は じ め に
わが国の空港整備は「国土の均衡ある発展」
といった国土政策を念頭に、国内航空ネット ワークの全国展開が図られ、高速輸送サービス のメリットが幅広く享受され得るよう、既存空 港のジェット化・大型化に加えて新設空港の設 置が進められてきた(関西[2004:40])。
この政策に沿う形で、地方の空港空白県は 競って空港整備を国に働きかけ、設置を実現し てきた。整備の財源は地方空港
1)の場合、当該 地方自治体が50%
2)を負担し、残りは国が空港 整備特別会計
3)から補助を行なった。
ところで、空港整備五箇年計画
4)(以下、空 整)が始動したのは1967年であり、その時期以 前にジェット化していた空港は東京国際(羽 田)、千歳、大阪国際(伊丹)、福岡、名古屋、
宮崎のみであった(関西[2004])。これらの空 港についても需要増加に対応するため、滑走路 の延長や増設等の整備がなされてきた。2004年 1月1日現在、ジェット化空港数は95を数える
(関西[2004])。
本稿で研究対象とする佐賀空港もこのような 流れの中で空港設置を実現した。しかし、その 誕生は決して順調なものではなかった。1966 年、県の総合開発計画に空港建設の調査促進を 織り込み、1971年末に第2次空整での採択が決 まりながら、地元合意が得られず流産となっ た。1981年には第4次空整で採択されたが、地 元同意を得るという着工の条件を満たすことが 出来ず再度流産となっている。このような経緯 の後、1986年に第5次空整で再々度採択され、
県の総合開発計画に織り込まれて以来、30年余 りを経た1998年7月に開港した(佐賀[1999:
3])。
現在、一日当たりの運用状況は羽田便と伊丹 便、それぞれ2往復に加えて夜間貨物便を羽田 との間に2往復就航させている。運用の現状は 低迷であり、佐賀空港設置に対する外部の評価 はむしろ厳しい。佐賀空港の北1時間の距離に 近接する、都心から僅か5分というアクセス環
地方空港設置の経緯と展望
―佐賀空港を事例として―
岩 本 敏 夫
要 旨
わが国の空港整備は配置的側面から見ると、全国的に既成したと考えられる。しかし、多くの地方空 港が運用の低迷に苦慮している。開港6年を経た佐賀空港も例外ではない。
近接する福岡空港に需要の多くが集積しているためである。しかし、福岡空港は処理能力の限界が目 前である。対応策として2案がある。現福岡空港を廃港にして滑走路2本を備えた新空港と交代させる 案と、佐賀空港と新北九州空港を加えた3空港による機能分担案である。
本稿では佐賀空港を事例として、地方空港設置の経緯を整理し、既存の社会資本活用推進の立場から 地方空港の展望を考察する。
キーワード
地方空港、地方拠点空港、処理能力、集積、アクセス
境に恵まれた、日本一便利とされる福岡空港の 存在ゆえである。
福岡空港は年間離着陸回数が2000年以降、毎 年14万回を数え(国土[2004:123])、処理能 力の限界に近い。福岡県では福岡空港の廃港を 前提に新宮沖を埋め立て、2010年代の早期に海 上空港を開港させるという「新福岡空港基本構 想」を2002年4月に発表
5)した。
一方、政府は2003年10月10日に閣議決定した 社会資本整備重点計画法において、空港整備事 業の方針を、36年ぶりに、それまでの地方空港 整備重視から大都市圏拠点空港
6)の拡張・整備 重点化に変更した(国土[2004:146])。
本稿では佐賀空港を事例として、地方空港設 置の経緯と、既存社会資本活用推進の立場から 捉えた地方空港の展望について考察する。
1.
