アメリカにおけるフォージェリー理解(都法五十七–二) 二四五
アメリカにおけるフォージェリー理解
山 科 麻 衣
1 はじめに 2 模範刑法典二二四条の制定過程 3 州法のフォージェリーと模範刑法典との相違 (1)州ごとのフォージェリー規定 (2)カリフォルニア州―客体の列挙と詐取する意図 (3)ルイジアナ州―
forge の意義を列挙 (4)ニューヨーク州―インストゥルメントの不正な作成と権利侵害の意図 (5)ウィスコンシン州―客体に
object を含める
4 フォージェリーの客体の把握
(1)客体としてのライティング
(2)客体の法的重要性に対する理解の変化
二四六
5 偽造行為の意義 (1)実質的な「
false 」の概念 (2)重要な変更であることの必要性 6 主観的要件としての権利侵害の意図 7 真正性の保護とセフトとの関係 8 小括
1 はじめに
我が国において、文書偽造罪は財産犯とは区別された独立の犯罪として規定されている。これは、文書の公共的 信用を保護法益と し
(1)、詐欺等の財産的損害を生じさせる犯罪とは保護法益が異なるものとして理解しているためで あ る
(2)。もっとも、この文書の公共的信用という財産犯と区別された保護法益理解が固まっている一方で、多くの場
合に偽造行為が詐欺の手段として行われるという点が偽造罪の特徴であることも事実であり、他方において文書偽
造罪と詐欺を中心とした財産犯との間の密接な関連性は否定し難いところである。
英米においては、古くから偽造罪は財産犯との関係性が強く意識されてきた。特に、我が国では偽造の主観的要 件 と し て「 行 使 の 目 的 」 を 要 求 す る に 止 ま る の に 対 し
(3)、 ア メ リ カ の 多 く の 州 に お け る フ ォ ー ジ ェ リ ー の 制 定 法 は、
主観的要件として 「詐取する意図 ( intent to defraud )」 を要求している点で、 財産犯としての側面が滲む作りとなっ
アメリカにおけるフォージェリー理解(都法五十七–二) 二四七
ている。そのために、偽造罪を財産犯から独立した犯罪として規定する必要性については、我が国よりも厚く議論 されてきたところであ る
(4)。
そ の よ う な 中 で、 後 述 す る よ う に 偽 造 罪 に は 財 産 犯 と は 区 別 さ れ た 独 自 の 存 在 意 義 が あ り、 そ の 本 質 は 文 書 の
真正性の保護にあるということがアメリカにおいても認識されてきた。そして、偽造行為の概念についても我が国
と 類 似 の 考 え 方 が 採 ら れ て い る。 本 稿 で は、 ア メ リ カ に お け る フ ォ ー ジ ェ リ ー( 偽 造 ) 罪 の 模 範 刑 法 典 及 び 代 表
的な州法の規定を中心としてその要件を検討し、文書偽造罪がどのように理解され位置付けられているかを考察す
る。
2 模範刑法典二二四 ・ 一 条 (5)の制定過程
一九六二年にアメリカ法律協会 ( American Law Institute )によって出された模範刑法典 ( Model Penal Cod e
(6))は、
フォージェリーについて次のように規定する。
二二四 ・ 一条
(1)詐取す る
)((
又は人に損害を加える目的で、又は他者の詐取もしくは加害行為を容易にすることを知りながら、
行為者が ( a ) 権限なしに他者のライティン グ
(8)を変更する、又は
( b ) 権 限 が 与 え ら れ て い な い の に 他 者 の 行 為 で あ る こ と を 表 示 し 、 又 は 実 際 と は 異 な る 日 時 、 場 所 、 順 序 で 完
二四八
成さ れた もの であ ること を表 示し 、 又は 原本は 存在 しな いの に原本 のコ ピー であ るこ とを表 示す る何 らか
の ラ イ テ ィ ン グ を 作 成 、 完 成 、 調 印 、 認 証 、 発 行 又 は 交 付 す る 、 又 は
( c ) ( a ) 号 又 は( b ) 号 で 特 定 さ れ た 方 法 に よ っ て 偽 造 さ れ た も の で あ る と 知 り な が ら こ れ を 行 使 す る 場 合
には、フォージェリーの罪となる。
「ライティング」は印刷物又はその他の方法による情報の記録、 金銭、 硬貨、 代用貨幣、 切手、 印章、 クレジッ
トカード、バッジ、商標、そしてその他の価値、権利、特権、又は同一性を表すシンボルを含む。
こ の 模 範 刑 法 典 の 規 定 は、 草 案 の 規 定 か ら 大 き く 変 更 さ れ て い る。 草 案 に お け る フ ォ ー ジ ェ リ ー は、 二 二 三 ・ 一
条( 一 ) で、 「 人 を 欺 く 又 は 損 害 を 加 え る 目 的 で、 偽 造 し た ラ イ テ ィ ン グ 又 は そ の 他 の 物 を 作 成 又 は 行 使 し た 物 は
フォージェリーの罪である。行使は、発行する、認証する、交付する、公表する、又はその他偽造したライティン
グ又は物を流通させることを意味する。著作者 ( authorship )、 権限 ( authority )、 日付、 その他真正性 ( authenticity )
の面に関して誤った印象を伝えるように作成又は変更された場合に、それは偽造されたものであり、単にその他虚
偽表現を含むという理由でライティングは偽造にならない。 」 と定義されてい た
(9)。ここでは偽造の客体について 「ラ
イティング又はその他の物」とされており、文書以外のオブジェクトも偽造罪の対象として規定していたが、模範
刑 法 典 で は ラ イ テ ィ ン グ の み を フ ォ ー ジ ェ リ ー の 対 象 と し、 そ の 他 の 物 は 二 二 四 ・ 二 条 を 追 加 的 に 規 定 す る こ と で
カバーする形を採った。このような変更は、偽造行為の定義を具体的に示す形式を採用しようとした結果、客体に
ついても限定的に規定する必要が生じたためになされたものであ る
)(1(
。このように、客体の規定にも影響を与えた草
案から模範刑法典への中心的な変化は、 偽造行為の定義である。すなわち、 草案では偽造につき「偽造したライティ
アメリカにおけるフォージェリー理解(都法五十七–二) 二四九
