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漢字基礎調査(2)

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漢字基礎調査(2)

― 「JLC 日本語スタンダーズ」に即した漢字教材の開発に向けて ― 小林 幸江

(2009. 10. 31 受)

【キーワード】 「JLC 日本語スタンダーズ」、アカデミック日本語、「JLC 初級漢字」

0.はじめに

 「JLC(注 1)日本語スタンダーズ」(以下、「スタンダーズ」)は、アカデミック日本語 を優先した予備教育における日本語教育の指針を示したものである。現在、本留学 生日本語教育センター(以下、センター)では、この「スタンダーズ」に即した教材 の開発、授業実践が進められている。本稿では、「スタンダーズ」の視点から筆者が 行った漢字基礎調査(2)の結果について考察する。

1.調査の目的

 センターでは様々な日本語教育プログラムが行われているが、最も歴史の長いの が国費学部留学生を対象とした 1 年の日本語予備教育プログラムである。(以下、1 年コース)1 年コースでは、センター開発の初級から上級までの日本語教科書を用 いて日本語の集中教育が行われている。これらの教科書に取り上げられている文 型・語彙・漢字等の指導項目は他機関のものに比べ数が多い。漢字の場合、通年で 1500 字近い習得を目標としている。限られた時間で効率的な教育を行うため、指 導漢字は厳選される。『初級日本語』では、「日本の大学の 1 年次である程度まで教養 課程の授業が受けられること」「日本の新聞や放送等を通して社会生活に必要な情 報や一般的知識が概ね獲得できる」ことを指導目標に、(1)教育漢字に当たるもの、

熟語の構成要素となる有用性の高いもの、(2)語彙教育を優先するという立場から、

『日本語教育のための基本語調査』(国研 1984)の上位語の漢字が選ばれている。(注 2)

しかし、時間の経過とともに学習者の多様化、移転統合に伴うカリキュラムの見直 し等、1 年コースを取り巻く状況は大きく変化している。そうした変化に対応する ために「スタンダーズ」が開発された。「スタンダーズ」では、予備教育という限られ た時間で指導する日本語として、アカデミック日本語を優先している。そのため、『初

東京外国語大学

留学生日本語教育センター論集 36:71~83,2010

(2)

級日本語』と「スタンダーズ」の目指すものとの間にズレが生じてきている。本稿は、

「スタンダーズ」の視点から、『初級日本語』の漢字の内容を検証することを目的とす る。また、「スタンダーズ」に即した初級指導漢字(以下、「JLC 初級漢字」)について、

私案を述べたい。

2.前回の調査の概要

 前稿(2007)では、「スタンダーズ」に即した漢字教材で取り上げる漢字として、〈1〉

「日本語学習のために必要な基本語」を表す漢字、〈2〉「基礎アカデミック日本語」を 表す漢字、〈3〉「専門に特有な語」を表す 3 つを考えた。前回の調査では〈2〉の実態を 知る手掛りとして高校の教科書の漢字を「基礎アカデミック日本語」を表す漢字と 考え、センターの初級から上級までの日本語教科書と、国研の「高校教科書の漢字 調査」(1989)の資料との突合せを行った。国研の調査は、物理・化学・生物・地学 の理科 4 教科、倫理・政経・日本史・世界史・地理の社会 5 教科の計 9 教科の漢字 の頻度数を調査したものである。以下に、『初級日本語』の漢字に関連することで調 査からわかったことをまとめる。

・ 『初級日本語』の漢字で高校教科書には現れない漢字は、「好」(3 級)、「泣、忙」(2 級)の 3 字であった。その他の『初級日本語』の漢字は、使用頻度の差はあるが、

