地域創生と航空ネットワーク
山 﨑 朗
1 .資本主義の発展と航空 2 .世界化する市場 3 .日本の空港,航空の課題 4 .地方創生と空港,航空
1 .資本主義の発展と航空
( 1 )空間克服の歴史
資本主義発展の歴史は,空間克服(TamingofSpace)の歴史である1).だが,ミクロ経済学では 理論構築において,空間の存在を捨象している.そのため,生産工程や商取引における,人・モ ノ・情報の空間移動は理論の分析対象ではない.ミクロ経済学の理論モデルで前提とされた「市 場」は,「無空間市場」と定義できよう.空間の存在の捨象による理論化は,需要と供給による市 場メカニズムの解明にとっては有効であった.それは,空気の存在(空気抵抗)を捨象し,物体を 体積のない質量だけの「質点」として定義することによって理論化された力学の体系化法と共通し ている.
改めていうまでもなく,現実世界には,物理的距離(直線距離),時間距離(移動・輸送にかかる 時間コスト),経済的距離(物流コストや移動コスト),あるいは自然地理的条件,インフラの整備状 況,政治的条件によって物理的距離(直線距離)よりも長くなる道路距離,鉄道距離,海上距離,
飛行距離など,多様な距離,および世界各地で管轄空間(あるいは供給圏や利用圏)を有する国,
自治体,学校,企業,工場,公園が存在している.本社,支店,工場や公的機関(地方の運輸局な ど)は,特定のエリアを管轄権や供給圏として設定している.
移動・輸送・伝達の障壁となる山や谷などの自然地理的条件,および船での移動にとっては,自
1 ) 空間克服と経済発展の関係性については,山﨑朗・玉田洋編著『IT革命とモバイルの経済学』東洋経 済新報社,2000年の第一章を参照.‘TamingofSpace’ はマニング・クラーク『オーストラリアの歴史―
距離の暴虐を超えて』サイマル出版,1978年の原著において使用されており,日本語訳に「空間克服」
が充てられている.
動車にとっての「インフラ」ともみなせる川・海・湖といった空間の広がり,自然地理的条件が存 在している.陸上輸送と異なり,航空は,高い高度で飛行するため,他の輸送手段よりも直線に近 い短距離を移動できるという利点を有しているが,それは同時に空域といった立体的な空間も問題 となることを意味する.例えば,日本では,東京都内に立地している横田空港上空の横田空域や沖 縄県に立地している嘉手納空港上空の嘉手納空域のように,米軍機のみが飛行できる特別な空域が 設けられており,航路上の制約条件,さらには空港容量の理論上の最大化に対する制約条件(とく に羽田空港や那覇空港)として作用している.
資本主義は,石炭をエネルギー源としたワットによる蒸気機関の発明およびその応用を契機とし て発動したと考えられている.蒸気機関は,工場内の機械を動かす動力源としても使用された.輸 送・移動においても,蒸気船,蒸気機関車の動力源として利用され,輸送革命を引き起こした.蒸 気船,蒸気機関車という大規模かつ安定的でそれまでの輸送・移動手段よりも速い速度の移動・輸 送手段の登場は,移動・輸送コストを劇的に引き下げ,労働力,原材料調達先の地理的拡大はもと より,市場の地理的拡大を実現した.
つまり,蒸気機関は,空間を克服する新しい機械(蒸気船と蒸気機関車)の動力源となり,さら に大工場(大規模生産)や大企業,株式会社の存立基盤となったのである.また,石炭の利用,炭 田の開発は,ドイツのルール工業地帯のように,炭田地帯が工業地帯,人口集積地となる人口移動 や人口分布の変革も同時に引き起こした.
日本においてもこのメカニズムは一時,九州や北海道などの炭田地帯(その代表が夕張市である)
において,ある程度作用したものの,後発資本主義国である日本では蒸気機関への依存期間が短 く,生産工程における動力源の電力への移行が進んだため,欧米諸国ほど炭田地帯への工業・人口 の集中・集積は進まなかった.石炭から石油へというエネルギー革命が起こると,欧米や日本の炭 田地帯における失業率が上昇し,地域政策発動の契機となった.地域政策はイギリスから始まった とされているが,それはもっとも早く資本主義化し,石炭に依存する時間が長く,炭田地帯に人口 が集積していたからである.アームストロングとテイラーは,1920年代に局地的な失業問題に直面 したイギリスにおいて,地域政策が開始されたと論じている2).炭田地帯は,発展地域から問題地 域へと転換したのである.
日本においても炭鉱地帯に工業団地(雇用を増やす目的で)を整備するために1962年に整備され たのが,「産炭地域振興事業団」であった.
蒸気機関の活用は,人力,使役動物(役畜),風力,水力といった不安定で持続力が短く,小エ ネルギーの動力源からの脱却を意味する.
2 ) H・アームストロング,J・テイラー『地域振興の経済学』晃洋書房,1999年,199-200頁.
