憲 法 の 概 念 に つ い て
赤 坂 正 浩
一 は じ め に 二 伝統 的な 用語 法 三 佐々 木惣 一説 とそ の影 響 四 佐々 木説
・芦 部説
・佐 藤説 の問 題点 五 日本 国憲 法の 解釈 論と
﹁実 質的 意味 の憲 法﹂ 概念 六 日本 憲法 史・ ドイ ツ憲 法理 論研 究と
﹁実 質的 意味 の憲 法﹂ 概念 七 お わ り に 一
は じ め に 二〇 一〇 年九 月に
、文 部科 学省 の﹁ 専門 職大 学院 等に おけ る高 度専 門職 業人 養成 推進 プロ グラ ム﹂ の調 査研 究班 が、
﹁共 通的 到達 目標
︵コ ア・ カリ キュ ラム
︶モ デル
﹂の 第二 次案 修正 案を 公表 した
。コ ア・ カリ キュ ラム は、 法科 大学 院教 育の 質の 確保 を目 的と して
、法 律基 本科 目に つい て法 科大 学院 修了 時に 学生 が修 得し てい るべ き最 低限 の
内容 の目 安を 示す もの とさ れて いる
。 その うち 憲法 のコ ア・ カリ キュ ラム の﹁ 第一 章 憲法 総論
一
-
一 憲法 の観 念及 び立 憲主 義﹂ には 九つ の項 目 が列 挙さ れて いる。そ の第 一項 目で は﹁
﹃形 式的 意味 の憲 法﹄ 及び
﹃実 質的 意味 の憲 法﹄ の意 味及 びそ の異 同に つ いて 理解 して いる こと
﹂、 第二 項目 では
﹁﹃ 立憲 的意 味の 憲法
﹄︵ 近代 的意 味の 憲法 の︶ 意義 につ いて
、﹃ 固有 の意 味 の憲 法﹄ と対 比し て理 解し てい ると とも に、 それ と関 連付 けて
、憲 法の 制限 規範 性及 び憲 法典 の硬 性規 範性 につ い て理 解し てい るこ と﹂ が法 科大 学院 生に 求め られ てい る。 これ を読 んで 私が 違和 感を 覚え たの は、
﹁立 憲的 意味 の憲 法︵ 近代 的意 味の 憲法
﹂︶ の意 義に つい て、
﹁固 有の 意味 の憲 法﹂ と﹁ 対比 して 理解
﹂す ると いう くだ りで ある
。﹁ 対比 する
﹂と はど うい うこ とな のか 必ず しも 明瞭 では な いが
、対 立概 念で ある よう な印 象も 受け る。 こう いう 用語 法の 由来 に興 味を もっ て、 まず 参照 すべ き芦 部信 喜︵ 高 橋和 之補 訂︶
﹃憲 法・ 第四 版﹄ をひ もと いて みる と、 そこ に次 のよ うな 記述 があ った
。長 文に なる が、 全体 を引 用 して みる
。
﹁憲 法の 概念 は多 義的 であ るが
、重 要な もの とし て三 つ挙 げる こと がで きる
。
㈠
形式 的意 味 これ は、 憲法 とい う名 前で 呼ば れる 成文 の法 典︵ 憲法 典︶ を意 味す る場 合で ある。形 式的 意味 の憲 法 と呼 ばれ る。 たと えば
、現 代日 本に おい ては
﹃日 本国 憲法
﹄が それ にあ たる
。こ の意 味の 憲法 は、 その 内容 がど のよ うな もの であ るか には 関わ らな い。
㈡
実質 的意 味 これ は、 ある 特定 の内 容を もっ た法 を憲 法と 呼ぶ 場合 であ る。 成文 であ ると 不文 であ ると を問 わな い。 実質 的意 味の 憲法 と呼 ばれ る。 この 実質 的意 味の 憲法 には 二つ のも のが ある。
⑴
固有 の意 味国家 の統 治の 基本 を定 めた 法と して の憲 法で あり
、通 常﹃ 固有 の意 味の 憲法
﹄と 呼ば れる
。国 家
は、 いか なる 社会
・経 済構 造を とる 場合 でも
、必 ず政 治権 力と それ を行 使す る機 関が 存在 しな けれ ばな らな いが
、こ の機 関、 権力 の組 織と 作用 およ び相 互の 関係 を規 律す る規 範が
、固 有の 意味 の憲 法で ある
。こ の意 味の 憲法 はい かな る時 代の いか なる 国家 にも 存在 する
。
⑵
立憲 的意 味実質 的意 味の 憲法 の第 二は
、自 由主 義に 基づ いて 定め られ た国 家の 基礎 法で ある
。一 般に
﹃立 憲的 意味 の憲 法﹄ ある いは
﹃近 代的 意味 の憲 法﹄ と言 われ る。 一八 世紀 末の 近代 市民 革命 期に 主張 され た、 専断 的な 権力 を制 限し て広 く国 民の 権利 を保 障す ると いう 立憲 主義 の思 想に 基づ く憲 法で ある
。…
…こ の意 味の 憲法 は、 固有 の意 味の 憲法 とは 異な り、 歴史 的な 観念 であ り、 その 最も 重要 なね らい は、 政治 権力 の組 織化 とい うよ りも 権力 を制 限し て人 権を 保障 する こと にあ る。 以上 の三 つの 憲法 の観 念の うち
、憲 法の 最も すぐ れた 特徴 は、 その 立憲 的意 味に ある と考 える べき であ る。 した がっ て、 憲法 学の 対象 とす る憲 法と は、 近代 に至 って 一定 の政 治的 理念 に基 づい て制 定さ れた 憲法 であ り、 国家 権力 を制 限し て国 民の 権利
・自 由を 守る こと を目 的と する 憲法 で
( )
ある
﹂。 この
説明 で﹁ 実質 的意 味の 憲法
﹂﹁ 固有 の意 味の 憲法
﹂﹁ 立憲 的意 味の 憲法
﹂の 相互 関係 がど のよ うに 理解 され て いる のか は、 必ず しも 明確 でな い面 もあ ると 思う が、 一見 した とこ ろで は、
﹁実 質的 意味 の憲 法﹂ には
﹁固 有の 意 味の 憲法
﹂と
﹁立 憲的 意味 の憲 法﹂ の二 種類 があ り、 両者 は対 立概 念で ある とい う理 解に 立っ てい るよ うに 読め る。 コア
・カ リキ ュラ ムの
﹁対 比し て理 解﹂ せよ との 要請 も、 この 記述 に由 来す るも のと 推測 され る。 長年 憲法 の 教育 をな りわ いと しな がら
、芦 部教 科書 の冒 頭部 分を うっ かり 読み 飛ば して いた こと に恥 じ入 るが
、同 時に
﹁立 憲 的意 味の 憲法
﹂と
﹁固 有の 意味 の憲 法﹂ を対 立概 念、 ある いは 少な くと も対 概念 とす る理 解に は従 えな いも のを 感 じる ので
、あ らた めて
﹁憲 法の 概念
