堀越 和夫(小笠原自然文化研究所)
鈴木 創(小笠原自然文化研究所)
千葉 勇人(小笠原自然文化研究所)
要 約
海洋から陸域にかけ栄養循環の機能を果たす大型海鳥類であるコアホウドリの個体群状 況を、聟島列島の繁殖地において営巣数および飛来個体の齢構成等により分析した。国内 における本種の初めて個体群動態の繁殖パラメーター(繁殖開始年数、回帰年数等)が算 出された。営巣エリアの拡大は始まっていたが、個体群規模は小規模レベルで推移してお り、現時点で増加傾向は認められなかった。
Ⅰ.はじめに
海洋島において、陸域と海域との生物の相互作用は物質循環の観点から生態系の維持に 重要である。特に海鳥類は、魚類、イカ類など餌由来の栄養塩類を陸上に運搬することか ら生態系の維持に大きく関わっている。本調査では、海鳥類による物質循環に大きな役割 を果たす大型種のコアホウドリを調査対象として、その生育および繁殖状況を把握し、自 然再生事業が進む小笠原諸島における保全管理上の評価を行うものである。
コアホウドリ、Phoebastria immutabilis は北太平洋に繁殖する 3 種類のアホウドリ類の 一つである。かつて、その繁殖場は北太平洋の広範囲な海洋島に見られたが、19 世紀末か ら第一次世界大戦にかけての乱獲で多くの繁殖個体群が絶滅し、現在、残存個体群はハワ イ群島、メキシコ沖合のグアダルーペ諸島と周辺島嶼、日本の小笠原諸島聟島列島の 3 地 区に限られている(岡、1998)。国内では、伊豆諸島鳥島で 1930 年代まで約 50 羽が繁殖し ていた記録がある。現在、聟島列島での繁殖地は聟島と、その属島の聟島鳥島の 2 島に限 られ、繁殖番い数は毎年 20 番いほどに過ぎない。このため、コアホウドリは絶滅危惧種
(環境省・東京都 IB 類)とされる。
聟島列島のコアホウドリの繁殖状況は、長期モニタリング調査として小笠原支庁と小笠 原自然文化研究所により、繁殖規模数調査と巣立ちヒナの標識放鳥が継続実施されている。
聟島列島では 2002 年までにノヤギ駆除が完了し、アホウドリ類の営巣地攪乱に対する影響
が排除された。この自然再生事業に対応して、同所に営巣するクロアシアホウドリ、
Phoebastria nigiripes の繁殖個体群は、この 10 年間で営巣規模が 1000 番い程度まで増加 し、営巣範囲も父島列島、母島列島まで新規拡大している(小笠原支庁、2008)。しかしコ アホウドリでは、その営巣規模は 20 番いほどと低いまま推移し、営巣地の拡大も認められ ない。本調査では標識リングにより繁殖個体群の齢構成を精査し、個体群動体の傾向を明 らかにすることで、今後必要とされる保全管理方針を取りまとめることを目的とする。
Ⅱ.方法
1.調査範囲
コアホウドリの繁殖が確認されている聟島および属島の聟島鳥島を対象とした。ただし、
新規定着が認められた場合は、その繁殖島も含めた。
2.調査時期
調査は、コアホウドリの抱卵終期~育雛初期(1 月~ 3 月)に実施した。
3.繁殖状況の記録
齢構成を把握するため、営巣番いおよび若鳥の個体識別を行った。調査回数は 3 回とし て、1 回目の抱卵期に、既知の営巣地を踏査し、抱卵個体の位置を地図上に GPS を使用し て記録した。同時に個体識別のため、動体センサー付きの自動撮影カメラ(米国 RECONX 社製)を、巣から 2 ~ 3m 離れた位置に三脚等で設置した(図 1)。その後、育雛期に 2 回 カメラデーターの回収を行った。個体識別は、脚リングの有無、タイプ、刻印番号等の情 報を収集するもので、この作業は、営巣地滞在中に双眼鏡(8 倍)による目視観察と望遠
図1 営巣中のコアホウドリ個体識別用 に設置した自動撮影カメラ(巣番 号鳥島9)
図 2 自動撮影カメラによるコアホウドリの 個体識別映像(左:M55、右:M32)
