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考察

ドキュメント内 修士学位論文 (ページ 42-54)

5.1 結果のまとめ

本研究は、ブランド・リレーションシップの形成要因を消費者の心理状態から捉えていくこ とを目指した。ブランド・リレーションシップとは何かという課題に対しては、これまで絆 や愛着といった概念で説明されてきたように、同一化を基盤とした心理的な結びつきであ ることが久保田の一連の研究で示されてきた。ミクロ視点における、消費者とブランドの繋 がり方は、「ブランドの自己表現性」によって繋がっている関係性と、「ブランドのパートナ ー性」によって繋がっている関係性があることが先行研究で分かっている。この 2 つの繋 がり方は相反するものではないこと、形成にはブランドの消費者への働きかけが必要であ る点がこれまで指摘されてきた。筆者は先行研究に則りながらも、繋がり方には消費者の心 的要因の影響も受けるのではないかいう立場を示した。ブランドに求める役割(自己表現か パートナーか)は、消費者の心理状態によっても変わるというリサーチクエスチョンの下で 仮説を立てた。「社会的自己肯定感情」、「孤立感情」、「不安感情」の3つの心理状態を想定 した場合、6通りのブランドとの結びつき方の仮説がある。結果は2つの仮説が支持され、

残りの4つの仮説は棄却された。支持された仮説を解釈すると、「社会的自己肯定感情」が

「ブランドの自己表現性」との繋がりを促進させ、ブランドとの関係性を深めていく。仮説 と真逆になった2つの結果は、「孤立感情」が、「ブランドの自己表現性」との繋がり促進さ せブランドとの関係性を深めていくこと、「孤立感情」は、「ブランドのパートナー性」を弱 めていくことだ。この2つの結果は10%水準における有意傾向であった。また先行研究と 異なる結果は、「ブランドのパートナー性」と「ブランド・リレーションシップ」の繋がり は有意とならなかったことだ。さらに追加検証では、ファストファッションブランドとそれ 以外のブランドの差の分析も行った。ファストファッションブランドは、「社会的自己肯定 感情」が「ブランドの自己表現性」との繋がりを促進し、ブランドとの関係性を深めていく ことは他のブランドと一緒であったが、パスの係数を比較すると、ブランドとの関係性を深 めるパスよりも、「ブランドのパートナー性」へのパスの係数が大きかった。つまり、ファ ストファッションブランドにおいて「ブランドの自己表現性」と結びついた消費者は、関係

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を深めていくよりも「ブランドのパートナー性」への結びつきへと関係が変質している。次 項では、これら結果を一歩踏み込んで考察していく。

アパレルにおけるブランドの役割

今回の重衣料を対象としたアパレル・ブランドの調査では、「ブランドのパートナー性」に 係る有意なパスは、ひとつを除き見られなかった。唯一、「ブランドの自己表現性」の繋が りから「ブランドのパートナー性」へのパスは有意となった。一方、先行研究とは異なり「ブ ランドのパートナー性」は、「ブランド・リレーションシップ・スコア」に対して、正の有 意なパス見られなかった。それどころか、有意ではないが負のパスであった。この結果の考 察として、カテゴリーの特性が考えられる。アパレルは、ファッションとしての側面が強く、

ファッションは準拠集団との結びつきが想定される(芳賀 2019)。消費者はどの準拠集団 と結びつきたいかによって、ファッションを選択していく。「準拠集団とは、個人の評価、

熱望、ないし行動に関して、重要な関連性を持つと考えられる実際、あるいは想像上の個人 や集団である」(芳賀 2019 p.1)。ファッションの選択の中で大きな割合を占めるのが洋服 のブランド選択である。要するにアパレル・ブランドにおいては、ブランドが自己表現の役 割を担いながら繋がりが形成されることで関係が深まっていく。その後、パートナーとして の繋がりも形成し得る。つまり、ブランドの役割が広がっていくことが示唆された。

社会的自己肯定感情とブランドの繋がり

「社会的自己肯定感情」が「ブランドの自己表現性」との繋がりを形成し、ブランドとの 関係性を深めていくことが実証された。他者との比較において自信のある自分を表現する ためにブランドと繋がりを形成していくことが分かった。自信を持っている限り、繋がりを 形成したブランドとの関係はさらに深まっていくことも考察される。本研究においては、

「孤立感情」よりも「社会的自己肯定感情」が「ブランドの自己表現性」との繋がりを形成 し、ブランドとの関係性を深めていることが分かった。「社会的自己肯定感情」が「ブラン ドの自己表現性」との繋がりを促進する理由として、社会心理学の自己機能である自己高揚 動機や、自己一貫性動機が挙げられる。

孤立感情とブランドの繋がり

「孤立感情」は「自己表現性」としてブランドとの繋がりを促進し、「ブランドのパート ナー性」への繋がりには負の影響を与える傾向が得られた。つまり、消費者は孤立している 感情を抱くと、ブランドを身に着けることで積極的に自分を表現していく一方、ブランドに 対して友達のような親しみからは一歩引くことを意味している。アパレル・ブランドが前述 したように準拠集団との繋がりを強く反映するカテゴリーであるとした場合、「孤立感情」