ング又はその他の物を作成又は行使( makes or utters a forged writing or other object )」することだと示してい
た の に 対 し、 模 範 刑 法 典 で は、 抽 象 的 に 作 成・ 変 更・ 行 使 と い っ た 定 義 を 示 す の で は な く、 ( a ) 号 か ら( c ) 号
の具体的な行為の類型を偽造と定義するように変更されている。
まず、模範刑法典において草案に示されなかった「変更」行為が(a)号で規定されているが、これは変更行為 を新たに処罰対象に含めた訳ではなく、それまでも処罰されてきた行為を具体的に明示したものであ る
)(((
。アメリカ
に お け る フ ォ ー ジ ェ リ ー は、 イ ギ リ ス に お け る フ ォ ー ジ ェ リ ー の 発 展 を 引 き 継 ぐ よ う に 形 作 ら れ て き た も の で あ
り
)(1(
、アメリカにおけるフォージェリーの背景には、イギリスにおける偽造罪の発展の過程があ る
)(1(
。イギリスにおけ
る偽造処罰は、大逆罪となるような貨幣の偽造に対する処罰に始まり、公的性質を有する文書の偽造に対する処罰
へ広がり、私的文書の偽造へと処罰対象が拡大されてき た
)(1(
。アメリカにおいても、イギリス同様コモン・ローの時
代から法的な文書に他人の氏名が権限なく使用されると、他者に財産的損害をもたらす危険があり、そのような虚
偽の文書がコミュニティの中で流布された場合、真実の文書を利用する上でも困難をもたらすために、他人の氏名
を利用した法的文書の作成を禁圧する必要があると認識されてき た
)(1(
。そして、他人によって有効に作成された文書
の改変にも、無権限に他人の氏名を使用することと同様の問題があると認識されるようになったた め
)(1(
、文書の詐欺
的な作出と詐欺的な改変の両方を禁じ、両方をフォージェリーとして処罰してきた。このように従来から偽造行為
として認識されてきた文書の詐欺的な変更についても、模範刑法典では具体的行為類型として明示された。
次に、変更や作成といった行為の形式だけでなく、権限の有無や作成の意図についても、草案とは異なり、かな り 具 体 化 し て 規 定 さ れ て い る。 草 案 の 段 階 で は、 真 正 性( authenticity ) に つ い て 誤 っ た 印 象 を 与 え る こ と を 偽 造
として把握するという理解を軸として、包括的な形で規定されていた。
二五〇
後述する偽造の概念の理解と関係するが、この真正性を軸とした偽造の定義には、不明確さが残るとして批判さ れた結果、草案から現在の規定へと変更されるに至 る
)(1(
。もっとも、フォージェリーの理解において、真正性という
用語は重要な意味を持つ。いかなる行為を処罰すべき偽造行為として捉えるかを考える上で、この文書の真正性が
基準となると考えられてきたのであ る
)(1(
。文書の真正性とは、我が国の真正文書の考え方と同じく、文書の名義人と
作 成 者 が 一 致 す る こ と を 意 味 し、 単 な る 不 実 表 示 の 文 書 と フ ォ ー ジ ェ リ ー を 区 別 す る た め に 用 い ら れ る。 し か し、
この真正性という基準は、例えば会社の従業員によるペイロールの詐欺的な水増しのケース等がフォージェリーか
ら除外されることを説明する上で基準として明確でないと批判され た
)(1(
。作成者や作成権限については問題がないが、
内容において不実な文書を作成した場合に、それが文書の真正性を害するに至っているものなのか、内容の一部分
が偽られたに過ぎないのか、 という区別において、 十分に明確な基準とならないと考えられたのである。そのため、
真正性について誤った印象を与える、という表現ではなく、その具体的な行為類型を明示する形で模範刑法典が提
案されたものであっ た
)11(
。
文書の真正性の保護という理解を有しながらも、その基準の不明確さを排除するために可能な限り具体化を試み
たのが現在の模範刑法典であるが、それによって適用範囲が明確に区分けられたとは言い難い。各州法も必ずしも
模範刑法典と近い規定とはなっておらず、フォージェリーの定義には州ごとの差異がみられる。
アメリカにおけるフォージェリー理解(都法五十七–二) 二五一
3 州法のフォージェリーと模範刑法典との相違
(1)州ごとのフォージェリー規定
アメリカの模範刑法典は、草案の段階から各州におけるフォージェリー法の規定を参照しながら、より適切な規
定のあり方が検討されてき た
)1((
。各州は、それぞれフォージェリー規定を有してお り
)11(
、その形式は必ずしも模範刑法
典と完全に一致するものではない。いくつかの代表的な州におい て
)11(
、フォージェリーがどのように定義されている
か、一般的な文書に対する偽造の定義規定を参照する。
(2)カリフォルニア州―客体の列挙と詐取する意図
カリフォルニア州刑 法
)11(
四七〇条
( a ) 詐 取 す る 意 図 で、 彼 又 は 彼 女 に 権 限 が な い こ と を 知 り な が ら、 ( d ) に 載 っ て い る ア イ テ ム の い ず れ か に、 他 者 又 は 架
空の人の氏名を署名する全ての者は、フォージェリーの罪である。
( b ) 詐取する意図で、他者の印章又は筆跡を模倣し、又は偽造する全ての者は、フォージェリーの罪である。
( c ) 詐 取 す る 意 図 で、 遺 言 書、 遺 言 補 足 書、 財 産 移 転 証 書、 又 は そ の 他 の イ ン ス ト ゥ ル メ ン ト の 記 録、 法 的 証 拠 の 記 録、
又 は 何 ら か の 法 廷 判 決 の 記 録、 裁 判 所 の 訴 訟 手 続 き に 関 す る 裁 判 所 職 員 に よ る 報 告 書 を 変 更 し、 変 造 し、 又 は 偽 る 全 て
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の者は、フォージェリーの罪である。
( d ) では、小切手や契約書といった偽造の対象となるアイテムを具体的に多数列挙する。
カ リ フ ォ ル ニ ア 州 の フ ォ ー ジ ェ リ ー は、 ( a ) で 一 般 的 な 名 義 の 冒 用 の ケ ー ス を 規 定 し、 ( b ) で 模 倣 の ケ ー ス、
