• 検索結果がありません。

11章 ベンチャー支援インフラストラクチュアの現状と課題

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "11章 ベンチャー支援インフラストラクチュアの現状と課題"

Copied!
24
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

11章  ベンチャー支援インフラストラクチュアの現状と課題

  1章から10章までは、米国の先行研究や事例については、必要に応じてふれる程度に 留めた。その理由は、日本における体系的ベンチャー企業経営論を構築するのが、本論の 目的であるからである。しかし、この11章ではベンチャー支援インフラを取り扱うので、

まず米国の現状から分析し、それと対比する形で日本の現状及び課題を明らかにする。な ぜなら、日本と米国の支援インフラには、未だに大きな格差があり、それが、両国におけ るベンチャー企業のあり方に大きなインパクトを与えていると考えられるからである。も ちろん、インフラの中には、日本が急速に追いつき、あまり差がない部分もあるが、全体 としては未だに大きな格差があり、それが日本のベンチャーの経営のあり方に影響を与え ている要素になっているものがある。ということは、インフラが非常に異なる時は、別の 経営の方法を考えなくてはならないということになる。このような考え方からまず米国に おけるベンチャー支援インフラについて分析してみたい。

1.米国におけるベンチャー支援インフラの現状

1)米国経済再生とベンチャー企業支援インフラ

  1970年代後半の米国経済は、主として製造業における国際競争力を、特に日本製品 に対して失い危機的状態になった。そのため、ワシントンには、日本の産業政策に関する 研究会が設置された。ひとつは、日本経済研究会(NIHON KEIZAI KENKYUKAI)であ り、もうひとつは、JIPG(Japan Industry Policy Group日本産業政策グループ)である。

いずれの研究会も連邦政府各機関の実務担当者やエコノミストが集まった横断的組織であ り、有力議員のスタッフも参加していた。これらの研究会が、直接、間接にその後の米国 の政策、とりわけベンチャー企業支援インフラ構築に、どれだけかかわっていたかは不明 であるが、彼等が自らに脅威となる相手を徹底的に研究し、戦略を立てていたことは学ば ざるを得ない。このような背景をもって、1982年 SBIR(Small Business Innovation

Research)が時のレーガン政権により実施された。このSBIR に先立って、1971年ナ

スダック(NASDAQ: National Association of Securities Dealers Automated Quotation)

が整備され、資本市場の整備が行われベンチャー企業の株式公開が大変やりやすくなった。

1980年には、バイドール法が制定され、国の資金を用いて大学が研究して得た成果を、

大学の知的所有権とすることが可能になり、大学からの技術移転が進めやすくなった。1 998年に日本で制定された通称TLO法(Technology Licensing Organization:技術移転 機関)の原型となったもので、これでみても日本は米国に約20年遅れていることになる。

(2)

1970年代から、ベンチャー企業支援インフラが体系的に整備されており、1982年 のSBIRは、その動きの完成度を高めることとなった。すなわちSBIRは、大変ユニークな 支援策となっている。SBIRは、連邦政府機関が「シーズ」と「資金」と「市場」を3点セ ットで提供するというもので、その仕組みを資料11−1とSBIRの助成額の推移を資料1 1−2に示してある。資料11−1にあるように各省庁ごとに研究開発トピックスを提供 して、従業員500名未満の中小企業が応募する。審査を通るとフェーズⅠに進み、10 万ドルまでの補助金が出る。その結果を審査して通れば、フェーズⅡに進み75万ドルま での補助金が出る。作成された製品は政府調達市場で購買され、市場が提供されることと なる。

資料11−1  SBIRの全体像

(3)

このように、研究開発の補助金は日本にもあるが、政府や地方自治体でのベンチャーの製 品やサービスを積極的に購買することは行われていない。このようにSBIRは、大変有効に 使われ、資料11−2に示したように金額も増額し、資料11−3に示した V.C.投資に対 する比率も高いレベルに達し、支援効果を上げている。SBIRは、当初時限立法でスタート したが、2001年12月に再々延長され、2008年9月30日までとなっている。

