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中学校の儀式的行事における校長講話の構成に関する実践的研究(2)

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中学校の儀式的行事における校長講話の構成に関する実践的研究(2)

―校長職3年目の校長講話―

伊 藤 裕 康

1 はじめに

 前稿(1)の伊藤(2019)では,附属学校長の1回目の任期が終わる校長職2年目までの儀式的行 事における校長講話の実際と構成方法の概要について述べた。そこで,本稿(2)では,伊藤(2019)

を受け,まず,筆者の校長職二期目の初年度である校長職3年目の儀式的行事における校長講話の 実際と構成の概要について述べる。その上で,筆者の3年間の儀式的行事における校長講話の構成 について考察を進める。最後に,効果的な校長講話の構成方法のあり方を考えてみたい。

2 校長職3年目の儀式的行事における校長講話の実際とその構成方法の概要

(1) 始業式での校長講話の実際とその構成について

 校長職3年目では,校長職2年目に試みた新入生がいち早く学校になじむための布石をさらに進 めてみた。それが,以下に載せる始業式での校長講話である。

困難は分割して顔晴ろう(2014/04/07)

  今日の話はしっかり聴き,自分の言葉で後ほど1年生に話してあげて下さい。

  生きていく中で,私たちは様々な摩擦に会います。摩擦は誰しも嫌なことと思いますよね。

では,摩擦は悪いことばかりでしょうか。2月は全国的に記録的な大雪となり,車がしばしば 立ち往生する光景をテレビで見ました。タイヤと地面との摩擦があるから,車は前に進みます。

タイヤと地面との摩擦が車を前に進ませるように,生きていく上での摩擦は自分を前へ前へと 導いてくれる,私たちを成長させてくれるものではないでしょうか。

  ⑥-1これを見て下さい(白地に黒で分と書いた紙を出して)何と読みますか。(分という声が挙 がる。)分割するの分ですね。(白地に白で分と書いた紙を出して)では,これは何と書いてあり ますか。(白,なにもないという声が挙がる。)「白」,「なにもない」。実は,こちらも分と書いて あります。なぜ,同じように分と書いてあるのに,こちら(白地に白で分と書いた紙)はそう読 めないのでしょう?それは,こちらは白い紙の上に白色で書いてあるからです。こちらは黒色で 書いてあるからよく読めるわけです。新横綱が誕生した相撲は勝つと白星,負けると黒星と言い ます。結婚式でしめるのは白いネクタイ,葬式でしめるのは黒いネクタイ。白色は良いこと,黒

香川大学教育学部 社会科教育講座

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色は悪いことに使われる色です。⑥-2美術の好きな人なら分かると思いますが,絵画では光だけ でなく影(陰)1)も大切です。光は白色でもあり,影(陰)は黒色でもあります。我々の世界はど うも白,いいことだけではだめなようで,黒,いやなことも必要みたいです。

  ⑥-3こんな実験がありました。一つのグループは好きな時に起きて,好きな時に食べて,好き な時に寝ます。今ひとつのグループは,いつも通りを生活します。今日はもう少し寝たいと思っ ていても定刻に起きるのです。さて,どうなったでしょう。好きな時に好きなようにしたグルー プの方がテストの結果が悪くなりました,つもり馬鹿になったのです。

  ⑦-1これを生きていく上での摩擦と関わらせるとどうなりますか。生きていく上で,希望だけ ではだめ,患難や苦難も必要となるのではないでしょうか。⑦-2聖書に,「それだけではなく,患 難をも喜んでいる。なぜなら,患難は忍耐を生み出し,忍耐は錬達を生み出し,錬達は希望を生 み出すことを,知っているからである。」2)という言葉があります。患難や苦難とは摩擦や困難等 のことです。患難は,最後は希望を生み出すというのです。⑦-3希望の希はまれという意味です。

まれなことを望むのが希望です。摩擦や困難があってなかなか実現できそうにないからまれであ り,その実現を望むことが希望です。だから,⑦-4希望が実現したら大変嬉しいのです。摩擦や 困難を乗り越えた人は一回りも二周りも成長しているはずです。

  患難は最後には希望を生み出すとしても,とても大きな困難に出くわして希望を持てない,

失望に終わりそうと思う時があります。そんな時,どうしたらいいでしょうか。皆さん,大きな ステーキを食べる時,どうしますか。ステーキを自分の口の大きさに合うよう,ナイフとフォー クで切ってから食べますね。有名な哲学者のデカルトが「困難は分割せよ」と言いました。直面 する大きな問題を,自分の口の大きさに合うよう切ってからステーキを食べるように,自分が処 理できる大きさまで分割して小分けにするのです。大きな困難でも分割して一つ一つ乗り越えれ ば,摩擦や困難は自分を育ててくれる機会となります。しかも,その先に希望と成長が待ちかま えています。もし,大きな困難にあったら,自分が解決できる小さな困難にまで分割して克服し ていってください。

  これで,私の話を終わりま,せん。2013年度の修了式で,自由と規律の話をしました。自由 の自は自分,由は由るであり,自分で考え,自分で判断しより良く行動できることが自由でした ね。人には様々な事情があり,それぞれ違って当たり前です。「どうして同じようにできないん だ」などと自分の気持ちや自分の都合だけを考えると,自分勝手な判断となりそうです。そうな ると,人を憂うこと,人を思いやることがなくなっていきます。それこそ摩擦ばかりうみ,人と 協同して物事を創り上げることが難しくなります。人と協同して物事を創り上げる時,人には 様々な事情があり,それぞれ違って当たり前であることを頭に入れて判断して下さい。人と協 同して物事を創り上げることに授業があり,特に皆さんがイメージしやすいのは,クラスも学年 も違う様々な人が一つのチームとなって目標に向かって協同して物事を創り上げる

CAN

や部活 でしょう。

  皆さんには本当に優秀な人になってもらい,新1年生とともに本校の校風である「自由と規 律」をより確かなものにする2014年度であってほしいです。そのための準備を春休みにするよう お願いしました。準備は整っていますか?