(c)は特定の文書の改変による偽造のケースを規定している。 (a)の一般的な偽造の客体については、ライティ
ン グ と い う 用 語 を 使 用 す る こ と な く、 ( d ) で 具 体 的 に 列 挙 す る 形 を 採 用 し て お り、 客 体 に つ き 模 範 刑 法 典 よ り も
明確な記載をすることで適用範囲を具体的に示すことを重視しているといえ る
)11(
。主観的要件としての意図について、
カリフォルニア州は、 「詐取する意図」とするのみであり、損害を加える意図については言及していない。
(3)ルイジアナ州―
forge
の意義を列挙ルイジアナ州 法
)11(
一四章七二条
A . 詐 取 す る 意 図 で 、 何 ら か の 署 名 、 法 的 効 果 を 有 す る こ と を 表 示 す る 何 ら か の ラ イ テ ィ ン グ の 一 部 を 偽 造 す る こ と は 、 不 法 と す る 。
B . 詐 取 す る 意 図 で 、 犯 罪 者 に よ っ て 偽 造 さ れ た ラ イ テ ィ ン グ で あ る こ と を 知 り な が ら 、 偽 造 し た ラ イ テ ィ ン グ を 発 行 す る 、 交 付 す
る 、 又 は 所 持 す る 場 合 も ま た 、 本 条 の 規 定 の 違 反 を 構 成 す る 。
C . 本 条 の 目 的 に お い て 、
( 1 )「 偽 造 ( forge )」 は 、 以 下 の 意 味 で あ る
( a ) それが以下を表示するようにライティングを変更、作成、完成、調印、又は認証すること
(ⅰ)行為を承認されていない他者の行為であること
アメリカにおけるフォージェリー理解(都法五十七–二) 二五三
(ⅱ)実際と異なる時間、場所、又は順序で完成されたこと (ⅲ)そのような原本が存在しないときに原本のコピーであること
( b ) ( 1) ( a ) の 意 味 に 従 っ て 偽 造 さ れ た ラ イ テ ィ ン グ を 発 行 し、 交 付 し、 移 転 登 録 し、 通 用 し、 公 表 し、 又 は そ の 他 の 行
使をすること
( c ) (1) (a)の意味の中で偽造されたライティングを所持すること
( 2 ) ラ イ テ ィ ン グ は 、 以 下 の 意 味 で あ る
( a ) 印刷物又はその他の方法による情報の記録
( b ) 金銭、硬貨、代用貨幣、切手、印章、クレジットカード、バッジ、トレードマーク
( c ) 価値、権利、特権、又は同一性を表すシンボル
ルイジアナ州は、最初に包括的な偽造と行使の定義を示しており、特に法的効果を有するライティングを一般的
な客体の定義として採用している点で模範刑法典や他の州法との違いがある。もっとも、 その具体的内容がC(2)
の定義の中で示されており、対象となる具体的アイテムは模範刑法典が想定している物と同様である。また、偽造
行為に該当する類型を具体的に列挙して定義しており、その内容は模範刑法典に類似する表現が採られている。
二五四
(4)ニューヨーク州―インストゥルメントの不正な作成と権利侵害の意図
ニューヨーク州刑 法
)11(
一七〇 ・ 〇〇条
フォージェリー:用語の定義
1 . 「 書 面 の イ ン ス ト ゥ ル メ ン ト 」 と は 、 他 者 の 有 利 不 利 に 使 用 さ れ 得 る 、 情 報 を 詳 細 に 報 告 し 、 表 現 し 、 伝 達 し 、 又 は 記 録 す る 、
又 は 価 値 、権 利 、特 権 、同 一 性 の 象 徴 又 は 証 拠 と な る 目 的 で 使 用 さ れ る 、書 面 又 は 印 刷 物 、又 は そ れ ら と 同 等 物 を 含 み 、コ ン ピ ュ ー
タ デ ー タ や コ ン ピ ュ ー タ プ ロ グ ラ ム を 含 む 何 ら か の イ ン ス ト ゥ ル メ ン ト 、 又 は 記 事 を 意 味 す る 。
2 . 「 書 面 の イ ン ス ト ゥ ル メ ン ト の 完 成 」 と は 、 全 て の 不 可 欠 な 主 要 点 に 関 し て 充 足 さ れ た 本 物 の 書 面 の イ ン ス ト ゥ ル メ ン ト で あ る
と 表 示 す る も の で あ る 。 裏 書 き 、証 明 、承 認 又 は そ の 他 同 様 の 署 名 又 は ス テ ー ト メ ン ト は 、そ れ 自 体 が 完 成 し た 書 面 の イ ン ス ト ゥ
ル メ ン ト で あ る 場 合 と 、 主 た る イ ン ス ト ゥ ル メ ン ト の 一 部 分 に 含 ま れ る 又 は 添 え ら れ る 場 合 の 両 方 が 扱 わ れ る 。
3 . 「 未 完 成 の 書 面 の イ ン ス ト ゥ ル メ ン ト 」 と は 、 内 容 又 は 証 明 と し て い く つ か の 事 柄 を 含 む が 、 完 成 し た 書 面 の イ ン ス ト ゥ ル メ ン
ト に す る た め に 追 加 的 事 柄 が 必 要 な も の で あ る 。
4 . 「 不 正 に 作 成 」。 表 面 上 の 作 成 者 又 は 振 出 人 の 真 正 な 創 作 で あ る と 表 示 す る が 、 表 面 上 の 作 成 者 又 は 振 出 人 が 架 空 で あ る た め 、 若
し く は 実 在 す る が そ れ を 作 成 又 は 振 り 出 す 権 限 が な い た め に 実 際 は そ う で は な い 、 完 全 な 書 面 の イ ン ス ト ゥ ル メ ン ト 全 体 又 は 不
完 全 な 書 面 の イ ン ス ト ゥ ル メ ン ト を 作 成 又 は 振 り 出 す と き 、 書 面 の イ ン ス ト ゥ ル メ ン ト を 「 不 正 に 作 成 」 す る 。
一 七 〇 ・ 〇 五 条 第 三 級 フ ォ ー ジ ェ リ ー 人 が、 詐 取 す る、 騙 す 又 は 損 害 を 加 え る 意 図 で、 書 面 の イ ン ス ト ゥ ル メ ン ト を 偽 っ て 作 成、 完 成、 又 は 変 更 し た と き、 第 三
級のフォージェリーの罪である。