を抱いた消費者が、憧れの準拠集団との繋がりを求めるために、「ブランドの自己表現性」

との繋がりを形成していくことは容易に想像できる。また、孤立状況をブランドとのパート

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ナーの関係が原因であると認識し、ブランドをパートナーとして見なさなくなることは推 測され得るが、このときの消費者の心的メカニズムは課題として残る。しかし、「孤立感情」

により消費者は「ブランドの自己表現性」と繋がると、「ブランドの自己表現性」が「ブラ ンドのパートナー性」を高めることになる。孤立感をめぐる消費者とブランドの関係性がひ とつのサイクルになっていることが分かる(図 28 参照)。このサイクルが回っていくこと でブランドと消費者の結びつきはより強固になっていくことも結果から考察される。

図29 孤立感をめぐるブランドとの関係サイクル

不安感情とブランドの繋がり

本研究においては、「不安感情」がブランドとの関係性を促進する要素として確認できな かった。しかも、不安感情からブランド・リレーションシップ・スコアへはマイナスの影響 を与えていることが分かった。言い換えれば、より安心した心情であるほど、ブランド・リ レーションシップ・スコアが高まること分かる。心理学における「居場所感」の研究は根底 に「安心感」があることが指摘されている(阿部 2011)。阿部(2011)によると、精神の安 定、アイデンティティの確認、自己確認という特徴を持ち、自分らしさを確認できる場所と 定義している。この点はブランド・リレーションシップ研究のブランドの役割と非常に似て いる概念である。心理学の居場所感研究を援用すると、居場所感が高いブランドほど関係性 ほど深まっていくとなり、不安な感情を抱いている状態においては、ブランドとの関係性は 深まらないことが考察できる。

5.2 本研究のインプリケーションと限界と課題

本研究には、心的要因がどのようにブランドとの関係性に影響を与えるかをテーマにア ンケート調査を行った。実務においては 3 つのインプリケーションが見いだせた。一つ目

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は、消費者とブランドとの関係性を促進するためには安心感の醸成であることが分かった。

一見当たり前であるが、安心感を損ねると消費者とブランドの関係性は育たないことを改 めて実証された。2つ目は、消費者に自信を持ってもらうことがブランドとの関係性に対し てプラスの効果を与えることが分かった。自信を持っている消費者はブランドに対して自 己表現の道具の役割を果たすことが求めている。実務においては消費者に対して自信の認 識促進とともに、ブランドのユーザーである認定やロゴをあしらう紙袋、ステッカーなどを 行うことで関係構築に対してプラスの効果をもたらし得る。3つ目は、孤立感を抱いている 消費者は、他者との繋がりを求めるためにブランドを利用する傾向があることだ。例えば

Twitterのブランド公式アカウントを多数フォロワーしている人は、それぞれのブランドか

ら支援や共感を得たいわけでなく、そのブランドが好きであることを主張しながら社会と の繋がりを求めている。実務においては、ブランドはパーソナリティーを明確に提示しなが ら、ブランドのイメージを的確に伝えているツール(紙袋、画像、ロゴ、ステッカー、スマ ートフォンの待受画面など)を用意することが有用である。

次に、本研究の限界と課題を述べる。アンケート調査においてはまず、サンプルサイズの 小ささ、男女・年齢の偏りが見られた点は、どの程度一般化できるかが課題である。

さらに。Fournier(1998)によるとブランドの役割は世代によっても異なることを述べてい

る。ポストモダンの世代においてブランドは超記号的側面が強く表れるから、サンプルの年 齢の偏りは一般化するには若干の疑念が残る。

また、アパレルのカテゴリーがどこまで影響しているかは、他のカテゴリーとの比較を行っ ていない以上分からなかった。特に、ブランドのパートナー性がブランド・リレーションシ ップに対して正の影響を与える結果となっていないことは驚くことであるとともに、カテ ゴリー特性なのか、サンプルの問題なのか明らかにすべき重要な課題である。

5.3 今後の展望

3つの心的要因がブランド・リレーションシップへの影響を与えているかを試みたが、人 間の感情は多種多様であることは言うまでもないため議論がミクロになりすぎる懸念があ る。理論構築には高次元の軸の感情においてブランド形成過程との関係を見ていくことは 必要である。例えば、城(2009)は8つの感情を「快感情次元」「エネルギー次元」「緊張次 元」に分けた。武藤・菅原・杉江(2006)は、ポジティブ感情を「他者意識・関与」「覚醒」

「対象との距離」の 3 次元で捉える研究を行っている。このように感情を高次元で見たと きの、ブランド・リレーションシップへの影響を調査することが今後は望ましい。また、一 般化をおこなうためには他のカテゴリーとの同時分析が望ましい。さらに、ブランド・リレ ーションシップを静的なものと捉えず、動的なものであることを前提に消費者とブランド の関係のライフサイクルとして捉えることは今後、ブランド研究において非常に有意義と

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