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かんらん岩捕獲岩の記載岩石化学的性質:

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かんらん岩捕獲岩の記載岩石化学的性質 143 岩石鉱物科学34, 143158, 2005

かんらん岩捕獲岩の記載岩石化学的性質:

日本列島下のリソスフェリック・マントルの特徴

Petrography and Geochemistry of the mantle xenoliths:

Implications for lithospheric mantle beneath the Japan arcs

阿部なつ江 (Natsue ABE

)

*,**

荒井 章司 (Shoji ARAI

)

***

Recent developments in instrumentation for in situ trace element analysis of peridotite minerals give us valuable data set of petrological and geochemical insights of the upper mantle. Here, we summarize petrographical, petrological and geochemical characteristics of mantle xenoliths from the Northeastern and Southwestern Japan arcs. They have clear correlations between microtexture and mineral compositions in terms of both major and trace elements. That suggests that influx

assisted melt extraction occurs simultaneously with deformation/recrystalization in the upper mantle. Their characteristics of traceelements in clinopyroxene are distinguished from those of abyssal peridotite and peridotite xenoliths from continental regions. The geochemistry of Japan arcs clinopyroxenes have characteristics of arctype mantle source; i.e., low light rare earth ele- ment (LREE) and high field strength element (HFSE; Ti, Zr and so on), rather high heavy rare earth (HREE) relative to LREE elements and Sr concentrations. They also have a rather constant Ti/Zr ratio, variable REE patterns, and relatively low LREE/HREE ratios. The simple melt extraction model can not explain these characteristics. These features are due to metasomatism, which is dif- ferent from carbonatite metasomatism.

Keywords: Mantle xenoliths, REE, Metasomatism, Arc mantle, Japan arcs

I. は じ め に

近年,二次イオン質量分析計 (secondary ion mass spec-

trometer: SIMS) や,レーザーアブレーション―ICP質量分

析計 (LAICPMS),などの分析機器・分析技術のめざまし い発達により,固体試料中の微小領域から微量元素組成や 同位体比組成を測定できるようになった (O Reilly and

Vannucci, 2004など)。これらの分析機器の地球科学への

導入は,196070年代に地球科学,とりわけ岩石学の分野 EPMAが導入されて以来の改革をもたらした。分析に かける時間や手間が大幅に短縮され,飛躍的に多量のデー タが出るようになったことも大きな変革であるが,顕微鏡 で観察に用いる岩石薄片をそのまま試料室に入れて測り たい場所の化学組成を測定できるため,岩石の組織や微細

構造と微量元素・同位体組成とを一対一に対応させた分 析を行うことが可能になったことは,大きな進歩である。

この革命は筆者らのような記載岩石学者にとって大変大 きな意味を持つ。最近では,岩石記載と微小領域分析法を 組み合わせた 記載岩石化学 的研究は,もはや岩石学の スタンダードとなりつつある。

SIMSのかんらん岩への応用に関する初期の解説は清水 (1992) で,上部マントルかんらん岩の岩石学についての一 般的な解説は荒井 (1989, 1992),微量元素及び同位体組成 についての総説として芳川・中村 (1997) などがあるので こちらを参照されたい。ここでは,1990年以降急激に増 えたマントル捕獲岩中の微量元素データ,特にスピネルか んらん岩中の微量元素の主な貯蔵鉱物である単斜輝石中 の希土類元素 (REE) を含む微量元素組成についてまとめ,

(平成16119日受付,平成17331日受理)

* 海洋研究開発機構・地球内部変動研究センター (IFREE)・海洋底ダイナミクス研究プログラム,〒2370061 神奈川県横

須賀市夏島町215

***金沢大学大学院自然科学研究科地球学教室,〒9201192 石川県金沢市角間町

* Department for Deep Sea Research, Institute for Research on Earth Evolution (IFREE), Independent Administrative Institution/

Japan Agency for MarineEarth Science and Technology (JAMSTEC), 215 Natsushimacho, Yokosuka 2370061, Japan   Email: [email protected]

** ARC National Key Center for GEMOC (Geochemical Evolution and Metallogeny of Continents), Macquarie University. Sydney, NSW, Australia 2109

*** Department of Earth Sciences, Kanazawa University, Kakumamachi, Kanazawa 9201192, Japan

(2)

144 阿部なつ江・荒井 章司

日本列島産マントル捕獲岩の特徴を示す。なお本論文に 記載するマントルかんらん岩試料は,すべてWilshire and Shervais (1975) の Crdiopside series もしくはFrey and Pri-

nz (1978) の Group I であり,基本的にレルゾライト〜ハ

ルツバーガイト系列の融け残りかんらん岩である。

II. 島弧セッティングにおけるマントル捕獲岩の記載     岩石化学

1. 島弧起源のマントル捕獲岩の産地

島弧のセッティングに産するマントル捕獲岩は,大陸 や海洋島と比べると非常に少ない (Nixon, 1987)。また径 56 cm以下の小さい試料が大半を占めるのも特徴である。

島弧マグマが捕獲してきたマントル捕獲岩 (ここでは融 け残りかんらん岩と思われるレルゾライト〜ハルツバー ガイト系列の超マフィック岩を指す) の産地は,目潟火山 (一ノ目潟,二ノ目潟,三ノ目潟),北海道・渡島大島 (二 ノ宮・荒井,1992),フィリピン北部のバタン島イラヤ火山 (Schiano et al., 1995; Arai et al., 1996, 2004; Arai and Kida, 2000),アヴァチャ火山などカムチャツカ半島 (Kepezhin- skas et al., 1995; Arai et al., 2003aなど),リヒア前弧海底火 山 (パ プ ア ニ ュ ー ギ ニア; McInnes and Cameron, 1994;