﹂に つい て振 り返 って おき たい 気持 ちに な
( )
った
。 本稿 の私 見を
、あ らか じめ
﹁テ ーゼ 風﹂ に︵ すな わち
、あ えて
﹁断 定調
﹂で 掲︶ げて みる と、 次の よう なこ とで あ
る。
①
﹁実 質的 意味 の憲 法﹂ と﹁ 形式 的意 味の 憲法
﹂と は対 立概 念で はな い。
②
﹁実 質的 意味 の憲 法﹂ と﹁ 固有 の意 味の 憲法
﹂︵ 本来 的意 味の 憲法 と︶ は同 義で ある
。
③
﹁固 有の 意味 の憲 法﹂ と﹁ 立憲 的意 味の 憲法
﹂と は対 立概 念で はな い。
﹁立 憲的 意味 の憲 法﹂ は﹁ 固有 の意 味 の憲 法﹂ すな わち
﹁実 質的 意味 の憲 法﹂ の一 種で ある
。
④ 日本 国憲 法の 解釈 論に は﹁ 実質 的意 味の 憲法
﹂︵ 固有 の意 味の 憲法 と︶ いう 概念 は不 要で ある
。
⑤ 日本 憲法 史や ドイ ツ憲 法理 論の 研究 には
﹁実 質的 意味 の憲 法﹂ の概 念が 有用 ない し不 可欠 の場 合が ある
。
︵
︶ 芦部 信喜
︵高 橋和 之補 訂︶
﹃憲 法・ 第四 版﹄ 岩波 書店 二〇
〇七 年四
~五 頁。
︵
︶ 憲法 の概 念を テー マと する 近年 の研 究と して は、 堀内 健志
﹁﹃ 近代 憲法
﹄と
﹃憲 法﹄ 概念 の多 義性
、そ して
﹃実 質的 意味 の憲 法﹄
︱︱
﹃憲 法﹄ 概念 と憲 法学
︵そ の一
︶﹂ 弘前 大学 人文 学部 紀要
・社 会科 学篇 一一 号二
〇〇 四年 三一 頁以 下、 同﹁
﹃憲 法﹄ 概念 と憲 法学
︵そ の二
︶︱
︱ド イツ 憲法
︵学
︶史 を背 景と する
﹃日 本憲 法学
﹄﹂ 弘前 大学 人文 学部 紀要
・社 会科 学篇 二〇 号二
〇〇 八年 六三 頁以 下、 古野 豊秋
﹁ハ ンス
・ケ ルゼ ンの 憲法 概念 とそ の現 代的 意義
﹂D AS 研究 会編
﹃山 下威 士先 生還 暦記 念・ ドイ ツ公 法理 論の 受容 と展 開﹄ 尚学 社二
〇〇 四年 五九 頁以 下、 南 野森
﹁﹃ 憲法
﹄の 概念
︱︱ それ を考 える こと の意 味﹂ 岩波 講座 憲法 ﹃ 憲法 と時 間﹄ 岩波 書店 二〇
〇七 年二 七頁 以下 があ る。
二 伝統 的な 用語 法
⑴
﹁実 質的 意味 の憲 法﹂
﹁固 有の 意味 の憲 法﹂
﹁形 式的 意味 の憲 法﹂ とい う概 念は
、戦 前の 憲法 学に よっ てド イ ツの 公法 学か ら輸 入さ れた と推 測さ れる
。そ こで
、ま ず、 今日 のド イツ 語圏 の憲 法学
・一 般国 家学 では
、こ れら の
概念 がど のよ うに 継承 され 理解 され てい るの か、 代表 的な 概説 書の 解説 を拾 って みた い。
⑵
一九 五一 年に テオ ドー ル・ マウ ンツ が初 版を 公刊 して 以来、ツ ィペ リウ スに よる 補訂 を経 て、 現在 はツ ィペ リウ ス
=
ヴュ ルテ ンベ ルガ ーと いう 形で 版を 重ね てい るド イツ 基本 法の 定評 ある 教科 書﹃ ドイ ツ国 法﹄ は、﹁実 質 的意 味の 憲法
﹂と
﹁形 式的 意味 の憲 法﹂ の概 念を 次の よう に説 明し てい る。
﹁憲 法は
、国 家の 支配 を樹 立し
、組 織し
、制 限す る。 つま り、 憲法 は、 支配 を樹 立す ると とも に制 限す る。 憲法 は、 法 的基 本秩 序と して
、国 家の 業務
︵つ まり
、最 高国 家諸 機関 の形 成・ 任務
・権 限・ 手続
︶に 関す る基 本準 則、 共同 体秩 序の その 他の 基本 的政 治構 造︵ たと えば 権力 分立 と連 邦制
︶に 関す る基 本準 則、 さら には 国家 にお ける 市民 の地 位︵ 特に 彼ら の政 治的 権利 と基 本的 自由
︶に 関す る基 本準 則、 そし て最 後に これ らの 組織 規定 と権 利保 障の 根底 にあ る本 質的 な法 原則 およ び目 標に 関す る基 本準 則の 全体 を包 括す る。 これ が、 実質 的意 味の 憲法 であ る﹂
。
﹁ま た、 憲法 典に とり まと めら れた 制定 法が 憲法 とよ ばれ る。 この 憲法 典と いう 制定 法は
、憲 法制 定権 力に よっ て制 定 され
、単 純法 律よ りも 高次 のラ ンク
…… と高 次の 存続 保障 を認 めら れ、 その 結果
、安 定性 の保 障が 強化 され てい る。 適法 な改 正は
、憲 法が 定め た特 別の 手続 によ って のみ
︵た とえ ば、 基本 法七 九条 二項 のよ うに
、議 会の 特別 多数 によ って のみ とか
、あ るい は国 民投 票に よっ ての み︶ 許さ れる
。最 初に あげ た﹇ 実質 的﹈ 意味 と区 別し て、 この 場合 には 形式 的意 味の 憲法 につ いて 語る こと がで きる
。形 式的 意味 の憲 法の 内容 と、 実質 的意 味の 憲法 の内 容は
、広 範に 一致 する が、 必然 的に ぴっ たり 一致 する わけ では
( )
ない
﹂。
⑶
多少 の相 違は あっ ても、ド イツ 語圏 では こう した 説明 が一 般的 だと 思わ れる
。こ こで はさ らに
、ド イツ 基本 法に 関す る記 念碑 的と もい える 壮大 な体 系書
、シ ュテ ルン
﹃ド イツ 連邦 共和 国国 法第 一巻
﹄の 記述 を紹 介し てお こ う。 シュ テル ンは 次の よう に述 べて いる
。
﹁G
・イ ェリ ネッ クは
、憲 法律 の﹃ 本質 的な 法的 メル クマ ール
﹄を
、憲 法律 が﹃ 加重 され た形 式的 な法 律的 効力
﹄を 有 する こと に見 出し た。 憲法 が、 単に 瞬間 的な 存在 に甘 んず るの では なく
、継 続的 な秩 序の 基盤 とな るた めに
、通 常は 加重 され た存 続保 護に よっ て特 徴づ けら れて いる こと は確 かで ある
。特 にそ れが 示さ れる のは 改正 の場 合で ある
。憲 法改 正に は特 別多 数が 必要 とさ れる か…
…、 たと えば 連邦 構成 国家 の承 認と いっ た別 の効 力発 生要 件の 充足 が必 要と され る︵ アメ リカ 合衆 国憲 法第 五条
