2,3歳児における情動語理解の検討ー表情、文脈を通してー [ PDF
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(2) の理解についてであるが、笹屋(1997)は研究の一環と. を用いた。VTR は情動が喚起する因果を含んでいる一連. して、VTR で作られた文脈刺激に対して情動語でラベリ. の場面が撮影されている。VTR の途中からは主人公の顔. ングさせる課題を行っている。その結果、4 歳児はおよ. は映らず、最後の場面で表情のアップに近づいていくと. そ 25%、5 歳になると 60%を超える正答率となり、5 歳. ころで終わる。VTR の主人公として表情写真で協力して. 以降に文脈を通した理解は発達するとしている。また、. もらった女児と男児を採用し、各情動に対し4つの異な. Russell ら(2002)は子どもに情動の生起する人形劇(文. る場面を撮影、計 16 場面作った。各場面は 2,3 歳の子. 脈情報)を提示し、主人公が「うれしい」と情動語で話. どもをもつ母親からのアンケートをもとに作成された。. す理由、 またはうれしい表情をする理由について尋ねた。. 実験状況:被験者は母親と一緒にテーブルに座った。実. この研究では文脈を通した情動語理解と、表情と文脈の. 験者はその右 90 度に座り、刺激を提示した。. つながりの理解について調べている。その結果、喜びの. 手続き:表情を通した情動語理解を調べるため、表情−. 情動に対しては 3 歳児では、文脈を通した情動語理解に. 情動語マッチング課題(F-T 課題)を行った。また、文. ついておおよそ 75%、表情と文脈のつながりの理解に対. 脈を通した情動語理解に関しては文脈−情動語マッチン. しては 67%の正答率を示すことがわかった。. グ課題(C-T 課題) 、表情と文脈のつながりの理解には文. 笹屋の研究には情動語を産出させるという問題点があ. 脈−表情課題(C-F 課題)を行った。以下の提示順序で. る。多くの研究(e.g. Markman et al, 1992)で、情動語を. 課題を行った。. 産出させる課題は実験場面では難しいという結果がある。. ①<慣れ試行>3つの課題すべてに共通する解答方式. また、Russell らの研究から 3 歳代では文脈を通した情. 「∼はどっち?」に慣れてもらうためにアニメのキャラ. 動語理解が行われることが示されたが、2 歳代に対する. クターや乗り物の写真を使って練習を行った。. 検討は行われていない。. ②<F-T 課題>被験者の前に喜・悲の 2 枚の表情写真を. 本研究の目的. 同時に提示し、 「うれしい(悲しい)のどっち?」という. これら先行研究から、情動語理解の 2 つの経路につい. 質問を行った。反応として指差しがでれば次の試行に進. て比較して検討したものがないこと。それぞれの過程に. んだ。各情動 4 試行の計 8 試行行った。両方に指差しが. ついても成立時期が曖昧なこと。方法上の問題点から、. では場合は、 「こっちの手で教えて」 や 「一つだけ教えて」. 2 歳児を対象とした研究が少ないことがあげられる。. という教示をし再度質問を行った。写真の位置は情動に. よって本研究では、2,3 歳児を対象に、表情などの具. 関してカウンターバランスをとった。. 体的対象を通した理解と文脈を通した理解について比較. ③<C-F 課題>まず VTR の主人公の喜・悲の 2 枚の表情. 検討を行い、それぞれの成立時期と関係について調査を. 写真を被験者の前に並べて置き、「これらかこの写真の. 行う。すべての課題は 2 歳児でも答えられるように. お姉ちゃん(お兄ちゃん)がでてくるテレビを見るよ」. Pointing を指標とするよう作成した。2 歳児については. ということを伝えた。次に子どもの前にあるモニターか. 情動語産出時の理解状況を調べるために、同月齢児を産. ら VTR が流れ、被験者が見おわると、 「(このお姉ちゃ. 出群・非産出群に分けた検討をも行った。. ん)どっちの顔をしてる?」という質問を行った。VTR. また、今回2つの理解過程についてより詳しい検討を. の最後の場面は静止画としてそのままモニター上に残し. 行うため、両方の理解を媒介する可能性のある表情と文. ている。指差しが出たときは次の試行に進む。各情動 4. 脈のつながりの理解についてもあわせて検討した。. 試行の計 8 試行行った。 ④<C-T 課題>被験者の前にモニターを 2 つ置き、 「これ. 方法. からお話が 2 つでてきます。よく見ててね」という教示. 被験者:被験者は F 県在住の 2,3 歳児、計 33 名(2 歳児. を行った後、左右どちらかから VTR を提示した。片一. 産出群 13 名(平均 2:6 SD 1.23)、 非産出群 9 名(平均 2:5. 方が終わるともう一方の VTR を提示した。この課題で. SD 1.09)の計 22 名(平均 2:6B SD 1.25) 、 3 歳児 11 名(平. も VTR の最後の場面はそのままモニター上に残してい. 均 3:3 SD 1.48))。. る。2つとも提示されると、 「うれしい(悲しい)お話ど. 対象情動: 「喜び」と「悲しみ」の2つの情動を使用. っち?」という教示を行った。指差しをすると次の試行. 実験材料:表情刺激として表情写真を用いた。写真は子. に進み、各情動 4 試行の計 8 試行行った。VTR をどちら. ども 2 名と大学生 2 名をモデルとした。それぞれ喜・悲. から流すかはカウンターバランスをとった。. の計 8 刺激を用意した。情動語刺激としては「うれしい」 「悲しい」という単語を用いた。文脈刺激として VTR. 結果 各課題の得点について、チャンスレベル検定を行った.