McInnes et al., 2001) などで,火山前線のソレアイト玄武岩 および安山岩,カルクアルカリ安山岩〜低カリウム玄武岩 火山岩中の捕獲岩として得られる。このほか,沈み込みス ラブの影響が及んでいると思われる火山や,かつて沈み込 み帯を経験しているという意味で 島弧 として記載され ている産地 (いずれも母岩はアルカリ玄武岩) は多数あり,

例えば西南日本弧では津山盆地の男山 (荒井・村岡,

1992),吉備高原の荒戸山 (藤原・荒井,1982),九州の玄界

島・黒瀬や唐津・高島 (Arai et al., 2001),島根県の野山岳 (平井1983; Abe et al., 2002など),同じく川下 (永尾・阪口,

1990),隠 岐 島 後 (Takahashi, 1978; Abe et al., 2003など),

長崎県・五島列島・福江島 (Umino and Yoshizawa, 1996) が ある。国外では,ハンガリー周辺のカルパチアンーパノニ ア ン 地 域 (EmbeyIsztin et al., 1989; Vasseli et al., 1997;

Demeny et al., 2004など),シホテアリン (ロシア,シベリ ア; Ionov et al., 1995など),メ キ シ コ (Luhr and Aranda Gomez, 1997),南スペイン (Arai et al., 2003b; Beccaluva et al., 2004など),南 米 パ タ ゴ ニ ア 地 域 (Gorring and Kay, 2000; Laurora et al., 2001),パン・アフリカン地域 (Bluztajn et al., 1995),北米カスケード山脈のシンコエ (Brandon and Draper, 1996),などにも産地がある。さらに愛媛県の新宮 ではランプロファイアー岩脈中に捕獲され (鷹村,1973;

Goto and Arai, 1987),ま た カ ス ケ ー ド 山 脈 のBig Jim

Complexではカルクアルカリ系列ウェールライト岩脈中

にそれぞれマントル捕獲岩が,捕獲されているという報告 がある (Kelemen and Ghiorso, 1986)。

2. 日本列島のマントル捕獲岩産地と地質背景

東北日本弧のマントルかんらん岩捕獲岩産地は,目潟 火山と渡島大島の二産地のみである。両火山とも第四紀

に噴火しており,渡島大島は現在も活火山に分類される。

目潟火山は,一ノ目潟,二ノ目潟,三ノ目潟とよばれる3 つのマールから構成され,三つのマールすべてからマント ルかんらん岩捕獲岩が見つかっている (阿部ら,1995)。一 ノ目潟はマントル捕獲岩の有名な産地であり,多くの研究 者によって捕獲岩研究がなされている (Kuno, 1967; Aoki and Shiba, 1973; Takahashi, 1978; 荒井・高橋,1987; 阿部ら,

1992など)。一ノ目潟および二ノ目潟はカルクアルカリ安 山岩〜デイサイト質本質噴出物中に,三ノ目潟では高アル ミナ玄武岩中にマントル捕獲岩が包有されている (Katsui et al., 1979; Aoki and Fujimaki, 1982;阿部ら,1995)。渡島大 島は,日本のマントル捕獲岩産地としては最も海溝から離 れた位置にある (Fig. 1)。渡島大島の超マフィック捕獲岩 は,常にまわりにマフィック深成岩 (ガブロ) が形成され ている複合捕獲岩として産する (二ノ宮・荒井,1992)。

西南日本弧では,マントル捕獲岩の母岩噴出年代は,新 宮ランプロファイアーだけが17 Maと古い年代を示すが

その他は12 Maよりも若く (宇都,1995),日本海背弧拡大

活動時期の2818 Ma (Tamaki et al., 1992) 以降の年代を示 す。西南日本のマントル捕獲岩は,広義のアルカリ玄武 岩 (アルカリかんらん石玄武岩,ネフェリン・ベイサナイ ト,ネフェリナイト,ランプロファイアー) に包有されて いる (鷹村,1973;平井,1983; Iwamori, 1991)。マントルか んらん岩試料は,隠岐島後,男山,荒戸山,新宮,野山岳,

川下,黒瀬,福江島と高島の9産地で採取されている。

これらの内,本論文で扱われる試料は,東北日本弧の目 潟火山,西南日本弧の男山,黒瀬,野山岳,川下,隠岐島 後の合計6産地から採取されたものである。

3. 岩石記載

代表的な試料の顕微鏡写真をFigure 2に,主要構成鉱物 のかんらん石,斜方輝石,単斜輝石の体積比 (モード比) を

Figure 3に示す。日本列島産のマントルかんらん岩捕獲岩

は,目潟火山の一部の試料 (斜長石スピネルかんらん岩) を除き,すべてスピネルかんらん岩である。阿部・荒井 (2001) が指摘しているように,また後述するように,西南 日本の試料は鉱物化学組成から見積もった平衡温度に よって,高温型と低温型に分けることが出来る。また松 本・鳥海 (1986) は,かんらん石の転移密度を使った差応 力計を用いて上部マントルの応力履歴を検討した結果,西 南日本弧産のマントル捕獲岩を高応力型と低応力型に分 類した。これらはそれぞれほぼ低温型と高温型に対応し ている。本論文では,西南日本の試料と東北日本・目潟 火山の試料とを合わせて記載岩石学的特徴を考慮し,以下 のように大まかに野山岳タイプ (粗粒高温型) と目潟タイ プ (細粒低温型) に分類した。

野山岳タイプ (粗粒高温型): 野山岳,川下の試料は,一 般的に大陸産マントル捕獲岩の記載に用いられるMercier and Nicolas (1975) による分類と対応できる。Mercier and Nicolas (1975) では,粒界が直線的ではなく入り組んでい て,顕著な変形組織が見られない試料をプロトグラニュ