︶。 しか しな がら
、こ うし た形 式的 観点 で、 憲法 の概 念が 捉え 尽さ れる わけ では ない
。こ うし た形 式的 観点 で、 憲法 の本 質が 十分 に記 述さ れる わけ では ない
。と りわ け、 この 種の
﹃加 重さ れた 形式 的法 律的 効力
﹄を もた ない 憲法 典は
、法 的意 味で 憲法 たり えな いの かと いう 疑問 がさ らに 残る こと にな る。 した がっ て、 G・ イェ リネ ック は、 憲法 概念 の純 粋に 形式 的意 義で は満 足し なか った
。イ ェリ ネッ クに とっ て、 実質 的 意味 の憲 法は
、﹃ 国家 の最 高機 関を 名指 しし
、そ れら の創 設方 法、 それ らの 相互 関係 およ びそ れら の行 動範 囲を 確定 し、 さら に国 家権 力に 対す る個 人の 基本 的な 関係 を確 定す る法 規﹄ であ った
。こ の実 質的 憲法 概念 は、 ささ いな 変形 はあ るも のの
、﹇ 今日 でも
﹈支 配的 と称 する こと がで きる
。実 質的 憲法 概念 は、 形式 的意 味の 憲法 とぴ った り一 致す る必 要は ない
。 実質 的意 味の 憲法 の内 容を なす すべ ての 法規 が、 憲法 典に 受容 され るわ けで はな いか らで ある
。実 質的 意味 の憲 法の 範囲 如何 とい う争 いの ある 問い が、 これ と結 びつ いて いる
。﹃ 憲法
﹄と いう 名称 をも つか
、あ るい は単 に語 の慣 用上 そう よば れて いる 法的 文書 のす べて が、
…… 実質 的意 味の 憲法 に属 する わけ では
( )
ない
﹂。
⑷
例と して もう ひと つ、 ドイ ツ語 圏で もド イツ とは 肌合 いの 異な るス イス の憲 法学 者の 著作 から、ヴ ァル タ ー・ ハラ ーと アル フレ ート
・ケ ルツ の共 著﹃ 一般 国法
﹄の 説明 をあ げて おく
︵傍 線は 原文 イタ リッ ク︶
。
﹁形 式的 意味 の憲 法。 この 憲法 概念 は、 法規 範が 表明 され る形 式に もっ ぱら 焦点 を当 てる もの であ る。 形式 的意 味の 憲 法は
、通 常は
、単 純立 法と 対比 して 加重 され た改 正要 件を 保障 され た特 別の 手続 で成 立す る︵ たと えば
、議 会ま たは 義務
的国 民投 票の 特別 多数
︶。 憲法 はこ れに よっ て高 めら れた 安定 性を 獲得 する
。憲 法規 範は
、他 のす べて の法 規範 に優 先し
︵高 めら れた 妥当 力︶
、通 常は 特別 の憲 法典 に内 包さ れる
﹂。
﹁実 質的 意味 の憲 法に は、 国家 に関 する 基本 的な 諸規 範、 およ び国 家と 市民 の関 係に 関す る基 本的 な諸 規範 が含 まれ る。 つま り、 ここ で問 題と なっ てい るの は、 形式 では なく て内 容で ある
。あ る規 範が 実際 に基 本的 か否 かは 憲法 の理 解に 依存 して いる ので
……
、﹇ 実質 的意 味の 憲法 の範 囲を
﹈概 念的 に明 確に 境界 づけ るこ とは
、も ちろ ん不 可能 であ る。 とは いえ
、 一般 には 以下 のよ うな テー マ領 域に 関す る諸 規範 が、 実質 的意 味の 憲法 と性 格づ けら れる
。
・最 高国 家機 関︵ 国民
、議 会、 政府
、最 高裁 判所
︶の 組織 およ び権 限
・基 本権
・憲 法改 正お よび 立法 の手 続
・︵ 連邦 国家 の場 合︶ 連邦 と支 邦の
( )
権限
﹂。
⑸
以上 例示 した よう に、 現代 ドイ ツ語 圏の 憲法 理論 では、﹁ 実質 的意 味の 憲法
﹂と は、 法形 式の 如何 を問 わず
、 最高 国家 諸機 関の 種類
・組 織・ 権限 等の 基本 事項 に関 する 法規 範、 およ び国 家と 市民 の関 係に 関す る基 本的 な法 規 範を 意味 し、
﹁形 式的 意味 の憲 法﹂ とは
、一 般に は改 正要 件が 通常 の法 律と 比べ て加 重さ れた
、憲 法と いう 標題 を もつ 制定 法を 意味 する と説 明さ れて いる
。 この こと 自体 は、 別に 目新 しい こと では ない
。た だし
、三 つの 点に 注意 を喚 起し てお きた い。 第一 は、 とり わけ ツィ ペリ ウス
=
ヴ ュル テン ベル ガー が簡 潔に 述べ てい るよ うに︵﹁ 憲法 は、 国家 の支 配を 樹立 し、 組織 し、 制限 する
。 つま り、 憲法 は、 支配 を樹 立す ると とも に制 限す る。
﹂︶
、憲 法は
、国 家権 力を 制限 する 法規 範で ある のみ なら ず、 まず は国 家権 力組 織を 樹立 する 法規 範で もあ ると いう
︵私 見で は︶ 自明 の点 が明 確に 認識 され てい るこ とで ある
。あ と で論 ずる よう に、
﹁固 有の 意味 の憲 法﹂ と﹁ 立憲 的意 味の 憲法
﹂の
﹁対 比論
﹂は
、こ れと は異 なる 理解 に立 つよ う
に思 われ る。 第二 は、 なお 丹念 な調 査を 要す るこ とで はあ るが
、ド イツ 語圏 の憲 法理 論の 場合
、﹁ 固有 の意 味の 憲法
︵本 来的 意味 の憲 法︶
﹂と いう 用語 は使 用さ れて いな いよ うに 見受 けら れる こと であ る。
﹁固 有の 意味 の憲 法﹂ また は﹁ 本来 的意 味の 憲法
﹂と いう 日本 語が
、
V e r f a s s u n g i m e i g e n t l i c h e n S i n n e
とい うド イツ 語の 翻訳 であ ろう こと は容 易に 想像 され るの で、 これ は意 外な こと であ る。 しか し、︵ 探索 のか ぎり 今︶ 日の ドイ ツ語 圏の 憲法 学で は一 般的 な用 語 では( )
ない
。例 外的 なケ ルゼ ンの 記述 をす ぐあ とで 紹介 する
。 第三 は、 ドイ ツ語 圏で は
K o n s t i t u t i o n a l i s m u s
の 語が 日本 でい う﹁ 立憲 主義﹂と はや や異 なる 意味 合い や文 脈で 使用 され てき たか らだ と推 測さ れ