( 2 )航空による空間克服の特性
船,鉄道,自転車,二輪車,乗用車,バス,トラックといった空間克服手段のなかでも,山・
谷・川・海・湖・沼・池などの地表上の自然地理的制約条件に縛られず,出発地点から目的地まで ほぼ最短距離で移動でき,かつ高速(プロペラ機では時速約500km,ジェット機では時速約 1
,
000km3))で空間移動可能な移動・輸送手段は航空機のみである.ただし,航空機は,貨物列車,新幹線,コンテナ船やフェリー,クルーズ船と異なり,人やモノ の大量輸送には適していない.世界最大の貨物機でも200トン程度の輸送力しかない.新幹線のの ぞみの座席数は1,323席であるのに対して,ボーイング747-400の座席数は最大でも569席である
(国際線などでは座席数は,ファーストクラスやビジネスクラスの設置数によって航空会社ごとに異なる が,おおよそ400席となる).ANAが購入したエアバスのA380は国際線使用のため,座席数は520席 に設定されている.新幹線ののぞみの自由席車両では,乗車率200%程度まで乗客を乗せることが 可能である.世界でもっとも多く使用されているボーイング737の座席数は,130~160席程度(新 型の737-MAXの最大座席数は230席)である.
しかし,地表上に連続した線路や道路という連続したインフラを必要とする鉄道や自動車とは異 なり,空間上に点的(一定の長さは必要ではあるが)に整備された滑走路さえあれば,航空機は離 着陸可能である.非連続な点的な整備という点では,港湾と共通している.だが,港湾の整備に は,河川,湖,海などの水域との接続を必要とするため,空港ほど設置自由度は高くない.民間機 の利用はないものの,小型の航空機(戦闘機)は,空母を使えば陸地でなくとも離着陸できる.点 的整備と連続整備の差異は,連続的な電話線を必要とする旧式の固定電話と,点的なアンテナで通 信可能な携帯電話・スマートフォンとの技術的差異とも共通している.
つまり,航空機を活用すれば(航空機のサイズに応じた適切な長さの滑走路さえあれば),鉄道や 道路の整備されていない地域(離島や山地)にもダイレクトに,あるいは一度(場合によっては数 度)の乗り換えでアクセスできるのである.
1,508mの長さの滑走路しかないロンドンシティエアポートには,大西洋を横断する国際便の就 航は難しいと考えられていた.しかし,ブリティッシュ・エアウェイズは,2009年からエアバス A318型機を使用して,一度給油のためにアイルランドのシャノン空港に着陸するものの,ニュー ヨーク便を就航させた4).東京に当てはめれば,お台場に小さな空港があり,そこから直接北京に 飛ぶイメージである.着陸時には燃料が少なくなるニューヨークからの便は,直接ロンドンシティ エアポートに着陸している.ロンドンシティエアポートには,2017年からチューリッヒ便も就航し ている.日本の地方の県に建設された空港の滑走路は,2,000m以上の長さを有しており,滑走路
3 ) 弾道ミサイルの速度は,約25
,
000km/hであるが,利用は軍事用に限定されている.4 ) 座席はすべてビジネスクラスである.
の長さからだけでいえば,近距離国際線の就航には何ら問題はない.
ただし,航空輸送の欠点は 3 つあり,①短距離輸送に適していない点,②大量輸送できない点,
③(空間上にまばらに点的に設置されているがゆえに)空港へのアクセスに時間がかかり,さらに搭 乗手続き(安全の確保や持ち込み荷物の重量等の検査が必要なため)や駐機スポットまでの徒歩やバ スでの移動時間や航空機への搭乗に時間がかかる(航空機の構造上,航空機への搭乗口が少なく,機 内の通路が狭い)点にある.
航空ネットワークの成立には,山や川,海によって隔てられているという特殊な地理的条件の地 域を除くと,最低でも200km程度の空港間距離を必要とする.直線距離で200km強の距離にある 福岡市と韓国の釜山市の移動(海によって隔てられているという特殊な地理的条件ではあるが)で は,航空機(時刻表では50分だが,実際の飛行時間は20分程度)よりもビートルⅡ世というジェット フォイルの高速船(約 3 時間)の旅客数の方が多いようである.福岡空港は都心に近い位置に立地 しているが,釜山の空港は都心までの移動時間が 1 時間程度かかることも影響している.ビートル
Ⅱ世の定員も191名と多くはないことから,福岡とプサン間の航空輸送においては,上記の航空輸 送の欠点の①と③が作用しているといえよう.
四国の徳島空港と関西国際空港,神戸空港,伊丹空港間にも航空便は成立していない.徳島空港 から国際線の乗り換えとしては,国際線の多い羽田空港,中部空港,福岡空港での乗り換えを選択 することとなる.空港ネットワークは,近隣の大都市との関係性よりも遠隔地の大都市との関係性 を強める側面を有している.近年,福岡支店や九州支店が四国エリア全域を管轄権とする傾向がみ られるが,その理由は,福岡空港と四国の 4 つの空港との間に航空便が設定されているからだと思 われる.
航空移動においては,空港間に一定の距離が必要となるという点は,インターネットの高速デジ タル通信と決定的に異なっている5).インターネットによるデジタル通信は,距離にかかわらず低 コストでかつ高速である.