  これで,私の話を終わります。

 ①のように,筆者は,「頑張る」と書かず,「顔晴る」と書くようにしている。生徒たちにもその ように日頃から言っている。「頑張る」は,頑なに張ると書く。頑張り過ぎると,とかく人は,頑 なになりがちである。そうなれば,えてして善意の第三者の助言にも耳を傾けず,肩肘張ってしま

(3)

うことにもなりかねない。事態を良くするどころか悪くしてしまう。それより,がんばった先に顔 が晴れ晴れする方が良いという意味合いから,「顔晴る」という字をあてている。

 昨年度の始業式は,入学してくる新1年生に校長講話を伝えなくてはいけないという姿勢づくり を新2・3生にさせずに,ただ,その後に新2・3生が新1年生に伝えることとなる一つの

C

の話を 語ってしまった。その反省から,②のように,後で新1年生に校長講話を伝えるためにしっかり聞 くという構えをつくらせようとした。昨年度試みた,新入生がいち早く学校になじむための布石で ある,新1年生と新2・3生との校長講話を介した語らいがより深まるよう強化したものである。

 ③では,摩擦は悪いことばかりかと問いかけ,考えさせるとともに,その後の話を集中して聞く 姿勢を持たせようとした。大雪で車が立ち往生しているという最近のホットな話題を取り上げ,タ イヤと地面との摩擦があるから車は前に進むという④から,生きていく上での摩擦は自分を成長さ せてくれるものではないかと,⑤の投げかけをした。だが,まだ,生徒たちの心に落ちていないと 思った。そこで,⑥のような出をした次第である。⑥は三つの事例で構成した。⑥-1は,まず,

より話に集中させようと,実物提示から忌み嫌われがちな黒色が必要不可欠な色であることを捉え させようとした。⑥-2は,⑥-1をさらに美術の観点から,我々の世界には影(陰)や黒に象徴 されるようないやなことも必要であることを述べた。⑥-3は,ある実験から,人は,嫌なことに 立ち向かわないで好き放題に生きていては堕落してしまうことを示した。

 ⑦では,⑥で示したことを生徒の生き方に落とし込もうとした。⑦-1で,まず,「これを生き ていく上での摩擦と関わらせるとどうなりますか。」と問いかけた後,「生きていく上で,希望だけ ではだめ,患難や苦難も必要となるのではないでしょうか。」と結論づけた。これだけだと,校長 が勝手なことを言っているとなる。そこで,続く⑦-2と⑦-3によって,「生きていく上で,希 望だけではだめ,患難や苦難も必要となる」ことを補強した。⑦-2は,聖書の言葉から,患難が やがては希望へと繋がっていることを述べた。⑦-3では,希望と言う言葉自体を解いて,摩擦や 困難があってなかなか実現できそうにないから,希望が生まれることを述べた。そして,⑦-4 で,摩擦や困難があってなかなか実現できそうにない希望が実現したから喜ぶのであり,人は成長 すると結論づけた。

 ⑧と⑨は,摩擦や困難があるから希望が生まれると言われても,困難にぶち当たって希望を持つ どころではないと思う時にどうすべきかを示した。大きなステーキの食べ方という身近な事例から デカルトの言葉「困難は分割せよ」に繋げ,大きな困難は,自分が解決可能な程度に分割して克服 することを示した。しかも,大きな困難の克服の先に希望と成長が待っていることを述べた。

 ここまで語ってきて,そろそろ終わりそうだと思う生徒もいそうであった。まだ,語りたいこ とがある。そこで,生徒を再度集中させ,残されたメッセージをしっかり受け取ってほしいと思 い,⑩のような出をした。⑪では,2013年度修了式式辞の自己再話と,この始業式後にもたれる入 学式の式辞に繋げることを考えた。筆者は,校長による全校へ向けての授業が校長講話だと考えて いる。例えは悪いが,筆者は教職志望学生に「授業は,ころころしている兎の糞のように前に学ん だことと後に学ぶことが繋がっていないのは駄目。健康な人がするうんちのように繋がっているこ とが大切です。」と話している。全校へ向けての授業ならば,校長講話ごとの繋がりが問われよう。

⑪には,新2・3生が,始業式で聞いたことと後述する入学式式辞の仲間と励みあって大活躍でき るAKB48ならぬ

AKB120の内容とを,一人でも繋げて考えてくれたらという願いがある。⑫も入学

式式辞との繋がりをねらっている。⑫の人と協同して物事を創り上げることは,後述する入学式の 囲った①の「CANは,既存の研究グループに皆さんが選んで加わり,共に学んでいきます。2・3 年生と交わる学習により,新入生の皆さんの不安がさらなる希望とやる気にかわるでしょう。自分 の得意とすることややりたいことも発見できるでしょう。2・3年生の皆さん,新入生の不安が皆

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さんの優しさでやる気に変わり,希望がふくらむよう力を貸してください。」に繋がっている。

 ⑬のように呼びかけたのは,香川大学教育学部附属坂出中学校(以後附属坂出中学校)の生徒の 中には,将来「ノブレス・オブリージュ」(noblesse oblige)3)とでもいうべき精神が求められる者が いると,かねてより思っていたことがある。恵まれた環境にいる有り難さを,是非知ってもらいた いと思った。

(2) 入学式(2014/4/8)での校長講話の実際とその構成について

 校長職3年目にもなると,入学式では必ず話しておくべきであると思われる筆者なりの定番の内 容が固まって来た。それが,括弧の①と⑩である。翌年度の2015年入学式式辞では,囲った内容は 必ずふれた。その上で,2015年度に特に心がけたいことを組み込み,入学式式辞を構成した。

 ①新入生の皆さん,ご入学おめでとう。皆さんを本校生徒としてお迎えできることをうれし く思います。希望と不安を胸に入学されたであろう皆さんに,中学校生活で大切と思うことと 本校がどんな所かを,まずお話しします。

 ①-1中学校時代は,自分が得意とすることややりたいことを発見することが大切です。子ど もから大人になる途上にあるのが中学校時代です。大人になるため自分は何が得意か,本当は 何をしたいか,自分自身を理解するために毎日の中学校生活があります。これが小学校時代と の大きな違いです。

 自分自身を理解するにはどうすればよいでしょう?それは何事も自ら一生懸命取り組むこと です。勉強に部活動に,友達関係に一生懸命取り組むことです。先生から教わるだけでは何が 得意か分かりません。自分から取り組むことで,分かることと分からないこと,できることと できないことが本当に分かります。本当に分かったことは自分のものになり忘れません。先生 から教わって身につけたことは忘れることがあります。一生懸命取り組んだことは思い出とな り,いい加減に行ったことの多くは忘れ去られます。

