中央大学大学院理工学研究科情報工学専攻 修士論文
新幹線と航空機の時空間ネットワークを用いた 空港評価
A Method to Evaluate Airports
Based on Their Connectivity in Time-Space Network Composed of Shinkansen and Airline
大野 悟史
Satoshi OONO
学籍番号09N8100013B
指導教員 田口 東 教授2011
年3
月i
概要
日本国内には100近い空港が存在し, その多くの空港経営が問題視されている. 空港 が多ければ需要が分散されるため, 航空機を運航する航空会社にも影響を与える. 旅客 の搭乗率が低い路線は運休になり, 空港も利益を得られなくなってしまう. 地方空港の 多くは便数の維持がやっとの状況になっており, 国や地方自治体がコストを負担して いる. また, 空港利用者の需要予測が甘いために, 必要以上に空港の数が増えていった という可能性もある. 空港利用者の需要予測は, 計画段階から行われるが, 空港建設後 の実際の利用人数が下回ることも多く, 問題になっている. さらに, 航空業界が抱える 問題としては, 新幹線との競合がある. 新幹線の利便性が向上するにつれて航空機は新 幹線に旅客を奪われる傾向がみられる. 今後, 国内の鉄道輸送はより便利になっていく と考えられ, さらなる競争の激化が予想される.
そこで, 本研究の目的は, 新幹線と航空機の競合を考慮したうえで, 空港を評価する 指標を求めることである. 空港の利益など経営に関する指標も考えられるが, 本研究で は旅客流動をみることで, 交通機関としての空港を評価する. まず新幹線と航空機の時 空間ネットワークを構築する. さらに, 全国幹線旅客純流動調査トリップデータを用い て旅客流動を再現する. 次に, 対象とする空港の有無による旅客流動の変化を分析して 空港を評価するために, 対象とする空港を使えない状態にして旅客流動を再現する. そ して, その空港を利用していた旅客の旅行経路がどのように変化するかを分析するこ とで3つの空港評価の指標を求めた.
キーワード:新幹線,航空機,時空間ネットワーク,旅客流動, 空港評価
ii
目次
第1章 序論...………1
1.1 研究背景 1.2 研究目的 1.3 本論文の構成 第2章 時空間ネットワーク………..……….4
2.1 利用する時刻表データ……….4
2.1.1 全国JR時刻表 2.1.2 航空時刻表 2.2 新幹線と航空機の時空間ネットワークの構築……….5
2.2.1 ノードと着発間リンク 2.2.2 走行リンク・飛行リンク 2.2.3 待ちリンク 2.2.4 乗換えリンク・乗り継ぎリンク 2.3 構築した時空間ネットワーク……….9
2.3.1 新幹線の時空間ネットワーク 2.3.2 航空機の時空間ネットワーク 第3章 旅客流動を表す時空間ネットワークの構築………12
3.1 207生活圏とアクセスリンク………12
3.1.1 全国幹線旅客純流動調査 3.1.2 アクセスリンク 3.2 駅・空港間の移動……….……17
3.2.1 利用データ 3.2.2 駅・空港間リンク 3.3 構築した時空間ネットワーク………20
第4章 トリップデータと旅客流動の再現方法…..….………21
4.1 全国幹線旅客順流動調査トリップデータ………...21
4.2 出発時刻の設定………...22
4.2.1 dijkstra法 4.2.2 最遅出発時刻とトリップ出発時刻の設定 4.3 シンクの付加………...24
iii
4.4 旅客流動の再現方法………24
第5章 旅客流動の再現……….………..26
5.1 新幹線と航空機の搭乗率……….………..26
5.2 航空輸送統計との比較……….………..28
5.3 空港別の分析……….………..30
第6章 空港評価……….………...34
6.1 空港評価の準備………...….………...34
6.1.1 時空間ネットワークにおける空港の削除 6.1.2 空港削除後のトリップ出発時刻の設定 6.2 関西三空港の分析………...….………...36
6.2.1 関西三空港を利用する旅客の分析 6.2.2 関西三空港を削除した場合の他空港と駅の分析 6.2.3 空港削除によるトリップ利用交通機関の変化 6.3 空港評価………...….………...47
6.3.1 到達可能な旅客から見た評価 6.3.2 到達不能になる旅客から見た評価 6.3.3 新幹線と航空機の競合を考慮した評価 第7章 結論……….…...….………...56
7.1 まとめ 7.2 今後の課題 謝辞……….………...59
参考文献……….………...60
1
第 1 章 序論
1.1
研究背景2010年3月11日に国内98番目の空港として, 茨城空港が新たに開港した. 開港時 の国内便は, 茨城~神戸便の1日1往復であり, 空港経由の交通需要に不安が持たれて いた[8]. 現在は, 神戸便に加え2011年2月1日に国内便に茨城~新千歳便, 茨城~中 部便が就航したことにより国内線3路線が運航している. しかし, 一時期は神戸便が運 休し国内線がない状態になり空港経営が危ぶまれていた. 日本国内には 100 近い空港 が存在し, その多くが空港経営に同様の問題を抱えている[5]. 単純計算しても, 1県 に2空港存在することになる. 空港が多ければ利用者の利便性は向上するが, 需要が分 散され, 空港が利益を得にくくなるため空港経営が困難になる. これは実際に航空機を 運航する航空会社にも影響を与える. 日本の空港着陸料は世界でも比較的高い水準に あることや, 燃料費などの運航コストの関係から, 旅客の搭乗率が低い路線は採算が取 れなくなる. 採算が取れない路線は運休になる可能性があり, 運休になると空港も利益 を得られなくなってしまう. 地方空港の多くは便数の維持がやっとの状況になってお り, 国や地方自治体がコストを負担している. さらに, 2010年に日本航空の経営再建に より大規模な運休・減便が行われたため, 空港経営はより厳しくなった[5].
