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心房細動発症予防の検討

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アトルバスタチン投与による人工心肺を 使用しない冠動脈バイパス術後の

心房細動発症予防の検討

昭和大学医学部外科学講座(胸部心臓血管外科学部門)

大 井 正 也

要約:心房細動は心臓術後に高頻度に発症する合併症で,心不全,腎障害,塞栓症などの 2 次 的術後合併症を引き起こし,治療計画の変更,入院期間の延長やコストの増大等の原因となる ばかりでなく,直接的に院内死亡率に影響を及ぼす.心臓手術後の心房細動の予防として,β 断薬などの抗不整脈薬が投与されてきたが,最近 HMG-CoA 還元酵素阻害剤(スタチン剤)の 心房細動抑制効果が注目されるようになった.今回われわれはアトルバスタチン(リピトール の術前投与による,人工心肺を使用しない冠動脈バイパス手術(Off -pump  coronary  artery  bypass  grafting  surgery :  OPCAB)後の心房細動の抑制効果を検討した.待期的 OPCAB  27 症例を対象として,術前高コレステロール血症を合併する 20 例に対しアトルバスタチン 20 mg を術前 4 日以上前より投与し(投与群),それ以外の 7 例(非投与群)との間で,術後 心房細動発症の有無,死亡率,入院期間,術直前,術後の CRP 値,心血管イベントについて 比較検討した.アトルバスタチン投与による有害事象の発生は認められなかった.死亡率,入 院期間,心血管イベントでは 2 群間に有意差は無かった.術後心房細動の発症率は投与群で有 意に低かった(25.0%  vs.  71.4%;p = 0.03).CRP 値では,投与群で術後 3 日目は低い傾向に あり(9.3±7.7 vs. 14.4±7.4 mg/dl;p = 0.07),術後 5 日目は有意に低値であった(3.2±2.0  vs.  7.9±4.3 mg/dl;p = 0.02).術後 CRP の最高値については,両群間に差を認めなかった.

術前アトルバスタチン投与は OPCAB 術後の心房細動の発症を抑制した.その機序としては,

術後 5 日目の CRP が有意差を持って低値を示したことからも,アトルバスタチンによる抗炎 症作用が関連している可能性が考えられた.

キーワード:アトルバスタチン,スタチン,心房細動,冠動脈バイパス

 心房細動は心臓手術後に高頻度に発症する合併症 で,心不全,腎障害,塞栓症など重篤な随伴症を引 き起こし,入院期間の延長や治療費用の増大の原因 となる1,2).また術後心房細動は院内死亡率を高め る危険因子でもあり3),このため術後心房細動を効 果的に予防することは周術期管理においても重要な 課題と考えられている.

 心臓手術後に発症する心房細動のメカニズムに は,心房の虚血性障害あるいは心房筋細胞の変性,

交感神経系の過剰活性,容量負荷による心房の拡 大,血管作動薬などによる化学的刺激,そして心膜 炎などさまざまな要因があると考えられている1,4,5) なかでも手術侵襲に伴う術後の炎症反応レベルと術 後心房細動の発症率との間には高い関連性が認めら

れており6),過剰な炎症反応を制御することにより 術後心房細動を抑制する試みがなされている.

 HMG-CoA 還元酵素阻害剤(スタチン剤)は,抗 炎症作用を有することが認められている.なかでも アトルバスタチンは抗炎症効果に優れ7),またその 効果に用量依存性がある8)ことから,心臓手術後の 心房細動発症予防についても利点があるものと推察 される.

 Patti らは人工心肺を要する心臓術前患者 200 名 に対して,アトルバスタチンの術前投与による術後 心房細動の抑制効果につき前向き検討を行った9) アトルバスタチンを手術 7 日前より 40 mg/日投与 した治療群は,コントロール群に対して術後心房細 動発症率が低く,術後心房細動を発症した群におけ 原  著

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372 る術後 CRP の最高値の平均は,心房細動を発症し なかった群に比較して高値を示した.