レンズを使用したカメラ画像の読み取り、そして回収した自動撮影カメラの映像の読み取 りにより行った(図 2)。なお、営巣地滞在中に観察した飛来個体についても、同様なリン グ読み取り作業を行った。
上記によって収集された営巣個体の識別情報を、小笠原支庁と小笠原自然文化研究所に より構築されている標識放鳥記録簿と照合し、繁殖個体および飛来個体の齢構成を分析し た。
なお、営巣地における現地作業チームは 4 名~ 6 名とし、小笠原諸島のアホウドリ類調 査において 8 年以上携わっている調査員が現場統括し、アホウドリ類の営巣活動に影響を 与えないように配慮した。
Ⅲ.結果
1.作業日程
本調査における作業日程を以下に示した。当初、調査開始を 1 月と予定していたが、海 況が安定しなかったため、2 月初めに延期した。なお東京都レンジャーにより、聟島列島 嫁島においてコアホウドリの新規営巣が報告されたことより、この営巣地も本調査範囲に 含めた。
・第 1 回目(調査員 4 名)
2013 年 2 月1日 聟島鳥島にて作業実施前の事前踏査 (船上宿泊)
2013 年 2 月 2 日 聟島鳥島 / 聟島にて営巣位置記録、カメラ設置、個体識別観察
・第 2 回目(調査員 4 名)
2013 年 2 月 20 日 聟島鳥島 / 聟島にて育雛観察、カメラ DATA 回収、個体識別観察
(船上宿泊)
2013 年 2 月 21 日 聟島鳥島 / 聟島にて育雛観察、カメラ DATA 回収、個体識別観察 嫁島に上陸予定であったが、海況が悪いため中止した。
・第 3 回目
2013 年 3 月 14 日 嫁島にて新規コアホウドリ営巣位置記録、育雛観察、カメラ設置(調 査員 5 名)
2013 年 3 月 19 日 聟島鳥島 / 聟島にて育雛観察、カメラ DATA 回収、個体識別観察
(調査員 6 名)
2.営巣およびふ化状況
コアホウドリの営巣箇所を、聟島において 11 巣、聟島鳥島において 15 巣、嫁島におい て 1 巣、総計 27 巣を確認した(表1、図 3)。このうち 5 巣がふ化せず、ふ化率は 81.5%
となった。また育雛中の雛 1 羽が 2 月 11 日~ 14 日の期間に死亡しており、3 月 21 日時点 での育雛のヒナは 21 羽で、生残率(生残ヒナ数 / 抱卵数)は 77.8%であった。
表1 聟島列島で確認されたコアホウドリの営巣位置と繁殖ステージ
巣番号 鳥名 緯度 軽度 繁殖ステージ
(3 月末)
聟島 1 聟島 27.68418498 142.12751700 育雛
聟島 2 聟島 27.68456602 142.12751800 放棄卵
聟島 3 聟島 27.68448103 142.12746704 破卵
聟島 4 聟島 27.68608700 142.12797297 育雛
聟島 5 聟島 27.68617803 142.12787197 育雛
聟島 6 聟島 27.68620502 142.12791396 雛死亡
聟島 7 聟島 27.68628599 142.12797297 育雛
聟島 8 聟島 27.68635296 142.12811203 育雛
聟島 9 聟島 27.68654801 142.12859499 育雛
聟島 10 聟島 27.68665300 142.12869400 育雛 聟島 11 聟島 27.68688697 142.12862902 育雛 鳥島 1 聟鳥島 27.68050801 142.12580801 育雛 鳥島 2 聟鳥島 27.68042604 142.12575101 育雛 鳥島 3 聟鳥島 27.68047901 142.12500896 育雛 鳥島 4 聟鳥島 27.68051698 142.12537399 育雛 鳥島 5 聟鳥島 27.68048203 142.12534399 育雛 鳥島 6 聟鳥島 27.68006201 142.12581497 放棄卵 鳥島 7 聟鳥島 27.67970402 142.12633699 ふ化せず 