高速化すればするほど,ターミナル数が減少するというのは,陸上輸送・移動における特徴と なっている.在来線の駅数と新幹線の駅数との差異である.このように高速移動の起点数が制約さ れているため,ビジネス,観光,物流の拠点となる地域とそうでない地域の間での地域間格差が生 じる原因ともなる.大都市は,空港や新幹線の駅(のぞみなどが停車する)を有している交通の結 節点である.地方中枢都市と呼ばれている札幌市,仙台市,広島市,福岡市のなかで,福岡市の人 口増加率や経済成長率が高い背景には,市内に空港と新幹線の駅があることも影響している.福岡 空港までは博多駅から市営地下鉄で 5 分である.札幌市には新幹線の駅がなく,空港も千歳市にあ
5 ) デジタル情報の空間移動のコストは,距離比例的ではない.この点もまた,アトムの輸送とは決定的 に異なる.
る.広島市には新幹線の駅はあるものの,空港は市内から移転しており,東広島市にある空港まで 鉄道で移動できない.仙台市も市内には空港はないものの,仙台空港には鉄道が乗り入れるように なっており,また民営化されたこともあり,高速移動の起点としてさらに発展が期待できる.
実は,これらの航空機の欠点は,本稿が課題としている地域(人口の少ない地域や離島)にとっ ては,問題とはならない.逆に,航空機は大量輸送機関ではないがゆえに,新幹線や高速道路が整 備できない地方や離島においても成立しうる高速移動手段となりうるのである.
また,道路や鉄道と異なり,地表上の連続したインフラ整備を必要としない空間克服手段である 航空機は,地域を国内外の(遠距離の)都市と連結するための多様な航空ネットワークを形成しう る唯一の交通モードである.とくに,ヨーロッパ大陸やアメリカ大陸,東南アジア地域などのよう に陸路で海外とつながっていない日本においては,国際航空路線は,国際フェリーやクルーズ船を 除くと,海外との交流にとってもっとも重要かつ不可欠なルートとなっている.
( 3 )国,地域の発展を規定する航空輸送
国,地域6)の経済発展は,道路・線路・港・空港といった空間克服用のインフラの整備,輸送用 機器・情報通信機器製造業の発展度,および輸送・物流サービス業の水準によって規定される.欧 米諸国よりも遅れて資本主義化した日本は,線路の敷設や高速道路の整備では欧米の先進国よりも 後れをとったものの,船舶,二輪車,自動車,ラジオ,テレビ,ファックスの製造では,世界 1 位 の生産国にまで上り詰めた歴史を有している.
新幹線という高速鉄道では,車両製造,運行システムの開発においては,他の先進国を凌駕して きた.インド(日本の新幹線を採用予定),タイ,マレーシア,インドネシア(中国の新幹線を採用)
などの発展途上国も,ようやく高速鉄道を必要とする経済発展段階に到達したものの,TGVや新 幹線のような高速鉄道の車両の開発や運行のノウハウを有してはいない.
( 4 )空間克服からみた日本の課題とは何か
IMFの推計によると,2000年に 1 人当たり名目GDP(ドル換算)でルクセンブルグに次いで世 界 2 位であった日本は,2018年には世界26位,アジアではマカオ,シンガポール,香港に次ぐ 4 位 にまでランキングを低下させている.
6 ) 本稿において,「地方」ではなく,「地域」という用語を用いているのは,空間克服の課題解消には,
大都市圏(とくに首都圏)の空港問題などの解決が重要であると考えているからである.また,東京都 の人口も2025年の1
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398万人をピークに減少すると見込まれており,人口減少にともなう地域問題は東京 都においてもいずれ顕在化する.そのため,「地方創生」ではなく,「地域創生」という用語を用いてい る.詳しくは,山﨑朗「なぜいま地域創生なのか」山﨑朗編著『地域創生のデザイン』中央経済社,2015年を参照のこと.
その要因は,①デジタル情報の空間克服と密接に関連しているICT産業において,アマゾン,
google,フェイスブック,ネットフリックスのようなプラットフォーマーを生み出せなかったこ と,②パソコンはもとよりスマートフォン,iPad,AIスピーカーなどの開発・製造においても世 界的主導権を取れなかったこと,そして③日本国内において航空機の素材や部品の製造は行われて いるものの,航空機の製造に成功していないこと(MRJは現在開発中であり,自動車メーカーのホ ンダが開発したホンダジェットはアメリカで開発・製造されている),④アトムの世界におけるもっと も空間克服度の高い航空輸送の効果的な活用という面において, 1 人当たり名目GDPで日本より も上位に位置しているマカオ,シンガポール,香港,中東のアラブ首長国連邦(ドバイ空港)に後 れをとっていることにある7).
日本のこれまでの空港整備,新規航空会社の設立認可(規制緩和)といった航空行政,経営危機 に陥ったJALやスカイマークなどの航空会社の経営手法に問題がなかったとはいえない.それら の問題の根源となったのは,首都圏空港(成田空港と羽田空港)の滑走路容量制約,国内便を羽田 空港,国際便を成田空港に長期間分離した航空政策,羽田空港,成田空港の就航都市数の少なさで ある.
