フランス消費者倒産の実務 ( 上)
町 村 泰 貴
序
[1]
消費者倒産立法 に至 る問題状況
[2] ネイエルツ法[3]
構成 と文献
‑ 旧法の下での実務運用
[1]申立
A.
申立資格
B.
財産状態
C.誠実 さ
D.
手 続の選択
[2]
和解的整理
A.委員会の活動
B.
債権者の類型別対応
C.
合意成立 ・不成立の原因
D.
強制執行 の仮停止 付 ・和解的整理 申立書
序
l1
]消費者倒産立法に至る開港状況
わが国で消費者倒産がクローズアップされたのは,無担保かつ高利の消費者 金融,いわゆるサラ金の普及に続いて生 じたサラ金地獄 と呼ばれる現象以来で ある。その後 さらにクレジット・カー ドなどの消費者金融の普及拡大に不況が
〔253〕
加わって,再び返済能力 を超 える過大な融資の破綻が増大 し,その予防 ととも に整理方法が重要な問題 となって きた。 これに対 して現在,和議法 による和議 が消費者倒産整理に適合的でないことか ら,清算型倒産処理法である破産法 を 適用 し,免責 を濃やかに認めることで消費者の更生につなげてい く方法,およ び民事調停手続 によ り債務整理 を図る,いわゆるサ ラ金調停が活用 されている。
もっとも破産免責は本来画一的な処理 を予定 していて,消費者倒産の更生手段 としては柔軟 さに欠ける
。またサラ金調停 は合意に基づ く手続である点で限界 がある
。か くして消費者信用の普及拡大が進む中,返済不能に陥った消費者の経済的 更生のための手続は立法論 も含めた検討が必要 とされているということがで き
る。
ところで,わが国の ような消費者金融の急速な拡大 に伴い過重な債務負担の ため返済不能に陥る債務者が増大す る現象 は,フランスで もみ られた
。1980年 代か ら消費者金融が年
40%もの伸 びを記録 してい く中で,
1988年の段 階で貸金 の
80‑85%は無事支払われるが,
5‑10%は支払遅延 をきた し,
3‑ 4%は深 亥は 弁済困難 となると指摘 されていた
1)。 こうした現象 は法的な債権 回収事件 の増大 を もた らす。 当時 の新 聞の特 集記事 には,支払命令
conjunctionde payerの利用が
1970年 には
25万件だったのに対 して
1986年 には
70万件 に上 っ
ているとい う例が挙 げ られている
。この事件増大 は裁判所の負担過重 をもた らすのみならず, 司法制度上の大 きな問題 とな り,いわゆる制度的債権者 ( 銀行, 保険会社,不動産開発業者) による司法の道具化が進行中であるとマスコミで 伝 えられた
2)0
と こ ろが, 商 人破 産 主 義 を とる フ ラ ンス で は,本 来 の倒 産 処 理 手 続
1)RapportparPierreLEQUILLER,loc.
°
it.,p.8,Lecreditatoutprix,L'EXPRESS,
mars1988など参照。
2)LeMondediplomatique,aoat,1988,p.14.
我が国においても簡易裁判所が金融機関
の取立機関と化しているとの指摘がなされることがあるが,これと軌を一にするも
のである。
フランス消費者倒産の実務 ( 上)
255 proc色durecouective3)の適用範 囲が法人の他 ,商人,職人,農民お よび有責 な 理事へ の手続 の拡張 に限 られ, これ以外 の 自然人 を対象 とす る倒産処理手続 は アルザス ・モーゼル地方の例外
4)を除 けば存在 しなか った。
民法典 には
deconfiture5)とい う言葉 が, い わゆ る民事破 産
faillitecivileを指す もの として用 い られてい るが,その手続 はお ろか定義す ら,民法典 に規 定 されているわけではない。
個 別 の債権 債務 関係 で は,民 法典
1244条
(1991年改正 後 は1
244‑1粂 ない し
1244‑3粂) に,本来の弁済が 困難 となった債務者 に対 して,一定の要件 の下で 弁済 の猶予 を付 与す る 「 恩 恵 的猶予
delaidegrace」が置かれてお り,その猶予 の付与手続 は新民事 訴訟法典51
0粂 ない し
513条が定めてい る
。この規定 は, 制定当初 ,極 めて例外 的で限定的 な制度 と解 され, ほ とん ど用 い られなか った が,今世紀 に入 って活用 され始 めた。特 に近年 の消 費者保護立法
6)との関連 で 経済的危機 に陥 った消費者 の更生 のための制度 と位置づ け られ,重要 な意義 を
3) Loino85‑98du25janvier1985relativeauredressementetえlaliquidation judiciairesdesentreprises.