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かんらん岩捕獲岩の記載岩石化学的性質 145

ラー組織とし,もっとも変形が弱い試料とした。変形が進 むと,大きないわゆるプロトグラニュラー〜ポーフィロク ラスティック組織を示す (Fig. 2ad)。基本的に線状構造も 面状構造の発達も弱い。プロトグラニュラー組織を示す ものはモードで単斜輝石を多く含むレルゾライトである。

一方ポーフィロクラスティック組織を示すものは,単斜輝 石が少ない傾向があり,レルゾライト〜ハルツバーガイト である。単斜輝石のモード量は,23 vol%から0 vol%と大 きく変化する (Fig. 3)。かんらん石はプロトグラニュラー 組織を示す試料中では希にキンクバンドが観察されるの に対し (Fig. 2b),ポーフィロクラスティック組織を示す試 料中では激しく変形し波状消光する (Fig. 2d)。輝石は単斜 輝石,斜方輝石ともに丸みを帯びた外形を示し,粒界はス ポンジ状になっている (Fig. 2ad)。この高温型試料では,

クロムスピネルが顕微鏡下で確認できないほど細粒かま たはモードでクロムスピネルを含まないことがある。

目潟タイプ (細粒低温型): 目潟火山と男山のかんらん岩 捕獲岩の組織は,Mercier and Nicolas (1975) の分類には当 てはまらず,細粒等粒状組織 (Fig. 2e, f) からやや粗粒〜細 粒なポーフィロクラスティック組織を示す (Fig. 2g, h)。こ のうち,目潟火山では,細粒等粒状組織を示すレルゾライ

ト試料が最も一般的であり,Abe et al. (1999) では,これを 目潟のタイプIとした (Fig. 2e)。男山の試料もこのタイプI に対応する (Fig. 2f)。一方タイプIに比べて粗粒でポー フィロクラスティック組織を示す物をタイプII (Fig. 2g),

タイプIよりも細粒で且つ激しい変形組織が見られる物を タイプIIIとした (Fig. 2h)。また黒瀬のかんらん岩捕獲岩 は,やや粗粒ではあるが,目潟のタイプIIに分類できる。

この目潟タイプのかんらん岩捕獲岩は,野山岳タイプや大 陸産マントルかんらん岩捕獲岩と比べると,単斜輝石は少 なく,単斜輝石/斜方輝石のモード比は0.1前後である (Fig. 3)。一ノ目潟,二ノ目潟の試料の約半数は,二次的に 角閃石が形成されており (阿部ら,1992, 1995など),明ら かに マントル交代作用 (Harte, 1983) を受けている。こ のように明らかに二次的に交代作用鉱物が形成されてる マントル捕獲岩を,modal metasomatism (モードのマント ル 交 代 作用)を 受 け た マ ン ト ル 捕 獲 岩 と 呼 ん で い る (Dawson, 1984)。隠岐島後の試料も単斜輝石量が少なく,

モード組成からはレルゾライトとハルツバーガイトの境 界であり (Fig. 3),組織は目潟のタイプII (粗粒なポーフィ ロクラスティック) 組織を示すが,粒径がやや大きい (Fig.

2i, j)。隠岐島後と黒瀬には,目潟タイプのレルゾライトと Fig. 1. Locality map of mantle xenoliths on the Japan arcs with plate boundaries.

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146 阿部なつ江・荒井 章司

ハルツバーガイト以外にも,やや細粒で層状構造が発達 し,かんらん石Fo値が低いためやや黄色みを帯びたレル ゾライトが共通して産するが,そのようなレルゾライトは 融け残りかんらん岩とは考えにくい為,本論文では除外し ている。

4. 鉱物化学組成 (a) 主要元素

かんらん岩の構成鉱物の化学組成を示す代表的なグラ フをFigure 45に示す。Arai et al. (1998, 2000) などで指 摘しているが,日本列島産のかんらん岩捕獲岩は,スピネ ルのCr#0.1から0.6 (最高で0.71サンプル),かんら

ん石のFo値は8992とほぼ90前後で,一ノ目潟の二次的 な含水鉱物が10%以上形成されている試料と,Abe et al.

(2003) でFerich metasomatismを受けているとしている隠 岐島後の多くの試料を除き,Arai (1987, 1994) のかんらん 石 ― ス ピ ネ ル マ ン ト ル 列 (OSMA; Olivinespinel mantle array) からはずれるものはほとんどない (Fig. 4)。単斜輝 石中のNa2O含有量は,目潟タイプ (細粒低温型) では低 く,共存するスピネルのCr# (= Cr/(Cr + Al) 原子比) との対 応をプロットすると,Arai (1991) が分類した低Naタイプ に入る。一方野山岳タイプ (粗粒高温型) では高Naタイプ に入るものも多い (Fig. 5)。目潟のタイプ I試料はスピネ Fig. 2. Photomicrographs of typical peridotite xenoliths from the Japan island arcs. The scale bars are 1 mm for a through h, and 0.5 mm for i and j. All photos are taken under crossedpolarized light except for (a) and (c) taken under planepolarized light. (a) to (d) , with Noyamadake Type texture from the Southwest Japan arc. (i) and (j), with intermediate texture Type from Southwest Japan arc. (e), (g) and (h), from the Northeast Japan arc with Type I, Type II and Type III, respectively. Textures of Types I, II, and III of peridotite xenoliths from Megata volcano are classified by Abe et al. (1999). See text.

(a) Hightemperature type lherzolite with protogranular texture from Noyamadake (OG44). The texture is similar to the protogranular type of Mercier and Nicolas (1975). Note the relatively large grain size and rounded orthopyroxene (Opx) and clinopyroxene (Cpx) with spongy rim.