アメリカにおけるフォージェリー理解(都法五十七–二) 二五五
第三級のフォージェリーは、クラスAの軽罪である。
ニューヨーク州は、インストゥルメントを偽って作成・変更する行為を偽造としており、客体をライティングで
はなくインストゥルメントとし、偽造行為については不正に作成、変更することであると定義する点で、模範刑法
典 よ り も 包 括 的 な 規 定 の 仕 方 を 採 っ て い る。 客 体 と な る イ ン ス ト ゥ ル メ ン ト の 内 容 に つ い て は、 書 面 は 勿 論 コ ン
ピュータデータ等も含むと明文化しており、この点はイギリス法の定義と共通す る
)11(
。主観的要件については、詐取
する意図だけでなく、他者に損害を加える意図も定義の中で明示している点では模範刑法典と共通している。
(5)ウィスコンシン州―客体に
object
を含めるウィスコンシン州 法
)11(
九四三 ・ 三八条
(3)詐取する意図で、以下のいずれかを行った者は、クラスAの軽罪である。
( a ) そ れ が 有 し な い 古 さ、 珍 し さ、 出 所、 著 作 者 故 に 価 値 が あ る よ う に 見 せ か け る た め に 何 ら か の 物 を 不 正 に 作 成 又 は 変 更
す る、 又 は 販 売 す る こ と に よ っ て、 又 は 安 全 保 護 の た め 譲 渡 す る 意 図 で 現 物 で あ り 本 物 で あ る と し て そ の よ う な 不 正 な
作成又は変更がなされたものであることを知りながらそのような物を所持する
( b ) 身分証明又は推薦の目的のために一般に信頼される種のライティングを不正に作成又は変更する
( c ) 同意なしに、他の職人、商人、包装業者、製造業者のもの、又はそのような趣旨の商品の識別ラベル又は刻印を据える
( d ) 友愛組合、 職業組合又は職能団体又は労働組合であることを表示するメンバーシップカードを不正に作成又は変更する、
又 は 不 正 に 作 成 又 は 変 更 さ れ た も の で あ る こ と を 知 り な が ら、 そ の よ う な カ ー ド を 所 持 し、 そ れ を 使 用 す る 意 図 又 は 他
二五六
者を騙すために使用させる又は使用することを許す
( e ) 運輸業者の輸送資格の証拠となるライティングを不正に作成又は変更する
( f ) 不 動 産 の 権 限 要 約 書、 保 険 誓 約 の 権 利 証 明 書、 保 険 契 約 の 権 利 証 明 書、 又 は 不 動 産 の 権 利 の 状 態 に 関 す る 証 拠 の 書 面 を
不正に作成又は変更する
ウィスコンシン州は、 公的記録や証明書、 法的権利義務を創設する手段となる文書等の偽造を九四三 ・ 三八条(1)
項で重罪として規定し、 その行使に関する罪を (2) 項で、 その他の偽造を (3) 項で規定する。 (a) では、 ライティ
ン グ 等 で な く「 物( any object )」 が 客 体 と さ れ て お り
)11(
、 ア ン テ ィ ー ク 品 の 模 造 等 も フ ォ ー ジ ェ リ ー の 対 象 と な り
得 る 規 定 の 仕 方 を 採 っ て い る。 偽 造 行 為 に つ い て は、 「 不 正 に 作 成 又 は 変 更 す る( Falsely makes or alters )」 行 為
と規定されているが、具体的態様を列挙していない点が他の州法と異なる特徴的な点である。もっとも、客体とな
る物は具体的に分類した規定を採用しており、これにより対象となる行為を限定する趣旨が窺える。主観的要件に
ついては、詐取する意図と規定しており、他者への加害の意図については明示していない。
4 フォージェリーの客体の把握
(1)客体としてのライティング
模範刑法典において、 偽造の客体は「ライティング」という用語を使用して定義され、 その内容については、 「印
刷物又はその他の方法の情報の記録、金銭、硬貨、代用貨幣、切手、印章、クレジットカード、バッジ、商標、そ
アメリカにおけるフォージェリー理解(都法五十七–二) 二五七
してその他の価値、権利、特権、又は同一性を表すシンボルを含む」ものと定義され る
)1((
。ライティングという用語
は、法律上広く一般に使用されてきたものであり、手書きのものに制限されず、タイプ打ちされたもの、印刷され
たもの、彫刻されたものなども含むと解釈されてい る
)11(
。もっとも、物についてはライティングには含まれず、アン
テ ィ ー ク 品 の 模 造 等 は 二 二 四 ・ 二 条 に お い て 別 途 規 定 さ れ て い る
)11(
。 一 般 的 な 偽 造 行 為 の 定 義 に お け る 客 体 に つ い て
は、前述のようにニューヨーク州法を始めとして、アラバマ 州
)11(
、コロラド 州
)11(
等の多くの州法では「インストゥルメ
ン ト( instrument )」 と い う 用 語 で 規 定 さ れ、 具 体 的 な イ ン ス ト ゥ ル メ ン ト の 内 容 は 別 の 条 文 又 は 項 で よ り 詳 細 に
列 挙 す る と い う 形 式 が 採 ら れ て お り、 用 語 や 定 義 の 具 体 的 内 容 に つ い て も 模 範 刑 法 典 と 各 州 法 で は 差 異 が あ る が、
いずれもある程度具体的にな内容が定められ、対象となる行為の明確化がなされている。
模範刑法典は、概括的に文書の種類を列挙するにとどまっているが、具体的内容としては、あらゆる種類の文書
がフォージェリーの客体として含まれており、金銭や硬貨についてもライティングに含めている点で、通貨偽造罪
を文書偽造罪と区別して規定している我が国の規定よりも、客体たる「ライティング」を文書として広く理解して
いる。もっとも、各州のフォージェリー法においては、客体となる文書によって刑罰の内容を区別して規定してお
り、例えば前述のニューヨーク州法は、一般的なインストゥルメントの偽造をクラスAの軽罪とす る
)11(
のに対し、金
銭や政府発行の価値あるインストゥルメントの偽造は、クラスCの重罪としてい る
)11(
。このように、実質的には一般
