三重大学教育学部研究紀要 第
67
巻 教育科学 (2016)169
-174
頁1.はじめに
本研究では、子どもの成育と健康度に関する研究と して、これまで
5
,6歳の幼児を持つ保護者を対象に 質問紙法による調査を行い、2014年に子どもの社会 性の発達について1)2)、また、2015年には運動能力と の関係による視点に立ってその研究結果3)を随時公に してきた。今回は、幼児の基本的生活習慣の獲得状況 や友達を含む幼児の遊び環境の現況を把握し、報告す るものである。2.方法と目的
本研究は今回、幼稚園及び保育所に通う
5
,6歳児 を持つ保護者を対象に質問紙4)による調査を行い、主 に保護者による援助なしに、子ども自身で自立に必要 とされる基本的な生活習慣の獲得状況を尋ね、その達 成状況(割合)の結果を考察することとした。このことにより、子どもの成育過程による自立の現 況を理解し、年々変容する幼児期の子どもの発達状況
の傾向を把握して、今後の幼児教育、保育の内容や方 法を検討するための基礎資料となることを目的として いる。
調査対象とした施設の選定方法は、倫理的配慮の上、
この研究の目的や方法に同意され、協力に承諾いただ いた幼稚園
5
園(北海道、埼玉県、大阪府、静岡県、三重県内の各
1
園ずつ)と、保育所5
か所(北海道、東京都、静岡県、岐阜県、大阪府内の各
1
か所ずつ)の計
10
施設で、その保護者493
名より回答を得た。調査期間は
2012
年9
月から10
月に実施している。また、本研究は大阪成蹊短期大学の研究倫理の審査 を受け、承認されている(2012年)。
3.結果と考察
本研究では、文末に(表
1
)として幼児の基本的生 活習慣に関する27
の項目について、その項目ごとに、1
.あてはまる(「とても」を含む)、2.あてはまらな い(「全く」を含む)、3.どちらともいえない、の3
つに分類する方法でその結果を、またそれ以外の28
子どもの成育と健康度に関する研究Ⅲ
― 基本的生活習慣の獲得 ―
須永 進 * ・青木 知史 ** ・堀田 典生 ***
AStudyonGrowthandHealthofChildrenI I I SusumuS U U N N A A G G A A ,SatoshiA O O K K I I ,NorioH O O T T T T A A
要 旨
本研究では、これまで子どもの成育と健康度の視点から、社会性、運動といった各発達面に焦点をあて、報 告を行ってきた。今回は、5,6歳児の幼児の基本的生活習慣の獲得や遊び環境などの現況を把握し、考察す ることを目的に調査を行った結果、幼児の成育に必要とされる生活習慣に関する項目のうち、6割弱から
9
割 以上までその獲得率に幅広い差が認められたが、全体的には一部の項目を除き、後退傾向がみられた。また、成育と健康に関係する遊び環境では、テレビ視聴時間が減り、1人から
2
人の少数で室内遊びをする子どもが3
割強いることが明らかになっている。キーワード:子どもの基本的生活習慣、遊び環境、テレビ視聴
*
三重大学**
大阪成蹊大学***
中部大学から
34
の項目については同じ(表1
)のような分類・表記している。
1)生活習慣の獲得状況
この(表
1
)では、今回の調査のうち、5,6歳の幼 児がどの程度、基本的生活習慣を獲得しているか、そ の割合を示しているが、それぞれの項目については、この(表
1
)を参照していただくとして、ここでは、獲得状況の割合が多い項目(上位
5
つ)をあげると、次の(図
1
)になる。今回の調査に限っては、「ひとりでトイレができる」
割合が
465
人で、全体の94. 3
%と、ほぼ全員に近い 幼児がひとりでできるという結果になっている。また、「あてはまらない」(ひとりでできない)幼児は、わず かに
7
人(1.4
%)であった。次いで、「起床時、ひとりで着替えられる」442人
(89.
7
%)と高い割合を示している。以下、「習慣的に手洗いができる」が
422
人(85.6
%)、「テレビを消すように言うと、従う」は、411人
(83.
4
%)、また、「自分からあいさつができる」は、373
人(75.7
%)などが、他の生活習慣の項目に比べ て、高い割合を示している。その反対に、低い割合の項目としては、以下の(図
2
)の通りである。それによると、生活習慣の獲得の割合が低い項目と しては、まず「食事の準備や後片づけができる」が今 回 の 調 査 項 目 の う ち で 一 番 低 く 、 全 体 で
287人
(58.