空港需要予測の甘さも問題になっている. 空港需要予測は, 空港建設の判断材料とし て, 計画の段階から行われる. しかし, 空港建設後の実際の利用人数が空港需要予測を 下回ることが多い. 例えば, 2009年に開港した静岡空港の初年度の需要予測は, 国内線 と国際線合わせて138万人であったが, 実際は70万人弱と大きく下回る見込みである
[8]. また, 2009年の北九州空港の予測した利用者数は522万人だったのに対し, 実 績は117万人だった. これは 2010年10月に行われた政府の「事業仕分け」でも議論 され, 空港需要予測のずさんさが指摘された[11].
航空業界が抱える問題としては, 新幹線との競合がある. 図1.1は東京(羽田)・仙台 間の昭和57年1月から昭和60年5月まで3カ月ごとの航空輸送を表している. 東北 新幹線の本開業があった昭和57年11月に座席利用率が低下し, 以降は停滞しているこ とがわかる. 新幹線の最高速度が240km/hになった昭和60年4月を最後に羽田・仙台 間の路線は廃便になっている. このように新幹線の利便性が向上するにつれて航空機
2
は新幹線に旅客を奪われる. 近年では, 2010年12月に東北新幹線の八戸・新青森駅間 が延伸され, 2011年3月に九州新幹線の博多・新八代駅間も開業予定であることから, さらに需要が奪われることが予想される[2].
図1.1 「東京(羽田)⇔仙台」の航空輸送
1.2
研究目的本研究の目的は, 新幹線と航空機の競合を考慮したうえで, 空港を評価する指標を 求めることである. 空港の利益など経営に関する指標も考えられるが, 本研究では旅客 流動をみることで, 交通機関としての空港を評価する. そのために, まず新幹線と航空 機の時空間ネットワークを構築し, 全国幹線旅客純流動調査トリップデータを用いて 旅客流動を再現する. 次に, 対象とする空港の有無による旅客流動の変化を分析して 空港を評価するために, 対象とする空港を使えない状態にして旅客流動のシミュレー ションを行う. その空港を利用していた旅客の旅行経路がどのように変化するかを分 析することで, 以下の3つの評価指標を提案する.
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(I) 空港を削除しても目的地に到達できるが, 移動時間が変化する旅客から見た評価
(II) 空港を削除すると目的地に到達することができなくなる旅客から見た評価
(III) 空港が航空機と新幹線の競合に与えている影響の評価
さらに, これらの指標を他でもよく議論されている関西三空港(伊丹空港・神戸空港・
関西国際空港)に適用し, 三空港の関係を分析する.
1.3
本論文の構成まず, 第2章および第3章で時刻表データをもとに新幹線と航空機の時空間ネットワ ークを構築する. 第4章で旅客流動の推定方法を説明し, 第5章で推定結果を分析する.
最後に第6章で3つの空港評価の指標を定め, 評価指標を関西三空港(伊丹空港・神戸 空港・関西国際空港)に適用する.
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第 2 章
時空間ネットワーク
新幹線や航空機の移動をネットワークで表現するためには, 駅間や空港間の移動に おける空間軸上の変化と, それに伴う時間軸上の変化を考慮する必要がある. そこで, 鉄道網や航空路線網などの空間ネットワークを時間軸方向に拡張した静的なネットワ ーク(時空間ネットワーク)を利用して, 移動と時間の経過を表現する. 時空間ネット ワークは, 駅や空港ごとにノードを定義するのではなく, 新幹線や航空機の発着ごとに ノードを定義するため, 元のネットワークに比べ大規模ではあるが, 構造が単純であり, 旅客の流れを正確に再現できる[7].
2.1 節では, 時空間ネットワークを構築するために利用した, 新幹線と航空機の時刻 表のデータについて説明する. 2.2 節では, 時空間ネットワークを構築する各ノードと リンクの定義を述べる. 2.3 節では, 構築した新幹線と航空機の時空間ネットワークに ついて述べる[3],[6].
2.1 利用する時刻表データ
時間の概念を組み込んだネットワークを構築するためには時刻表が必要である. そ こで本節では構築に利用した新幹線と航空機の時刻表のデータについて説明する.
2.1.1 全国 JR
時刻表本研究では, 全国JR時刻表2005年1月号の時刻表データを用いた. 時刻表データか ら新幹線の運行情報のみを用いて, 時空間ネットワークを構築する. 表2.1 は新幹線が 運行している線区とその線区内の駅数を示している. この線区の中で新幹線が発着し ている駅は197駅である.
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表2.1 新幹線が運行する線区
線区名称 区間 駅数
東海道・山陽新幹線 東京~博多 35 東北新幹線 東京~八戸 21 上越新幹線 東京~新潟 12 長野新幹線 東京~長野 11 奥羽本線 福島~青森 106
田沢湖線 盛岡~大曲 19
上越線 越後湯沢~ガーラ湯沢 2 九州新幹線 新八代~鹿児島中央 5
2.1.2 航空時刻表
航空機の時空間ネットワークを構築するための時刻表は, Official Airline Guide(以 下, OAG)から提供されている航空時刻表データを用いる. OAGとは, 世界中の航空情 報を提供する企業で, 世界で最も多くの航空業関連データを保有している企業であり, 世界中の流通システム, 旅行会社や代理店, 航空会社の運営, 航空交通管制システム, 航空機メーカー, 空港計画業者, および政府機関などの活動に必要なデータを提供して いる[6].