国内便と国際便の意図的(政策的)分離は,関西国際空港,大阪国際(伊丹)空港,神戸空港に おいても行われている.国際便は,2019年 7 月現在,大阪国際(伊丹)空港,神戸空港には就航し ていない.大阪国際(伊丹)空港は,国際線が就航していないにもかかわらず,大阪国際空港と呼 ばれている.大阪国際(伊丹)空港のHPには,「大阪国際(伊丹)空港」は国内線のみです」と 記載されている.
2019年 7 月に公表された住民基本台帳をもとにした総務省の人口統計によると,全国の市町村に おいて,2019年にもっとも人口を減少させた市町村は,神戸市であった8).港湾都市として発展し てきた神戸市は,臨空都市あるいは航空都市としてのポテンシャルを生かし切れていない(関西国 際空港を支援するために,意図的・政策的に神戸空港のポテンシャルが抑え込まれている).
この点について筆者は,「地域創生のあたらしいデザイン ⑧」(やさしい経済学)『日本経済新 聞』2017年 7 月 4 日朝刊において「神戸市は福岡市に人口で抜かれました.神戸市は震災前の94年 に世界 6 位のコンテナ港湾でしたが,2015年は57位に後退しています.海上の神戸空港は本来24時 間使用可能ですが,国によって運用時間に制約が課され,国際定期便も就航していません.グロー バルな地域創生には国の規制緩和や国際交渉が不可欠です.自治体に地方創生を促すだけではな く,国の積極的な関与が求められます.」と指摘した.
7 ) さらにいえば,医療技術,医薬品,医療機器の分野における日本企業の競争劣位もある.
8 ) 「人口減少数,神戸が全国で最大 前年比6235人減」『神戸新聞
NEXT』 7 月10日.
2 .世界化する市場
( 1 )ネットがもたらす市場の世界化
インターネットに接続したモバイル機器によって,いつでも,どこでも,だれとでも,どのよう な情報でも,低コストかつ高速でやりとりできるようになった.デジタル情報のみで取引の完了す る市場(例えば,株式市場などの金融取引)においては,一点に集中した無空間の形態ではなく,
世界中に分散する拠点を情報通信ネットワークで統合するという形態によって,事実上,ミクロ経 済学が想定した「一点市場」=「世界市場」9)となった.
かつてインターネットによる情報交換が行われるようになれば,人・モノの流動は減少するので はないか,地価や家賃の高い大都市圏から人口は流出するのではないか(スティッキーな世界から スリッピーな世界への移行)と考えられた時代もあった.しかし,現実はその逆であった.日本に おいては2000年代に入ってからも,首都圏への人口の一極集中(首都圏のみが人口の社会増となる)
が継続中である10).
周知のように,アマゾン,アリババ,楽天,ゾゾタウンなどのプラットフォーマーの出現によ り,世界の津々浦々までサイト上でのネット取引が激増した.その結果,物流業界はトラック運転 手の確保や労働条件の引き上げなどによって,ECサイト向けの小口貨物配送の限界に直面してい る. 1 年間で約 1 万人トラック運転手を増やしたヤマト運輸は,2019年 4 月から 6 月期に60億円程 度の営業赤字(連結ベース)に陥っている.
さらに,インスタグラム,フェイスブックなどのSNSによる情報発信は,これまで注目されな かったエリア,建物,自然,文化,食,宿,動物などへの世界的関心を高め,世界各地でテロ が頻発しているにもかかわらず,国際的な人的流動を増加させ続けている.日本でいえば,ビザの 緩和や中国経済の成長にも支えられているとはいえ,日本への入国者数であるインバウンド数 は,2011年の622万人から2018年の3,119万人へと約 5 倍に増加している.ただし,日韓の政治的対 立の影響があり,2019年は中国人(838万人:2018年)についで入国者の多い韓国(754万人:2018 年)からの入国者数が減少する可能性が高く,2019年の入国者数は2018年を若干上回る程度となろ う.
移動の容易さ(移動時間と移動コスト)からいえば,デジタル情報>>モノ(アトム)>人とい
9 ) 田村大樹「情報技術と地域システム」山﨑朗他著『地域政策』中央経済社,2016年,82頁.
10) アメリカでは,地価の高騰したシリコンバレーやサンフランシスコから人口流出しているというレ ポートも出始めている.“WhyStartingupsareleavingSiliconValley:NewGeographyofInnovation”,
The Economist, Aug.30,2018および NourMalas andPaulOverberg,“SanFrancisco HasaPeople
Problem”,The Wall Street Journal,Mar.23,2018を参照.
う順である.つまり,人の移動がグローバル化にとっての「律速段階」11)となる.インターネット 取引の「律速段階」は,ラストワンマイルの小口配送にある.
( 2 )市場の世界化から取り残される日本の地域
伝統産業,地場産業も,市場が世界化しているという意味においては,いまやグローバル産業であ る.過疎地域のレストランであっても,外国人観光客が飲食すれば,統計上は輸出産業とみなされ る.人口の減少している日本において,グローバル市場の重要性は,今後増加することはあっても,
減少することは決してない.グローバル市場の重要性は,人口減少している地域により当てはまる.