(3) (Fig.1) 。その結果、2 歳児において F-T 課題は有意、. チャンスレベルの検定を行ったところ、2 歳児の産出. C-T 課題は有意傾向であった。3 歳児においては F-T、. 群では F-T 課題、C-F 課題が有意であり、F-T 課題には. C-T 、C-F すべての課題が有意であった。次に、年齢(2、. 有意傾向が見られることがわかった。一方、非産出群で. 3 歳)×課題(F-T、C-T、C-F)×情動(喜・悲)の 3. は F-T 課題においてのみ有意であった。. 要因分散分析を行った。その結果、年齢と課題の主効果. 次に群(2 歳産出、2 歳非産出、3 歳)×課題(F-T、. が見られた(F (1,31) = 23.50 P > 0.01 ; F (262) = 21.93 P >. C-T、CF)×情動(喜、悲)の 3 要因分散分析を行った. 0.01)。2 歳児よりも 3 歳児は有意に成績が高いこと、課. 結果、群と課題主効果が有意であった(F (2,30) = 17.93 P. 題に関しては F-T が一番よく、次に C-T、最後に C-F と. 。下位検定を行ったとこ > 0.01 ; F (2,60) = 19.70 P > 0.01). いう成績になることがわかった。また、年齢と課題の間. ろ、群では 3 歳>2 歳産出>2 歳非産出となり、課題に. に交互作用が有意傾向であった(F (2,62) = 0.079 P > 0.10)。. おいては、F-T>C-T≒C-F となった。. 多重比較の結果、2 歳児では F-T>C-T≒C-F となり、3. *. 正答率. *. *. 80%. *. *. +. 60%. *. *. 80%. *. * 正答率. *. 100%. *. 100%. 歳児では F-T>C-T>C-F となった。. 2歳児 3歳児. *. *. +. 60%. *. 40%. 非産出 * 産出 3歳児 *. 20%. 40%. 0% 20%. FT. *. CT. 0%. FT. CT. *. CF. CF *. Fig.3 群別課題成績 *:P <.05, +:P <.10. *. Fig.1 年齢別課題成績 *:p <.05, +:p <.10. 次に、各課題の関係を調べるため、こられの結果から. 考察 ① 表情を通した理解と文脈を通した理解について. 予想されるパス図を Amos で作成し共分散構造分析を行. 情動語の理解の時期について、チャンスレベル検定に. った。 結果を Fig.2 にまとめた。 その結果 F-T 課題と C-T. より、2 歳半(2 歳児;が平均 2:6 SD = 1.25 であること. 課題に相関があること、C-T 課題と C-F 課題に相関があ. より)においてすでに表情を通した情動語の理解がなさ. ること、F-T 課題と C-T 課題は年齢との相関が見られる. れていること。また、文脈と関連した情動語の理解は 2. ことがわかった。年齢的な発達過程を調べるため、各年. 歳半においてなされはじめていることが示された。表情. 齢における相関を調べた。2 歳児においては、F-T 課題. を通した情動語の理解の時期については、櫻庭ら(2001). と C-T 課題の間にのみ相関が見られた。3 歳児において. の結果を支持するものとなり、文脈と関連した情動語の. は、F-T 課題が天井効果よりすべて等しかったことより. 理解に関しては、言語獲得初期の 2 歳代からできること. C-T課題とCF 課題の相関のみが調べられた。 その結果、. を実験的に証明したという新たな知見となった。また、. 両者の間に相関が見られた。. このことは Bretherton(1982)の研究と時期的に符合す るものであった。 C-F 課題. 年齢 .42*. .60*. また、両方の理解についてはその成績に差が見られ、 表情と情動語間の理解(F-T 課題)は情動語と文脈間の. .46*. 理解(C-T 課題)よりも有意に高かった。両課題の成績 に相関が見られたことより、表情を通した情動語の理解. F-T 課題. .32*. C-T 課題. Fig2. 3 つの理解について *:p <.05. がまず成り立ち、その影響を受け、文脈と関連した情動 語の理解が成り立つという発達過程の存在が示唆される。 さらにこのことは以下の可能性を示唆する。情動語は. 次に、2 歳児における情動語の産出・非産出の違いに. まず表情などの具体的対象とのラベリングをとおして獲. ついて、3 歳児との比較も含め分析を行った(Fig.3)。. 得され、情動語の理解が一旦成立するということが更な.