本研究では2007年の国内便の OAG航空時刻表データを用いる. 空港数は58 空港, 170空港間のフライトを表し, 便数は1708便である.
2.2
新幹線と航空機の時空間ネットワークの構築本研究において, 新幹線の時空間ネットワークは旅客が新幹線に乗車してから降車 するまでの行動を表現する. また, 航空機の時空間ネットワークは航空機に搭乗してか ら降機するまでの行動を表現する. そこで, 駅や空港をノードで表し, ノード間を結ぶ 各リンクが新幹線や航空機による移動を表すようにネットワークを構築する. 2次元で 表される空間ネットワークに, 時間軸を設けることによってネットワークを3次元に拡 張し, 時空間ネットワークを構築する. 本節では, 2.1節で説明した時刻表をもとに時空 間ネットワークを構築する各ノードとリンクの定義を述べる.
新幹線や航空機の利用を開始してから終了するまでの利用者の行動は, 以下の行動 に分類できる.
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新幹線・航空機に乗って駅間・空港間を移動する行動
駅・空港で次の新幹線・航空機を待つ行動
駅・空港で別の路線へ乗り換える行動
これら一連の利用者の行動をノードとリンクとして以下のように定義し,ネットワーク の要素として表現する.
・ 発ノード :各駅・空港における新幹線や航空機の出発
・ 着ノード :各駅・空港における新幹線や航空機の到着
・ 着発間リンク :新幹線・航空機が到着から出発まで待つ行動
・ 走行リンク :新幹線に乗って次の駅への移動する行動
・ 飛行リンク :航空機に乗って次の空港への移動する行動
・ 待ちリンク :駅・空港で次の新幹線・航空機を待つ行動
・ 乗り換え・乗り継ぎリンク
:駅・空港で他路線へ乗り換える行動
2.2.1 ノードと着発間リンク
新幹線と航空機の各時刻表には, 新幹線や航空機が駅や空港に到着する時刻(着時刻)
と出発する時刻(発時刻)が分単位で記載されている. したがって, ネットワークの時 刻の基本単位は[分]とする.
ノードには駅・空港における新幹線・航空機の出発を表す発ノードと, 駅・空港にお ける新幹線・航空機の到着を表す着ノードを定義する. 発ノードは発時刻と出発する 駅・空港の情報を持ち, 着ノードは着時刻と到着する駅・空港の情報を持つ.
また, 新幹線が駅に到着してから出発まで停止する行動や, 航空機が経由便であり, 空港に到着してから出発まで待つ行動を着発間リンクと定義する.
これらの要素を図2.1のように表現する.
図2.1 ノードと着発間リンク
7
2.2.2 走行リンク・飛行リンク
新幹線に乗って次の駅への移動する行動を走行リンク, 航空機に乗って次の空港へ の移動する行動を飛行リンクと定義する. 図2.2のように, 移動元の駅・空港の発ノー ドから移動先の駅・空港の着ノードへのリンクとして表現する. 走行リンク・飛行リン クは旅客の容量, すなわち一本の新幹線や一機の航空機に乗ることが出来る人数の情 報を持つ. 本研究では, 走行リンクの容量を1000人, 航空機は飛行リンクの容量を350 人と定める.
図2.2 走行リンク・飛行リンク
2.2.3 待ちリンク
駅・空港で次の新幹線や航空機を待つ行動を待ちリンクとして定義する. 待ちリンク は, 各駅・空港における各発ノードから次にその駅・空港を出発する新幹線・航空機の 発ノードへのリンクである. 例えば, 空港における待ちリンクは図2.3のようになる.
着ノードのみの駅・空港では, 同様に各着ノードから次にその駅・空港に到着する新幹 線・航空機の着ノードにリンクを張る.
図2.3 空港における待ちリンク
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2.2.4 乗り換えリンク・乗り継ぎリンク
駅で別の路線へ乗り換える行動を乗り換えリンクとして定義する. 図2.4のように, 路線1と路線2がB駅とB’ 駅で乗り換えが可能であるとする. このとき乗り換えリン クは, 図2.5のように乗り換え元の駅の着ノードから, 乗り換え先の駅で乗り換えが間 に合う最も早い新幹線の発ノードへのリンクとして表現する.
図2.4 乗り換えの例
図2.5 乗り換えリンク
9
空港で別の飛行機へ乗り継ぐ行動を乗り継ぎリンクとして定義する. 図2.6のように, 乗り継ぎができる空港での乗り継ぎは, 乗り継ぎ元の空港の着ノードから乗り継ぎ先 の空港の発ノードのうち, 乗り継ぎして間に合う時刻の発ノードへのリンクとして表 現し, このリンクを乗り継ぎリンクとする. 乗り継ぎにかかる時間は各空港内の構造に 依存するが, ここでは一律に60分と定義する[6].
図2.6 乗り継ぎリンク
2.3 構築した時空間ネットワーク
本節では, 2.1節で述べた新幹線と航空機の時刻表データを用いて構築した, 新幹線 の時空間ネットワークと航空機の時空間ネットワークについて述べる.
