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イップスを発症した野球選手の心理的および運動学的特徴 [ PDF

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問題と目的 近年,スポーツ選手の実力発揮や競技継続を妨げる心 理的要因の1 つとして Yips (以「イップス」と表記)と呼 ばれる運動障がいが注目されている (Clarke et al., 2015). イップスは,今まで自動化されうまくできていた運動 が自分自身で制御できなくなってしまい,思うようなプ レーができなくなる症状のことである. イップスは「ス ポーツ中の熟練した運動行動において細かいコントロー ルを行う過程で起こる不随意運動からなる長期的運動障 がい」と定義されている(McDaniel et al.,1989). また, イップスは,広辞苑第7 版によると「これまでできてい た運動動作が心理的原因でできなくなる障がい. もとは ゴルフでパットが急に乱れることを指したが,現在は他 のスポーツにもいう」と記され,現在は野球(加賀・深江, 2013; Papineau,2015; 會田,2015;松田ほか,2018), クリケット(Bawden & Maynard,2001),テニス(佐藤, 2013)などの複数のスポーツ種目において,同様の症状 が確認され研究がなされている. 野球のイップスにおいても, パフォーマンスの低下が 報告され,イップスに苦しむ選手が存在し,また引退を 余儀なくされる選手も報告されている(中込,1987). し かし,イップスは誰でも発症する可能性があり,競技現 場での対応が求めていられるにも関わらず,有効な介入 方法は未だわかっておらず,その改善策が早急に求めら れている. 筆者自身,大学部活動で野球をしていく中で,このイ ップスになり,発症理由がわからず,また自分がどうい った動きをしているかわからず,苦しい思いをし,引退 するかどうか悩む時期もあった. しかし,実際のイップ スを発症した野球選手の動作を定量的な分析を行った研 究は見受けられない. また,野球は日本において最も人 気のあるスポーツの1つであり,プロ野球で活躍する選 手でさえこの問題を抱えているため,野球のイップスを 対象に研究することでその問題解決につながると考えら れる. またそれに加え,私自身野球におけるイップスを 発症したこともあり本研究において野球のイップスを対 象とする. イップス は TypeⅠ (局所性ジストニア ),TypeⅡ (choking)またその両方を経験した TypeⅢの分類が提案 されている. さらに,この概念モデルが提案されて間も ないため,このモデルに基礎とする研究が,これから進 められていくと考えられている. しかしながら,学問領 域間においてイップスに対する研究知見に隔たりがある ため,調査,観察,行動学,運動学,といった研究を総 合的に行う必要があると述べらている(Clarke et al., 2015 ). そこで本研究では,イップスの症状を発症した経験の ある,または現在もその症状のある野球選手を対象に, インタビュー調査及び動作解析を採用し,心理学および 運動学における学問間の統合的研究を行う. まず,イン タビュー調査により選手自身がどのような背景でイップ スが発症し,また身体的感覚を持つのか調査する. その 後,動作解析をすることによって実際の動きと身体的感 覚を比較を実施する. そうすることで,選手一人一人の 発症要因を探り,その要因を持つものがどのような動作 をするかといった新たな知見の獲得が期待できる. 以上 のことから,本研究ではイップスを発症している野球選 手を対象に心理学及び運動学による総合的研究を行うこ とで,野球のイップスに対する新たな理解を得ることを 目的とした. [対象者の選定] 本研究は,2018 年 12 月において,4 年生大学にて硬式 野球部に所属,もしくは直前に引退した選手に調査を依 頼した. その中から,対象者の選定として,イップス経 験者をより厳密に選定することを目的に,Smith et al. (2000),内田(2008),また松田(2015)の論文を参考に以 下のような対象の基準を定め,より具体的な選定を行な った. (1)イップスあるいはそれに類似した症状の経験がある と本人が自覚していること (2)過去にイップスと思われる症状が最低 1 ヶ月以上継 続した経験のあること (3)症状が合わられる前は,確実にイップスの症状が合わ