この法律の試訳 として,佐藤鉄男 ‑町村泰貴
「1985年
のフランス倒産法に関する注文の翻訳 (
1‑ 4)」北大法学論集3
8巻3号5
78頁,
4号1
024頁,3
9巻1号2
48頁,
3号
820頁。なお同法および企業倒産における和解的整 理手続を定めた
1984年
3月1日法律8
4‑148号は
,1994年
6月10日法律9
4‑475号によ
り大幅な改正が施されている。改正後の法律を紹介するものとして,西
揮宗英「1994年フランス倒産法改正について」青山法学論集3
6巻2・3号1
89頁。なお以下で企 業倒産法 という場合は,これらの総称として用いる
。4)1985
年
1月25日法律8
5‑98号1
76条以下。 ∫ . ‑
LVALLENS,Lafaillitecivile,JCP.1989.ed.G.Ⅰ.3387
が詳 しい
。5) VALLENS,ibid,n.27,DenysMÅ
s
,Del'extensiondelafailliteaud6biteurcivi l ,
LesPetitesAffiches,8nov.1989(n.134),p.9,Encycl.Dalloz,Droitcivil,not .
≪Deconfiture>
, など参照。この言葉はしばしば家資分散 と訳されるが,ここで見 るように手続を指す言葉ではない。民法典に現れているのは
,1276条 ( 免責的債務 引受の旧債務者が責任を負う事由)
,1613条 ( 売買の不安の抗弁)
,1913条 ( 元本償 還義務のない定期金契約で元本償還義務が生 じる場合)
,2003条 ( 委任の終了事由),
2032条 ( 保証人の事前求償権)である。
6) Loino78‑22du10janvier1978relative
え
l'informationeta1aprotectiondes consommateursdansledomainedecertainesoperationsdecredit.および
Loi no79‑596du13juillet1979relativeaIaprotectionetえ
1'informationdes emprunteursdamsledomaineimmobilier.一般にl
oiScrivenerと呼ばれる。
有 す るに至 って い る7)。
さ らに賃金債 権 に対 す る執 行 手続 (労働 法典L.145‑1条以下 お よびR.145‑1 条 以下)ち,多 数債 権 者 の参加 に よ りミニ倒 産処 理 手続 の様 相 を呈 す る こ とが 考 え られ る。給 与生 活 者 が債 務者 とな る場合 ,将 来 の給 与収 入 を借用 の対象 と
して金融 が な され るので,給 与債権 に対 す る執行 手続 に債権 者 が集 中せ ざる を 得 ないのが通常 で あ る。 そ こで フ ラ ンス労働 法典 に規 定 された貸金債 権 執行 で は,和 解勧 試 の前 置 と,債 権 者 の多 数決 に よる差押解 除制 度 を設 け ていた8)。 た だ し1991年 の新 民事執 行 手続 法 お よび同法付 属 デ ク レは,和 解勧 試 の前 置 を 受 け継 い だ もの の, 旧法 に見 られ た多 数決 は廃 止 し,利 息 の低 減 また は元本へ の優 先充 当の決 定 と合 意 に よる差押解 除の余 地 を規 定す るに と どめて い る9)0
[2
]ネイエルツ法
要 す る に個 別 関係 で の債 務調 整制 度 はい くつ か あ ったが ,集 団的 な倒 産処 理 の 途 が 消 費 者 に は 閉 ざ さ れ て い た。 そ こ で , 政 府 は 消 費 問 題 担 当 次 官 VeroniqueNeiertz夫 人 の イニ シアテ ィブの下 で立 法 に着 手 した。 まず,1988 年6月 ,金融 調査 会 Conseilnationalducreditに実 態調査 を求 め,収 入 の600/o 以上 もの返 済義務 を負 ってい る家庭 が20万 世帯 に もの は る との報 告 を得 る と,
