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博 士 ( 行 動 科 学 ) 佐 山 公 一

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Academic year: 2021

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博 士 ( 行 動 科 学 ) 佐 山 公 一

学 位 論 文 題 名

修 辞 理 解 の 認 知 過 程 に 関 す る 研 究 : 名 詞 述 語 文 の 意 味 解 釈 を 中 心 と し て

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

  本 論 文は , 名詞 述語文( ABであ る(ABは 名詞) 形 式の文, 例えば,

鯨 は 哺乳 類 で ある ) のうちの あるもの が時として 隠喩とし ての解釈 を受け るこ と があ る こ と(例え ば, 男 は狼だ ),また, 名詞述語 文の特殊 形であ る同 語 反復 文 ( AAであ る 形式 の文)が ,文字どお りにはな んら新し ぃ情 報を 含 んで い な ぃにもか かわらず ,ある種 の意味(修 辞的意味 )を伝え る表現 として解 釈される ことがある こと(例 えぱ, (しょせん,)子供は子供だ ) に着 目 し, そ れ らの意味 解釈がど のように なされるの かを認知 心理学的 に考究 した も ので あ る .また, そのこと を通して ,人間の修 辞理解過 程の解明 への手 がかりを 得ようと したもので ある・

  I部 では , 名 詞述 語 文 に限 定 せず , よ り広 く修辞的 に理解さ れる表現 を対 象と し て, そ れ らの 表 現 に共 通 する 特 徴 を考 察して いる.第1章では, 約2600 例の 修 辞的 表 現 を対象と して,そ れらが文 字通りの意 味で見て 会話の 公準 のい ず れか の 下 位原則か ら 逸脱 すると 見なすこと ができる かどうか を検討 して い る. そ の 結果,全 ての修辞 的表現に は何らかの 意味での 逸脱が認 められ るこ と ,ま た , その逸脱 はすべて の下位原 則の各項目 に多岐に わたって 認めら れること ,さらにtよ,会話の 公準以外 の規範・ 規則性か らの逸脱 も認められる こと , そう し た 会話の公 準以外の 規範・規 則性として は正書法 と文体に 関する 規範 , 文脈 内 で の表現の 出現位置 と頻度と に関する統 計上の標 準値など がある こと , など を 明 らかにし ている. また,修 辞的解釈に 関する従 来の代表 的理論 であ るGriceの 論,さ らにはSperberWilsonの論の妥 当ではな ぃ点の指摘 を行 って い る. 第2章 では,第1章で検討 された修 辞的表現例 のうちか ら57例を取 り 出し , それ ら を 読んで受 ける言葉 の あや (修辞性) の印象 を実験的 に分析 して い る. す な わち,被 験者に修 辞的表現 を読ませ,50の形容語 尺度上で それ

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ら の修 辞 性 を 一 般的印象 と 技 巧的印象 のニつ の条件下 で評定さ せた.

そ のデ ー タ をク ラ スター分 析し, あや の 印象が大 きく知的 ・理性的 側面と 情動的側面とからなることを明らかにしている.

  n部 は , 同語 反 復文 に 関 する 研 究 報告 か らな る.同 語反復文 の意味処 理に 関 して は , 文脈 に 依存 し て 決ま る と する 説 から , 繰 り返 さ れる 単 語 の意 味 的 性 質を 手 が かり に して文脈 とは無関 係に算定 できる場 合がある とする説 まであ る .第3章 で は ,英 語 同語 反 復 文に 関 する そ う した議 論を整理 し,紹介 してい る.第4章では, 日本語同 語反復文 の意味解 釈に関す る従来の研 究を概観し,そ れ らが ぃ ず れも 浅 い考察に 終わって いること を指摘し た上で, 日本語同 語反復 文 が, 繰 り 返さ れ る単語の 意味的性 質と文脈 とによっ て,いく っかのパ ターン 的 意味 に 解 釈さ れ ることを 明らかに している .また, 一般に, 日本語同 語反復 文 は英 語 同 語反 復 文ほどに は文脈独 立的に解 釈されな ぃこと, さらには ,英語 と 日本 語 の 同語 反 復文は, ともに基 本的に, 同一性( すべてのAは他のAと 違わ なぃ),独自性(Aは他(B)とは違う),(カテゴリーAの顕著な属性の)不変性,の 3種 の 潜在 的 意 味を もつこと を指摘し ている. 第5章では ,日本語 同語反復 文の 容認 可 能 性 と 修辞性 が,反 復語およ び文脈の 違いによ って変わ るか,

を 実験 的 に 考察 し てい る . すな わ ち ,100人 の被 験者に ,同語反 復文を読 ませ そ の同 語 反 復文 を 容認可能 にする場 面を文章 化させた .そして ,同時に もとの 同 語反 復 文 を, よ り直接的 な表現に 言いかえ させた. さらに, 同語反復 文と言 い かえ 文 双 方に 対 する,自 ら文章化 した場面 での 修 辞性 を 評定させ た.実 験 結果 か ら ,同 語 反復文は ,反復語 と対極的 意味関係 にある単 語を多く 含む文 脈 であ れ ば ある ほ ど有意味 な発話と して容認 されやす いこと, また,一 般に,

