建築請負人の債権担保 に関す る考察
‑ スイス法 ・ドイツ法を手掛 りに,転用物
(Versoinrem)の視角か ら ‑ 〔コ
藤 原 正 則
目 次 一. は じめに
二. スイス法 (以上46巻2・3号)
≡. ドイツ法 (その‑) ‑民法典か らGSBまで 一
日 建築請負人 の保全抵 当権の問題性 (コ BGB§648か らGSBまで
∈)建築債権担保法 (GSB)
(四) 民法典 か らGSBまでの ドイツ法の小括 (以上,本号) 四. ドイツ法 (その二)‑GSBの挫折か らBGB §648aまで 一 五.おわ りに
〔19〕
三. ドイツ法 (その 1) 一民法典か らGSBまで 「
‖ 建築請負人の保全抵当権の問題性
ドイツ法で も問題の出発点 は,請負人の先履行義務及 び建物の土地への付合 による材料所有権の喪失である。ドイツ民法典はその為に従来か ら,請負契約の 下 に動産修理の請負人の法定質権(§647BGB,UnterrlellmerpfaJldrecht)と 並 んで建築請負 人 の保全抵 当権 (§648BGB,Sicherungshypothek des Bauunternehmers)の規定 を置 いていた。 しか し,同条 には後述す る通 り 様 々な法技術的難点があ り,請負人の債権担保の実効性を欠 くと評 されてい
た。 しか も, この問題性 は民法典制定前後か ら百年に亘 って自覚 されていたの である。そ こで二年前 (1993年)同条に続 いて §648aBGBの規定が付加 さ れた(der109.GesetzzurAnderungdesBGB vom 27.4.1993,BGBII 509)。立法担当者 は,「何故二,三十年前 に同条が立法化 されなか ったのか不 思議だ」 とコメ ン トしているそ うである1)。 但 し,§648aは §648の保全抵 当権 自体の法技術的見直 しを したのではな く,請負人に自分の注文者(下請人 にとっては元請人)に対す る担保供与請求を認めそれが履行 されない ときは自 己の給付の拒絶権を与えることで,請負人の先履行の負担を取 り除 くという形 で問題の解決を企てている。さて従来か ら建築請負人の債権担保の為に置かれ ていた §648BGBは,請負人の保全抵当権を次のように規定 している。
BGB§648 建築物又は建築物の一部の請負人 は, 自己の契約 による債権に つ き注文者の土地 に保全抵当権の設定を請求で きる。仕事が完成 していないと きは,給付 した労務に相当す る部分の報酬l及び報酬に含まれない出費 に対す る 保全抵当権の設定の請求が可能である。
② (船舶保全抵当一略‑)
同条の,請負人 に法定抵当権の請求権を与えるという構造,土地 に関す る他
1)KlausWilhelm Slapnicar/RafaelWiegelmann,NeueSicherheitftir denHandwerker,NJW 1993,S.2903ff.,S.2903か らの引用。政務次官 Funkeの議会での発言。
建築請負人の債権担保に関する考察 21 の権利者なかんず く先行抵当権者 との関係で順位の原則が維持 されている点で
は, ドイツ法 もスイス法 と共通 している。 しか し,BGB §648の保全抵 当権 には次のよ うな問題性があ る2)。 第一 に同条 は任意規定であ り,工事完了前 の保全抵当権の請求権の放棄 も有効 と解 されている。だか ら結局,請負人 と注 文者 との競争市場下 の力関係か ら抵 当権 は予め (多 くは普通契約約款 によっ て)放棄 され るに至 る。第二 に保全抵 当権の請求がで きるのは土地所有者 と直 接 に契約 した元請人であ り,下請人 にはこれが認め られない。第三 に,保全抵 当権 は登記請求時に注文者が土地所有者であることが必要 とされる。 即 ち,ス イス法の物的債務のよ うな性質を ドイツ法の保全抵当権 は持 ってお らず,第三 取得者 に対す る効力を欠 く。 要す るに ドイツ法の保全抵当権 はそれが登記 され るに至 るまで は,純粋 に債権的効力を持っにす ぎない。第四に,保全抵当権 は 仕事開始前 には登記で きない上 に,スイス法のよ うに法的抵 当権者の取消権の 規定 は設 け られていない。それ故,保全抵当権が登記 され るに至 って も, ほと んどの場合不動産の担保価値 は先行抵 当によって利用 し尽 くされてお り,満足 な弁済 は受 け られない。 さらに請負人の保全抵当相互間で も厳格 に順位の原則 が守 られる為,請負人間に無用の競争が生 じ,建築過程の後の方で仕事を始め た者 は劣後 した扱 いを受 けることとなる。その為,ほとんど行使 されない請負 人 の保全抵 当は仮登記が大部分 で 3),現実 に本登記す る者 は少 な く,その実 行 によって満足を受 ける者 はさ らに少 ない 4)。 保全抵 当権が登記 され るのは,
目的不動産を第三者 に処分 しに くくす ることを 目的 としている, とい った状況
2) しばしば指摘されることだが,例えば,AlfonsSchulze‑Hagen,Schadenser‑ satzbe主zweckwidrigerVerwendung Yon Baugeld,NJW 1986,S.2403 ff.,S.2403,Heinrich Groβ,DieBauhandwerkersicherungshypothek, 1978,S.3,S.105ff等。
3)GroB,a.a.0.,S.7.