これ を跨 まえて消 費者倒 産 に対 す る法 案 を議会 に緊急提 出 し,1989年末 に法律 と して成立 した。 そ して以下 に列挙 す る よ うなデ ク レお よび通 達 とと もに1990 年3月1日よ り施行 され た。 これが フ ラ ンス初 の消 費者倒 産処 理 法 で あ り,推 進 者 の名 を とって ネイエ ル ツ法 と呼 ばれ る。
・Loino89‑1010du31d色cembre1989relativealapreventionetau 7)この債務猶予に関 しては,拙稿 「恩恵的債務猶予の現代的意義‑1991年のフランス
民法1244粂改正について‑」本誌46巻4号129頁以下参照。
8)労働法典 (1991年法および1992年デクレによる改正前)L.145‑4条およびR.145‑16 条。なお1991年改正前の賃金差押制度については,山本和彦 「消費者信用における 貸金の責任財産性の検討」三ケ月古稀記念下279頁参照。
9)同法典L.145‑13条およびR.145‑25条参照。なお1991年の新民事執行手続法につい ては次注参照。
フランス消費者倒産の実務 ( 上)
257 r色glementdesdifficulteslikesausurendettementdesparticuliersetdes families・D6cretno90‑175du21f色vrier1990relativeAl'applicationdutitrelerde laloino89‑1010du31decembre1989relativeえlapreventionetau r色glementdesdifficultes
l i
eesausurendettementdesparticuliersetdes familles・Circulairedu21f色vrier1990relative良l'applicationdelaloino89‑1010du 31decembre1989relativealapreventionetaur色glementdesdifficult6s lieesausurendettementdesparticuliersetdesfamilles.D.S.1990.L.238
・Circulairedu30novembre1990relativeal'harmonisationdesm6thodes
detravaildescommissiondepartementalesd'examendessituationsde surendettementdesparticuliersetdesfamilles,JCP.1990.色d.G.
Ⅰ Ⅰ
Ⅰ.64360,D.S.199
1 .
L.30.このネイエル ツ法 は
1991年 の民事執行手続法
10)に よる若干 の手直 しを経 て,
1993年 か らは様 々な消 費者保 護立 法 を と りま とめた消 費法典
Codedelacon‑sommation
の なか に組 み込 まれてい る
11)。ネイエ ルツ法 は緊急提案 された法律 であ って,制定時か ら実験 的 な もの とさ れ,施行後
2年 の段 階で行 われた実態調査 の報告書 ( いわゆる レロ ン報告) に 基づいて種 々の改正が検討 された。 そ して施行後
4年の
1994年 には改正案が議 会 で可決 され,意法 院の審査 をは さんで
1995年
2月
8日法律
95‑125号
12)とし
10) Loino91‑650du9juillet1991portantr6formedesprocedurescivilesd'execution.
この法律の
5粂以下により執行裁判官
juged'executionが実質的に新 設され,ネイエルツ法の手続の管轄裁判官 も執行裁判官 とされた ( 同法
95粂) 。な お以後同法は民事執行手続法と呼ぶ。
ll)Loino93‑949du26juillet1993relativeaucodedelaconsommation(partie Legislative)JO27juillet1993,p.10538.