 その後 Patti らの報告に引き続いて韓国,中国の 研究班からも,本邦の承認用量と等しいアトルバス タチン 20 mg/日の術前投与が,人工心肺を使用しな い冠動脈バイパス手術(Off -pump  coronary  artery  bypass grafting surgery : OPCAB)後の心房細動発 症を有意に低下させるとの結果が報告されたが10,11) 日本における治療成績は未だ報告されていない.

 そこで,待機的に OPCAB を予定した患者に対 して,高コレステロール血症を伴う患者にはアトル バスタチン(リピトール)20 mg/日を術前 4 日以 上前から投与し,高コレステロール血症を有しない 患者との比較を行い,アトルバスタチンによる術後 の心房細動発症予防効果を検討した.

研 究 方 法

 1.対象

 本研究の実施については,昭和大学病院臨床試験 審査委員会で承認され,全ての患者からインフォー ムド・コンセントの書式に署名を得た.

 2009 年 9 月から 2011 年 3 月までの間に昭和大学 病院において,以下の選択基準を満たし,かつ除外 基準に抵触しない,待機的に OPCAB を予定され た 27 症例を対象とした.選択基準として,1)同意 取得時の年齢が 20 歳以上である患者,2)本試験開 始前に本試験への参加について本人から文書同意が 得られた患者,3)アトルバスタチン投与群として,

主病名が高コレステロール血症患者と診断された患 者であり,LDL コレステロール値が 100 mg/dL 以 上,または既に他のスタチン剤を服用中で,試験へ の参加に伴いアトルバスタチンへの切り替えが可能 である患者,および対照群(アトルバスタチン非投 与群)として,LDL コレステロール値が 100 mg/

dL 未満ならびにスタチン剤の使用がない患者とし た.高コレステロール血症の診断基準としては,

「動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2007」に準拠し た高コレステロール血症患者を投与群の条件として 定義した.除外基準として,1)心房細動の既往歴 のある患者,2)臨床的に明らかな筋障害が認めら れる患者,3)ステロイド等を要する炎症疾患を有 する患者,4)重篤な肝障害に罹患している患者,

5)薬物アレルギーを有する患者,6)過去 3 か月以

内に他の臨床試験に参加した患者,を設定した.

 2.方法

 本研究の試験デザインは非盲検・非ランダム化・

並行群間比較試験である.

 試験薬投与群においては,手術日の 4 日以上前か らアトルバスタチン 20 mg/日の経口投与を開始し た.既に他のスタチン剤を服用中の患者において は,アトルバスタチンに切り替え同量を投与した.

アトルバスタチンの投与量は,入院期間中はこの用 量を維持し,退院時に「動脈硬化性疾患予防ガイド ライン 2007」に準拠しながら,LDL コレステロー ル値 100 mg/dL 未満を目標として,アトルバスタ チンの投与量の維持もしくは減量をした.試験薬非 投与群ではアトルバスタチンの投与はせず,両群で β遮断薬,カルシウム拮抗薬,アンジオテンシン変 換酵素阻害薬の投与など,その他の治療においては 制限をしなかった.両群において,他のスタチン剤 並びに他のクラスのコレステロール低下薬の併用を 禁止した.

 全ての症例は,全身麻酔の導入および維持に関し て同様に管理され,レミフェンタニル,ミダゾラ ム,プロポフォール,ロクロニウムを使用された.

手術は全例において,胸骨正中切開によって心臓へ 到達し,人工心肺は使用せず,グラフトに左側もし くは両側の内胸動脈,および大伏在静脈を使用して 冠動脈バイパス手術を行った.ヘパリンは 100 IU/

kg を指標に投与し,活性化凝固時間(Activated  clotting  time :  ACT)は 300 秒以上にコントロール され,吻合終了後にプロタミンの投与により中和し た.術後管理は全例において担当医の判断により定 型的に行われ,適応に応じてβ遮断薬,カルシウ ム拮抗薬,アンジオテンシン変換酵素阻害薬を投与 した.全例において術後,抗血小板剤(バイアスピ リン 100 mg/日)を投与した.アトルバスタチン 投与群では術翌日から経口投与を再開した.