「市場の世界化」と地域創生を結びつけて考えた場合,グローバル化への対応という課題こそが 地域創生最大のテーマであることが浮かび上がる12).地方創生のために,地産地消, 6 次産業化,
B級グルメ,ゆるきゃら,プレミアム商品券の発行などが実施されている.だが,これらの地域 内部だけの努力,地域内の資金循環を重視した政策や戦略は,市場が世界化する時代においてはも はや適切な政策や対応策とはいえない.ECサイトを活用して,海外市場に地域商品を販売する努 力が求められている.
( 3 )グローバル・パイプラインとテンポラリー・クラスター
産業集積,産業クラスターもまた,グローバル化が問われるようになっている.日本企業,日本 産業の競争力は,「リッチネス」13)を基盤としてきた.ここでいう「リッチネス」とは,地域内企業 群の近接立地や企業グループ内の濃密な情報コミュニケーションを指している.「リッチネス」の 反意語は,「リーチ」(到達範囲)である.ここでは,遠隔地の取引先,研究者,消費者などとの接 触やコミュニケーションを指している.
特定の地域に関連支援産業や研究機関が集積している状況は,「産業クラスター」と呼ばれてい る14).産業クラスターの競争力やイノベーション力は,地域内の集積度,地域内の濃密な取引や情
11) 多段階の化学反応がほぼ同時に進行する場合においては,そのなかでもっとも反応速度の遅い反応を
「律速段階」と呼ぶ.化学反応の速度は,「律速段階」によってほぼ規定されているため,反応速度=律 速段階の速度をみなされる.また,化学反応の速度を速めるためには,律速段階の速度を引き上げる必 要があり,そのための最適な温度の設定や触媒の開発などが行われてきた.サプライチェーンマネジメ ント(SCM)の発想も,この考えと共通している.
12) 多様な地域が直接海外と結びつくことが地域創生の課題となっている点については,山﨑朗・久保隆 行『東京飛ばしの地方創生』時事通信社,2016年において詳述している.
13) 「リッチネス」と「リーチ」という二分法は,フィリップ・エバンスとトーマス・S・ウースターに よって提唱された(フィリップ・エバンス,トーマス・S・ウースター『ネット資本主義の企業戦略』ダ イヤモンド社,1999年,32頁).
14) 産業クラスターは,ハーバード大学のマイケル・ポーターによって提唱された概念である.詳しく は,山﨑朗編著『クラスター戦略』有斐閣,2002年を参照.
報交換によって規定されていると考えられてきた.しかし,近年,産業クラスターの競争力は,外 部の地域との関係性にあるという主張が増加している.
世界的に著名な産業地域においては,それらの産業に関する国際会議や国際展示会が開催されて いる.国際会議,国際展示会において,一時的に世界各地から関係者が集まり,情報交換を行うこ とによって,新しい取引先の開拓や新しい技術革新のシーズを獲得できる.つまり,産業クラス ターの競争力やイノベーション力は,その地域の有する「グローバル・パイプライン」(海外との ネットワーク)に依存していると考えられているのである.一時的に世界各地から集まった知的集 団は,地域内に固着した産業クラスターではないため,「テンポラリー・クラスター」と呼ばれて いる15).
「テンポラリー・クラスター」の成立には,「グローバル・パイプライン」が必要であり,「グ ローバル・パイプライン」の基盤となるのは,国際空港, 5 つ星ホテル,国際会議場や国際展示場 である.そして,国際会議協会(ICCA)の2017年のデータによると,都市別の国際会議開催件数 において,東京は18位(2018年は世界13位),京都は50位,名古屋104位,札幌108位,大阪,福岡は 156位であった.国別の国際会議開催件数のランキングでは,日本は492件の開催でイタリアに次い で世界第 7 位となっている(2018年).
羽田空港の国際化や関西国際空港への国際線(主に
LCC)
の増加,新しいホテルの建設によっ て,日本での国際会議開催件数は増加し,日本の世界的なポジションもようやく上昇しつつあるも のの,羽田空港,成田空港,関西国際空港におけるヨーロッパ便の少なさは,国際会議や国際展示 会など(MICE)の誘致においてマイナスに作用していると推察される.また,国際展示場の世界ランキングでは, 1 位のドイツ・ハノーバーの展示場面積が46.6万㎡な のに対して,日本最大の東京ビックサイトは世界73位の 8 万㎡にすぎない(2015年).ICCAの統 計では,国際会議開催件数の国別の 1 位はドイツであったが,EU内におけるドイツの経済的ポジ ション,地理的な位置に加え,国際会議場や国際展示場の充実という要因も,ドイツが世界 1 位と なった背景にあると考えられる.
