九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
IgG4甲状腺炎における標的抗原としてサイログロブ リンとサイログロブリンアイソフォームを同定した
猪俣, 啓子
http://hdl.handle.net/2324/2236073
出版情報:Kyushu University, 2018, 博士(保健学), 課程博士 バージョン:
権利関係:(C)2018 Inomata K, et al. This is an open-access article distributed under the terms of the Creative Commons Attribution License, which permits unrestricted use, distribution, and eproduction in any medium, provided the original author and source are credited.
氏 名: 猪 俣 啓 子
論 文 名:
Identification of Thyroglobulin and its Isoforms as Target Antigens for IgG4 Thyroiditis.
(IgG4甲状腺炎における標的抗原としてサイログロブリンと サイログロブリンアイソフォームを同定した)
区 分:甲
論 文 内 容 の 要 旨
背景:免疫グロブリン G4関連疾患(IgG4 related disease: IgG4-RD)は、IgG4 陽性形質細胞
(IgG4(+)細胞)の標的器官への浸潤が顕著で、通常は血清 IgG4 濃度の上昇を特徴とする全 身性自己免疫障害である。また、その発生は複数臓器に同時に、あるいは単独で発症するこ とが知られている。この疾患は、膵臓、胆道、下垂体、唾液腺、肺、腎臓、髄膜、眼、前立腺、
リンパ節、 後腹膜、大動脈、皮膚、甲状腺などで認められている。その中で、IgG4 甲状腺 炎は臓器特異的 形態を示す IgG4-RD として認識されている。しかしながら、甲状腺におい て、臓器特異的に発症する IgG4 甲状腺炎の免疫学的根拠は明らかにされておらず、IgG4 甲 状腺炎患者で上昇する 血清 IgG4 抗体によって認識される標的抗原については、まだ解明 されていない。さらに、IgG4 甲状腺炎が、橋本甲状腺炎やバセドウ病といった甲状腺疾患 の臨床表現型と関与しているか どうかについても未知である。
方法:甲状腺摘出術を受けた 2,436 例の患者のうち、病理診断にて甲状腺炎(甲状腺組織へ の リンパ球浸潤、リンパ濾胞形成、間質の線維化を有する)と診断された 53 例について組織 学的に調査した。甲状腺組織に浸潤したリンパ球を決定するために、IgG および IgG4 抗体を 使用して 組織免疫化学染色を行い、IgG4 甲状腺炎の診断基準(IgG4(+)細胞;>20/high- power field、IgG4(+)/IgG(+)細胞比;>30%)により、IgG4 甲状腺炎群と非 IgG4 甲状腺炎群と に分類した。 さらに、甲状腺組織から抽出した甲状腺抗原、IgG4 甲状腺炎患者血清およ び抗ヒトマウス IgG4 抗体を用いて western blotting を行い、検出された反応バンドを泳動ゲル から切り出し MALDI-TOF/MS 解析を行った。さらに MASCOT 検索により標的抗原を同定し た。
結果:甲状腺摘出術を受けた 2,436 例のうち、甲状腺炎と診断された 53 例の内訳は、橋本 甲状腺炎(HT)が 38 例(71.7%)、バセドウ病(GD)が 15 例(28.3%)であった。このうち IgG4 甲状 腺炎の診断基準を満たす IgG4 甲状腺炎群は 19 例(HT; 13 例、GD; 6 例)であり、甲状腺炎 症例の 35.8%に IgG4(+)細胞の浸潤増加を認めた。また、19 例の IgG4 甲状腺炎症例のうち、
8 例(42.1%)にのみ血清 IgG4 濃度の上昇を認めた。さらに、IgG4 甲状腺炎患者の血清 IgG4 と甲状腺抗原を用いた western blotting と MALDI-TOF/MS 解析により、IgG4 甲状腺炎の標 的抗原としてサイログロブリンおよびそのアイソフォームが同定され、最も推定タンパクスコアが 高値を示したのは、サイログロブリンアイソフォーム X2 であった。
結論:Western blotting および MALDI-TOF/MS 解析によって同定されたサイログロブリンは、
甲状腺の臓器特異的タンパク質であり、これは、IgG4 甲状腺炎の臓器特異的発症に矛盾しな い結果であった。また、IgG4 甲状腺炎症例の中には、血清 IgG4 濃度の上昇が見られない症 例もあリ、 血清 IgG4 濃度の上昇は IgG4 甲状腺炎発症に必須な因子ではない可能性が示 唆された。さらに、橋本甲状腺炎やバセドウ病などの甲状腺疾患の臨床表現型は、免疫学的 障害に基づく多くの 影響因子によって制御されると考えられる。IgG4-RD において標的抗 原を探索することは、IgG4-RD の病因解明のために重要である。