地方空港設置の経緯と必要性
1.1. 佐賀空港設置の経緯1990年代に入って供用を始めた新設や大型 化
7)の第3種空港は、1998年開港の佐賀空港を 含めて10空港
8)を数える(関西[2004:22 23])。
地方県が県勢浮揚を視野に、他県に遅れをとる まいと新設を競い、「造ったけれど使われない」
と一部で揶揄される第3種空港設置の多くにお いて、他県との横並び意識がその動機の中心に あったと言われる。だからといって、地方空港 設置が世間で揶揄されるような「地方のエゴ」
と言い切れるものでもない。
1980年代半ば頃から生じた対米貿易不均衡を 是正すべく、5回に亘ってもたれた日米構造協 議の最終報告が1990年7月に発表された。それ を反映して、国は「先進国並みの空港整備」を 公約し、地方空港新設と、1990年に総延長 165 km であったわが国の空港滑走路長を2000年ま でに 215km にすることを決めた(押田[2001:
52])。従って地方空港建設は国の政策に沿った ものであったと言える。
佐賀空港整備計画は1986年11月、第5次空整 に採択され、1988年12月に設置許可が交付され
た。ところが着工したのは設置許可から5年近 くも経過した1993年7月であり、次期の第6次 空整に入って2年近くも経っていた。このよう な弾力的な措置を国が認めた背景として、上述 の「先進国並みの空港整備」公約が挙げられる
(関西[2004:40])。
1.2. 佐賀空港設置の必要性
ところで佐賀空港の誕生が決して順調なもの ではなかったことの経緯は先に述べた。佐賀県 がそれほどまでに空港設置に情熱を注いできた 背景は何であったのか、空港の必要性は何で あったのか、について考察する。
1969年正月、佐賀新聞に掲載された当時の知 事・議長新春対談で当時の知事・池田と議長・
小原は県の抱える悩みを吐露し合って、空港設 置への意欲を確認しあっている。
あらゆる産業の発展に力を入れているが、
郷土愛に立脚した地域開発ということに欠け ている。どうして県内に人材がとどまらない のか。それは県の経済力が乏しいからという ことではないか。他県でやれる規模の大型プ ロジェクトを佐賀でやろうとしても金の融通 を受けられない。他県でやれることが佐賀県 ではやれない。県民を萎縮させている。何か ワクをはめられたような。伸びようにも伸び られない。今年の抱負はぜひ空港を造りたい ということ
9)。
佐賀空港供用開始の翌年に県が発行した『佐 賀空港工事誌』において「佐賀空港の必要性及 び社会的位置付け」が説明されている(佐賀
[1999:2 3])。それは30年前に当時の知事と議 長が吐露した問題点を踏まえて前進する意欲を 確認しているものである。
佐賀県に空港が無いことに加え、従来から
経済、文化の面では九州圏内での交流が主で
あったことから、鉄道輸送等に比べ航空機利
用実績では下位グループに属している。〔…
中略…〕航空機の利用客は2000年に(佐賀県 内で)約74万人に達すると見込まれており、
将来の需要および県民が航空輸送の最大のメ リットである「高速性」を享受するための航 空ネットワーク形成が必要となっている。
〔…中略…〕産業の分散、再配置を一層有利に 進めるためには、全国主要都市と短時間で結 び、情報や人材の交流を促進する空港を含め た総合交通ネットワークの形成が不可欠であ る。〔…中略…〕本県は全国でも有数の観光 資源を有しており、今後、航空機の利用によ り九州圏のみならず、首都圏、中部圏、関西 圏など全国各地域の人々に、多大な利便をも たらすものと考えられる(括弧内筆者)(佐 賀[1999:2 3])。
佐賀県における空港設置の必要性は産業の分 散、再配置、情報や人材の交流を促進すること によって県勢の浮揚を図ろうとの意欲と使命感 に基づくものであったと理解できる。そして、
このことは佐賀空港と同じく第5次空整で採択 された庄内空港(山形県)にも、福島空港(福 島県)にも共通することであったと考える。
2.
佐賀空港の概要と設置の財源
佐賀空港は佐賀県が管理する管理面積 110.7 ha、滑走路 2,000m×45m の第3種空港である。
1988年12月に国からの設置許可及び第3種空港 の政令指定を受け、1993年7月本体工事に着 手、4年半余りの工事期間を要して1998年3 月に完成。同年7月28日に供用を開始した
10)。 設置から本体工事着工までに4年半を要したの は用地交渉が長引いたためである
11)。
事業費は補助事業費251.2億円、直轄事業費 27.3億円、総事業費278.5億円であった。補助事 業費とは用地造成、滑走路・誘導路・エプロン などの基本施設工事費等であり、国の空港整備 特別会計の補助を受けて施工する事業部分であ る。直轄事業費には無線施設、建築施設、気象
施設の諸費が含まれている(佐賀[1999:68 69])。
空港用地は有明海沿岸のほぼ北端に位置する 川副町干拓地を、盛り土と地盤改良によって造 成している。周辺3キロには人家が無く、気象 条件が安定している(佐賀[1999:5 6])。
3.