鳥島 8 聟鳥島 27.67912600 142.12624596 育雛 鳥島 9 聟鳥島 27.67908703 142.12620297 育雛 鳥島 10 聟鳥島 27.67904998 142.12589501 ふ化せず 鳥島 11 聟鳥島 27.67890899 142.12558002 育雛 鳥島 12 聟鳥島 27.67896499 142.12511801 育雛 鳥島 13 聟鳥島 27.67880901 142.12511200 育雛 鳥島 14 聟鳥島 27.67883004 142.12505196 育雛 鳥島 15 聟鳥島 27.67925902 142.12495096 育雛
嫁島 1 嫁島 27.49613300 142.20942800 育雛
3.営巣鳥の個体識別
営巣個体の脚リングによる識別情報を表 2 にまとめた。総計 27 の営巣をおこなった番い のうち、総計 48 羽のリング装着情報の収集に成功した。プラスチック製リングについては 全ての番号が読み取れたが、環境省の金属リングについては読みとれないものが含まれた。
2003 年以前の個体には簡易識別できるプラスチック標識を装着しておらず、金属リングの 形状差違(ベロの有無)により標識放鳥された時期を 2 期(1992 年まで,1992 年~ 2003 年)に分けた。これらのリング情報より、17 羽について標識放鳥日が特定でき(表 3)、13 羽について大まかな放鳥年代の情報が得られた。その他 18 羽についてはリングが未装着の
(a)聟鳥島
(c)嫁島
嫁島 1
1
1 4
4 3
3
5 2 5
2 6
6 7
7
8
8
9
9
10
10
11
11
12 14
140m
400m
200m 13
15
(b)聟島
図 3 聟島列島で確認されたコアホウドリの営巣位置(丸印)と巣番号
ため個体情報は得られなかった。なお、本調査においては、ハワイ群島など他地域の標識 個体は確認されなかった。
放鳥履歴が判明した 19 羽の営巣鳥の繁殖年齢は 5 才~ 34 才までの範囲あり、11 才以下 の個体が 73.7%(14/19 羽)と大半をしめた。現在の営巣地分布で、この数年内に新規形 成された繁殖地は聟島西側エリアと嫁島であり、このエリアに営巣した個体(巣番号 : 聟 島1、聟島 2,聟島 3、嫁島 1)は6~ 10 才の若い個体であった。
表 2 聟島列島で営巣したコアホウドリの標識装着状況
巣番号 確認 親
カラー
1
金属 確認 親
カラー
2 金属
聟島 1 目視 リングなし 13B2917 自動撮影カメラ リングなし リングなし
聟島 2 都レンジャー M01 13B4225 観察する前に親が放棄
聟島 3 都レンジャー M51 13C1062 観察する前に親が放棄
聟島 4 目視 リングなし リングなし 自動撮影カメラ リングなし リングなし
聟島 5 目視 M34 13B6288 目視 リングなし リングなし
聟島 6 目視 リングなし リングなし 親確認できず
聟島 7 目視 リングなし リングなし 目視 リングなし 環境省 Ring
聟島 8 目視 リングなし 環境省 Ring 自動撮影カメラ リングなし 環境省 Ring
聟島 9 目視 リングなし リングなし 自動撮影カメラ リングなし 環境省 Ring
聟島 10 目視 M02 13B4224 自動撮影カメラ リングなし 環境省 Ring 聟島 11 目視 リングなし 13A0395 自動撮影カメラ リングなし 環境省 Ring
鳥島 1 目視 リングなし リングなし 目視 リングなし 13A9325
鳥島 2 目視 リングなし リングなし 目視 リングなし 環境庁 Ring
鳥島 3 目視 リングなし リングなし 目視 リングなし リングなし
鳥島 4 目視 リングなし リングなし 目視 リングなし 環境省 Ring
鳥島 5 目視 M45 13B9028 自動撮影カメラ リングなし リングなし
