 能 基 と し て導 入し た キ レ ー ト 樹 脂 は pH 7 以 下に お い てマ グ ネ シウ ム や カ ルシウ ム な ど を 吸 着せ ずに 定 量 目 的 の 微 量 元 素 を 吸 着 可 能 で あ っ た 。 共 存 物 質 存 在下に お ける 微 量 元 素 の 分 離 ・ 濃 縮 に お い て も ,pH,流 量 な ら び に 試 料 溶 液 量 の 影 響 を ほとんど受 けな い こ と が わ か っ た 。 こ れ ら の 結果か ら , 微 量 元 素 の 分 離 ・ 濃 縮 に 対 し て は 基材樹 脂 が親水 性 で あ り ,CM-PEI の よ う に錯形成能力が 高 く , 共 存 元 素 の 吸 着 を抑 制で き る 官 能 基 が好適 で あ る こ と が わ か っ た 。

こ の 結果に 基づき ,CM-PEI を導 入し た 樹 脂 と 同等の 能力を 有 す る カ ル ボ キ シ メ チル 化ペンタ エ チレ ンヘキサミ ン 型 キ レ ー ト 樹 脂(CM-PEHA 樹 脂)を 用 い , CM-PEHA 樹 脂 微 粒 子 とセルロース ビ ス コース(ビ ス コース)と を湿式混合紡 糸 し て CM-PEHA 樹 脂混合 繊 維 を 調 製 し た 。調 製 し た CM-PEHA 樹 脂混合 繊 維 の 元 素 吸 着 特 性 は ,混合 し たCM-PEHA樹 脂 の 特 性 をほぼ 維持し て い た 。一 方 で , ナト リ ウ ム , カ リ ウ ム ,マ グ ネ シウ ム , カ ルシウ ム な ど の 回 収 率 は 微増し た 。 ま たCM-PEHA樹 脂混合 繊 維 を 用 い て 市 販認 証 標準 物 質 に 含 ま れ る 微 量 元 素 の

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分 離 ・ 濃 縮 を行っ た と ころ, 共 存 元 素 濃 度 の低い認 証 標準 物 質 を 用 い た 場 合 で は認 証 値とほぼ 一致し た値が 得 ら れ た 。 し か し な が ら , 共 存 元 素 濃 度 の 高 い も の を 用 い た 場 合 に は い く つ か の 元 素 の 定 量 が妨害 さ れ た 。 こ れ ら は CM-PEHA 樹 脂混合 繊 維 へ の CM-PEHA樹 脂 の混合 量 が低い こ と が原 因で あ る と考え ら れ , 樹 脂混合 繊 維 に お い て は 吸 着 容 量 の向 上が課 題で あ っ た 。

そ こ で 吸 着 容 量 の向 上を 目 指 し ,上 記の 繊 維 調 製 法 を 用 い て キ レ ー ト 性 高 分 子 で あ る カ ル ボ キシ メ チル 化ポリ ア リ ル ア ミ ン とビ ス コースと を混合 し , こ れ を湿式紡 糸す る こ と に よ り 新 規 な キ レ ー ト 繊 維 を 調 製 し た 。 得 ら れ た キ レ ー ト 繊 維 は , カ ド ミ ウ ム ,コ バル ト ,ク ロム ,銅,鉄,マンガン ,ニッケル , 鉛 , チ タン ,亜鉛 な ど の 多 く の 元 素 に 対 し て良 好な 回 収 率 を与え た 。 ま た , 高塩濃 度 に 調整し た模 擬 廃水 中 の 重金 属元 素 を 高 流 量下に お い て も 吸 着 可 能 で あ り , 調 製 し た キ レ ー ト 繊 維 が 水 中 の 微 量 元 素 の 分 離 ・ 濃 縮 に 有 効 で あ る こ と が 示唆 さ れ た 。 本 調 製 法 は ,工 業的 に 用 い ら れ て い るビ ス コース法 に よ る レ ーヨン 製 造工程 を変 更す る こ と な く 用 い る こ と が 可 能 で あ り , 容易に 繊 維 状 吸 着 剤 を 量 産可 能 で あ る 。 し か し な が ら ,紡 糸可 能 な キ レ ー ト 性 高 分 子 に は制限 が あ り , 用途に 合 わせて 様 々 な 官 能 基 を導 入し た 繊 維 状 吸 着 剤 を 調 製 す る こ と は 困 難 で あ る点が課 題と し て残っ た 。