2
%)であった。また、「ひとりで起きられる」もほぼ同じ程度の低い割合
288
人(58.4
%)で、次いで「決められた時間に寝られる」は
294
人(59.6
%)と いう結果である。この結果から、幼児がひとりでできる生活習慣のう ち高い割合が示されたトイレや着替え、手洗い、あい さつについては、家庭だけでなく、日中の多くの時間 を過ごす幼稚園や保育所での生活を通して保育者から 指導を受け、その習慣を身につけていく機会が園児に あることがその一つの要因と考えられる。またその反 対に、食事の準備や後片付けやひとりで起きる、決め られた時間に寝られるなどは、どちらかというとそれ ぞれの家庭でのしつけや教育と深い関係があると仮定 すると、家庭での養育姿勢や子育て方法が少なからず 影響している結果の表れと、いえるかもしれない。
なお、この結果を現代の幼児の一つの傾向とみると、
その変容について考察を進めていく必要があるだろう。
その試みとして、同様の内容を調査した先行研究5) と比較することにした。
次の(図
3
)は、今回の調査を行った2012
年より12
年前(2000年)の、他の機関による調査結果6)を 参考に比較したものである。これによると、生活習慣に関して、例えば「トイレ がひとりでできる」幼児の割合は、
12
年前に比べ、やや増加している反面、手洗い、歯磨き、決まった時 間に食事、おやつを食べるという項目は軒並み低下し ていることがわかる。
また、幼稚園、保育所などの集団保育については、
「楽しんでいる」幼児の割合は微増がみられるが、精 神的な発達面では「人を思う気持ち」(相手を思いや る気持ち)に関して、14%程度減少している。
上記の結果については、家庭や保護者の価値観の変 化に加え、養育姿勢、子育て観の変化など、がその要 因のひとつと考えられる。
もちろん、この二つの調査が同じ条件で実施された わけではないため、単純に比較検討をすることは避け
94.3%
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89.7%
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85.6%
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2012ᖺ 2000ᖺ
るべきであるが、12年間という時間の経過による生 活習慣の獲得の状況や幼児の精神面における変容につ いては、その一端を伺い知ることはできるものと思わ れる。
2)幼児の遊び環境と友達関係の現況
次に、子どもの成育と健康に欠かせない遊びについ て回答を得ている。今回の質問項目のうち、遊びに関 しては、以下の(図
4
)の結果となっている。この図の結果からわかるように、5,6歳の幼児期 の子どもにとって遊びは仲間づくりや集団で遊ぼうと する意向が強く、7割(67.
5
%)近い幼児にそうした 傾向がみられた。また、その遊びでは同じ年齢集団で 活動する幼児の割合が約2
人にひとり(47.9
%)とい う結果になっている。これは、幼稚園や保育所の多く が、年齢別クラス編成が行われていることや、降園後 に地域の年齢の異なる子どもたちと遊ぶ機会が少なく なっている今日的な遊び環境に少なからず影響を受け ていることが考えられる。続いて、約20
%から30
% 台である「家の中で遊ぶ」「ひとりで遊ぶ」「体を動か さない遊びが多い」については、現在の幼児を取り巻 く遊び環境を示す典型的な結果といえる。このような調査結果をふまえると、次のようなこと が指摘できよう。
まず、幼児自身は遊びを通して他の子どもたちと友 達関係やコミュニケーションをとりたいという想いが 感じられる一方、実際には同じ年齢の子どもを中心に、
家の中で、主に
3
人から4
人ないしは1
人から2
人程 度の友達と体を動かさない遊びに興じるか、あるいは 一人で遊ぶ幼児が少なくないという現況があると、この調査結果から理解できる。
このことから、これまでの他の調査7)でも指摘され てきたように、今回も子ども、特に幼児に限っては、
遊びが比較的少人数で、家の中でどちらかというと体 をあまり動かさない遊びか、ひとり遊びが中心になっ ていることが推測される。遊びが子どもの心身の豊か な成育に大きな役割を果たしているという点から、こ の結果は由々しき状況にあると言っても過言ではない かもしれない。
この遊びに関係のあるテレビ視聴についても今回は 調査を行っている。
その結果については、次の(図
6
)に12
年前の状 況と比較するために併記している。グラフの上段が今 日(2012年時点)で、下段が12
年前(2000年)の結 果8)となっている。これをみると、12年間の間にテレビ視聴の時間数 に大きな変化のあることに気付かされる。すなわち、
テレビ視聴時間の減少という傾向が、今回の調査から 明らかになった。
この
12
年間という時間的経過の中で、そうした変 化をもたらす何らかの要因を指摘するとすれば、次の 点が考えられる。まず、幼児のテレビ離れが進んできたのではないか、
ということである。その背景として考えられるのは、
テレビに替わるもの、すなわちゲーム機器の普及が一 つの背景と考えられる。幼児を対象としたソフトや機 器が多数出回るようになり、家庭内外で容易に興じる ことができるようになったためではないだろうか。
このことは、パソコンやタブレットといった多様性 のある機器の出現にもあてはまる。
