巨大災害・巨大リスクと再保険の課題
江利口 耕 治
■アブストラクト
2011年に発生した東日本大震災,タイ洪水をはじめ過去の自然災害による 高額損害における再保険の寄与度は一定水準に達しており,巨大災害にかか わる保険金支払いにおいて再保険は大きく貢献している。
2011年度は,自然災害の多発を受け再保険会社の事業成績は悪化,コンバ インド・レシオが100%を超過する再保険者も多数出た。こうしたなか迎え た2012年度の再保険の特約(契約)更改では一定の料率上昇が見られ,再保 険マーケット・ハード化の兆しも見られた。
想定外を排除し,あらゆるリスクに備えることが巨大災害における再保険 金支払いを確実にするとともに,再保険キャパシティの裏づけとなる担保力 維持に繫がる。こうした観点から,包括的な取引形態である特約再保険の取 引においては,出再されるリスクに関するより高度な情報開示や,契約条件 の強化が求められている。
■キーワード
再保険,自然災害の多発,想定外の排除
1.はじめに〜再保険の機能と目的〜
再保険とは,保険者が自己の負担に対する保険責任の一部または全部を,
他の保険者に転嫁する経済行為であり,①保険者の事業成績の安定化,②異
*平成24年10月21日の日本保険学会大会(日本大学)報告による。
/平成25年1月11日原稿受領。
常損害に対する備え,③保険者の引受能力の補完,を主な機能としている。
自然災害をはじめとする巨大災害,巨大リスクにかかわるリスク消化は再保 険事業がコアとするところの一つである。
再保険の最もシンプルな機能は元受保険会社の引受能力の増加,補完が挙 げられる。石油化学コンビナート,大型タンカー,大型旅客機や人工衛星な ど保険価額が数百億円にものぼり,保険会社が自社の支払能力のみで処理し きれないような巨大なリスク(高額契約)の引き受けに対応する方法として,
共同保険を保険会社同士の横の連携とするならば,再保険はいわば縦の連携 として,保険会社の引受能力を増加(あるいは補完)する仕組みであり,こ れは再保険の重要な機能の一つである。
また,契約の1件1件についてみればその全額を十分自己負担することが できる場合であっても,1回の大災害によって無数の中小契約に損害が発生 した際,つまり,危険が集積した場合に保険会社が一度に負担しきれない支 払責任を負うことも考えられる。台風や地震などの自然災害は将にこのケー スに該当する。
大まかには,この2点に再保険の必要性を見出すことができるが,こうし た巨大リスクや集積リスクによる巨額の保険金支払が必要となった際に,再 保険があるかないかでその保険会社の経営状態は大きく変わってくる。この ような異常損害に対する備えが再保険の持つ重要な機能の一つである。
図表1が入らないため,空きを作成しています。
また,再保険が有する別の機能としては リスクの平準化 がある。言う までもなく保険は 大数の法則 を基盤としているビジネスであり,保険成 績の安定化を図るためには,この法則に則り,同じような質のリスクを有す る契約,同じような保険金額の契約を数多く集めること望ましいということ になる。しかし,実際に引き受ける保険契約には,大小様々な保険金額の契 約が混在するため,必ずしも同じような量のリスクが揃うわけにはいかない。
このような問題に対して,一定の保有額を超える額を再保険を使って危険移 転すれば,大数の法則がより働きやすい状態にポートフォリオ(契約集団)
を持っていくことができる。図表2はその概念を表しているが,この例は,
更に,元受会社自身が他社から出再された再保険を引き受けることによって リスクの数を増やし,より大数の法則を実現させようとする例を示している。
このように再保険を利用することにより,元受保険会社はリスクの平準化を 行い保険経営を安定させることができる,というのも再保険の重要な機能の 1つである。
図表1 再保険の目的と機能
出典:トーア再保険株式会社作成
2.再保険の引き受け手と市場規模
再保険は世界的規模で形成される市場で取引されており,再保険を引き受 ける会社は世界に200社程度存在すると言われている。その引受け手として は,元受営業を一切行わず再保険の引き受けに特化した再保険専門会社の他,
元受保険会社の再保険部門や再保険子会社も再保険を引き受ける主体となっ ている。受再保険料ベースでの世界の再保険グループ上位には,MS& AD ホールディングス,NKSJホールディングスや東京海上グループ,また再 保険専門会社であるトーア再保険が上位20位内にランクインしている。なお,
