論
共
説同 不 法 行 為 に つ い て ︵ 上 ︶
交 通 事故 裁 判 例 を 素 材 とし て
淡 路 剛 久
は じ め に 一 二 つの 最 高 裁判 決 が 提起 し た 問 題 二つ の 最 高裁 判 決 提起 し た 問題 二 共 同不 法 行 為の 成 立 と共 同 不 法 行為 論 の 意義
要件 論 か らの ア プ ロー チ かつ て の 通説
我妻 説
・ 加 藤説 個別 的 因 果関 係 と 関連 共 同 性 に関 す る 学説 共同 不 法 行為 と 不 法行 為 の 競 合︵ 競 合 的不 法 行 為︶ 以 上
︑ 本号
︶ 三 共 同不 法 行 為の 効 果 と共 同 不 法 行為 論 の 意義
効果 論 か らの ア プ ロー チ 四 共 同不 法 行 為の 意 義 につ い て
は じ め に 民 法 解 釈論 に お い て は︑ ど の 領 域で も 多 か れ 少な か れ 言 える こ と で あ るが
︑ と り わけ 不 法 行 為 法の よ う に
︑条 文
の 規 定 が 少な く 判 例 が 数多 く 存 在 して い る 領 域 では
︑ 多 発 する 個 別 類 型 の不 法 行 為 事件 に 触 発 さ れて 解 釈 論 が展 開 さ れ る こ とが 多 く
︑ そ のよ う な 個 別領 域 の 解 釈 論の 展 開 は また
︑ 基 本 に 戻っ て
︑ 一 般論 の 構 築 を 促す こ と が 少な く な い
︒ 他 方︑ 一 般 論 は
︑個 別 紛 争 の多 様 な 事 案 に適 用 さ れ て具 体 的 な 解 釈規 範 を 生 み出 し た り
︑ 反対 に
︑ そ れで は 妥 当 な 解 決が 導 き 得 な いと き に は
︑一 般 論 の 再 検討 を 促 し
︑そ の 転 換 や 修正 を も た らす こ と に な る︒ こ の よ うに し て
︑ 個 別 領域 の 解 釈 論 と一 般 論 が フィ ー ド バ ッ クし な が ら
︑法 理 論 の 発 展が は か ら れる の が 普 通 だと い え よ う︒ 共 同 不 法 行 為論 に つ い て も︑ 同 様 の こと が い え る
︒ 本 稿 は
︑最 近 の 最 高 裁判 決 を 契 機と し て
︑ 交 通事 故 裁 判 例を 素 材 に
︑ 共同 不 法 行 為の 法 理 に つ き︑ 若 干 の 一般 論 的 察 を 加え て み よ う とす る も の であ る
︒ 一 二 つ の最 高 裁 判 決 が 提 起 し た 問 題 二 つの 最 高 裁 判 決
⑴ 近 時︑ 最 高 裁 か ら﹁ 交 通 事 故と 共 同 不 法 行為
﹂ に 関 して
︑ 二 つ の 判決 が 言 い 渡さ れ た
︒ 一 つは
︑ 交 通 事故 と 医 療 事 故 とが 順 次 競 合 した 不 法 行 為事 件 に 関 す る最 高 裁 平 成一 三 年 三 月 一三 日 判 決
︵民 集 五 五巻 二 号 三二 八 頁 で︶ あ り
︑ 判 例 集に は 次 の 二 点が 判 決 要 旨と し て あ げ られ て い る
︒す な わ ち
︑
① 交 通事 故 と 医 療 事故 と が 順 次競 合 し
︑ そ のい ず れ も が被 害 者 の 死 亡と い う 不 可分 の 一 個 の 結果 を 招 来 しこ の 結 果 に つ いて 相 当 因 果 関係 を 有 す る関 係 に あ っ て︑ 運 転 行 為と 医 療 行 為 とが 共 同 不 法行 為 に 当 た る場 合 に お いて
︑ 各 不 法 行 為者 は 被 害 者 の被 っ た 損 害の 全 額 に つ いて 連 帯 責 任を 負 う べ き もの で あ り