高校教科書に用いられている漢字と重なる。

・ 日本語能力試験(以下、「日能試」)の 4 級、3 級漢字は基本的な漢字と考えられ ているが、そのすべてが高校教科書で頻度が高いわけではない。例えば、「駅、

午、週、店」(4 級)、「顔、姉、暑、夕、洗、昼、晩、勉、妹、曜」(3 級)の漢字は、

高校教科書での使用は 1 例、または数例を数えるのみであった。

・ 社会の科目は、理科に比べ語彙が多く、漢字数も延べ・異なり字数ともに理科 の科目の約 2 倍となっている。そのため、頻度の高い漢字を見ても、「民(3 級)、

政、戦(共に 2 級)」と社会の科目のものが多い。これらの漢字は『初級日本語』

には提出されているが、高校教科書で同じく高い頻度で現れる「酸、素、義(共 に 1 級)」の漢字は、『初級日本語』には取り上げられていない。高校教科書の漢 字といっても文系、理系で使用の偏りが見られる。

・ 『初級日本語』の漢字で、「週、午(4 級)、顔、夕(3 級)」等造語力のある漢字、「玉、

才、皿、竹(2 級)、矢、刀、豆(1 級)」等漢字の部首をなす漢字は、高校教科 書では頻度は低いが、これは漢字及び語彙教育のための基本的な漢字と言える。

(3)

3.今回の調査の概要

 漢字教育は語彙教育であるとも言える。どんな漢字を教えるかは、どんな語彙を 教えるかと大いに関係している。そこで、普通はまず語彙調査があって、そこから 指導漢字が抽出されることになる。しかし、本稿は、その手順を踏んでいない。今 回の調査では、大学進学を目指す、または大学で学ぶ留学生を対象に編まれた日本 語初級教科書に共通に提出されている漢字を上記〈2〉「日本語学習のために必要な 基本語」を表す漢字とし、他機関の日本語初級教科書とセンターの『初級日本語』の 漢字の突合せを行うことにより、その実態を探った。

3-1 資料

 今回の調査では、調査対象を初級漢字に絞っている。本稿では、以下の 4 種の日 本語の初級テキストを資料として用いた。

(表 1)

テキスト名

(出版年) 開発機関 授業

時間数 漢字数 漢字選出の基準 A『初級日本語』

(『初級漢字練習帳 I』)

(2005)

(『中級漢字練習帳 I』

の中の「Extra」*1)

東京外国語大学 留学生日本語教育 センター

300 時間

(1 日 15 字以内)

600 字

(+Extra 200 字)

語彙の中から、教育漢字に当たるもの、

熟語の構成要素となる有用性の高いもの を中心に選出。

B『日本語初級 I』

『日本語初級 II』

(巻末の「漢字提出一 覧表」)(2001)

東海大学留学生教 育センター

550 字 ・知的な語彙を必要とする内容を表すた めの漢字

C『 漢 字 ベ ー シ ッ ク 500』(VOL1・2)(1989)

筑波大学留学生教 育センター

500 時間

(初級集中 コース)

500 字 ・漢字の成り立ちを教えるための漢字(象 形文字・指示文字・会意文字など)

・漢字力を読解に繋げるために、主語・

述語となる基本的な名詞・動詞・形容 詞に使われる漢字

・部首の概念を教えるために、基本的な 部首として機能する漢字を選び、また 書く部首を持つ漢字がある程度まとま るように調整

・使用頻度や造語性が高い漢字を採用

(『新しい漢字用法辞典』学習研究社・『現 代新聞の漢字』『現代雑誌 90 種の用語用 字』国研)

・人名・地名や日常よく目にする表示の 漢字は 500 字の枠外で紹介

(4)

D『進学する人のため の日本語』(1998)

(『進学する人のため の日本語初級 漢字リスト』)

国際学友会日本語 学校 (現日本学生 支援機構)

300 時間

(1 日 8 字)400 字

(+13字)・基礎漢字(日常生活に密着している漢字)

・本文提出漢字

・関連漢字

・課外漢字(基礎漢字 20 字+本文提出漢 字)

*1 『中級日本語漢字練習帳 I』の「Extra」の漢字は、語彙としては『初級日本語』の本文中に提 出されているが、漢字表記は中級で導入される。「Extra」の漢字は、「初級漢字の延長線上」

