博 士 ( 農 学 ) 木 瀬 道 夫
学 位 論 文 題 名
汎用ロボットトラクタのシステム開発に関する研究 学位論文内容の要旨
本 論 文 は ,図56, 表10, 引用 文献92, 総 頁数104の 和 文論 文で ,他 に 参考 論文4編 が添 えら れて い る,
本研究はRTK―GPSと光ファイバージャイロ(Fiber Optical Gyroscope; FOG)を航法センサとする農用口 ボッ卜システム の実用化に資する基盤技術の開発を目的としている.国内・国外を聞わず数多く実施され ている従来のロポットトラクタに関する研究では,無人ほ場作業システムとして機能するために解決されな くてはならない 技術的課題がある.その課題とは,1)通年作業に対応できる汎用性,2)無人作業中の安 全性,3)曲線 経路に対する追従精度,4)誰にでも使える操作性,5)環境の変化や作業中のトラブルに 対するロバスト性,等に関する諸機能を満たすことにある,
本システムはそ の作業対象を耕うん・播種・管理・収穫など農地におけるトラクタ作業とし,いまだ報告 例のない通年作業を対象とした 汎用ロポットシステム についての研究を実施した,得られた成果は下記 に要約される.
1)ロボットトラクタのハ―ドウェアの構築(第2章)
ロポットトラクタは車両,航法センサのRTK―GPSとFOG,さらにこれらを統括する制御コンピュータによ って構成されている.供試車両は操舵,前進・停止・後退の切り替え,車両の速度変速,油圧三点リンク ヒッチによる作業機の昇降,エンジン回転数,PTO回転のオン・オフ,走行ブレーキのオン・オフをコンピ ユー タで 制御可能にした.車両 の位置計測システムにはRTK―GPSを採用した.供試RTKーGPSの計測精 度は2cm, サ ンプ リン グ周 波 数は20Hzであ る. 車 両の 方位 計測には3軸のFOGであるIMUを採用した,
IMUは光ファイバージャイロ と加速度計を3個ずつ内蔵し ている.IMUによって計測さ れた車両のヨー角 を 航 法 デ ー タ と し て , 口 ー ル 角 , ピッ チ 角をGPSアン テナ 取付 け位 置 の傾 斜補 正に 用い て いる .
2)RTK―GPSとFOGのセンサフュ―ジョンによる絶対方位の推定(第3章)
航 法 セ ン サ とし てのRTKーGPSとFOGの 計 測精 度は 優れ てい る もの の,FOG単独 では 相対 方 位し か 計測できなぃ,またドリフ卜エラーを発生するという欠点がある.このことは両センサの座標系が時間の経 過とともに変化することを意味し,使用にあたってはセンサフュージョン手法を用いて両センサの座標系を 一 致さ せ る必 要が ある .本 研 究で は,最小二乗法を適用し て絶対方位に対するFOGのバ イアス値を逐 次推定 することにより車両の絶対方 位を算出できる手法を考案 し,有人走行で得られた車両の軌跡とセ ンサ情 報を適用してこの手法の妥当性を検討した,直線・曲線・旋回など様々な走行データに対してのコ ンピュータシミュレーション結果からは,ドリフトエラーを含むFOGのノくイアス値の推定が可能であることを 確認した.
3)作業計画マップに よるロボットトラクタの汎用 化(第4章)
本章では,開発したシステムが汎用ロボットとして機能するための不可欠な技術要件である「作業計画
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マ ップ 」の 概念 について述べた, 作業計画マップは目標経路 と共に作業やほ場の情報を合 わせ持つ階 層構造マップで あり,農作業の種類に応じてこのマップを変更することで作業様式に対応することが可能 となる,作業計画マップは緯度・経度・コードを要素とするナビゲーションポイントと称する点の集合で構成 される,コード には各ナビゲーションポイ ントにおけるエンジン回転数,車両の速度変速,PTO回転のオ ン・オフ,作業 機の昇降といったロボッ卜への動作命令や,行程番号などのほ場作業に関する情報が記号 化されている.目標経路が点列で構成されていることから曲線を表現することも可能である,これにより,
矩 形ほ 場以 外で の作業や農道移動 など任意の経路走行も可能 となる,また,播種時の走行 軌跡を次回 以降の目標経路 とするニとによって,さらに精度の高い自律走行が実現できる,本手法を実作業に適用し て無人作業を行 った結果,目標経路に対してr.mISlで4.5cmのオフセット誤差で走行させることが可能で あった.
4)拘束条件を有した 経路生成による枕地旋回精度 の向上(第5章)
枕地旋回のための経 路生成アルゴリズムを考案 した,枕地旋回を高精度で,かつ高効率に行うことは 作業 時間 の 短縮を 可能にし,ほ場効率の向上に 帰結する,けん引式作業機 を装着した前進走行のみで 旋回 する 場 合と ,直 装式 作業 機 を装 着した前 進と後退を組合わせて旋回す る場合の2種類の旋回法に 対して,旋回経路を3次スプライン関数により生成した.ロボットトラクタの最小旋回半径と最大操舵速度 に関する拘束条件を設 け,これらの拘束条件を満 たさない場合は経路を再計算して,走行可能な経路を 生成させた.
