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社会科学習内容の階層的配列について(2)

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(1)

社会科学習内容の階層的配列について(2)

    経済概念学習における学習階層の検証

福 田正弘*

(平成4年2月29日受理)

 OntheHierarc強icalSequence・fS・cialStudiesC・ntents(2)

一A Test of the Leaming Hierarchy in the Economic Concepts Lea,ming一

Masahiro FUKUDA

(Received February29,1992)

1 はじめに

 筆者は,ガニエ(Gagne,R。M.)の学習階層論を参考に,先行の学習内容が後の学習 の前提として機能する社会科学習内容の階層的配列の可能性について理論的検討を加えた

(福田,!992)。その中で,社会科学習内容の階層的配列は,社会科の学習内容がガニエの 言う概念やルールといった知的技能ではなく,事実的記述的知識によって構成されている 現段階では,困難であることを指摘した。それで,社会科における学習階層の存在を明ら かにするためには,まずもって社会科の学習内容を純粋に社会科学的概念によって構成し,

その概念体系から学習階層仮説を設定し,検証を行うというアプローチが必要になると思

われる。

 このようなアプローチは,既に,Hurstらの研究(Hurst et al.,1978)において見ら れる。彼らは,大学生を対象として需要と供給に関する経済学概念の教授を行い,需要と 供給の個別概念を識別する学習課題,両概念を機能的に捉える学習課題(需要の法則と供 給の法則),そして両概念を統合的に捉える学習課題(需給の法則)の間に階層関係を仮 定し,その検証を試みている。その結果,設定された学習階層仮説と検証結果の間に一部 不一致が検出され,彼らはその2要素の学習順序に特別の配慮を払う必要蝕ない,と結論

している(p.10)。

 しかし,彼らの結論をそのまま受け入れる訳にはいかない。というのは,White(!973)

も指摘するように1),検証で用いられた評価問題が目標とする知的技能を正確に測定する ものでなければ,誤った検証結果が出てくると考えられるからである。彼らのアプローチ

*長崎大学教育学部社会科教育教室

(2)

では検証方法は明示されているものの,検証において使用された評価問題は明示されてい ない。それゆえ,評価問題の妥当性の吟味が不可能となり,検証結果が評価問題自体の欠 陥から生じているのではないかという疑義を払拭できないのである。

 従って,社会科において学習階層の存在を検証するためには,学習内容を概念・,ルール の体系として構成した上で,それらの習得・未習得を正確に測定する評価問題を作成する ことが必要になる。しかし,そのような評価問題はどのようなものであろうか。

 そこで,筆者は,経済学概念の階層的教授を実験的に試みた際2),そのような評価問題 は学習内容の単なる言語的再生ではなく,学習者が理解内容を基盤にして行う推論や計算 などの論理的操作であると仮定して,操作的な評価問題を作成し,学習階層仮説の検証を 行った。本稿では,その概要を報告すると共に,得られた検証結果をもとに評価問題の妥 当性について吟味し,社会科における学習階層の検証を可能にする評価問題の要件につい て考察する。

2 学習階層仮説の設定

 2・1教授概念の抽出と構造化      需要曲線  本アプローチで教授される経済概念は,

ミクロ経済学で「消費者選択の理論」とい

       所得消費曲線  価格消費曲線 われるものである。この概念は,一定の予

算制約下で2種類の財を購入しようとする

消費者が,最大の効用を得るために財のど   (予算の変化)   (価格の変化)

のような組み合わせを選択するかを,説明 する理論である。つまり,この理論は,消 費者の予算制約という外的条件と消費者の 効用という内的条件を,「一定の充足効果 を得るための犠牲はできるだけすくなく,

また一定の犠牲を払うのであればそれによっ、

てできるだけ大きな充足効果を得ようとす る」(矢崎他,1986,p.94)という経済原則 に従って調停するものである。従って,こ の概念には,予算制約を表す予算制約式々 予算制約線,効用を表す無差別曲線などが 下位概念として含まれる。また,この理論 は,前提条件の変更によって,所得と消費