イップスを発症した野球選手の心理的および運動学的特徴

キーワード:イップス,モーションキャプチャ, 総合的研究, 定量的評価, 感覚 行動システム専攻 東山 幸平

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られている動作や行動ができていたこと (4)上下左右に暴投のあるもの (5)精神的な疾病への通院の通院,あるいは薬を服用して いない者であること 倫理的配慮 本研究において,調査への参加は自由意志であり,参 加に同意した後であっても,調査における,辞退,中止 等が可能であることを説明した. 調査中および調査後に 精神的苦痛を受けた場合,相談窓口になることの保障を 行なった. また,リスクを最小限にするため,精神的な 疾病で病院への通院あるいは薬を服用しているものは除 外し,またインタビュー中は「イップス」という言葉を 使用せず,「上手くいかなかった投球動作」と言い換え た. データの管理に関して,個人が特定できないように, 記号や番号に置き換えを行った. なお,本研究は本研究 は所属機関の倫理委員会の承認を得て実施された(九州 大学人間環境学研究院健康・スポーツ科学講座倫理委員 会,201812). 1. 調査① インタビュー調査 [目的]

イップスを発症要因およびイップスが発症時の身体的 感覚的特徴を明らかにする [方法] 調査方法は,直接インタビュー法を用いて,半構造化 インタビューを実施した. 面接実施者はスポーツ心理学 を専攻している大学院生1 名で行い,調査対象者は 1 名 であった. なお,対象者の許可を得て,すべての発話音 声を録音した. 期間は 2018 年 12 月であった. インタビ ュー時間は15 分であった. インタビュー内容については野球のイップスの症状を 明らかにするための先行研究の會田(2016)を参考にした. 質問内容は,①イップスになった最初の経験,②イップ ス経験の前の状態,状況,③上手くいかない投球動作, 投球経験の内容,④上手く投げられた時の特徴,⑤本人 のイップスに関する説明,⑥時間経過による症状の変化 過程,⑦要約とコメントであった. [調査協力者] 本調査に協力いただいたA の紹介をする. A は,ポジシ ョンは捕手で小学校から野球を始め大学4 年生まで野球 を続けた選手である. A が初めてイップスを意識したの は中学校の時で,「ブルペンでピッチャーに投げ返す時に, こうなんていうんですかねー,手がこう固まってすんな り前に押し出せずに,隣ですごい至近距離だったんです けど,ピッチャーの方にボールがいってしまってってい うのが1番思い返すと1番うまくいかなかったの初めか なと思います. 」と述べた. その時,状況として,「先輩 らがいた時で,まあプレッシャーというか,恐怖心があ った時だと思う」と述べている. しかし,監督が小学校時代の監督に変わり,自分が最 上級生となり,「他にあまりヤーヤーいう人がいなくな って,送球は一回,安定した時期がありました」と述べ ており, イップスの症状が断続的に表れていたと述べ た. しかし,高校生になった際も,「レギュラー争いとか, プレッシャーかかると,一旦良くなったのも,なんか, あんまり感覚がわかんなくなった」としている. その後,大学に入り,一旦は治まったものの,雨の試 合で暴投をしたことをきっかけに再びボールを投げられ なくなった. 投げられなかった試合のことは基本的に全 部覚えていると述べ,短い距離は特に投げられず,特に 「右側に何かあると恐怖心がある」と言う. これは,右 側に投げるとバットに当ててしまったり,その方向にラ ンナーがいる際に起こっている. また,症状としては, 「ワンバウンドするか上に抜けるかのどっちか両方あ る. 」とし,「どちらかと言うと抜けることの方が多い」 と述べた. そして,現在もイップスの症状が出ると述べ ている. 調査対象者のプロフィールを表1 に示す. 表1 調査対象者プロフィール [分析方法] インタビュー時にIC レコーダーを使用し音声録音を行 い, 得られたデータを逐語化した. その後, 要素を分類する手法である KJ 法(川喜田・牧島, 1970)を用いて分析を行った. その中から身体の感覚的 特徴に関する意味フレーズを抽出し, それらの中から同 じ意味内容のものを分類して「高次元のテーマ」とした. その後, 高次元のテーマを統合した分類を「身体的感覚 的特徴」とし,「一般的な次元」とした. [科学性の担保] 本研究では,科学性の担保を目的に「研究者のトライア ンギュレーション」(フリック, 2011;高木, 2011)を行い,