資料11−2  中小企業イノベーション研究(SBIR)プログラム、

      1983―1999年度

(出所)「アメリカ中小企業白書1999−2000  同友館     (財)中小企業総合研究機構訳編

(4)

資料11−3  ベンチャーキャピタル産業用新規資金、支出金及び共同資金、

1982−1999年

(出所)資料11−2に同じ

(5)

 

米国では、もともとスタンフォード大学のFred Terman教授がDavid Packard とWilliam

Hewlettに資金を提供してHewlett Packard社を1939年に設立したように、ベンチャ

ー企業の設立が盛んであった。特に Shockley Labs Inc (1955年)から発生した

Fairchild Semiconductor(1957年)と、ここから飛び出したFairchildrensと言われ

る研究者達が次々とベンチャー企業を起こしていった。National Semiconductor(196 7年)、Intel Corp(1968年)、Apple Computer(1976年)、Oracle Corp.(197 6年)等々である。このような流れが元々存在していた上に、今まで述べて来た政府によ るベンチャー支援インフラが整備され、全体の底上げが行われたのである。そして、ベン チャー企業が資料11−4に示すように多数株式公開して、巨額のキャピタルゲインを得 た経営者の一部が、ベンチャーキャピタリスト又はエンジェルとして、次のベンチャー企 業 を 育 成 す る イ ン フ ラ と な っ た の で あ る 。Arthur Rock で あ り 、Kleiner Perkins

資料11−4  全企業及び中小企業の新規株式公開、1988−1999年

(出所)資料11−2に同じ

(6)

Electric、IBMのみであるが、日本では逆に最近のベンチャー企業と言えるのはソフトバン クのみである。このようにベンチャー企業支援インフラについては、米国はITバブルが崩 壊した後でも、先行しており後に述べる社会的インフラを含めると日本との格差は大きい。

  また参考までにフィンランドにおけるベンチャー企業支援のスキームを資料11−6に 示す。ここにあるように、Tekes(フィンランド技術庁)が一元的に、技術開発の支援の為 の補助金を提供し、Sitra(フィンランド技術開発基金)が、国のベンチャーキャピタルと して活動している。さらに各地には、各省庁の出先機関が統合されたRegional TE-Centers

(地域技術センター)がキメの細かいサービスを行っている。このような結果、フィンラ ンドは人口約520万人の小国ながら世界経済フォーラムによる「国際競争力報告200 1〜2002年」では世界1位にランクされたのである。フィンランドには2002年に 東商の調査団として調査に行き、上記のスキーム等そしてヘルシンキ工科大学等とインキ ュベーションセンターとの連携も目の当たりにして来た。最近数年、中国、韓国、台湾の ベンチャー動向について調査に出かけているが、各国ともに日本よりベンチャー支援イン フラはかなり進んでいる。ベンチャー企業開発の国際間競争でも、日本は遅れているので はないかと危惧している。

資料11−5  02/01米IT関連主要企業の時価総額比較

(出所)Ueno Associates

(7)

2)米国におけるベンチャー支援社会インフラの形成

  以上述べて来たのは、米国政府を中心とするベンチャー支援インフラとベンチャーキャ ピタル、エンジェルによる支援システムであった。ここではより範囲を広げて教育や社会 の価値観といった社会そのものが、ベンチャー支援のインフラを形成している点を見てみ たい。まず、資料11−7に米国と日本の開業率と廃業率を示してある。米国の1991 年〜94年では、開業率15.9%、廃業率13.6%で純増2.3%となっている。日 本は、開業率4.3%、廃業率4.4%でマイナス0.1%となっている。日本の数字の 最新99年〜01年では、開業率3.8%、廃業率4.2%でマイナス0.4%となって より深刻化している(中小企業白書2003年版)。この数字が示すように、米国では多産 多死型であるが純増という健全な形になっている。この多産という背景には、社会全体で のベンチャー企業支援インフラが活動している。