佐賀空港設置計画時
12) の需要予測と現状 3.1. 需要予測の手法と空港勢力圏佐賀空港では開港を1995年度に設定し、施設 規模は開港後5年間の需要増加に対応できるも のを計画し、ターミナル地域は10年間の需要増 加に対応できるものを確保した。そのため需要 予測年次を1995年度、2000年度、2005年度とし、
需要予測は各計画路線について佐賀空港と相手 空港の総旅客流動量予測値を算出したものに推 定航空占有率を乗じて算出している(表1)。
なお、佐賀空港を中心とする 30km 圏内の、
一部を除く佐賀県域を100%佐賀空港勢力圏と 想定し、県北西部に位置する唐津・浜玉及び県 東部の鳥栖から大牟田に至る地域は50%福岡空 港勢力圏、県西部の伊万里・有田・嬉野地域 は50%長崎空港勢力圏と想定している(佐賀
[1999:8])。
3.2. 貨物需要予測
旅客需要予測の他に貨物需要予測も当然なさ れており、3路線の合計を年間6千トンとして いる。予測された貨物需要量は供給貨物搭載量
(貨物室容量から旅客の手荷物量を減じた量)に 表1 佐賀空港の旅客需要予測
2005 2000
1995 運航路線
453,000人 404,000人
357,000人 佐賀―東京
263,000人 250,000人
234,000人 佐賀―大阪
92,000人 83,000人
74,000人 佐賀―名古屋
808,000人 737,000人
665,000人 計
(出所)佐賀県[1999]『佐賀空港工事誌』p. 12 より
作成。
機材別全国平均貨物ロード・ファクターを乗じ て得た値である。中型旅客機が搭載する貨物容 量は僅かで、貨物需要予測が空港設置の可否に 影響を及ぼす程のものではない。
3.3. 運用の実績
佐賀空港を管理運営する佐賀県担当課が公表 した供用開始時以降、2003年末までの旅客利用 実績を示す(表2)。1998年は供用開始年であ り、稼動期間は5カ月余であった。2002年2月 を以って運休した名古屋便は2000年に利用率を 37.7%にまで下げた。しかし、翌々年には利用 率53.6%まで改善させている。それでも、翌年 は運休となった。
利用率の改善=採算性の改善とならないのが 在庫不能商品の特質である。団体客用あるいは 格安航空券市場に超安値で販売するという厳し い努力の結果の利用率改善であったと考える。
3.4. 需要予測と現状、乖離の背景
2000年の需要予測値と利用実績とを比較して 見ると、旅客総需要予測73万7千人に対し、実 績は定期便合計が32万6百人、チャーター便利 用者を加えても32万6千人であり、予測値の 44%であった(表1) (表2)。ところで、先出
『佐賀空港工事誌』に掲載の需要予測が実際にな された時期は1982年であったと考える。第5次
空整への採択を目指して県議会で論議が重ねら れていた同年7月6日の空港対策特別委員会の 冒頭、委員が需要予測に関する利用圏人口の算 定について質したのに対して、空港建設対策室 主幹が答弁をした記録があることから推測でき る
13)。
従って、需要予測が算定された時点と実際の 運用時点とでは18年間の長い隔たりがある。空 港整備に係わる需要予測は長期の将来を先見す るものであり、その間には予測時点に於いては 考えられないような変化が運営環境に生じる。
本事例においても、航空の自由化が進行した。
その中で、航空運賃の低価格化を掲げる新規航 空会社が誕生し、福岡空港にも乗り入れ参入 し、マーケット環境に大きな変化を起こした。
その結果、福岡―東京、福岡―大阪等の幹線を 中心に航空の超低価格化が特定路線を先頭に起 こり、後発の佐賀空港が近接の、アクセス・便 数等で圧倒的に勝る福岡空港の競争力に対抗で きなかったことが、予測と現状の乖離の主要な 要因であると考える。
4.