国際会議や富裕層のインバウンドの誘致においては,ビジネスジェットやプライベートジェット に対する十分な着陸枠も必要である16).森記念財団都市戦略研究所は,2017年に東京を世界 3 位の 世界都市に位置づけているが,ロンドン,ニューヨーク,東京,パリという 4 大世界都市におい
15) 「グローバル・パイプライン」や「テンポラリー・クラスター」については,HaraldBathelt&Nina
Schuldt,“BetweenLuminariesandMeatGrinders: InternationalTradeFairsasTemporaryClus- ters”,Regional Studies,Vol.42No.6,2008を参照のこと.
16) ビジネスジェットの着陸枠がなく,IBMが世界会議を東京から香港に変更した事例や,日本人にはプ ライベートジェットについての理解がないという厳しい指摘については,東京都『首都圏におけるビジ ネス航空の受け入れ体制強化に向けた取り組み方針』2010年に詳しい.
て,ビジネスジェット専用空港のない都市は,東京だけである.ニューヨーク(マンハッタンの中 心部から約19km)のビジネスジェット専用空港のテターボロ空港(340haで 2 本の滑走路)におけ るビジネスジェットの着陸回数だけでも,年間10万回程度(2012年)といわれている.
国土交通省の調査によると,日本におけるビジネスジェットの着陸回数は,2018年に2010年の 11,250回から2018年の16,830回に増加している.羽田空港の伸び率が高く,2018年には3,648回
(2010年は1
,
049回)となっているが,中部圏(中部国際空港,県営名古屋空港),関西圏(関西国際空 港,大阪国際(伊丹)空港,神戸空港,八尾空港)および羽田空港と成田国際空港の合計でも8,154 回であり,残りの8,676回は三大都市圏以外の地方空港を利用しているという特徴がある.ビジネ スジェットの保有機数では, 1 位のアメリカの19,153機に対して,日本は57機にすぎず,ドイツの 592機の十分の一以下となっている(2016年).3 .日本の空港,航空の課題
( 1 )日本に空港は多すぎるのか
日本には,農道空港や基地専用空港を除くと,97の空港がある.国際線の就航も可能な2,000m 以上の滑走路を有する空港は,66ある.日本には空港が多すぎるのであろうか.
世界経済フォーラム(WEF)の2015年の旅行・観光競争力ランキングにおいて,日本は世界 9 位となり,初のベストテン入りをした.2017年には世界 4 位にまでランキングを上げている.分野 別にみると,‘AirTransportInfrastructure’ は,調査対象136カ国・地域中18位であったが,項目 別にみると,人口比当たりの空港数ランキングは世界97位であった.
人口が多く,南北に長く,離島の多い日本の地理的条件を考えれば,97の空港数は多いとはいえ ない.赤字の空港が多いと批判されてきたが,その原因の一つは,羽田空港の容量政策,着陸枠の 不足にあった.国土交通省によるEBITDAの考えに基づく収支分析によると,国管理の26空港に ついては,航空系事業の営業損益は赤字であるが,一般会計受入額などの営業収入を加えた経常損 益は2013年度に黒字化しており,2017年度には406億円にまで増加している.営業損益の赤字額も 2013年度の284億円から2017年度の186億円にまで縮小している.旅客ターミナル等の非航空系事業 は,経常損益,営業損益ともに26空港すべてにおいて黒字化している.非空港系事業の営業損益は 2013年度の206億円の黒字から2017年度の447億円の黒字にまで増加している.羽田空港の黒字額が 357億円と大きいため,国管理の26空港全体の空港系事業+非空港系事業の営業損益も261億円の黒 字となっている.
地域創生の課題の一つは,無駄な公共事業としてマスコミにやり玉に挙げられることの多かっ た,特定地方管理空港や地方管理空港の経営の赤字の削減(できれば黒字化)にある.インバウン ドの増加による国際便の増加(着陸料の増加)に加えて,空港ターミナルを商業,観光,MICE,
取引の拠点とすることによって,特定地方管理空港や地方管理空港を地域のプロフィットセンター とすることは不可能ではない.
( 2 )首都圏空港の低いハブ性
残念なことに,成田,羽田,中部,関西を足し合わせても,アジアのハブ空港の就航都市数に及 ばない17).日本の大都市圏から直接,日本の地方都市から 1 回の乗り換え(国内の空港経由)で行 ける都市数は,増加傾向にあるとはいえ,ソウルや韓国の地方都市と比較すると少ない.高い空間 克服性を有している航空の活用の面で,日本はアジアの空港に後れを取っている.日本のインバウ ンドが増えているとはいえ,その内実をみると,中国,韓国の 2 カ国で約半分を占めており,台 湾,香港,アメリカ,タイを加えると2,555万人となり,インバウンドの82%を占めている.
首都圏の空港からダイレクトにアクセスできる就航都市数を増加させる,とくにヨーロッパ(将 来的にはインドやアフリカ)への就航都市数を増加させることは,インバウンドの増加,その波及 効果としての日本各地への外国人観光客の誘客,グローバル・パイプラインの強化,MICE産業 の活性化,物流の効率化,地方への外国人観光客の誘客(アジアからの観光客と異なり,滞在期間が 長いため)などの経済効果が期待できる.