この法律 による消費者法典は法律部のみ
で,本稿執筆時点ではいまだ規則部が定められていない。本稿では同法典からの引
用 をL.*
*‑*条とのみ記す。
12)Loino95‑125du8fevrier1995relativeal'Organisationdesjuridictionsetala
て公布 された。
この改正の要点は,従来の手続が特別の行政委貞会の下で債権者 と債務者が 再建計画の合意 を 目指す和解的整理
r色glementamiableと,裁判官の下で強 制的に再建計画が決定 される裁判上の民事更生
redressementjudiciairecivilとの二本建 てであったところを,行政委貞会の下での手続に一本化 し,従来裁 判官の権 限であった更生措置
mesuresderedressementの決定 も行政委員会 が勧告
recommandationという形で行 うこととした点にある。
[3
】構成 と文献
本稿 は,
[1]で述べ たようにわが国で も新たな消費者倒産立法が必要であ るとの問題意識の もとで,その検討素材 として, フランスにおける個人倒産処 理法制の動向を取 り上げようとするものである。
まず旧法の下での実務が どのようなものであったかをまとめる ( ‑)が,旧 法の内容 はす ぐ次に掲 げるように既 に詳細 な紹介がなされているので,規定の 紹介は必要な限度にとどめ,実務の運用 を中心 に取 り上げる。次いで1
995年改 正法の具体的内容 と問題点について検討する ( 二) 0
なお本稿 を草するに際 して参照 したネイエルツ法お よび1
995年改正法に関係 する主要 な文献 をここで掲げてお く。 ここに掲げた文献 は原則 として著者名の みにより引用す る
。( ネイエルツ法準備資料)
‑ RapportparJeanSIMONIN.JOSenat,89‑90,no40.
‑
RapportparPierreLEQUILLER,JOA.N.89‑90,no1049, (1995年改正法準備資料)
‑
RapportparPierreFAUCHON.JOSenat,94‑95,no30.‑
Projetdeloi
,JOA.S.no1335.‑ AvisparYvonJACOB,JO.A.N.,no1419
procedurecivile,penaleetadministrative,JOLoietDecret,9fevrier 1995,p.2175.
拙稿 「 試訳 ・フランス消費者倒産処理法」本誌
47巻 1号269頁。フランス消費者倒産の実務 (上) 259
( 議会報告)
‑
RogerLERON,Surendettementdesmanages,Rapportsurl'application delaloino8911010du31d6C.1989relativealapreventionetaur主glement desdifficult6slieesausurendettementdesparticuliersetdesfamilles,JO Brochureno4184.( 実態調査報告書)
‑
PascalANCEL(rep),L'applicationdelaloidu31decembre1989par lestribunauxd'instance,L'exempledecinqtribunauxdelaregion Rhらne‑AIpes,UniversiteJeanMonnet(教科書 ,モ ノグラフ ィー)
一 一一
JeanCALAIS‑AULOY,Droitdelaconsommation,3eed.1992,Pr6cis Dalloz.‑‑
JacquelineJAMET,Lesurendettementdesparticuliers,1990,Mont‑ chrestien.( 解説,論文)
‑
YvesCHAPUT,Surendettementdesparticuliersetdesfamilles,Juris‑Classeur,Commercial,Fasc.1710
,
(1991)‑
PierreMichelLE CORRE,Tribunald'instance,Surendettementdes particuliers,Juris‑Classeur,Proc.civ.Fasc.388,(1992).‑
Jean‑JacquesDAIGRE,CommentairedelaloiNeiertz,Lereglement desdifficul蛤sdesmanagessurendettes,Rev.Huiss.1990,pp.642,801,849.( 改正提案および改正法の解説)
‑
Jean‑LucVALLENS,Laloino89‑1010du31decembre1989Surle surendettementdesparticuliers:unereforrpenecessaire,ALD1992,com,173
,
‑ GillesPAISANT,LajurisprudencedelaCourdecassationetlaques‑ tiondelareformedelaloisurlesurendettementdesparticuliers,D.S.
1994,chr.173,
‑
Pierre‑LaurentCHATAINetFredericFERRIERE,Lenoヽ uveauregime detraitementdessituationsdesurendettementdesparticuliersissudelaloi no95‑125du8fevrier1995,D.S.1996,chr.39,
‑
GillesPAISANT,Introductionalareformedelaproc色durede traitementdessituationsdesurendettementparlaloidu8fevrier1995,
(ChroniquesdelegislationetdejurisprudencefranGaises),RTDCom.,
48.2.474.