的な文書と金銭等は区別して規定され刑罰の軽重を分けているため、この点においては文書と通貨を分ける我が国
の考え方と共通している。
二五八 (2)客体の法的重要性に対する理解の変化
従来、 フォージェリーの対象となるライティングは、 法的な重要性を有する物であると考えられてき た
)11(
。それは、
法的重要性を有するライティングは、その他のライティングと異なり、文書が存在することそれ自体以上の意味を
有するものだと考えられるためであった。すなわち、例えば不動産の権利証書は、人から人へ権利を移し、抵当権
証書は不動産又は動産の担保を創設し、遺言書は亡くなった人の財産を処分するために利用されるものであり、紙
としての存在以上の意味を有するゆえに偽造罪の保護の対象となると考えるのであ る
)11(
。前述のルイジアナ州法七二
条Aは客体の法的効果に言及しこれを明確に示している。
もっとも 、直接的に法的効果を生じさせる文書でなくとも 、法的重要性を有する文書であることは認められてき
た 。 そ れ は 、 法 的 責 任 の 基 礎 と な り う る た め で あ る と 説 明 さ れ る 。 例 え ば 、 大 学 の 学 位 記 は 、 大 学 に お け る 一 つ の
学部又はカレッジからの卒業の公的証拠である 。それは大学が法的な義務又は責任を負うことを意味するものでは
ないが 、そ れが示される ことで 、卒業と いう事実の有 する利益が人 に権利を与 えることを意味 すると考え るのであ
る
)11(
。この ような間接的 なものを含める が 、フォージ ェリーの客体と なるライティ ングは法的重 要性を有する もので
あ る と 説 明 さ れ て き た
)1((
。 解 釈 上 「 重 要 性 」 を か な り 広 く 解 し て 客 体 に 含 め て い た と い え る 。
しかしながら、模範刑法典においては客体となるライティングについて法的な重要性に言及されていな い
)11(
。ライ
ティングの定義として列挙された金銭や権利のシンボルを含む印刷物等は、実質的に明らかな法的重要性を有する
ものであるといえるが、法的重要性という要素は明文として要求していないのである。これは、偽造罪の客体とし
て法的重要性を有する文書を列挙することは、それに含まれない文書が生じる危険をもたらすために妥当でないと
アメリカにおけるフォージェリー理解(都法五十七–二) 二五九
考えられたためであっ た
)11(
。そのため、模範刑法典の起草にあたっては、法的重要性の要件を条文から排し、一見し
て法的又は商業的重要性を有しないドキュメントにもフォージェリー罪の対象を拡大する規定を採用した。これに
より、通常法的重要性が認められる権利証書や小切手、遺言のようなアイテムに加え、大学の学位記等も、前述の
ような法的重要性を広く解釈する必要なく客体に含まれることが明らかにされ た
)11(
。
このような客体の拡大も、フォージェリー罪が商業の重要なシンボルに対する国民の信頼を攻撃する手段、幅広
い詐欺の手段として犯されるものであるために、その禁止に特別な有効性が認識され、適用範囲の拡大に肯定的で
あったためと解され る
)11(
。イギリスと同様、アメリカにおけるフォージェリーも、金銭その他公的ドキュメントの偽
造に対する原始的規制から始まり、社会の商業化に伴い、流通証券や権利証書等の様々な取引に利用される文書の
偽造に対する規制にも拡大されていっ た
)11(
。それは、インストゥルメントの真正性が保証されることで、社会が重要
な取引においてそれを信頼することができる必要性が強く認識されてきたためであった。従来は、取引そのものを
構成するような金銭や権利証書といった文書を始め、法的重要性を有する文書が客体として認識されてきたが、模
範 刑 法 典 が 起 草 さ れ る に あ た り、 法 的 効 果 あ る い は 法 的 重 要 性 を 有 し て い る こ と も 要 件 か ら は 除 外 さ れ る に 至 り、
広くあらゆる文書が保護の対象となった。
もっとも、法的重要性という要素を不要とすることで客体たるライティングの範囲が拡大するとしても、それに
よって処罰範囲が過剰に拡大することはないと考えられている。それは、偽造の意義及び主観的要件との関係から
説明できる。
二六〇
5 偽造行為の意義
(1)実質的な「
false
」の概念前述の通り模範刑法典では、具体的類型を列挙する形で偽造行為を規定しており、イギリスのフォージェリー法
で見られるような「虚偽のインストゥルメントの作成( makes a false instrument )」といった広く概括的な表現は 採用されていない。特に注目すべきは、 「虚偽( false )」という用語が使用されていない点である。偽造行為を説明
する上では、文書を不正に作成する、あるいは文書の作成において偽りがあるということが素直な説明に思われる
が、模範刑法典では、不正や偽りという用語を用いることなく、偽造行為を定義してい る
)11(
。
こ れ に 対 し、 ニ ュ ー ヨ ー ク 州 の フ ォ ー ジ ェ リ ー 規 定 は、 前 述 の よ う に「 不 正 に 作 成( falsely make )」 す る こ と
等 を 偽 造 行 為 と し て 示 し て い る。 そ し て、 「 不 正 に 作 成 」 す る こ と の 定 義 は、 一 七 〇 ・ 〇 〇 条( 4) で、 「 表 面 上 の
作成者又は振出人の真正な創作であると表示するが、表面上の作成者又は振出人が架空であるため、若しくは実在
するがそれを作成又は振り出す権限がないために実際はそうではない、完全な書面のインストゥルメント全体又は
不完全な書面のインストゥルメントを作成又は振り出すとき、書面のインストゥルメントを『不正に作成』する。 」
と 定 め る。 偽 造 行 為 の 定 義 と し て「 falsely 」 と い う 用 語 を 使 用 し て 模 範 刑 法 典 よ り も 包 括 的 に 偽 造 を 規 定 す る も の
の、各要件の定義化の中で、より詳細に適用場面を説明することで不明確さを排除する方策を採っている。模範刑
法典において規定される偽造行為も、明文で示されている行為を実態としてみれば、ニューヨーク州法が規定する