 ①-2本校では,皆さんの得意,興味,学習スタイル等に着目した学習を進め,自分を探る場 があります。教科学習である共通学習を踏まえ,1年生から3年生まで合同で学ぶシャトル学 習や

CAN

があります。徐々に生徒の皆さんが主体となるシャトル学習。①-3

CAN

は,既存の 研究グループに皆さんが選んで加わり,共に学んでいきます。2・3年生と交わる学習により,

新入生の皆さんの不安がさらなる希望とやる気にかわるでしょう。自分の得意とすることやや りたいことも発見できるでしょう。2・3年生の皆さん,新入生の不安が皆さんの優しさでや る気に変わり,希望がふくらむよう力を貸してください。

  新入生の皆さん,皆さんには本校の

AKB

になってほしいと思います。

  まず

AKB

Aは,憧れを持とうの A

です。憧れの人,もの,こと,を見つけて,その人のよ うになるよう顔晴ろう,そのものが手に入るよう顔晴ろう,そんなことができるよう顔晴ろうと 顔晴っていくうちに,より大きく成長することでしょう。ちなみに,私のがんばろうは,いつ も顔が晴れ晴れするように顔晴ろうと書きますから,そのつもりでこれからは聴いていて下さ い。

  ⑤-1

AKB

のKは,希望を持ち続けようのKです。ギリシャ神話にパンドラの箱の話があります。

開けてはならない箱をパンドラが開けてしまうと,箱から全ての悪が世の中に飛び出しました。

それは,病気,悪意,妬み,憎しみ,偽善,保身,悲しみ,飢え,暴力,狂気等,ありとあらゆ る災いです。あわてて蓋を閉めると,希望だけが残りました。東日本大震災から立ち上がった 人々を見ても分かるように,人は災いから生き残ることはできても希望なしに生きることはでき ません。

(5)

  ⑤-2ソチオリンピックのフィギュアスケートショートプログラムでまさかの16位となった浅田 真央選手は,たった一晩で別人のように素晴らしいフリースケーティングを披露し,驚きと感動 が広がりました。浅田選手がなぜこのような力を出すことができたのでしょう。⑤-3一昨年度ま で附属坂出小学校長をしておられ,臨床心理学がご専門の○○○○先生は,この3月の附属坂出 小学校の卒業式で,先生なりにこのことを分析され,思考力の力が大きいと言われました。「ど うしてこうなったのだろう」と一晩かけて考えるうちに,「そうだな」,「なるほど」「そうか」と 思い,それが希望となって浅田選手を強めたと言うのです。

  アラゴンの詩に,「学ぶとは誠実を胸に刻むこと,教えるとはともに希望を語ることである。」

という言葉があります。この詩の言葉のように,本校が皆さん生徒と教員がともに希望を語り合 う学校となるよう,努めていきましょう。

  ⑦-1

AKB

B

は,B級を心にとめようの

B

です。B級は二流という意味があります。なぜ,わ ざわざ一流でない

B

級を心にとめようというのでしようか。それは,最近はB級グルメが人気を 集め,まちづくりにも一役かっているように,⑦-2恐るべしB級だからです。けっしてB級は侮 れません。阪急電鉄創設者の小林一三は,「下足番を命じられたら,日本一の下足番になってみ ろ。そうしたら,誰も君を下足番にしておかぬ」4)と言いました。ほとんどの人は「格好良い高 校」に行き,ゆくゆくは「格好良い仕事」に就きたいと思っているでしょう。しかし,全員がその 望みを果たせるわけではありません。そんな時に腐ったら終わりです。どんな場所に置かれて も,日本一,いや世界一をめざし顔晴れば,つまりスーパーB級になれば,その先はやがて望み の「格好良い仕事」が待っているはずです。

  ⑧-1以上紹介したAKBは,仲間と励みあってこそ大活躍できるものです。⑧-23月に行われた卒 業生を送る送別芸能祭で2年生の先輩は「魔法をすてたマジョリン」という劇を演じる中で,仲 間と「喜びも悲しみも半分こ」することをうったえました。附属小学校以外から1/3の人が進 学し新しい友が増え,1年生120人が揃いました。これからは「喜びも悲しみも半分こ」しながら 進み,新しい友である「新友」から親しい友である「親友」へと絆を深めていってください。「親友」

にまで絆が深まれば,古代ローマの政治家で哲学者であるキケロの言葉であり,⑧-3一昨年の附 属坂出小学校卒業式の答辞で,今の2年生の○○さんが述べた「友達は喜びを2倍にし,悲しみ を1/2にしました」となるはずです。⑧-4こうなれば皆さんは,AKB48ならぬAKB120となるは ずです。

  さて,顔晴っていても大きな困難にぶち当たって気持ちが萎えることもあります。大きな問 題にぶちあたって途方に暮れることがあるでしょう。そこで,もう一つ紹介したいBがありま す。それは,これ(白地に黒で分と書いた紙を示し)です。読めますか。分割するの,分ですね。

始業式で2・3年生に話しました分割の

Bです。後で,2・3年生は1年生に自分の言葉でこの B

について教えてあげてください。1年生の皆さん,遠慮せず先輩達に聞いて下さい。きっと優し く教えてくれますから。

 ⑩保護者の皆様,本日は誠におめでとうございます。今後3年間,皆様のご期待にこたえる べく,私ども教職員一同,誠心誠意全力を尽くし教育にあたる所存です。学校と家庭が一つに なってこそ教育の成果は期待できます。ご協力とご支援を賜りますようお願い申し上げます。

 最後になりましたが,ご臨席を賜りました香川大学教育学部長○○○○様,松韻会会長○○

○○様をはじめとしたご来賓の皆様に心から厚くお礼申し上げますとともに,本年度も引き続 きご指導を賜りますようお願い申し上げ,入学式の式辞といたします。

 括弧①の内容は,①-1は①-2は,小学校時代と比べての中学校時代の特性と違い,そして附

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属坂出中学校はどんな所かを述べ,まずは不安を取り除こうとした。合わせて,中学生になったと いう思いをより持たせたいと思ったものである。なぜなら,附属坂出中学校は隣にあると言って良 いほど近くの香川大学教育学部附属坂出小学校(以後附属坂出小学校)から2/3が進学して来て おり,他の中学校に比べ新たに中学校に来たという雰囲気が持つことが難しいと,筆者には感じる からである。①-3は,①-2で述べた「得意,興味,学習スタイル等に着目した学習を進め,自 分を探る場」としての

