会計責任 : その遂行形態と本質
その他のタイトル The Nature and Discharge of Accountability
著者 松尾 聿正
雑誌名 關西大學商學論集
巻 22
号 1
ページ 35‑50
発行年 1977‑04‑25
URL http://hdl.handle.net/10112/00021021
(35)35
会計責任:その遂行形態と本質
松 尾 率 正
は じ め に
別稿で会計責任の基本的理念は,資源受託者の効果的統制にあることを見
(1)
た。しかし,一言で「統制」といっても,その方法は様々である。この統制 方法の多様性を生ぜしめるのは,会計責任の遂行形態が多様であるからであ る。そこで,本稿では,会計責任の遂行形態を識別し,しかる後に,会計責 任と会計測定の関係の考察を通して,会計責任の本質的意味を明らかにしよ
う 。
会計責任遂行の諸形態
会計責任遂行形態を論ずる前に,会計責任の意味を定義しておく必要があ る。会計責任の定義には広狭種々あるが, それらを整理すれば, 一般的に は,受託者が委託者から受託を受けた資源について,当該委託者に対して,
(2)
資源受託にもとづく活動を報告,説明する責任と定義することができる。こ の定義は,会計責任の遂行形態は, 資源受託にもとづく活動の種類によっ て,異なることを示唆している。そこで,以下,この活動の種類に応じて,
(1) 拙稿「会計責任の基本的理念ー P ・バードの所説を中心として一」関西大学商 学 論 集 第
21巻第
5号
(2) Eric. L. Kohler, A Dictionary for Accou叫1nts, 4th ed.,Prentice‑Hall, 1970, p. 6
染谷恭次郎訳「コーラー会計学辞典」 (丸善 昭和
48年 )
6頁
36(36)
会計責任:その遂行形態と本質(松尾)
会計責任遂行形態を識別していこう。
会計責任遂行形態を識別するために,資源受託にもとづく活動を分類する にあたって,通常,大きく区別されるのは,資源委託の動機に当該資源の利
(3)
用への意図が含まれているかどうかによるものである。もし保全だけを目的 として資源の委託を受けたのであれば, 受託者
(steward)は当該資源を物 理的に安全に保管し,受託時の契約にしたがって返還することに留意すれば よく,そこには委託者の期待水準を満足させようとするような当該資源の利 用への配慮の必要性はなく,したがって当然のことながら,保全状況に関す る報告・説明が必要であるだけで,利用状況に関する報告・説明の必要はな い 。
これに対して,委託を受けた資源を利用するように期待される場合,バー ドは受託者がとるべき行為と期待される成果とが完全に特定化され, した がって会計責任遂行の基準をそのような特定化された行為と成果に求める ことが可能な場合とそうでない場合があるとして, 前者の例として州長官
(sheriff)の国王に対する会計責任,並びに荘役
(thereeve of the manor)の領主
(thelord of the manor)に対する会計責任をあげ,そこではもし 前年と同一の行為がとられず,前年と同一の成果をあげえなかったならば,
受託者は個人的資力による弁済を求められたとのべ,会計責任の課責•免責 概念
(chargeand discharge concept)の定着をこの時期に求めている。彼 は,また,議会が承隠した目的並びに範囲内で官吏が支出をなしたかどうか
(whether public officials have kept within the purposes and amounts of funds voted to them・ by their legislativem~sters) という支出の「正 当性」
(the"regularity"of payments)にもとづいて,官吏の会計責任の遂 行度合を判定する政府の予算循環過程
(budgetarycycle)も前者の例とし
(3) Peter Bird, Accountability : Standards in F加
incialReporting, Haymar‑ket Puf~ 1973, p. 9
Paul Rosenfield, Stewardship, in Objectives of Financial Statements, edited by Joe J. Cramer, Jr. and George H. Sorter, AICPA, May 1974, p.123
(4)
てあげている。
会計責任:その遂行形態と本質(松尾)
(37)37次に後者の例として,バードは現代の営利企業における会計責任をあげて
(5)
いる。彼はいう。「営利企業に資源を投ずる人々は,当初の投入量以上の資金 を後日引出しうることを希望して投ずることは事実である。しかしながら,
株主と取締役との契約は,実際の利益と株主がそれに対して期待したものと の差を取締役が請求を受けるような性質のものではない。(取締役が請求に応