(% )
るが
、﹁ 立憲 的意 味の 憲法
﹂と いう 用語 も見 受け られ ない 点で
(&
)
ある
。
⑹
いま 述べ たよ うに、ド イツ 語圏 の文 献で は、
﹁固 有の 意味 の憲 法﹂ とい う用 語は 一般 には 使用 され ない
。ケ ルゼ ンが
﹁国 事裁 判権 の本 質と 発展
﹂と いう 論文 で憲 法概 念を 検討 した 部分 は、 管見 に属 する まれ な例 であ る。 や はり 該当 箇所 を逐 語的 に訳 して おく
︵傍 線は 本稿 筆者
。︶
﹁憲 法の 概念 が経 験し てき たさ まざ まな 変形 のな かか ら、 つね に手 を触 れら れる こと なく 続い てき た確 固た る核 心を つ かむ とす るな らば
、法 秩序
・国 家秩 序の 全体 を規 定し
︵こ の秩 序に よっ て形 成さ れた
︶共 同体 の本 質を 決定 する 最上 級の 原則 とい う観 念に いき つく
。憲 法の 概念 をど のよ うに 定義 する とし ても
、そ の定 義は
、そ の余 の秩 序が その 上に 建設 され る国 家の 基盤 を把 握す ると いう 要請 に直 面す る。 仔細 に見 ると
、憲 法の 概念 はこ の文 脈で は国 家形 態の 概念 と重 なり 合 い、 とり わけ 状況 によ って は政 治的 権力 の現 状が
、そ こに その 法的 表現 を見 出す ひと つの 原則 が想 定さ れて いる
。こ の原 則と は、 法律
、す なわ ち、 裁判 所や 行政 官庁 のよ うな 国家 機関 の活 動が その 執行 であ ると ころ の一 般的 規範 の成 立を 決定 する 準則 のこ とで ある
。と りわ け国 家秩 序を 形成 する 法規 範の 産出 に関 する 準則
、す なわ ち立 法の 機関 と手 続に 関す る準
則、 これ が固 有の
、始 原的 な、 狭義 の憲 法概 念で ある
。こ の基 本準 則の 定立 は、 国家 とい う共 同体 を形 成す る人 間の 相互 行為 を規 律す る法 規範 の成 立に とっ て不 可欠 の条 件で あり
、こ の準 則の 適用 と執 行に 必要 な機 関と その 行動 を規 定す る法 規範 にと って も不 可欠 の条 件で ある
。憲 法の 基本 準則 はす べて の国 家秩 序の 確固 とし た、 した がっ て可 能な 限り 永続 的な 基盤 を成 すと いう 考え 方か ら、 憲法 規範 と法 律規 範と の区 別の 必要 性と いう 観念 が生 ずる
。憲 法規 範は 法律 規範 と同 じ簡 単さ で改 正す るこ とは でき ない
。通 常の 法律 形式 から 区別 され た憲 法形 式と いう 概念 が成 立す る。 すな わち
、立 法手 続と は異 なる
、加 重さ れた 要件 と結 びつ いた 憲法 制定
︵憲 法改 正︶ 手続
﹇の 概念 であ る﹈
。理 想的 なケ ース では
、﹇ 加重 され た 制定
・改 正手 続と いう
﹈特 殊な 形式 は、 この 狭義 かつ 固有 の意 味に おけ る憲 法だ けに 限定 され るの で、 あま りよ い言 い方 では ない がふ つう はそ う言 い慣 わさ れて いる 実質 的意 味の 憲法 が形 式的 意味 の憲 法で もあ り、 実質 的意 味の 憲法 だけ が形 式的 意味 の憲 法で もあ るの で
(( )
ある
﹂。
⑺
右の 訳の うち、傍 線を 付し た第 一の 文章 から わか るよ うに
、ケ ルゼ ンの
﹁実 質的 意味 の憲 法﹂ の概 念内 容は 通説 的理 解よ りも 狭く
、﹁ 立法 の機 関お よび 手続 の準 則﹂ を意 味し
、こ れを ケル ゼン は﹁ 固有 の、 始原 的な
、狭 義 の憲 法概 念﹂ とよ んで いる
。そ の上 で、 ケル ゼン によ れば
、理 想的 には この
﹁固 有の 意味 の憲 法﹂ だけ が加 重さ れ た特 別の 法典 の形 式で 守ら れる べき であ り、 そう なっ てい れば
、﹁ 固有 の意 味の 憲法
﹂と
﹁形 式的 意味 の憲 法﹂ の 規範 内容 は完 全に 一致 する こと にな る。 この 趣旨 を述 べた 二番 目の 傍線 を引 いた 文章 の末 尾で ケル ゼン は、
﹁固 有 の意 味の 憲法
﹂は
、﹁ あま りよ い言 い方 では ない がふ つう は﹂
﹁実 質的 意味 の憲 法﹂ と﹁ 言い 慣わ され てい る﹂ とし てい る。 ここ から
、﹁ 固有 の意 味の 憲法
﹂と
﹁実 質的 意味 の憲 法﹂ は同 義で ある が、 ドイ ツ語 圏で は一 般に
﹁実 質 的意 味の 憲法
﹂と いう 用語 が使 用さ れて いる とい うの がケ ルゼ ンの 理解 であ るこ とが わか る。
⑻
日本 の学 界で もド イツ 語圏 の伝 統に 忠実 な用 語法 をと る例 は( )
多い
。こ こで は、 その 例証 とし て、 第二 次大 戦
10
前で は美 濃部 達吉
、戦 後に つい ては 小嶋 和司 をあ げて おき たい
。
美濃 部﹃ 憲法 撮要
﹄の 憲法 概念 の説 明は 以下 のと おり であ る︵ 漢字 カタ カナ 混じ り旧 字体 の原 文を 漢字 ひら がな 混 じり 新字 体に 改め た︶
。
﹁憲 法と いふ 語は 種々 の意 義に 用ゐ らる
。第 一に 其の 実質 的意 義と 形式 的意 義と を区 別す るこ とを 要す
。実 質的 の意 義 にお いて は、 憲法 とは 国家 の組 織及 作用 に関 する 基礎 法を 意味 す。 詳言 すれ ば国 家の 領土 の範 囲、 国民 たる 資格 要件
、国 家の 統治 組織 の大 綱、 国家 と国 民と の関 係に 関す る基 礎法 則は 此の 意義 に於 ける 憲法 に属 す。
…… 実質 の意 義に 於け る憲 法は
、其 の形 式よ り謂 へば
、総 ての 国法 と同 じく
、或 は成 文法 を以 て定 めら るる もの あり
、或 は 不文 の慣 習法 又は 理法 とし て存 する に止 まる もの あり
。第 十八 世紀 の米 国及 仏国 の革 命に 至る 迄は 諸国 の憲 法は 大部 分は 不文 法よ り成 るを 普通 と為 した るに 反し て、 米国 及仏 国の 革命 後立 憲制 度が 各国 に普 及す るに 随ひ