資料11−6  フィンランド政府組織とベンチャー支援スキーム

(出所)フィンランド技術庁

(8)

資料11−8に示すように、支援は民、官、学が連携し、しかも、小・中学レベルから教 育プログラムが始まっている。米国には、幼稚園児から高校生まで、自立を促す仕組みが ある。1919年、ある大企業の経営者によって設立されたNPOであるジュニア・アチー ブメント(Junior Achievement)が、全米に200ほどある支部を通じて経済教育プログ ラムを提供している。受講生は、全米で300万人規模となっており、各学生ごとのプロ グラムが提供され、実際に指導するのは、地域に住むボランティアベースのビジネスマン である。この他にも全米経済教育協議会(National Council on Economic Education)は、

経済教育プログラムを開発して提供したり、年間12万人もの講師の研修を行っており、

これらの講師が教える生徒数は、全米で800万人にのぼっている。大学の学部レベルで は、インターンシップ制が整備されており、実社会を大学生は体験しながら、自らの進路 を決めることができる。さらに、実務経験を積んだ後にビジネス・スクール(MBA)に入 るが、資料11−9に示すように全米に500校を超える大学でベンチャー企業に関する 講座が開設されている。またMBAでの起業家教育も盛んであり、資料11−10に示すよ うな有名大学が起業家教育でも競争している。

資料11−7  開業率と廃業率の日米比較

(9)

資料11−8  米国の開業支援システム(概念図)

(10)

そして開業の段階では、SBDC(中小企業開発センター)が支援するシステムになっている。

SBDCは、SBA(中小企業庁)、州政府、教育機関、民間セクターなどからの出資によって

運営されているため各機関との連携もスムーズであり、米国1000ヶ所で活動し、年間 のアドバイス件数は60万件を超える。コロンビア大学大学院ビジネス・スクール Rita

McGrath 準教授とペンシルバニア大学ウォートン・スクールのスナイダー起業研究プログ

ラムの教育部長でもあるIan Mac Millan教授の両氏は、数回にわたり早大アントレプレヌ ール研究会の国際シンポジュームで講演を行った。その中で、両氏は、SBDCと大学とは、

密接に連携して、ベンチャー企業の支援を行っている事例を報告している。また、エンジ ェルやベンチャーキャピタル、SBIR等の支援は、先に述べた通りであり、この結果先に資 料11−4に示した通り、株式公開企業数が多くなるのである。このような、社会全体で ベンチャー企業を生み出して育てていく社会インフラを、シリコンバレーで表したのが資 料11−11である。

  一方、米国の廃業率が高いという指摘をしたが、それほど大きな社会問題にはなってい 資料11−10  起業家教育プログラムの評価の高い大学院(米国)

資料11−9  大学・大学院における起業家教育の日米比較

(11)

ない。それは、リスクマネー(直接的投資)での資金調達が多いいということと、運悪く 失敗しても再挑戦できるような制度(破産法チャプター・イレブンによる最低限の生活は 保障される)があり、セーフティネットがあるからである。

  以上述べて来たことから明らかなように、米国社会は、もともと フロンティア精神 、 アメリカンドリーム といった、挑戦者を評価する社会的価値観がある。そのうえ、ベ ンチャー企業を支援する経済的、社会的インフラが整備され、機能している。このような インフラの相違は、起業家の行動や、ベンチャー企業の経営にも大きなインパクトを与え ているはずである。それを明らかにするため、日本におけるインフラを分析してみたい。

(出所)Ueno Associates

資料11−11  シリコンバレーに見る起業化支援インフラ

(12)

2.日本におけるベンチャー支援インフラの現状と課題 1)公的ベンチャー支援インフラの現状と課題   (1)法的インフラ整備

  1995年4月中小企業創造法(中小企業の創造的事業活動の促進に関する臨時措置法)

