ミ ク ス ト メ デ ィ ア に よ る 抽 象 表 現
教 科 領 域 教 育 専 攻 芸術系(美術)コース 猪 俣 智 子
作者は支持体としてパネルにジェッソ地をっく り,その上から紙や布を貼りさらにジェッソで地 塗りをして油彩で描画をしているO 紙や布を貼る ことで既製のキャンパスでは得られない独特のマ チエールや雰囲気を創り出すことができる。これ は制作テーマに沿ったもので,制作過程の重要な 要素である。また作品によっては凹凸を付けたり,
布を貼るなど色々な素材を同時に用いることもあ る口表現したいマチエールを作るために,制作す る上で,素材同士の相性や特性について実験的な 研究をする必要があるo この研究は表現したい形 態やイメージにあう素材をうまく利用して制作す ることを目的とし,またこれまでの制作の中から,
修了制作に向けての方向性を見出すことを目的に 千子ってきたものである。
先で述べたように 作者は表現したい形態やイ メージにあう素材を画面に取り入れながら制作し ている。その素材のうち,紙は風合いや織のテク スチャーがたいへん面白く,表現意図に合致する。
主として用いている紙は少々厚手のもので,一般 には包装用緩衝材として使用される「紙われもの 包み」である。この紙は元々織が入っているので,
貼り付けるときの接着液の浸け方次第で真直ぐに もなるし,簸を残すことも可能である。またこの 織を効果的に着色していくとたいへん面白い効果 が生まれる。この他に麻紐や布を取り入れる。布 は絵にボリュームを持たせ,独特のよれやテクス チャーの違いを楽しむことが出来る。また,油絵
指 導 教 官 鈴 木 久 人
具の染み方も布によって違い グラッシュすると 他の素材とは違う色味を表現することが出来る。
布目も絵の中で効果的に生かすことができる。こ れまでの作品の中で布は主に寒冷紗や麻布,ガー ゼなどを使用した。
制作の順序としては,まずベニア板で、作ったパ ネルにジェッソ地(ジェッソはリキテックス社)
を作り,その上に紙や布など,絵の下地となるも のを貼ってさらにジェッソ地を作ってから油絵具 によって制作するo ベ ニ ア 板 で 作 っ た パ ネ ル は 色々なものを貼り付けるのにとても都合のよい支 持体である。作品にはほとんど下地として紙を貼 っている。まず紙を貼るのにはジェルメディウム とグロスポリマーメディウム(リキテックス社) をほぼ同量混ぜたものを水で4倍に希釈する。こ れを接着液として使用する。この接着液はさらさ らしているので 直接ベニア板に張ってしまうと 接着液だけがベニア板に吸い取られてしまい,紙 がうまく接着しない。そこで、まずパネルにジェツ ソを塗っておき,耐水性の下地を作る必要がある。
次に紙を貼るが,この時紙の下に空気が残らない ように貼る必要がある。空気が入ってしまうと,
後から剥がれる原因になる。空気が残らないよう に掌や刷毛を用いて丁寧に貼る。貼りながらテク スチャーを作ったり,着色するときに面白い効果 が期待できるようにわざと織を残したりしながら 員占っていくo 紙を貼り終わったら充分乾かして,
細かいところに修正を加えた後ジェッソを塗り,
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下地を作る。ジェッソは2‑‑‑3回塗りする。元々,
紙は油彩画に適した支持体ではない口そこで,地 塗り剤のジェッソを紙の上に塗ることで油彩画に 耐えられる下地に仕上げ 紙の上に油彩画を描く ことが可能になる。布や麻紐を貼る場合は,作品 によっては紙を貼った状態のパネルに,ジェッソ を塗る前に木工用ボンドでしっかりと接着し,そ れからジェッソを塗ってし、く。画面に凹凸を作る 場合は,主に発泡スチロールや厚紙で、立体を作り,
その立体をジェッソ地の上にしっかり貼り付けて おく。その上から紙を貼る作業をし,下地を作る。
描画には油絵の具を使うため紙などの下地となる もので、完全に覆っておく必要がある。このような 手順を経てから油彩画での制作に入る。
作者は古代建築のように,様々な世紀を越えて きたものの古びた雰囲気に大変惹かれる。また長 い時間をかけてできた素晴しい大自然からも何か 自に見えない大きな力の存在を感じ,不思議な気 持ちになる。そこで古びた雰囲気や印象を幾何学 模様の構成と色彩により表現したいと思いこれを 制作のテーマとしている。幾何学形態はその形の 均衡を保つような緊張感を持ち,またその形のシ ンプルさに惹かれる。この形に人工的な建築物の イメージを重ねたり 文字の様なイメージを持た せて,作品のなかに取り入れる。 2001年に制作し た「青の記憶」は絵が,古い昔の記憶について物 語るような印象を表現した。ここで三角錐の立体 には遺跡のようなイメージを持って構成し,
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ム・口といった模様のような形には象形文字の様 なイメージを持ち構成した。
修了作品「みどりとみずとそらと」は前述のテ ーマに沿った作品であり,自然をテーマにした作 品である。自然の壮大なふ力とその聞に流れている
空気や時間といったものを表現した。
シャープな形の三角形や半円の連続した形は自 然を現し,そこを流れる空気を表現した作品であ る。形は山や渓谷を連想させ 半円の連続した形 は雲や波を想起させる。色彩の面では深い色味の 部分は自然の重みや積み重ねられてきた時間とい ったものを表現した。また,人の存在を画面の中 では文字的なイメージを持つO・ム・口といった 幾何学模様に表現した。さらっとぬられたような 色の部分は空間を流れる空気のようなイメージを 持って描いた。色は空間を作るように何度も何度 もグラッシュしてぬり重ねた。青い部分は特に色 面として大きいので深みが出るように着彩をした。
紙の織によってできるテクスチャーにはどこか暖 かみがあり,油絵の具をのせるときにおもしろい 効果が生まれる。描画は主に油彩の他にオイルバ ーも使用しているo 背景にとけ込むような形は絵 の具が完全に乾かないうちにオイルバーで、描いた もので,こすり取られた絵の具が濃く残り,思わ ぬ効果を作ることができた。
これまでの作品は様々な世紀を越えてきたもの の古びた雰囲気から受ける印象をもとにしながら 制作をしてきた。特に修了作品ではこれらの上に 自然が醸し出す力を取り入れ,壮大な時間の経過 といったものを表現できたように思う。これまで の実験的な制作を経て獲得してきた技法はすべて 取り入れた作品である。
この作品はこれからの制作に生かされ,発展し てくことと思う。
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