鳥島 6 観察する前に親が放棄 観察する前に親が放棄
鳥島 7 目視 リングなし リングなし 自動撮影カメラ リングなし リングなし
鳥島 8 目視 リングなし 環境省旧 Ring 自動撮影カメラ リングなし 環境省旧 Ring 鳥島 9 目視 白 121 環境省旧 Ring 自動撮影カメラ リングなし 環境省旧 Ring 鳥島 10 目視 リングなし リングなし 自動撮影カメラ 黒 024 環境省旧 Ring
鳥島 11 目視 緑 01 130-00601 目視 リングなし リングなし
鳥島 12 目視 リングなし 13A9321 目視 リングなし 13B1085
鳥島 13 目視 リングなし 13A1645 自動撮影カメラ M78 13C1773
鳥島 14 目視 M32 13B6020 自動撮影カメラ M55 13C1066
鳥島 15 目視 M43 13B9025 目視 リングなし リングなし
嫁島 1 都レンジャー M47 13B9029 親確認できず
営巣が確認できた 48 個体の年齢区分による構成数を表 4 に示した。年齢構成が 62.5%の 個体の年齢構成が判明し、各年齢群で分けると「10 ~ 21 才群」が最も多い構成比を示し た。ただし、年級あたりの羽数(羽数 / 年)で見れば、「5 ~ 9 才群」が最も多く、年齢が 上がるに従い大幅に減少した。
表 3 コアホウドリ営巣鳥で確認できた放鳥履歴(放鳥はヒナ巣立ち期)
営巣番号 カラー Ring 金属 Ring 年齢 装着日 装着場所
鳥島 13 M78 13C1773 5 2008/4/22 聟鳥島
鳥島 14 M55 13C1066 6 2007/5/14 聟鳥島
聟島 3 M51 13C1062 6 2007/5/14 聟鳥島
嫁島 1 M47 13B9029 7 2006/5/12 聟鳥島
鳥島 15 M43 13B9025 7 2006/5/12 聟鳥島
鳥島 5 M45 13B9028 7 2006/5/12 聟鳥島
聟島 5 M34 13B6288 8 2005/5/10 聟島
鳥島 14 M32 13B6020 8 2005/5/10 聟鳥島
聟島 2 M01 13B4225 9 2004/5/10 聟鳥島
聟島 10 M02 13B4224 9 2004/5/10 聟島
鳥島 1 NR 13A9325 10 2003/5/7 聟鳥島
鳥島 12 NR 13A9321 10 2003/5/7 聟鳥島
聟島 1 NR 13B2917 10 2003/5/8 聟島
鳥島 12 NR 13B1085 11 2002/5/23 聟鳥島
鳥島 13 NR 13A1645 20 1993/5/25 聟鳥島
聟島 11 NR 13A0395 21 1992/5/7 聟鳥島
鳥島 11 緑 01 130-00601 34 1979/6/12 聟鳥島
鳥島 10 黒 024 環境省旧 Ring 20 〜 34 不明 聟鳥島
鳥島 9 白 121 環境省旧 Ring 20 〜 34 不明 聟鳥島
表 4 コアホウドリ営巣鳥の年齢構成
年齢 羽数 構成率(%) 羽数 / 年
5 〜 9 才 10 20.8 2.00
10 〜 21 才 12 25.0 1.17
22 〜 34 才 8 16.7 0.62
不明(未標識) 18 37.5 -
総計 48
4.飛来鳥の個体識別
本年度には営巣は確認できず、飛来のみが観察された個体は、リング装着鳥が 24 羽で
(表 5)、未標識鳥の最多の同時目撃数が 2 羽の総計 26 羽であった。年齢範囲は 3 才~ 14 才で、本年度の営巣開始年齢前の 3 ~ 4 才の若齢個体が 6 羽含まれていた。
5.回帰年数
2004 年から現在まで、識別しやすいプラスチックリングを全ての巣立ち前のヒナに装着 している。これより、この期間においては各年級群における回帰個体を正確に計数するこ とができ、巣立ち数と回帰数を集計より、詳細な回帰率を計算することができる。表 6 と 図 4 に 2013 年に回帰した各年級群の回帰率をまとめた。繁殖地への回帰飛来は 3 年目から