首都圏の空港整備と地方の空港整備を対立的に捉える向きもあるが,航空路線は首都圏と地方 圏,双方に整備されてこそ,多様な航空ネットワークが成立するのである.羽田空港は黒字である が,地方の空港は赤字であり,廃港にすべきという意見もあるが,赤字の地方空港を廃港にすれ ば,羽田空港への便数も減少し,羽田空港の黒字額も減少する.首都圏の空港と地方空港の国内線 が充実していれば,欧米からの富裕層を地方の観光地へと誘客できるはずである.
羽田空港は,東京港への航路の問題もあり,おそらくあと 1 本の滑走路増設が限界であろうが,
成田空港は周辺の用地の買収により,複数の滑走路の増設が可能である.すでに用地買収に向けた 地主との交渉が行われ,ほぼ合意に達したという報道がなされている.
また,現在は米軍のみ使用している横田空港を活用できるようになれば,東京都多摩地区,埼玉 県西部地域の活性化にとってきわめて大きなインパクトを与えるはずである.横田空港周辺には複 数の鉄道路線があり,横田空港への軌道系アクセスも実現できる.首都圏の空港の配置は,東側に
17) 筆者は,「国際ハブ空港―成田,関西,中部を合わせても新ソウル巨大空港に勝てない」『エコノミス ト』第74巻14号,1996年において,日本のハブ空港の狭小性,相互ネットワークの脆弱性について指摘 したことがあるが,羽田空港に国際線が就航した現時点においても,アジアのハブ空港に勝てないとい う問題は解消されてはいない.2017年における仁川空港の就航都市数(国際線のみ)は,204都市である が,成田は108都市,羽田は32都市となっている(成田,羽田には重複して就航している都市がある).
なお,当時札幌国際大学の和田忠久教授が北海道国際航空(現在のエアドゥ)の着想を得たのは,本論 文であったという.筆者は,パンアジア航空(現在のソラシドエア)の設立構想に当初から参画し,10 名で株式会社として立ち上げた.
偏りすぎており,多摩地区や埼玉県側の住民がアクセスしやすい空港の整備は必要である.首都圏 にもビジネスジェット専用空港を整備するというアイデアもあろう.ドローンによる移動が可能と なれば,空港の位置についても自由度が増すと考えられる.
4 .地方創生と空港,航空
( 1 )ネットベンチャーと空港
徳島県神山町には,ネットベンチャーのサテライトオフィスが立地しており,新しい地域創生の モデルとして注目されている18).高速インターネット回線さえ整備すれば,山村においてもネット を活用した仕事ができるのではないかと期待されている.しかし,生活やビジネスのすべてをネッ ト上で完結することは難しい.
神山町は,県庁所在都市である徳島市の20%通勤圏であり,徳島都市圏に含まれている.神山町 は山村のイメージと異なり,神山町で海抜がもっとも低い地区は160mであり,東京都八王子市よ りも低い.徳島市の中心部および徳島空港まで約 1 時間でアクセスでき,徳島空港からは羽田便が 就航している.
つまり,瀬戸内海のように積雪が少なく,空港や都市に近く,海抜があまり高くなく平地の多い
「山村」エリアにおいては,ネット系ベンチャー企業のサテライトオフィスの誘致の可能性があ る.デジタル情報の空間移動だけでなく,人の移動もやはり重要であることは再認識しておく必要 がある.神山町は,徳島空港や徳島市の中心部まで車で 1 時間の距離に位置している.神山町では 現在,2023年を目途として,私立の工業高等専門学校(「神山まるごと高専」:定員40名)の設立が 検討されている.
鹿児島県の離島である奄美大島においては,デザイナー,プログラマー,芸術家などのフリーラ ンスを島に集めるという「フリーランス計画」が進行している.この計画の成否はいまだ未知数で あるが,この計画立案の背景には,新奄美空港の建設,LCCによる成田便の就航と航空運賃の低 下があったことはいうまでもない.
( 2 )水上飛行機と水陸両用機の活用
カナダ・バンクーバーの都心からビクトリア州の首都のあるビクトリア島までは,フェリーで行 くこともできるが,バンクーバーの都心からフェリー乗り場までの移動時間を含めると,約 4 時間 かかる.それに対して,「HarborAir」の水上飛行機では約35分の飛行である.水上飛行機や水陸
18) 篠原匡『神山プロジェクト―未来の働き方を実験する』日経
BP
社,2014年,NPO法人グリーンバ レー・信時正人『神山プロジェクトという可能性』廣済堂出版,2016年などで詳しく紹介されている.両用機の特色は,滑走路のない地点にも航空機で行くことができる点にある.水上をインフラとし て利用するという点においては,船と共通点がある.
日本においても,瀬戸内海の遊覧飛行の事業を中心に行っている「せとうちSeaplanes」という 航空会社がある.今,日本各地で,小型の水陸両用機(KODIAC100型機)を活用した新しい富裕 層向けのビジネスを検討している19).
空港さえあれば,多様な地域にアクセスできると論じてきた.しかし,水上飛行機や水陸両用機 を活用すれば,滑走路のない地域へのアクセスも可能となる.