の関係を表す所得消費曲線や,価格と消費       図1 概念構造図

の関係を表す価格消費曲線を導くことが出来る。社会科の授業としては理論的過ぎるきら いがあるが,理論的であるが故に概念・ルールの体系として構造化しやすく,理論の前提 となる仮定(概念)さえ受け入れられれば,学習は容易である。概念構造図を図1に示す。

 2.2学習階層仮説

 以上の概念構造から,次のような学習階層を仮説的に設定した。図1の概念構造全てを 対象としていないのは学習階層の検証を容易にするために,出来るだけ学習階層を単純化

消費者選択の理論

予算制約式  無差別な組み合わせ 予算制約線  無差別曲線  経済原則

予算  価格   効用

(3)

したからである。

 A 一定の効用が与えられると仮定された2財の無差   別な組み合わせから,無差別曲線が描ける。

 B 所与の予算と2財の価格から予算制約式が作れる。

  (予算制約線が描ける。)

 C 予算制約と効用の条件下で,経済原則を適用して,

  最大の効用を獲得できる財の組み合わせを選択でき   る。(予算制約線と無差別曲線の接点が最適購入点   として指摘できる。)

 D 予算額を変化させて,最適購入点の軌跡(所得消

  費曲線)を示すことができる。       図2 学習階層仮説  E l財の価格を変化させて,最適購入点の軌跡(価格消費曲線)を示すことができる。

  また,この軌跡から,需要曲線が描ける。

 ここで設定した学習階層と概念構造との対応関係を見ると,Aが無差別曲線,Bが予算 制約式(一次式なので予算制約線も容易に描ける),Cが消費者選択の理論,Dが所得消 費曲線,.Eが価格消費曲線(需要曲線)に各々対応しでおり,概念間の論理的関係が学習 課題間の階層関係として設定されている。つまり,要素的な棚念からそれを組み合わせた 統合概念,そしてその応用概念へという配列になっている。

3 授業展開

 この授業は理論的な内容が中心であるので,途中で論理的な飛躍がないように,低次の ルールから高次のルールを導き出す時は,前提条件の変化や解くべき課題の明確化,また 適用すべき原理の提示に注意した。また,学習階層は学習課題の配列順を与えてくれるが,

学習活動の内容までは与えてくれない。それで,学習者が陥りやすい誤解や誤った推論を も演示する場面を加えた。以下に,本授業の教授過程の概略を記す。

 ①導入

 経済原則の確認

 消費行動においてはどういうことが言えるか。物を買う時,最大の満足を得るには,ど うしたらよいか。お金が無限にあれば,無限大の満足が得られ,こんなことを考える必要 はない。しかし,実際にそんなことはない。従って,一定のお金(予算)で最大の満足

(効用)を得る買物はどうやってなされているか,理論的に考えてみよう。

 ②無差別曲線

 条件設定 購入するもの(財)は2種類で,X、,X、とする。

     Xl,X2の組み合わせで,(X1,X2)=(1,6)

      (2,3)

       (3,2)

      (6,1)

     の時,得られる効用が同じだとする。

      注:最も単純な効用関数XIX2=Uを想定している。

      ここではU=6。

(4)

様々な組み合わせにおいて,同じ効用が得られる時,無差別という。

 この無差別な組み合わせを示すグラフを無差別曲線という。

無差別曲線の特徴

 原点に対して凸で右下がり。→接線の傾きdX2/dX1が常にマイナスで,漸増する。

 →限界代替率一dX・/dX1が漸減。(限界代替率逓減の法則)

 効用の大きさによって何本も引け,原点から遠いものほど効用が大きい。

   (他の無差別な組み合わせを示し,グラフに描かせる)

 互いに交わらない。 (交わると仮定して,矛盾を説明する)

③予算制約

条件設定 X l,X2の価格は各々P1=6千円,P2=4千円としよう。

     予算は,Y=24千円とする。

        注:これらの値は,消費者選択の理論の結論を先取して設定した。

         つまり,

         予算制約式 P、X1+P2×2=Y……(1)

         効用関数  XIX2=U一・D(2)

         の連立方程式が重根を持てばよい。(2)を(1)に代入して,

       PIX12−YX1十P2U=0          この判別式 Y2−4PlP2U=0 を解いて,

      Y=2π  (o. Y>0)