こ の 結果を受 け, 吸 着 容 量 を増大 させ, 同 時 に 用途に 合 わせた 吸 着 剤 を任 意 の 形 状 に加 工可 能 で あ る 吸 着 剤 調 製 法 に つ い て 検 討 し , 粒 子 状 吸 着 剤 と熱可塑 性 樹 脂 と を混合 ・ 焼成す る 方 法 を考 案し た 。 こ の 方 法 を 用 い , 焼 結 型 吸 着 剤 の 調 製 を 試みた 。熱可塑性 のポリエ チレ ン 樹 脂 と , こ れ が 吸 着 に 及 ぼ す 影 響 を明 ら か に す る た め疎水 性 相互作 用 と イ オ ン 交 換 相互作 用 と を 同 時 に発 現可 能 な逆 相/陰イ オ ン 交 換複合モー ド 型 吸 着 剤 と を円 柱型 の金型 に 充 填・焼成し ,陰イ オ ン 交 換 能 を 有 す る 新 規 な 焼 結 型 吸 着 剤(陰イ オ ン 交 換 焼 結体)を 調 製 し た 。 得 ら れ た陰イ オ ン 交 換 焼 結体は ,モノ リス様 の連 続 孔を 有 し て お り , 通 液 性 も良 好 で あ っ た 。 中 性 化 合 物 ,塩基 性 化 合 物 お よ び 酸 性 化 合 物 を 用 い ,陰イ オ ン 交 換 焼 結体の 吸 着 特 性 を 評 価 し た と ころ, 高 流 量下で も こ れ ら の 化 合 物 を 定 量 的 に 吸 着 可 能 で あ っ た 。 中 性 お よ び塩基 性 化 合 物 は ,疎水 性 相互作 用 に よ り陰イ オ ン 交 換 焼 結体に 吸 着 さ れ て い る こ と が 示唆さ れ , 吸 着 し た こ れ ら 化 合 物 はメ タ ノ ー ル で 定 量 的 に 溶 出 可 能 で あ っ た 。 酸 性 化 合 物 は ,疎水 性 相互作 用 と陰イ オ ン 交 換 相互作 用 と に よ る複合 相互作 用 で 吸 着 さ れ て い る こ と が 示唆さ れ た 。 ま た ,陰イ オ ン 交 換 焼 結体に 存 在 す るポリエ チレ ン 樹 脂 の疎水 性 に よ る イ オ ン 交 換 相互作 用 の低 下は見ら れ な か っ た 。

そ こ で 本 焼 結 型 吸 着 剤 調 製 法 を 用 い ,CM-PEHA 樹 脂 を 含 有 す る 新 規 な 焼 結 型 元 素 吸 着 剤 を 調 製 し , こ れ を 用 い る 微 量 元 素 の 吸 着 特 性 に つ い て 検 討 し た 。 CM-PEHA 樹 脂 は粉 砕 せ ずに熱可塑性 樹 脂 と混合 し ,円 柱型 ま た はデ ィ ス ク型 の金型 に 充 填 ・ 焼成し て 焼 結 型 元 素 吸 着 剤(キ レ ー ト 焼 結体)を 調 製 し た 。熱可

(5)

塑性 樹 脂 と し て親水 性付 与が 容易なエ チレ ン- 酢酸ビ ニル 共 重 合体を 用 い た 場 合 に は ,こ の熱可塑性 樹 脂 の 粒 子径が 大 き い た め CM-PEHA 樹 脂 が偏在 し て し ま い ,低 pH 領 域な ら び に 高 流 量下に お い て 回 収 率 の低 下が見ら れ た 。 そ の た め熱可塑性 樹 脂 の 種 類 に よ る 影 響 の 詳 細 な 検 討 に は ,熱可塑性 樹 脂 の 粒 子径を 任 意に 調 製 す る必要 が あ る こ と が わ か っ た 。 一 方 ,熱可塑性 樹 脂 と し てポリエ チレ ン 樹 脂 を 用 い た 場 合 に は ,焼 結 形 状 にほとんど依存せ ずに CM-PEHA 樹 脂 に 由来す る 安 定 し た 元 素 吸 着 能力を 示 す こ と が明ら か と な り , 微 量 元 素 の 分 離 ・ 濃 縮 に極め て 有 効 で あ る こ と が 示 さ れ た 。 本 焼 結 型 吸 着 剤 調 製 法 は金型 を 変 更す る こ と で円 柱型 やデ ィ ス ク型以 外に も針型 ,円 錐型 , カ ップ型 な ど 多彩 な 形 状 が 調 製 可 能 で あ る 。 ま た 吸 着 剤 の 種 類 を変 更す る こ と で 目 的 に応じ た成 分 の 分 離 ・ 濃 縮 が 可 能 と な る 。