Olivine (Ol) has few kink bands. (b) The same as (a), with crossedpolarized light. (c) Clinopyroxenepoor lherzolite (OG107) with porphy- roclastic texture. Note the rounded form of pyroxene porphyroclasts. (d) The same as (c), with crossedpolarized light. Note the strong kink band in the olivine porphyroclast. (e) Type I texture of Ichinomegata lherzolite (I729). (f) Lowtemperature type lherzolite from Onyama (ONY

127). (g) Depleted lherzolite with Type II texture from Ichinomegata (I708). Note a large kinked olivine pophyroclast (upper). (h) Strongly deformed harzburgite with Type III texture from Ninomegata (N06). The texture is similar to Type I of peridotite from Megata volcano. Note the small grain size compared with the Noyamadake peridotite. (i) Weakly kinked olivine in OkiDogo lherzolite (KRB42). Note the relatively large grain size. (j) Weakly deformed lherzolite from OkiDogo (KRBt1) with porphyroclastic texture.

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かんらん岩捕獲岩の記載岩石化学的性質 147

Cr#が0.25以下であり,タイプIIのスピネルCr#は0.25 0.40である。タイプIIIのスピネルCr#0.200.60と大き く変化する。含水鉱物が10%以上形成されている試料を 除き,含水鉱物の有無と主要元素組成との顕著な相関は見 られない (Figs. 4 and 5)。

(b) 単斜輝石の微量元素組成

一ノ目潟,黒瀬,野山岳,川下の一部の試料を除き,数 量的に大多数の試料の単斜輝石のREE組成は,LREEに枯 渇した左下がりのコンドライト規格化パターンを示す

(Fig. 6)。しかしREEパターンは産地毎,試料毎に多種多

様である (Fig. 6)。一ノ目潟,二ノ目潟の試料における二 次的角閃石の有無および量比と,単斜輝石微量元素組成と の顕著な相関は見られない。一方,岩石組織とREE ターンとは相関が見られる。目潟試料のタイプIでは,

LREEdepletedな左下がりのパターンを示し,それ以外の

試料では平らか左上がりのLREEenrichedパターンを示 す (Fig. 6ac; Abe et al., 1999)。また,野山岳の試料もプロ トグラニュラー組織を示すレルゾライトでは左下がり,か んらん石が著しく変形したポーフィロクラスティック組 織を示す試料では左上がりのパターンを示す (Fig. 6g)。全

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148 阿部なつ江・荒井 章司

般的に主要元素組成 (とくにスピネルのCr#) に多様性の ある産地の試料では,単斜輝石は多様なREEパターンを 持つ傾向がある。

試料の部分溶融程度を表すスピネルのCr#と単斜輝石 の微量元素との関係は,YbTiに関しては,ほぼメルト 抽出トレンド (Hellebrand et al., 2001) に対応しているが,

その他の元素,とくにLREE (および図には示していない

LILE) はメルト抽出を想定した変化とは異なっている

(Figs. 7 and 8)。LREEであるCeはスピネルCr#の如何にか か わ ら ず あ ま り 変 化 し な い (Fig. 7a)。単 斜 輝 石 の

LREE/HREE比 (CeYbのコンドライト規格化値の比)

も,Cr#の増加とともに不適合性が高いLREEが減るため に低くなるはずであるが,ほぼ一定かむしろ増加する傾向 がある (Fig. 7c)。また,ともにHFSEであるTi/Zr比もほぼ Fig. 3. Modal amounts of olivine, orthopyroxene and clinopyroxene in harzburgite and lherzolite xenoliths from the Japan arcs.

Fig. 4. Relationships between Fo of olivine and Cr# (= Cr/(Cr + Al) atomic ratio) of chromian spinel in mantle peridotite xenoliths from the Japan arcs. OSMA is the olivinespinel mantle array , a possible spinel peridotite restite trend (Arai, 1994). Modified from Abe (1997).

Fig. 5. Relationships between Na2O content of clinopyroxene and Cr# of coexistent chromian spinel in mantle peridotite xenoliths.

Legends are same as Figure 3. Abyssal and continental areas are after Arai (1991). Broken line, highNa and lowNa boundary approximated by the upper limit of the abyssal peridotites (Arai, 1991).

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かんらん岩捕獲岩の記載岩石化学的性質 149

100で一定している (Fig. 7f)。ZrTiよりも単斜輝石への 不適合性が高いため,単純なメルト抽出トレンドでは

Ti/Zr比はCr#の増加ととも明らかに増加する。

日本列島産かんらん岩捕獲岩中の単斜輝石の微量元素

組成を他のセッティングの上部マントルかんらん岩と比 較するため,Figure 8では海洋底かんらん岩および大陸地 域に産するスピネルかんらん岩捕獲岩のコンパイルデー タを示す。大陸地域の試料とは,広義のアルカリ玄武岩中 Fig. 6. Chondrite normalized REE patterns of clinopyroxene in the peridotite xenoliths from the Japan arcs. (a) to (c) for Megata samples. (d) to (h) for Southwestern Japan arc samples. (a) Type I of Megata peridotite with slightly deformed finegrained equgranular texture, (b) Type II of Megata peridotite with deformed and recrystallized porphyroclastic texture, (c) Type III of Megata peridotite with relativelly deformed porphy- roclastic texture, Note the difference and correlation between texture and REE patterns. (d) OkiDogo lherzolite, (e) Onyama lherzolite, (f) Kurose peridotite, (g) Noyamadake peridotite. Note the difference between lherzolite and harzburgite, (h) Kawashimo peridotite.