‑
GillesPAISANT,Notesurled色cretdu9mai1995relatifえIaprocedure detraitementdessituationsdesurendettement,(Chroniquesdel
色giSlation etdejurisprudencefranGaises),RTDCom.,48.3.649.( 邦語文献)
‑ 西洋宗英 「フランスの消費者倒産立法 について」 ( 西洋 ・立法 として引用 す る)杏林社会科学研究第
9巻
1号
1頁
(1992)‑ 同 「フランス消費者倒産法 における 「 誠意のある
(debonnefoi)」債務 者の概念」 ( 西津 ・誠意 として引用す る) 中野貞一郎 ・石川明編 『 民事手続法 の改革
』 (1995,倍 山社)
319頁
‑ 山本和彦 「フランスにおける消費者倒産の処理 と予防‑ いわゆるネエル ツ法 の紹介 を中心 として‑ 」 ( 山本 ・紹介 として引用す る)法学
57巻
6号
111頁
(1994)一 旧法 の下 で の実務運 用
日
】申立
ネイエルツ法の手続 は,「自然人の債務過重
surendettementの状態,す な
わち誠実
13)な債務者 に とって,職業外 の債務 の全部 を弁済期 に支払 うことが
明 らかに不可能 と定義 される状態」 を開始要件 としていた ( 旧
し.331‑2条お よ
13)bonnefoiは 「 善意」と訳されるのが普通だが,ここでは知 ・不知よりも債務負担
の軽率さなど債務者の態度の評価のニュアンスを込めて,誠実とする。
フランス消費者倒産の実務 (上) 261 び旧し.332‑1条)。従 って旧法 にお け る和解 的整理 と民事 更生 との両 手続 に共 通す る実体 的 な開始要件 は, 自然人 たる債務者が,誠実 であ りなが ら,職業外 の債務 につ いて債務過重状態 にあ ることの
3
つ にま とめ られる。A.申立資格
自然人 であ って も,商人 commerGant,職人 artisan,農業事業者 agricul‑
teurは企 業 倒 産 法 の 適 用 が あ り, ネ イエ ル ツ法 の 適 用 を排 除 され る (旧 し.333‑3粂)14)。 この 申立 資格 と後述す る負債 の種類 の制約 に よ り,「消費者」
の倒産 を適用対象 としてい る とい うことが導 き出 され るが,法文上 は 「消 費者」
と明示 されてい るわけではない15)0
ところで ネイエ ル ツ法 の表題 は, 「個人 お よび家庭 の債務過重」 とあ るが, 家族単位 による手続 が考 え られてい るわけではな く16),対象 は各個人であ る。
フラ ンス銀行各 支店 に備 え付 け られてい る申立用紙 の書式 (本稿付録参照) で ち, 申立人 と配偶者 ない し事実婚 のパ ー トナーの情報 を記載す る形式 を とって お り,共 同申立 を想定 した もので はない。 もっ とも夫婦 の一方のみの申立 の場 令 ,理論 的 には夫婦財 産関係 に応 じて特有財産 と共有財産,連帯債務 と固有 の 債務 との仕訳が必要 になる。 その仕訳 自体複雑 な作業 である上,共 同生活 を し てい る限 り夫婦 の一方 のみの財産 関係 の整理 では 目的 を達 しえない場合 も考 え られ る。 また夫婦 の一方が不誠実 であ る場合 や 旧し.333‑2条 の失権事 由が認め られる場合 にその配偶者が手続 の適用 を受 け られるか どうか とい う問題 も生 じ 14)1985
年
1月25日法律85‑98号第2条参照。農業事業者については,1988年
12月30日 法律88‑1202号により加えられた。なお,商人の配偶者に関して問題があったこと につ き,一山本 ・紹介832頁参照。自由業者についても,1984年3月
1日法35条によ る企業の和解的整理手続の対象者になりうる限度で問題があったが,1994年6月10日法律94‑475号による倒産法改正で適用対象に列挙されなかったため,自由業者に ネイエルツ法の手続が適用されることは疑いなくなったように考えられる。
15)一般に消費者 とは,「業務以外に使 うため物 またはサービスを入手 し,または利用 する者」 と定義される。J.CALAIS‑AULOY,n.3.なお消費者概念に関する文献 とし て,G.PAYSANT,Essaisurlanotiondeconsommateurendroitpositif,JCP ed.G,1993.Ⅰ.4655.
16)Y.CHAPUT,n.9.