2.3.1 新幹線の時空間ネットワーク
新幹線の線路網を時間軸方向に拡張し, 時空間ネットワークを構築する. 対象とする 新幹線の本数は1,292本である. 地表面に垂直な方向に時間軸をとり, 図2.7(a)のよう な新幹線の線路網を, 時空間ネットワークで表現すると図2.7(b)のようになる. 図2.7 は, リンクの種類により色を分けて表示している. 青色が走行リンク, 緑色が着発間リ ンク, 赤色が待ちリンク, 橙色が乗り換えリンクを表している.
構築した新幹線の時空間ネットワークの規模を表2.2に示す. 総ノード数は15,655, 総リンク数は39,775である.
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(a) 新幹線の線路網 (b) 時空間ネットワーク
図2.7 新幹線の時空間ネットワーク
表2.2 新幹線の時空間ネットワークの規模
駅数 197 新幹線本数 1,292
ノード 15,655
リンク 39,775
走行リンク 7,816 着発間リンク 6,863 待ちリンク 8,346 乗り換えリンク 16,356
2.3.2 航空機の時空間ネットワーク
航空機の路線網を時間軸方向に拡張し, 時空間ネットワークを構築する. 対象とす る航空機のフライト数は1,708本である. 地表面に垂直な方向に時間軸をとり, 図
2.8(a)のような航空機の路線網を, 時空間ネットワークで表現すると図2.8(b)のように
なる. 図2.8は, リンクの種類により色を分けて表示している. 青色が飛行リンク, 緑 色が着発間リンク, 赤色が待ちリンク, 橙色が乗り継ぎリンクを表している.
構築した航空機の時空間ネットワークの規模を表2.2に示す. 総ノード数は15,655, 総リンク数は39,775である. 着発間リンクが張られていないのは, 日本国内では航空 機の経由が行われていないからである.
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(a) 航空路線網 (b) 時空間ネットワーク
図2.8 航空機の時空間ネットワーク
表2.3 航空機の時空間ネットワークの規模
空港数 58 フライト数 1,708
ノード 3,416
リンク 4,828
飛行リンク 1,708 着発間リンク 0 待ちリンク 1,650 乗り換えリンク 1,470
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第 3 章
旅客流動を表す時空間ネットワーク
本章では, 第2章で構築した新幹線の時空間ネットワークと航空機の時空間ネットワ ークの結合について述べる. 3.1 節では, 生活圏と各時空間ネットワークの関係とアク セスリンクについて述べる. 3.2節では, 駅・空港間の旅客流動を表すリンクについて述 べる. 3.3節では, 構築した新幹線と航空機の時空間ネットワークについて述べる.
3.1 207
生活圏とアクセスリンク第 2 章で, 新幹線の時空間ネットワークと航空機の時空間ネットワークを構築した.
これにより, 駅から駅へ, 空港から空港への旅客流動を再現することが出来る. しかし 本研究では, 図3.1に示すように, 出発地である代表点Aから, 新幹線や航空機を利用 し, 目的地である代表点Bへ, 移動する旅客流動を再現することを目的としている. こ れにより, 新幹線と航空機の競合が考慮できる. 本節では, 代表点と駅・空港の関係を 述べる.
図3.1 旅客流動の例
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3.1.1 全国幹線旅客純流動調査
全国幹線旅客純流動調査は, 全国の幹線交通を利用した旅客流動を把握するための 調査である[9]. この調査は, 交通機関ごとに別々に行われる流動調査ではなく, それ らを統合し, 旅行行動の全体像を捉えたものである. また, 旅行する個人の実際の出発 地と目的地や旅行目的などに着目している. 対象とする旅客の流動は, 2005年度秋季1 日の平日と休日に, 通勤・通学目的を除き, かつ都道府県を超える移動をする旅客であ る.
幹線交通機関とは以下の5つの交通機関である.
・航空 :国内定期航空路線
・鉄道 :新幹線, JR特急列車及び一部長距離民鉄線 等
・幹線旅客線 :フェリーを含む航路
・幹線バス :都市間バス, 高速タクシー
・乗用車等 :自家用乗用車, タクシー等
全国幹線旅客純流動調査では, 50府県ゾーンと207生活圏ゾーンの二つの集計ゾー ンが定められている.
50府県ゾーンとは, 都道府県を基本に, 面積の広い北海道を4つの圏域(道央・道北・
道東・道南)に分割したゾーンである. 各ゾーンの中心地は, 基本的に都道府県庁とし, 道庁の存在しない道北, 道東, 道南については, 人口が最も大きい市(道北:旭川市, 道 東:釧路市, 道南:函館市)の市役所としている.
207生活圏ゾーンとは, 50府県ゾーンを基本に, 全国を207ゾーンの生活圏に細分化 したゾーンである. 各ゾーンの中心地は, 50府県ゾーンの中心地が属する生活圏につい ては50府県ゾーンの中心地と同一地点とし, 属さない生活圏については, 生活圏内で 人口が最も大きい市町村の役場としている. 本研究では, この各生活圏を出発地・目的 地とし, 各生活圏の中心地を出発地・目的地の代表点とする. これにより, 図3.2で示 すように, 出発地である生活圏Aの代表点から, 新幹線や航空機を利用し, 目的地であ る生活圏Bの代表点へ, 移動する旅客流動を考える.
図3.2 生活圏と代表点
図3.3は207生活圏ゾーンの地図である.
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図3.3 207生活圏ゾーン
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3.1.2 アクセスリンク
3.1.1項で述べたように, 旅客は生活圏の代表点を出発し, 新幹線や航空機を利用し,
生活圏の代表点に移動する. 本項では, この代表点と駅・空港間のアクセスについて述 べる. まず, 代表点ごとに, 直線距離で最も近い三つの新幹線停車駅と二つの空港もと める. さらに, 旅客の移動速度を30km/hと仮定し, 直線距離から移動時間を求める.