      ここでは,U=6として,Y=24を得ている。

 この予算で購入できるX1,X2の組み合わせはどうなるか。(式,表,グラフで表わす)

 この式を予算制約式,グラフを予算制約線という。

④消費者選択の理論

 与えられた予算制約下で,最大の効用を得るX1,X,の組み合わせはどれか。

        ↓

 購入可能なためには選択する組み合わせが予算制約線上になければならない。

  (予算制約線と無差別曲線の交点)

 最大の効用を得るためには,選択する組み合わせが原点より最遠の無差別曲線上になけ ればならない。

        ↓

 この2つの条件を満たすのは,予算制約線と無差別曲線の接点。 (二つのグラフを合成 し,最適購入点を指摘する。ここでは(X1,X2)=(2,3)

  (これを数学的に表わすとどうなるか)

⑤所得消費曲線

 条件設定 予算Yを変化させる。 (その他の条件は一定)

 幾つかのYを与え,各々の予算制約線を描く。

 それに接する無差別曲線を描き,ぞの接点の軌跡を描く。 (この軌跡を所得消費曲線と

いう)

 描かれた軌跡が直線の場合→X1,X・に対する選好は不変。

 描かれた軌跡が曲線の場合→X、,X,に対する選好が変化。

(5)

⑥価格消費曲線(需要曲線)

 条件設定 P、(或いはP,)を変化させる。 (その他の条件は一定)

 幾つかのP1を与え,各々の予算制約線を描く。

 それに接する無差別曲線を描き,その接点の軌跡を描く。 (この軌跡を価格消費曲線と

いう)

    描かれた軌跡が水平の直線の場合→X、に対する需要は不変。

    描かれた軌跡が曲線の場合→X1,X、に対する需要が変化。

 描かれた軌跡のX1座標とその時のX、の価格を読み,縦軸にP1,横軸にX1の座標系に

グラフを描く。 (需要曲線)

4 評価問題と検証方法

 4.1評価問題

 評価問題の作成において最も注意せねばならないのは,評価問題が学習課題を正確に反 映するものでなければならないということである。すなわち,評価問題では,学習内容の 記憶を測定するのではなく,実際学習者が学習を通じて変容させた内的体制を測定すべき である。内的体制の変容は,学習者がある問題状況において示すパフォーマンスの相違と して測定される。従って,具体的に評価問題は,知識内容を問う記憶問題ではなく,与え られた情報や変数を用いて推論や計算を通じて問題解決を行う操作的な問題でなければな らない,ということになる。この点に配慮して,本アプローチでは次のような操作的な評 価問題を作成した。(図3,但し問題中の図等は一部省略してある。)

AさんがXとYの2財を購入する時の行動についての以下の問に答えよ。   Y

但し,Aさんは下表の組合せで同じ満足を得,またX,Yの単位価格は各々

4千円,5千円とする。

      同じ満足を得る組合せ

  Xll.251.6722.53 45   Y54 32.521.671.251A この表をグラフ上で示すとどれになるか。図aより選べ。

B 2万円で購入可能なX,Yの組合せを表すグラフを図bより選べ。

C 次の3つのX,Yの組合せの説明として正しいものをそれぞれ選べ。

  1.(X,Y)=(1,3.2)  ア.最適購入点       123456   2.(X,Y)=(2,2.5)  イ.購入不可能         価格    図c

  3.(X,Y)=(2.5,2)  ウ.購入可能だが,満足は小さい  (千円)

D 図cはXの価格のみ変化させて得られた価格消費曲線である。(但し,  15  この曲線を導き出したその他の直線や曲線は割愛した。)この曲線をも

 とに得られるXの需要曲線を図dより選べ。       lO

E 次の3つの経済事象を説明する所得消費曲線はどれか,記号で答えよ。

  1・所得水準が上昇すると,夕食の刺身ではまちから鯛やひらめとい   5   う高級なものが多くなる。

  2.所得水準に関係なく,生活必需品(ex。トイレットペーパー)の

  需要は一定である。      123456

  3.所得水準に対して,自動車とタイヤの需要は同率で変化する。         図d

ア.      イ.      ウ.      エ.         オ。なし

し∠

X

図3 評価問題

X

(6)