4)BT‑Dr12/1836,S.5.1985年 に ドイツ手工業 中央連合会(Zentralverbanddes DeutschenHandwerkers)が行った約1000件のアンケー ト調査によると,その 75%がまだ保全抵当権を請求 したことがなく,残 り25%も実行で満足を受けたこと はほとんどない,とされる。
で あ った5)。 しか し, ドイツ法 も出発点 と して民法典制定以前 は一部地域 で はフランス法の工事請負人の先取特権を継受 してお り,かつ他の地域で も請負 人の法定抵 当権が認 め られている所 もあ った。 しか も, ドイツで もスイス.t同 様 に建築詐欺 は大 きな社会問題 とな っていた。 こうい った出発点,〜背景,法定 抵 当権 の技術的構造 に共通性 が あ りなが ら,何故 ドイ ツ法 はスイス法 とは異 な った展開を示す に至 ったのか は興味ある現象である。 しか も,そ こでの現在 に至 るまでの約百年 の歴史 の内には不動産信用,工事請負 をめ ぐる法規律 と い った問題を探 る上で重要 な論点が含 まれている。以下, まず民法典の制定前 後 か ら建 築 詐 欺 の 防止 を 目的 と した建 築 債 権 担 保 法 (Gesetz tiber die SicherungderBauforderungenvom 1.1.1909,RGBI I449‑GSB)の 制定 に至 るまでの変遷 を三 で,次 に四で BGB§648の下での問題解決 の試 み, 及 びその不 充分 さ故 に倒産法改正の一環 と して企て られたスイス法 に倣 った立 法案 とBGB§648aとを対比 して見て い くこととす る。 ところで ドイツ法 を 二つの時期 に分 ったのは,叙述の便宜以上の理 由があ る}。 とい うの も,先 に触 れ た通 り最終 的 に BGB§648aは建築請負人 の債権担保 を建築土地 の増価 と は切 り離 した形 で規律 してい る。 これに対 して,BGB§648か らGSBに至 る までの議論 は,建築土地 とい う共通の担保をめ ぐって競合す る保全抵 当 と先行 抵当 との調和 の為 の努力 と挫折の過程だか らである。即 ち,両者 の違 いは,土 地信用 と保全抵 当権 との調整が焦点 とな っているか否か による。 この観点が ド
イツ法 に とって決定的な意味を持 っていた ことは,以下 の叙述が即座 に明 らか にす るであろ う。
⊂)BGB§648か らGSBまで
1(1)民 法 典 制 定 以 前 か ら ドイ ツで は プ ロイ セ ン一 般 ラ ン ト法 (ALR
5) Frank Peters,Die Bauhandwerkerssicherungshypothek bei甲良ngel der Werkleistung,NJW 1981, S.2550ff.,S.2550,Schulze‑Hagen, a.a.0.,2403f.,Gro8,a.a.0‥S.7.保全抵当が仮登記されただけで,土地所 有者にはたとえ建築資金であっても追加融資を受けることが難 しくなり,又土地 ・ 建物の処分も困難になると指摘され,濫用の恐れも示唆されている。
建築請負人 の債権担保 に関す る考察 23
§§971,972,T.Ⅰ,Titll)6)が建築請負人の担保の規定を置いてお り,バイ エル ンとヴユルテ ンベル クで も類似の規律が行われていた。又, フランス法継 受地域 (バ ーデ ン)で はフラ ンス民法 (Art.2103Ziff.4CodeCivil)の土 地増価 に対す る先取特権が規定 されていた7)。エル トマ ン(PaulOertm ann) によると,材料供給者を も含めた手工業者 (Handwerker)の債権担保の基 礎 となっているのは,手工業者 はその給付により土地の価値を増大 させたとい う基本的な正義の要請,即 ち転用物 (Versoin rem)思想である。 プロイセ ン一般 ラン ト法の規定,フランス法の先取特権 も転用物思想の顕現であると位 置づ け られている8)。 ところが, ドイツ民法の第‑草案 は請負契約の下 に動 産修理の請負人の法定質権の規定 (§576EI)を置いたが,工事請負人の法定 担保権 は認 めなか った。民法典の理 由書 (Motive)自身 はその理 由について は何 も言 っていない。 しか し,エル トマ ン及び当時の法曹大会の鑑定意見の記 述によると,法定担保権一般に敵対的な背景の下で, しか も請負人の法定抵当 権 に先行抵 当に優先す る効力 を認 め ると厳格 な登記 の順位 の原則 (Eintra一 gungsprinzip)に反 し,不動産信用 (Realkredit) と土地取 引の基礎 をお
びやか し,最終的には請負人 にも損害を与え ると考え られたか らである9)。
6)ALR T.Ⅰ,Titll§971 不動産の場合 は,請負人は不動産に支出 した材料 ・労務 について破産法で詳細を定め る優先弁済権を取得す る。
§972 請負人 は同上の優先弁済権を破産手続 きが開始 され る前 は,債務者の特 別な承諾な くして物 に登記す ることがで きる。
7)PaulOertmann,Sicherung derBauforderungen,in Handw6rterbuch derStaatwissenschaften,Ⅱ.Bd.,4.Auf1.,1924,S.417ff.,S.418f. 8)Oertmann,a.a.0.,S.418.