地方空港の展望―新福岡空港構想を中心 に―
4.1. 福岡空港移転を前提とする新福岡空港
構想
現在、北部九州経済圏の航空需要を一手に集
表2 旅客利用実績(就航路線と便数及び旅客数)
2003 2002
2001 2000
1999 1998
162,546 165,501
173,541 170,563
191,765 116,518
羽田 旅客数
(2便) 利用率 69.7% 56.3% 58.7% 68.5% 64.4% 66.4%
134,964 76,411
110,561 111,725
113,857 51,970
伊丹 旅客数
(2便) 利用率 56.9% 58.1% 55.0% 59.1% 54.0% 55.8%
2月より 運 休 65,021
54,674 38,300
39,929 21,181
名古屋 旅客数
(1便) 利用率 53.7% 43.9% 37.7% 45.4% 53.6%
297,510 306,924
338,776 320,588
345,551 189,669
旅客数 計
61.1%
59.0%
60.4%
53.8%
55.1%
63.7%
利用率
(注) 1998年は供用開始年であり、7月28日以降の5ケ月と4日間である。
(出所) 佐賀県空港・交通課『佐賀空港』&佐賀空港 HP 掲載データから作成。
めている福岡空港は世界で一番アクセスの良い 空港の一つに数えられ、北部九州経済圏の牽引 力となっている。とりわけ福岡経済圏の成長要 因は福岡空港の存在にあると評価される程の高 い存在意義を有している。
しかしながら、福岡空港は既に2000年以降、
年間離着陸回数約14万回に達し、ラッシュ時に は10分とか20分の待機が恒常的となり、処理能 力の限界に近づいたとの見方もある。福岡県は このまま需要が増加し続ければ2008年には16万 回に達すると予測する。わが国の空港で1本の 滑走路処理能力が最も高い関西国際空港(以 下、関空)でも、16万回が限界とされていると ころから、九州経済圏にとって空港処理能力向 上への対策は急務となっている
14)。
福岡県と福岡市、地元財界でつくる新福岡空 港調査会(以下、調査会)は新福岡空港基本構 想を策定し、2002年4月30日に公表した。その 概要は事業費8,200億円を充て、玄界灘の新宮 沖 水 深 20〜25m の 海 洋 560ha を 埋 め 立 て、
3,000m 滑走路2本を整備し、現空港を廃止す るというものであった。
しかし、同席した調査会の副会長でもある福 岡商工会議所会頭・後藤は「便利な現空港がな くなるのはマイナス」とのコメントを公表の場 で表明した。さらに、公表会見後には新北九 州、佐賀空港で分担する「機能分担」論に言及 し、「両空港をせっかく造ったのだからアクセ スを整備すれば良い」との持論を展開するなど 調査会内部でも議論不足であったことを露呈し た
15)。
さらに、事業費8,200億円の中身について、埋 め立て費5,100億円、1ha 当たり約9億円が見 込まれている。しかし、埋め立て費の見積もり が過少であることを指摘し、総事業費は1兆円 を超えるとの指摘がある(押田[2003:290 291])。その根拠の一つは中部国際空港や博多 湾人口島などは水深数メートルと浅く、内海と いう好条件にありながら埋め立てに要した 1 ha 単価が10数億円かかっていたという点であ
る。しかも、事業費には住民・漁民への補償 費、道路・連絡橋等のアクセス整備費が盛り込 まれていない
16)。
新福岡空港基本構想は公表後、事業費算定の 曖昧さや論議不足の指摘など噴出する批判を受 ける
17)一方、福岡市民は新空港より現空港の活 用を求めた
18)。また、7月には着陸誘導装置が 片側しか設置できないことが判明するなど県の 基本構想策定に対するずさんさと強引さが露呈 した
19)。
4.2. 新福岡空港基本構想の推移
しかし、福岡県は国に対して、この基本構想 をもとに2003年度公共事業長期計画での採択を 働きかけた。これに対する国の扱いについて は、2002年12月6日付、交通政策審議会