表 5 コアホウドリ飛来鳥の放鳥履歴(放鳥はヒナ巣立ち期)
カラー Ring 金属 Ring 確認場所 年齢 装着日 装着場所
M93 13C4679 聟島 3 2010/5/10 聟島
M95 13C7851 聟島鳥島 3 2010/5/11 聟鳥島
M80 13C5641 聟島と聟島鳥島 4 2009/5/18 聟島
M82 13C5901 聟島 4 2009/5/18 聟島
M84 13C6302 聟島鳥島 4 2009/5/19 聟鳥島
M86 13C6304 聟島鳥島 4 2009/5/19 聟鳥島
M68 13C1763 聟島 5 2008/4/22 聟島
M69 13C1764 聟島鳥島 5 2008/4/22 聟鳥島
M74 13C1769 聟島鳥島 5 2008/4/22 聟鳥島
M79 13C4587 聟島鳥島 5 2008/5/23 聟鳥島
M52 13C1063 聟島と聟島鳥島 6 2007/5/14 聟鳥島
M54 13C1065 聟島鳥島 6 2007/5/14 聟鳥島
M56 13C1067 聟島 6 2007/5/14 聟鳥島
M57 13C1068 聟島鳥島 6 2007/5/14 聟鳥島
M59 13C1070 聟島鳥島 6 2007/5/14 聟鳥島
M60 13C1221 聟島鳥島 6 2007/5/15 聟島
M40 13B9022 聟島 7 2006/5/12 聟鳥島
M46 13B8961 聟島と聟島鳥島 7 2006/5/12 聟鳥島
M27 13B6015 聟島 8 2005/5/10 聟鳥島
M28 13B6016 聟島と聟島鳥島 8 2005/5/10 聟鳥島
M14 13B4286 聟島 9 2004/5/11 聟鳥島
M16 13B4288 聟島鳥島 9 2004/5/11 聟鳥島
NR 13A5869 聟島鳥島 14 1999/5/19 聟鳥島
NR 13A5870 聟島鳥島 14 1999/5/19 聟鳥島
始まり、営巣開始は 5 年目に始まった。各年級群の回帰率(回帰個体 / 放鳥数)は 6 年目 まで上昇傾向を示し、その最高値は 50.0%であった。それ以後の回帰率は、年級群が年を 追う毎に減少傾向を示し、9 年目では 28.6%まで下がった。
Ⅳ.考察
1.ヒナ数の推移
本年度の繁殖状況として営巣番いは 27、成功率 77.8%(育雛中期)であった。聟島列島 のコアホウドリの繁殖成功率(抱卵から巣立ちまで)は 2003 年度に調査され、約 71%で あり、例年の通常値に入ると考えられる。長期的なモニタリング資料として営巣番い数は 収集されていないが、巣立ちヒナの標識装着数が個体群変動の指標となる。図 5 に 1990 年 度以後の聟島列島におけるコアホウドリ巣立ちヒナの標識装着数をまとめ(小笠原支庁・
表 6 2012 年度におけるコアホウドリの回帰情報
年度 巣立ち数 2013年営巣数 2013年飛来数 2013年総計 回帰率 (%) 回帰年数
2011 12 0 0 0 0.0 2
2010 14 0 2 2 14.3 3
2009 9 0 4 4 44.4 4
2008 14 1 4 5 35.7 5
2007 16 2 6 8 50.0 6
2006 14 3 2 5 35.7 7
2005 11 2 2 4 36.4 8
2004 14 2 2 4 28.6 9
0.0%
2 才 3 才 4 才 5 才 6 才 7 才 8 才 9 才 10.0%
20.0%
30.0%
40.0%
50.0%
60.0%
図 4 2012 年度におけるコアホウドリの回帰率(飛来総数 / 巣立ち数)