CAN

があることを示すとともに,2・3年生には新入生との交わりを深め,

新入生の不安をやる気に変えて希望がふくらむように力を貸してほしいと依頼したものである。さ らに,2・3年生にとっては,前述したように始業式の⑫の人と協同して物事を創り上げる大切さ の話が入学式の①-3に繋がってくることをねらった。これは,大切と思うことは,切り口を変え 何度も語るという筆者の姿勢を示している。①-3のように,入学式式辞は,決して新入生だけの ものではないと考えている。

 2014年度の入学式式辞の中心となるメッセージは,その当時最も芸能界で話題にのぼっていた 人気グループ名をもじった②の「本校の

AKB

になってほしい」ということである。定番の①をした 後,「本校の

AKB

になってほしい」と新入生に語りかけた。新入生は少なからず「附属坂出中学校

AKB

になるって何のこと?」と思ったはずである。新入生が集中して聞く構えをつくろうとし た。AKB

Aは,③の憧れを持って顔晴る憧れの A,K

は⑤の希望を持ち続ける希望のK,Bは⑦

-1の

B

級を心にとめるB級の

B

である。④は,筆者なりの「がんばる」の使い方である「顔晴る」

を,いち早く理解してほしいと思い語った。講話が長くなることを避けたこともあるが,あえてな ぜ「顔晴る」と書くかの説明はしなかった。それは,説明しないことで,なぜ「顔晴る」と書くのか と疑問を持たせられれば,その理由を担任や先輩に質問する機会が増えると考えたからである。そ うなれば,対話が広がると考えた次第である。

 ⑤-1では,ギリシャ神話のパンドラの箱のことと東日本大震災から立ち上がった人々の様子を 繋げ,希望を持ち続ける大切さを語った。それだけでは今一つピンと来ないだろうと思い,⑤-

2,⑤-3と,当時話題となっていたソチオリンピックの浅田真央選手の不屈の「顔晴り」を取り 上げ,希望を持つ大切さを語った。しかも,浅田選手が不屈の「顔晴り」が出来た理由を,⑤-3 のように,臨床心理学が専門であり,附属坂出小学校長を2012年度まで勤めた

Y

氏が,正しく2/

3の新入生が実際聞いていた卒業式で語った,思考力が希望となり浅田選手を強めたという言葉を 紹介した。

 ⑥のアラゴンの詩を紹介したのは,当然希望繋がりのことである。それに加えて,校長講話は子 どもだけに向けて語るものではなく,教職員にも向けて語るものであるという考えからでもある。

 これから希望溢れる中学生生活がスタートするのに,⑦-1のように「B級を心にとめよう」と語 りかけることは,多くの者に奇異を感じさせよう。良く授業ではズレを活用するとか認知的不均衡 を活かす大切さが言われる。校長講話は全校に向けての校長の授業であるならば,校長講話でもこ のことに心がけたいと思った。さらに,附属坂出中学校特有の事情を勘案してのものである。それ は,⑦-2の「ほとんどの人は『格好良い高校』に行き,ゆくゆくは『格好良い仕事』に就きたいと 思っているでしょう。しかし,全員がその望みを果たせるわけではありません。そんな時に腐った ら終わりです。どんな場所に置かれても,日本一,いや世界一をめざし顔晴れば,つまりスーパー

B

級になれば,その先はやがて望みの『格好良い仕事』が待っているはずです。」というフレーズと 係わっている。附属坂出中学校の保護者や生徒の中には,卒業後は地域一番の進学校

M

校に進む ことを望む者が少なくない。M校に進学することが当然という雰囲気がないとも限らない。このよ うなことが親子にプレッシャーをもたらしていないかと感じていた。それに,M校に進学できたと しても,決してその後が決まりはしない5)。無理してM校に進学しても,ついていけなかったらか

(7)

えってあだとなりかねない。高等学校進学で不本意な結果となったとしても,進んだ先で精一杯顔 晴ること,どこに行っても置かれたところで顔晴る大切さを分からせたいと思った。加えて,この 話しを聞いている2・3年生に,少しでも心の余裕を持たせたいと思った次第である。

 ⑧は,それまで述べてきた

AKB

が,仲間と励みあってこそ実現できることを述べた。仲間と励 みあう大切さは,⑧-2で,卒業生を送る送別芸能祭で先輩の2年生が,仲間と「喜びも悲しみも 半分こ」することをうったえた劇を演じたことから,「喜びも悲しみも半分こ」しながら新しい友で ある「新友」から親しい友である「親友」へと絆を深めてほしいと語った。そして,⑧-3のように,

「親友」にまで絆が深めれば,古代ローマの政治家で哲学者でもあるキケロの言葉で,先輩の2年 生の代表が一昨年の附属坂出小学校卒業式答辞(2/3の新入生は4年生時に聞いている)で述べ た言葉「友達は喜びを2倍にし,悲しみを1/2にしました」に繋げ,⑧-4のように「AKB48なら ぬAKB120となるはずです」と結んだ。

 ⑨は,始業式式辞での内容を新入生と2・3年生との交流促進に活用しようとねらったものであ る。始業式でも提示した「分」の紙を示したのは,式辞も後半に入り,集中力が落ちてきているだ ろうと予測し,再度集中力を喚起させようとしたものである。

 括弧⑩では,保護者への入学祝いの挨拶と今後3年間の学校への協力と支援をうったえた。式辞 の最後は,臨席した来賓へのお礼の言葉と今後の指導を依頼した。最後の⑩に位置づけた来賓の挨 拶は,多くの校長講話では冒頭に置かれる。だが,この位置づけには,筆者は不満があった。前 稿(1)でも述べたことであるが,希望と不安を胸に抱き入学して来るのが新入生なのである。な らば,彼ら彼女らの不安をいち早くとくのが校長講話の役目ではなかろうか。そうであるなら,な ぜ,新入生のお祝いに駆けつけて来られた来賓への挨拶を冒頭に位置づけるのか?来賓の方々も,

新入生の不安を除き,入学を祝いたいという思いは同じであろう。新入生ファーストで考え,ま ず,新入生の不安を解消する内容を冒頭に位置づけるべきだと考えたのである。

(3) 前期終業式での校長講話の実際とその構成について

 前期終業式での校長講話である。前期中に上手くいかなかった者も少なからずいよう。その生徒 たちを少しでも鼓舞することを考えたものである。

「希望は失望に終わらない」6)(2014/10/3)