本 研 究 は 微 量 元 素 の 分 離 ・ 濃 縮 に 有 用 な 固 相 抽 出 剤 の 形 状 の 多 様 化 を 目 的 と し て行っ た 。 市 販 の ア ミ ノ カ ル ボ ン 酸 型 キ レ ー ト 樹 脂 に つ い て 詳 細 に 検 討 し た と ころ, 基材樹 脂 が親水 性 で あ り ,CM-PEI の よ う に錯形成能力が 高 く , 共 存 元 素 の 吸 着 を抑 制で き る 官 能 基 が好適 で あ る こ と か ら , 同等の 能力を持つ CM-PEHA 樹 脂 を 用 い て 形 状加 工が 容易な 繊 維 化 を 試みた 。CM-PEHA 樹 脂 を 粉 砕し ,ビ ス コースと混合 し て湿式紡 糸す る こ と で 調 製 し た CM-PEHA 樹 脂混 合 繊 維 は 樹 脂混合 量 が低く ,CM-PEHA 樹 脂 の 元 素 吸 着 能力を 十 分 に発 現で き な か っ た 。次に カ ル ボ キシ メ チル 化ポリ ア リ ル ア ミ ン とビ ス コースと を混合 し て湿式紡 糸す る こ と で 調 製 し た キ レ ー ト 繊 維 は 高塩濃 度 に 調整し た模 擬 廃水 中 の 重金 属元 素 を 高 流 量下で 吸 着 可 能 で あ っ た が ,紡 糸可 能 な キ レ ー ト 性 高 分 子 に は制限 が あ り ,用途に 合 わせた 繊 維 状 吸 着 剤 調 製 方 法 と し て は課 題が残っ た 。 こ の 結果を受 けて考 案し た 焼 結 型 吸 着 剤 は最適 の 吸 着 剤 を任 意の 形 状 に加 工可 能 で あ り ,ポリエ チレ ン 樹 脂 の疎水 性 に 影 響 さ れず,混合 し た 吸 着 剤 の 吸 着 能 力を発 現し た 。 ま た 元 素 吸 着 能力は 焼 結 形 状 に 影 響 さ れ な い こ と か ら , 微 量 元 素 の 分 離 ・ 濃 縮 に 有 用 な 固 相 抽 出 剤 の 形 状 の 多 様 化手法 の 一 つ と し て 有 用 性 が 明ら か と な っ た 。今 後, こ の手法 を 用 い , 様 々 な 固 相 抽 出 剤 が開 発さ れ る こ と が期 待さ れ る 。

(6)

【論文審査の結果の要旨】

当博士学位審査委員会は,当該論文を詳細に査読し,かつ論文発表会を平成27年1月 26日に公開で開催してその発表と質疑応答についても審査した。以下にその結果を要約す る。

本論文では,環境試料に含まれる微量元素を分離・濃縮するための新規吸着剤を開発し,

その固相抽出法への応用について研究している。近年深刻化する環境問題,食の安全の問題 などを受け,環境,食品などの質的管理が強化される中,環境試料,食品などに含まれる微 量元素の定量が重要となってきている。しかしながら,これら微量元素を直接定量すること は,分析機器の感度不足,共存する成分による干渉などの理由から困難である場合が多い。

この問題の解決のために,試料に含まれる微量元素をあらかじめ共存成分から分離し,同時 に濃縮することは有効な方策となる。本論文では,分離濃縮法として,試料溶液中の微量元 素を吸着剤に捕捉する固相抽出法に注目している。この方法では,吸着剤を充填した専用カ ートリッジなどに試料溶液を通液して微量元素を分離・濃縮するため操作が単純であり,ま た市販されている多種の吸着剤を便利に利用できることから,これまで広く用いられてきて いる。しかし,従来の吸着剤のほとんどが粒子状であるため充填操作が面倒であるなど取り 扱いにくい場合があり,その元素捕捉能力(選択性,速度など)も十分ではない場合が多い。