る
。そ こで夫婦一体 としての手続が望 ましい とす る指摘がある
17)0
実際にもローヌ ・アルプ地方の実態調査 では,和解的整理の調査対象事件 で 申立人が結婚 しているケースの うち,約86%が夫婦共同で申立 を行 ってお り, また一方のみの申立で も多 くのケースで裁判官 は財産関係 を厳密 に仕訳せず に 処理す る とされてい る
18)。また レロ ン議員 の議会報告 で も,1
991年
6月段 階 の調査 で は申立人の内43.
1%が カップルによる申立 となってお り19), さ らに 裁判上の民事更生で裁判官は,申立人 となっていない配偶者 に対 して職権 によ り手続 を開始す ることもあ ると指摘 されていた
20)。ただ し,逆 に,夫の被用 者 であった妻が夫 との離別後 に申 し立てた事例で,夫の財産状態 とは切 り離 し て債務過重状態の有無 を判断すべ きだ と判示す る例 も見 られる
21)。
a.
財産状態
ネイエルツ法 は 「 債務者が職業外 の債務 で弁済期の到来 した ものお よび弁済 期 の到来す るものの全 てを支払 うことが明 らかに不可能 とされる状態
」を債務 過重 と定義 してお り, この文言は199
5年の改正 においで もそのまま維持 されて いる
(L.331‑2条
)0この
surendettementとい う言葉 は新 しい概念 で,立法準備段階では特 に定 義 をめ ぐってい くつかの考 え方が示 された。 まず数量的 に,収入に対す る負債 の割合で基準 を作 った り,債務償還後の可処分額 を指標 として基準 を作 る考 え 方,あるいは家計 における支出超過の度合 いを指標 とす る考 え方 な どが提案 さ
17) MartineLELIVEC‑TOURNEUX,Surendettementdesparticuliersetr色gimes matrimoniaux,JCP1993.ed.N,Ⅰ.p.
1
.またJ .
JAMET,p.17は,表題の 「 家族」という 語が上院審議中の修正によるものであることを指摘 し,夫婦同時の手続を考えるこ とができるとしている。なお従来の商事倒産手続では,夫婦が共同で商業を営んで いたケースにつき共同の申立 と処理 とを認めてきた。
MichelJEANTIN,Droit commercial,3e6d.1992,Pr6cisDalloz,n.572参照。18) ANCEL,p.45.
19) L丘RON,p.151.annexeV
Ⅲ の申立人性別表による。
20) L丘RON,p.45.
職権による手続開始は旧L.
332‑1粂 3頁に規定されている0
21) TI.Paris,19mars1990,G.P.1990.1.285,noteD.PRONIER.フランス消費者倒産の実務 (上) 263 れ た。 さ らに,債務 が膨 らむ こ とに よって,返済 すべ き額 が世帯 の恒 常 的収入
と両 立 しな くなる まで増 大 した状 態 を積極 的債務 過重 と し,事故 や病気 ,失業 な ど収入 の減少 に よって返済 が困難 となった状態 を消極 的債務 過重 と区別 して 基準 に結 びつ け る考 え方が提 唱 され た。結局立法 において は,法文 に債務 と収 入 との一 定割合 の 明示 な ど明確 な基 準 を立 て る こ とは放 棄 され, ケースバ イ ケースの判 断 に委 ね られた22)0
ローヌ ・アル プ地方 の実態調査 に よれ ば,裁判 上 の民事更生 の開始 の判 断 に 際 して裁判 官 は, まず債務者 の月収 と支払負担 の月額 とを計算 して返済可能性 を考慮す る。 しか し,負 債 の返済が滞 った時点で期 限の利益 を失 うため に,過 常時 の返済 月額 をその まま判 断資料 にで きない こ とが多 い。他 方で恒 常 的収入 のみ な らず処分可 能 な財 産 の売却 に よる返 済可能性 も考慮 す る。 従 って月収 と 月 ご との返済額 との比較 とい った単純計算 で画一 的 に処 理 され てい るわけで は ない。本稿付録 の 申立書 に見 られ る ように, 申立 人 に よる積極 財産 ・消極財 産 の両方 の詳細 な 申告 に基 づ き,実質 的 な支払可能性 を判 断 してい る23)。
債 務過重状態 と区別 すべ き概 念 には,支払停止 cessation despaiementsお よび債務超 過 insolvabiliteが あ る。
支払停止 は,企業 の更 生清算 の手続 開始 要件 で あ り,処分可 能 な積極財 産で 弁 済期 の到 来 した債 務 を支払 えない こ と24)と定義 され る。債 務 過重 が弁 済期 未到 来 の債務 につ いての支払 困難 を も考慮 に入 れ る点 で区別 され る25)。
債 務超 過 は消 極 財 産 が積 極 財 産 を上 回 って い る状 態 で あ る26)。 これ に対 し 22) RapportdeLEQUILLER,JOA.N.89‑90,nolO49,p.10.なおこの積極的債務過重 と
消極 的債 務過重 との 区別 は,分類概 念 と して も しば しば用 い られ てい る。 J.JAMET,n.24,および,山本 ・紹介832頁以下が詳 しい。
23) ANCELp.42.