  「こんにちは」。最近,香川大学構内でこの言葉を高校生からかけられました。礼儀正しい高 校生だなと思っていたら,本校の卒業生でした。私は,「こんにちは」を聞くと,つい最近まで やっていた「花子とアン」の「ごきげんよう」を思い出します。花が通っていた学校は「ごきげん よう」で溢れていましたが,本校は「こんにちは」です。ともに素晴らしい学校だと思います。「こ んにちは」が溢れるなかで前期を終えることが出来てうれしく思います。

  さて,前期が終わる今日は何の日でしょうか。1990(平成2)年10月3日,東ドイツと西ドイ ツが再統一した日です。ドイツには憲法がありません。憲法なんか無くても困らないと思う人 もいるかもしれませんね。でも,法律違反を判断する一番の基準は憲法です。憲法は皆さんの生 活と本当は密接に結びついています。このことは,○○先生や○○○先生が3年生の社会科で教 えていただけることでしよう。

  では,ドイツは憲法がなくて困らないのでしょうか。実は,ドイツは憲法と言わずに基本法 と言っています。なぜでしょうか。それは,1949(昭和24)年に基本法が作られた時,西ドイツ の人たちが,東ドイツと西ドイツが統一されるまでの「過渡期の憲法」とみなしたからです。 時ヨーロッパでは,アメリカとソ連の対立があり,ソ連の影響下にあったドイツ東部の市民,つ まり東ドイツの人たちは,この基本法の策定に加われませんでした。「基本法」という言葉その

(8)

ものが,ドイツの分断という厳しい現実を表わしていました。今も朝鮮半島は朝鮮民主主義人 民共和国つまり北朝鮮と大韓民国に分かれています。ドイツも第二次大戦後長らく東ドイツと西 ドイツに分かれていました。1949年に起草された基本法の前文には,「ドイツ西部の州の国民 は,これは西ドイツの人々のことです。起草に参加できなかった人々をも,つまり東ドイツの人 たちのことですね,代表して基本法を作った。全てのドイツ人は,自由な決定によってドイツの 統一と自由を達成するよう努力しなくてはならない」とありました。これを読むと,東西ドイツ 統一が,ドイツ国民の悲願だったことが分かります。統一式典ではベートーヴェンの交響曲第 9番「合唱付き」が演奏されました。第4楽章は「喜びの歌」と呼ばれる力強い合唱で,最も有名 な曲です。まさしく,希望した待ちに待った東ドイツと西ドイツの統一,分断の解消でした。だ から,「喜びの歌」なのです。こんなに早く東西ドイツが統一できるとはドイツ人も思っていな かったですし,世界中のほとんどの人が思っていなかったと思います。アメリカとソ連の対立は それほど厳しく,統一は困難と思われていました。でも,ドイツの人々は希望を持ち,あきら めなかったのです。

  私は,入学式で

AKB

の話をしました。Kは,希望を持ち続けようの

Kでしたね。あの時,東

日本大震災から立ち上がった人々を見ても分かるように,人は災いから生き残ることはできても 希望なしに生きることはできない,この道は続いていると思い続け,努め続けることで,希望が 叶うのではというようなことを話しました。

  希望を持ち続け努めていけば,いつか叶うのではないでしょうか。この前,3年生は,学長 先生からお話を伺いましたね。学長先生の話された根を四方八方に広く張って倒れない大木のよ うに,苦しくて希望なんか持てるかと思う冬の時は,根を広く張る土台づくりに心がけて下さ い。前期に努力したのに思うように結果が出なかった人,それはやり方が悪かったのかもしれ ません。そうなら,やり方を変えなければいけません。あるいは,まだその時ではなかったのか もしれません。そうなら,さらにやり続けることです。いつまでも続く冬はありません。根を張 る努力をしておれば,時がおとずれた時大きく実がみのることと思います。後期が始まるまで に少し時間があります。この時に,やり方が悪かったのかどうか,いややり方が悪くはなかった がまだ努力が足りなかったのかと,前期を反省して下さい。希望をあきらめてしまうから叶わな いのです。希望を持ち続けて努力し続ければ,いつかは叶います。世界で一番読まれている本 には,「希望は失望には終わりません」という言葉があります。

 ①は,大学構内で高校生から筆者が「こんにちは」と挨拶され,それが附属坂出中学校の卒業生 だったことから,卒業後も附属坂出中学校での挨拶をしっかりする良き気風を忘れずに実践してい る先輩の姿を紹介したものである。②は,当時少し前まで放映され,好評を博した朝ドラの主人公 が通学していた「ごきげんよう」が溢れる学校のことから,①のことと繋げ,附属坂出中学校が「こ んにちは」で溢れていることに気づかせたいと思ったものである。

 筆者は,しばしば講話当日に起きた歴史上の出来事などを緒にして,校長講話を構成した。それ が,③である。前期が終わるこの日は,ドイツ統一の日だった。そこで,希望を持ち続け努めてい れば,いつか希望は叶う例として,ドイツ統一を取り上げた。まず,④では,ドイツには憲法がな いことを述べた。憲法など無くても困らないと思う生徒もいるかもしれないと思い,憲法と我々の 生活との関係について少しだけふれた後,3年生の社会科での憲法学習に繋げる試みをしてみた。

そして,⑤で,ドイツは憲法がなくて困らないのかと問うた。一呼吸を置いてからドイツは憲法に 当たるものがないのではなく,憲法と呼ばすに基本法と呼ぶことを述べた。その後,畳みかけるよ うに,ドイツでは憲法と呼ばすに基本法と呼ぶのはなぜかを問うた(⑥)。この問いは,知らなけ

(9)

れば答えられない。講話への生徒の集中を持続させるためのものであるから,直ちに答えを告げる ことにした。基本法が作られた当時,西ドイツの人たちが,ドイツ統一までの「過渡期の憲法」と みなしたから基本法と呼んでいることを話した(⑦)。冷戦が終了して暫く経過してから生まれた 生徒たちである。当時の世界の情勢が分からない者も多いと思い,⑧のように,簡単に当時のヨー ロッパの情勢からソ連影響下の東ドイツの人たちが,基本法策定に加われなかったことを話した。