が施行され、政府のベンチャー支援政策が鮮明になった。それまでのバブル崩壊後の政府 の経済政策は、大企業や中小企業の活性化による、経済の再建であり、当時の通産省は、

産業構造審議会の答申の型で12分野の新成長分野を示し、新産業を立ち上げようと計画 した。しかし、大多数の大企業は、多くの不良債権と過剰人員とを抱え後向きの合理化の みに走り、デフレ経済がより深刻化してきた。米国では、先に述べたベンチャー企業の輩 出、成長だけでなく、IBMやGEに代表される大企業もいち早く企業革新を進め、既存企 業の企業革新とベンチャー企業の成長という2つの輪が高速回転し、世界経済のなかで、

過去最強の地位を築いた。これに対し、日本経済は、バブル崩壊以降、既存企業の企業革 新は進まず、金融システムの崩壊に脅え、ベンチャー企業も輩出してこないという八方塞 の中で、失われた10年になってしまった。そこで政府は既存企業の活性化だけでは、不 充分と考え中小企業創造法という新しい仕組みを構築した。これは、創造的中小企業者(

ベンチャー企業及び中小企業のベンチャー化)を認定し、認定企業には、中小企業信用保 険法の特例を設け、無担保枠等に対し優遇するといった特典を与えるというものである。

この法律では、支援対象に「事業を営んでいない個人(これから創業する人)」を明示した が、実際のところは創業支援より既存の中小企業の支援が中心であった。さらに、ベンチ ャー財団(間接ベンチャーキャピタル)を設立し、間接的ながら、民間 V.C.を経由して、

国の資金がベンチャー企業への支援にまわるシステムを用意した。しかし、これは県レベ ルの財団の体質が旧態依然であったりしたため、必ずしも実績は上がっていない。199 7年度は、件数で157件、金額で71億となったが、1998年度には、それぞれ半減 し、件数がゼロの県が18あるなど全体として低調である。

  1997年エンジェル税制が導入されたが、これは損失が出た場合にのみ、減税効果が あるという後向きのものであった。その後2000年度の税制改正において、利益が発生 した場合においても、株式公開に伴う譲渡益が4分の1まで圧縮することにより、税負担 を軽減される措置がとられた注11−1。しかし、この対象となるベンチャー企業の要件とし て試験研究費等の売上高に占める割合が3%超(設立6−10年目の企業は5%)である こと等の制約がついており、米国等における制度のように大きく活用され、ベンチャー企 業にエンジェルの資金が流入するといった現象は起きていない。

  1998年11月に投資事業有限責任組合法が制定され、これまで組合員が全員無限責 任であったため、組合出資すること自体に相当なリスクがあった。この法律によってエン ジェルから資金を集めやすくなった。

  1998年、新事業創出促進法が制定されたが、この法律は開業率の低さを強く意識し て、創業者をターゲットとしたものになった。すなわち、「新たなるアイディアの具体事業

(13)

化に挑む創業者やベンチャー予備軍の試作開発、販路開拓に対し、中小企業総合事業団が 直接に助成(100万円から500万円、年間1000件程度)する」(「新事業創出促進 法について」通産省、1999年1月)注11−2。この法律の従来にない特徴は、事業アイ ディアのある人が、直接中小企業事業団に申し込み、さらに個人の脱サラ創業か、既存企 業の分社化を問わず創業全般を支援し、事業分野も問わないという柔軟なシステムとなっ ていることである。この事業は、他の事業も合わせ、当初300億円の資金が用意された。

また、この法律の下で創業者に対する信用保証が限度1000万円として実現し、後の産 業活力再生法にある規定と合わせると2000万円となった。同法による確認申請件数は 1706件(2003年4月18日現在)である(2003年版中小企業白書)。1999 年には、それまでの中小企業近代化促進法が改訂され、中小企業経営革新法が施行された。