上位10社の正味収入再保険料を合計すると約1,250億ドルとなるが,これは 世界の再保険料の5割以上を占めるとみられる(生命再保険を含む)。
図表2 再保険による保有リスク集団の平準化
再保険
出典:トーア 株式会社作成
す。
ま 図表3が入らないため,空きを作成してい
本邦の損害保険マーケットから海外に出再される再保険料は,家計向け地 震保険や自賠責保険,原子力に関する再保険を除くと年間約5,600億円程度 と推測される。日本の損害保険マーケット全体の元受正味保険料を8兆円弱 とみると,約7%が出再再保険料として支払われている概算となる。
3.巨大災害と再保険
図表4は1980年以降の保険損害額を示しており,棒グラフの薄色部分は自 出典:Standard & Poorʼs “Global Reinsurance Highlights2012”
図表3 2011年度世界の再保険グループ上位40社
単位:百万米ドル
順位 グループ(会社)名 本店所在国 2011年 正味収入 再保険料
順位 グループ(会社)名 本店所在国
2011年 正味収入 再保険料 21
33,719.2 Munich Re ドイツ
1 オースト 1,758.4
QBE Insurance Group ラリア
Allied World Assurance Co.
Holdings Catlin Group
バミューダ バミューダ
1,533.8 1,569.6 5
4 Lloydʼs
Hannover Re
イギリス ドイツ
10,735.5 14,279.2
25 24 23 15,350.0 Berkshire Hathaway Re アメリカ
3 Maiden Re アメリカ 1,723.5
26 27 8,891.5 7,335.7 フランス アメリカ
1,495.6 1,495.0 ドイツ アメリカ R+V Versicherung AG
Odyssey Re
SCOR
Reinsurance Group of America
6 7
2 Swiss Re スイス 22,868.0 22 Caisse Centrale de
Reassurance フランス 1,732.8
8 Partner Re バミューダ 4,486.3 28 Alterra Capital Holdings アメリカ 1,432.0
9 Everest Re バミューダ 4,108.9 29 ACE Tempest Re バミューダ 1,321.7
10 Transatlantic Holdings アメリカ 3,859.6 30 Amlin Group イギリス 1,124.5 11 MS&AD Holdings 日本 3,700.9 31 IRB‑Brasil Resseguros S.A. ブラジル 1,108.3 12 Korean Re 韓国 3,057.5 32 Aspen Insurance Holdings バミューダ 1,098.1 13 NKSJ Holdings 日本 2,786.1 33 Endurance Specialty Holdings バミューダ 974.3 14 Tokio Marine Group 日本 2,654.2 34 Arch Capital Group アメリカ 952.0
745.4 Deutsche Rueckversicherung ドイツ
37
913.5 バミューダ Renaissance Re Holdings
36
Sirius Group バミューダ 915.7
35
2,088.1 バミューダ XL Re
17
2,310.5 Mapfre Re スペイン
16
15 General Insurance
Corp. ofIndia インド 2,421.9
1,961.4 1,953.3 1,835.5
38 Platinum Underwriters バミューダ 651.5 Holdings
39 Montpelier Re Holdings バミューダ 624.0
40 Flagstone Re バミューダ 558.4
日本 Toa Re
18
19 AXIS Capital Holdings バミューダ 20 Validus Holdings バミューダ
然災害によるもの,濃色部分は火災やテロと言った人災によるものを示す。
グラフ中,2005年と2011年が突出しているが,2005年は