しかし,まだ,冷戦下のドイツ分断という厳しい現実は,生徒たちは十分には理解できないと思え た。そこで,今も北朝鮮と大韓民国に分かれる朝鮮半島の分断にふれた(⑨)。基本法の前文から,

東西ドイツ統一がドイツ国民の悲願であり(⑩),それだけに,統一式典では第4楽章は「喜びの歌」

と呼ばれる合唱があるベートーヴェンの交響曲第9番が演奏され,正しく「喜びの歌」となったこ とを話した(⑪)。ドイツの人々は希望を持って,あきらめなかったことが,ドイツ統一を生んだ

(⑫)。今から思えば,やがて来る統一を信じ,ドイツの人々はナチスドイツのようなヨーロッパの 脅威には二度とならないことを世界の人々に理解してもらおうと,世界やヨーロッパに向け信頼回 復の努力を国を挙げて続けてきたことを補足すべきだったと思う。ただ,これを話すには,様々な 事例を挙げながら話す必要がある。そうなれば講話が長くなる7)。そこで,第二次世界大戦後のド イツの信頼回復の様々な試みが分かる補足資料を用意し,担任に配布してもらうよう手だてをとれ ば良かったと思う。そうすれば,担任が校長講話を再話する機会ともなったはずである。

 ドイツの人々が希望を持ち続けたことがドイツ統一を生んだ⑫を受け,⑬以下は,入学式での

AKB

の希望を持ち続けようの

Kに係わる,少し視角を変えた補足である。⑭は,附属坂出中学校

での学長講話の希望と係わる再話である。⑮と⑯では,後期が始まるまでに,前期に努力したと思 うのに結果が出なかった者に,それはやり方が悪いのか,努力の蓄積が足らずに成果が出ないのか 自問し,やり方を変えたり,さらにやり続けることを説いた。そして,⑰で,世界で一番読まれて いる本である聖書の言葉,「希望は失望には終わりません」を引いて講話を結んだ。

(4) 後期始業式での校長講話の実際とその構成について

 前期終業式の校長講話では,希望を持ち続け努力し続けることを説いた。そこで,後期始業式で は,希望を持ち続け努力し続けるための武器のとして本をあげてみた。読書の秋も意識はしてい る。

生き延びるための武器を手にとろう(2014/10/7 後期始業式)

  「おはようございます。」と言うより,「こんにちは」が本校には似合いますかね。大変気持ち のよい日に後期が始まることを嬉しく思います。先週の金曜日は,後期生徒会役員候補者の立 会演説会と前期終業式でした。私は,生徒会役員選挙がある度に思い出すことがあります。中 学校2年生の時の生徒会役員選挙のことです。クラスから推薦され生徒会役員に立候補したF と私は仲が良く,少なくとも私は彼とは友人だと思っていました。私はF君が役員に最適と思 い,彼を応援しました。クラスの皆に推薦され立候補したにもかかわらず,彼は自分に投票しま せんでした。たまたま,彼が他の人に投票するのを見てしまいました。彼にしてみれば,立候補 したくもなかったのにクラスの皆に推薦され,仕方なく立候補したのかもしれません。彼は当選 しました。当選したし,いらぬことを言えば友情にひびが入らないか,私は大変迷いました。し かし,友人と思っていましたので,彼の行為はクラスの皆の信頼を裏切ることで,すべきではな かったと言いました。以来,彼との仲は疎遠になってしまいました。

  役員選挙に立候補した皆さん,附属坂出中学校を思っての立候補,誠に立派です。立候補し ても当選するとは限らず,それなりのリスクを引き受けての立候補です。ご苦労様でした。どの 演説も工夫を凝らした立派なものでした。後期生徒会役員も決まり,今日から後期が始まりま

(10)

す。前期終業式では,希望を持ち続け努力し続けることをお願いしました。そこで,希望を持 ち続け努力し続けるための武器を一つ紹介します。それは,本です。

  岡敦著(2011)『強く生きるために読む古典』集英社新書では,一風変わった本の読み方を紹介 しています。岡さんは,「生きること,日々の生活を繰り返すこと,ただそれだけのことが,ぼ くにはとてもつらい」そうです。⑤-1生きることがつらい岡さんが生き延びてこられた武器が本 でした。マルクスの『資本論』。これは,本来は資本主義社会の様子や法則を明らかにした本で す。岡さんは「意思の疎通が難しい状況での対話の進め方」の本,つまり話の分からない人々を どう分らせるかを説いた本と捉えています。岡さんは言います。

   ⑤-2マルクスは「~として現われる」と書いている。そして,その「現われ」を前提にして,話 を進めようとしている。同じように文末に注意して第一章を読んでいくと,「~として現われ る」「~のように見える」「~として表現される」といった書き方がたくさん出てくることに気 づく。なぜだろう。なぜマルクスはそんな書き方をするのだろう。

   ⑤-2亡命中の思想家マルクスは,いつだって無理解に悩む少数派だった。境遇はもちろん,

価値観だって社会観だって人間観だって独特だった。⑤-2おそらく周囲の誰とも話が噛み合わ なかっただろう。だから彼は「資本主義とは,コレコレこういうものだ!」と⑤-2自分固有の見 方を全力で相手の顔の真ん中にぶつけるような言い方はしない。それは一瞬の爽快感をもたら すかも知れないが,和解不能の意見の相違を際だたせて,後には埋めようのない断絶を残すだ けだから。マルクスは,ひとまず自分の主張を控える。心の底では納得してないけれど,周囲 の人々の見方や意見を「とりあえず認め,みんなのルールに沿って議論を進めることにする。

(中略)

   ⑤-2まず,周囲の人々の見方に乗り,その延長上で矛盾を明らかに示し,最終的に否定する。

断絶を避け,周囲に合わせながら,ついには自分の意見を納得してもらうのだ。

   ⑤-2これが話が通じない相手となおも対話を進めるためのマルクスの方法だ。

  ヘーゲルの『小論理学』は,弁証法を述べた本です。岡さんは次のように分かりやすく弁証法 を説明します。(1)ボクは,目覚ましにコーヒーを飲もうと思いました。(2)しかし,「健康の ために牛乳を飲むべきだ」と妻に言われ,どうすべきか悩みました。(3)結局カフェオレにした ら,目も覚めたし,体にもよかったです。最後は,ぼくの希望と妻の意見両方の「良いとこ取り」