小笠原自然文化研究所 未発表資料)、これに 2013 年 5 月に生存している推定ヒナ数(27 巣 ×0.7=19 羽)を含めた。本シーズンの巣立ち鳥数(推定 19 羽)は、1990 年度~ 2012 年度の値(平均値 11.7 羽、標準偏差 3.1、範囲 5 ~ 16)と比べて単年度では最高値を示し た。しかし、巣立ち数の年変動の幅は大きく、本年度の増加傾向もその範囲に収まる可能 性がある。2002 年度頃よりクロアシアホウドリで見られた明らかな増加傾向は、コアホウ ドリにおいては認められていない。
2.回帰状況
本年度はプラスチック標識の装着開始より 9 年目にあたり、聟島列島のコアホウドリ繁 殖群において初めて回帰習性について解析できる資料収集ができ、回帰開始年数は 3 才に 始まり、5 才より営巣が開始されることが判明した。営巣個体の齢構成については、未標 識個体が 1/3 含まれており不確定要素は残るが、営巣鳥には 5 才から 34 才までが含まれ、
「10 ~ 21 才」の年級群をピークとした一山型構造をしていた。ハワイ群島では営巣開始年 齢はオスが平均 8.4 才(範囲 6 ~ 16)、メスが平均 9.0 才(範囲 5 ~ 15)と報告されている
(Van Ryzin & Fisher, 1976)。聟島列島群において、「10 ~ 21 才」の構成比が高くなって いるのは、この年級群にはほとんどの繁殖を開始した個体が含まれているためと考えられ る。コアホウドリの繁殖寿命は少なくとも 40 才という記録があり(Fisher, 1975)、聟島列 島群においても 30 才以上の老齢個体が含まれていることが判明した。
3.生残率
ハワイ群島では、巣立ち鳥の翌年までの生残率が 33%、2 才で 82%、それ以後が 94%と
0
1990年度1991年度1992年度1993年度1994年度1995年度1996年度1997年度1998年度1999年度2000年度2001年度2002年度2003年度2004年度2005年度2006年度2007年度2008年度2009年度2010年度2011年度2012年度2013年度 4
8 12 20
2 6 10 18 16 14
図 5 聟島列島におけるコアホウドリの巣立ちヒナ数の推移(2013 年は推定値)
推定されている(Fisher, 1976)。これは 5 才以後の生残率は 23.9%から徐々に下がり 9 才 には 18.7%になり、年平均では 21.2%と算出される。聟島列島で得られている回帰率は生 残率の最低値として捉えることができる。5 才~ 9 才までの平均値で 37.3%(範囲 28.6 ~ 50%)であり、ハワイ群島より生残率が高いことになる。聟島列島の 10 ~ 21 才までの飛 来鳥数は計 16 羽、この年級群の巣立ち鳥は計 135 羽であり、年平均した回帰率は 11.9%と 計算される。同様な年級期間でのハワイ群島の年平均の回帰率は 12.8%となり、ほぼ同様 値となった。ハワイ群島の生残率が計算されたのは個体群が増加している時期のものとさ れ、現在、聟島列島群で算出された生残率は、個体群増加が期待される値と考えられる。
4.個体群の独立性
1980 年、聟島鳥島で繁殖した個体がハワイ群島で標識放鳥されたものであることが確認 された(岡、1998)。それ以後はハワイでの標識鳥の再捕記録はなく、その交流頻度につい ては定かでないが、聟島から 5000 km 離れたと繁殖地との個体交流があることを示してい る。ハワイ群島と聟島列島におけるコアホウドリ集団繁殖地間の遺伝分析が行われ、新し く形成された繁殖群には複数の繁殖群の遺伝子が見られ、聟島列島群においてもハワイ群 島の 8 箇所の繁殖地と共通な遺伝子が認められた(Young, 2010)。コアホウドリの繁殖寿 命は 40 才という記録があり、現在聟島列島で観察されている標識未装着の個体に、標識調 査が始まった 1970 年代以前より営巣していた老齢鳥が含まれている可能性もあるが、繁殖 群規模が 50 万番いという大繁殖地であるハワイ群島群が拡大中で、聟島列島群に加入して いる可能性も考えられる。逆に、聟島列島群で生まれた若鳥が採餌場でハワイ群島群と混 ざり、繁殖地にハワイ群島を選択することもある。