じようとしても応じえない)程度がどれぐらいかという問題は別にして,営 利企業の場合には,当事者間で前もって設定し,同意しうる期待利益は何も ないのである。」と。勿論,このことは,営利企業の場合に,会計責任の遂行 度の判定を断念することをバードが意図しているのではない。バードの主張 の意図は,近年イギリスでは,中央政府の官庁会計監査が支出の正当性にと どまらず,行政機構の経済効率及び支出額に見合った価値が得られているか どうかという,会計計算書類に表わされた財務的数値そのものよりも,その ように貨幣的に計量化された資源の利用効率,更には資源のそのような効率 的利用を可能ならしめるように行政機構が整備されているかどうかに重要な 着眼点を置いていることに鑑み,営利企業でも受託責任が巨大化すれば,官 庁会計監査と同様に, 資源利用の経済効果性とその背後にあるそのような 経済効果性の発揮を可能ならしめる業務活動の管理組織
(administrative systems)とに, 会計責任遂行度合判定の眼を向けるべきであるという点に ある。そして彼は前者の経済効果性については, キャッシュ・フローを,
その実際額と当該実際額として実硯するまでのキャッシュ・フロー予想額
(cash flow forecasts)改訂過程との対比によって公表することを提唱し,
後者の業務活動の管理組織については, 管理組織報告書
(administrative systems report)の公表と経営監査人
(managementauditor)によるその
(6)
監査を提唱している。
(4) P. Bird, op. ci
ゎp
p.7‑10(5) lb.id~ p. 10
(6) Ibid~ pp. 6‑12, 37‑52
38(38)
会計責任:その遂行形態と本質(松尾)
彼がこのような見解を提唱するのは,営利組織であろうと行政組織であろ うと,規模が拡大すればするほど,資源の効果的利用に対する要請が高まる が,そのような利用は政策決定の質
(qualityof policy decisions)に依存 しており,政策決定の質は利用可能な代替案の結果の予想の正確性,すなわ ち当該代替案のキャッシュ・フローの額と時期の予想の正確性に依存し,こ の正確性は当該予想を現実の結果と対比することによって検証できるので,
実際の結果に至るまでのキャッシュ・フロー予想改訂の過程を提示すること によって,資源の効果的利用に関する経営者の能力を評価することが可能に なる。ところが経営者をしてこのような能力を発揮せしめるには,経営管理 組織が健全に整備されていなければならない。したがって,代替案の結果の 予想の正確さと管理組織の健全さが,組織の運営に不可欠な条件であるとい う点は,その組織が営利組織であろうと行政組織であろうと異なるところは
(7)
ないのであるとの意識にもとづくものである。
バードは現行の実務に囚われない白紙の状態から出発して,理想の姿を追 求した結果として, このような見解に到達したのであるが, 現行の営利企 業会計実務については, それは歴史的原価によって, 実際に発生した事象
(what has actually happened)を設定し, 取締役の会計責任遂行の妥当
(8)
性に関する判断を株主にまかせる実務であるとしている。
バードが示した会計責任に関するこのような見解のほかに,ローゼンフィ ールドは受託者による資産の能率的,経済的,ないしは効果的利用を報告す るのが会計責任であるという見解, 並びに明らかに最も広く受け入れられ ている見解として, 会計責任報告は資産の保全
(safeguarding)からだけ でなく, 受託者が達成することを期待されている目標への進捗
(making progress toward the goals)からもなるという見解をあげている。 そして
この後者の見解は業績,利益をもたらすような資産の利用,資産の生産的利
(7) Ibid, pp. 37 (8) Ibid, p. 10
会計責任:その遂行形態と本質(松尾) (
39)39用,収益性,成功か失敗か,稼得あるいは利益の産出等の言葉で表現されて
(9)
いるとのべている。
かくして,ここに,会計責任遂行形態を次のように分類,整理することが できる。
1 . 資源利用への配慮の必要性はなく,資源の物的保全に対する責任 に限定されるために,会計責任も資源のそのような保全状況に関する報告で すましうる場合。
2.
中世の州長官や荘役,更には硯在の公共官吏のように,資源利用に伴 なう会計責任遂行の基準が予め特定化されている場合。
3.
株式会社における受託資源の利用活動に伴なう利益をめぐる株主と取 締役との間の関係のように,当事者間で予め設定され,同意されうる資源利 用に伴なう会計責任遂行の基準を明確にしようとしてもなしえないために,
現行の営利企業会計実務のように,歴史的原価によって測定された実際発生 事象を報告し,取締役の会計責任遂行の妥当性に関する判断を株主にまかせ
る場合。
4.
会計責任とは受託者による資産の能率的,経済的,ないしは効果的利 用を報告することにあるという見解。
5.