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他の研究者による受容や納得を得た. 本研究での研究者 のトライアンギュレーションとして, 筆者ならびに野球 歴がありイップスを対象とした質的調査を行いスポーツ 心理学を専攻する1 名および野球歴がありスポーツ心理 学を専攻する1 名を含む計 3 名で行った. [結果および考察] 1) イップス発症時の感覚的特徴 「イップスを発症した際の感覚的特徴」として,「肘の 制御不能感」,「肩の脱力感」,「手の硬直感」,「身体的 コントロール感の低下」を得た. 會田(2016)による野球のイップスの特徴を調査した先 行研究においても手首のロックといった類似の症状が述 べられていた. しかし, イップスを発症したゴルフ選手 のパターの特徴の一つであり八木(2011)が述べているよ うな痙攣してパッティングが思ったように打てないとい ったように, 痙攣によってボールが投げられないといっ たような症状に関する知見は得ることができなかった. また,「身体的コントロール感の低下」の高次元のテー マに関して,「スポーツ中の熟練した運動行動において細 かいコントロールを行う過程で起こる不随意運動からな る長期的運動障がい」(McDaniel et al.,1989)とされてい ることから, 不随意運動が起きていることがわかる. 2) 投げられた時の感覚的特徴 また,「上手く投げられとた時の感覚的特徴」として, 「重心の制御可能感」,「肘の制御可能感」,「フォーム の安定感」,「良好な肩の状態」の高次元のテーマを得た. 會田(2016)でもボールを投げられた際の身体的特徴と して,「良好な身体的感覚」があげられており, このこと からも, イップスを発症した選手もしっかりとボールを 投げられるときは, 自分自身の理想とする投げ方で,自 分の体を思うように操ることができ, 体の状態としても 良好な状態がうかがえる. 2. 調査② 動作解析 [目的] イップスを発症した選手がイップス反応を有した際の 特徴を定量的に分析を行うこと. [調査手順] 十分なウォーイングアップを行わせた後, 約 6m 先でグ ローブを胸の位置でなるべく動かさないように中腰で構 えた捕球者に向かって, 被験者に対し「投手に返球する ように投げてください」という教示の元, 全部で 33 球送 球を行なった. 本調査では, 調査対象者が普段から使用 していた硬式球を使用した. 投球一球毎に, 被験者に 3 件法(1.イップスの症状が出 た〜3.しっかり投げられた)で評価してもらう. その際, Philippen et al.(2014)の先行研究を参考に, 客観的評価 として, イップスの症状が出たとしたもののうち, 上下 左右に送球が逸れたもの(内田, 2008)とし主観的評価と 一致したものを, イップス反応と評価し, しっかり投げ られたと一致したものを非イップス反応とした. [投球動作計測] Optitrack 社製光学式モーションキャプチャシステム OptiTrack を用いた. カメラは Optitrack 社製赤外線 CCD カメラ(Prime 41)を運動周囲上部 11 台設置した. 被験者体表に赤外線反射マーカを57 箇所, サンプリン グ周波数は, 180[fps]とした. [評価項目] 「肘の最大の高さ」,「手先の最大の高さ」,「最大掌屈 角速度」,「背屈角度」,「上腕の最大内旋角速度」,「上腕 の最大外旋角度」,「手先の最大の速さ」とした. なお肘の座標位置はマーカーのRHME と RHLE の中 央値とし,指の高さを床からRHM2 の高さとした. また, 本調査における,上腕の外旋および,掌屈は SKYCOMでの測定によりTポーズをゼロポジションと する. [分析方法] 調査後に得たイップス反応および非イップス反応をそ れぞれ評価項目毎に対応のないt 検定を用いて,分析を 行った. なお結果は,全て平均値±標準偏差で示した. 全ての統 計解析は,SPSS のバージョン 25 (Statistical package for social science)を用いて行った.