Katrina
,Rita,Wilmaの3つのハリケーンが米国において高額な保険損害をもたらした年
であり,年間ベースで見た保険損害額は1千億ドルを超える水準となってい る。2011年も1千億ドル超の保険損害額が見込まれており,2005年に次いで 多額の保険損害が記録された年となり,損害保険業界はもちろんのこと世界 の再保険市場にも大きな影響がもたらされた。図表5は自然災害による保険損害に関する過去の高額支払事故を示すが,
個々の保険損害について再保険の寄与度,すなわち回収割合を調べてみると,
保険事故によりその割合は大きく異なる。しかし,全体的な傾向として,自 然災害による高額損害における再保険の寄与度は一定割合に達しており,巨 大災害にかかわる保険金支払いにおいて,再保険は大きな貢献を果たしてい る。
図表4 Insured Loss 1980‑2011
出典:Swiss Re,http://media.swissre.com/documents/Fig3insured catastrophe losses.xlsを元に作成
← HPの泣 き 別れを防ぐた め、イレジュ ラー処理をし ています
4.東日本大震災とタイ洪水
東日本大大震災に関する保険金・共済金支払額については,家計向け地震 保険が1.2兆円,共済金が1.1兆円となっている。家計向け地震保険以外の損 害保険の保険金支払額は6,000億円と見込まれるが,その2/3にあたる4,000 億円が再保険からの回収とされている。
2011年に発生したタイ国における洪水については,7月後半から12月上旬 にかけ,タイ全国77県中65県,国土面積の43%あまりが洪水の影響を受け,
世銀が2012年9月にとりまとめたレポートによれば,被害総額は465億ドル 図表5 高額自然災害保険金支払額上位10事故(1980〜2011年)
単位:百万米ドル
出典:Munich Re,NatCatSERVICEただし,再保険寄与度はAon Benfield社 提供情報および2012年7月30日付保険毎日新聞記事情報(東日本大震災,
NZ地震,タイ洪水)に基づき保険損害額に占める概算割合を記載
順位 年月日 事故 被害地域 被害総額 保険
損害額 再保険 寄与度
10 2011年8月1‑11月15日 洪水 タイ:ピチット,ナコンサワン,アユタヤ,
パトゥムタニー,ノンタブリー,バンコク 40,000 10,000 60〜70%
45〜55%
12,100 16,000 米国:ロサンゼルス,レイクチャールズ,ホ リービーチ,カメロン,ニューオーリンズ,
テキサス,ヒューストン ハリケーン・
2005年9月20‑24日 リタ 9
7 2011年2月22日 地震 ニュージーランド:南島,カンタベリー,ク
ライストチャーチ,リトルトン 16,000 13,000 75%
50%
12,500 22,000 米国,バハマ諸島,キューバ,ハイチ,ジャ マイカ,メキシコ
ハリケーン・
2005年10月19‑24日 ウィルマ 8
4 1992年8月23‑27日 ハリケーン・
アンドリュー
米国:フロリダ州,ホームステッド,ロサン
ゼルス,バハマ諸島 26,500 17,000 30%
25%
18,500 38,300 米国,キューバ,ハイチ,ドミニカ共和国,
タークス・カイコス諸島,バハマ諸島 ハリケーン・
2008年9月6‑14日 アイク 3
5 1994年1月17日 地震 米国:カリフォルニア,ノースリッジ,ロサ ンゼルス,サンフェルナンド,ベンチュー ラ,オレンジ郡
44,000 15,300 35%
n/a 13,800 23,000 米国,カリブ海諸国,ベネズエラ,コロンビ ア,メキシコ
ハリケーン・
アイヴァン 2004年9月7‑21日
6
1 2005年8月25‑30日 ハリケーン・
カトリーナ
米国:ロサンゼルス,ニューオーリンズ,ス ライデル,ビロクシー,パスカグーラ,ウェ
ーブランド,ガルフポート 125,000 62,200 45〜50%
30〜40%
35,000‑
40,000 210,000 日 本:本 州,青 森,東 北,宮 城,仙 台,福 島,水戸,茨城,栃木,宇都宮
地震,津波 2011年3月11日
2