 手術から 7 日後もしくは退院時まで,持続モニタ リングによって心房細動発症の有無を監視し,適宜 12 誘導心電図を測定した.持続モニタリングある いは 12 誘導心電図において 5 分以上心房細動の波 形を認める記録がある,もしくは心房細動に何らか の処置を行った場合,心房細動の発症と定義した.

全例において,手術直前と術後の CRP 値を測定し た. ま た 虚 血 再 灌 流 障 害 の 指 標 と し て, 術 後 の

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373 CK-MB を全例において測定した.

 2 群間において術前患者背景,術中因子を比較し た.術後に発生した心血管イベント(死亡,脳卒 中,心筋梗塞,冠動脈血行再建術の施行)の発生状 況を調査した.また,アトルバスタチンに起因する と疑われる,臨床的に問題と思われる全ての有害事 象・副作用の発現を調査した.

 術後の心房細動発生の有無を主要評価項目とし て,入院期間,死亡率,術直前・術後 CRP 値,術 後の CK-MB,心血管イベントを副次評価項目とし た.

 統計学的処理は,群間比較に不等分散の t 検定お よびχ2検定を使用し,p < 0.05 をもって有意差あ りと判定した.

 術前患者背景(Table  1)の比較において,アト

ルバスタチン投与群の年齢は,非投与群に比して若 年であった.そのほかの因子に関しては,両群にお いて同様であった.

 1.主要評価項目

 冠動脈バイパス術後,27 例中 10 例(37.0%)に 心房細動を認めた.心房細動発症率はアトルバスタ チン投与群(5/20)において,非投与群(5/7)に 比して有意に低値を示した(25.0%  vs.  71.4%;p

= 0.03)(Table  3).心房細動発症の時期は,術後 2.8±0.8 日目に発症しており,両群間に差を認めら れなかった.心房細動発症後の持続時間についても 両群間で同等であった.心房細動を発症した症例に おいて,アトルバスタチン投与群では 5 例全て薬剤 投与のみで洞調律に復帰したが,非投与群では 5 例 中 3 例において薬剤投与では心房細動が持続し,電 気的除細動を必要とした.全例において,退院時は 洞調律であった.

Table 1 Demographic and clinical features

Characteristic Atrovastatin

(n = 20)

Control

(n = 7) P

Age (y) 60.9±9.5 68.6±7.4 0.02

Male 15 ( 75%)  7 (100%) 0.15

Medical history

  Smoking history 11 ( 55%)  4 ( 57.1%) 0.93

  Diabetes mellitus 15 ( 75%)  4 ( 57.1%) 0.39

  Hypertension 15 ( 75%)   7 (100%) 0.15

  Hypercholesterolemia   20 (100%)   0 (  0%) 0

  Body surface area (m2) 1.66±0.27 1.65±0.19 0.44   Previous myocardial infarction 11 ( 55%)  4 ( 57.1%)  0.93

  Pervious cardiac surgery 0 ( 0%)  0 (  0%)

  Previous cerebral attack  1 (  9.1%)  1 ( 14.3%)  0.44   Previous coronary angioplasty 3 ( 15%)  1 ( 14.3%)  0.97   Congestive heart failure 4 ( 20%)  3 ( 42.9%) 0.25   Chronic renal failure : dialysis-dependent 2 ( 10%)  2 ( 28.6%) 0.25 Serum creatinine (mg/dl) 1.69±2.04 3.48±4.31 0.16 Echocardiographic parameter

  Left atrial enlargement  8 ( 40%)  2 ( 28.6%)  0.27   Left ventricular enlargement  5 ( 25%)  3 ( 42.9%)  0.39   Left ventricular hypertrophy  4 ( 20%)  2 ( 28.6%) 0.65   Left ventricular ejection fraction (%) 56.1±11.8  51.4±12.1 0.2 Medication