このとき, 移動時間が200分以内だった場合, 利用可能なアクセスであるとし, 代表点 と駅・空港を接続する. この接続を時空間ネットワーク上で表すリンクをアクセスリン クとする.
図3.4は23区(生活圏)の新宿区役所(代表点)の例を表している. 23区は上野・
東京・品川の3駅, 成田・羽田の2空港と接続する.
図3.4 23区(生活圏)の例
接続する代表点のノードと駅のノード・空港のノードの間に, 5時から23時まで1時 間ごとの出発を表すようにアクセスリンクを張る. このとき, アクセスリンクにはコス トとして移動時間と手続き時間の和を与える. 手続き時間とは, 新幹線や航空機の乗降 の際に手続きにかかる時間である. 本研究では, 駅での手続き時間を15分, 空港での 手続き時間を30分と定める. また, 各ノードは時間軸方向に待ちリンクを張る. 図3.5 は代表点から駅・空港に接続する場合のアクセスリンクを表している.
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図3.5 代表点から駅・空港に接続する場合のアクセスリンクの例
207個の生活圏に対しアクセスリンクを張ると図3.6のようになる. 総ノード数は 39,481, 総リンク数は73,000である.
図3.6 アクセスリンク
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3.2 駅・空港間の移動
図3.7は, 出発地である代表点Aから, 目的地である代表点Bに向かう途中で, 航空 機から新幹線に乗り換える旅客の例を表している. このように, 利用する交通機関を変 更するために, 空港から駅へ, もしくは駅から空港へ旅客が移動する可能性がある. 旅 客が駅・空港間を移動する行動を, 時空間ネットワーク上で表すリンクを駅・空港間リ ンクとする. 本節では, 3.2.1項で, 駅と空港の間を運行している交通機関の時刻表につ いて述べ, 3.2.2項で駅・空港間リンクを説明する.
図3.7 交通機関の乗り換えを行う旅客流動の例
3.2.1 駅・空港間のアクセス情報
時空間ネットワークにおいて, 駅・空港間の旅客の移動を表すために, 駅と空港の間 を運行している交通機関の時刻表を用いる. そこで, 日本航空のホームページにある空 港アクセス情報[12]や, 各空港ホームページにあるアクセス情報に記載されている時刻 表を用いる([13], [14], [15], [16],[17], [18], [19], [20], [21], [22], [23], [24], [25]). 本 研究では, 表3.1で示すアクセス情報に新幹線停車駅とのアクセスが記載されている 駅・空港間を対象とする.
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空港 駅 交通機関 羽田 東京 バス 羽田 東京 モノレール 成田 東京 鉄道 福岡 博多 鉄道 神戸 新神戸 モノレール 伊丹 新大阪 バス 関西国際 新大阪 鉄道 仙台 仙台 鉄道 秋田 秋田 バス 中部国際 名古屋 鉄道 鹿児島 鹿児島中央 バス 北九州 小倉 バス 青森 青森 バス 三沢 八戸 バス
山形 山形 乗合タクシー 広島 広島 バス
山口宇部 新山口 バス 岡山 岡山 バス いわて花巻 新花巻 バス 新潟 新潟 バス 福島 郡山 バス
表3.1 接続する駅・空港間
3.2.2 駅・空港間リンク
3.2.1項で述べた時刻表をもとに, 時空間ネットワーク上に駅・空港間リンクを張る.
まず, 時刻表からわかる始発時刻と最終時刻の時間差(1日の運行時間)と運行本数か ら, 運行間隔を求める. この運行間隔ごとに, 空港のノードと駅のノードの間に駅・空 港間リンクを張る. このとき, 駅・空港間リンクにはコストとして, 時刻表からわかる 移動時間と乗換時間の和が与えられる. 乗換時間とは, 新幹線と航空機を乗り換える際 に手続きにかかる時間である. 本研究では, 空港から駅への乗り換える場合の乗換時間 を15分, 駅から空港へ乗り換える場合の乗換時間を30分と定める. また, 各ノードは 時間軸方向に待ちリンクを張る.
図3.8は, 空港から駅への乗り換えを表す駅・空港間リンクの例を表している. 始発 時刻が8時, 最終時刻が21時, 運行本数が40本の場合, 運行間隔20分ごとに駅・空
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港間リンクを張る. 例の場合, 移動時間25分と乗換時間15分の和が駅・空港間リンク のコストとして与えられる.
図3.8 空港から駅への乗り換えを表す駅・空港間リンクの例
表3.1で示す駅・空港間に駅・空港間リンクを張ると図3.9のようになる. 総ノード
数は4040, 総リンク数は5,976である. 青色が駅・空港間リンク, 赤色が待ちリンクを
表している.
図3.9 駅・空港間リンク
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3.3 構築した新幹線と航空機の時空間ネットワーク
3.1節で説明したアクセスリンクと3.2節で説明した駅・空港間リンクを用いて, 各 生活圏と新幹線の時空間ネットワークと航空機の時空間ネットワークを接続すること で, 新幹線と航空機の競合を考慮することができる新幹線と航空機の時空間ネットワ ークを構築できる. 図3.10は構築した新幹線と航空機の時空間ネットワークを表して いる. 総ノード数は62,592, 総リンク数は148,736である. 青色が飛行リンク(航空機), 緑色が走行リンク(新幹線), 橙色がアクセスリンク, 水色が駅・空港間リンク, 赤色 が待ちリンクを表している.