20)・航 空分科会答申「今後の空港及び航空保安施設の 整備に関する方策について」が指針となる(関 西[2004:38 53])。
地域拠点空港のうち主要地域拠点空港(福 岡、新千歳、那覇)については、〔…中略…〕
将来的に需給が逼迫する等の事態が予想され る福岡空港及び那覇空港については、将来に わたって国内外航空ネットワークにおける拠 点性を発揮しうるよう、各圏域における今後 の航空需要の動向等を勘案しつつ、既存ス トックの有効活用方策、近隣空港との連携方 策とともに中長期的な観点からの新空港、滑 走路増設等を含めた抜本的な空港能力向上方 策等について、幅広い合意形成を図りつつ、
国と地域が連携し、総合的な調査を進める必 要がある(関西[2004:48])。
調査会がまとめた新福岡空港構想は翌年の知 事選がからみ、知事は構想の争点化を避けて
「新空港にはこだわらぬ」とトーンダウンし
21)、 2003年1月14日、新宮沖案の白紙撤回が議会で
表明されるに至っている
22)。
しかし、2003年4月30日、福岡市が、既に同
市の第3セクター「博多港開発」が埋め立てを 進めている人口島のすぐ北隣の東区雁の巣を中 心に半分は陸地、半分は北側の玄界灘を埋め立 てて、3,000m の滑走路2本を整備する案を検 討していることが明らかになった
23)。新福岡空 港設置の要望が消えたわけではない。新福岡空 港設置実現を仮定して、福岡空港移転が他空港 にもたらす効果について以下で考察する。
4.3. 福岡空港移転が他空港にもたらす効果
福岡空港利用客に占める佐賀・北九州空港利 用圏内潜在需要の比率は高く、40%に達してい る(押田[2003:44])。1999年に実施された航 空旅客動態調査によると、国内線旅客の43.7%
を佐賀・北九州空港利用圏内から集めている
(押田[2003:296])。その背景として、それら 他空港利用圏居住者が自己の居住圏内空港を利 用するよりも、都市間交通の要である博多駅と 直結した福岡空港を利用する方がはるかに便利 だと感じていること、及び福岡空港における東 京便の運航頻度の高さ・運航時間帯の広さを挙 げることが出来る。
福岡空港は先行開発
24)の利と集積の利を背 景に最重要路線の羽田枠を多量に確保してい る。新福岡空港構想を見直す会によれば、2000
〜2001年実績で福岡空港国内便の48%が羽田路 線であった
25)。しかし、遅れて設置された佐賀 空港は羽田の発着枠を十分に確保して利用者を 獲得するに足る便数を設定することが出来な かった。それ以上に大きな弱点となったのは佐 賀からの日帰り出張を可能とする発着時間帯枠 を確保出来なかったことである。
このように優位性を独占した形の福岡空港を 廃港して、新宮沖もしくは雁の巣あるいはさら に遠隔地に移転した場合、現福岡空港の独占的 優位の源である優れた立地条件は失われる。そ の結果、現福岡空港利用客は新福岡空港にその ままシフトするのではなく、本来の利用圏内空 港に戻ることになる。
空港利用圏については1999年の「航空旅客動
態調査」の結果から現福岡空港利用者のうち、
約25%(筑後地方、佐賀県、長崎県、熊本県)
が佐賀空港、約15%(北九州都市圏、筑豊地方、
大分県)が新北九州空港の潜在需要であること が推測できる(押田[2003:296])。この数値 を1999年における福岡空港の国内線乗降客数 1,668万人(国土[2004:130])に乗じてみる と佐賀空港利用圏から417万人、北九州空港利 用圏から250万人が福岡空港に流出していると 推測できる。この大きな需要は佐賀・北九州両 空港のアクセス整備等の利便性向上によって奪 還可能であると考える。1999年の佐賀空港乗降 客数は34.5万人であったから、実に12倍もの需 要が佐賀空港利用圏から福岡空港に流出してい るのである。
この流出需要の多くが、福岡空港の移転に よって、佐賀空港と新北九州空港の顕在需要と なるであろう。
5.