(4) る理解を引き起こす。つまり、子どもははじめ表情のよ. 産出を行っている子どもは情動語の意味を表情と文脈の. うな具体的対象を核として情動語の意味を獲得し、そし. 両方に関連付けて理解していることがわかり、観察や質. てそれを基に、大人が意図するような一連の出来事を対. 問紙研究における結果を裏付けるものとなった。注目す. 象として含めるよう意味を拡張させてゆくのではないだ. べき点としては、産出群において表情と文脈間の理解が. ろうか。この仮定に従うならば、具体的対象に焦点をあ. すでに成り立っていることである。このことは、同じ 2. てながら文脈に対する説明を行うことが情動語理解に効. 歳半の年齢でも産出しているかどうかによって理解の状. 果的であるといえる。. 態が大きく異なることを示唆している。この結果から、. ② 3 つの理解過程の関係について. 全体的な理解の高さが産出に影響を与えたという可能性、. 表情と文脈のつながりの理解は 2 歳半ではチャンスレ. その中の一部の理解が産出に影響を与えたという可能性、. ベルを下回っておりまだ弱いといえ、2つの過程の理解. 産出することでそれらの理解が高くなったという可能性. を促進させるような媒介にはならないことがわかった。. が考えられる。この点を調べるには縦断研究が必要であ. むしろ、3 歳児において C-T 課題と C-F 課題の間に相関. り今後の課題といえる。. が見られたことから、表情と文脈間の理解は情動語と文. ④ まとめ. 脈間の理解に媒介されて成り立つということが示唆され る。. 本研究の結果より、具体的対象から一連の出来事(文 脈)に対象を広げながら情動語が理解されるという発達. これらの結果から、以下のような発達過程が想定され. 過程が明らかになった。また、2 歳半から文脈を通した. る。まず、およそ 2 歳半までに表情などの具体的対象を. 理解がなされることから、当初予想していたように、情. 通して情動語の理解が成り立つ。そして一旦情動語が獲. 動語理解に関して一連の出来事(文脈)の理解は初期か. 得されることで、文脈と関連した情動語の理解がなされ. ら密接に関連していたといえるだろう。. るようになる。3 歳になると、情動語と文脈間の理解が. また、これらの情動語に関する理解が表情と文脈のつ. 深まることで文脈に対する理解も深まり、表情と文脈間. ながりの理解という言語とは関係のない理解を促進させ. の理解へとつながってゆく。. ることが明らかになった。これによって、情動語が表情. この発達モデルを見ると、3 歳になり表情と情動語間、. や文脈の理解をはっきりと形作る機能を持つ可能性や、. 情動語と文脈間の理解がはっきりなされてくるまで、表. これらの言語による理解によって推論が行われている可. 情と文脈間の理解ははっきりとなされないことが指摘で. 能性が示唆された。. きる。これはどういうことだろうか。一つの考えられる. 情動語によって一連の出来事(文脈)の理解がはっき. 可能性として、言語によって表情や、文脈の意味が形作. りと形作られるということは、他の品詞の言語では見ら. られているということが挙げられる。つまり、言語のラ. れないことである。このような情動語の特徴は表象され. ベルなしではこれらの表情や文脈に対する認識ははっき. ている情動の特徴を反映しているものと思われる。特に. りしないという見方である。このことは 2,3 歳児は表情. 乳幼児期は、情動によるコミュニケーションが頻繁に行. 表出を特定の情動に関することばではなく、包括的なこ. われ、外界に意味づけをするうえで重要な指標となる。. と ば ( global terms ) と し て 解 釈 す る と い う. また、内的な感覚を引き起こすため覚醒度も高くなる。. Bromann-Kischkel et al(1990)などの主張と合致する. これらのことから情動語の獲得は、心的事象に関する. (see Russell et al, 2002) 。そして、2 歳から 3 歳にか. 出来事の認知や推論、ひいては解釈に初期のころから影. けて、表情や文脈に対し言語での意味づけがはっきりし. 響する重要な要因といえる。今後その点を明らかにする. てくることが表情と文脈の意味を対応付けて捉えること. ためには、情動語に関するさらなる実証的な研究が必要. を可能にするのではないだろうか。つまり、そこには“こ. であろう。. の文脈は「うれしい」ということである。そして、 「うれ. 主要引用文献. しい」表情はこれである”という言語を媒介とした推論. Russell, J.A., & Sherri, C.W. (2002). Words versus. 過程が行われている可能性が示唆される。. faces in evoking preschool children’s Knowledge of. ③ 情動語産出と理解について. the causes of emotions. International Journal of. 産出群と非産出群とのチャンスレベル検定を比較した. Behavioral Development, 26(2), 97-103.. 結果、両方とも表情と情動語間の理解は成り立っている. 櫻庭 京子・今泉 敏. (2001). 2∼3 歳児における情動語の. こと、産出群は情動語と文脈間の理解と、表情と文脈間. 理解力と表情認知能力の発達的比較. 発達心理学研究,. の理解も成り立っていることがわかった。 この結果より、. 12(1), 36-45.
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