(3.7兆円)と見込まれている。保険損害額については,様々な見込みが出さ れているが,150億ドル(1.2兆円)〜200億ドル(1.6兆円)との見込みもあ り,洪水損害としては史上最大の規模になるといわれている。タイ洪水に係 る日系保険会社の損害について,日本の損害保険大手3グループが公表した 数字を合算すると,その保険金支払額は9,000億円にのぼるが,正味損害額 は約5000億円とされており,差額となる約4,000億円が再保険から回収とな る見込みである。なお,一般的に,タイ当地の保険会社の保有水準は低く,
これらの保険会社により引き受けられる日系以外の現地契約についても,洪 水による損害の多くが再保険から回収されるものと考えられる。
タイ洪水発生後に調査を行った東京大学生産技術研究所によれば,2011年 におけるタイ洪水発生の状況は凡そ以下の通りである。河川は本来水が集ま る下流で流下能力が大きくなるが,チャオプラヤ川の場合,下流域の方が流 下能力が小さい。このため,上流から流下する水の量が膨大になると,下流 であふれてしまう。また,雨季,乾季にはっきりとわかれるタイ国においは,
チャオプラヤ川上流の水は非常に貴重で上流域では11月以降の乾期に備えて 貯水する必要がある。こうした特徴を踏まえ,タイ国においては,チャオプ ラヤ川上流域の洪水は貯水し,また下流域では,工業団地がない右岸(図表 6左側)を中心に洪水を氾濫させて洪水被害を軽減するという治水対策がと られてきた。ところが2011年は平年の期間平均の143%と,過去に類を見な い降雨量が記録され(2011年5月〜10月),上流にあるダムの洪水調節能力 を遥かに超過した。これによりもたらされた2011年の洪水はあまりにも大規 模なものとなり,水門の破壊や破堤という想定しない形で工場団地が立ち並 ぶ左岸(図表6右側)に洪水が発生した。さらに,チャオプラヤ川の勾配は 日本の河川に比べ極端に緩いため,あふれ出した水は毎分約8ⅿ,1日で12
㎞,という非常にゆっくりとしたペースで進み,水はなかなか引かずに洪水 は長期化した。
結果,7つの工業団地において日系450社を含む約800社に浸水被害が及び,
また,1ヶ月以上の長期間にわたり工場団地が水につかることによって,元
受保険証券においては物損だけでなく事業中断保険の損害が拡大した。
再保険の特約では自然災害にかかわる集積損害については,1回の事故に おける再保険金支払いに関して一定の支払限度額を設けて制限するのが,国 際的なマーケット慣行である。この1回の事故に関する定義との関係で,洪 水の罹災期間が長期化したという点は再保険業界にとっても非常に大きな意 味を持つことになった。自然災害リスクにかかわる1事故の定義は,同一原 因であることを前提に時間で規定するのが通常である。洪水の場合,168時 間(7日)を1事故として規定しているケースが多いが,タイの洪水では図 表6に示すように1日〜4日の間隔を置いて上流から順次,工業団地が罹災 したため,言うなれば一つか二つの工業団地毎に1事故となり,タイの洪水 という一つの事故に制限することができず,同一事象下において複数回再保 険金の請求を受けるといういわば想定外の事態となった。
東日本大震災とタイ洪水は,どちらも保険業界,再保険業界に多大なる影 響を及ぼした。想定外という意味では,規模,発生地域という面において東 日本大震災も想定外の地震であったが,保険業界としてみれば,東日本大震
図表6 2011年タイ洪水概況
出典:東京大学生産技術研究所 (独)日本貿易振興機構 緊急特集:タイ洪水に 関する情報 ,2011年12月26日時点
災よりも被害規模が大きいとされる関東大震災の再来といったケースを想定 し,必要なリスク手配を行っていたことから家計地震,企業地震スキーム
(含む再保険)ともに想定の範囲内できちんと機能した。
一方,タイは自然災害リスクが比較的少ない国という理解が一般的であり,
洪水リスクは認識されてはいたものの,上述した河川システムの特徴,地勢 を踏まえた潜在的な洪水のメカニズムは残念ながら把握されていなかったの ではないかと考えられる。また,タイの洪水リスクについてはモデリングソ フトも一般的には存在しなかったことから,保険会社,再保険会社において,
タイの洪水リスクに関する
PML(予想最大支払額)を適切に把握すること
は極めて難しい状況にあったといえる。結果,タイ洪水において日本の損害 保険業界が日系企業に支払う保険金は,グロス,(再保険控除後)正味とも に東日本大震災を上回ることとなった。図表7 東日本大震災とタイ洪水
出典:(東日本大震災予想保険金支払額)金融庁
(タイ洪水予想保険金支払額)2012年2月14日日経新聞,MS & AD,NKSJ,