地方空港の展望 ―3空港機能分担を中心 に―
5.1
3空港の需要と福岡空港の処理能力 将来を見据えた北部九州圏の航空需要を既設 の3空港で処理し得るかという点について考察 する。なお、北九州空港は2006年3月供用開始 予定の新北九州空港に引き継がれる。
2002年2月7日、 「新福岡空港シンポジウム」
において国土交通省九州地方整備局長が2020年 度の3空港需要予測を示した。それによると、
3空港全体の需要は3,500〜4,000万人であり、
そのうち福岡空港の需要が3,100〜3,500万人で ある。現福岡空港の容量は2,500万人が限界で あり、福岡空港では2020年に年間600万〜1,000 万人分の需要超過となり、佐賀、新北九州にシ フトするのは超過分の30%程度との見方を示し た
26)。
この見通しは3空港の容量と、佐賀空港のア
クセスが現状のまま、改善されないことを前提
としており、交通アクセスが向上すれば需要動
向は大きく変化する。福岡空港の需要は2002年
で、既に1,949万3千人を数えて2,000万人に近 づいていることを考慮すれば、早期に方向づけ を決定し、受け皿整備をする必要がある。
福岡県は2003年6月、 「新福岡空港調査会」を 廃止し、福岡空港の航空機混雑対策を調査する ため、福岡市と合同で「福岡空港調査委員会」
を2003年秋に設置し、国土交通省と連携してい くことを決めた。調査には完了までに5年間程 度が見込まれている
27)。調査に5年、そして新 空港建設となれば着工から開港までに短く見積 もって5年
28)、開港は2013年以降となるであろ う。
しかしながら、実際には埋め立て工事に着手 するまでに超えなければならない多くのハード ルが横たわっている。「建設コストの合意、漁 業補償問題、現空港跡地の地権者対策と再開発 問題、国定公園での環境問題」(押田[2003:
310])である。それらをクリアーするには何年 もかかるかも知れない。地元住民の合意なくし て、この大事業は着手することすら出来ないの である。佐賀空港の難産の後を振り返れば明ら かである。
しかし、佐賀空港の拡張であれば土地が既に 在り、地元合意も既にある(押田[2003:310])。
新福岡空港構想について福岡商工会議所会頭・
後藤が同構想公表会見に際して「機能分担」論 に言及し、持論を展開したことは先に述べた。
さらに、その翌日、福岡経済同友会代表幹事・
石川が次のようにコメントしている。
「佐賀空港などとの機能分担の方がはるか に安上がりで現実的」「現在の福岡空港は市 街地から近くて捨て難い」「佐賀空港の場合、
直接、高速道路で鳥栖と結べば福岡とは1時 間もかからない。東京―成田より近い」「新 空港を国が造ってくれるなら別。予想される 負担金は天文学的で、負担に耐えうるか」
29)。
5.2. 佐賀・福岡・新北九州空港の役割
佐賀空港:1日4往復の定期便と2往復の深
夜貨物便が就航しているだけであるが、この空 港は滑走路を容易に 2,500m に延長できる基盤 が整っている。しかも周辺 3km には民家が無 いという空港立地にとって優れた環境にある。
2,500m の滑走路であればB767機でオーストラ リア路線の就航も可能である。カンタス航空で は成田の暫定滑走路 2,180m を使って、B767 300機で成田―ケアンズ間、7時間半を運航し ている。
佐賀空港には滑走路とエプロンを直接結ぶ取 り付け誘導路しかないが、着陸した飛行機が滑 走路から速やかに離脱し、後続機の着陸や離陸 機の移動をスムーズにするために使用する平行 誘導路を整備すれば、処理能力は格段に向上す る。事業費は「滑走路の延長工事と合わせて 200〜250億円」との試算がある(押田[2001:
92])。
なお、3空港機能分担によって、北部九州圏 を現在以上に国際航空需要で賑わう拠点にする ためには 3,500m の滑走路の増設が必要であ る。佐賀空港では用地確保に関しての問題はな い。2006年春就航予定でエアバス社が開発・製 造中の総2階建てスーパージャンボ、A380 800 は既存の B747 400 よりも総床面積が49%
も広く、航続距離は1万4,800km と長いのに、
滑走路長さは B747 よりも短くて済む
30)。この よ う に、最 大 離 陸 重 量560ト ン も の ス ー パ ー ジャンボ機ですら、3,500m の滑走路があれば 受入れ可能である。
用地にも航空機の運航環境にも恵まれた佐賀 空港は延長した 2,500m と増設した 3,500m 滑 走路を活用して国際線と国内地方路線及び不定 期便を分担するのである。事業費については、
「有明国際空港を推進する会」が算定した試算 がある。それによれば、佐賀空港に 4,000m 滑 走路1本を増設整備するために要する事業費は 建築工事費750億円、土木工事費2,100億円で合 計2,850億円であるから 3,500m ならそれ以下で あろう。
福岡空港:優れた利便性を活かし続けるため
に国内は幹線路線に特化し、国際線はビジネス 客を主要利用者とする路線及び近距離路線を担 当すれば良い。国際近距離路線を福岡空港に残 すのは、飛行時間1〜2時間の近距離海外へ行 く日本人海外旅行者にとって自宅から空港まで の距離感が旅行動機に大きな影響を及ぼすから である。福岡空港圏が巨大マーケットであるこ とを考慮すれば、そのような配慮は大きな意味 を持つ。
また、新北九州空港は国内地方路線と不定期 便に加えて韓国・中国の近距離国際路線を担当 する。近距離国際線は佐賀・新北九州の両空港 共に就航させるのが良い。アジアから九州圏へ の訪日観光客が全体の2/3を占めていること を考慮すると、九州東回りと九州西回りコース の設定が容易となり、より多くの選択肢を提供 できることになる。
6.