この法律は、全業種が対象であり、異業種交流グループや組合でも対象となり、経営向上 の目標を立て、その実施を支援するというものである。この法律による支援を受けるには、

「経営革新計画」を立案し、知事等の承認を受ける。全体としては、既存中小企業のベン チャー化を目的としていると言えよう(2002年3月末、承認企業約6000社)。20 02年4月〜2003年3月末までの承認件数3341件で、累計9582件である(2 003年版中小企業白書)。そして、1999年秋の臨時国会は別名「中小企業国会」と称 されたように、1963年に制定された中小企業基本法が、36年ぶりに改正されたので ある。旧中小企業では、大企業と中小企業との生産性の格差など、いわゆる「二重構造」

を背景とする「格差の是正」が、政策理念の中心であり、その基本的考え方は、「弱者救済」

の保護政策であった。そして前提的な考え方として、中小企業の「過多性」、企業規模の「過 小性」、さらに経営体質の「前近代性」といった一般的な中小企業像があった。

  それが、今回の改正で「中小企業は、『我が国、我が国経済の活力の源泉と位置づけられ、

その「多様で活力ある成長発展」が新たな政策理念となったと述べられている注 11−3。そ してこの新中小企業基本法には第13条で創業の促進が謳われている。旧基本法では、数 が多い「過多性」は是正の対象であっただけに、180度の転換とみることができる。

(2)金融支援インフラの現状と課題

  公的ベンチャー支援インフラには、政府系金融機関が入る。旧中小企業基本法の関連法 案として1963年に中小企業投資育成会社法が成立しこれに基づいて、東京、名古屋、

大阪に投資育成会社が設立された。目的は、中小企業の自己資本充実であった。そして、

1983年には、第2臨調の答申として民営化が提案され、1986年には、政府が所有 していた10%の株式すべてを、政府に償還した。これに合わせて1984年、投資育成 会社がベンチャー企業に投資できるように運用の改正が行われた。すなわち、投資基準と

(14)

ばれる新制度で投資ができるようになり、資料11−12に示すようにベンチャーに対す る投資が進展した。

さらに、1999年投資育成会社は、共同で V.C.を立ち上げた。これは、投資事業有限責 任組合法に基づくもので、中小企業事業団が、10億円を出資して、総額20億円でスタ ートした。投資育成会社3社の投資累計社数は、2110社、金額で837億円(200 2年3月末現在)であるから、全体の中でのベンチャー投資のウエイトは高くない(20 03年6月末東京投資育成、ホームページ)。

  政府系金融機関の国民生活金融公庫の貸付のターゲットは創業であり、規模としては資 料11−13に示す通りであり、件数では年間25000件ベースとなっている。創業支 援としての中には無担保・無保証の融資制度もあるが、これは、商工会議所の経営指導を 受け、会頭等の推薦があることが条件になっている。

資料11−13  政府系金融機関による貸付計画 

資料11−12  ベンチャービジネス及び創業投資の投資実績

(出所)「ベンチャー企業の経営と支援  日本経済新聞社  2000年4月  松田修一監修」

(15)

(出所)「2003年版  中小企業白書  中小企業庁編  2003年5月p253」

  既存企業が、新規事業を始める時には、中小企業金融公庫の1993年からスタートし た新事業育成貸付が使用できる。これは、新規性のある技術を生かし、新規事業を始める 中小企業への貸付で、年間70〜80件ベースで、40億円程度の規模となっている。当 公庫は、2000年2月から「成長新事業育成特別融資」を新設したが、これは無担保の ワラント債を最高1億2000万円まで取得するというものである。対象企業が株式公開 を果たした際には、ワラント権の買い戻しという形で成功報酬を得ることが可能になった。

この制度の適用社数は2002年3月末日現在で298社となっている注 1 1 − 5

  商工組合中央金庫は、1995年から「イノベーション21」というベンチャー企業融 資を行っているが1996年度が204件、約100億円がピークとなっているのが現状 である。