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150 阿部なつ江・荒井 章司

に捕獲されたスピネルかんらん岩試料である。コンパイ ルデータは,Abe (1997) やAbe et al. (1998a, 1998b) を参照 されたい。

5. 平衡温度

両輝石温度計 (Wells, 1977) を用いて求めたかんらん岩 の平衡温度をFigure 9に示す。傾向として,東北日本の試 料 の 方 が 西 南 日 本 の 試 料 よ り も 低 い 平 衡 温 度 (850〜

1050°C) を示す。西南日本の試料は,野山岳,川下,福江

島の高温型 (1050〜1250°C) と,男山,黒瀬,荒戸山,高島,

新宮の低温型 (950〜1150°C) およびその中間型の隠岐島 後 (1100〜1150°C) に分類できる。上述したように,高温 型と低温型では,岩石組織にも違いが見られる。プロトグ ラニュラー組織を示す試料は,高温型にのみ存在し,高温 型には低温型である目潟や男山試料に特徴的な細粒等粒 状組織は見つからない (Fig. 2)。

高温型が示す1200°C以上の平衡温度は,スピネルかん らん岩の安定領域ではソリダス直下の温度であると考え

られる。またざくろ石を含まないことから,その平衡圧力

20 kbar以下であると考えられ,この高温型が示す平衡

温度は,リソスフェア/アセノスフェア境界付近の温度で あると考えられる。このような高温状態では,輝石類は Al,Crなどに富み,クロムスピネル成分を多く固溶してい るため,個別の粒子 (モード鉱物) としてのクロムスピネ ルを含まない試料がしばしば存在する。

III. 議   論

1. マントルかんらん岩中の単斜輝石微量元素組成か    ら読み取るマントル過程 (総括)

議論の始めに,ここ十数年におけるかんらん岩の微量 元素組成に関する成果を特にin situ分析を中心にまとめ,

その上で島弧マントル捕獲岩の特徴について考察したい。

(a) かんらん岩記載岩石化学事始め

Salters and Shimizu (1988) では,世界各地産のスピネル かんらん岩中の単斜輝石は,その希土類元素濃度に対して Fig. 7. Relationships between Cr# of chromian spinel and trace element concentrations and ratios of the coexisting clinopyroxene in the peridotite xenoliths from Japan. The small letter n denotes the chondrite normalized value. Arrows are melt extraction trends estimated from abyssal perido- tite (Johnson et al., 1990; Hellebrand et al., 2001).

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かんらん岩捕獲岩の記載岩石化学的性質 151

期待されるTi,Zrの濃度が低く,負の異常を持っているこ とが報告された。彼らはその原因を,沈み込み帯を経験し ているマントルかんらん岩であるためと説明したが,これ に は す ぐ に 反 論 が 出 た。McDonagh et al. (1992) や Rampone et al. (1990) などは,かんらん岩中に単斜輝石と 平衡に共存する斜方輝石, クロムスピネルなどの方が,Ti, Zrをより適合して取り込み易いため,単斜輝石中に見ら

れるTi, Zrの負の異常は,共存する鉱物間の固体平衡反応

によるものであると指摘している。このような議論が可 能になったのも,その当時SIMSが地球科学の分野に導入 されはじめ,構成鉱物の化学組成が比較的容易に測定でき るようになったおかげである。このような議論を経て,単 斜輝石は,スピネルかんらん岩中に二次的に角閃石やメル ト (ガラス) が形成されていない場合に,Ti, Zrなどの

HFSEを除く主な微量元素 (主に希土類元素) の貯蔵鉱物 であるという結論に至った。そして,かんらん岩の部分溶 融過程を論ずる場合の主役として,insitu analysisによる 分析データが使われるようになった (Johnson et al., 1990;

Ozawa and Shimizu, 1995; Xu et al., 2000)。

一方,ざくろ石かんらん岩,斜長石かんらん岩において は事情が異なる。基本的にざくろ石―メルト間では,単斜 輝石―メルト間よりもHREEの分配係数が大きいため,ざ くろ石は急傾斜左下がりのREE patternを持つ。また,単 斜輝石よりもざくろ石の方が,よりTi, ZrなどのHFSE 取り込み易いため,ざくろ石は単斜輝石のような大きな負 Fig. 8. Relationships between (a) Ti and Zr contents, (b) Ti/Zr and

(Ce/Yb) n in clinopyroxenes in arc mantle peridotites. The small let- ter n denotes the chondrite normalized value. Their trend can be explained by a melt extraction process combined with pollution of melt/fluid. The simple melt extraction trend may be simulated by the trend of abyssal peridotites. Stars show the each concentrations and ratios of the calculated clinopyroxene composition from primi-

tive mantle. Primitive mantle is after McDonough and Sun (1995). Fig. 9. Histogram for calculated twopyroxene equilibrium tempera- tures (Wells, 1977) of mantle peridotites from the Japan arcs. N, number of samples. Data for (a) the samples from Northeastern Japan arc, (b) the samples from OkiDogo island, (c) the low tem- perature type samples from Southwestern Japan arc, (d) the high temperature type samples from Southwestern Japan arc.

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152 阿部なつ江・荒井 章司

の異常を持たない傾向にある。一方斜長石は,単斜輝石,

ざくろ石と比較するとREEがほとんど分配されないに等 しいのに対し,SrEuなど特定元素を取り込みやすい。

このような分配係数の差は,試料内での固相―固相分配 の違いをもたらすので,アルミニウム含有相がスピネルの

みのスピネルかんらん岩の場合と,斜長石かんらん岩,ざ くろ石かんらん岩の場合では,単斜輝石中の微量元素濃度 や元素比に違いが生じてくる。Rampone et al. (1993) が北 部アペニン山脈のExternal Ligurideに産するかんらん岩の スピネル安定領域から斜長石安定領域への相転移中にお Fig. 10. Relationships between (Ce/Yb) n versus Ti/Eu ratio of clinopyroxene for (a) the peridotite xenoliths from the Japan arcs. The small letter n denotes the chondrite normalized value. (b) for the modal metasomatised peridotite xenoliths from CarpatianPanonnian Basin (Vasseli et al., 1997), (c) for the peridotite xenoliths from Eifel, Germany (WittEickschen et al., 1993), (d) for the peridotite xenoliths from South Patagonia (Gorring and Kay, 2000), (e) for the peridotite xenoliths from Samoa islands (Hauri and Hauri, 1994).