(注 4)と考えられいるが、その扱いは曖昧である。本稿では、「Extra」の漢字も対象とし、

「JLC 初級漢字」を考える際の参考とした。

3-2 方法

 本稿では、以下の 4 つの調査を行った。

調査 1: 各日本語教科書の初級漢字の概要を知るため、資料 4 種の漢字について、

日能試のレベル別分布を見た。(表 2)

調査 2: 「日本語学習のために必要な基本語」を表す漢字の実態を見るため、資料 4 種、または、3 種に共通して提出されている漢字を抜き出した。さらに、

それらの漢字と前回の調査結果を比べ、高校教科書の漢字との重なりを見 た。(表 3)

調査 3: 『初級日本語』のその他の漢字の内容を見るため、『初級日本語』にのみ提出 されている漢字、及び資料の他 1 種に提出されている漢字と、高校教科書 の漢字との重なりを見た。(表 5)

調査 4: 「Extra」の漢字の内容を見るため、高校教科書に現れる漢字との重なりを 見た。(表 7)

3-3 結果

調査 1 資料 4 種の日能試のレベル別分布

(表 2)

日本語テキスト / 日能試レベル *2 4 級

(103 字) 3 級

(181 字) 2 級

(739 字) 1 級

(903 字) 合計

A『初級日本語』 103  177  304   16 600

「Extra」*3  0   4  135   61 200

B『日本語初級』I・II  103  170  263   19 555 C『漢字ベーシック 500』(VOL1・2)  103  165  226    6 500 D『進学する人のための日本語』  103  164  129    4 400

*2 日能試(基金他 2007)のレベル別の漢字数は、各レベルに新出の漢字数を、1 級は第 1 水 準の新出漢字数を示している。

*3 「Extra」の漢字は、新出漢字のみカウントした。

(5)

 『初級日本語』の 600 字は表 2 にあるように、4 級漢字の 100 %、3 級漢字の約 98 %、2 級漢字の約 40 %、1 級漢字の 1 %からなっている。日本語能力試験の 4 級、

3 級の選定基準(注 3)を考えると、この結果は当然とも言える。『初級日本語』は提出 漢字が 600 字と多いが、3 級漢字の「悪、菜、貸、曜」の 4 字は取り上げられておらず、

「Extra」に提出されている。

調査 2 4 種、3 種の資料に共通して提出されている漢字と、高校教科書の頻度の 高い漢字との重なり

(表 3)

日能試 4 種に共通 3 種に共通

4 級

高校教科書頻度 A*4:一 会 学 間 気 行 国 子 時 社 出 上 人 水 生 多 大 電 中 日 年 分 本 立

なし

高校教科書頻度 B:外 金 下 見 後 高 山 小 新 西 前 長 土 東 道 南 入 北

高校教科書頻度 C:安 右 円 何 花 火 空 月 言 古 語 口 今 三 車 手 十 書 少 食 川 先 足 天 二 白 半 万 名 目 来

高校教科書頻度 D:飲 雨 休 九 魚 *5 五 校 左 四 耳 七 *5 女 千 男 読 買 八 百 父 聞 母 毎 木 友 六 話

高校教科書頻度 E 駅・午・週・店

3 級 高校教科書頻度 A:運 家 業 合 自 質 体 代 度 動 発 物 文 方

主 世 地 民 力

高校教科書頻度 B:意 開 海 教 強 近 工 考 作 市 事 者 集 重 場 色 進 心 族 朝 通 図 同 特 有 明 問 用 理

以 都 働 不

高校教科書頻度 C:院 引 員 遠 音 回 起 急 京 銀 区 計 建 験 元 広 黒 私 思 紙 使 始 仕 止 試 字 持 弱 終 習 住 所 真 青 正 赤 説 送 村 太 題 知 町 転 田 頭 品 風 服 別 歩 門 野 料

画 漢 究 研 死 台 低 味 洋 林

高校教科書頻度 D:暗 医 英 屋 夏 歌 楽 館 寒 帰 牛 兄 軽 県 室 写 借 秋 春 乗 親 切 早 走 待 短 茶 着 注 鳥 弟 答 冬 肉 売 病 便 夜 薬 旅