[結果および考察]: 分析対象としたイップス反応が 7 球,非イップス反応 が6 球とした. 表 3-4 に本調査から得られた投球毎のデ ータを載せる. 表2:分析対象投球割合 また, 本研究の対応のない t 検体の結果および平均, 標

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準偏差の結果を表3 に載せる. 表3: :対応のない t 検定の結果および平均,標準偏差 イップス反応 (N=7) 非イップス反応 (N=6) 平均 標準偏差 平均 標準偏差 p値 肘の最大高さ(m) 1.403 0.023 1.418 0.014 .205 手先最大高さ(m) 1.603 0.022 1.613 0.013 .330 肩の最大外旋角度 (deg) 35.138 1.684 35.845 0.829 .373 肩の最大内旋角速度 (deg/s) 563.505 43.128 596.501 22.040 .120 最大背屈角度(deg) 41.765 3.358 45.420 3.205 .071† 最大掌屈角速(deg/s) 915.213 39.924 919.379 41.27 .857 手先最大の速さ(m/s) 9.293 1.114 9.824 0.523 .309 †p<.100 最大背屈角度に有意傾向がみられた. Smith et al., (2000)によると, パッティングストローク全体を通して, イップスを発症している選手がイップスを発症していな い選手よりグリック力が有意に高かったと述べている. 本研究において, イップス反応があった時,ボールを握 りこむことで掌屈の力が働き,調査①で得たような「手 首の硬直感」が感じられた可能性がある. それによって, 手関節の屈筋群が強く働き, 掌屈の筋収縮が優位になる ことで, 相反抑制が起こり, 手関節の屈筋群の収縮が抑 制された可能性があると考えられる. また, 手首の力に比重をおいて送球したことから, 「肩への重圧」を示す定量的な知見を得ることができな かったと考えられる. 田辺(2001)がゴルフにパターイッ プス, アプローチイップス, アイアン・ドライバーイッ プス, バンカーイップスあると述べるように, 野球でも 本調査対象者からはその知見が得られなかった, ゆっく りとしか投げられなくなる選手も存在するという報告 (會田, 2016)があり, 野球のイップスも距離感や症状に 応じた研究を進めていく必要があると考えられる. 3. 研究の限界および今後の課題 本研究の限界は野球のイップスの症状の1部を切り取 ったため全容が見えていないことである. その理由とし て,ゴルフのパッティング動作と比較し,野球の送球動 作はより複雑であるため, より多くの選手を見ていく必 要がある. 今後の課題として, 1. 本研究では一人の人に焦点を当て研究を行った. そ のため今後はより様々な発症要因や症状を持つ選手 を見る必要がある. 2. 本件におけるイップスの定義が「上下左右による暴 投」としたためより明確な野球のイップスの定義が 必要であり,今回の研究ではイップスによるものか コントロールの乱れによるものか判断がつきにくく 改善の余地がある. 3. 「自分の感覚通りにならないという知見に対し」動 作解析からではアプローチできないため,脳科学, 神経科学からのアプローチが必要である. 4. 野球のイップスにおいても, 距離によって選手 個々人の意識する箇所を調査していく必要がある. 5. また, 競技現場に還元しようと考えた時, 縦断的な 研究をすることでイップスの症状を明らかにする必 要があると考えられる. 謝辞 本研究のデータを採取およびデータの解析にご協力い ただいた株式会社スポーツセンシングの皆様に感謝申し 上げます. また, 調査対象者となっていただいた方に感 謝申し上げます. 主要引用文献 會田勇気 (2016) 野球選手におけるイップス症状の特徴. (修士学位論文)

Clarke, P., Sheffield, D., and Akehurst, S. (2015) The yips in sport: A systematic review. International Review of Sport and Exercise Psychology, 8 (1) : 156-184.

Mcdaniel KD, Cummings JL, Shain S. (1989) The “YIPS": A focal dystonia of golfers. Neurology, 39 : 192-195.

松田晃二郎 (2015) イップスを経験した野球選手の心理 的成長プロセス. (九州大学大学院人間環境学府修士学 位論文)

Philippen, P. B., Legler, A., Land, W. M., Schuetz, C., & Schack, T. (2014) Diagnosing and measuring the yips in golf putting: A Kinematic description of the involuntary movement component that is the yips. Sport, Exercise, and Performance Psychology, 3,3 : 149-162

参照

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