会計責任とは,資産の保全だけでなく,受託者に期待されている目標 達成への進捗についても報告することであるという見解で,業績,利益をも たらすような資産の利用,資産の生産的利用,収益性,成功か失敗か,稼得 あるいは利益の産出等の言葉で表硯される見解。
6.
会計責任とは資源利用の経済効果性を報告することだけにとどまら ず,業務活動の管理組織がそのような経済効果性の発揮を可能にするに足る ほど健全に整備されているかどうかも併せて報告することであり,前者のた めには,受託者の政策決定の質を判断することを可能にするキャッシュ・フ
(9) P. Rosenfield, op. ci
ゎ
pp.123‑13440(40)
会計責任:その遂行形態と本質(松尾)
ローの実際の結果と当該結果に至るまでのキャッシュ・フロー予想改訂の歴 史を公表し,後者のためには,・経営監査人の監査を受けた管理組織報告書を 公表すべきであるという見解。
さて,上記 6つのタイプの会計責任のうち,現在の財務会計の対象となる のはいずれであろうか。たとえ営利組織と非営利組織との間に資源の受託者 としての特性に差異はないとしても,現在の財務会計が対象としている組織 形態は,経済社会の中で指導的な立場を占める営利企業,とりわけ株式会社 であることを考えると,この問に対して答えうる範囲はおのずと限定される ことになろう。しかしながら他方において,この点からすれば,
1と
2が対 象外であることは異論がないとしても,
6の扱いについては問題が残る。
6は上述のようにバードによって提唱された会計責任遂行形態である。彼はそ れについて, 「硯行の実務の大部分を無視して, まず基本原理から今日の環 境に適した会社責任手続を工夫しようとする試みは,私企業と公共部門の組 織との間の相進よりも類似性を強調する提案にわれわれを導いてきた。」との
(10)
べている。すでに指摘し,ここにも示されているとおり,彼の見解は会計責 任を遂行するにあたって,営利組織と行政組織との間に異なる手続よりもむ しろ同一の手続を適用することを意図しているが,彼によれば,それが「今 日の環境に適している」のである。ここにいう「今日の痕境」とはイギリス におけるそれを指しているが,では今日のイギリスの環境について,彼はど のような状態を想定しているのであろうか。この点に関する彼の考え方を示
(11)
唆しているのは次の文章である。
「国営産業は,財務統制について,特に困難な領城を議会に提示する。そ れらは巨大企業であり.そのあるものは英国で最も巨大である。その上,そ の企業を運営する責任を附与された人は,みずからの指導性にもとづいて,
事業政策決定を下す自由を与えられねばならない。そのことは,そのような 企業は,政府部門のように,年次現金予算循環過程によって支配されえない
(10) P. Bird, op. cit p. 52 (11) Ibid, p. 50
会計責任:その遂行形態と本質(松尾) (
41)41ことを意味する。では,このような企業が,ー担,このような自由を与えら れると,議会はこの企業への多額の公共資金の投資に対して,何らかの実質 的な支配をいかに保持しうるのか。」と。
経営行動様式としては,大幅な自由が与えられながら,他方では多額の公 共資金の投資を受ける国営産業に対する財務統制の必要性を彼が強く意識し ていることが, この文章に現われているが, 彼のこのような意識の背後に は,英国において,第
2次大戦後1945 年から
1951年にかけて労働党政権によ る産業国有化政策によって, 主要産業が国有化され, その後種々の変遷を 経ながらも,今なお英国経済再建のために私企業の領域に対する国家の介入
(12)
が進み,その結果,多くの国営企業を有しているといわれている英国経済が 置かれている環境が存在しており,そのような,環境を背景として彼の見解 は展開されているように思える。
これに対して,わが国では私企業とりわけ株式会社が経済社会で圧倒的な 立場に立って主役を演じており,そこでは注意の焦点は絶えず利益に向けら れている。勿論,利益を獲得するには,資源の経済的,効率的利用と管理組 織の健全な運営を必要とする。この意味で,バードの見解は資源受託に伴な う経済行為の基本に的を当てているといえる。しかし,経済行為の基本に共 通性はあるとしても,そのことによって行政組織に適用するのと同一の会計 責任の遂行基準を営利組織に適用するだけで,営利組織の会計責任遂行度合 の判定にとって十分であるといいうるであろうか。営利組織にあっては,利 益の獲得なしに,その存続はありえない。そのような営利組織が圧倒的立場 に位置して,主役を演じる経済社会では,営利組織における利益の有無は,
嵐ちに経済社会全体の盛衰に影響を及ぼす。したがってこのような経済社会 においては,注意の焦点はおのずと利益に向かざるをえず,会計責任の遂行 も究極的には利益に関する報告をめぐって展開されることになる。
かくして,バードの見解はイギリスのような自由主義経済陣営に属しなが ( 1 2 ) ウィリアム• A ・ロプソン著 高橋達男訳「政府と企業一英国における産業国