また、テレビを視聴する場合、今回の調査結果でも 明らかのように、「テレビを消すようにいうとそれに 従う」子どもが全体の
8
割以上(83.4
%)いることか ら、視聴時間への保護者の教育やしつけの影響も、そ うした背景にあることが推測される。このように、幼児期の子どもとテレビの関係をみる と、この
12
年間に大きな変化が現れているといえる。子どもの成育と健康度に関する研究Ⅲ
67.5%
67.5%
47.9%
47.9%
30.8%
30.8%
24.3%
24.3%
19.7%
19.7%
95.1%
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17.1%
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2012ᖺ 2000ᖺ
かつて、テレビの功罪が叫ばれ、子ども、とりわけ幼 児にとってのテレビ視聴のあり方が問題になった時期 から今日に至る時間的スパンの中で、次第にテレビと 距離を置くようになった半面、それに替わる高次化す る電子機器への移行で、幼児の遊びや成育にどのよう な影響が及ぶのか、注視していく必要がある。
3)その他の項目
今回の調査は、5,6歳児という就学を控えた幼児 がその対象になっているため、質問項目にそうした内 容が含まれている。すなわち、就学後の学習に結び付 きのある、文字や数字、記号等に関する質問がそれで ある。例えば、「日常生活で使われる文字や数字、記 号などに興味がある」「日常生活で使われる文字や数 字、記号などがわからないときは、自分から聞いてく る」「日常の生活の出来事や興味・関心のあることを 進んで話す」などである。具体的な数値は、資料の表 を参照していただくとして、ここでは、その傾向から 次のことを指摘することにする。
今回の調査により、上記の質問への回答で該当する 割合がそれぞれ
85
%から90
%程度と、高い割合を示 している点である。小学校入学を控えているということがその主因であ ることは疑いないが、これまでみてきた生活習慣に関 する項目のうち、獲得の割合が低いものが少なからず みられたことを考えると、幼児の成育あるいは健康面 で危惧される結果とはいえないだろうか。
言い換えると、就学後、小
1
プロブラムと呼ばれる 課題に直面している今日の小学校教育にあって、こう した基本的生活習慣の獲得との関係は、直接的ではな いと断言できるかどうかである。この点については、さらなる調査研究を待つことに したい。
4.まとめ
以上のように、今回の調査で、幼児の基本的な生活 習慣について、それぞれの項目ごとに差がみられたが、
なかでも生活習慣が身についている割合が
6
割程度と いう項目もいくつかみられた。こうした項目の獲得率 は、年々変容が予想されるが、家庭の養育や幼稚園、保育所といった集団生活との関連を無視することはで きない。例えば、トイレがひとりでできる割合を、
2000
年次と12
年間後の2012
年次の推移をみると、わずかながら増えている。しかしながら、その反面、
手洗い、歯磨き、決まった時間での食事、おやつといっ た習慣は、減少している。また、精神面では、「人を 思う気持ち」に関しては、15%程度減少している。こ
うした変容をどうみるか、さらなる分析を要するが、
子どもの生活習慣の変化の他、子どもと日常的に接す る保護者や保育者など人的かかわりの様態も影響があ るとみるのであれば、この点の検討も今後の課題とい える。
また、友達関係や遊び環境にもその特徴がみられた。
調査対象となった
5
,6歳児では、友達を交えた遊び 志向が高いことが認められるが、今回もそうした傾向 が明らかになる反面、室内で少数あるいはひとりで、あまり体を動かない遊びも
2
割から3
割程度いること が判明している。最後に、本研究では、これまで幼児の社会性の発達 や運動に関する調査結果を公表したが、今回は、生活 習慣の現況(獲得状況)や一部精神面での発達などに ついて分析・考察を行った。
今後は、この
3
つの調査結果を軸に、それぞれがど うのように影響し合っているのか、クロス集計等によ り分析を行い、子どもの望ましい成育と健康度につい て、さらなる考察を進めていく必要がある。参考・引用文献
1 )青木知史、須永
進、堀田典生「子どもの成育と健康度 に関する研究I
―社会性の発達を中心に―」『大阪成蹊短 期大学研究紀要』第11
巻通巻第51
号2014
、p1~92 )青木知史、須永
進、堀田典生「子どもの成育と健康度に関する研究
I
―社会性の発達を中心に―」日本保育学 会第66
回大会発表要旨集2014
、p4693 )堀田典生、青木知史、須永
進「子どもの成育と健康度 に関する研究I I
―子どもアクティビティ尺度を用いた検 討―」日本保育学会第67
回大会発表要旨集2014
、p3894 )質問紙については、「子どもの成育と健康度に関する研
究
I
―社会性の発達を中心に―」『大阪成蹊短期大学研 究紀要』第11
巻通巻第51
号2014
に掲載されているの で、参照のこと。5 )6 )7 )8 )日本小児保健協会「平成 12
年度幼児健康度調 査報告書」2001本稿の調査結果については、2015年
5
月に行われた日本 保育学会第68
回大会で研究発表(ポスター)を行っている。発表内容については、発表要旨集
2015 (CD版)を参照のこ
と。子どもの成育と健康度に関する研究Ⅲ
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