反 復語 の 否 定的 価 値評価を 導く文脈 における 方が,肯 定的・中 立的価値 評価を 導 く 文 脈 に お け る よ り も , 解 釈 さ れ や す い こ と を 明 ら か に し て い る ・   ni部で は , 名詞 述語文形式 の隠喩文 を中心に ,隠喩文 一般の理 解過程を 考 察 して い る .第6章 で は, 隠 喩 文理 解 過程 の 段階モ デル を 紹介し, その妥 当 性を 検 証 しよ う とした過 去の実験 的研究を 概観し, 隠喩的意 味を計算 する段 階 が オ プ ショ ン である とする仮 説に対し 肯定的な 解釈をも たらす実 験結果 と 否定 的 な 解釈 を もたらす 結果の両 方を紹介 している .その上 で,こう した一 見 矛盾 す る 結果 の 生じる理 由につい て,各段 階での処 理の高速 性のため に,従 来 の実 験 反 応測 度 の精度で は段階性 を捉えき れなかっ たためと する考察 を展開 し ,段 階 モ デル は 妥当 と 結 論づ け て いる . 第7章では ,間接的 発話行為 として 機 能す る 文 の理 解 過程 の 段階 モ デ ル を 考察 して いる.第8章では, 段階モ デ ルに 則 っ たニ つ の理論, すなわち ,隠喩文 理解の第 三段階に おける隠 喩的意

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味を 計算 するメ カニ ズム に関するOrtony とGlucksberg &

Keysar

の理論を比 較検討し,その意味の妥当な計算のメカニズムを考察している.著者は,この 章の議論において,Ortony の理論の方が理解時に参照される知識源を相対的に 明確に指定しており,現時点ではその分だけ優れた説明になっていることを論 証している.第9 章,第10 章では,主語,述語の指示するカテゴリーのレベル の違いによって,隠喩文の理解しやすさや適切さが変わるかどうかを実験的に 考察している.まず,第9 章では,理解しやすさと適切さが,先行する文脈中 の述語と関連する属性語に対するその述語の 関連性 の違い,隠喩文の 慣 習性 の相違,述語の カテゴリー・レベル の違いによって影響を受けるか どうかを検討している.その結果は,Ortony の理論に矛盾せず説明し得るも のであり,著者の第

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章での議論を間接的に支持するものとなっている.第10 章では,述語のカテゴリー・レベルを厳密に統制し,隠喩文の理解しやすさに 及ばす概念カテゴリーのレベルの効果を調べている.その結果,述語B が 基 本レベル(

basic level

) にある場合の方が,下位レベルや上位レベルにあ る 場 合 よ り も 理解 し や す く な る 傾 向 の あ るこ と を 明 ら か に し て い る .

  

IV

部は本論文のまとめであり,同語反復文の解釈,隠喩的解釈,さらには 文字どおりの解釈の関係について,より広い視野からの説明を試みている.第.

11

章におぃて,名詞述語文一般の意味解釈過程に関する包括的な考察を行い,

その過程の概念的モデルを提案している.すなわち,名詞述語文の理解には,

モジュール的で,適用順序にある部分(すべてではなぃ)では段階性のある数

個の手続きが適用されるとするモデルを提案している.そのモデルでは,それ

らの手続きごとに援用される知識源も特定している.さらに,そうした知識源

のーっである語彙知識に関してはより詳細にその構造についてもモデル化して

おり,単語概念の間の結合リンクにタイプと方向と強さを仮定するネットワー

ク的モデルを提案している.そして,このモデルの提案によって,名詞述語文

が時として 文字通り に解釈されたり,隠喩的に解釈されたり, うなぎ

文的に解釈されたりする過程の性質をよりよく説明できることを論述してい

る.

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学位論文審査の要旨 主 査 ー 教 授    阿 部 純 一 副 査    教 授    植 木 廸 子 副 査    助教授    瀧川哲夫 副 査    助教授    豊島正之

学 位 論 文 題 名

修辞理解の認知過程に関する研究:

名 詞述語文の意味解釈を中心として

  本 論 文 は , 名 詞 述 語 文 の う ち の あ る も の が 時 と し て 隠 喩 と し て の 解 釈 を 受 け る こ と が あ る こ と , ま た , 名 詞 述 語 文 の 特 殊 形 で あ る 同 語 反 復 文 が , 文 字 ど お り に は な ん ら 新 し ぃ 情 報 を 含 ん で い な ぃ に も か か わ ら ず , あ る 種 の 意 味 ( 修 辞 的 意 味 ) を 伝 え る 表 現 と し て 解 釈 さ れ る こ と が あ る こ と に 着 目 し , そ れ ら の 意 味 解 釈 が ど の よ う に な さ れ る の か を 認 知 心 理 学 的 に 考 究 し た も の で あ る . ま た , そ の こ と を 通 し て , 人 間 の 修 辞 理 解 過 程 の 解 明 へ の 手 が か り を 得 よ う と し た も の で あ る .