  以上述べてきた政府系金融機関によるベンチャー支援は、件数や規模において限られた ものになっている。これは、ベンチャー企業の生存率が高くなく、創造法認定企業ですら 生存率は、資料11−14に示すように5年後には65.9%、全体では66.0%とい うように、リスクが高く、公的な資金を用いるということへの批判があるからである。

(16)

資料11−14  新規開業後の生存率(%)         

    1年後  2年後  3年後  4年後  5年後  全体  日本の創造法認定企業  71.8  59.7  70.2  62.1  65.9  66.0  米 SBDC プログラム企業  90.4(1−3年

後)      81.5(3−5年

後)     

全米企業  86  -  62  -  50  - 

(注)日本企業は95−99年に開業。米プログラム企業はそれぞれ94−96、92−9 4年に開業   

(出所)米企業のデータはカルガリー大のクリスマン教授とマクミュラン教授の共同研 究による 

(出所)「日本経済新聞社2002年10月14日付経済教室  江島由裕岡山大学客員 助教授論文 

しかし、先に述べたように米国のベンチャー支援インフラとは、非常に大きな格差があり、

韓国の経済の立て直しも政府主導によるベンチャー企業振興策の効果であった。そのよう に考えると、これから述べる民間ベースでの支援インフラも不充分であることから、民間 ではやりにくい分野を公的な支援が行うという論理は、ある限度の中で正当性はあると考 える。

  この他に、地方自治体等による公的金融支援制度があるが、大きなウエイトもないため ここでは割愛したい。

2)民間ベンチャー支援インフラの現状と課題

(1)民間金融支援インフラの現状と課題

  民間ベースでのベンチャー企業に対する金融支援の中心は、V.C.であるが、その投資額の 水準は、資料11−15と資料11−16で明らかである。最近の動きでは97年3月期 で2400億円と増加したが、その後は、2000億円を下回り2000年度が4000 億円近くなったが、これはネットバブル期に当たる。バブル崩壊後は再び2000億円を 下回る投資額となってしまった。

(17)

また日本の V.C.の場合、ネットバブル以前は、アーリーステージ段階への投資が少なく本 来リスクマネーが本当に必要な時期に、投資されないという課題があった。一方、ネット バブル期は、ネット関連であれば、高い株価でも投資をして、その後バブル崩壊後は、大 きな損失を発生させ、必要以上に縮小してしまった。最近になってナノテクノロジー、バ

資料11−15  日本のVCの投資額

(出所)「ベンチャー企業の経営と支援  日本経済新聞社  2000年4月  松田修一監修」

資料11−16

(出所)「日本経済新聞  2003年9月15日付」

(18)

めている。その他系でも、ソフトバンク、光通信、CSK、外資などバックを持った V.C.が 大部分であり、いわゆる サラリーマン型 である。このサラリーマン型は、組織的に活 動するという面はあるものの、親会社からの出向タイプもあり、プロフェッショナルには 遠い体質もある。そのため、米国のV.C.のように得意な分野に絞り、その代わり ハンズ・

オン型 で投資対象企業の役員として、徹底的に育成するといったいわゆる ブティック 型 V.C. とは体質が異なる。しかし、日本でも最近は、グローバル・ベンチャーキャピタ ルの長谷川博和社長のように、大手 V.C.ジャスコを退社し、独立するいわゆる ブティッ ク型V.C. が活躍しており、日本も少し変化が見られる。しかし、全体として日本の V.C.