映 去 犬 森

貸 *6

高校教科書頻度 E:顔 姉 暑 洗 昼 勉 妹 夕 飯

【好】 *7

(6)

2 級 高校教科書頻度 A:化 経 原 実 定 内 変 部 活 結 式 成 性 的 法 高校教科書頻度 B:温 機 形 向 最 細 次 受 数 全

第 配 要 利 類 連

期 次 現 資 速 議 共 農 府 平 面 約 流 和

高校教科書頻度 C:園 課 科 階 覚 記 決 公 交 港 降 号 残 指 寺 取 初 消 石 線 相 続 調 点 当 必 予 両

育 営 価 果 荷 管 呼 黄 術 信 深 直 鉄 熱 板 美 復 無 様 葉 例 論 落

高校教科書頻度 D:雲 押 横 願 喜 客 橋 困 糸 宿 静 雪 談 番 払 返 忘 遊 練

案 絵 丸 危 局 曲 苦 具 欠 険 故 婚 酒 授 席 草 打 宅 虫 庭 渡 登 念 馬 悲 夫 並 閉 頼 留 良 冷 録

高校教科書頻度 E:寝 晴 卒 晩 泳 竹 眠        【泣】【忙】

1 級 なし 証 訳

*4 高校教科書の頻度(前回調査参照) 前稿では便宜的に次の 5 つの頻度に分けて考えてい る。 頻度 A:1,000 回~ 5,000 回、頻度 B:500 回~ 999 回、

頻度 C:100 回~ 499 回、  頻度 D,:10 回~ 99 回、 頻度 E:1 回~ 9 回 *5 魚は社会の科目で使用 0 または 1 回の漢字。

七は理科系の科目で使用 0 または 1 の漢字。

*6

貸は「Extra」に提出されている漢字を表す。

*7 【好】は高校教科書に現れない漢字を表す。

 資料 4 種すべてに共通して提出されている漢字は 323 字、3 種に共通の漢字は 117 字、合わせて 440 字になる。その内訳は以下のとおりである。( )内の数字は、

『日本語初級』に占める割合を示す。

(表 4)

資料 4 種すべてに共通 資料 3 種に共通 合計

4 級 103 字 0 字 103 字

3 級 145 字 28 字 173 字

2 級 75 字 87 字 162 字

1 級 0 字 2 字 2 字

合計 323 字(約 54 %) 117 字(約 20 %) 440 字(約 73 %)

 4 種すべてに共通して提出されている漢字は、『初級日本語』の漢字の約半分を占 め、資料 3 種では約 2 割を占める。3 種、4 種合わせた 440 字は『初級日本語』の漢 字の約 7 割にあたる。

 440 字には 4 級の漢字はすべて含まれているが、3 級の漢字は「界 光 菜 産 首 声

(7)

池 堂」の 8 字が落ちている。このうち、「菜」を除く他の漢字は『日本語初級』には提 出されている。反対に、『初級日本語』には提出されていない「悪、菜、貸、曜」の 4 字のうち「菜」を除く他の漢字が 440 字に含まれている。2 級の漢字では、『初級日本 語』には現れない「置、暖、遅、難、辞」の 5 字が含まれている。(調査 4 参照)

 上の 440 字の漢字には、高校教科書には現れない【好】(3 級)、【泣、忙】(2 級)の 3 字が含まれている。「好」は 4 種共通、「泣、忙」は 3 種共通となっている。

調査 3 『初級日本語』にのみ提出されている漢字、及び『初級日本語』と他 1 種に提 出されている漢字と高校教科書の漢字との重なり

(表 5)