佐賀空港のアクセス整備
ア ク セ ス 整 備 に つ い て は 多 く を ( 押 田
[2003])
31)に依拠する。
佐賀空港へのアクセスは鉄道、道路、海上と も低コストで整備できる立地にある。
①佐賀空港―西鉄柳川駅間は10キロ。
②九州新幹線鹿児島ルート
32)が全線開通す れば、博多―新船小屋間は18分で結ばれる。
(西鉄柳川駅―JR 船小屋間は7キロ。)
③有明海沿岸道路が整備区間等に指定され、
既に建設に着手している。
④有明海に面した佐賀空港では極浅海上航行 可能なサーフェスプロペラ船が活用できる。
以上を活かすことで、佐賀空港へのアクセス は飛躍的に向上する(押田[2003:313])。
6.1. 鉄路の整備
現在、乗換に要する時間を除き、JR 博多駅
―佐賀駅間は特急で32分、佐賀駅―佐賀空港間 はバスで35分である。上述①の西鉄柳川―佐賀 空港間の10キロを延伸し、新型特急を導入する などすれば天神―空港間は45分が可能となるで
あろう。西鉄柳川―佐賀空港間は広大な干拓地 の田畑であり、土地の確保は容易であろうし、
高架にする必要もない。
ここに単線・地上方式の鉄路を設置する事業 費は270億円の試算が宮崎空港線の事業費を参 考になされている。途中、筑後川と早津江川、
合計約1キロの川幅を渡る必要がある。この架 橋部分の事業費は佐賀県が最近建設した橋梁の バランスシートを参考に2本で100億円と試算 されている。合計370億円、地盤が宮崎空港線 の地盤よりも軟弱であることから、それを考慮 しても500億円以下に抑えることは可能であろ う(押田[2003:313 317])。
②については新幹線鹿児島ルートの全線開通 が2010年と見込まれている。八女市の新船小屋
―西鉄柳川間、7キロをつないで博多―佐賀空 港間にフリーゲージトレインの新幹線を走らせ れば博多―佐賀空港間は25分となる。
新船小屋―柳川間の7キロは、かつての国鉄 佐賀線とほぼ同じルートであり、廃線跡は現在 サイクリングロードなどに使われている。市街 化は進んでおらず、田園地帯が広がっているの で直線で結ぶことは可能である。事業費は西鉄 柳川―空港間の1キロ27億円で試算すれば約 200億円となる(押田[2003:313 317])。
6.2. 道路の整備
既に一部着工している有明海沿岸道路及び佐 賀唐津道路の完成と活用により、福岡県南部及 び佐賀県北西部の利用者にも高い利便性を提供 することが可能である(図1)。
有明海沿岸道路は福岡県大牟田市から佐賀県 鹿島市までの有明海沿岸を時速60〜80キロで走 行できる無料の地域高規格道路である。この道 路は福岡空港利用者の20%近くを占める人口が 居住する福岡県南部、熊本県北部からのアクセ スを向上させ、それらの地域の利用者に対し て、佐賀空港の価値を大きく高めるであろう。
さらに九州自動車道の八女インターチェンジ
から有明海沿岸道路の大川までの直線10キロを
新たな地域高規格道路で結べば、久留米周辺の 利用者にも福岡空港と変わらぬ至便のアクセス を提供することが出来る。しかも、福岡市内か ら佐賀空港までを50分に短縮でき、福岡市内―
福岡県南部―佐賀空港とほぼ一体化することに なる。事業費は約500億円と見込まれている(押 田[2003:317 318])。
佐賀唐津道路は唐津・佐賀を55分で結ぶこと を目標として、現在工事中で無料の地域高規格 道路である。九州横断自動車道の多久インター チェンジを通って、佐賀市内の嘉瀬町で有明海 沿岸道路とつながる。佐賀県北西部のみならず 南西部の利用者にとっても大きな利便性の向上 となる。
6.3. 海上アクセス