聟島におけるオガサワラオオコウモリ
(
Pteropus pselaphon)の初観察記録
原 田 知 子(北海道大学大学院水産科学院)
要 約
小笠原諸島聟島列島聟島においてオガサワラオオコウモリが観察された。これまで聟島 列島での観察記録はなく、生態学・行動学的に不明な点が多い本種にとって新たな知見と なった。
著者は 2008 年 2 月 19 日 22 時頃、聟島の南浜にて上空 15m付近を飛行する動物を観察し た。この動物は翼幅が 1m弱、頭胴長が 20cm程で、翼には指と飛膜が確認できたことから、
鳥ではなくコウモリ目であると判断した。小笠原諸島で確認されているコウモリ目はオガ サワラオオコウモリ(Pteropus pselaphon)のみであり、確認された大きさなどの特徴がオ ガサワラオオコウモリと類似していたことから、この動物をオガサワラオオコウモリと判 断した。本種は南浜上空を 1 分ほど旋回した後、北の方角へ飛び去った。また、この同日 夜間及び 2009 年 2 月 5 日の夜間、同所にてオガサワラオオコウモリと思われる鳴き声も確 認された(出口、私信)。本種は今まで聟島列島での記録がなく、今回が初めての報告とな る。
本種は小笠原諸島唯一の固有哺乳類であり、父島、母島、北硫黄島、硫黄島、南硫黄島 に分布する (吉行、1999)。聟島及び聟島列島では本種の営巣・繁殖が確認されていないこ とから、今回確認された個体は聟島列島以外の他島から飛来してきた可能性が高いと考え られる。もしそうであれば、本種の生息が確認されている一番近い島(父島)からでも、約 50kmの距離を海上移動する必要がある。本種が連続して飛行できる距離は分かっていな いが、他のオオコウモリ種では 1 晩の総移動距離が 50kmほどになるものもいる(Banack &
Grant, 2002; Richter & Cumming, 2008)。海上移動については、本種が父島の扇浦から西町 方面へ二見湾を横切るところは比較的よく目撃される(杉田、私信)。さらに他の地域では 数km離れた島間を移動するオオコウモリ種も確認されていることから(坂口・当山、1992
;MaConkey & Drake, 2007)、本種が海上を移動して父島・聟島間を移出入することは不
可能ではないだろう。
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研究ノート
本種は 1969 年に国の天然記念物に指定されている希少種であるが、正確な生息個体数は 不明であり、生態学的知見も未だ乏しい。よって今回の報告は、本種の生態の新たな知見 と言えるであろう。今後は更なる観察報告が増えること、個体追跡調査などの積極的な生 態調査が行われることを期待する。
謝辞
出口智広氏(山階鳥類研究所)には、貴重な聟島での本種の情報及び御助言を提供してい ただいた。杉田典正氏(立教大学)には文献、貴重な父島での本種の情報及び御助言を提供 していただいた。以上のお二人に心から感謝申し上げる。
文 献
Banack, S. and Grant, G. S. (2002):Spatial and temporal movement patterns of the flying fox, Pteropus tonganus, in American Samoa. Journal of Wildlife Management, Vol.66, pp.1154-1163.
MaConkey, K. R. and Drake, D. R. (2007):Indirect evidence that flying foxes track food resources among islands in a Pacific archipelago. Biotropica, Vol.39, pp.436-440.
Richter, H. V. and Cumming, G. S. (2008):First application of satellite telemetry to track African straw-coloured fruit bat migration. Jouranl of Zoology, Vol.275, pp.172-176.
坂口法明・当山昌直(1992):北大東島におけるダイトウオオコウモリの行動圏及び場所 利用. ダイトウオオコウモリ保護対策緊急調査報告書 沖縄県天然記念物調査シ リーズ第 31 集、沖縄県教育委員会、pp.105-141.
吉行端子(1999):オガサワオオコウモリの分類学的地位について. 天然記念物調査(オ ガサワラオオコウモリ)調査報告書、東京都小笠原村教育委員会、pp.22-28.
首都大学東京 小笠原研究年報 第 33 号 2010
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