は、米国に比較して、投資規模、機能ともに不充分であり、ベンチャー企業の支援者とし ての力量については、まだ時間がかかる。これが、日米間のインフラについての大きな差 である。

  また、都市銀行を始めとする金融機関は、ごく一部を除き、ベンチャー企業の特に初期 における支援をする機能はない。せいぜい系列の V.C.での接点のみである。湘南信金のよ うに一部、ベンチャー支援に積極的な金融機関もあるが全体としては機能していない。こ のような、民間金融支援インフラの脆弱性が、日米のベンチャー企業の経営のあり方に現 状においては大きな差をもたらしているように考えられる。

(2) ベンチャー支援社会インフラの現状と課題

  金融以外の民間のベンチャー支援インフラを、社会インフラとして分類するとさまざま な機能や機関がこの中に含まれる。日本商工会議所、ニュービジネス協議会、雇用能力開 発機構(2004年4月独立行政法人化)、中小企業大学校、JANBO 傘下の各機関、KSP 等インキュベーション機関等々である。中には半官半民であり民間ではない機関もあるが、

資料11−17  日本のベンチャー・キャピタルの歴史

(出所)「ベンチャー企業論(財)放送大学教育振興会 2001年3月  柳孝一  藤川彰一著

(19)

純粋に公的以外のものはここに分類して議論を進める。近年これらの機関によるベンチャ ー支援インフラは大変充実して来ている。これらの大部分の活動に、実際に筆者も参加し ているが、内容的にも充実して来ている。各地域で行われている起業セミナーも、応募者 が多く、その中から起業する実例も多い。この支援システムは起業家を多く輩出するとい う機能としては有効であるが、本格的な社会全体の価値観を変えるようなベンチャー企業 輩出の確率はあまり高くない。やはり、テクノロジーを持ち、世界に通用するようなベン チャー企業は、研究機関や大学からの輩出が必要である。そのためには、社会全体の価値 観が変わらなければ、困難である。社会の価値観が、ベンチャー企業の輩出を支援するよ うになった時が、最大の社会インフラとなるのである。しかし、現状では、この社会イン フラが最も弱いのである。

  資料11−18に日本でベンチャー企業が輩出しない悪循環の構図を示している。大き な悪循環の中にあるように、優秀な人材がベンチャー企業を起こさないことである。一流 大学から大企業又は、官庁という ジャパニーズ・ドリーム は、崩壊しつつあるが、だ からといってまだベンチャー企業に向かわず、弁護士、公認会計士といったプロフェッシ ョナルに向かっている。理工系の学生や研究者が大学発ベンチャーとして、スタートし始 めているが、全体としてはまだ少数である。このような悪循環を断ち切るためには、是非 とも大きなインパクトを与えられる、サクセス・ストーリーが必要であり、大学発ベンチ ャーに期待が集まる。すでにアンジェス・エム・ジー等を紹介しているが、これらに続く、

サクセス・ストーリーを育て上げる必要がある。

(20)

  大学発ベンチャーについては、 平沼プラン で2001年から3年間で1000社が目 標として掲げられている。現時点(2001年8月時点)では、資料11−19に示すよ うに、251社となっている。2002年の累計では、424社(2002年8月現在筑 波大学調査)に達し、ある程度目標に近づくと思われる。内容的には、情報通信分野、ラ イフサイエンス分野が多く、ほとんどがハイテク関連ベンチャーである。平均像としては、

資本金7000万円、社員数11名、売上高2.3億円となっているが、中央値はこれよ 資料11−18  ベンチャー企業が輩出しない

悪循環の構図

(出所)「ベンチャー支援ガイド  日経BP社     2002年12月  石黒憲彦編著」

(21)

りも下回っているため現実の姿は、これよりも小規模である。

  より長期的に、ベンチャー支援社会インフラを構築するには、国民的な価値観や、次世 代を担う子供達の価値観が変わっていく必要がある。これに取組んでいるのが、「創業・ベ ンチャー国民フォーラム」であり、ここでは、教育の改革、風土・意識の改革、制度イン フラの改革を提言している。資料11−20に示すように、教育改革では、小中高・高専 校における、主体的職業観教育やベンチャー・インターンシップを提言している。風土・