 4.2検証方法

 検証方法は概ねHurstらのそれ3)を踏襲しているが,データ処理にコンピュータを用 い,また部分的にI SM教材構造化法のアルゴリズム(佐藤,!987)を用いたりしており,

若干異なる。以下にその手順を記す。

    評価テストの採点        ↓

    全生徒の反応データの入力(複数問題ある場合は,全問正解のみを正解とみな        す)

       ↓

    各学習課題間の階層関係の吟味

        各学習課題間の反応パターンの類型化と集計

         例えば,AとBの間に       B          右のような4種類の反

         応パターンがある。各          生徒の反応パターンを          この4つのパターンに

       A          分け,その合計数を集

         計する。 (Fは誤答,Tは正答)

        反応パターンの評価          許容レベルの入力

      F Tの反応パターン数が許容レベル以下ならば,前者(A)は後者(B)

         の先行要件と判定。

        反応マトリックスの作成

         階層関係ありと判定されたものには1,なしと判定されたものには          0の値を入れ,全学習課題間の関係を0,1の2値で表わすマトリッ          クスを作成する。

        ↓

    階層マトリックスの作成

        反応マトリックスの値を用いて,階層関係が見やすい階層マトリック         スに作り替える。 (I SM教材構造化法のアルゴリズムの使用)

        ↓

    階層構造図の作成

F T F

FF FT

T

TF TT

5 検証結果と考察

 5.1検証結果

 検証は授業終了の1週間後に定期試験

(1990年6月)の中で行われた。受検者数は 124名で,各学習課題毎の正答率は表1の通

りである。また,表2に反応マトリックス,

階層マトリックス,及び階層構造図を示す。

表1 各学習課題の正答率

A B C D E

正答者数 ll8 121 103 67 73

正答率(%) 95 98

83

54 59

(7)

         表2 許容レベル0.06の検証結果一覧

反応マトリックス     階層マトリックス        階層構造図

A B C

D E D

C

E B

A A 1 1 1

1

1

D

1

0 0 0 0 B

1 1 1 1 1 C 1 1 0

0

0

C

0

O 1 1

0 E 0

0 1

0

0 D

0 0 0

1

0

B 1 1 1 1 1

E

0 0 0 0

1 A 1

1

1 1

1

D

C A

E

B

 表1を見てわかる通り,本検証においては,学習課題A Bの問題の正答率が高く,殆ど 全員がパスしたといえる。その代り,CからD Eになるに連れて,正答率は低下していき,

問題が難化していることがわかる。

 また,検証途上で気付いたことだが,許容レベルをこれ以上に厳しく(すなわち0.06よ り小さく)すればf学習課題A,B以外には連結関係が表示できなくなり,階層構造図が 得られなくなった。また,逆に許容レベルを甘くしていくと,学習課題間の連結関係は密

になっていき,丁度0.12の時学習階層仮説と同じ階層構造図が得られたが,12%もの否定 的反応を認める検証は無意味であるので,考察の対象外にした。このように許容レベルに

よって検証結果が異なってくるのは,検証方法として問題があるが,本検証で用いた0.06 という値はHurstら(Hurst et aL,1978)が用いた値とほぼ同じであり,一応妥当だ と考えた。

 さて,検証結果であるが,上の階層構造図を図2の学習階層仮説と比較してみると,明 らかに異なっていることがわかる。すなわち,学習階層仮説では,A BがCの前提になり,

CがDEの前提になると考えられていたのに対し,階層構造図では,CはDの前提にはな るがEの前提としては検出されていない。従って,本検証ではC E間の階層関係について,

学習階層仮説は否定されたことになる。

 5.2考察

 では,なぜC E間の階層関係が否定されたのだろうか。

 ここでは,その原因が評価問題にあると仮定して,評価問題の妥当性について吟味した い。学習課題CとEに関する評価問題は,図3に示した通りであるが,各々の問題で測定

しようとしている知的技能を分析してみると,次のようになろう。

 学習課題Cの問題は,それ以前の問題から導かれた無差別曲線と予算制約線を合成した グラフを作成し,そのグラフ上で指示された座標がどういう意味を持つかを答える問いで ある。この問いに正解するには,ABの問題で無差別曲線と予算制約線が正しく選択され ていることと,3の授業展開④での理解内容に基づいて,グラフ上の各座標点の意味を判 別する能力が必要とされる。