、此 の趨 勢は 全く 一変 して
、各 国は 新に 立憲 制度 を採 ると 共に 何れ も文 書を 以て 国家 の基 礎法 を定 め、 之を 其の 国の 憲法 とし て公 布し
、而 して 形式 上之 を普 通の 法律 と区 別す るに 至れ り。 此の 如く 形式 的に 憲法 とし て定 めら れ、 普通 の法 律と 区別 せら るる もの を形 式の 意義 に於 ける 憲法 又は 成文 憲法 と
( )
謂ふ
﹂
11
⑼
第二 次大 戦後 の日 本の 学界 にお いて、憲 法の 概念 に関 する 最も 詳細 な考 察を 展開 し、 伝統 的用 語法 を整 理確 認し た憲 法学 者の 代表 とし ては
、小 嶋和 司を あげ るこ とが でき る。 その 体系 書の 解説 を引 いて おく
︵傍 線は 本稿 筆 者︶
。
﹁
, c o n s t i t u t i o n
の語 義さ なが らに、国 家ま たは 政府 の構 造・ 組織 の秩 序を さし て用 いら れる
。秩 序が 成文 であ ると 不 文で ある とを とわ ずに もち いら れ、
﹃国 家あ ると ころ
、憲 法あ り﹄ とい われ る場 合の
﹃憲 法﹄ はこ の意 味の もの であ る。 歴史 家が
﹃古 代ア テネ の憲 法﹄
﹃古 代ロ ーマ の憲 法﹄ とい う場 合の
﹃憲 法﹄ はこ の意 味で
、法 学者 はこ れを
﹃本 来的 意味
の憲 法﹄ また は﹃ 実質 的意 味の 憲法
﹄と よん でい る。
- ,
の 意味 での 憲法 の中、と くに 立憲 主義 を内 容と する もの をさ して
﹃憲 法﹄ とさ れる こと があ る。 この 場合 も、 そ の秩 序が 成文 であ るか 不文 であ るか は問 わな い。
﹃英 国は 憲法 の母 国で ある
﹄と いう 場合 の憲 法が これ で、 学者 はこ れを
﹃立 憲的 意味 の憲 法﹄ とよ んで いる
。
.
国家 構造・政 府組 織を 規定 する
、あ る種 の制 定法 が﹃ 憲法
﹄と よば れる こと があ る。 どの よう な制 定法 が﹃ 憲法
﹄ とさ れる か、 その 基準 のと り方 は一 様で はな く、 次の ごと きが ある
。
⒜
制定 法の﹁表 題﹂ に着 目す るも の。
……
⒝
制定 法の﹁内 容﹂ に着 目す るも の。 すな わち
、﹃ 本来 的意 味の 憲法
﹄の 概要 の叙 述を 内容 とす る場 合、 当該 制定 法 は﹃ 憲法
﹄と よば れる
。一 九四 九年 の﹃ ドイ ツ連 邦共 和国 基本 法︵
G r u n d g e s e t z
︶﹄は
、実 は意 識的 に﹃ 憲法
︵
V e r f a s - s u n g
︶﹄ の名 称を 避け ての 命名 であ った が、
﹃西 ドイ ツ憲 法﹄ とか
﹃ボ ン憲 法﹄ と俗 称さ れる のは
、こ の例 であ る。
⒞
制定 法が もつ﹃法 的権 威﹄ に着 目す るも の。 すな わち
、第 三共 和制 フラ ンス の政 治組 織の 基本 は複 数の 憲法 的法 律
︵
l o i s c o n s t i t u t i o n e l l e s
︶に よっ て定 めら れ、 それ らは 通常 の法 律に 優る 法的 権威 をも つと され た。
…… わが
﹃大 日本 帝国 憲法
﹄﹃ 日本 国憲 法﹄ は右 のど の基 準に よっ ても
﹃憲 法﹄ とさ れる
。け れど も、 一八 一四 年の フラ ンス
﹃憲 法﹄ は
⒜
、
⒝
の意 味で は﹃ 憲法﹄で あっ たが
、
⒞
の意 味で はそ うで はな かっ た。 一八 四八 年の サル ジニ ア憲 法︵ 一八 六二 年イ タリ ア憲 法と され る︶ は⒝
の意 味で のみ﹃憲 法﹄ で、
⒜
、⒞
の 意味 では そう では ない。そ のた め、 学者 は右
⒜
、⒝
、⒞
い ずれ の基 準に よる かを 明示 した 上で、こ れら によ って
﹃憲 法﹄ とす る場 合に
﹃形 式的 意味 の憲 法﹄ とよ んで
( )
いる
﹂。
12
⑽
日本 国憲 法の 体系 的解 説書 とし ては、最 も詳 細と いっ てよ い小 嶋の 以上 の解 説に は、 本稿 冒頭 の﹁ テー ゼ﹂
①~
⑤の うち
①~
③が すべ て含 まれ てい る。 すな わち
、第 一に
、成 文・ 不文 を問 わず
、国 家の 構造
・組 織の 秩序 に関 する 法規 範が
、﹁ 本来 的意 味の 憲法 また
は実 質的 意味 の憲 法﹂ とよ ばれ る。
﹁本 来的 意味 の憲 法﹂ は﹁ 固有 の意 味の 憲法
﹂と 同じ であ るか ら、 ここ には
﹁実 質的 意味 の憲 法﹂ と﹁ 固有 の意 味の 憲法
﹂と は同 義だ とい う理 解が 示さ れて いる
。 第二 に、
﹁実 質的 意味 の憲 法﹂
︵本 来的 意味
=
固 有の 意味 の憲 法︶ のう ち、﹁立 憲主 義を 内容 とす るも の﹂ が﹁ 立憲 的意 味の 憲法
﹂で ある
。﹁ 立憲 的意 味の 憲法
﹂は
、﹁ 固有 の意 味の 憲法
﹂の 一種 であ り、 下位 概念 であ る。 第三 に、
﹁形 式的 意味 の憲 法﹂ とは
、次 の三 つの 要件 を
a n d / o r
で充 足す る制 定法 を意 味す る。 すな わち、
8
﹁憲 法﹂ とい う標 題を もつ
、
9
﹁実 質的 意味 の憲 法﹂ を内 容と して いる
、
:
︵改 正要 件が 加重 され るな ど︶
﹁特 別の 法 的権 威﹂ をも つと いう 三要 件で ある
。し たが って
、小 嶋の 理解 を敷 衍す れば
、﹁ 実質 的意 味の 憲法
﹂と
﹁形 式的 意 味の 憲法
﹂は
、一 方は 法形 式の 如何 を問 わず 特定 の内 容の 法規 範、 他方 は特 定の 形式
・内 容の 制定 法と いう
、異 な る観 点か ら選 択さ れた 法規 範の 集合 であ って
、対 立概 念で はな い。
︵
︶ R. Zi pp el iu s/ Th .W ür te nb er ge r, De ut sc he sS ta at sr ec ht ,3 2. Au fl ., 20 08 ,S .4 1f .
