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我々は普段,家電製品や携帯電話など,電気や磁気の性質を利用した様々 な装置や機械に取り囲まれて生活しています.我々が日常的に経験する力の ほとんどすべては電気や磁気の力であり,電磁気学とは,この電気や磁気の 本質を扱う学問です.そして,電磁気学の基本法則は, 「マクスウェル方程式」
とよばれる 4 つの方程式で与えられます.
本書は,私がおよそ 30 年間にわたって,東京大学の 1 年生に対して行って きた「電磁気学」の講義内容をもとにしています.この本の最大の特徴は,ま ず最初の数章でマクスウェル方程式を微分形まで含めて完全な形で示し,そ の後で,電磁気学の様々な現象を,マクスウェル方程式から導出した上で説 明する構成をとっている点にあります.この方法は,例えば「力学」の教科書 が,まず原理となるニュートンの運動の 3 法則を説明した後に,運動方程式 を土台にして話を展開するのと同様であり,電磁気学の全体像を首尾一貫し た体系として学ぶ最も自然な方法だと思います.
電磁気学の初学者のための教科書には,すぐれたものが数多くありますが,
そのほとんどは本書と異なり,クーロンの法則に始まる様々な現象をまず学 んだ後に,ようやく最後の方になってマクスウェル方程式が顔を出す,とい う順番になっています.その理由は,おそらく, 「マクスウェル方程式から出 発するのは,初学者には敷居が高すぎる」という配慮だと思われます.しか し私には,その考えにはあまり根拠がないように思えます.
確かに,マクスウェル方程式を理解するためには,ダイバージェンス (発 散)やローテーション (回転)といった幾何学的な概念や,ベクトルの演算の 知識が必要となり,それは大学 1 年生には不慣れなことではありましょう.
しかし,電磁気学を学ぶ以上,どこかの段階で必ず,ダイバージェンスやロー
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テーションの概念,および,ある程度のベクトルの演算の理解が必要となり ます.その際の理解の障壁は,それらが本当に難しいからではなく,むしろ,
不慣れからくる心理的問題から生じるのです.どうせ必要なら,早い段階で 習得するのが 1 番良いのです.それによって電磁気学をより効率的に学ぶこ とができるし,最も重要なことは,そうすることではじめて,個々の現象を,
電磁気学の全体像の中に位置づけて理解できる (つまり,全体像を把握でき る)ということです.マクスウェル方程式を避けて電磁気学を理解すること はできないし,また,マクスウェル方程式を避けたからといって,電磁気学 が簡単になるわけでもないのです.
このような構成をとる場合,ベクトルの微分や積分の概念を,困難なくき ちんと理解できることが成否の分かれ目になります.そのため本書では,第 3 章までをそれらの詳しい説明に当て,マクスウェル方程式が最初に現れる ときには,読者が無理なく自然にその意味を理解できるように配慮しました.
もし,それでもなお難しさが残るとすれば,それはマクスウェル方程式ゆえ の難しさではなく,電磁気学が本来もつ難しさです.その難しさから逃れる ことはできませんし,それらを 1 つ 1 つ乗り越えていくことが,まさしく,
電磁気学の理解を 1 歩 1 歩深めていくことを意味します.
実際に私が大学で行った講義では,毎回の授業終了後に,学生から感想や 質問を提出してもらいました.そこには物理系や数学系だけではなく,生物・
医学・薬学系のクラスもありましたが, 「マクスウェル方程式の理解が困難で ある」という指摘を受けたことは一度もありません.むしろ, 「別のクラスの 友人は,授業が各論的でわかりにくいといっている.なぜ,すべての授業が この方式で教えないのか.」といった意見をしばしばもらいました.そうした 経験から,私は,初学者が電磁気学を学ぶ最善の方法は,本書のように,マ クスウェル方程式から始めることだと確信しています.
上で述べた私自身の経験と,本書の共著者である竹川 敦氏の熱心な協力 と支持が,この本を執筆する契機となりました.竹川氏は,自身が東京大学
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大学院で物性理論を学び,その後,現在は高校生の物理教育に携わり,大学 初年級における物理教育に強い関心と高い意識をもっています.彼が学生時 代の私の講義を覚えていて,私の授業を再度受講した上で,内容を本にまと めるように強く薦めてくれました.同氏の強力な説得と献身的な協力がなけ れば,この本は生まれませんでした.本書の原稿の作成は,すべて竹川氏と の共同作業によるものです.
なお,出版に当たっては,裳華房の小野達也氏に大変お世話になりました.
ここに深く感謝を表したいと思います.
2015 年 10 月
小宮山 進
日々高校生に接していますと,多くの高校生が大学での勉学に大きな夢を 託しているのを感じます. 「大学生になったら学問を極めたい」, 「大学の勉強 の準備として,いまから何をしたらよいか」といった話や相談をよく受ける からです.ところが,大学に入学して 3ヶ月も経つと,残念なことに,その希 望とやる気が急速にしぼんでいることを数多くみてきました.
もちろん,これには周囲からの誘惑の多さや本人の怠惰さにも原因はある のでしょうが,実際, 「大学の授業が全く面白くない」といった不満や,そも そも「何を言っているのか聞き取れない」といった,教える側の基本的なプ レゼンテーション技術に対する愚痴もしばしば聞きます.そのため,優秀な 学生たちを大学で落胆させず,学問への夢をさらに発展させるには,大学で の熱意のこもった良い授業と,授業を補完する適切な教科書が非常に重要だ と私は考えています.そして,その思いが,本書を生み出す原動力になりま した.
大学時代の私は, 他の多くの学生に比べれば, 大変幸運であったと思います.
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身を乗り出して聞いた面白い授業,面白い先生に数えきれないほど多く出会 えました.本書の著者である小宮山先生は,その中でも特に面白い授業をし て頂いた方の一人です.電磁気学の授業を受けたときには,バラバラだった 多くの関係式が,基本法則から意味をもって体系的につながっていくことに 感動したことを覚えています.私が小宮山先生の授業を通じて感じた電磁気 学の壮大さ,美しさや面白さが,本書によってなるべく多くの人たちに伝わ ることを願っています.
本書を執筆するに当たり,裳華房の小野達也氏から貴重な見解を数多く頂 きました.ありがとうございました.また,この場を借りて,私をいつも支 えてくれている家族,親族と,両親である竹川昭文,瑠美子に感謝します.
2015 年 10 月
竹川 敦
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著者からのメッセージ
本文中で文字の肩に
補足とある部分については,本書に関する裳華房 の Web ページ
http://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-2249-6.htm に詳しい解説を補足事項として用意しました.読者は是非とも,本文と 同様に読んで,理解の深化に役立ててください.