  β-Blockers 9 ( 45%)  1 ( 14.3%)  0.16

  Calcium channel blockers   7 ( 35%)  5 ( 71.4%) 0.1

  Digoxin 0 (  0%)  0 (  0%)

  Angiotensin-converting enzyme inhibitors 10 ( 50%)  5 ( 71.4%) 0.35

  Amiodarone  0 (  0%)  0 (  0%)

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374  2.副次評価項目

 術中因子(Table  2)の比較において,平均バイ パス本数およびバイパスを行った部位については両 群間に差を認められず,全例において完全血行再建 が行われた.手術時間,大動脈内バルーンパンピン グ(Intra-aortic  balloon  pump :  IABP)の使用率に 関しても両群間に差はなかった.

 両群において入院死亡,心血管イベントの発生は 無かった.また,アトルバスタチン投与に伴う有害 事象の発生も無かった.入院期間については両群に おいて同等であった(Table 3).

  術 前 後 の CRP 値 に 関 し て は(Fig.  1), 術 直 前

(0.26±0.27 vs. 0.55±0.65 mg/dl;p = 0.14)の値 には差を認められず,術後 1 日目(6.6±4.1 vs. 5.4

±1.2 mg/dl;p = 0.13),2 日目(11.7±8.0 vs. 13.3

±6.8 mg/dl;p = 0.32),4 日目(6.9±7.4  vs.  12.5

±8.4 mg/dl;p = 0.13),7 日 目(3.2±3.1  vs.  5.7

±3.9 mg/dl;p = 0.12)の CRP 値にも差は無かっ たが,術後 3 日目の CRP 値は投与群において低い傾 向にあり(9.3±7.7 vs. 14.4±7.4 mg/dl;p = 0.07) 術後 5 日目の CRP 値は投与群において有意に低値 Table 2 Perioperative features

Atrovastatin

(n = 20)

Control

(n = 7) P

Graft per patient  3.65±0.93 4.0±1.29 0.26

  Left anterior descending artery graft 20 (100%)   6 ( 85.7%) 0.09   Right coronary artery graft 14 ( 70%)  7 (100%) 0.11   Posterolateral artery graft 16 ( 80%)   6 ( 85.7%) 0.75   Diagonal branch graft    7 ( 35%)    3 ( 42.9%) 0.72   Obtuse marginal artery graft  2 ( 10%)   1 ( 14.3%)  0.77   Ramus intermedius graft  6 ( 30%)   2 ( 28.6%) 0.95 Total surgery time (min) 294.5±50.4 306.4±26.7 0.22

IABP Support  5 ( 25%)   2 ( 28.6%) 0.86

IABP, Intra-aortic balloon pump

Table 3 Postoperative features Atrovastatin

(n = 20)

Control

(n = 7) P

Postoperative atrial fi brillation 5 (25%)  5 (71.4%) 0.03

  Days of occurrence (day)  3.0±1.0 2.6±0.5 0.23

  Duration of atrial fi brillation (min) 217.4±76.0 1443.8±2571.4 0.17

  Cardioversion 0 ( 0%) 3 (60%) 0.04

In hospital death 0 ( 0%) 0 ( 0%)

In hospital stay (day) 14.1±8.5 15.7±6.3 0.29

MACCEs 0 ( 0%) 0 ( 0%)

postoperative peak CRP (mg/dl) 12.1±7.9 16.0±7.1 0.12 postoperative peak CK-MB (U/L)  42.2±42.5 43.3±55.1 0.48 MACCEs, Major adverse cardiac and cerebrovascular events.

Fig. 1 Changes of perioperative CRP

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375 であった(3.2±2.0 vs. 7.9±4.3 mg/dl;p = 0.02) 入院中の CRP の最高値の比較においては両群間に 差を認められず,また術後 CK-MB の最高値につい ても,両群間で同等であった(Table 3).