東京海上HD IR情報 4
1 0
理 い をして
正時注意ます 訂
処
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5.再保険業界への影響
2011年の自然災害ロスを受けた2011年度における主要再保険者の決算概況 をみていく。図表8は保険引受事業の収益性を表すコンバインド・レシオを 棒グラフで示したものであり,対象は図表3で示した再保険グループ上位40 社である(棒グラフの一つ一つが各再保険会社を現す)。2011年は再保険グ ループ上位40社中26社がコンバインド・レシオ100%を超過し,平均で107.2
%となった。自然災害の影響がない年のコンバインド・レシオを90%強とみ れば,2011年の自然災害にかかわる再保険金支払によって15ポイント程度の 影響があったと考えられる。
図表8 世界の再保険グループ上位40社 2011年コンバインド・レシオおよび過年度推移
出典:Standard & Poorʼs “Global Reinsurance Highlights”2009〜2012より作 成
れ 考えての アキを作成しています。訂正時注意 文章の流
総収入利益率(図表9)は,税引き前利益を保険料と投資収益で除したも のであり,コンバインド・レシオに投資収益を加えた収益率を示す指標であ る。世界的に投資環境が芳しくない状況にあることを背景に,総収入利益率 についても40社中約半数がマイナスを示した。
図表10は2011年に発生した自然災害の支払いが,世界の主要再保険者の自 己資本に対してどの程度の割合であったかを示す。2011年に発生した自然災 害の支払いは,多くの再保険者において株主資本の10〜20%に至っており,
26社平均では14%となっている。これは実際の資本の毀損割合を示すもので はないが,2011年の自然災害による再保険金が再保険会社各社に対して相当 程度のインパクトをもたらしたことがうかがえる。ただし,米国でハリケー ン・カトリーナが来襲した2005年には,自己資本に占めるハリケーン等の巨 出典:Standard & Poorʼs “Global Reinsurance Highlights”2009〜2012より作
成
図表9 世界の再保険グループ上位40社
2011年 総収入利益率(Return on Revenue)および過年度推移
大災害による損害割合が30%以上となった再保険会社が複数存在したと言わ れており,2005年との比較においては影響は少なかったといえる。
保険/再保険のキャパシティは,支払い余力,(再)保険会社の資本に裏づ けされるといえる。従って,世界の再保険者全体の資本水準の推移は再保険 マーケットの状況を洞察する上でのポイントの一つとなる。図表11は約130 社の再保険会社の資本の部を合計し,その推移を示したものである。
2008年はリーマンショックの影響で資産価格が下落したことで再保険業界 全体の資本も縮小した。2009年,2010年と回復したが,2011年は再保険者の 自己資本が若干減少した。
図表10 世界の主要再保険者 株主資本に対する2011年自然災害ロスの割合
出典:Aon Benfield “The Aon Benfield Aggregate Full Year Results Ended December31,2011”
図表11が入らないため,空きを作成しています。
再保険マーケットでは,巨大災害が発生すると,その負担に耐えられずに 倒産したり,再保険マーケットから撤退する再保険プレーヤーが出てくる。
また,引受けリスクの見直しにより再保険会社の引受け意欲や,リスクに対 する警戒が強まり,特定リスクのビジネスの引受停止や引受の縮小といった ことも発生する。2011年の自然災害ロスを受けて倒産した再保険者は発生し ていないが,再保険会社同士の合併や買収の事例は確実に増加している。
このように再保険マーケットが縮小した場合には,需給の関係から再保険 料率が上昇する。再保険業界では,マーケットがハード化する,あるいはソ フト化すると表現するが,ハード・マーケットでは再保険料率が上昇し,ま た,完全なハード・マーケットになると再保険の引き受け手がいなくなり,
再保険の手配が困難な状況になる。
一方,ソフト・マーケットはその逆で,再保険料率が下落し再保険の手配 が容易な状況である。ハード・マーケット化した再保険市場をチャンスと見 た投資家が新たに再保険会社を設立したりして参入してくることにより,再