図3.10 新幹線と航空機の時空間ネットワーク
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第 4 章
トリップデータと旅客流動の再現方法
本章では, 第3章で構築した新幹線と航空機の時空間ネットワーク上で旅客流動を再 現するための利用データと手法を述べる. 4.1 節では, 全国幹線旅客純流動調査トリッ プデータについて説明する. 4.2 節では, トリップデータの出発時刻の設定について述 べる. 4.3節では, 旅客流動の再現方法を述べる
4.1 全国幹線旅客純流動調査トリップデータ
3.1.1項で説明した全国幹線旅客純流動調査[9]において, 航空・鉄道・幹線旅客船・
幹線バス・乗用車等の調査結果を拡大・統合処理することにより, 交通機関の乗り継ぎ 情報も含め旅客一人一人に着目し, 出発地から目的地までの一連のデータとして整備 したものを「幹線旅客純流動データ」と呼ぶ. 「幹線旅客純流動データ」のうち, 個表 単位のデータを「トリップデータ」と呼ぶ. トリップデータ数は 537,325 個であり,
345.2 万人の旅客流動を表している. 各トリップは, 利用交通機関, 代表交通機関, 出
発地(生活圏), 目的地(生活圏), 異種幹線交通機関乗り継ぎの有無, 拡大係数など の情報を持つ. 利用交通機関とは, トリップデータを回収した交通機関, すなわちトリ ップが利用していた交通機関を表す. 代表交通機関は, トリップの異種幹線交通機関乗 り継ぎがない場合, 利用交通機関と同じである. 一方, 異種幹線交通機関乗り継ぎがあ る場合は, ①航空, ②鉄道, ③幹線旅客船, ④幹線バス, ⑤乗用車等の順で利用した交 通機関を代表交通機関とする. 例えば, 図 4.1 のように, 鉄道から航空に乗り継いだ場 合, 代表交通機関は「航空」になる. 本研究では, 代表交通機関が「航空」もしくは「鉄 道」である302,710個のトリップ(1,155,227人分)を, 時空間ネットワークによる旅 客流動を再現するためのOD(Origin Destination)交通需要として利用する.
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図4.1 代表交通機関の例
4.2 出発時刻の設定
全国幹線旅客純流動調査のトリップデータは, 出発時間や移動時間といった情報は 記載されていない. そのため, 時空間ネットワークに上で旅客流動を再現するために, 各トリップに出発時刻を定める. 全ての旅客は, その日のうちに目的地に到達できる時 間内に出発すると考え, dijkstra法を用いて最遅出発時刻を求める.
4.2.1 dijkstra
法本項では,ネットワーク上のある2つのノード間の最短経路を探索する方法である.
Dijkstra法について[1]をもとに説明する.
まず有向グラフ
G
に対して,G
のすべての辺の集合をE(G),G
のすべての点の集合 をV(G)として,G
の各辺e(u,v)E(G)に実際の長さlength(e)が割り振られている ネットワークN (G,length)があるとする.このネットワークN (G,length)の各辺e
の長さlength(e)がすべて非負のとき,Dijkstra 法は始点s
からすべての点への最短経 路を求めることができる.Dijkstra 法のアルゴリズムを以下に示す(VP
はs
からの最 短経路が確定した点の集合,V(G)VPは最短経路が未確定の点の集合を表す).s
からの最短経路木を求めるDijkstraのアルゴリズム1. スタート点
s
を選び,VP:
distance[s]:0;とする.s
以外の点v
に対しては,distance[v]:;とする.2. VPV(G)である限り以下の(a),(b)を繰り返す.
(a)V(G)VPの点の内で
distance
の値が最小な点w
を求める.(b)VP:VP{w}とする.さらに
w
を始点とする各辺e(w,v)に対し て,distance[v]distance[w]length(e)ならば,d i s t a n c e[v]:d i s t a n c e[w]l e n g t h(e)とする.
23
4.2.2 最遅出発時刻とトリップ出発時刻の設定
図4.2は, 23区を5時から23時まで1時間ごとに出発し, 他の全生活圏に向かう最 短時間経路を表している. このように, 新幹線と航空機の時空間ネットワークにおける 生活圏間の最短時間経路を, dijkstra法を用いて求めることができる.
図4.2 23区発の最短経路
そこで図4.3のように, 全生活圏間について最短時間経路を出発時刻5時から1時間 ごとに順に求めていき, 最短時間経路を求めることができなくなる(目的地に到達でき なくなる)出発時刻の1時間前を, 生活圏間の最遅出発時刻とする. 旅客は常に, 目的 地に到達できる時間内に出発すると考え, 各トリップの出発時刻は, 5時から最遅出発 時刻までの間で一様に定める. 例えば図4.3のように, 生活圏Aから生活圏Bに移動す るトリップの場合, 5時から最遅出発時刻である19時までの間で一様に出発時刻を定め る.
図4.3 最遅出発時刻
24
4.3 シンクの付加
トリップデータの出発地と目的地との間のOD交通需要を最短時間経路問題の入力 とするために, ネットワークから流出する旅客に対応するシンクをネットワークに付 加する. 図4.4のように, 各生活圏に対して一つのシンクノードを作り, その生活圏の 代表点を表すノードからシンクリンクを張って旅客をネットワークから流出させる
[4].