︑結 果 発 生 に 対す る 寄 与 の割 合 を も っ て 被害 者 の 被 っ た損 害 額 を 按分 し
︑ 責 任 を負 う べ き 損害 額 を 限 定 する こ と は でき な い
︒
② 交 通事 故 と 医 療事 故 と が 順 次競 合 し
︑ その い ず れ も が 被 害 者 の 死 亡 と い う 不 可 分 の 一 個 の 結 果 を 招 来 し こ
の 結 果 に つ い て 相 当 因 果 関 係 を 有 す る 関 係 に あ っ て
︑運 転 行 為 と 医 療 行 為 と が 共 同 不 法 行 為 に 当 た る 場 合 に お い て
︑ 過 失 相殺 は
︑ 各 不 法行 為 の 加 害者 と 被 害 者 との 間 の 過 失の 割 合 に 応 じて す べ き もの で あ り
︑ 他の 不 法 行 為者 と 被 害 者 と の間 に お け る 過失 の 割 合 をし ん し ゃ く する こ と は 許さ れ な い
︒
⑵ も う一 つ は
︑ 複 数の 加 害 者 の過 失 と 被 害 者の 過 失 が 競 合 し て 生 じ た 交 通 事 故︵ 衝 突 事 故
︶ 事 件 に 関 す る 最 高 裁 平 成 一 五年 七 月 一 一 日判 決
︵ 民集 五 七 巻七 号 八 一五 頁
︶ で あり
︑ 判 決 の 要旨 は こ う であ っ た
︒
③ 複 数の 加 害 者 の過 失 及 び 被 害者 の 過 失 が 競 合 す る 一 つ の 交 通 事 故 に お い て
︑ そ の 交 通 事 故 の 原 因 と なっ た す べ て の 過失 割 合
︵ いわ ゆ る 絶対 的 過 失割 合
︶ を 認定 す る こ とが で き る と きは
︑ 絶 対 的過 失 割 合 に 基づ く 被 害 者の 過 失 に よ る 過失 相 殺 を し た損 害 賠 償 額に つ い て
︑ 加害 者 ら は 連帯 し て 共 同 不法 行 為 に 基づ く 賠 償 責 任を 負 う
︒ 提
起し た 問 題
⑴ こ れ ら 二 つ の 判 決 は
︑ 共 同 不 法 行 為 の 法 理 に 対 し て 次 の よ う な 問 題 を 提 起 し て い る と え ら れ る
︒ す な わ ち
︑ 第 一 に
︑平 成 一 三 年 判 決 が 本 件 事 案 を 共 同 不 法 行 為 に あ た る と 判 示 し た こ と の 意 義 は 何 か︵
①
︒ こ の 問 題 は
︑ 七 一 九 条 の共 同 不 法 行 為の 意 義 と 関わ っ て お り
︑共 同 不 法 行為 と は
︑ 七 一九 条 が 要 件と す る 関 連 共同 性 に よ って 成 立 す る 場 合の み を 意 味 する と え るべ き か
︑ と いう こ と で ある
︒ こ の 点 に関 し て は
︑共 同 不 法 行 為の 成 立 要 件お よ び 効 果 と の関 連 で 検 討 する 必 要 が あろ う
︒ 第 二 に
︑共 同 不 法 行 為に お い て
︑共 同 不 法 行 為者 の 一 方 また は 双 方 の 賠償 額 を 寄 与の 割 合 に よ って 限 定 す るこ と は 認 め ら れる か
︑ と い う問 題 が 提 起さ れ て い る︵
①
︒ こ の 問 題 は︑ 共 同 不 法行 為 の 損 害 賠 償 の 範 囲 の 問 題 で あ り
︑ そ れ は 各 人の 行 為 あ る いは 関 連 共 同性 と 判 例 が 準拠 す る 相 当因 果 関 係 と の関 係 に 関 わる
︒
第 三 は
︑ 平 成 一 三 年 判 決 と 平 成 一 五 年 判 決 が 判 示 し た 共 同 不 法 行 為 と 過 失 相 殺 と の 関 係 で あ る