9)Oertmann,a.a.0‥ S,419.Motivezum EntwurfeinesGesetzestiber dieZwangsvollstreckung S.95が 引証 され て いる。 又,Eckels,Verhand‑
1ungen des vierundzwanzlgSten Deutschen Juristentages, Bd.Ⅱ (Gutachten),1897,S.173ff.,S.176ff.は,同上の強制執行法第‑草案の理 由書 (先行抵当に対 し優先効を持っ請負人の法定担保権 (Vorzugsrecht)は,登 記原則を破壊 し不動産信用の基礎をゆるがせ る点 を強調) とともに,1897年の司 法省案 (後述2(2)参照)に対す る議会での批判をあげている。そこではこういった
、優先効 を伴 う請負人の法定担保権が,抵 当流通 (Hypothekenverkehr)と建築 業の破壊につなが る, と指摘 されている。又,当時の ドイツでの法定担保権全体に 対す る態度 については,尾崎 ・前掲 一往 (ll)「展開過程」特 に76頁以下を参照。
しか し,結局現行BGB§648につなが る第二草案 §547で は建築請負人の保全 抵当の請求権が規定 されている。又,民法典の制定前後 に ドイツで も建築詐欺 が大 きな社会 問題 とな ってお り, ドイ ツ法曹大会 は三 回 にわ た って (20回 (1889),24回 (1897),26回 (1902))建築請負人の債権担保,建築詐欺対策 をテーマ と して とりあげている10)。 以下で は第二草案 を含 めた民法典の立法 に関す る議論,及 びGSBに至 る法曹大会での議論を見てい くこととす る。
(2)第一草案が建築請負人の法定抵当権の規定を置かなか った ことの当否をめ ぐって,第20回 ドイツ法曹大会 で は, シュタウプ (Hermann Staub)とヒ ルゼ (Berno HilBe)の二人が鑑定意見を提 出 してい る。 そのテーマは,第
‑草案547条 に規定 された動産修理の請負人の担保権を同様 に建築請負人 に も 及 ぼすのが妥 当か11), とい うものであ る。 シュタウプ もヒルゼ も, プロイセ ン,バイエル ン, ヴユルテ ンベル ク (請負人の法定抵当権請求権)及 びフラ ン ス法地域のバーデ ン (法規 による直接の法定抵当権の付与)の各 ラン トで当時 建築請負人の物的担保の規定があるのに,理 由書が明示的根拠を示 さず これを 退 けた点を問題 とし,請負人の法定抵 当権を支持 している。 その論拠 は請負人 の先履行義務及 び付合による労務及び材料所有権の喪失であ り,第一草案が動 産修理 の法定質権を規定す ることとのア ンバ ラ ンス も指摘 されてい る12)。 だ か ら反対 に,同時履行が可能な材料供給者 には法定抵当権を与え る必要 はない とされ る。付合 によ り材料所有権を失 う建築請負人 にその代償を与え ることの 妥当性 自体 は,疑 う余地 もない程 自明だ と考え られていた。信用供与 した土地 に抵 当権を取得 した者 も,た とえ建物が添付原則 によ り土地 の一部 とな って も,信用供与時に建物が存在 しなければ建築 による土地の増価か ら満足を受 け るのは不 当だか らであ る13)。 問題 は公示原則 との折 り合 いだ けで あ った。そ
10)不動産付合法 との関連で この間の事情 につ いて は,瀬川 ・前掲 一往(1服04責以下を 参照。
ll) Ve.rhandlungen des zwanzigsten Deutschen Juristentages, Bd.I (Gutachten),1889,BernoHilBe,S.218ff.,HermannStaub,S.248ff. 12)HilBe,a.a.0.,S.230f.,Staub,a.a.0.,S.250ff.
13)Hilβe,a.a.0.,S.234r.,Staub,a.a.0.,S.250ff.