 今回われわれは,アトルバスタチン投与による,

人工心肺を使用しない冠動脈バイパス手術後の心房 細動発症予防に関する,非盲検・非ランダム化・並 行群間比較試験を行った.結果として,術後心房細 動の発症率はアトルバスタチン投与群で有意に低 く,両群においてアトルバスタチン投与による有害 事象の発生は認められなかった.死亡率,入院期 間,心血管イベントについて両群間に差は無かった が,術後 5 日目の CRP 値は投与群において低値で あった.

 術後の心房細動発症には多因子が関連していると 考えられているが,そのメカニズムはいまだ不明な 点が多い.心房の虚血性障害あるいは心房筋細胞の 変性,手術侵襲,交感神経系の過剰活性,容量負荷 による心房の拡大,血管作動薬などによる化学的刺 激,そして心膜炎などの関連が報告されている1,4,5) なかでもいくつかの臨床研究では,手術にともなう 炎症反応が術後心房細動の原因として,重要な役割 を担っている可能性を示唆している6)

 スタチン剤は血漿の脂質を下げる一方で,多面発 現性の効果を示しており,内皮機能不全の改善,一 酸化窒素のバイオアベイラビリティの増加作用,抗 酸化作用,抗炎症作用,動脈硬化に伴うプラークの 安定化,抗血栓性作用などがあげられる12,13).この うち抗炎症作用について,アトルバスタチンが他の スタチン剤に比し抗炎症効果に優れ7),またその効 果に用量依存性があることも確認されている8)こと から,心臓手術後の心房細動発症予防についても大 きな利点があるものと推察した.韓国,中国のグ ループからも,本邦の承認用量と等しいアトルバス タチン 20 mg/日の術前投与により,OPCAB 術後の 心房細動発症を有意に低下させるとの結果が報告さ れていることから10,11),本研究においてアトルバス タチンを試験薬として選択し,用量も先の試験で検 討された用量と等しくした.用法については,アト ルバスタチンが服用 4 日目以降に血漿中薬物濃度が 一定となる14)ことから,術前 4 日以上の服用とした.

 術後心房細動におけるスタチン剤の効能に関する メカニズムは完全には解明されていないが,最近の 実験や臨床研究によると,スタチン剤の効能として の抗炎症作用や抗酸化作用9,15),細胞外基質リモデ リングの変性16),虚血心筋層の防御15),自律神経 の調整による間接的な抗不整脈作用17),膜内外イ オンチャンネルの安定化による直接的な抗不整脈作 18)などの関連が示唆されている.

 スタチン剤による心房細動の抑制効果に関して,

発作性心房細動に対する電気的除細動後の心房細動 再発をスタチン剤が抑制するという後ろ向き試 19),安定型狭心症を有する患者におけるスタチ ン剤の心房細動抑制における前向き試験20),食道 あるいは肺の手術後におけるスタチン剤の使用が心 房細動の発症を減少させる21)などといったいくつか の臨床報告がなされた.その後に冠動脈バイパス術 後のスタチン剤による心房細動抑制効果を示す報告 がなされたが,これらの研究においてはスタチン剤 の種類,投与量,投与期間が統一されていなかっ

16,22).2006 年に報告された Patti らによる無作為

試 験 に よ る と, 術 前 か ら の ア ト ル バ ス タ チ ン

(40 mg/日)の投与は,人工心肺を用いた心臓手術 を施行された患者において,術後心房細動発症のリ スクを 61%減じるだけでなく,入院期間を短縮さ せた9).しかし,心筋保護による心停止を含め,体 外循環は術後心房細動の発症に関連していると考え られている23).韓国の Song ら,中国の Ji らは,無 作為試験によって,アトルバスタチンの術前投与が 人工心肺を用いずに施行された冠動脈バイパス手術 後の心房細動発症を有意に低下させると報告し

10,11).これらの研究におけるアトルバスタチンの

投与量は本邦の承認用量と等しい 20 mg/日であっ た.東洋人においてもアトルバスタチンによる術後 の心房細動抑制効果が示されたのだが,この治療方 法が本邦において広く認知されていないのは,日本 における治療成績が未だ報告されていないことに由 来するものと考えられる.本研究は,本邦における アトルバスタチン 20 mg/日の術前投与が,OPCAB 術後の心房細動発症を低下させることを示し,さら なる臨床研究に応用されることを期待するものであ る.