図4.4 シンクの付加
4.4 旅客流動の再現方法
トリップデータを出発地と目的地との間のOD交通需要として, 第3章で構築した新 幹線と航空機の時空間ネットワーク上で旅客流動を再現する. ただし, 旅客は出発地の 生活圏から目的地の生活圏まで最短時間経路で移動すると仮定する. 最短時間経路は
dijkstra法を用いて求める.
OD交通需要の各データは以下の情報を持っている.
(1) 出発時刻:
on _ time
(2) 出発地:on_area
(3) 目的地:off _area
(4) 拡大率:mag
(1),(4)にはそのままの値が入り,(2)には時空間ネットワーク上の
on _ time
以降 の最初の生活圏の発ノード,(3)には時空間ネットワーク上のシンクノードの番号が 入る.旅客流動の再現のアルゴリズムを以下に示す. ここで, リンクiを通る人数を
user
i,25
リンクiを通ることができる人数を
cap
i, リンクiのコストをcos t
iとする. コストは移 動にかかる時間を表す. また, OD交通需要のデータは出発時刻の早い順に入力する.ステップ1. すべてのリンク
x
に対してuser
x 0
とする. リンクx
が走行リンクか飛行リンクの場合は
cap
xを各リンクの容量とし, そうでない場合は
cap
x
とする.ステップ2. OD交通需要のデータを入力する. 入力するデータが無くなったら終
了する.
ステップ3. on_areaを出発ノード
O
, off _areaを到着ノードDとして,OD
間の最短時間経路をdijkstra法で求める.
ステップ4. 求めた最短時間経路に含まれるすべてのリンクyに対し,
y
y
mag cap
user
が成り立つならば,user
y user
y mag
とし, ステップ5へ.そうでなければ,
mag mag min( cap
y user
y)
,)
min(
y yy
y
user cap user
user
としてステップ3へ戻る.ステップ5. すべてのリンクzのうち
user
z cap
zとなるリンクwに対して,
w
t
cos
としステップ2へ戻る .このアルゴリズムにより, 各旅客の移動の詳細なデータと各交通機関の利用人の データを得ることができる. 第5章ではこれらのデータを用いた分析を行う.
26
第 5 章
旅客流動の再現
本章では, 第2章と第3章で構築した新幹線と航空機の時空間ネットワークと, 第4 章で説明した全国幹線旅客純流動調査トリップデータを用いたシミュレーション結果 の分析と考察を行う. 5.1節では交通機関別に搭乗率を考察する. 5.2節ではシミュレー ション結果を航空輸送統計と比較する. 5.3 節では空港別に便数や搭乗率による分析を 行う.
5.1 新幹線と航空機の搭乗率
構築した新幹線と航空機の時空間ネットワークと全国幹線旅客純流動調査トリップ データを用いて, 旅客流動を再現した結果, トリップデータの旅客 1,155,227 人のうち
1,079,152人(93%)が目的地に到達することができた. 図5.1に新幹線の時空間ネッ
トワークにおける走行リンクの搭乗率, 図5.2に航空機の時空間ネットワークにおける 飛行リンクの搭乗率を示す. 搭乗率は新幹線や航空機の容量(新幹線1本:1000人, 航 空機1機:350人)に対する旅客流量とする. 線は時空間ネットワークにおける新幹線 の移動を表す走行リンクと航空機の移動を表す飛行リンクを表しており, 暖色のリン クほど搭乗率が高いことを表している. 目的地に到達出来ない旅客は, 利用予定のリン クの搭乗率が100%になったため移動手段がなくなった旅客であると考えられる. 以下, 図5.1と図5.2について詳しく分析する.
図5.1は新幹線の時空間ネットワークにおける走行リンクのみを抜き出したときの搭 乗率を表している. 走行リンクは新幹線1本の出発駅と到着駅に始点と終点をつないで いるため, 東海道新幹線の東京・品川・新横浜・名古屋・京都・新大阪駅に停車する「の ぞみ」のような停車駅の尐ない新幹線を表すリンクは長い直線で表されている. 図5.1 をみると, 停車駅の尐ない新幹線を表すリンクの混雑率が特に高いことがわかる. なか でも「のぞみ」の搭乗率が高く, 深夜の数便以外はほとんどの新幹線が満席状態になっ ている. また, 東京から名古屋・京都・大阪までの路線は高い搭乗率であるが, 岡山・
広島と西に向かうにつれて搭乗率が減尐していることがわかる. このことから, 関東と 関西をむすぶ東海道新幹線は, 新幹線輸送の中心になっていることがわかる.
27
図5.1 新幹線の搭乗率
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図5.2を見ると, 羽田空港を中心とするリンクの搭乗率が高いことがわかる. 羽田・
那覇空港間や羽田・新千歳空港間は深夜の便以外のほとんどが満席状態になっている.
この理由は, 沖縄や北海道は新幹線との競合がないためであると考えられる. また, 富 山空港や小松空港と羽田空港を結ぶ路線も搭乗率が高いことがわかる. これは, 富山県 や石川県が新幹線を利用することが困難な地域であるためだと考えられる.
図5.2 航空機の搭乗率
5.2
航空輸送統計との比較図5.3は各空港の利用回数と航空輸送統計調査結果を表している. 航空輸送統計調査 とは, 航空運送事業及び航空機使用事業の実態を明らかにするとともに航空行政の基 礎資料を得ることを目的とした, 国土交通省によって行われる調査である[10]. 本研
29
究では, 航空輸送統計年報の国内定期航空空港間旅客流動表を用いた. ただし, この流 動表は年単位であるため, 365で割った値を1日の旅客流動と仮定する.