︵
︶ K. St er n, St aa ts re ch td es Bu nd es re pu bl ik De ut sc hl an dB d. ,2 .A uf l. ,1 98 4, S. 72 f.
Ⅰ
︵
︶ W. Ha ll er /A .K öl z, Al lg em ei ne St aa ts re ch t, 3. Au fl ., 20 04 ,S .9 7- 99 .
︵
︶ 教科 書類 では
、C h. De ge nh ar t, St aa ts re ch t St aa ts or ga ni sa ti on si re ch t, 24 .A uf l. ,2 00 8, S. 5; E. St ei n/ G. Fr an k, St aa ts re ch t, 18 .A uf l. ,2 00 2, S.
Ⅰ
11 f. も、
﹁実 質的 意味 の憲 法﹂
﹁形 式的 意味 の憲 法﹂ につ いて 説明 する が、
﹁固 有の 意味 の憲 法﹂ とい う用 語に は触 れて いな い。 また
、代 表的 な 個別 研究 を例 にと ると
、P .B ad ur a, Ve rf as su ng ,i n: Ev an ge li sc he sS ta at sl ex ik on ,3 .A uf l. ,B d. ,1 98 7, Sp .3 73 7f f.
;J .I se ns ee ,S ta at un d
Ⅱ
Ve rf as su ng ,i n: Hb St R ,3 .A uf l. ,2 00 4, S. 3f f. でも
、﹁ 固有 の意 味の 憲法
﹂と いう 用語 は使 用さ れて いな い。
Ⅱ
︵%
︶ 参照
、赤 坂正 浩﹃ 立憲 国家 と憲 法変 遷﹄ 信山 社二
〇〇 八年 二六
~二 八頁
、七 五頁
、一 三三
~一 三五 頁。
︵&
︶ 例外 的に
、マ ウン ツの 初版 の憲 法の 分類 には
、﹁ 自由 主義 的意 味の 憲法
﹂が あげ られ てい る。 これ は、 日本 の学 説に いう 立憲 的意 味の 憲法 にあ たる
。T h. Ma un z, De ut sc he sS ta at sr ec ht ,1 .A uf l. ,1 95 1, S. 31 .
︵(
︶ H. Ke ls en ,W es en un dE nt wi ck lu ng de rS ta at sg er ic ht sb ar ke it ,1 92 9, in :W RS .S .1 81 9. 菅野 喜八 郎﹃ 国権 の限 界問 題﹄ 木鐸 社一 九七 八年 七〇
~七 一頁
、古 野・ 前掲 注︵ ︶ 論文 六三
~六 五頁 参照
。
︵
︶ 明治 憲法 下の 憲法 解説 書で も、 国家 の組 織・ 作用 の基 本法 を広 義の 憲法
、そ のう ちで 立憲 政体 をと るも のを 狭義 の憲 法と 称す ると して
、
﹁ 10 立憲 的意 味の 憲法
﹂を
﹁実 質的 意味 の憲 法﹂ の一 種と 捉え
、他 方、 成文 憲法 典を
﹁形 式的 意味 の憲 法﹂ とも 呼ぶ とし て、 伝統 的用 語法 に忠 実 な説 明を おこ なう のが 一般 的だ った よう に思 われ る。 たと えば
、穂 積八 束﹃ 憲法 提要
・上 巻﹄ 有斐 閣書 房一 九一
〇年 一三 六~ 一三 七頁
、市 村 光恵
﹃憲 法要 論﹄ 有斐 閣書 房一 九〇 四年 一一 七~ 一二
〇頁
、上 杉慎 吉﹃ 新稿 憲法 述義
﹄有 斐閣 一九 二三 年二 三四
~二 三八 頁、 金森 徳次 郎﹃ 帝 国憲 法要 綱﹄ 巌松 堂一 九二 五年 五二 頁。 日本 国憲 法の 主要 な解 説書 では
、小 嶋・ 概説 のほ かに も、 たと えば
、清 宮四 郎﹃ 憲法
Ⅰ・ 第三 版﹄ 有斐 閣一 九七 九年 六~ 七頁
、伊 藤正 己﹃ 憲 法・ 第三 版﹄ 弘文 堂一 九九 五年 七~ 八頁 が、
﹁実 質的 意味 の憲 法﹂ と﹁ 形式 的意 味の 憲法
﹂に つい て伝 統的 な用 語法 に従 った 説明 をし てい る。
︵
︶ 美濃 部達 吉﹃ 憲法 撮要
﹄︵ 第五 版第 三刷
︶有 斐閣 一九 三二 年七
〇~ 七一 頁。
︵ 11
︶ 小嶋 和司
﹃憲 法概 説﹄ 良書 普及 会一 九八 七年
、信 山社 によ る復 刻版 二〇
〇四 年二
~三 頁。 12
三 佐々 木惣 一説 とそ の影 響
⑴
以上 のよ うな 用語 法が、ド イツ およ び日 本の 憲法 学の 伝統 的な 言葉 遣い であ ると すれ ば、
﹁は じめ に﹂ であ げた
﹃憲 法・ 第四 版﹄ に示 され た芦 部説 は、 明ら かに 伝統 的用 語法 とは 異な る。 この 点を もう 一度 確認 する ため に、 憲法 の概 念に つい てい っそ う詳 細な 考察 を展 開し てい る﹃ 憲法 学Ⅰ
﹄も みて おこ う。 そこ には 次の よう な記 述 があ る。
﹁実 質的 憲法 概念 のう ち、
…… 国の 統治 の基 本に 関す るル ール
︵国 家の 基礎 法︶ とし ての 憲法 を、 通常
﹃固 有の 意味 の 憲法
﹄と 呼ぶ
﹂。
﹁こ れに 対し て、 実質 的憲 法概 念の うち
、…
…立 憲的 な︵
c o n s t i t u t i o n a l
︶諸 制度 に関 する ルー ルと して の 憲法 は、 市民 革命 期に
、政 治権 力を 制限 する 規範 体系
・規 範秩 序と して 説か れた
……
﹂。
﹁実 質的 憲法 概念 の① と②
、す な わち
、﹃ すべ ての 国に 憲法 は存 する
﹄と いう 命題
﹇固 有の 意味 の憲 法﹈ と、
﹃憲 法は 自由 国家 の基 本法 であ る﹄ とい う命 題
﹇立 憲的 意味 の憲 法﹈ は、 論理 的に は結 びつ かな いも ので ある