日能試 『初級日本語』にのみ提出されている漢字 『初級日本語』と他 1 種に提出されている漢字

3 級 高校教科書頻度 A: なし 産

高校教科書頻度 B: なし 界

高校教科書頻度 C:なし 光 首

高校教科書頻度 D:なし 声 池 堂

2 級 高校教科書頻度 A:戦 政 治 対

高校教科書頻度 B:神 争 位 関 係 制 反 表 由 高校教科書頻度 C:塩 央 王 各 岸 規 技

吸 血 件 固・戸 根 財 参 守 周 除 助 象 常 条 植 星 積 節 然 則 他 追 程 徒 等 独 任 波 破 布 負 仏 辺 末 命 卵 律 令 列

因 害 械 割 感 完 官 岩 器 減 史 失 商 将 身 船 然 組 増 側 倍 比 非 氷 普 米 放 務 役 油

高校教科書頻度 D:委 羽 寄 季 給 漁 御 迎 湖 幸 谷 祭 才 材 殺 師 勝 責 祖 途 乳 背 麦 坂 皮 亡 未 鳴 欲 輪

愛 介 角 許 算 若 修 順 招 昔 専 束 痛 貝 畑 毛 礼

高校教科書頻度 E:皆 皿 祝 召 申 灯 鼻 玉 紹 息 泊 訪

1 級 高校教科書頻度 B:統 なし

高校教科書頻度 C:系 宗 氏 なし 高校教科書頻度 D:汽 宮 攻 豆 羊 幹 奨

高校教科書頻度 E:刀 丈 丁

 『初級日本語』にのみ提出されている漢字は 97 字、『初級日本語』と他 1 種に提出 されている漢字は 73 字で、その内訳は以下のとおりである。

(8)

(表 6)

『初級日本語』にのみ提出されてい

る漢字 『初級日本語』と他 1 種に提出され

ている漢字 合計

3 級 0 字 7 字 7 字

2 級 87 字 62 字 149 字

1 級 10 字 4 字 14 字

合計 97 字 73 字 170 字

 『初級日本語』に提出されている 2 級、1 級の漢字の中には、高校教科書頻度の高 いものとの重なりが多く見られる。一方、1 回または数回しか表れない頻度 E の漢 字を見ると、「玉、皿、氏、申、豆、刀、羊」等、漢字の部首をなすものが含まれて いる。これらの漢字をどう扱うかは教授法とも関係し、頻度からだけでは優先度は はかれない。

調査 4 「Extra」の漢字と高校教科書に現れる漢字との重なり

(表 7)

日能試

3 級 高校教科書頻度 D:悪 *8 菜 貸 高校教科書頻度 E:曜 2 級 高校教科書頻度 B:際 保 溶

高校教科書頻度 C:違 栄 過 革 球 航 混 砂 察 雑 震 勢 準 製 選 造 測 尊 断 単 断 段 値 置 投 備 複 望 歴 路

高校教科書頻度 D:汚 簡 乾 慣 希 久 狭 供 勤 君 敬 警 券 健 庫 康 硬 厚 紅 座 歳 札 散 誌 辞 似 捨 触 焼 吹 績 折 掃 蔵 袋 探 暖 遅 頂 沈 停 倒 湯 軟 難 拝 薄 箱 飛 髪 筆 秒 貧 沸 婦 符 壁 棒 枚 迷 絡 裏 涼 緑 齢 零

高校教科書頻度 E:靴 看 甘 机 胸 肩 咲 歯 枝 拾 柔 笑 畳 辛 窓 贈 恥 珍 怒 踊 凍 盗 曇 杯 疲 怖 坊 娘 郵 浴 恋 腕

【菓】【冊】【伺】【猫】 *9

1 級 高校教科書頻度 C:鉛 挙 護 射 昭 糖 養

高校教科書頻度 D:暇 壊 街 幾 堅 玄 厳 煮 邪 趣 縦 熟 飾 籍 騒 脱 誕 弾 締 討 敷 弁 乏 盆 網 誘 揺 隣

高校教科書頻度 E:桜 懸 嫌 寂 塾 詳 嬢 診 繰 怠 棚 釣 吐 踏 寧 輩 拍 魔 覧 【渇】【傘】【芝】【冗】【炊】【阪】【寮】

*8 悪は、資料 3 種、4 種に共通して現れる漢字を示す。

*9 【菓】は高校教科書に現れない漢字

(9)