コンピュータによる走行シュミレーションを行った結果,2つの拘束条件を適用することによって,次行 程開始地点における偏差が,前進旋回で7cm (75%),切り返し旋回で26cm (83%)向上し,ここに設定し た拘束条件の妥当性が 明らかとなった.
5)最適制御理論に基づぃた 操舵制御による曲線追従精度 の向上(第6章)
曲 線経 路の 追従 精 度向 上を 目的 とし て ,最 適制 御を 適 用し た操舵制御アルゴリズム を開発した.
第4章 で 開 発 し たPI制 御 器 に よ る 手 法 は主 に直 線経 路 を追 従さ せる こ とを 目的 に開 発し た もの で あ り , 曲 線 追 従の 精度 を保 証す る もの では ない .し か し, ロボ ット ト ラク タと して 完成 度 を高 め る た め に は , 農道 移動 や任 意経 路 の走 行を 可能 にす る 必要 があ り, 曲 線追 従精 度の 向上 が 不可 欠 で あ る , 最 適 レ ギ ュ レ ー タ を 適 用 し た 操 舵制 御ア ルゴ リズ ム を開 発し ,第4章 の手 法と 曲 線経 路 へ の 追 従 精 度 の 比 較 を 行 っ た , 直 角 経 路 ,正 弦波 経路 ,そ し て5章 で 考案 した 前進 旋回 の 経路 に 対 し て 精 度 比 較 を 行 っ た 結 果 , す べ て の 経路 にお いて 第4章の 手法 よ りも 精度 よく 追従 で きる こ とが明らかとなった.また3. Om/sの高速走行の試験も 行った結果,第4章の手法と比較してr.m.s. 誤差で2. lcm (38%)精度 が向上したー
6)ほ場試験による各種無人作業の考察(第7章)
本章 で は,本学 農学部附属農場を含む一般 農家のほ場で行った作業の結 果について考察した.農道 走 行を 含 めた 播種 作業 や, 曲 がっ た作物列に 対する除草,またGPS衛星の 捕捉が困難なほ場でも作業 を実施 した,これらすべての作業に おいて目標経路からの横方 向偏差がr.m.s.値で7cm以下となり,満 足な作業精度が得られた.
作業 の精度のみならず,ユーザーインターフェースの操作性や,作業中のトラブルに対する安全陸・信 頼 性に つ いても考 察し,開発したシステムの 総合的な評価を行った.Windows上で動くGUIべ←スのユ ーザー インターフェ←スを開発し,取り扱いが平易な操作環境を提供した.さらにキャビン外部に一時停 止スイ ッチを設け,施肥・播種や薬剤散布などの作業における資材補給を可能にした,また安全対策とし て,作業中にトラブルが発生した場合に備え,100mの遠隔地からりモートコントローラによるエンジンの緊 急停止機能が付加されている.
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学位論文審査の要旨 主査 教授 寺尾日出男 副査 教授 端 俊一 副査 助教授 野口 伸
学 位 論 文 題 名
汎用ロボットトラクタのシステム開発に関する研究
本論文 は,図56 , 表10 ,引 用文献92 , 総頁数 104 の和 文論文 で,他に参考論文4 編が添えられ ている.
本研究はRTK ― GPS と光ファイバージャイロ(Fiber Optical Gyroscope ;FOG) を航法センサとす る農用ロポットシステムの実用化に資する基盤技術の開発が目的である.従来のロボットトラク タの研究では,無人ほ場作業システムの課題が未解決であり,1 )通年作業に対応できる汎用性,
2 ) 無人作業 の安全性 , 3 )曲線経 路の追 従精度, 4 )誰 にでも 使える操作性,5 )環境の変化 や 作 業 中 の 卜 ラ ブ ル に 対 す る 口 / く ス ト 性 , 等 を 満 た さ ね ば な ら な い , 本シス テムは,農作業対象を耕うん・播種・管理・収穫などのトラクタ作業とし,いまだ報告 例のない通年作業を対象とした 汎用ロポットシステム の研究を実施したもので,得られた成 果は下記に要約される.