をしたベストの結果になりました。弁証法とは,(1)目覚ましにコーヒーを飲もうという一つ の意見があり,(2)「健康のために牛乳を飲むべきだ」という妻の反対意見が出て対立し,どち らが正しいか迷い,(3)対立する意見を統合して,第3のカフェオレを飲もうというより優れ た意見にしていくという思考法です。⑦-1岡さんは,このような弁証法の捉え方も十分分かった 上で,ヘーゲルの『小論理学』を,次のように,ぼくらを未知の世界に誘う思考法の本と捉えて います。

   展望が見えないとき,先が見えないときに,ぼくたちは「もう限界だ」と思う。

   破壊の予感に恐怖したり,諦めたりする。

   しかし,弁証法は,そんな態度を許さない。

   「もう限界」だと思うのは,その地平の限界に過ぎない。

   今,ここにいるときは見えないが,この地平の果て,その限界の先には,必ず新しい別の世 界がある。

(11)

   今,この,どうしようもない「ここ」から,別の,より広い,より高い地平に行くときが必 ず来る。

   そこへジャンプすれば,今は見えていないものが見えるようになって,今ぶつかっている問 題などを容易に解決できるようになる。

   ⑦-2新しい発想は,今ここの延長上ではなく,全く新しい地平,予想外の新展望上に生まれ てくるのだ。

   ⑦-2だから今は,全力で,行けるところまで行け。そうすれば,この地平の果てで,次の地 平へジャンプできるはずだ!

  ⑦-3いくらやっても結果が見えない時,人間誰しも限界と思ってしまいます。岡さんは,弁証 法はそんな態度を許さないというのです。まだ限界なんかじゃないという反対意見が出されま す。限界と言えるほどやったのかとも言えますね。どんどん陸を歩き続ければ,やがては海に出 て,新たな世界がひらけるように,「地平の果て,その限界の先には,必ず新しい別の世界があ る。」というのです。限界と言えるところまでやり切れば,その先が見えるということです。だ から,「今は,全力で,行けるところまで行け。そうすれば,この地平の果てで,次の地平へ ジャンプできるはずだ!」となるのです。この話,この前私が話しました「苦しくて希望なんか 持てるかと思う冬の時に,根を張る努力をしておれば,時がおとずれた時大きく実がみのる」と どこか似ていませんか。

  岡さんは,自分が必要とすることに引きつけた本の読み方を教えてくれます。これからは読 書の秋。勉強に加え,是非生き延びるための武器である本にも親しみましょう。生涯での良書と の出会いは何よりかえ難い貴重な出会いです。

 ①は,前期終業式の校長講話①に続くものである。②は,筆者の中学校2年生時の生徒会役員選 挙の思い出から,生徒会役員に立候補することの負担をそれとなくふれたものである。これは,次 の③への布石である。③では,立候補しても当選するとは限らず,それなりのリスクを引き受けて の立候補であること,どの演説も工夫を凝らした立派なものであったことにふれ,特に役員選挙落 選者への配慮を込めた立候補全員へのねぎらいである。

 前期終業式での校長講話,希望を持ち続け努力し続けることを受け,④では,希望を持ち続け努 力し続けるための武器を一つとして本を示した。その実際として,生きることがつらい岡さんが生 き延びる武器として本を活用している様を紹介した。⑤-1と⑤-2は,岡さんが,マルクスの

『資本論』から見つけ出した「まず,周囲の人々の見方に乗り,その延長上で矛盾を明らかに示し,

最終的に否定する。断絶を避け,周囲に合わせながら,ついには自分の意見を納得してもらう」と いう「話が通じない相手となおも対話を進めるためのマルクスの方法」を紹介した。弁証法と言わ れても中学生には難しい。そこで,⑥のように,紹介した本から分かりやすい弁証法の説明を引用 した。⑦のように,岡さんは,弁証法を十分分かった上で,ヘーゲルの弁証法を説いた『小論理学』

を,「ぼくらを未知の世界に誘う思考法の本」と捉えることを紹介した。そして,「地平の果て,そ の限界の先には,必ず新しい別の世界がある。」のだから,「今は,全力で,行けるところまで行け。

そうすれば,この地平の果てで,次の地平へジャンプできるはずだ!」というメッセージは,前期 終業式の校長講話「希望は失望に終わらない」での3年生対象の学長講話の再話(⑭)に繋がると思 い,⑧のように語った。最後は,⑨のように,自分の必要性と引きつけた本の読み方を話し,読書 のすすめを行なった。

(12)

(5) 卒業式における校長講話の実際とその構成について  まず,筆者の卒業式式辞(2015/3/13)を紹介する。

 ①平成26年度,香川大学教育学部附属坂出中学校第67回卒業証書授与式の挙行にあたり,坂 出市長様代理水道局○○○○○様,坂出市教育委員会学校教育課課長○○○○様,松韻会会長

○○○○様,近隣の高等学校の校長先生をはじめ大勢のご来賓の方々,並びに香川大学教育学 部長○○○○様のご臨席を賜りました。心から厚くお礼申し上げます。

  3年生の皆さん,ご卒業おめでとう。②-1鎌倉時代の人口が700万人程度なのに,皆さん一人 ひとりの関係者だけで鎌倉時代に1億3421万人ほどの人がいないと,皆さんが存在しないこと を,1年時の全校集会で話しました。皆さんは繋がっています。皆さんに至るまで多くの命のリ レーがありました。皆さんの努力があって卒業をむかえられましたが,多くの人との関わりと運 にも恵まれていたのです。②-22月,中学1年生が突然自分の意思と関係なく命を絶たれるいた ましい事件がありました。②-3皆さんのご家族は今日まで皆さんの命と生活を守り育てて下さい ました。「あなたが虚しく過ごした今日という日は 昨日死んでいった者が あれほど生きたい と願った明日」8)という言葉があります。皆さん,心と体を大切にされ,日々を有意義に生きて 行って下さい。

  ③-1五つの気を掲げ,歩んで来られた卒業生の皆さん。③-2話もしたことのない人と多く話し,

入学時の不安が一気に無くなり,毎日の学校生活が楽しく,早く学校に行きたいと陽気と活気が 生まれた1年生の歩く日。③-3時季外れのインフルエンザが蔓延,皆さんの多くがダウン。送別 芸能祭は代役の代役がたつ大ピンチ。台本を見ながら演じるのもやむなしという状況。満身創痍 の中,代役の代役も台本を見ずに演じきり,自分たちはピンチの時も乗り越えられる力があると 感じることができました。勇気,根気,本気をみせ,本校の伝統を繋いだ2年生の送別芸能祭で した。③-4息を合わすのがとても難しかった30人31脚,しかし仲間と一緒ならできないことはな いと分ったり,自分たちでの企画や運営の多さにびっくりし,すごさを知った3年生の運動会。