意識改革では知的財産等の支援制度や産学連携の拡充強化が、提言され、制度インフラで は、税制改革(エンジェル税制の拡充)、倒産法制の改訂充実が提言されている。

(出所)「日本の大学発ベンチャーの課題と将来像  筑波大学  新谷由紀子・菊本慶論文」

資料11−19  大学等発ベンチャー設立の推移

(22)

これらが、すべて機能することで先端技術型、高付加価値型ベンチャーの輩出につながる のである。これらの中でも特に重要なのはプレーヤー(起業家)を育成することである。

日本と米国との決定的相異は、アントレプレナーシップが、米国では、社会的価値観にな っていることである。そのために、小中高・高専校における主体的職業観教育は、特に重 要である。早大大江建教授らの 早稲田ベンチャーキッズ の活動は、さきがけであるが、

全国でも起業教育が始まっている(動き始めた教育現場  創業・ベンチャー国民フォーラ ム調査委員会)。また、石川県のビジネスアイデアコンテストの審査委員長を筆者はつとめ ているが、毎年50以上のアイデアが高校生の部に寄せられており、活気がある。このよ うな活動がより国民に浸透して国民の価値観が変わり、多くのプレーヤー(起業家)、特に 技術ベースのプレーヤーが輩出しなければ、ベンチャー立国は、困難であり、日本はベン チャー開発競争でも遅れをとることになる。しかし、価値観を変えることは難しく、時間 もかかる。このように、ベンチャー企業にとって、特に米国との間に支援インフラの大き な格差があることを認識する必要がある。日本も公的ベンチャーインフラについては、米

資料11−20

(出所)創業・ベンチャー国民フォーラム提言

    「起業家社会」の実現のために  2002年2月5日

(23)

国を追随し、追いつこうとしている。しかし、税制や倒産法制には、まだ大きな差がある し、SBIRのように導入はしたが、米国との格差が大きいものが残っている。V.C.について は言うまでもなく、社会インフラにいたっては、まだまだ非常に時間がかかる。米国に追 いつく方向はあるし、努力をすることは必要だが、格差があることを認めた上での、ベン チャー企業経営論も必要となろう。このような意味でいたずらに理想型を追うことなく、

現実に立脚した体系的ベンチャー企業経営論が必要であることを主張したい。また、その 中から米国型にない日本の特性を生かしたベンチャー企業の育成方法もありうると考える のである。

(24)

注11−1「ベンチャー支援政策ガイド  日経BP出版センター2000年12月  石黒憲彦編著  p407」

注11−2「ベンチャー企業の経営と支援  日本経済新聞社2000年4月  松田修一監修  p38」

注11−3「2000年版中小企業白書  大蔵省印刷局2000年5月 中小企業庁編  前文」

注11−4「ベンチャー企業の経営と支援  日本経済新聞社2000年4月  松田修一監修  p33」

注11−5「JFS2002  中小企業金融公庫  2002年8月p14」

参照

関連したドキュメント

昭和62年から文部省は国立大学に「共同研 究センター」を設置して産官学連携の舞台と

にする。 前掲の資料からも窺えるように、農民は白巾(白い鉢巻)をしめ、

2.シニア層に対する活躍支援 (3) 目標と課題認識 ○ 戦力として期待する一方で、さまざまな課題も・・・

また、学内の専門スタッフである SC や養護教諭が外部の専門機関に援助を求める際、依頼後もその支援にか かわる対象校が

法制執務支援システム(データベース)のコンテンツの充実 平成 13

 支援活動を行った学生に対し何らかの支援を行ったか(問 2-2)を尋ねた(図 8 参照)ところ, 「ボランティア保険への加入」が 42.3 % と最も多く,

支援級在籍、または学習への支援が必要な中学 1 年〜 3

東日本大震災被災者支援活動は 2011 年から震災支援プロジェクトチームのもとで、被災者の方々に寄り添