。そ れが 同じ 実質 的憲 法と いう カテ ゴリ ーに 一括 して 分類 され たの は、
…… 法実 証主 義の 憲法 理論 では
、一 般に
、法 の内 容は 法の 概念 に非 本質 的な もの と考 えら れ、 憲法 の場 合
も、 実質 より も成 文な いし 硬性
…… とい う形 式こ そが 重視 され たか らで
( )
ある
﹂。
13
また
﹃憲 法学
Ⅰ﹄ では
、﹁
﹃実 質的 意味 の憲 法﹄ を﹃ 固有 の意 味の 憲法
﹄…
…に 限定 し、
﹃近 代的 意味 の憲 法﹄
…… を実 質的 概念
・形 式的 概念 の区 別と は別 のカ テゴ リー の概 念と して 説く 学説 も有 力﹂ だと して
、佐 々木 惣一
、 清宮 四郎
、小 嶋和 司の 著作 があ げら れ、 芦部 自身 はそ れに は従 えな いこ とも 示唆 され て
( )
いる
。
14
こう した 理解 は、 ドイ ツの 実証 主義 公法 学が
﹁固 有の 意味 の憲 法﹂ と﹁ 立憲 的意 味の 憲法
﹂を
﹁実 質的 意味 の憲 法﹂ の下 位概 念と 捉え てい ると いう 認識 にお いて も、 小嶋 説が
﹁立 憲的 意味 の憲 法﹂ を﹁ 実質 的意 味の 憲法
﹂と 独 立の 概念 とし て位 置づ けて いる とい う認 識に おい ても
、到 底正 確と はい えな いだ ろう
。私 見に よれ ば、 むし ろ芦 部 説こ そ、 その 注で あげ られ た佐 々木 惣一 の用 語法 の影 響を 色濃 く受 けて いる よう に思 われ る。 そこ で次 に佐 々木 惣 一の 見解 をみ てみ るこ とに した い。
⑵
佐々 木の 明治 憲法 時代 の体 系的 解説 書﹃ 日本 憲法 要論﹄は
、憲 法の 概念 を以 下の よう に整 理し てい た。 ここ でも 煩を 厭わ ずに 原文 を引 用す る︵ 漢字 カタ カナ 混じ り旧 字体 の原 文を 漢字 ひら がな 混じ り新 字体 に改 めた
︶。
﹁憲 法の 概念 に就 ては 其の 本来 の概 念と 近代 の国 家論 に於 て用 ゐら るる 概念 とを 区別 する を要 す。 今後 者を 前者 に対 し て憲 法の 近代 的概 念と 云ふ
。 第一
憲法 の本 来の 概念
。憲 法の 本来 の概 念に 就て も亦 実質 的概 念と 形式 的概 念と を区 別す るを 要す
。 一 憲法 の実 質的 概念
。実 質的 概念 とし て、 憲法 とは 国家 の根 本法 即ち 国家 に関 する 根本 規範 を定 むる 法を 謂ふ
。之 を 実質 憲法 と名 く。
…… 実質 的概 念た る憲 法は 国と して 之を 有せ ざる はな し。 但是 れ国 家前 に成 立し て而 して 後に 国家 が必 ず憲 法を 定む と云 ふ
に非 ず。 国家 の成 立と 共に 必ず 憲法 あり
。憲 法な くし て国 家あ るを 得ざ るな り。 二 憲法 の形 式的 概念
。形 式的 概念 とし て、 憲法 とは 憲法 なり しと て制 定発 布せ られ たる 法を 謂ふ
。之 を形 式憲 法と 名 く。 即ち
、国 家が 特に 其の 法を 以て 国家 に関 する 根本 規範 を定 め他 の法 と区 別す るこ とを 示し たる もの なり
。…
… 第二
憲法 の近 代的 概念
。近 代の 国家 論に 於て 憲法 と云 ふと きは
、特 殊の 意義 を有 し、 特に 国家 の根 本法 にし て立 憲政 体を 定む るも のの みを 指す の慣 例と す。 此の 意義 に於 ける 憲法 は立 憲国 のみ 之を 有す
。其 の形 式憲 法即 ち所 謂成 文憲 法た ると 実質 憲法 即ち 不文 憲法 たる とは 問ふ 所に 非ざ る
( )
なり
﹂。
15
⑶
他方、佐 々木 の日 本国 憲法 の体 系的 解説 書﹃ 日本 国憲 法論
﹄で は、 以下 のよ うな 説明 にな って いる
。
﹁法 の中 特に 憲法 と呼 ばれ る特 別の もの があ る。 憲法 の概 念に つい ては その 概念 を構 成す る場 合の 着眼 点を 定め なく て はな らぬ
。 第一
規定 の性 質に 着眼 する 概念
これ に本 来の 概念 と近 代的 の概 念と の区 別が ある
。 一 憲法 の本 来の 概念
本来 の概 念と して
、憲 法と は国 家の 根本 法を いう
。即 ち根 本的 の見 地で 国家 に関 して 規律 す る法 をい う。
…… かか る意 味の 憲法 はい かな る国 家に おい ても 存在 する
。憲 法な き国 家と いう もの は論 理的 に考 えら れな いの であ る。
…… 二 憲法 の近 代的 概念
ここ に憲 法の 近代 的概 念と は、 憲法 の概 念と して 近代 に至 つて 成立 した もの であ る。 近代 の 国家 論に おい て憲 法と いう とき は、 国家 の根 本法 であ つて 立憲 政体 を定 める もの のみ を指 して いう の例 であ る。
…… 第二
存在 の形 態に 着眼 する 概念
これ に実 質的 の概 念と 形式 的の 概念 との 区別 があ る。 一 憲法 の実 質的 概念
実質 的概 念と して
、憲 法と は国 家の 根本 法た る性 質を 有す る法 を指 して
、国 家が これ を根 本 法と する 意思 を表 示す ると 否と に関 せず
、称 する
。略 して 実質 憲法 とい う。
二 憲法 の形 式的 概念
形式 的概 念と して
、憲 法と は国 家が 国家 の根 本法 であ ると して 制定 公布 した 法を いう
。略 し て形 式憲 法と いう
。…
…右 の形 式的 概念 とし ての 憲法 は、 法そ のも のと して は、 前述 の本 来的 意味 の憲 法と 一致 する