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かんらん岩捕獲岩の記載岩石化学的性質 153

ける固相―固相分配について詳しく記述している。

(b) 海洋底かんらん岩中の単斜輝石微量元素の特徴 海洋底かんらん岩 (abyssal peridotite)と呼ばれる海域 から得られるかんらん岩は,主に大西洋やインド洋などの 低速拡大軸海嶺近傍の断裂帯からドレッジや掘削,潜航調 査によって得られたもので,海洋プレートの上部マントル 物質を代表するものとして重要なデータをもたらしてく れる。近年新たに太平洋東部のヘスディープにおける掘 削結果 (Dick and Natland, 1996など) や,フィリピン海のパ レスベイラ海盆などから報告されているOceanic Core Complex (Ohara et al., 2001, 2003) など,これまであまり知 られていなかった場所からも,海洋底かんらん岩が採取さ れ,記載岩石化学的研究が報告されている。ここではこれ までの 典型的 と考えられている海洋底かんらん岩の微 量元素組成についての一般的な特徴をまとめたい。

Johnson et al. (1990) では,南西・南東インド洋の主に中 央海嶺断裂帯に露出している海洋底かんらん岩試料中の 単斜輝石の微量元素を,SIMSを用いて測定し,主要元素,

モード組成等のデータと共に検討した。その結果,海洋底 かんらん岩は,基本的にスピネル安定領域での分別溶融作 用により中央海嶺玄武岩 (MORB) を抽出した後の融け残 り物質であると考えると都合がよいことが分かった。さ らに,NMORBと融け残りかんらん岩とは化学平衡に無 く,NMORBはマントル中で約0.1%程度毎に溶融した メルトが抽出される段階的分別溶融によって出来たメル トの集積として説明可能であることも明らかになった。

Johnson et al. (1990) は,始源的かんらん岩から単純にメル トを抽出するこのモデルを確立した。

さらにHellebrand et al. (2001) では,これら海洋底かんら ん岩の構成鉱物の主要元素組成と微量元素濃度との相関 を定量的に検証するため,スピネルかんらん岩で最も良く 用いられる部分溶融程度 (もしくはメルト抽出程度) の指 標であるクロムスピネルのCr/(Cr + Al) 原子比 (= Cr#) と,

それと共存する単斜輝石の微量元素濃度との相関を調べ た。Hellebrand et al. (2001) によると,単斜輝石中の微量元 素の特徴として,適当な不適合性を持つ元素 (例えばYb

などのHREE) は,スピネルのCr#と非常に良い相関を示

し,一方で不適合性が高い元素 (例えばCeなどのLREE) ほど相関が悪い傾向があることを明らかにし,LREE

Cr#とのfittingの悪さを,メルト抽出後の交代作用の影響

が強く現れているためと考えた。ここでも話を単純化す るために,斜長石が形成されているサンプルは議論から除 外している。

(c) 大陸産かんらん岩捕獲岩の特徴

大陸地域でもキンバーライト以外のいわゆる玄武岩質 マグマ中のマントル捕獲岩は,数カ所の例外を除いて,基 本的にすべてスピネルかんらん岩である。これは玄武岩 質マグマがマントルで生成・分離する深度と深い関係があ ると考えられる。つまり,たとえ冷たくて厚いリソスフェ アが存在していても,玄武岩質マグマが分離する深度は,

せいぜいスピネルかんらん岩の安定領域以浅であること を示している。また厚くて冷たいリソスフェアが,暖かい アセノスフェア物質の上昇によって薄化していることも 考えられる (例えばO Reilly and Griffin,1985)。

微量元素組成を見てみると,大陸産マントル捕獲岩の 形成は,海洋底かんらん岩のように単純なメルト抽出モデ ルでは説明できない。というのも始源的かんらん岩より も,LREEやその他の微量元素濃度が高い場合がごく一般 的であるからである。さらに詳しく述べると,明らかなマ ントル交代作用を示す角閃石などの二次鉱物が形成され ていない試料でも,モード組成や主要元素組成でより枯 渇しているはずのハルツバーガイトの方が,より肥沃なレ ルゾライトよりもLREEに富む傾向がある。これは REE パラドックス (Frey and Prinz, 1978; McDonough and Frey, 1989),ま た は cryptic metasomatism (隠 れ た 交 代 作

) (Dawson, 1984) などと呼ばれている。大陸産かんら

ん岩捕獲岩は,全岩でも単斜輝石中でも,コンドライト値 で規格化したLREE/HREE比が1よりも小さいサンプル (Kempton,1987によるType Ia) よりも,この比が1以上 のサンプル (Kempton,1987によるType Ib) がより一般的 であり,大陸産かんらん岩捕獲岩は,ほぼ例外なくほとん どすべてが,何らかの cryptic metasomatism を受けてい ると考えられる。

(d) マントル交代作用

上記で説明した cryptic metasomatism は,大陸産マン トル捕獲岩に限らず,海洋底以外で我々が入手できるマン トルかんらん岩の多くに見られる。このような微量元素 組成の特徴をもたらすメカニズムについては,記載岩石 学,化学分析,そして数値計算等により検討されてきた。

例えばOzawa and Shimizu (1995) では,東北日本の宮守か んらん岩体の形成プロセスを説明する為に,かんらん岩中 の単斜輝石および角閃石の微量元素をSIMSで測定し,鉱 物モード組成変化を考慮したモデル計算を行った。そし て彼らは,宮守かんらん岩の形成過程は,Johnson et al.