ように、作成者を偽る、あるいは作成権限を偽って作成する等、我が国における有形偽造と同様の行為が対象とし
アメリカにおけるフォージェリー理解(都法五十七–二) 二六一
て規定されているといえる。ニューヨーク州も実質的には権限なく他人のライティングを作成・変更する行為が不 正な作成すなわち偽造行為と考えており、いわゆる名義の冒用行為を偽造として理解してい る
)11(
。
これは、判例上認められてきた偽造の考え方でもある。一九一八年のド・ローズ事 件
)11(
は、職長として給与支払簿
の基礎となる職員のタイムロールを作成する地位にあった被告人が、実際の労働日数よりも多い日数を記入するこ
とで労働時間を水増しした事件であった。被告人はタイムロールを偽造したとして偽造罪で起訴されたが、裁判所
は偽造罪の成立を否定した。このライティングは、虚偽の陳述を含むものであるけれども、真実かつ本物のインス
ト ゥ ル メ ン ト の 表 示 で あ り、 こ の よ う な ド キ ュ メ ン ト を 作 成 す る こ と は フ ォ ー ジ ェ リ ー を 構 成 し な い。 検 察 側 は、
不正にインストゥルメントを作成することと、偽りのインストゥルメントを作成することの区別に失敗した、と述
べたのであ る
)11(
。
先に述べたように、アメリカでは文書の真正性を害する行為を禁圧するのがフォージェリーであると理解されて
きたが、ド・ローズ事件に見えるように、文書自体を偽って作成する行為と文書の内容を偽ったにすぎない行為を
区別するにあたり、虚偽か否か、すなわち真正性を害したか否か、という基準は明確性があるとは言いがたい。こ
ういった内容虚偽と文書自体の虚偽の区別が微妙な事件において判断の不明確さを解消するために、模範刑法典で
は、虚偽の作成といった表現を用いることなく、具体的な行為類型を列挙することで偽造行為を定義するに至った
のであ る
)1((
。
この偽造行為概念は、我が国における有形偽造と無形偽造の区別の理解と共通する。文書の含む虚偽が、文書の 内容としての虚偽なのか、 文書の真正性に関する虚偽なのかを区別し、 後者のみを偽造と考えるのであ る
)11(
。ド ・ ロー
ズ事件の判旨の中でも、インストゥルメントを偽造又は模造することは、それを不正に作成することである、と述
二六二
べ ら れ て お り、 そ の 他 の 判 例 の 中 で も、 不 正 に 作 成 す る( falsely mak e
)11(
) と い う こ と は、 ペ ー パ ー 自 体 が 虚 偽 で あ
ることであり、そこに含まれる陳述の真偽が問題ではないと理解されてき た
)11(
。これに対して、権限なく権利証書の
日付の変更することや、小切手の空欄を他人の署名によって満たすことはインストゥルメントそれ自体の偽造とい
うことになり、フォージェリーを構成す る
)11(
。
文書に含まれる内容ではなく、インストゥルメントそれ自体が虚偽であることを偽りの作成、すなわち偽造行為
と 考 え る こ と は、 イ ギ リ ス 法 に お け る フ ォ ー ジ ェ リ ー の 理 解 と も 共 通 し て い る。 イ ギ リ ス に お け る 文 書 偽 造 と は、
虚偽の文書を作成すること( makes a false document )であり、 「虚偽の」文書とは、 「それ自体について虚偽を示 す( tell a lie about itself )」 文書であると理解されてい る
)11(
。そして、 「文書自体の虚偽」 については、文書は単に嘘
を示すもの(言い換えれば、虚偽の陳述を含むもの)であるからといって偽造となるものではなく、それ自体につ
いて嘘を示すものでなければならないということだと説明されてい る
)11(
。
このように文書の内容虚偽と区別して有形偽造となる行為を偽造概念として把握するのは、アメリカにおいても
偽造罪が保護すべきと考える法益を文書の真正性と理解しているためである。我が国においては、文書偽造罪の保
護法益を文書の公共的信用と理解し、文書の名義人と作成者の人格の同一性を偽る行為を偽造行為として理解して
いるところ、 アメリカではこれを真正性という用語で表現し、 真正性を害する行為を偽造行為として把握している。
この真正性の保護という偽造罪の主義から、単なる内容虚偽については偽造罪を構成せず、著者や作成権限といっ
た文書の本質的な部分の偽りのみを文書の虚偽と理解して偽造罪を構成することになり、各州法及び模範刑法典の
規定もこれに沿う内容となっている。ただし、この真正性という概念は実際の運用にあたり不明確さを残すもので
あることから、各規定はより具体的な行為類型を定めることで偽造行為の明確な把握を図っているのである。
アメリカにおけるフォージェリー理解(都法五十七–二) 二六三
(2)重要な変更であることの必要性
さ ら に、 模 範 刑 法 典 に お け る 偽 造 行 為 の 定 義 に お い て、 「 重 要 な 」 部 分 の 作 成・ 変 更 に 関 わ る 行 為 か 否 か に つ い
ては明文上言及されていないことも注目される。
イ ギ リ ス の 一 九 一 三 年 フ ォ ー ジ ェ リ ー 法 は、 フ ォ ー ジ ェ リ ー の 定 義 を 定 め る 一 条 一 項 に お い て、 「 こ の 法 律 の 意 味において、その全部又は重要な一部( any material part )を作成しておらず、その作成権限もない人によって作
成され、又はその人に代わって、又はその責任において作成されたと表示したら、ドキュメントは虚偽になる」と
定義してい る
)11(
。偽造行為となるためには、文書の重要な一部に関わる偽りの作成・変更でなければならないとされ
ていた。
これに対し、 アメリカ模範刑法典の二二四 ・ 一条は 「 materiality 」という要素を含んでおらず、 偽造行為に係る作成 ・ 変更に関して重要性について問わない規定となってい る
)11(
。これは、偽造行為について重要部分の作成変更に関わる
という要件を課さなくとも、詐取する目的又は損害を加える目的、あるいは他者による詐欺を助長することの認識
という主観的要件が課されることによって、可罰性の判断基準として十分であると考えられているためであ る
)11(
。重
要でない改変をすることによって詐欺又はその他の侵害を犯す又は犯す意図の者は、インストゥルメントの変更に