③-5皆さんは,五つの気を様々な場面で発揮してくれました。

  さて,卒業式を英語でコメンスメントと言い,始まり,次の出発という意味があります。次の 出発に際しての餞の言葉として,三つのことをお話しいたします。

  ④-1旅の道中の安全を祈り,馬の鼻先を行き先に向けたのがはなむけの由来です。そこで,一 つ目は,皆さんが進むべき方向です。皆さん,④-2式の前に目を通されたと思いますが,その紙 には,3+5=●,●+●=8,●+●=○の三つの数式があります9)④-33+5=●は,誰が 答えても正解は8。速く正確に答えを出し,量をこなすことが求められ,個性は必要ありませ ん。定型の仕事,過去の方法を踏襲する仕事は,このような力で十分です。●+●=8は,2と 6,4と4等様々出て来ます。四則演算の習得を前提に,与えられたゴール8に対し,なぜその 組み合わせなのかの理由も付けて自分なりの組み合わせを考えることが求められます。創意工夫 と判断作業を行い,個性も求められます。このような力は,決められたゴールにどう辿り着くか を考え,効率性も合わせて実行する仕事で求められます。●+●=○は,右辺の○のゴールも,

それを実現する左辺の●+●の実現方法も自分で考え,実行することが求められます。課題発見 と目的設定,そして創造と判断作業を行い,より強い個性とやりきる力が求められます。このよ うな力は,過去のやり方に安住せず,新しいアプローチで,新商品やサービスを生み出し,新し い顧客を生み出す仕事で求められます。

  ④-4今後センター試験が廃止され,大学入試が様変わりします。大学入試は,知識・技能を測 るだけでなく,思考力・判断力・表現力,さらには,主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ

(13)

態度をも測る試験になります。社会の変化を考えての入試改革です。④-5皆さんが社会に出て一 線で働く頃は,三つの数式のうち●+●=○という仕事が一段と重要になります。皆さんの入学 式で話した二人のセールスマンの内,「社長,最高です。この国の人はまだ誰も靴を履いていま せん。」と顔晴れる人,全校集会で話した「トマトが大嫌いな国」で,トマトジュースを売ること ができる人が求められるのです。

  ④-6「他の中学校はしていないような授業内容で1,2,3年生の会話の時間をつくってくれま した。生徒達が自由に研究して発表したCANがあったおかげで私はまとめや会話力は成長して いると思っているし,これからの将来に役立てると思っています。」。「中学校で経験した,自分 自身で何かを達成する力はこれから先,私達が大人になっていく上でとても重要になってくる力 だと思います。」。「受験勉強そっちのけで,実験に取り組んだCAN。1年の時あと一歩青雲賞を 逃がした悔しい気持ちをバネにして,満を持して始めた風力発電の研究。何回実験しても,結果 が出ずに,苛立ちを覚えていた時,アドバイスを下さった先生や,アイディアをくれた友達。そ して,遅くなっても結果が出るまで一緒に実験したクラスターメンバー。応援してくれたみんな のお陰で,念願の青雲賞を手に入れた時の感動は今でも忘れることが出来ない。」。このように,

皆さんには●+●=○という仕事をしていく学びの種があります。一つ目は,皆さんの進む方向 の一つに,本校の培った学びの種を育てていくことがあります。

  ⑤-1皆さんが毎日提出した道程には,高村光太郎の詩「道程」の一節「僕の前に道はない 僕の 後に道は出来る」があります。この詩から,私が中学生の時に国語で習い,皆さんも習った魯迅 の「故郷」,「思うに希望とは,もともとあるものともいえぬし,ないものともいえない。それは 地上の道のようなものである。もともと地上に道はない。歩く人が多くなれば,それが道になる のだ」が思い出されます。はじめからこの世に道はありません。一人が歩き,さらに皆が歩き,

やがてそこが道になっていきます。希望も一人願うだけでは手に入らず,一人行動しても手に入 れるのは難しいでしょう。だが,同じ希望を持つ者が協力し努力する,そういう人が増えれば希 望はより実現するのです。今年度の入学式で,パンドラの箱に希望だけ残ったこと,東日本大震 災から立ち上がった人々からも分かるように,人は災いから生き残ることはできても希望なしに 生きられないことを話しました。⑤-2二つ目として,希望を持ち続け,協働して希望を紡ぐこと を考えてほしいと思います。

  ⑥-13年生の夏休み明けの全校集会で,情熱は「パッション」と言い「受難」の意味もあること,

「パッション(情熱)」をもって取り組んだ先に,困難が待ち構えていることを話しました。「難が 無いのは無難な人生。難が有るから有難い」という言葉を紹介し,「生きていく中で,本当に難 が無く過ごしていけば,無難な人生ではあります。しかし,難が有るからこそ,人のありがたみ や,やり遂げた感動や,生きていく糧が生まれてくるのだと思います。難が有った時,自分だけ では解決できず,人に手助けしてもらって解決していけたら,自然に『有難う』って言えますね。」

と話しました。⑥-2三つ目として,皆さんに,「患難は忍耐を生み,忍耐は練達を生み,練達は希 望を生む」10)という言葉を贈ります。皆さんの将来には多くの困難があるはずです。⑥-3投げ出し たい厳しい状況に置かれもしましょう。そんな時こそ,じっと耐え,苦しみの中でも挑戦し力を つけておくのです。暗雲が晴れる日がきっと来ます。苦しみの中で自らを奮い立たせやり抜いた ことが自信となり,自分の財産,将来への力となります。苦しみの中で培われた力は,誰に奪わ れるものでもありません。困難な事態に対処する経験を積み身についた知恵とか能力である練達 を身につければ,どんな事態でも将来を望もうとする,希望に生きる体質が強められます。

  最後になりましたが,保護者の皆様,ご卒業おめでとうございます。今までの本校の教育活動 に寄せられましたご理解とご支援に深く感謝申し上げます。今後とも本校への変わらぬご支援を

参照

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