論文の内容の要旨
氏名:渥 美 渉
専攻分野の名称:博士(医学)
論文題名:急性非代償性心不全患者における予後予測としての血漿バソプレシン値と血漿ノルアドレナリ ン値を組み合わせた評価方法
【背景】
血漿バソプレシン(arginine vasopressin: AVP)と血漿ノルアドレナリン(noradrenaline: NA)を組み合わ せた評価法が急性非代償性心不全(acute decompensated heart failure: ADHF)患者の予後に関連するとい う報告は、これまでに存在しない。本研究の目的は、ADHF生存退院例において、この2つのバイオマーカ ーを組み合わせた評価法が予後予測のリスク層別化として有用か否かを評価することである。
【方法】
対象は2008年4月1日から2012年3月31日の期間に、ADHFで川口市立医療センター心臓集中治療室 (coronary care unit: CCU)に入院をし、入院時に血漿AVP値、血漿NA値の測定を行い、生存退院した患者 とした。治療に協力が得られなかった患者、透析患者は除外対象とした。エンドポイントは慢性期心事故 の発生(心臓突然死または心不全増悪による再入院)とし、血漿AVP値、血漿NA値、さらに両者を組み合わ せた評価法と、慢性期予後との関連を検討した。
【結果】
対象患者数は291例で、観察期間の中央値は487日であった。心事故は全症例の41例(14%)に発生した。
心事故発生群は非発生群に比較し、血漿AVP値[中央値(25/75パーセンタイル): 26.4 pg/ml (9.1/90.0) vs.
15.5 pg/ml (3.6/52.2), p = 0.014]、血漿NA値[中央値: 2347pg/mL (1297/4352) vs. 1524 pg/mL (963/2583), p = 0.007]は有意に高値であった。Cox比例ハザードモデルを用いた多変量解析では、血漿AVP高値群(第2 三分位値-最大値: 3T )と血漿NA高値群( 3T)はそれぞれの低値群(最小値-第1三分位値: 1T )と比較し、ハ ザード比2.97 (95%信頼区間: 1.06-7.24, p = 0.038)、3.34(95%信頼区間1.21-9.26, p = 0.023)であった。血 漿AVP高値かつ血漿NA高値を示す集団(Group H)は、血漿AVP低値かつ血漿NA低値を示す集団(Group L) に比較し、ハザード比は3.50 (95%信頼区間1.17-10.42, p = 0.017)であった。
【結果】
ADHF 入院時における血漿AVP値と血漿NA値の上昇は、慢性期の心事故発生と関連する可能性が示 唆された。これら2つのバイオマーカーを併せて評価する方法は、ADHF生存退院患者の予後予測に有用 であると考えられた。