 また,学習課題Eの問題は,!財の価格変化に対する予算制約線の変化から得られた価

格消費曲線をもとにその財の価格と購入数量(消費量)を読み取り,グラフ化することを

求める問いである。このグラフ化は,3の授業展開⑥の理解内容を基盤にして,次のよう

(8)

な作業展開を必要とする。

  価格消費曲線を導き出した予算制約線を復元し,各々の予算制約線が示すX財の価格  を計算する。

       ↓

  各予算制約線と価格消費曲線の交点のX座標(各価格に対応する消費量)を読む。

       ↓

  X財の価格と消費量の座標をグラフに示し,需要曲線を描く。

従って,Eの問題は,予算制約線を復元する能力と読み取った値を別の座標系に置換する 能力の2つを必要とする問いといえる。

 このように学習課題C Eの問題が各々測定しようとしている知的技能を示せば,明らか に,Eの問題には,Cの問題の解答で必要とされる技能は含まれていないことがわかる。

つまり,Eの問題は,Cの問題で求められた技能に依存しない独立した技能によって解答 可能なのである。従って,極端なことを言えば,与えられた価格消費曲線から需要曲線を 生成するグラフの置換手順さえ知っていれば,その前提的概念を知らずとも正解できるの である。

 以上のことから,学習課題C Eの評価問題には,測定しようとする知的技能の間に断絶 があり,相互に独立した問題であることがわかる。相互に独立的な問題の間に階層関係が 析出されないのは当然である。

 ところで,学習課題Eの評価問題として,グラフの置換の問題を設定したのは,先述し たように,学習者が概念・ルールを習得しているかどうかを測定するためには,その内容 の言語的再生ではなく,一定の問題状況における問題解決行動として測定されるべきだと 考えたからである。ここでは,学習者が価格消費曲線や需要曲線の概念を理解しているな らば,一定の条件が与えられる時,学習者はこれらの曲線を描くことができるであろう,

と仮定されているのである。

 しかし,概念やルールの理解をこのように学習者の問題解決行動に置き換えて測定する には1つの問題が存する。すなわち,学習者は問題解決行動を一旦経験してしまえば,そ れをアルゴリズム化し,次に同様の問題が提示された場合,それを再生して問題に適用す るだけで解決できる。それゆえ,学習者の外面的な問題解決行動の測定からだけでは,そ れが概念やルールの理解に基づいたものなのか,以前に憶えたアルゴリズムをただ適用し たものなのか区別できず,概念・ルールの正しい測定はできない,という問題である。教 師が授業で演示したのとはいくら違う記号や変数を使って評価問題を作ってみても,問題 解決のアルゴリズムが同じであれば,学習者は以前学習した問題の解き方をただ思い出し て適用するだけなのである。従って,このような場合,概念やルールの理解と問題解決行 動が分離してしまい,両者を同一のものとみなす測定の前提自身が倒壊してしまうのであ

る。

 今,このことに関して,学習課題Eに関する授業内容と評価問題を比較してみると,3

の授業展開⑥で価格消費曲線から需要曲線の導出が教授され,評価問題でも同様の内容が

出題されていることがわかる。学習者が,評価問題Cに関わらず,Eの問題に正答するの

は,授業において,価格消費曲線から需要曲線の置換方法を学び,評価問題においてそれ

を適用したからだと考えられる。従って,Eの評価問題で測定されたのは,価格消費曲線

(9)

から需要曲線を導く技能そのものではなく,その技能の再生でしかないのである。

 このように,学習課題Eの評価問題は,授業展開で示された問題解決のアルゴリズムを 再生するという問いとなっており,学習階層として検出されないのである。

6 おわりに

 はじめに述べた通り,社会科における学習階層の存在を明らかにするための要件は,学 習内容を概念・ルールの体系として構成することと,それらの習得・未習得を正確に測定 する評価問題を作成することの2つであった。本稿で示したアプローチは,その両方を満 たそうとするものであった。