このような背景のもと,本論文では,吸着剤の形状多様化を主目的として研究を進め,粒子 状ではない吸着剤の開発を行っている。

本論文は,以下の7章から構成されている。

第1章では,本研究の意義と目的が的確に述べられている。

第2章では,吸着剤における元素捕捉を担うキレート官能基について詳細に検討している。

多種の元素を同時に捕捉可能なアミノカルボン酸基に注目し,これを導入した市販樹脂の能 力の比較を行っている。広く利用されているイミノ二酢酸基に比べ,長鎖構造を有するもの が優れており,中でもカルボキシメチル化ポリエチレンイミン基が好適であることを明らか にしている。この基を導入した樹脂は,環境試料などにしばしば大量に含まれ,定量を目的 とする微量元素の捕捉ならびにその後の定量を妨害するアルカリ金属元素,アルカリ土類金 属元素などを捕捉せず,また微量元素の捕捉も極めて迅速であり,これらのことから微量元 素の分離・濃縮に極めて有用であると結論されている。

第3章および第4章では,多彩な形状に加工することが容易な繊維状吸着剤の開発につい て述べられている。

第3章では,第2章で好適とされたアミノカルボン酸基と同等の能力を有するカルボキシ メチル化ペンタエチレンヘキサミンを固定化した樹脂を粉砕し,これをレーヨン製造工程に おけるビスコースと混合して湿式紡糸することにより繊維状吸着剤を調製することに成功し ている。この吸着剤は含有する樹脂の元素捕捉能力を発現するが,吸着剤に含まれる樹脂量 が小さく,結果として元素捕捉容量が小さいことが課題であることを明らかにしている。

第4章では,その課題を,樹脂に代えてキレート性高分子を用いることにより解決してい

る。カルボキシメチル化したポリアリルアミンとビスコースとを混合して湿式紡糸すること

(7)

により得られる繊維状吸着剤が,元素捕捉容量も第2章の市販樹脂と同等であり,元素捕捉 速度も極めて大きいことを明らかにしている。この繊維状吸着剤は,既存のレーヨン製造設 備で量産可能であり,比較的安価に調製できるだけでなく,不織布化なども容易であり多彩 な形状に加工して利用できるという利点を有している。しかし,混合できるキレート性高分 子に制限があり,これが大きな課題であることを明らかにしている。

第5章および第6章では,粒子状吸着剤を含有した焼結体の開発について述べられている。

第5章では,熱可塑性樹脂であるポリエチレンと粒子状陰イオン交換樹脂とを混合した焼 結体の調製条件について詳細に検討し,焼結体調製技術を確立している。円柱型の金型を用 いて調製した焼結体は,連続した多孔構造を有しているため通液性に優れ,疎水性であるポ リエチレンの影響を受けることなく水溶液から目的成分の捕捉が可能であることを示してい る。

第6章では,確立した焼結体調製技術を用い,カルボキシメチル化ペンタエチレンヘキサ ミンを固定化した粒子状樹脂とポリエチレン樹脂とによる焼結体の調製に成功している。得 られた焼結体は含有する樹脂に由来する元素捕捉能力を発現し,ポリエチレン樹脂による影 響はほとんど見られないことを明らかにしている。円柱型焼結体に加えディスク型のものも 調製し,これらがほぼ同等の元素捕捉能力を有することから形状による影響が小さいことを 明らかにしている。得られた吸着剤が微量元素の分離・濃縮に有用であることも示されてい る。この調製技術において,金型に応じた多彩な形状の吸着剤を,また混合する樹脂に応じ た様々な能力を持つ吸着剤を提供することが可能である点も魅力的である。

第7章では,本論文の結論が的確に述べられている。

以上,本研究では,吸着剤の形状多様化に取り組み,繊維状吸着剤,粒子状吸着剤含有焼 結体の開発に成功している。得られた吸着剤の有用性は高く,またそれらの調製技術も今後 新たな吸着剤の開発に極めて有用である。これらのことから,本研究により得られた成果は 高く評価することができる。

以上を総合して,当審査委員会は本論文が博士(工学)の学位を授与するに値するもので

あると認め,合格と判定した。

参照

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