同じ聟島列島で繁殖するクロアシアホウドリ繁殖群は、国内の伊豆鳥島の繁殖群とは共 通のミトコンドリア遺伝子を持つが、ハワイ群島とは独立していることが報告されている
(Eda et al., 2008)。さらに聟島列島内におけるクロアシアホウドリ繁殖群のマイクロサテ ライトによる遺伝子解析では、日本とハワイの集団は遺伝的に異なるが、局所的には交流 があることが推察された(Ando et al, 2014)。聟島列島のクロアシ個体群は、2000 ~ 2002 年に完了したノヤギ駆除のタイミングで、その後、営巣数が大幅に増加している。クロア シアホウドリとコアホウドリの他繁殖地域との交流程度の違いが、聟島コアホウドリの個 体群が低いレベルで維持されていることに、どのように作用しているかは不明である。
5.聟島列島の個体群評価と管理方針について
アホウドリ類では、過去に人為的な個体群破壊が起きても、その後に保全対策が実施さ
れれば、繁殖群の再生能力が高い事例が知られている。国内では伊豆鳥島のアホウドリに おいて 7.4%の年増加率(1979 ~ 1995 年)を示している。ハワイ群島のコアホウドリでは、
繁殖島によって異なるがミッドウェー環礁で 6.0%(30 年間)、French Frigate Shore 地区 で 4.8%~ 13.5%(1956-1990)と報告され、確実な増加傾向が報告されている(Gould
&Hobbs 1993)。現時点において、聟島列島のコアホウドリ群については、小笠原諸島国立 公園の特別保護地区として人為的な悪影響はなく、また営巣地に入り込むノヤギ駆除は 2002 年以前に終了しており、さらに 2010 年にはクマネズミ駆除も実施され、外来動物に よる直接影響は排除された。本調査により、初めて聟島列島群の個体群動態パラメーター
(繁殖成功率、生残率)を算出したが、第二次大戦後に自然保護区に指定され外来駆除が進 められたことより増加しているハワイ群島群と比較して、同等以上であることが判明した。
しかし、この繁殖パラメーターは営巣個体の 1/3 を占める未標識親鳥について除かれて計 算されたものであり、算定基準となる個体群構造には不明点が多い。現段階においては実 際の営巣番い数は個体群数が 20 番い程度という低い段階で推移しており、その増加傾向に ついては検知できないままである。ただし、若い個体による新たな繁殖エリアの拡大が見 られており(聟島の西部に 3 巣、嫁島 1 巣)、繁殖群として新しい動きが確認されているこ とも注目に値する。現段階の聟島列島個体群について、評価と提言をまとめた。
「聟島列島個体群の評価」
*聟島列島で繁殖しているコアホウドリは、最大サイズの海鳥類として、海洋から陸上に かけて栄養塩類を運搬する機能が高い。コアホウドリの個体群増加は、属島の陸上生態 系の再生に向けて助成効果が期待される(大型海鳥個体群の生態系再生機能)。
*聟島列島におけるコアホウドリ繁殖群は、唯一の北西部太平洋地区に生存するという点 において、その保全価値は大きい(個体群の分布特異性)。
*聟島列島群の繁殖規模は 20 番い程度という大変小規模で、環境攪乱等により容易に消滅 する可能性が高い(小規模個体群の消滅危険性)。
*聟島列島個体群の推移動向については、繁殖地エリアの拡張が始まっているが、個体群 規模には期待される増加傾向は認められない(小規模個体群の維持)。
*聟島列島個体群の現段階における個体群動態パラメーターでは、今後増加する値を示し ているが長い繁殖寿命をもつコアホウドリの個体群モデルを構築するには、まだ不十分 である(基礎資料不足)。
「聟島列島個体群の保全方針への提言」