 しかし,後者の評価問題の作成に関しては,概念・ルールの理解はその言語的再生では なく,一定の問題状況での問題解決行動として測定されるという仮定に基づいて操作的な 評価問題を作成したものの,検証結果から評価問題を吟味した結果,そこには次の2つの 問題が存することが明らかになった。

 1)評価問題が測定しようとする学習技能に断絶がある場合,たとえ学習階層仮説が妥   当なものであっても,誤った検証結果しか検出されない。

 2〉そのような測定技能間の断絶にも関わらず,上位技能の評価問題に学習者が正解で   きるのは,評価問題自体が問題解決アルゴリズムの適用によって解けるからであり,

  理解と問題解決アルゴリズムの分離がある限り,正確な測定はできない。

 これら2つの問題から,我々に示唆されることは,まず,学習課題から評価問題を作成 していく場合,測定対象とする技能を厳密に確定し,階層的に配列していかねばならない ということである。これは,学習階層に対する教師の一層の理解を求める。学習階層は教 授内容である社会科学的概念の構造に依存して構成されるから,このことは教師の一層の 社会科学理解を求めることになる。次に,概念やルールの理解は,学習者のどういう行動 によって測定されるのかという理解の経験的内容を,教師が明らかにすることである。教 師が教授する概念・ルールを様々な現実的文脈において深く理解していれば,授業で演示 したのとは全く異なった文脈で概念やルールの理解を問う評価問題を作成することができ,

単なる問題解決アルゴリズムの再生を理解として見誤る可能性を排除することができる。

従って,社会科において,学習階層の有意味な検証を可能にする評価問題を作成するため の基礎的要件は,教師の教授内容に対する深い理解である,といえる。

・王

1) 設定された学習階層仮説と検証結果の間に矛盾が生じる原因については,White(1973)が,

 次の4点を指摘している(pp.362−363)。すなわち,1)対象とする知的技能をテストが充分に  測定できないという測定の誤り,2)上位技能が獲得されてしまって下位技能が忘却されてしまっ  たという忘却,3〉設定された学習階層仮説の誤り,4)学習階層理論自体の誤り,の4点である。

 本稿では,この内1)について言及していく。

2) 本実験的アプローチは,国立工業高等専門学校の第3学年生(高等学校の第3学年生と同年齢)

 を対象にした科目「政治・経済」の経済学習の1単元で行われた。

3) 2要素間に仮定された階層関係の検証基準として,Gagne&Paradise(1961)の「正の転

 移率」がある。これは,2要素間の垂直転移の関係を肯定的に示そうとするものである。しかし,

(10)

たとえこの値が満足のいくものであったとしても,仮説を確証したことにはならない。むしろ,

仮説の反証事例の出現頻度を測定し,.どれ位の頻度で仮説は否定されないかを示す方が経験的検 証方法として優れている。それで,Airasian&Bart(1973)は,許容できる反証事例の出現 頻度を設定し,階層仮説を検証する「Ordering Theory」を提起している。Hurstらの検証方 法は,基本的にこの理論に依拠しているが,多項目間の階層関係の検証法において相違がみられ

る(福田,1992)。

引用・参考文献

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Gagne,R.M.,&Paradise,N.E.(1961)。Abilities and Leaming Sets in Knowledge  Acquisition.Psychological Monographs:General and App王ied,75,pp.1−23.

Hurst,」.et a1.(1978).Hierarchical Analysls of Leaming Objectives in Economics.

 丁鼓eory a.nd Research in Social Education,6,pp.!−ll.

White,R.T。(1973).Research into Leaming Hierarchies.Review of Educatlonal  Research,43,pp.361−375,

福田正弘(1992).社会科学習内容の階層的配列について一R。M.ガニエの学習階層論の検討一、

 長崎大学教育学部教科教育学研究報告,18,pp.14−27.

佐藤隆博(1987).I SM構造学習法,明治図書.

矢崎幸生他(1986).高専生のための政治・経済学,学術図書出版.

参照

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