建築請負 人 の債権担保 に関す る考 察 25 こで順位の原則 との衝突か らフランス式の先行抵当への優先効を伴 う先取特権
(Vorzugsrecht)が退けられ,又民法典の登記の一般原則 と符節を合せて法定 抵当権 自体ではな く法定抵当権の請求権の発生を認めるのが妥当だ とされた14)0
ヒルゼは,迅速 に請負人の権利保全が図 られるよう工事開始 とともに仮差押の 手続によ らず請負代金額の保全抵当請求権を請負人に与えるべ きだと提案する (但 し,荒建築 (Rohbau)完了後六カ月以内に登記 されなければ請求権 は失 効 し,又登記官が決定すべ き期間内に債務者の同意又 は債権者の手続により保 全抵当が普通抵当に切 り換え られなか ったときも職権によ り保全抵当は抹消 さ れる15))。他方 シュタウプは履行期の到来 した債権についてだけ普通抵当の請求 権を与え,その保全の為仮差押の要件の下でだけ保全抵当の請求を認めるべ き だ と説 く16)。いずれ も普通抵当ではな く抵当権登記 に公信力のない保全抵当を 選択す るのは,工事の積痕等により請負代金額が確定 しない前の土地所有者の 利害を考慮 してである。だか らヒルゼ もシュタウプも,仮差押 による登記手続 の権利保全の実効性への評価の違いはあるが,いずれ も土地所有者の一般債権 者,抵当権者に増価の限 りで請負人が本来優先すべきは当然 と考え,公示原則, 特 に抵当権者の取引の安全 との整合にだけ腐心 している。特に ヒルゼは,従前 のプロイセ ンで とは異なり現在 は自己資金で建築がなされるのではな く,土地 は建築開始前 に残金額抵当権 (Restkaufpreishypothek)に把握 されている ことが多 い点を指摘 し,その背後 にある不動産信用を計算に入れておかな くて はな らない17), と明言 している。 ところが大会の討論では,建築請負人の法定 抵当権は必ず しも全 ドイツで行われている訳ではない,前払い (Kaution)・分 割払いの約定により請負人は先履行を免れ る (又, これが 慣行),先行抵当の存 在故に法定抵当権 はあまり実効性がない,建築請負人の法定抵当の基礎である
14)Hi18e,a.a.0.,S.240ff.,Staub,a.a.0.,S.252ff. 15)Hilβe,a.a.0.,S.247.
16)Staub,a.a.0.,S.254ff. 17)Hilβe,a.a.0.,S.236.
転用物 (Versoin rem )思想 も絶対で はない等の反対が続 出 し18),議決で は 賛否20対20に議長 の反対票で否決 された19)。 しか し,当時盛行 しつつ あ った 建築詐欺及 び過当競争でその営業上の地位を脅か されていた建築業者及 び社会 団体の強い圧力があ り,再び この問題 は民法典制定過程で とりあげ られ ること
となる。
(3)民法典の第二読会では,法定抵当権の規定を置 くこと自体 に反対す る案 も 含 めて計五つの提案が叩 き台 とな っている20)。 まず以上五つの案 とは異 な り アメ リカ法, フランス法 に倣 った先行抵当に優先す る先取特権が退 け られた。
とい うのは, こういった先取特権が先行抵当権者 に損害を与えないのは建築が 現実に土地の増価 に寄与 した ときだが,建築計画の 目論見違い等 によ り増価 は 請負人の報酬請求額を下回る可能性がある。その結果 もた らされ る不安定 さが 登記の確実 さと明瞭さを損 い,先行抵当権者の不安感を招来す る。その結果建 築資金を供与す る者 はいな くな り,建築業界 は自ら与信可能な大企業の独 占に 至 る結果 とな る21), とい うのであ る。次 に五つの案の内一切請負人 に担保権 を与えないとい う案は除いて,建築開始前 に先取特権者 (たるべ き者)に対 し て弁済を求 める権利を先行抵 当権者 に与え るとい う土地改革同盟 (Bun°der Bodenreform)の提案 も,同様 にその弁済資金の用意で きる大企業の独 占を 招 くとい うことで退 け られた22)。 いずれに して も,先行抵 当に対す る優先権 を持つ先取特権 は ドイツの不動産信用 とは折 り合わない。又,請負人は仕事開 始前 に抵 当権の存在を知 って覚悟 して危険を犯 したのだか ら,不動産信用を犠 牲 に してまで保護す る必要 はない23), ともされてい る。その結果不動産信用 と衝突 しない法定抵当 として検討 されたのが三つの案である。 この提案 に即 し
18)Verhandlungen deszwanzigsten Deutschen Juristentages,Bd.Ⅳ., 1889,S.215ff.
19)A.a.0.,S.238.
20)Mugdan (BernoMugdan,DiegesamteMaterialienzum Btirgerlichen GesetzbuchftirdasDeutscheReich)Bd.2,1899,S.972ff.
21)Mugdan,a.a.0.,S.928. 22)Mugdan,a.a.0.,S.928.
23)Mugdan,a.a.0.,S.928f.
建築請負人 の債権担保 に関す る考察 27 て主に問題 となったのが,抵当権請求権の発生時期,抵当権の種類,請求権者 の範囲であった。工事開始前 に しか も契約締結後即座に抵当権請求権が発生す れば,請負人 には都合が良い。しか し注文者が建築資金の融資を必要 とすれば,
自ら信用供与できない請負人 は,他の信用供与者の為に自己の抵当権を放棄す るか順位を譲渡す るしかな くなる。他方報酬請求の履行期が到来す るまで請負 人は手を こまねいていな くてはな らないとい うの も妥 当ではない。その結果,
「建物の全部又 は一部の請負人 は,請負契約上の請求権の為 に土地に保全抵当 設定の請求権がある」に加えて 「請求権の履行期が到来 したときは,約定報酬 請求の内の既給付の労務に合致 した部分及びこれに含 まれない支出についてだ け,同上の請求権が帰属す る」という第五の提案 (とその補充提案を含めた も の) に落ちっ いた。抵当権の種類 は, 一登記 に公信力が認 め られ,抵 当証券
(Hypothekenbrief)の発行できる一流通抵当 (Verkehrshypothek)では な く,‑その債権の証明を登記ではな く債権証書で しな くてはな らない一保全 抵当 (Sicherungshypothek)がふ さわ しいとされた。 これ は土地所有者の 保護の為であ り,流通抵当は‑工事の堀庇等が問題 となり,報酬額 も確定 して いない一請負人 には過 ぎた保護であ り,又保全抵当は一種の仮差押抵当 (Ar‑
resthyhothek)だが債権保全の必要性の証明が免除 された ものだ とも説明さ れている24)。請求権者か らは,請負人 とは異 な り先履行義務を負わないとい う理由で,材料供給者 は除かれている。なお以上の議論 は注文者が土地所有者 だ ということを前提 としている。注文者 ≠土地所有者の ときは,請負人 は法定 抵当権取得の余地のない旨覚悟 して契約 した25), とされている。当然同様 の 理で下請人 も請求権者 とはな らない。
(4)議会の委員会及び総会 (Plenum)では,建築詐欺を背景に下請人,材料 供給者‑の保全抵当権付与の可否,及び先行抵当に優先す る先取特権の必要性 が今一度 とりあげ られている。委員会の議論では,材料供給者 は先履行義務を 負わない ことの他 にも,一般に資力を持 った者が多いと指摘 されて再度退 け ら
24)Mugdan,a.a.0.,S.929ff. 25)Mugdan,a.a.0.,S.930.