各空港の利用回数は, 全トリップでシミュレーションを行った場合の値と, 全国幹線 旅客順流動調査トリップデータにおいて航空機を利用する記載があるトリップ(以降, 航空利用トリップとする)のみでシミュレーション行った場合の値の2種類で表わされ ている. 航空輸送統計の総空港利用回数は503,743回, 航空利用トリップの総空港利用
回数は627,822回, 全トリップの総空港利用回数は796,454回である. 二つのシミュレ
ーションにおける総空港利用回数は両方とも航空輸送統計における総空港利用回数よ りも多くなっている. これは, シミュレーションにおける旅客は最短経路を利用するた め, 移動時間の短い航空機による移動を選ぶ傾向が強いためだと考えられる. 各空港に 分けて航空輸送統計と航空利用トリップデータによるシミュレーションを比較すると, 羽田空港以外は近い値をとっている. 一方, 全トリップを用いたシミュレーションの値 は, 航空輸送統計より大きくなっている. これは現実では鉄道を利用していたトリップ がシミュレーションでは航空機を利用したためだと考えられる.
図5.3 航空輸送統計との比較 0
50000 100000 150000 200000 250000
羽 田
新 千 歳
伊 丹
福 岡
那 覇
中 部
鹿 児 島
関 西
熊 本
宮 崎
広 島
仙 台
神 戸
松 山
長 崎
小 松
石 垣
大 分
函 館
高 松
空港利用回数
航空輸送統計 航空利用トリップ 全トリップ
30
5.3
空港別の分析本節では, 羽田空港, 新千歳空港, 関西三空港(伊丹空港・神戸空港・関西国際空港)
に焦点を当て, 搭乗率を分析する.
図5.4は羽田空港に接続している便数と路線の搭乗率を表している. 接続空港は45 空港, 便数は426便である. 全体的に搭乗率が高く, 70%以上ある空港は27空港ある.
また, 平均搭乗率も76%と高い. 南紀白浜空港(SHM)や宮古空港(MMY)など, 便 数も尐なく搭乗率も低い空港がある. これはシミュレーションでは航空機の容量を実 際よりも大きく設定したためだと考えられる. 本研究では, 航空機の容量は全て350人 としているが, 実際の南紀白浜空港路線の提供座席は約80席, 宮古空港路線の提供座 席は約150席となっている. 図5.5は羽田空港と接続する飛行リンクを表している. 新 千歳, 福岡, 伊丹, 那覇と日本中に搭乗率の高い便を持つことがわかる.
図5.4 羽田空港の便数と搭乗率
31
図5.5 羽田空港と接続する飛行リンク
図5.6は新千歳空港に接続している便数と路線の搭乗率を表している. 接続空港は 25空港, 便数は125便である. 10便以下の路線が多いが搭乗率は高く, 平均搭乗率
76%である. 新千歳・羽田間は51便と全体の40%も占めており, これが高い平均搭乗
率の原因であると考えられる.
図5.6新千歳空港の便数と搭乗率
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図5.7は新千歳空港と接続する飛行リンクを表している. 羽田空港に加え, 神戸空港 や中部国際空港に搭乗率の高い路線が見られる. また, 北海道内の路線でも搭乗率が高 い.
図5.7 新千歳と接続する飛行リンク
図5.8は関西三空港(伊丹空港・神戸空港・関西国際空港)と接続する飛行リンク の搭乗率を表したものである. どの空港も北海道, 東京, 九州, 沖縄の空港と接続して いる様子が明らかに現われている. 伊丹空港は搭乗率の高い路線が東西に広がってい る. 表5.1で示しているように, 神戸空港は接続空港数や便数は尐ないが, 平均搭乗率 は高い. 関西国際空港は神戸空港よりも接続空港数や便数は多いが平均搭乗率は低く, 羽田との路線以外はあまり利用されていない.
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図5.8 関西三空港と接続する飛行リンク
表5.1 関西三空港のシミュレーション結果 接続空港数 便数 平均搭乗率 伊丹空港 22 136 72%
関西国際空港 14 59 43%
神戸空港 6 28 78%
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第 6 章
空港評価
本章では, 空港を評価する手法を提案し, その結果を考察する. 6.1節では時空間ネッ トワークにおいて空港を削除する方法とトリップの出発時刻の設定を説明する. 6.2 節 では関西三空港について分析を行う. 6.3節では, 6.2節の結果に基づき, 3つの空港評価 手法を提案する.
6.1 空港評価の準備
本研究では, 対象とする空港の有無による旅客流動の変化を分析することで, 空港を 評価する. 対象とする空港を使えない状態にして旅客流動のシミュレーションを行う と, その空港を出発地, 目的地, 経由地として利用していた旅客は他の旅行経路を用い ることになる. これらの旅客の旅行経路の変更は, それ以外の旅客にも影響を及ぼす.
これは, 旅行経路を変更した先の経路において, 混雑のため乗れなくなる旅客が発生す る可能性があるからである.
図 6.1 は秋田空港を対象空港とし, 大阪(生活圏)から秋田(生活圏)へ移動する旅客の 旅行経路を表した例である. 秋田空港がある場合, 旅客は大阪(生活圏), 伊丹空港, 秋 田空港, 秋田(生活圏)と移動するとする. しかし, 秋田空港が無い場合, 大阪(生活圏), 伊丹空港, 仙台空港, 仙台駅, 秋田駅, 秋田(生活圏)という経路に変更される. また伊 丹・仙台空港間の航空旅客が増えたことにより混雑が発生し, 代替路線となりえる大 阪・仙台駅間の新幹線旅客が増加することも考えられる.