有化の実態ー」 (産業能率短期大学出版部 昭和
45年 )
61頁以下
42(42)
会計責任:その遂行形態と木質(松尾)
ら,多くの国有産業をかかえる経済現境を背景として,初めて妥当するとい えるだろう。これに対して,わが国のように,財産の私的所有の原理にもと づく株式会社が指導的な地位にある経済社会においては,会計責任に関する 議論は,絶えず利益を中心として展開されることになる。
しかし, このことは, わが国の企業における会計責任を論ずるにあたっ て,バードの会計責任論が全く無緑であるということを意味しているのでは ない。従来報告責任としての会計責任を強調する場合,言外に意識されてい たとしても,会計責任遂行の一段階として,報告段階とは別にその意義を強 調することの少なかった監査を,会計責任遂行の一段階として明確に位置付 け,しかも業務活動における経営管理組織の監査の意義を重視する彼の見解 は,わが国企業における会計責任を論ずるに際しても非常に示唆に富む見解 であるといえるだろう。
ここでいわんとするのは, わが国企業における会計責任を論ずるに際し て,営利組織と行政組織を同一次元で取り上げるわけにはいかないという点 と,利益に関する問題が絶えず前面に出てくるという点である。これらのこ とは,会計責任の意味は,基本的には,資源受託者による委託者への資源受 託に伴なう活動の報告という点にあるけれども,その活動の性質並びにその 活動が置れている環境によって,会計責任遂行形態を異にするということを 意味している。既に指摘した 6つの形態を生ぜしめた原因はこの点にあると いえるだろう。
さて,営利企業,特に株式会社の会計責任を取り上げるとして,当該企業
の経済活動をどのように報告・説明すればよいのだろうか。株主が企業に出
資して,その経営者に資源の管理,運用を任せる目的は,当該企業をして資
源の効率的利用による利益を得せしめ,その利益からの分配に与かることに
あるのが普通であるから,この意味では,資源をどれほど効率的に利用した
結果,利益が獲得されたのかという利益獲得の経過を報告・説明することが
会計責任の遂行を意味することになり,その限りでは,実際発生事象の報告
に基本を置く硯行会計はこの目的に適しているといえる。
会計責任:その遂行形態と本質(松尾) (
43)43しかし,会計責任遂行に関する報告書としての財務諸表利用者の立場から 見れば,必ずしも硯行会計のような実際発生事象の報告で満足するとは限ら ず,その報告書は将来の意思決定のための業績評価に対しても有用であるべ きであるとの観点から,現行会計の改善を希望することが考えられる。既に 示した
6つの会計責任遂行形態のうち,
4と
5の形態が登場するのは,この 場合である。
AICPAが
1973年に発表した「財務諸表の目的に関する報告書」
ー所謂「トゥループルッド報告書」ーも, 「会計責任と財務諸表
(Accoun‑tabill.ty and Financial Statements)
「との見出しを付した箇所で, 会計情
(13)
報利用者の立場から財務諸表の目的を次のように規定している。
「財務諸表の目的は,経営者が企業の資源を効果的に利用して,企業の基
(14) (15)
本的目標を達成する能力を判断するのに有用な情報を提供することである。」
ト ゥ
Jレープルッド報告書は,この目的を,一組の階層化された目的体系と して示せば,第
3階層として位置付け,第
1階層の「経済的意思決定に有用
(16)
な情報を提供すること」という基礎的目的の内容を実質的に規定する役割を
(17)
与えているのである。
しかし,会計責任に関する報告書が将来の意思決定のための業績評価に有
(13) Richard M. Cyert and Yuji Ijiri, Problems of Implementing the TruebloodObjectives Report, in Studies on Financial Accounting Objectives : 1974, Journal of Accounting Research, Supplement to Vol. 12, p. 32
(14)
トゥループルッド報告書によれば,企業の基本的目標とは,企業が,一定期間 にわたって,所有主に対して,最大の現金額を報酬として支払うことができるよ うに,貨幣的富を増殖することである
(Robert M. Trueblood (chairman), Objectives of Financial Statements, Report of the Study Group on Obje‑ ctives of Financial Statemants, AICP A, October 1973, p. 21).(15) Ibid, pp. 25,....;26 (16) Ibid, p. 13