れた。他方下請人で は先履行義務,添付 によ る所有権喪失 の問題性 は元請人 と 変 らない点 は認 め られて い るが,注文者 の二重払 いの危 険(dieGefahrdop‑
pelterZahlungen)と三 者 間 の 非 常 な 困 難 と大 変 な 混 乱 につ な が る‑(zu auL3erordentlichenSchwierigkeitenundgroBenVerwirrungftihren), その結果注 文者 は 自前 で総 て施 工 で き る大 企 業 と しか契約 しな くな る とい
う独 占の危倶 か ら,同様 に抵 当権者 か ら外 され た26)。但 し,総 会 で は クニ ー (YonKuny)は下請人 の保護 に関 して建築詐欺対 策 の一環 と して特別法 に 委 ね るべ きだ と指 摘 して い る。 先 行抵 当 に優 先 す る先取 特権 は委 員会 で の 強 い反対 もあ り,総会 で は ほ とん ど と りあげ られ た形 跡 が ない。先行 抵 当 との関係 は公法 的規 制 を も含 め た建築 詐欺 対 策 が考 え られ るべ きだ とい う のが結論 で あ った27)。以上 の議 論 か らも,BGB§648が下請 人 は もとよ り 請負人一般 ,材料供給者等 の建築債権者 (Bauglaubiger)の保護 に不 充分
な ことは,立 法段 階か ら認識 されて いた。 しか し不 動 産信 用 の安 定 を支 え る登記 の公 示 ・順位 の原則 を守 る為 ,建築詐 欺 へ の対処 も含 めて 問題 解 決 は特別法 の制定へ と委 ね られ た と言え よ う。
2.(1)以上 のよ うな経緯 を経て,民法典制定の過程で も議会で は様 々な建築 詐欺対策 の特別法 の法案が提 出 された。 その最終 的な成果が前述 した1909年 の建築債権担保法 (GSB)であ るが,24回,26回の法曹大会 で は, そ こで出 された具体的な提案を叩 き台 として様 々な議論がな されてい る。 まず24回大会 の中心 テーマ とされたのは,請負人の権利を物的担保 とい う私法規定 によ って 守 るのか,それ とも公法上 の規律 に委ね るのか,であ った。鑑定者 は,エ ッケ ル ス (Eckels)とテ ィニ ウス (Thinius)で あ り,前者が公法 的規律 を,後 者 が私法規定 の優先 を説 いたが,最終 的 に大会 の討論 で は後者が支持 を受 け た。但 し,いずれ も従前の民法典の立法過程での議論 と決定的に異な っている
26)Mugdan,a.a.0.,S.1291.なお, ここでの三 当事者間の法律 関係 の錯綜への危 快 と,Motiveが転用物訴権 を退 けた際の理由 との相似性 に注 目されたい。前掲二 注(5)参照。
27)Mugdan,a.a.0.,S.1350ff.その他 の議論 は,先 に見 た第二読会 の議論 と大差 はない。
建築請負人 の債権担保 に関す る考察 29 の は,建築 詐 欺 に よ る請 負 人 の被 害 の甚大 さの認 識 と, そ こか ら単 に注文者 と 契 約 した元 請 人 だ けで はな く,建 築 の プ ロセ スを一 体 と して, つま り下請人, 材 料供 給者 等 の建 築 債 権者 総 て を保 護 しな けれ ば な らな い とい う視角 を打 ち出
して い る点 で あ る。
(2)エ ッケル スの鑑 定意 見 は二 つ あ るが ,第 一 の それで エ ッケ ルスは先行抵 当 権 者 に対 し増 価 の限 りで優 先 す る法 定抵 当を請 負 人 に与 え る という提案 を批判 す る。 確 か に BGB §648は更 地 価 格 以 上 の担 保 価 値 を把 捉 す る先行抵 当権者 の建築 詐欺 の前 に は全 く無 力 で あ る。 しか し,他 方 で優 先 効 を伴 う法定抵 当権 も不 動 産 信 用 及 び抵 当の流 通 (Hypothekenverkehr) を害 す るか ら容認 で き な い, とい うの が エ ッケ ル ス の 見 解 で あ る28)。 そ こで エ ッケ ルス は,土 地 の 増価 は本 来 請 負 人 の給 付 に 由来 す る とい う優 先権 付 法 定抵 当の基礎 とな る思考 図式 (転 用 物 思想 ) に反 論 す る為 ,抵 当の流 通 の安 全 に加 えて ,土地所有者 の 処分 の 自由 とい う論 点 を持 ち出 して い る。