 今回の研究においては,非盲検,非ランダム化試 験であること,症例数が 27 例と少なく,投与群 20

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376 例,非投与群 7 例と群間の偏りが大きいことが問題 点としてあげられる.投与群における平均年齢が非 投与群に比して若年であったことは,高齢が術後心 房細動発症の危険因子である1,24)ことを考え合わせ ると,投与群における心房細動発症率の低下を修飾 した可能性は否めない.

 今回の研究によってアトルバスタチンによる術後 の心房細動抑制効果が示されたが,その機序とし て,術後 3 日目の CRP 値が投与群において低い傾 向を示し,術後 5 日目の CRP が有意差を持って低 値を示したということからも,アトルバスタチンに よる抗炎症作用の関連が考えられる.Patti ら,Ji らの無作為試験において,心臓術後の心房細動の発 症が CRP と相関したと報告されている9,11)一方で,

Ahlsson らの大規模コホート研究によれば心臓術後 の心房細動の発症は CRP と相関しないとされ25) Song らの報告においても周術期の hs-CRP は心房 細動の発症と相関を示さなかった10).これらの解明 のためにも,今後,hs-CRP,Interleukin-6,Inter- leukin-8 など他の炎症を示すマーカーの経時的な測 定を加えた,さらなる研究が必要と考えられる.

 アトルバスタチンの術前投与は,OPCAB 術後の 心房細動の発症を抑制した.その機序にはアトルバ スタチンの抗炎症効果が関与していると考えられる が,今後対象総数の増加に伴うさらなる検討や,多 施設間での臨床研究が期待される.

謝辞 本研究を行うにあたり,御指導御教示頂いた手取 屋岳夫教授,および御協力を頂いた教室員の御厚意に深 謝致します.

文  献

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EFFECTS OF ATORVASTATIN ON POSTOPERATIVE ATRIAL  FIBRILLATION AFTER OFF-PUMP CORONARY 

ARTERY BYPASS GRAFTING SURGERY

Masaya OI

Department of Surgery, Division of Thoracic and Cardiovascular Surgery, Showa University School of Medicine

 Abstract    Atrial fi brillation (AF) is a common complication after coronary artery bypass grafting 

(CABG).  It is associated with increased risk of morbidity, mortality, length of hospital stay, and hospital  costs.  We studied the eff ects of atorvastatin pretreatment on the prevention of AF after off -pump CABG.  

Twenty-seven patients without a history of AF were scheduled to undergo elective off -pump CABG.  Pa- tients with hypercholesterolemia, pretreated with atorvastatin (20 mg/day) more than 4 days before the  surgery (treatment group ; n = 20), were compared with those without (control group ; n = 7).  Primary  outcome  was  the  incidence  of  postoperative  AF.    Secondary  outcomes  were  in-hospital  death,  hospital  stay, major adverse cardiac and cerebrovascular events, and perioperative C-reactive protein (CRP) vari- ations.    The  incidence  of  AF  was  signifi cantly  lower  in  the  treatment  group  than  in  the  control  group 

(25.0% vs. 71.4% ; p = 0.03).  No side eff ects occurred in the treatment group.  There was no statistical  diff erence in in-hospital death, hospital stay, the incidence of major adverse cardiac and/or cerebrovascu- lar  events  between  the  two  groups.    CRP  levels  at  postoperative  day  5  were  signifi cantly  lower  in  the  atorvastatin group (3.4±2.1 vs. 7.2±4.2 mg/dl ; p = 0.029).  Pretreatment with atorvastatin signifi cantly  reduced the occurrence of postoperative AF after off -pump CABG.

Key words :  atorvastatin, Statin, Atrial Fibrillation, CABG, OPCAB

〔受付:2 月 16 日,受理:3 月 2 日,2012〕

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