 「Extra」に提出されている漢字は 200 字で、その内訳は表 2 参照。1 年コースの 留学生は、「Extra」までで 3 級の漢字をすべて学ぶ。「Extra」の 2 級漢字で高校教科 書の頻度 E を見ると、「甘、歯、辛」のように漢字の部首をなす漢字が含まれている。

また、高校教科書には現れない漢字が 11 字含まれている。

4.考察

 前回の調査では、高校教科書に提出されている漢字を「基礎アカデミック日本語」

を表す漢字と考え、『初級日本語』の漢字との突合せを行った。その結果、『初級日本 語』の漢字は「好き」(3 級)、「泣、忙」(2 級)の 3 字を除いて、高校教科書の日本語、

すなわち「基礎アカデミック日本語」を表す漢字と重なることがわかった。

 今回の調査では大学進学を目指す、または大学で学ぶ留学生を対象に編まれた日 本語初級教科書に共通に提出されている漢字を「日本語学習のために必要な基本語」

を表す漢字と考え、他機関の日本語初級教科書とセンターの『初級日本語』の漢字 の突合せを行った。その結果、4 種、3 種の日本語初級教科書に共通して提出され ている 440 字を抽出した。これは『日本語初級』の 7 割を占める。上の「好き」(3 級)、

「泣、忙」(2 級)の 3 字はこの 440 字に含まれている。

 本稿ではこの 440 字は初級レベルでの指導の優先順位の高い漢字と考える。440 字のうち、上の 3 字を除いた他の 337 字は「基礎アカデミック日本語」を表す漢字と 重なる。ただし、初級漢字の指導に際しては一般的に「日本語学習のために必要な 基本語」の導入とあわせて漢字が導入される。「初級レベルの日常語として用いられ ている漢字語と理工系の分野で用いられている漢字語では、漢字語を構成する漢字 の核となる意味にずれがある」という工藤(2007)の指摘にもあるように、その漢字 を習ったからといって、その知識がそのまま専門科目(注 4)の授業で生かされるわけ ではない。しかし、「日本語学習のために必要な基本語」を表す漢字と「基礎アカデ ミック日本語」を表す漢字と重なっていることから、後者の導入・理解につなげる 第 1 段階になると考えることができる。教授法も視野に入れ、どんな「基礎アカデ ミック日本語」を表す漢字をどのように導入していくか、今後の課題となる。

 この 440 字には、『初級日本語』に提出されていない「悪、貸、曜」(3 級)、「置、暖、遅、

難、辞」(2 級) (いずれも「Extra」に提出)が含まれている。まず、3 級の漢字につ いて見る。440 字には 3 級漢字「界 光 菜 産 首 声 池 堂」の 8 字が落ちている。この うち「菜」を除く他の漢字は『初級日本語』に提出されている。反対に、440 字には『初 級日本語』に提出されていない 3 級漢字「悪、菜、貸、曜」のうち「菜」を除く漢字が

(10)

含まれている。すなわち、3 級ではで唯一「菜」が 440 字からも『初級日本語』からも 落ちている。しかし、「菜」は高校教科書で頻度が極端に低いわけではなく、「Extra」

に提出されている他の 3 級漢字と同頻度で現れている。「菜」も他の 3 級の漢字と同 様に扱うと考えると、4 級、3 級の漢字を「日本語学習のために必要な基本語」を表 す漢字とすることができる。

 次に、2 級漢字を見ると、440 字のうち 162 字で約 4 割近くを占めている。また、

高校教科書の頻度の高いものが多い。440 字には、『初級日本語』に提出されていな い 2 級漢字、「置、暖、遅、難、辞」(いずれも「Extra」に提出)が含まれている。『初 級日本語』600 漢字のうち 2 級漢字は半数を占めている。さらにその半数が 440 字 の 2 級漢字と重なる。2 級漢字は 440 字の中でも、『初級日本語』でも量的にも柱を なす漢字であると言える。「スタンダーズ」の視点からどの 2 級漢字を指導漢字とし て優先するかが今後の課題となる。