例 え ば,土 地 所 有者 が自己の建物 の あ る土 地 の一 部 (磨)を2万 マ ル クで売 却 し,その 旨 (残 金額 抵当 と して)登 記 す る。土 地 の客観 的価格 は 1万 マル クだ が , 2万 マ ル クの売却額 の意味 は, 売却 地 へ の新 築によ り自己所 有 地 へ の採 光 等 が 悪 化 した分 の損 害 賠 償 が 1万 マ ル クとされ たからで あ る。だ か ら請 負 人 が土 地 評 価 額 1万 マ ル クを超 え る増 価 につ き優先 弁済を受 け ると,売 主 た る土 地 所 有 者 の所 有 権 の処 分 の 自由を侵 害 す る と言 うのである29)。エ ッケ ル ス の この 奇 妙 な議 論 は とて も説 得 力 を 持 つ もの とは言 い難い。土地を 2万 マ ル クで処 分 す る こ とは確 か に 自 由で あ ろ うが (買 主 が い るか否か は別と して ) ,そ の債 務 を 2万 マ ル クまで 抵 当権 で 回 収 し よ うとい うのは,建築 がな けれ ば 1万 マ ル クの土 地 だ か ら,建 築 した請 負 人 の 利 益 を害 してお り, そ の限 りで 建 築 詐 欺 と変 らな い と も考 え られ るか らで あ る。 しか し,このこ とは逆 に, 抵 当取 引 の安 全 と抵 当権 の公 示 の信 用 が 如 何 に ドイ ツ法 で絶対視されてい たか , その為 に順 位 の原 則 が 動 かす べ か らざ る もの と評価 され ていたか を強 く印象 づ け る。第 二 の鑑 定 意 見 で はエ ッケル ス は, 第 28)Eckels,Fn.(9),S.174ff
29)Eckels,a.a.0.,S.183.
‑ の鑑定意見で とりあげた提案が法律案 と して公表 された (1897年 の司法委 員全案)のを受 けて,再度 の批判を試 みて いる30)。同法案 の概要 は,建築前 に建築債権者 の建築記入 (Bauvermerk)が土地登記簿 に記入 され,その際 に建築陪審 (Bausch6ffenam t)によ って土地価格が算定 され る。建築記入 がなされて六 カ月以内に土地所有者の同意又 は裁判手続 により登記 されると, 建築債権者 は保全抵当権を取得す る。保全抵当は建築記入 された時点での順位 を取得 し,又土地増価の限 りで先行抵 当に も優先す る。複数の建築債権者が保 全抵当を取得 した場合,保全抵当権相互間では順位 は平等 となる。建築債権者 となるのは,土地所有者 たる注文者 (乃至 はその代理人) と直接契約 した請負 人乃至 は雇用契約 に基づいて労務を提供 した者で,下請人,材料供給者 は除か れ る。保全抵当権請求権の予めの放棄 は無効 とされ る。同法 は地方条例でその 適用地域を定めた ときだけその地域で効力を持っ (つまり,建築詐欺の激 しい ところに限 っての適用を予定)31), とい った ものであ った。エ ッケルスはこ こで も,所有者が 自分で土地価格を評価,決定で きない こと,抵当取引の困難 故 に建築主 は大銀行 の独 占に至 ると指摘す る32)。又他方 同法案が下請人,材 料供給者 に法定抵 当権を与えていない点 も批判 している。 建築詐欺の被害 は元 請 より下請 において著 しい し,又材料供給者 も土地増価 に寄与 してお りしか も 請負人 と材料供給者 との区別 は困難だ と言 うのであ る33)。結局エ ッケルスは, 建築警察 (Baupolizei)内に設 け らるべ き建築陪審が建築主の信用が充分 な
ときにだけ建築許可を与え るとい う1896年の議会草案 (Wallbrechtの提案 に 由来す る)の公法的規律を,完全に建築詐欺を防止す るものではないが登記 シ ステムを担 うことが ない と推奨 してい る34)。 以上 のエ ッケルスの見解 は,抵 当取引を背景 とした ドイツの登記原則の固守であ り, これ と建築詐欺防止を調
30)Eckels,Verhandlungen desvierundzwanzigsten Deutschen Juristent‑ ages,BdⅢ (Gutachten),1898,S.103ff.,
31) Eckels,a.a.0.,S.103frに法文がそのまま示されている。
32) Eckels,a.a.0.,S.107ff. 33) Eckels,a.a.0.,S.109f.
34) Eckels,a.a.0‥S.111ff.,S.116.