よる害の範囲と変更されたインストゥルメントの性質によって、フォージェリーの事案以外として裁判されるべき
だと指摘され る
)1((
。
先に紹介した各州のフォージェリー規定においても、偽造について重要な変更であることは明確に要件とされて
い な い。 他 者 の 行 為 で あ る こ と を 示 す 場 合 は、 お よ そ 文 書 の 重 要 部 分 に 対 す る 変 更 で あ る こ と は 明 ら か で あ る が、
二六四
実際と異なる時間・場所で作成されたように変更する場合 等
)11(
は、文書の種類によってはそれほど重要でない部分で
ある場合も有り得るであろう。
前述の通り、客体となり得るライティングにつき法的重要性という要素を除外することで、客体の範囲が広いこ
とを説明したが、偽造行為の内容としても、文書における重要部分の変更ということに拘らないという点で、文言
上広義に偽造を示しているといえる。ただし、偽造概念として、文書の真正性を害するような偽りと理解している
ため、文書にとって重要でない点を変更したとしても、文書の真正性には影響がなく実質的に偽造の要件に該当し
ないと解されるから、不当に広く適用されることは考えにくい。また、処罰範囲の不当な拡大を抑止する役割を担
うと考えられるのが、主観的要件の存在である。この主観的要件が、我が国における文書偽造規定と大きく異なる
点であり、アメリカにおける偽造の適切な処罰範囲の画定において重要な意義をもつ。
6 主観的要件としての権利侵害の意図
模 範 刑 法 典 は、 フ ォ ー ジ ェ リ ー の 定 義 の 中 で、 主 観 的 要 件 と し て 詐 取 又 は 損 害 を 加 え る 意 図( intent to defraud or injure anyone ) を 定 め て い る。 行 為 者 が、 こ の 意 図 を 有 し て い て 初 め て 偽 造 の 要 件 を 満 た す こ と に な る の で あ
る
)11(
。 モ デ ル・ コ ー ド が 起 草 さ れ た 当 時 の フ ォ ー ジ ェ リ ー 法 に お け る メ ン ズ・ レ ア は、 「 詐 取 す る 意 図 」 の 立 証 を 必
要としており、典型的な主観的要件の規定は詐取する意図として理解されてい た
)11(
。前述の通り、カリフォルニア州
やルイジアナ州等、多くの州におけるフォージェリーの制定法は、現在も詐取する意図を主観的要件として規定し
ている。この詐取する意図は、人から財物を騙し取るために偽造文書を利用することが想定されていることを示す
アメリカにおけるフォージェリー理解(都法五十七–二) 二六五
ものであり、偽造の目的として「行使の目的」を要求するに止まる我が国に比べ、実態としてのみならず、法の位 置付けとしてもフォージェリーが財産犯と密接に結びついていることを示す要件とも言え る
)11(
。
もっとも、この詐取する意図の中には、ライティングの著者として名前を利用され、その利用された者に意見が 帰属すると偽ることによる結果として、他者に侵害を加える意図を含むと解釈されてい た
)11(
。すなわち、財物の詐取
に限定することなく、偽造文書を使用することによって生じる何らかの侵害を意図することも、広い意味での一種
の損害として偽造罪における主観的意図に含まれると解されていたのである。これを、解釈上の理解ではなく具体
的に明文に規定することで疑義を無くす方が望ましいと考えられたために、模範刑法典においては「詐取する又は
人に損害を加える意図」と規定されるようになっ た
)11(
。このように、損害すなわち何らかの権利侵害の意図を主観的
要件として明確に示したことにより、フォージェリー犯罪が、純粋な金銭的詐欺の事案を超えて、一般的に清廉な
ドキュメントを保護するために拡大されたと理解されてい る
)11(
。前述のニューヨーク州の他、フロリダ州などでも模
範刑法典と同様に詐取する意図のみならず、他者を侵害する意図も主観的要件として明示してい る
)11(
。
イギリスにおける一九八一年フォージェリー法も、主観的要件として権利侵害に関わる意図を要求する規定を置
い て い る。 す な わ ち、 一 条 に お け る 定 義 の 中 で、 「 人 が そ れ を 真 正 な も の と し て 受 け 取 る よ う 誘 導 し、 か つ、 そ の
ように受け取ることによってその受領者又は第三者にとって権利侵害となるような作為・不作為をするよう誘導す
るために、自ら用いる又は他人に使用させる意図」が必要であるとす る
)11(
。我が国はもちろん、アメリカにおける各
州法のフォージェリー規定よりもかなり詳細な主観的意図を規定しており、虚偽のインストゥルメントを誰かに本
物であると受け取らせる意図と、人がそのように受け取ることで受領者又は第三者の損害となるような作為又は不
作為をするよう誘導する意図という二重の意図が要求されてい る
)1((
。後者の損害となるような作為又は不作為をする
二六六
よう誘導する意図について、その損害の内容は、経済的損失に限らず、義務の履行に関する作為・不作為を含むと
定義されてい る
)11(
。経済的損失に直接関わりのない文書の偽造であっても、義務履行に関する作為・不作為を誘導す
る意図をもって不正な作成をする行為は偽造と認められており、財産犯的な役割が強いイギリスの偽造法が、必ず
しも経済的損失に関わらないケースのフォージェリーについても適用範囲を広げていることが明らかにされた要件
でもあ る
)11(
。アメリカも実質的にこれとかなり近い考え方を探っているといえよう。
典型的には、 財産を騙し取るための道具としてフォージェリーが犯されることから、 古くは主観的要件として「詐
取する意図」が要求されてきたが、そのような財産犯的意味を超えて偽造罪独自の処罰意義があることが認識され
る中で、何らかの権利侵害を含む損害の意図についても偽造の主観的要件として模範刑法典において明示されるに
至っており、この点においても、財産犯と区別した存在として偽造罪が拡大発展されてきたことが窺われる。そし
て、 こ の 主 観 的 要 件 が 課 さ れ そ の 立 証 が 要 求 さ れ る こ と に よ り、 ラ イ テ ィ ン グ や 偽 造 行 為 を 広 く 解 す る と し て も、