︵②
︑
③
︒ 平 成 一 三 年 判 決が 示 し た 相 対的 過 失 相 殺論 の 根 拠 は なに か
︒ 平 成一 三 年 判 決 の過 失 相 殺 論と 平 成 一 五 年判 決 の 過 失相 殺 論 と は な んら か の 整 合 的理 解 を 必 要と す る よ う な 関 係 に あ る か︒ 平 成 一 五 年 判 決 が 判 示 し た
︑ 絶 対 的 過 失 割 合 に 基 づ く 被 害者 の 過 失 に よる 過 失 相 殺﹂ と い う 判 示の 射 程 範 囲は ど う か
︒ それ は
︑ 絶 対的 過 失 割 合 によ る べ き 場合 と 相 対 的 過 失相 殺 割 合 に よる べ き 場 合と の 関 係 を
︑ど う 整 合 的に 理 解 す る こと が で き るか
︑ と い う 問題 で も あ る︒ こ の 問 題 は
︑共 同 不 法 行 為に お け る 関連 共 同 性 と 過失 と の 関 係に 関 わ る 問 題を 提 起 し てい る よ う に もみ え る が
︑は た し て そ う か︒
⑵ 次 項で は
︑ ま ず
︑共 同 不 法 行為 の 成 立 に 関す る 近 時 の学 説 の 推 移 を︑ 個 別 的 因果 関 係 と 関 連共 同 性 と の関 係 に 関 す る 法理 論 を 中 心 にし て 概 観 し︑ そ の 上 で
︑私 見 に よ る関 連 共 同 性 の構 成 を 示 し︑ さ ら に
︑ 平成 一 三 年 判決 が 提 起 し た 要旨
① に 関 わ る論 点
︑ す なわ ち
︑ 交 通 事故 と 医 療 事故 の 責 任 を 共同 不 法 行 為と 判 示 し た こと の 意 義 を含 め て
︑ 不 法 行為 の 成 立 に 関わ る 共 同 不法 行 為 論 の 意義 を え てみ た い
︒ 二 共 同 不法 行 為 の 成 立 と 共 同 不 法 行 為 論 の 意 義
要 件 論か ら の ア プロ ー チ か つて の 通 説 我 妻 説
・ 加藤 説
⑴ 共 同不 法 行 為 の 一 般1
論 は
︑ かつ て
︑ 戦 前 の判 例
・ 学 説を 経 て
︑ 我 妻2
説 お よ び 我妻 説 を 継 承 した 加 藤 一 郎3
説 に よ っ て
︑ 通説 的 見 解 が 示さ れ て い た︒ 両 説 は
︑ 必ず し も 同 じで は な い が
︑そ の 特 色 を概 略 的 に い えば
︑ 次 の とお り で あ る
︒ 第 一 に
︑共 同 不 法 行 為 に は︑ 七 一 九 条 一 項 前 段 の 共 同 不 法 行 為 と
︵ 七 一 九 条 二 項 に よ り
︑ 教 唆 者︑ 幇 助 者 は 前 段 の 共 同 行為 者 と み なさ れ る
︑ 同 条 項後 段 の 加 害者 不 明 の 共 同不 法 行 為 があ る と さ れ
︑そ れ 以 外 の場 合
︵ 後の 有 力 学説 が
た と えば
﹁ 不 法 行為 の 競 合﹂ と し て議 論 す るよ う な 場合 な ど
︶ につ い て は ふれ ら れ て い ない
︒ 第 二 に
︑ 七 一 九 条 一 項 前 段 の 要 件 の う ち
︑ 因 果 関 係︵ 各 人 の 行 為 な い し 故 意 過 失 と 損 害 と の 間 の 因 果 関 係︶ の 要 件 と 関 連 共 同 性 の 要 件 に つ い て は
︑ そ れら 二 つ の 要 件の 関 係 が 意識 さ れ て い るよ う で あ り︑ 関 連 共 同 性の 要 件 に つい て 説 明 す る一 方
︑ 個 別的 因 果 関 係 に ふ れ な い か