1 .ロボッ卜のハ―ドウェアと車両の絶対方位推定
ロポットトラクタは車両,航法センサの RTK ―GPS とFOG ,さらにこれらを統括する制御コンピ ユータによって構成されている,供試RTK ―GPS の計測精度は 2cm ,サンプリング周波数は 20Hz で ある, 車両の方 位計測 には 3 軸のFOG である IMU を採 用した ,IMU は 光ファイバージャイ口と加 速度計 を 3 個 ずつ内蔵している.IMU によって計測された車両のヨー角を航法データとして,口 ー ル 角 , ピ ッ チ 角 を GPS ア ン テ ナ 取 付 け 位 置 の 傾 斜 補 正 に 用 い て い る . FOG 単独では相対方位しか計測できず.,またドリフトエラーを発生する.そこで,最小二乗法 を適用して絶対方位に対するFOG のバイアス値を逐次推定することにより,車両の絶対方位を算 出できる手法を考案し,有人走行で得られた車両の軌跡とセンサ情報を適用してこの手法の妥当 性を検討した結果,直線・曲線・旋回など様々な走行データに対してのコンピュータシミュレー ションからは,ドリフ卜エラーを含むFOG のバイアス値の推定が可能であった,と述べている,
2 ‐作業計画マップによるロポットトラクタの汎用化
汎用ロボットとして機能するための不可欠な技術要件である作業計画マップは,目標経路と共 に作業やほ場の情報を合わせ持つ階層構造マップであり,農作業の種類に応じてこのマップを変 更することで異なる作業様式に対応することが可能となる.この作業計画マップは,緯度・経度・
コードを要素とするナビグーションポイントと称する点の集合で構成されている.コードには各 ナビゲーションポイントにおけるエンジン回転数,車両の速度変速, PTO 回転のオン・オフ,作 業機の昇降などロボットへの動作命令や,行程番号などのほ場作業に関する情報が記号化されて
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い る . 目 標経 路が 点 列で 構成 され てい る こと から 曲線 走 路の 表現 も可 能で あ り, 本手 法を 実作 業 に適 用し て無人作業を 行った結果,直線走行時の 目標経路に対してはr.m.s.誤差が4. 5cmで走行 させ るこ とが 可 能で あっ た, と述 べ てい る.
3. 枕地旋回と曲線追従の精度
け ん 引 式 作業 機 を装 着し て前 進走 行 のみ で旋 回す る 場合 と, 直装 式作 業 機を 装着 して 前進 と 後 退 を 組 合 わ せ て 切 り 返 し 旋 回 す る 場 合 の2種 類 の 旋 回 法 に 対 し て ,3次 ス プラ イン 関数 によ り 旋 回 経 路 を 生 成し , ロボ ット 卜ラ クタ の 最小 旋回 半径 と 最大 操舵 速度 に関 す る拘 束条 件を 設け , こ れ ら の 拘 束 条件 を 満た さな い場 合は 経 路を 再計 算し て ,走 行可 能な 経路 を 生成 させ てい る. コ ン ピ ュ ー タ に よ る 走 行 シ ュ ミ レ ー シ ョ ン を行 っ た結 果,2つ の拘 束条 件を 適 用す るこ とに よっ て , 次 行 程開 始地 点に おけ る 誤差 が, 前進 旋 回で7cm (75%) ,切 り返 し 旋回 で26cm (83% )向上し,
こ こに設定した拘束条件の妥当 性が明らかとなった.
口 ボ ッ ト トラ ク タの 完成 度を さら に 高め るに は, 農 道移 動や 任意 経路 の 走行 を可 能に する 必 要 が あ り , 曲 線追 従 精度 の向 上が 不可 欠 とな る. 最適 レ ギュ レー タを 適用 し た操 舵制 御ア ルゴ リ ズ ム を 開 発 し ,上 述 手法 との 追従 精度 の 比較 を行 った 結 果は ,直 角経 路, 正 弦波 経路 ,前 進旋 回 経 路 の すべ ての 経路 にお い てよ り精 度よ く 追従 でき るこ とが 明 らかとなった.また3. Om/sの高速走 行 の試験も行った結果からはr.m.s.誤差で約2. lcm (38Yo)ほど精度が向上できた,と述べている,
4. ほ 場 試 験 に よ る 各 種 無 人 作 纂
本 学 農 学 部附 属 農場 を含 む一 般農 家 のほ 場で 行っ た 作業 の結 果か らは , 農道 走行 を含 めた 播 種 作 業 や , 曲 が っ た 作 物 列 に 対 す る 除草 ,ま たGPS衛 星 の捕 捉が 困難 なほ 場 でも 作業 を実 施で き , こ れ ら す べ ての 作 業に おい て目 標経 路 から の横 方向 のr.m.s. 誤 差が7cm以下 と満 足な 作業 精 度 が 得 ら れ た ,Windows上 で 動 くGUIべ ー ス の ユ ー ザ ー イ ン タ ー フェ ース を 開発 し, 取り 扱い が 平 易 な 操 作 環 境 を 提 供 で き た , と 述 べ て い る .
以 上 よ り ,汎 用 ロボ ット トラ クタ の シス テム 開発 に 関す る研 究成 果は , 関係 学会 なら びに 生 産 農 業 に 係 わ る現 場 関係 者か ら夢 のあ る 技術 と高 く評 価 され てい る. よっ て 審査 員一 同は ,木 瀬 道 夫 が 博 士 ( 農 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 十 分 な 資 格 を 有 す る も の と 認 め た .
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