その行為が詐取又は権利侵害に繋がることを狙ったものと言えるか否かという検討がなされることで適用範囲が絞
られ、不当に処罰範囲が拡大することを防ぐ役割も担っている。
7 真正性の保護とセフトとの関係
ア メ リ カ に お け る 典 型 的 な フ ォ ー ジ ェ リ ー の 目 的 は、 経 済 的 利 益 を 得 る こ と だ と 考 え ら れ て き た
)11(
。 そ の た め、
フォージェリー罪は、模範刑法典における二二三条に定められたセフト犯罪に密接に関連し、セフトを補完するよ
う 意 図 さ れ て い る
)11(
。 特 に 二 二 三 ・ 三 条 は、 欺 く 行 為 に よ る セ フ ト に つ い て 規 定 し て い る
)11(
。 誤 解 を 作 り 出 し て 財 産 を
アメリカにおけるフォージェリー理解(都法五十七–二) 二六七
得るという行為は、 他者の誤解を作り出すために偽りの文書を利用することも想定されるものである。したがって、
詐取する意図で他人名義のライティングを作成する行為等は、まさに財物を詐取するための誤解を作り出す準備行
為 に あ た り、 詐 欺 行 為 の 入 り 口 が フ ォ ー ジ ェ リ ー に 該 当 す る た め、 両 罪 に は 重 な り 合 う 部 分 が あ る。 さ ら に、 五・
〇 一 条 で 規 定 さ れ る 未 遂 罪( Criminal Attempt ) の 拡 大 に よ っ て、 詐 欺 目 的 で、 偽 造 物 の 作 成 又 は イ ン ス ト ゥ ル メントを行使するような行為の予備も容易にカバーされるだろうことが指摘されてき た
)11(
。
し か し な が ら、 フ ォ ー ジ ェ リ ー 法 は 刑 法 の 独 立 の 分 野 と し て 発 展 し た。 そ の 理 由 の 一 つ に は、 詐 欺( false pretense )法はかつて狭義に作られたため、 フォージェリー罪の対象とすべき行為を捕捉するために十分ではなかっ
たことが挙げられる。また、伝統的な未遂罪の法律もその適用範囲がとても狭く、例えば虚偽のドキュメントが作
成された後、それらを流通させる何らの実行の前に逮捕された場合、有罪とすることが妨げられていたことも指摘
され る
)11(
。
もっとも、財産犯関連の偽造行為を財産犯等で捕捉しきれず処罰の間隙があるために偽造罪が存在するというこ
とであれば、詐欺罪や未遂の罪を修正し適用範囲を拡大することで解決できるはずであり、フォージェリー独自の
存在意義は非常に少ないといえる。それにもかかわらず、フォージェリーがモデル・コードの中で区別された犯罪
として維持されてきたのは、 財産犯と区別すべき特別な危険が存在し、 それは広くフォージェリー罪によってカバー
される必要があるという理解に基づくものであ る
)11(
。前述のように、ライティングはあらゆる取引において重要なシ
ンボルとして、あるいは証拠として利用されているため、その真正性に疑義のあるものが使用されると、ライティ
ングに対する公共の信用が害され、社会として重大な困難を受けることになる。そのために、文書の真正性の確保
は社会的要請となっており、偽造行為は、ライティングの不正な作成によって文書の真正性につき誤った印象を与
二六八
える行為であると把握されているのであ る
)11(
。アメリカにおいては、真正性を害する行為か否かの判断の不明確さを
排除するために、偽造行為につき解釈の余地をできるだけ減らすような行為類型の具体的列挙の形で偽造を規定し
て い る た め に、 我 が 国 の 偽 造 罪 と は 大 幅 に 異 な る 明 文 の 形 が 採 ら れ て い る が、 根 本 に あ る 偽 造 罪 の 主 義 と し て は、
文書に対する公共の信用を偽造罪の保護法益とする我が国の理解と共通す る
)1((
。
しかしながら、アメリカにおけるフォージェリーの財産犯と密接な関係性にある犯罪としての位置付けが放棄さ
れた訳ではない。詐取する意図という詐欺行為の意図のような主観的要件は州法及び模範刑法典でも維持されたま
まであり、 フォージェリーの典型的な目的であるという認識に変わりはない。文書の真正性の保護という観点から、
財物の詐取のために犯される場合に限定しない方向で発展してきたフォージェリー罪であるが、セフトと密接な関
係を有することに変わりはなく、処罰においては特にセフトとフォージェリーの関連性に注意すべきであると理解
されている。最も重要なフォージェリーのケースは、他者から財物を詐取するために犯されるものであり、実際に
フォージェリーとフォージェリーに基づく詐欺が行われた場合に、犯罪の積み重ねによって不当に重く処罰される
ことがないよう注意されるべきであるとされ る
)11(
。さらに、例えば従業員が、一〇〇ドルの小切手につき彼の使用者
の裏書きを偽造した場合に、使用者の一〇〇ドルの現金を着服することによって罰せられるよりも厳しく罰するこ
とを正当化することは難しいだろうと指摘され る
)11(
。フォージェリーには独自の存在意義があると理解し、ライティ
ングの真正性を害する行為を偽造として捉え、財産犯とは区別して広く適用する一方で、偽造の典型的なケースは
財産の詐取に関わるものであること、詐欺の準備的行為である場合が多いことから、他方ではセフトとの関係を意
識しながら、フォージェリーの適切な運用及び処罰がなされるべきだと考えられているようである。
アメリカにおけるフォージェリー理解(都法五十七–二) 二六九
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以上に見てきたように、アメリカ模範刑法典におけるフォージェリーは、客体についてライティング一般を対象
とし、偽造については、具体的な行為類型を列挙するという形式を採用している。そして、このように詳細かつ具
体的な規定を採用しているのは、文書の内容虚偽と文書それ自体の虚偽の区別をより明確にするためであった。す
なわち、偽造罪について真正性の保護が重要であるという理解のもと、文書の内容虚偽ではなく、文書そのものの
虚偽を禁圧する必要があると考え、文書の真正性を害する行為を偽造行為として規定する草案が出された が
)11(