(1990) で提唱されているような単純なメルト抽出過程で は説明できず,系の外からメルトが加わりつつかんらん岩 が融け,新たなメルトを抽出するという開放系の部分溶 融 (Open system incremental bach melting ) モデルで説明さ れることを示した。さらにOzawa (2001) ではこれを改良 し,部分融解におけるメルト抽出過程を再現するマスバラ ンス計算式を提案した。この計算式を用いることにより,

現時点で観察される多くの上部マントルかんらん岩の微 量元素濃度は説明できる。

上述のような交代作用を与えたメルトもしくは流体な どの媒体 (metasomatic agent) をより詳しく分類するため に,様々な化学組成プロットが行われてきた。Coltorti et al. (1999) などでは,シリケイト質メルト (または流体) と カーボナタイト質メルト (またはCO2流体) の大まかな分 類に成功している。カーボナタイト・メルトは,LREE SrなどのLILEに非常に富んでいる一方,HREETi, Zr

(12)

154 阿部なつ江・荒井 章司

などのHFSEに枯渇している。もしかんらん岩がカーボナ タイト交代作用を被っていれば, HFSE (HREE)/LREE は 非 常 に 小 さ い は ず で あ る (Rudnick et al., 1993など)。

Coltorti et al. (1999) では,コンパイルしたかんらん岩捕獲 岩試料中の単斜輝石の微量元素組成から,だいたいTi/Eu

< 1500且つ (La/Yb) n > 34 (小文字nはコンドライト規格 化したことを表す) の試料はカーボナタイト交代作用

(カーボナタイト・メルトかCO2流体) の影響を受けてお

り,一方Ti/Eu > 1500且つ (La/Yb) n < 3の試料はシリケ イト交代作用 (シリケイト・メルトかH2O流体) を受けてい ると考えた。Figure 10は,Coltorti et al. (1999) のコンパイ ル図を改良し,より多くの公表データを反映することが出 来るように,LREE/HREE比を (Ce/Yb) n比にしたものであ る。これらを見ると,シリケイト交代作用を受けているパ ノニアン地域の試料 (Fig. 10b) と,カーボナタイト交代作 用 を 受 け た と 考 え ら れ る ド イ ツ・ア イ フ ェ ル (Witt Eickschen et al., 1993),パタゴニア (Gorring and Kay, 2000),

サモア諸島ツブアイ (Hauri et al., 1993) の試料は明瞭に区 別されるのが分かる。日本列島のかんらん岩捕獲岩 (Fig.

10a) は,多少カーボナタイト交代作用の影響の可能性を示 唆する試料があることは否定できないが,基本的にシリケ イト交代作用で説明できることが分かる (Fig. 10a)。

Coltorti et al. (1999) でコンパイルした試料の多くは,産 地毎にカーボナタイト交代作用かシリケイト交代作用の どちらか一方の特徴を示す。しかしいくつかの産地から の試料は,両者の中間的な特徴を持ち,区別が出来ない。

カーボナタイト交代作用とシリケイト交代作用の両方の 特徴を持つかんらん岩の形成過程について考察した例と し て,Laurora et al. (2001) が 挙 げ ら れ る。Laurora et al.

(2001) では,南パタゴニアのアルカリ玄武岩中に産する カーボネイトを含むかんらん岩捕獲岩についての詳しい 記載岩石化学的研究を行った。その結果,そのような二種 類の交代作用媒体は,次に示すような多段階の交代作用・

分解反応によって形成されると考えた。1) まず,スラブ 由来のシリケイト・メルトがウエッジマントルに流入し,

そこで角閃石などの含水鉱物を形成する。2) 次に,先に 生じた含水鉱物が閉鎖系で分解し,周囲と反応しながらメ ルトを形成する。3) 形成されたメルトは,温度圧力条件 の変化から液相不混和を生じ,シリケイト・メルトとカー ボナタイト・メルトに分離し,二種類のメルトを生じる。

またMorishita et al. (2003) は,フィネロ (イタリア・アル プス) にあるフロゴパイト角閃石含有かんらん岩体中に,

アパタイトに富む薄相が二次的に形成されているのを発 見し,その成因についてLaurora et al. (2001) と同様の多段 階形成モデルを考えた。このように,カーボナタイト交代 作用の影響とシリケイト交代作用の影響の両者が見られ るかんらん岩の例は,近年複数報告されている (Neumann et al., 2002など)。

2. 日本列島下のリソスフェア・マントル実体

上述のように,海洋底かんらん岩は,基本的に始原的な

マントルかんらん岩を部分溶融して単純にメルトを抽出 した時のトレンドを示しており (Johnson et al., 1990),一方 大陸産マントル岩捕獲岩は,様々な程度・種類のマントル 交代作用を被っていると考えられる。Figure 8を見ると,

日本列島産マントル捕獲岩は,海洋底かんらん岩が示すメ ルト抽出トレンドと,大陸産マントル捕獲岩が示すマント ル交代作用トレンドの中間的な特徴を示すことが分かる。

また日本列島産マントル捕獲岩は,大陸産マントル捕獲岩 ほどの化学組成の多様性は見られないことが分かる。

日本列島産のマントル捕獲岩は,組織や平衡温度の多 様性にもかかわらず,共通したシリケイト交代作用の特徴 を示している。少なくとも微量元素組成を見ると,時代な どタイミングは不明だが,LREEに適度に富んだほぼ同様 な組成のシリケイトメルトが日本列島下のマントル全域 に流入し,流入と同時に部分溶融が起こりメルトを抽出し ていく過程でリソスフェアを形成していったと考えられ る。この過程で,島弧下マントルへ流入するメルトと抽出 されるメルトの化学組成の均衡が保たれ,溶け残りマント ル中の単斜輝石のTi/Zr 比を100程度に制御されたと考え られる (Fig. 8)。また,野山岳や川下などでみられるアセ ノスフェアに匹敵するような平衡温度をもつ高温型のマ ントル捕獲岩 (Fig. 9) は,ウエッジマントルを上昇してき たマントル上昇流が,リソスフェアに底付けされた直後の マントル物質であると考えることができる (Abe et al., 2002)。