図表11 世界の再保険者の資本推移
出典:Standard & Poorʼs “Global Reinsurance Highlights”2009〜2012より作 成
び競争が激化して料率引き下げ競争が繰り広げられるとマーケットはソフト 化に転じる。
このような仕組みはマーケットサイクルといわれており,再保険マーケッ トでは,過去,このサイクルが繰り返されてきた。近年では2008年のリーマ ンショック,また,同年米国を襲ったハリケーン・アイクによる再保険回収 の影響により若干ハード化したが,2009年,2010年と再びソフト化サイクル にあった。
図表11に示されるように,2011年は自然災害ロスの多発により再保険業界 全体の資本は若干縮小したと考えられる。こうしたなか迎えた2012年の再保 険の特約更改では,日本の再保険市場,アジアの再保険市場の料率は概して 上昇し,局地的にハード化した。これがマーケット全体のハード化につなが るのか注目されていたが,自然災害ロスが顕著でなかった地域,特に欧州に おいては再保険価格も比較的安定的に推移し,価格水準にもよるが,世界的
図表12 マーケットサイクルのイメージ図
出典:トーア再保険株式会社作成
にどの地域においても再保険のキャパシティが不足していることはないとみ られている。
2012年は,2011年のような巨大な自然災害は発生しておらず,第2四半期 決算では,再保険者の資本は急回復し再保険資本は過去最高水準に達してい る,と報じられている。2012年10月下旬に米国北東部を襲ったハリケーン・
サンディの影響については現時点不透明であるが,再保険マーケットを決定 的にハード化に向かわせる程の影響はないと思われる。
マーケットサイクルについては,2000年以降,ソフト,ハードのサイクル の波の幅が抑制されるようになってきた。これは,自然災害リスクのモデリ ングソフトの普及により,リスクにかかわるロス・コストの見方が受再者,
出再者間で一定程度共有化されるようになったこと,また,CATボンドな どの代替的リスク移転の市場が成長しており,代替市場でのリスク消化が再 保険マーケットにおけるサイクルを緩和しているとも言われている。
CAT
ボンドと伝統的再保険との仕組みの大きな違いは,キャッシュフロ ーとロスの発動の仕方にあると考えられる。再保険が将来のロス回収に備え て事前に(少額の)保険料を支払うという仕組みであるのに対して,CAT ボンドは,将来発生するロスに充当するための資金として,債券の額面にあ たる金額を先に投資家から入手し,利息の支払いによりリスク移転にかかわ る費用を支払いつつ,対象となるロスが発生しなければ投資家に資金を償還 するというキャッシュフローとなる。ロスの発動点については,伝統的再保険の場合,保険会社の損害額そのも のに応じたスキーム設計となるが,証券化の場合,震度・風速といった客観 的なパラメーターが発動点として設定されるケースが多い。この場合,保険 会社側からしてみれば,CATボンドから得られる経済効果と,保険金支払 いに必要となる金額とが必ずしも一致しない,というベーシスリスクの発生 が避けられないことになる。
リスクにより程度は異なるが,一般に,CATボンド発行によるリスク移 転にかかる費用は伝統的再保険を利用する場合を上回るようである。一方,
世界的に投資環境が低迷するなか,投資家が比較的魅力的な利回り得られる 再保険市場に関心を示していること,また,日本の自然災害リスクについて 言えば再保険マーケットで料率が上昇したことで両者の価格差が縮まったこ とから,証券化市場でのリスク移転が検討しやすい状況にあることも報じら れている。
6.再保険の課題〜異常災害をいかに引き受けるか〜
再保険は,源泉ビジネスの引受判断を元受保険会社に依存し,元受保険か らリスク転換を受けるビジネスである。再保険会社は元受保険会社といわば 運命共同体的位置付けにあり,再保険が直面する課題は,その多くを元受保 険会社と共有することになる。
2011年に経験した異常災害以降,再保険会社も集積管理の精緻化を迫られ ることとなった。タイの洪水の経験を踏まえた新興国における洪水リスク等,