5.「JLC 初級漢字」選定に向けて私案と課題

 「スタンダーズ」に即した漢字教材で取り上げる漢字を、本稿では「JLC 初級漢字」

と呼ぶことにする。以下、前回と今回の 2 回の調査結果を基に、「JLC 初級漢字」に ついて私案と課題を述べる。

5-1 「JLC 初級漢字」の選定基準

 「JLC 初級漢字」の選定基準として、以下の 3 つを考える。

① 「日本語学習のために必要な基本語」を表す漢字であること

② 「基礎アカデミック日本語」を表す漢字であること

 ①②は上で述べたように 3 字を除き重なることから、前回調査の高校教科書の頻 度の高いものは優先順位が高くなる。

③ 「漢字教育のために必要な基本漢字」であること

 「漢字教育のために必要な漢字」として、効率的な漢字教育に欠かせない(1)「造 語力のある漢字」、(2)「漢字の部首をなす漢字」等を考える。『初級日本語』の 600 字 は、「語彙教育を優先する立場から、必ずしも漢字教育の面から理想的な提出順と はなっていない。」(注 5)とあるように、(1)の漢字は優先的に取り上げられている。し かし、(2)についてはあまり考慮に入れられていない。例えば、「強、弱、引」などの 偏となる「弓」(1 級)は中級レベルで提出されている。「弓」は高校教科書では頻度が 低いが、漢字教育の提出順から言えば、早い時期に導入されるべき漢字と言える。

(11)

学習者が多様化している現在、学習者に「漢字のつながり」(藤堂 1982)を意識させ、

体系的に指導することは漢字学習を促進させることにもなる。(注 6) また、それは単 に漢字教育のみならず、語彙教育にも有効と言えるだろう。「漢字教育のための基 本漢字」については、次回の課題としたい。

 その他、「JLC 初級漢字」の選定にあたっては、指導漢字数が限られていることか ら漢字表記の基準の見直しが必要となる。『初級日本語』「Extra」の漢字には、植物

(桜)、動物(猫)、地名(大阪)等固有名詞や、「筆、灯、汽」等生活の中で馴染みの薄 いもの、「畳」等日本文化を表す漢字が含まれている。これらは優先度から言えば低 く、ひらがなで表記、または振り仮名で処理できる。

5-2 「JLC 初級漢字」の候補

 漢字は、大学進学を目指す、または大学で学ぶ留学生にとって、日本語習得の ための重要な要素である。「スタンダーズ」は技能中心に構成されているが、漢字は、

特に日本語を「読む」、「書く」の技能では欠かせない要素となる。「読む」技能は「書く」

技能に先行することから、「スタンダーズ」では、両技能で習得すべき漢字数に差を 設けている。上級の漢字数に上限を設けていないのは、すべての学生が到達するレ ベルを中級終了レベルとし、それ以降は学習者のレベルによっては上限が異なると 考えることによる。

(表 8)

レベル 技能

初級 中級 上級

前半 後半 前半 後半

「読む」 ひらがな・カタカナ

漢字* 10 250 字 600 字 900 字 1200 字

「書く」 ひらがな・カタカナ

漢字   250 字 500 字 800 字 1100 字 *10 漢字は新出漢字の数のみ示している。読み替え漢字は含まれていない。

 本稿では、表 8 にある初級前半の 250 漢字、後半の 350 漢字、合わせて 600 漢字 を「JLC 初級漢字」と考える。さらに、それは文系、理系共通の漢字を学ぶことと する。「JLC 初級漢字」とはどんな漢字か。前回と今回の調査から、以下にその候補 を挙げる。

① 調査 2 から得られた 440 字

② 日能試の 4 級、3 級の漢字 (440 字に取り上げられていない 3 級の漢字は「界 光

(12)

菜 産 首 声 池 堂」8 字である。)