(17) George H. Sorter and Martin S. Gans, Opportunities and Implications of the Report on Objectives of Financial Statements, in Studies on Financial Accounting Objectives: 1974, Journal of Accounting Research, Supplement
t o
Vol. 12, p. 444(44)
会計責任:その遂行形態と本質(松尾)
用な情報でなければならないとしても, そのことは同時に, かかる報告書 が,本質的に,すでに発生した事象に関する歴史的報告書であることを否定 するものではないのである。なぜ,会計責任に関する報告書は,本質的に,
歴史的なのか。 また, 実際発生事象に関する報告としての会計責任の遂行 は ,
4, 5のタイプの会計責任,すなわち資産の能率的,経済的,ないしは 効果的利用に関する報告,更には目標達成への進捗に関する報告としては不 十分なのか。これらは会計測定と密接な関連を有する問題なので,次にこの 問題を検討しよう。
会計責任と会計測定
会計責任と会計測定の問題を論ずる前に,既に示した会計責任の諸形態の うち,第
4と第
5の形態について予め断りをしておこう。この両形態はロー ゼンフィールドによって区別して示されたものであるが,現行の財務会計に おける会計責任遂行の是非をめぐって議論を展開しようとする本節では,業 績
(performance)に関するコーラーの次の定義を参考にして,これら両者 を区別しないことにする。
「業績;ひとつの組織体が一定期間遂行した諸活動の一部,または全体に 適用される一般的な用語:実際原価または見積原価,能率,管理責任または
(18)
会計責任などに関連して用いられることが多い。」
さて,前述のように,現行会計は実際発生事象の報告をもって会計責任の 遂行とみなしているといわれる。現行会計がこの意味の会計責任遂行のため に採用している資産評価・収益認識の基準との開係で, それはまた, 取原 価・実現主義会計といわれる。そこでは,利益はある期間における財の引渡 し,または役務の提供によって実硯した売上収益が当該収益獲得のために費 消された資産原価を超える額として規定される。この利益は当該企業の経営
(18) E. L. Kohler, op cit~ p. 315
染谷訳本前掲訳著
358頁
(19) A. C. Littleton and V. K. Zimmerman, Accounting Theory: Continuity a
叫
Cha巧
re, Prentice‑Hall, 1962, p.193会計責任:その遂行形態と本質(松尾) (
45)45者によって下された実際の意思決定の結果であり,それは当該企業にのみ意
(19)
味のある当該企業に特有の経験を表わしている。その限りにおいて,硯行の 取得原価主義会計における利益は,ある意味で業績を表わしている。
しかしながら,この業績を将来の意思決定のための業績評価に役立てよう とすれば,そこにはいくつかの問題が含まれているといわれる。その主なも のとしてあげられるのは,まず第
1に,硯行の取得原価主義会計にもとづく 利益は過去の業績を表わしている。しかしながら,この業績をそのまま将来 の意思決定のための業績評価に使うときは,そこでは過去業績が将来業績の
(20)
優れた予測指標であるとの仮定にもとづくことを意味することになる。この ような仮定は,定常経済状態を前提に置けば,あてはまるだろう。しかし,
われわれが対象としている企業は, 動態経済環境のもとで活動を営んでお
(21)
り,そこではそのような仮定は必ずしもあてはまらない。
次に,上記第
1の問題から派生する問題として,動態経済のもとでの企業 活動を対象として,かかる活動にもとづく経済事象を測定して資源利用の管 理効果性を判断しようとする場合,現行会計によれば,臨時利得
(extraor‑ dinary gain)は独立表示 (stateseperately)されても,資源保有期間中の 価格変動による利益は,操業活動
(operatingactivities)による利益から区(22)
別されることなく,その中に合まれてしまう。更に貨幣価値変動下において
(20) P. Bird, op cit., p.10(21) Edgar 0. Edwards and Philip W. Bell, The Theory and Measurement of Busi加ssIncome, University of California Press, 1961, pp. 2,‑,11
伏見
多見雄•藤森三男共訳「意志決定と利潤計算」、(日本生産性本部 昭和
39) 19 頁
(22) Ibid..pp. 115117
前掲訳書
9597頁
(23) Perry Mason, Price‑Level Changes and F
加
incial State暉ts‑Basic Concepts and Methods—.AAA, 1956, p. 11The Institute of Chartered・ Accountants・ in England and Wales, Accou‑