モデリングが発達していない地域における自然災害リスクについては,引受 リスクを再評価するとともに,自然災害等の潜在的リスクが顕在化する可能 性を能動的に探し,それに備えることが課題と認識される。モデリングによ る集積管理が進んでいたといえる日本の地震リスクについても,東日本大震 災で大きな損害をもたらした津波リスクについて適切にリスクを評価し得る リスクモデル(確率モデル)が存在しない点が問題点として浮上している他,
マグニチュード9クラスの南海トラフ地震といった,これまで認識されてい なかった新たな地震シナリオへの対応も課題となっている。
再保険取引のメインである特約再保険は,出再する対象や限度額を取り決 めた包括的な契約である。このため契約情報に関するやりとりについても,
出再内容の全般をとりまとめた情報が中心となり,再保険特約に出再される 個別案件レベルの契約情報の開示は必ずしも求められてこなかった。しかし,
近年の自然災害の多発によりリスク管理の強化を迫られている再保険者側か らすると,再保険特約に出再されるリスクの透明性の向上は大きな課題であ る。例えば,モデリングによる自然災害リスクの計測の正確性を追求するた
めには,出再案件における詳細な所在地情報が不可欠である。また,元受段 階で共同保険となることが多い日本企業の大口物件については,別会社,別 特約から発生する引受責任との合算の責任額を把握しておくことが必要とな る。更には,タイ洪水で問題意識が高まった敷地外利益(Contingent Busi-
ness Interruption
)に関する再保険特約上のリスク把握等も必要である。契約条件面では,先のタイ洪水の事例で発生した問題,すなわち,同一事 象下における支払限度額の明確化,厳格化に対する対応が重要である。これ らへの適切な対応を通じて想定外を排除し,あらゆるリスクに備えることが,
巨大災害における再保険金支払いを確実にするとともに,将来発生が予測さ れる更に巨大な災害に対する再保険キャパシティの裏づけとなる担保力の維 持に繫がる。
冒頭で再保険の機能として,大数の法則の機能を支援するという再保険の 機能を取り上げたが,逆に言うと,巨大リスク,異常災害に関する再保険は,
確率分布のテール部分のリスク移転であり,再保険は大数の法則が成り立ち 難い領域でのビジネスである。この領域でビジネスを行う再保険会社は,世 界中の様々な地域のリスクを集めることにより危険分散を図ればよいではな いか,ということはよく言われることであろう。実際,ポートフォリオの多 様化(ダイバーシフィケーション)を通じて危険分散を図り,ポートフォリ オの偏在の是正や軽減に努めることは再保険会社として重要な取り組みであ る。ただし,図表5などの過去の高額自然災害保険金支払の実例をみても明 らかなように,自然災害リスクに相当程度晒され,保険の対象となる物件が 集積する地域は,世界中に,何十,何百とはない。そもそも大数の法則が厳 密に成立しうる状況は,標本数が何万,何十万という領域にあることを考え ると,多様なリスクの取り込みによる引受リスク偏在の軽減は,再保険にと って必要な取り組みではあっても,これをもってして再保険は再保険の世界 で大数の法則を成り立たせるといったビジネスモデルには昇華し得ないとも 考えられる。
元受保険においても,ロス・コスト(純率)の変化に応じて元受料率の改
定が検討される。ロスのボラティリティが極めて大きい再保険取引において は,頻度が稀な大口の再保険金支払いが現実化してしまった際には,単年度 のロス・コストに極めて大きな影響が及ぶことから,過去の特約成績等の状 況に応じた弾力的な料率の調整が必要となるのである。このような再保険の 現実的メカニズムに基づいた適切な再保料設定,こうしたことも再保険が異 常災害リスクを継続して引き受けていくうえで重要なポイントの一つと考え られる。
以上のようなリスク管理強化の取り組み,また,収益管理の取り組みを通 じて巨大災害に対する再保険キャパシティを継続的に提供していくことが再 保険業界,再保険会社の課題といえよう。
(筆者はトーア再保険株式会社勤務)
参考 献/ 資料
トーア再保険株式会社 再保険 その理論と実務 改訂版 保険研究所 平成23年版インシュアランス損害保険統計号 社団法人日本共済協会 共済年鑑=2013年版=
東京大学生産技術研究所 小森大輔 2011年タイ国チャオプラヤ川大洪水はなぜ起 こったか(盤谷日本人商工会議所所報2012.02)
東京大学生産技術研究所 木口雅司,中村晋一郎,小森大輔,沖大幹 2011年タ イ・チャオプラヤ川における洪水被害(一般財団法人日本水土総合研究所 海外情 報誌