24)1985
年
1月25日法律
85‑98号第
3条。
25) Y.CHAPUT,n.16.なおJ.CALAIS‑AULOY,n.416は 「債務過重は,必然的にいつ か支払停止を引き起こす。 しかし債務者がまだ支払を停止 していないときに債務過 重状態 と判断されることもあ りうる。逆に支払を停止 した債務者が債務過重状態に
ないこともあ りうる」 と説明 している。
26) Y.CHAPUT,n.16,∫.CALAIS‑AULOY,n.416
て債務過重は, 積極財産 を換価すれば支払 える場合 で も,その換価が有害であっ て事実上困難 な ときには認め られる
27)。 また債務超過 は特定の時点での評価 がなされるのに対 して,債務過重 は弁済期未到来の債務 について もその到来時 の支払可能性が評価 され, さらに将来の収入 について も評価 されるとい う点で
も異 なる
28)。
なお
1984年
3月
1日法律 による企業の和解 的整理の開始要件 は,「法的,経 済的 または金融上の困難,あるいは企業の可能性 に見合 った金融 によっては賄 えない必要が現れていること」で,「 支払停止ではない」状態
(35粂1項)である
。ネイエルツ法の債務過重 とよ く似 ているが,1984 年法 は和解的整理 の利用 を奨 励 しているのに対 して,ネイエルツ法の手続 は例外的救済である とされ
29), 両者 は次元が異なる。
債務過重か どうか を判断す る際 に考慮 に入れ られる債務 は,職業上の もので ないことが必要 とされている。商人,職人お よび農業事業者が除外 されること は前述 したが,他の倒産処理手続の適用 を受けない者であって も, 自由業者な ど職業上の債務 を負担す ることは有 り得 る。そ こで法の文言 に忠実 に解釈すれ ば,職業の遂行のために負担 した債務 は除外 して債務過重の有無 を評価すべ き こととなる。判例 も債務者の負担する債務 に職業上の ものが含 まれているとい うだけで却下す るのは遵法である とし
30),職業上の債務 を除いた上で債務過 重 と言 えるか どうか を判断せ よとしている
.。しか しなが ら, この ような債務の 区分 は様 々な困難 を伴 う
31)。 カレーオー ロワ教授 は明文 に もかかわ らず,職 業上の債務か否かを区別せず債務過重か どうか を判断すべ きだ とされるが
32),
27)Y.CHAPUT,ibid.
この点では我が国の会社更生法における開始原因を想起させる。
28) J.CHLAIS‑AULOY,ibid.
29) Y.CHAPUT,n.18.
30) Civ.18f岳vr.1992,Bull.civ
.
I,no56,31mars1992,Bull.civ.
I,no111.31) Civ.31mars1992,Bull.civ
.
Ⅰ,no485.そもそもこうした区分は民法
2092条による財産 の統一性原理との関係で問題があり,また住居兼事務所に使用 している建物の賃料 債務のように分類が困難なものがあることが挙げられる。
Y.CHAPUT,n.12ets
.,∫.CALAIS‑AULOY,n.416,
∫.JAMET,n.27など。
32) ∫.CALAIS‑AULOY,ibid.