③ 『初級日本語』「Extra」の 2 級、1 級漢字で高校教科書の頻度の高い漢字

 高校教科書の漢字は、冒頭で述べたように科目により語彙が異なること、また、

社会系の科目が多いことからその科目に関連した語彙が多い。本稿では、高校教科 書の漢字を「基礎アカデミック日本語」を表す漢字としていることから、特に下に 示した頻度の高い漢字については優先度が高いと考える。具体的な「JLC 初級漢字」

の絞込みのためには、さらに「基礎アカデミック日本語」を表す漢字を厳選するた めに、新しい高校教科書の語彙調査の結果との突合せ、また、工藤(2007)に見ら れような調査研究が文系の科目でも必要となるだろう。

高校教科書の頻度の高い漢字(前回の調査から)

頻度 A:「(権)」 *11 (2 級)、「酸、素、義」(1 級)、

頻度 B:「圧、域、液、応、加、解、基、求、(軍)、個、支、種、状、際、示、諸、(済)、

帯、達、伝、保、〈溶〉 *12、量、領、(労)」(2 級)、「紀」(1 級)

*11 (権)は社会の科目に偏った漢字を表す。

*12 (溶)は理科の科目に偏った

④ 漢字教育のために必要な基本漢字  今回は、問題提起にとどめる。

 「JLC 初級漢字」600 字の具体的な絞り込みのためには、今後さらにここで課題と した作業の積み重ねが必要となる。

6.終わりに

 今回は調査結果をもとに「JLC 初級漢字」について私案を述べたが、それが選定 されれば、1 年コースだけでなく、センターで行われている「スタンダーズ」に即し たさまざまな日本語プログラムで共通に使用することができるだろう。しかし、よ り効果的な実践のためには、カリキュラムの中の漢字教育の位置づけ、効率的な漢 字教育を目指した教授法、教材の開発、また、漢字教育のありかた等、新たな発想 による漢字教育への取り組みが必要となるだろう。

(13)

注:

注 1 「JLC」は、東京外国語大学留学生日本語教育センターの英語名、Japanese Language Center for International Students の頭文字をとったものである。

注 2 『中級日本語』の前書きから

注 3 『日本語能力試験 出題基準』(2007)に見る漢字の選定基準

注 4 センターの 1 年コースで学ぶ国費学部留学生は、大学進学に備え、日本語の 外に専門に応じて理系・文系の基礎科目を日本語で学んでいる。

注 5 『中級日本語 漢字練習帳 I』の「まえがき」から

注 6 センターでは日本語の既習者を対象に「漢字系統樹」(善如寺 1995)による 漢字の体系的な指導が行われていて、学習者からも好評である。

参考文献

東京外国語大学留学生日本語教育センター(2008)「JLC 日本語スタンダーズ 2009」

 東京外国語大学留学生日本語教育センター

小林 幸江(2008)「漢字基礎調査の報告―「JLC 日本語スタンダーズ」に即した漢字 教材開発に向けて」― 「留学生日本語教育センター論集」第 34 号 東京外国 語大学留学生日本語教育センター

独立行政法人 国際交流基金・財団法人 日本国際教育協会(2007)『日本語能力試 験出題基準(改訂版)』凡人社

東京外国語大学留学生日本語教育センター『初級日本語 漢字練習長 I』(1994) 凡 人社

東京外国語大学留学生日本語教育センター『中級日本語 漢字練習長 I』(1994) 凡 人社

工藤 嘉名子(2007)「『基礎科学』における重要度の高い漢字および漢字語」「留学生 日本語教育センター論集」第 33 号 東京外国語大学留学生日本語教育センター 藤堂 明保(1982)『藤堂方式・小学生版 漢字なりたち辞典』 教育社

小林 信明(1977)『新選 漢和辞典』小学館

靍岡昭夫(1989)「高校教科書の漢字調査」『高校・中学校教科書の語彙調査 分析編』

国立国語研究所(1989)

善如寺俊幸(1995)「漢字系統樹」による新しい漢字教授法」「漢字検定のすべて」ア ルク

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参照

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