*聟島列島個体群は小規模ながらも繁殖エリアを拡大中で、現在、選択されている繁殖地 については、人為的な悪影響を与えないよう、飛来期には不必要な立ち入りは制限する 配慮が求められる。
*聟島列島個体群の個体群モデルを構築するには、現在のプラスチック標識放鳥を継続す ることが必須で、4 ~ 5 年後に再度本年と同様な個体群構造の調査を実施することが求 められる。
*聟島列島個体群の個体群モデルの構築にあたり、聟島列島群とハワイ群島群との関係を 解明することが必要で、まずは聟島列島群の若鳥の分散行動を衛星テレメトリー等で把 握することが求められる。
*聟島列島において同所に営巣しており、個体群規模の拡大が始まっているクロアシアホ ウドリの個体群動態パラメーターを収集して比較検討することが望ましく、これにより コアホウドリの個体群構造と動態についての現状把握が深まると考えられる。
謝辞
聟島列島におけるコアホウドリ繁殖個体群の標識放鳥作業は、NPO 法人小笠原自然文化 研究所と東京都小笠原支庁との共同研究として実施されたものである。今回の繁殖状況研 究は、東京都小笠原支庁が実施した平成 24 年度小笠原諸島海域生態調査の一環として行わ れた。本調査を推進する上では、佐々木哲郎、栗原達郎氏、串橋夕子氏、森岡修子氏、熊 本舞子氏、堀越晴美氏、晴佳丸船長高嶺春夫氏に協力を頂いた。
文 献
Ando, H., L. Young, M. Naughton, H. Suzuki, T. Deguchi and Y. Isagi (2014).
Predominance of Unbalanced Gene Flow from Western to Central North Pacific Colonies of the Black-Footed Albatross (Phoebastria nigripes). Pacific Science 68:
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Eda M, Kawakami K, Chiba H, Suzuki H, Horikoshi K & Koike H (2008) Genetic characteristics of the black- footed albatross (Diomedea nigripes) on the Bonin Islands and their implications for the species’ demographic history and population structure. Ornithological Science 7: 109–116.
Fisher HI (1975) Longevity of the Laysan albatross, Diomedea immutabilis. Bird-Banding 46: 1-6.
Fisher HI (1976) Some dynamics of a breeding colony of the Laysan albatrosses. The Wilson Bulletin 88: 121-142.
Gould PJ & Hobbs R (1993) Population dynamics of the Laysan and other albatrosses in the North Pacific. North Pacific Fisheries Commission Bulletin 53: 485-497.
岡 奈理子(1998) コアホウドリ、日本の希少な野生水生生物に関するデータブック(水 産庁編).(社)日本水産資源保護協会、pp.390-391.
東京都小笠原支庁(2008)海鳥繁殖状況等調査報告書.東京都、104p.
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