( 3 )成田新幹線
筆者は日本産業プロジェクト協議会(JAPIC)の首都圏ハブ空港研究会の座長を長年務めてき た.この研究会のなかで議論しているテーマの一つは,成田空港と新幹線の連結である.千葉県の 人口は600万人を超えているが,新幹線の線路・駅はない.もともと成田新幹線構想はあったが,
大宮駅と成田空港駅を新幹線でつなげれば,東北,新潟,長野,北陸地方から成田空港へのアクセ スは格段に速くなる.逆に,成田空港からそれらの地方へのアクセスも改善される.
空港の弱点は,近距離のエリアへの移動に活用できない点にある.その弱点を補完できるのは,
高速鉄道である.ハブ空港へのアクセスを航空ネットワークに限定せずに,新幹線やリニアモー ターカーと組み合わせることで,ハブ空港とハブ空港周辺地域とのアクセスは確実に改善され る20).
ルフトハンザ航空とドイツ鉄道は,フランクフルト空港とドイツの主要都市を結ぶフライト扱い の車両「ルフトハンザエクスプレス」を一体的に運用することで提携した.鉄道料金もマイルに加 算される21).
( 4 )多様な航空ネットワークと地域創生
日本の空港整備はぼぼ概成し,残された整備は,羽田空港の 1 本,成田空港の 1 本,まもなく完 成予定の那覇空港と福岡空港の 2 本目の滑走路だけとなろう.日本の空港整備は,量的な観点から いえば終焉を迎えつつある.
しかしながら,日本の空港,航空ネットワークには,いまだいくつかの課題が残されている.①
19) 加藤幸治「中標津モデルという『解』」(サービス経済化と地域格差⑧)『日本経済新聞』2019年 5 月13 日朝刊.
20) 空港の真下を東海道新幹線が走っている静岡空港での新幹線空港駅の建設,上越新幹線の新潟空港へ の延伸,そして将来的には新千歳空港への新幹線乗り入れについても検討すべき課題である(詳しく は,山﨑朗・久保隆行『インバウンド地方創生』ディスカバー・トウェンティワン,2016年を参照).
21) さかいともみ「航空と鉄道が『融合』,進化が続く欧州の鉄道」『東洋経済
ONLINE』2018年 3 月17日.
地方空港を活用した国際便の誘致(インバウンド),②成田,羽田空港のさらなる拡張整備と航空 路の再編および両空港からの海外就航都市数の増加,③静岡空港,新潟空港,成田空港,羽田空港 などの空港と高速鉄道との連結,それによるフィーダー空港である地方空港の航空ネットワークの 充実,④空港経営の黒字化とその利益をもとにした戦略的な空港経営.そして,⑤空港のない国土 の末端にまで小型の水上飛行機が飛ぶという毛細血管的な航空ネットワークの形成である.このよ うな航空ネットワークが完成すれば,多様な地域の発展可能性は確実に高まる.技術的にはまだ未 成熟であるが,ドローンを活用した高速移動についても注目すべきである.
便数,旅客数,主要空港との直行便の開設による地域活性化効果は,空港が新しくなり,羽田便 や国際便が就航し,人口が増加している石垣島がそれを証明している.1920年に八重山圏域(石垣 島を中心とする離島)は人口32,063人,宮古島圏域は53,098人であったが,2014年10月には八重山 圏域,宮古圏域ともに 5 万 3 千人とほぼ同数になった22).2017年 1 月 1 日の八重山圏域の人口は,
55,243人となっている.
空港のみならず,クルーズ船誘致においても積極的であった石垣島と宮古島との間には人口増加 率,経済成長率に大きな格差が生じていた.しかし,宮古圏域においても,三菱地所を中心として 3,000mの滑走路を有する下地島空港のターミナル整備が始まっている.
北海道の中標津町への人口流入に注目が集まり,「中標津モデル」23)と呼ばれるようになっている が,中標津町への人口流入の背景には,根室管内(知床のある羅臼町を含む)の空港として中標津 空港が機能しているからである.その意味では「中標津モデル」は臨空都市モデルであり,空港の ない地域には適応できないモデルである.しかし,中標津空港の乗降客数は,2018年に国内線 203,818人,国際線140人にすぎない.石垣空港の旅客数は,国内線2,468,181人,国際線89,088人と 比較すると 1 /10以下にとどまっている.根室管内の人口は,76,621人(2015年の国勢調査)であ り,石垣島を含む八重山地方の人口よりも 2 万人以上多い.世界自然遺産に指定され,広大な自然 と新鮮な食材を有する根室管内への航空旅客数としてはあまりにも少ないと感じるのは筆者だけで あろうか.中標津―羽田便は 1 日に 1 便しかなく,LCCの誘致等が喫緊の課題である.
究極の空間克服手段はビットの世界ではインターネットであり,アトムの世界では航空である.
航空の活用こそが地域創生の最大の鍵である.
(中央大学経済学部教授 博士(経済学))
22) 「人口逆転が目の前 増える八重山圏域,減る宮古圏域」『琉球新報』2014年11月13日.
23) 2010年から2015年にかけての国勢調査によると,中標津市も人口減少(208人)に転じている.2015年 の中標津町の人口は23