これら日本列島直下のリソスフェア物質を代表してい るマントル捕獲岩は,日本列島の火成活動を反映している と考えて良いであろう。スラブ直上のウエッジ側では,沈 み込むスラブが充分温かい場合,スラブ上の堆積物から カーボネイト成分が付加されることが予想される。ウ エッジマントル内では,カーボナタイト交代作用が起こっ ていてもおかしくない。しかしFigure 10を見ても明らか なように,日本列島からカーボナタイト交代作用影響がほ とんど無いことは,日本列島を構成する地殻上にカーボナ タイトマグマの噴出が見られないことと整合的である (Abe et al., 2002)。

目潟の試料で特に顕著に見られる岩石組織と鉱物化学 組成の関係は,より強い変形を受けているかもしくは再結 晶の進んでいるマントルかんらん岩 (タイプII及びIII) ほ ど,部分溶融程度が高く,LREEenrichmentを受けている ことを示している (Fig. 6ac)。このような相関は,LREE

enrichmentを与えた交代作用媒体がマントル中に流入する

ことと同時に,部分溶融が起こり,また同時に鉱物の再結 晶を進めるか,場合によっては試料を変形させるような応 力がかかった状態で,交代作用媒体が流入し,メルト抽出 が進行している可能性を示唆している。一方,Arai et al.

(2004) では,フィリピン・バタン島イラヤ火山に産するか んらん岩捕獲岩の微細構造と鉱物組みあわせ及び鉱物化 学組成の関係を詳細に記載しており,含水メルト/流体流 入のタイミングが議論されている。その結果,イラヤ火山

(13)

かんらん岩捕獲岩の記載岩石化学的性質 155

のかんらん岩捕獲岩が示すCtype (粗粒タイプ) 組織のマ ントルかんらん岩中に交代作用媒体 (メルト/流体) が流入 し,鉱物化学組成を変化させつつ,Ftype (細粒タイプ) 組織のマントルかんらん岩へと微細組織も変化させてい ることを突き止めた。このように試料の微細組織と化学 組成とを組みあわせた研究は,島弧下マントルウエッジ に,どのようなタイミング (温度圧力条件下) でどのよう な部分に交代作用媒体が流入するのか知る上で非常に有 効である。

目潟火山のかんらん岩捕獲岩に関して,含水鉱物の形 成と変形および微量元素のenrichmentを起こした交代作 用との関連は,イラヤ島かんらん岩捕獲岩ほど明らかでは ない。今後ここに挙げた記載岩石化学的情報を元に,さら に試料の構造解析を行うことで,日本列島下リソスフェ リック・マントルの構造発達史に関する理解をより深める ことができるであろう。

IV. ま と め

かんらん岩のような粗粒な岩石試料の研究には,岩石 記載と化学組成とを対応させることのできるin situ分析機 器は大変有効である。特にppmときにはppbの濃度まで 微量元素を測定することができるSIMSLAICPMS 用いることにより,岩石学の分野の研究は飛躍的に進みま た日々進歩し続けていると言えよう。

ここにまとめたマントルかんらん岩の記載岩石化学的 研究データから以下のことが言える。

1) 日本列島のマントル捕獲岩の形成は,他の地域から 得られるマントル捕獲岩と同様に,海洋底かんらん岩のよ うな単純なメルト抽出モデルでは説明できない。日本列 島産のマントル捕獲岩は,たとえモードの交代作用を受け ていなくても,部分溶融中のメルト抽出と同時に交代作用 メルトまたは流体が流入し交代作用を与えているような 開放系の部分溶融作用 を被っていると考えられる。こ のようないわゆる 隠れた交代作用 は,マントル捕獲岩 にはテクトニックセッティングを問わず一般的に見られ る現象である。

2) 日本列島産マントル捕獲岩が受けた交代作用は,シ リケイトメルトによる交代作用の特徴を示し,島弧マグ マ (おもにソレアイト〜高アルミナ玄武岩) のような,中

程度にLREE, LIILEに富んだ交代作用物質の関与と調和

的である。 LREE/HREE比が非常に高く,Ti/LREE比が著 しく低いカーボナタイト・メルトが関与しているものはほ とんど見られない。

3) 日本列島のマントル捕獲岩の記載岩石化学的研究か ら,その組織と鉱物化学組成には明らかな相関があること が分かった。このような相関は,応力が掛かった状態の上 部マントル中でメルトまたは流体が流入しつつ部分溶融 作用が起こり,同時に変形・再結晶などの現象が進んだた めと考えられるが,より詳しい検討が必要である。

謝 辞 微量元素測定は東京工業大学圦本尚義博士に 大変お世話になり,同大学理学部所有のSIMSを使用し た。主要元素組成の測定に際して東京工業大学高橋栄一 博士にお世話になった。マッコーリー大学O Reilly博士な

らびにGriffin博士にはマントル捕獲岩の記載岩石化学に

関する議論をしていただいた。本論文に使われた日本列 島産マントル捕獲岩の多くは,荒井研究室の歴代卒業生に よって採取された。特に平井寿敏博士 (産業総合研究所) の貢献は大きい。茨城大学松影香子博士と金沢大学森下 知晃博士には,丁寧に原稿を査読して頂き,有益なコメン トを頂いた。以上の方々に厚く感謝する。

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参照

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