血
gfor Stewardship切
a Pダiodof Inflation, The Research Foundation of The Institute of Chartered Accountants in England and Wales, 1968, pp. 5"'646(46)
会計責任:その遂行形態と本質(松尾)
は,購買力を異にする種々の時点の価格を寄せ集めた数値をもたらすにすぎ
(23)
ない。
これらが,将来の意思決定のための業績評価に有用な情報を提供すること が会計責任の遂行である,との立場から指摘される硯行会計の主な欠点であ る。確かに,このような立場から見れば,これらの欠点は重大である。しか し,これらの欠点の故に,硯行会計は直ちに否定されることになるであろう か。現行会計は次の重要な特徴をもっている。
1 . 前述のように,硯行会計によって示される数値は,経営者によって現 実に下された意思決定にもとづく当該企業に特有の経験を表わしている。そ れは経営者が「管理責任を遂行するに当って,経営者としての判断と熟練を 行使
(theexercise of managerial judgment and managerial skill in the discharge of administrative responsibilities)」した結果を反映して いるのである。経営者の過去の意思決定が,将来の新しい経営意思決定
(24)
(managerial decisions)
の出発点として役立つのはこの点なのである。硯 行の取得原価主義会計によって表わされる数値がもつこのような意味を理解 すれば,それは経営者のみならず,株主をはじめ財務諸表利用者すべてが,
当該企業に対してなす将来の意思決定に関する判断の有用な基礎を提供しう るものであるということが理解できるだろう。勿論,過去の意思決定を不変 のまま将来の意思決定に外挿することはできない。しかし,すべての行動は 経験にもとづくために,過去に実際に得た経験は将来の行動に対する有用な 基礎になりうるのである。
2.
前節で,人が企業に出資する目的は,利益からの分配に与かることに あるのが普通であるとのべた。同様のことを,ベーヴィスも「株式会社の所有 者としての究極的関心事は硯金配当の形態による投資に対する報酬にある」
(24) A. C. Littleton and V. K, Zimmerman, op. cit.,pp. 193‑194
(25) H. W. Bevis, Cor:
加
rateF加
incialRe加
rtingin a Competitive Economy, Macmillan, 1965, p. 49熊野実夫訳本「ベービス硯代株式会社会計」 (同文
舘 昭 和4
3年 )
43頁
会計責任:その遂行形態と本質(松尾) (
47)47(25)
とのべている。このことは企業の経済活動を対象とする会計上の利益は,処 分可能な流動資金
(disposableliquid funds)によって裏付けられていなけ ればならないことを意味している。現行会計における実現主義にもとづく収 益の隠識は,正に,この要件に適っている。それだけでばない。経営者にと っても,処分可能な流動資金の存在が,計画した営業活動を遂行するのに必
(26)
要な不可欠の条件なのである。
3.
現行会計が処分可能な流動資金によって裏付けられた利益を求める,
更に一層より根本的な理由は,現行会計が対象としている企業活動は貨幣経 済のもとで営まれているという点である。そこでは貨幣は実物と相互補完的 な作用を営みながらも,経済の実休に能動的な影響を及ぽしている。貨幣が このような影響力を有しうるのは,それが単なる交換の媒介物としてだけで はなくて,価値貯蔵機能を有しているからである。企業はこのような機能を 有する貨幣の増殖を求めて経済活動を営んでいるといってよい。会計におけ る貨幣の意義はここにある。すなわち,企業の経済硯象を貨幣的に表示する ための価値表現ないし価値計算尺度としてだけではなく,より実質的に,企 業の経済活動の結果得られた貨幣量としての利益を示すことに,硯行会計に
(切)
おける貨幣の意義がある。
4.
上述のように貨幣の意義を強調すれば,現行会計が収益を販売の時点 で認識するのは,単なる計算の客観性とか,保守主義のためではないことが 明らかとなろう。それは,価値貯蔵機能としての貨幣の流入を保証するのは 販売活動であり,したがって販売こそが企業における中心業務であり,他の すべての活動が方向付けられる集約点であるからである。販売活動が企業に とってどれほど重要であるかは,競争経済下において,市場開拓,販路拡張
(26) ・ Walter B. McFarland, Concepts for Management Accounting, NationalAssociation of Accountants, 1966, p
、
146染谷恭次郎監訳「管理会計の基礎」
(日本生産性本部昭和 42 年 )
169頁
(27)