︵我 妻 説
︑ あ る い は 関 連 共 同 性 と い う 中 間 項 を 通 し て 損 害 と の 因 果 関 係 が 認 め ら れ る︵ 加 藤 説
︶ と い った 要 件 論 が展 開 さ れ て いる
︒ 共 同 不法 行 為 の 成 立に 個 別 的 因果 関 係 が 必 要か に つ い て は
︑ そ れ 以 前 の 学 説 は
︑ そ れが 必 要 で あ るこ と を 当 然視 し て い た のに 対 し て
︑我 妻 説
︑ 加 藤説 で は 変 化が み ら れ 始 める の で あ4
る︒ し か し
︑ 両 説で は
︑ 未 だ 個別 的 因 果 関係 の 要 件 と 関連 共 同 性 の要 件 と の 関 係は
︑ 理 論 的に 明 確 に さ れて い な か った
︒ 第 三 に
︑ 関連 共 同 性 に つい て は
︑ 客観 的 共 同 説 がと ら れ て いた こ と で あ る︒ 第 四 に
︑故 意 過 失 お よび 責 任 能 力に つ い て は
︑ それ ぞ れ 各 人 に必 要 と 解 され て い た
︒ 第五 に
︑ 七 一九 条 一 項 後 段の 規 定 に つい て は
︑ 共 同行 為 を 違 法行 為 を す る 集 団行 動 と 狭 く 解し て い た よう で あ る こ と︑ そ の こ とと 関 係 す る が︑ 我 妻 説 にお い て は
︑ 因果 関 係 の 推定 規 定 と の 解 釈が と ら れ て いな か っ た こと
︑ を 指 摘 する こ と が でき よ う
︒ 第 六に
︑ 共 同 不法 行 為 の 効 果と し て は
︑共 同 不 法 行 為 と相 当 因 果 関 係に あ る 全 損害 に つ い て 共同 行 為 者 は責 任 を 負 う
︑と 解 し
︑ 原因 力 の 大 小 等を 問 題 と せず に 全 部 的 責 任を 負 う と こ ろに 共 同 不 法行 為 の 特 色 があ る
︵ 我妻 説
︑ と さ れ て いた
︒
1 共同 不 法行 為の 一 般論 に 関す る判 例
・学 説 の立 ち 入っ た検 討 は多 数 ある
︒た と え ば︑ 平 井 宜 雄﹁ 共 同 不 法 行 為に 関 す る 一 察﹂
﹃民 法 学 の 現 代 的課 題
﹄ 川 島 還暦 記 念︶ 岩 波書 店
︑一 九 七二 年
︶二 八九 頁 以下
︵ 以下
︑ 平井
・ 一 察
﹂と して 引 用
︑淡 路
﹃公 害賠 償 の理 論
﹄ 有斐 閣︑ 一 九 七五 年
︑増 補版 一 九七 八 年︶ 一一 七 頁以 下
︵以 下
︑ 淡 路
・理 論
﹂と して 引 用
︑前 田 達明
﹁民 法 七一 九 条に つ いて
﹂﹃ 不法 行 為帰 責 論﹄ 創 文 社
︑一 九 七八 年︶ 二 四九 頁 以下
︵以 下
︑ 前田
・ 帰責 論﹂ と して 引 用
︑能 見 善 久
﹁共 同 不 法 行 為 責 任 の基 礎 的 察
︵一
︶
|︵ 八
・ 完
﹂法 協 九 四 巻二 号
・八 号︑ 九 五巻 三 号・ 八号
・ 一一 号
︑九 六 巻二 号・ 五 号︑ 一
〇二 巻一 二 号︵ 以 下︑ 能 見・ 基 礎的 察﹂ とし て 引用
︑ 神 田孝 夫﹁ 共 同 不 法行 為 学説 の 展開 過 程と 現状 分 析を 中 心に
﹂﹃ 不法 行 為責 任 の 研 究﹄ 一 粒 社
︑一 九 八 八 年
︶三
〇 二 頁 以 下︵ 以 下︑ 神 田
・ 研 究
﹂と し て 引 用
︑淡 路﹁ 共 同不 法 行為
因 果関 係 と関 連 共同 性を 中 心に
﹂﹃ 損 害賠 償法 の 課 題 と 展 望︵ 中
﹄ 石 田
・ 西 原・ 高 木 還 暦 記 念 論 文 集︶ 日