  I部 で は , 名 詞 述 語 文 に 限 定 せ ず , よ り 広 く 修 辞 的 に 理 解 さ れ る 表 現 を 対 象 と し て , そ れ ら の 表 現 に 共 通 す る 特 徴 を 考 察 し て い る . 第2章 で は , 第1章 で 理 論 的 に 検 討 さ れ た 修 辞 的 表 現 例 約2600例 の う ち か ら57例 を 取 り 出 し , そ れ ら を 読 ん で 受 け る 言 葉 の あ や ( 修 辞 性 ) の 印 象 を 実 験 的 に 分 析 し て お り , そ の 結 果 か ら , あ や の 印 象 が 大 き く 知 的 ・ 理 性 的 側 面 と 情 動 的 側 面 と か ら な る こ と を 明 ら か に し て い る .

  n部 は 同 語 反 復 文 に 関 す る 研 究 報 告 か ら な る . 第3章 で は , 英 語 同 語 反 復 文 の 意 味 解 釈 に 関 す る 従 来 の 議 論 を 詳 し く 吟 味 し , 問 題 を よ く 整 理 し て い る . 第4章 で は , 日 本 語 同 語 反 復 文 の 意 味 解 釈 に 関 す る 従 来 の 研 究 を 批 判 的 に 概 観 し た 上 で , 日 本 語 同 語 反 復 文 が , 繰 り 返 さ れ る 単 語 の 意 味 的 性 質 と 文 脈 と に よ っ て , い く っ か の パ タ ー ン 的 意 味 に 解 釈 さ れ る こ と を 明 ら か に し て い る . ま た , 日 本 語 同 語 反 復 文 と 英 語 同 語 反 復 文 と の 意 味 解 釈 に お け る 類 似 点 と 相 違 点 に つ い て 整 理 し て い る . 第5章 で は , 日 本 語 同 語 反 復 文 の 容 認 可 能 性 と 修 辞 性 に つ い て 実 験 的 に 考 察 し , そ の 結 果 か ら , 同 語 反 復 文 は , 反 復 語 と 対 極 的 意 味 関 係 に あ る 単 語 を 多 く 含 む 文 脈 で よ り 容 認 さ れ や す く な る こ と , ま た , 一 般 に 反 復 語 の 否 定 的 価 値 評 価 を 導 く 文 脈 に お い て よ り 解 釈 さ れ や す く な

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ることを明らかにしている.

  

m

部では,名詞述語文形式の隠喩文を中心に,隠喩文一般の理解過程を考 察している.第6 章では,隠喩理解過程の 段階モデル を紹介し,その妥当 性を検証しようとした実験的研究を概観し,隠喩的意味を計算する段階が オ プション であるとする仮説に対し肯定的および否定的な結果の両方を紹介し ている.その上で,こうした一見矛盾する結果の生じる理由について,各段階 での処理の高速性のために,従来の反応測度の精度では段階性を捉えきれなか ったためとする考察を展開し,段階モデルは妥当と結論づけている.著者のこ の考察は,従来の論争に対する現段階での検討としては最もよくなされたもの と評価できる.第7 章では,間接的発話行為として機能する文の理解過程の 段階モデル を考察している.第8 章では,段階モデルに則った従来の理論 を比較検討し,意味計算の妥当なメカニズムを考察している.第9 章,第10 章 では,主語,述語の指示するカテゴリーのレベルの違いによって,隠喩文の理 解されやすさや適切さが変わるかどうかを実験的に考察している.まず,第9 章では,理解されやすさと適切さが,述語の 関連性 , 慣習性 カテゴ リー。レベル の違いによって影響を受けるかどうかを検討しており,その結 果から,間接的にではあるが,著者の第8 章での議論の妥当性を明らかにして いる.第10 章では,隠喩文の理解されやすさに及ばす概念カテゴリーのレベル の効果を調ベ,述語B が 基本レベル にある場合により理解やすくなる傾向 のあることを明らかにしている・

  

第lV 部は本論文のまとめであり,同語反復文の解釈,隠喩的解釈,さらには 文字どおりの解釈の関係について,より広い視野からの説明を試みている.第

11

章において,名詞述語文一般の意味解釈過程に関する包括的な考察を行い,

その過程の概念的モデルを提案している.すなわち,名詞述語文の理解には,

モジュール的で,適用順序にある部分(すべてではない)では段階性のある数 個の手続きが適用されるとするモデルを提案している.そのモデルでは,それ らの手続きごとに援用される知識源も特定している.さらに,そうした知識源 のーっである語彙知識に関してはより詳細にその構造についてもモデル化して おり,単語概念の間の結合リンクにタイプと方向と強さを仮定するネットワー ク的モデルを提案している.著者は,このモデルの提案によって,名詞述語文 が時として 文字通り に解釈されたり,隠喩的に解釈されたり, うなぎ 文的に解釈されたりする過程の性質をよりよく説明することに成功している.

こうした試みは従来の研究にはなく,その問題の捉え方と具体的モデルの提案 を高く評価できる・

  

以上の内容と評価により,審査委員会は本論文の著者佐山公一氏に博士(行

動 科 学 ) の 学 位 を 授 与 す る こ と が 妥 当 で あ る と の 結 論 に 達 し た .

参照

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