建築請負人の債権担保に関する考察 31 整す る為 に公法的規律 による建築主の資力の担保が導 き出された と評す ること がで きよ う。
(3)テ ィニ ウスは24回法曹大会 の時点 (1897年)で 出そろ った提案を包括的 に検討 してお り,そ こでは建築債権担保 に関す るほとん ど総ての論点が とりあ げ られているが,冒頭でまず興味深い考察を加えている。即ち,建築詐欺 によ る請負人の被害が放置 されている為,却 って注文者の方 も信頼 に値す る請負人 と契約で きな くなっている。その結果,結局欠陥のある建物が高額の請負代金 によって建設 され,最終的には賃借人が高額の家賃を払 って欠陥住宅 に住む破 目にな る35), とい うのであ る。競争市場下で注文者 を 自由に選択で きない請 負人の負担を除かなければ,結局エ ン ドユーザーたる賃借人にその しわよせが くるとい うこの観察 は,建築請負人 の債権担保 を考え る上で現代的意義 を も 持 っていると思われ る。 とにか くティニ ウスは,公法的規律 と私法的規律 とに 分 けて様 々の提案を検討 し,前者を批判す る。その際に公法的規律の内検討の 中心 とされているのは,エ ッケルスの支持 した議会の草案である。テ ィニウス の詳細な批判を要約す ると,(1)本来問題 は請負人の債権担保の為の私法制度が 不充分な点に原因があるのだか ら,私法制度 の改正か ら始めるのが順序,(T3)官 庁が建築主の信用調査を して建築規制す るのは営業の 自由に反す る,い)調査を 担当すべ き建築陪審 にその為の能力を備えた人間が見つけ られ るのか,国建築 主の信用調査の為の情報入手が可能か,完全 な信用調査がで きるのか。故にこ の制度 自体充分ではな く,又,㈹官庁の調査 自体満足ではないのに,その存在 によ り却 って請負人 自身が注文者の信用調査を怠 る結果 とな らないのか,N現
在で も申請か ら2‑ 6カ月かか る建築許可が下 りるまでの期間が更に長期化す る,(ト)信用調査を厳格 に行 うと,大企業 にだけ建築許可が下 り,新規参入が阻 害 され る,(jj建築主 の資力が充分でない ときに要求 され る前払保証金 (Kau‑
tion)の為 に,資力のない業者程金利 に苦 しむ,(.))建築主 の信用調査結果が様 々 の悪影響 を もた らしかねない。例 えば,調査結果の秘密を どうや って守 るのか,
35)Thinius,VerhandlungendesvierundzwanzigstenDeutschenJuristent‑ ages,Bd.Ⅲ (Gutachten),S.51ff.,S.52.
(S)信用調査 はワラ人形 によ ってか い くぐることも可能,等で あ る36)。他方 で テ ィニ ウスは私法上 の制度 の出発点 を,土地増価 させた請負人以外 の債権者, 特 に先行抵 当権者がその増価か ら満足を受 けるのは不 当であると明言 し,かつ 現行制度 の欠陥を転用物
( N
titzlicheVerwendung)の制度 によ り訂正す る 点 にその意義 を求 めてい る37)。 その上 で幾つかの提案 を検討 し,.ユ ッケルス の反対す る1897年 の司法省案の基本的構造 を転用物 の理 に適 うと支持 し,又 施行地域 を地方条例 に任ねた点,その適用を新築 に制限す ることに も賛成 して いる。建築詐欺 は大都市 しか も新開地だけで盛行 してお り一般的に法規制す る の は不必要 かつ不動産信 用 に とって有害,改築 で は注文者 は充分 な資力が あ る,か らである。 しか し,テ ィニ ウス もユ ッケルス と同 じく同法案が材料供給 者 と下請人 に債権担保手段を与えていない点を批判す る。材料供給者 も増価 に 協力 してお り,かつ請負人 に現金決済を迫れば請負人 も困 る,又両者の区別 は しば しば困難 だか らであ る38)。 ところで,テ ィニ ウスが下請人 を担保権者 か ら排除す る点への批判,及 びその理 由とされ る不動産信用の阻害 に対す る反論 は非常に詳細 で しか も説得力があ ると思われ るので,以下 これを少 し詳 しく紹 介 したい。注文者 と直接の契約関係 に立たない下請人 に保全抵 当権を与えない理 由 とさ れ るのは,ティニ ウスの整理では,法律関係が こみ入 ること,不動産信用の阻 害,注文者 の二重払 いの危険,その結果 として注文者が大企業の請負人 としか 契約 しな くな るとい う独 占の危 険であ る39)。 更 に参照 され るのが,請負人保 護 の依 りどころ とな ってい る転用物
( N
titzlicheVerwendung)は民法典施行後 の今 日では,第三者 との契約上 の給付義務 (下請負契約 による元請人 に対 す る給付義務)があるときは排除 され ることにな ってお り,下請人の為 に機能 す る余地 はない とい う視角である。 ここでティニ ウスは転用物訴権を退 けたラ
36)Thinius,a.a.0.,S.55ff 37)Thinius,a.a.0.,S.64.
38)Thinius,a.a.0.,S.68ff. 39)Thinius,a.a.0.,S.76.