。併 しこ れを 見る 着眼 点が 異な る。 然し なが ら、 前述 の近 代的 概念 とし ての 憲法 とは 一致 しな い。 立憲 政体 を認 めな い根 本法 であ つて も、 形式 憲法 たる 根本 法で ある こと を妨 げな いか らで
( )
ある
﹂。
16
⑷
この よう にみ てみ ると、佐 々木 の憲 法概 念論 には
、戦 前と 戦後 で看 過で きな い相 違が ある
。そ こで まず
、戦 前の 憲法 概念 論の 特色 とそ の問 題点 をみ てお きた い。 戦前 期佐 々木 説の 第一 の特 色と
︵私 見に よれ ば︶ 同時 に問 題点 は、
﹁憲 法の 本来 の概 念﹂ と﹁ 憲法 の近 代的 概念
﹂ とを
、ま ず区 別し なけ れば なら ない とし てい る点 であ る。 もし
、佐 々木 が、 これ によ って
、伝 統的 用語 法と 同じ く
﹁憲 法の 近代 的概 念﹂ は﹁ 憲法 の本 来の 概念
﹂の 一種 であ ると いう 趣旨 を述 べた かっ たの だと すれ ば、 両者 を並 列 的に 掲げ てそ の区 別を 強調 する 表現 形式 はミ スリ ード だと いう こと にな るだ ろう
。ま た、 もし
、佐 々木 が、
﹁憲 法 の本 来の 概念
﹂と
﹁憲 法の 近代 的概 念﹂ とを 対置 して いる ので あれ ば、 佐々 木の いう
﹁憲 法の 近代 的概 念﹂ とは
、 立憲 政体 をと る国 家の 根本 法で ある から
、こ れと 対置 され る﹁ 憲法 の本 来の 概念
﹂と は、
﹁立 憲政 体を とら ない 国 家の 根本 法﹂ を意 味す るこ とに なる はず で、
﹁憲 法の 本来 の概 念﹂ のさ らに 下位 区分 とさ れる
﹁憲 法の 実質 的概 念﹂ が、 立憲 的た ると 非立 憲的 たる とを 問わ ず﹁ 国家 の根 本法
﹂の 意味 だと され てい るこ とと 平仄 が合 わな い。 戦前 期佐 々木 説の 第二 の特 色と 問題 点は
、﹁ 憲法 の本 来の 概念
﹂と
﹁憲 法の 実質 的概 念﹂ を区 別し
、﹁ 憲法 の本 来 の概 念﹂ を﹁ 憲法 の実 質的 概念
﹂お よび
﹁憲 法の 形式 的概 念﹂ の上 位概 念と 位置 づけ てい るこ とで ある
。引 用し た 箇所 を確 認す れば わか るよ うに
、こ の位 置づ けの 結果
、佐 々木 のい う﹁ 憲法 の本 来の 概念
﹂は
、奇 妙な こと に定 義 を欠 いた もの とな って いる
。﹁ 憲法 の本 来の 概念
﹂は
、そ の下 位概 念で ある はず の﹁ 憲法 の実 質的 概念
﹂と 実際 は
同義 のよ うに もみ える し、 また
﹁憲 法の 近代 的概 念﹂ との 対置 から する と、 上述 のよ うに
﹁非 立憲 的憲 法﹂ を指 す よう でも あっ て、 はな はだ 明確 を欠 く。 戦前 期佐 々木 説の 第三 の特 色と 問題 点は
、﹁ 憲法 の実 質的 概念
﹂と
﹁憲 法の 形式 的概 念﹂ の区 別の 仕方
、特 に
﹁憲 法の 実質 的概 念﹂ の理 解の 仕方 にあ る。 佐々 木の いう
﹁憲 法の 本来 の概 念﹂ が、 さら に﹁ 憲法 の実 質的 概念
﹂ と﹁ 憲法 の形 式的 概念
﹂と に区 別さ れる こと から
、﹁ 憲法 の近 代的 概念
﹂の ほう も、 それ が﹁ 憲法 の本 来の 概念
﹂ の下 位概 念で ある にせ よ、 対立 概念 であ るに せよ
、﹁ 実質 的概 念﹂ と﹁ 形式 的概 念﹂ に区 別さ れる こと にな ると 思 われ る。 現に 佐々 木は
、﹁ 近代 的意 味の 憲法
﹂と は﹁ 特に 国家 の根 本法 にし て立 憲政 体を 定む るも のの みを 指す の 慣例 と﹂ し、
﹁其 の形 式憲 法即 ち所 謂成 文憲 法た ると 実質 憲法 即ち 不文 憲法 たる とは 問ふ 所に 非ざ るな り﹂ とし て いる
︵傍 線は 本稿 筆者
。︶ ここ では
、﹁ 形式 的意 味の 憲法
﹂は 成文 憲法
、﹁ 実質 的意 味の 憲法
﹂は 不文 憲法 と等 置さ れ、
﹁形 式的 意味 の憲 法﹂ と﹁ 実質 的意 味の 憲法
﹂と が対 立概 念と 考え られ てい る。 しか し、 伝統 的用 語法 では
、
﹁実 質的 意味 の憲 法﹂ とは
、そ の内 容が 国家 の最 高諸 機関 の種 類・ 組織
・権 限の 基本 事項 等に 関す る法 規範 のこ と であ るか ら、 それ は不 文憲 法と 同義 では ない
。憲 法典 にま とめ られ てい ても
、複 数の 法的 文書 に分 散し てい ても
、 ある 部分 は法 典化 され
、あ る部 分は 不文 の慣 習で あっ ても
、そ うし た形 式と はま った くか かわ りな く、 内容 的に 最 高国 家諸 機関 の種 類・ 組織
・権 限の 基本 事項 等に 関す る法 規範 であ れば
﹁憲 法﹂ とよ ぶ、 とい う趣 旨な ので ある
。 つま り、
﹁実 質的 意味 の憲 法﹂ と﹁ 形式 的意 味の 憲法
﹂は
、法 規範 に関 する 異な る次 元の 分類 基準 なの であ って
、 対立 概念 では ない
。戦 前期 佐々 木説 には
、こ の点 の誤 解が ある よう に見 受け られ る。
⑸
憶測 を逞 しく すれ ば、 これ らの 不都 合に 気づ いた のか、戦 後の 佐々 木説 は、
﹁性 質﹂ に着 眼す る分 類と
﹁存 在の 形態
﹂に 着眼 する 分類 との 区別 とい う新 たな 観点 を導 入し
、﹁ 憲法 の本 来の 概念
﹂と
﹁憲 法の 近代 的概 念﹂ を
﹁性 質﹂ に着 眼し た分 類、
﹁憲 法の 実質 的概 念﹂ と﹁ 憲法 の形 式的 概念
﹂を
﹁存 在の 形態
﹂に 着眼 した 分類 と位 置づ