建築請負人 の債 権担保 に関す る考察 33
イ ヒ裁判所 (RG)の判例 と第三者 に対す る直接の不当利得返還請求を極めて 限 られた局面でだけ認めるBGB§822の規定を挙 げ,転用物訴権を現行法が 拒絶す る態度 は決 して過少評価で きない, としている40)。 しか し,ティニ ウ スは次の理由か ら強力に下請人保護を主張す る。まず建築詐欺の現状か らも下 請人保護 は絶対に必要である。仮に下請人に保全抵当権を与えないと,注文者 は意図的に中間者を括入 して請負人の担保を奪 う可能性があ り, これをBGB
§826で救済す るのは証明困難で不可能である。又契約上の給付が帰属 した第 三者 に対す る請求 は排除すべ しというの も絶対的な原則ではない。例えば傷害 保険の分野では,建築労働者 は直接の雇主だけではな く注文者 にも請求可能だ とい う例 もある。又建築請負で も注文者 は下請負契約 と全 く無関係か と言え ば,必ず しもそ うとは言いきれない。下請人に対 し不払いを犯すような信用に 値 しない元請人を注文者 は選んでお り, ここに注文者の何等かの義務 (違反) を観念で きない もので もない41)。 二重払 いの危険 も誇張 されている。 注文者 は元請人か ら下請人への支払いを確認 してか ら弁済するという約定を結ぶ こと
も可能だ し,下 請人 ・材料供給者‑の直接支払いを合意す る余地 もある。さら に,有効に建築記入 された債権だけに登記請求を制限す る,元請人の登記で き る債権額を下請人のそれを控除 した部分に限る等の措置で,二重払いの危険は 充分克服で きる42), とす る。不動産信用を害す るとい う危悦 もあた らない。
本来更地価格を超えて融資 した信用供与者 は投機 したのであ り保護 に値 しな い。確かに抵当証券取得者 は抵当証券 自体か らは建築記入を確かめようがない が,抵当証券の安全 は土地登記簿を見て確かめるべ きもので, しか もやがて建 物を含 まぬ更地だけを評価す るようになれば問題 は生 じない43), とされてい
40)Thinius,a.a.0.,S.77.なお,BGB§822は,Ⅹ ・Mか らM ・Yと契約連鎖 に より利得移動 した とき,Ⅹ・M間の契約無効,かつM・Y間の利得移動が無償で, よってⅩの不 当利得返還請求権 に対 してMが利得消滅を拡弁 (§818ⅢBGB)で き る場合 に限 ってⅩ・Yの直接請求を認めるとい う規定である。即 ち,反対 にⅩの直 接請求 (Durchgriff)は原則 として容認 され得 ないとい うことになる。
41)Thinius,a.a.0‥ S.77ff. 42)Thinius,a.a.0.,S.81f. 43)Thinius,a.a.0.,S.85ff.
る。証券化 された抵当取引に対す る評価を別 とすれば,以上のティニウスの議 論がスイス法での請負人の法定抵当権の基礎づけと酷似 していることは驚 くば か りである。
(4)大会の討論ではティニウスを支持す ることを前提に,ブル ンナ‑ (Brun‑
ner)の三つの動議の内,法の施行を新築の多 く行われ る地域(Neubaubezirk) に限ること,及び注文者 と直接の契約関係 に立たない請負人 (下請人)はその 契約相手方 (元請人)の注文者への債権に対 して建築記入により質権を取得す るとい う二つが賛成を得た。後者は,言 うまで もな く注文者の二重払いの防止 策であ り,かつニ ューヨーク方式のメカニ ックス ・リーエ ンを参照 した結果で ある。他方,今一つ先行抵当の債権額が更地価格を上回る場合,その差額が預 託 さるべ きだ (差額保証金,Differenzkaution)とい う動議 は,手続 きの繁 雑 さ故 に退 け られている44)。 即 ち,特別法 は建築詐欺 に焦点をあわせて建築 債権者全体を救済す る私法規定‑, しか も注文者の二重払いを防止 し,登記 シ
ステムとの調和を計 る方向で彫琢 され始めたのである。
3.こうした様 々の議論の後1901年,政府 は建築債権担保法の第二草案を 提示 し,見解の対立す る部分 はA案の後 に B案を付記 して公表 した45)。 この B案が,最終的にGSB‑ とつなが ったのである。1897年の司法省案 との違い は24回法曹大会で 日の 目を見なか った差額保証金の復活である(§ 1)I.即ち, 更地価格を超える抵当債権額を差額保証金 として供託 しては じめて建築許可が 下 りる。 この制度 により,建築債権者の建築記入は先行抵当への優先効を付与 されず順位の原則に服 して も,更地以上の増価分 は建築債権者の満足の為 に確 保 される。A案 とB案の違いは, B案がA案 と異な り材料供給者,下請人を も 建築債権者に含む点 (§6)‑注文者 と直接の契約関係 に立たない下請人の優 先権 は元請人の建築債権への法定質権 という形で確保 され る (§15)‑,及び 一定の場合 に注文者の他の債権者‑の支払いに異議を唱える権利 (建築金支払
44)VerhandlungendesvierundzwanzigstenDeutschenJuristentages,Bd.
Ⅳ,1898,S.35ff.
45)Garnier,Verhandlungen dessechsundzwanzigsten Deutschen Juris‑
tentages,Bd.Ⅱ,1902,S.54ffのS.92ff.に両案が掲載されている。